多忙の日々を送っていたヴァルフレアは久しぶりに弟のアルフレッドを私邸に招いて互いの近況を話し合う。
1992年 4月14日
ビラ島 アシュフォード邸
ヴァルフレアは23歳になった。
内戦が終わって戦後処理に追われながら半年になった。ヴァルフレアは自室でメイドのジーナが淹れた紅茶を呑みながら寛いでいた。
「兄さん、遅れて済まない」
部屋に入ってきたのは弟のアルフレッドだ。
「良いんだアルフレッド。忙しい中よく来てくれた。」
兄に言われるままアルフレッドは椅子に座りヴァルフレアと紅茶と菓子を頂きながら共に他愛のない世間話を楽しんだ。
「こうやって直接顔を合わせるのは一年ぶりだな。」
「そうだね…電話やモニター越しで会っていたけど」
二人が最後に顔を合わせてから一年も過ぎていた。
ヴァルフレアはヴィレーネ・アンブレラ支社の代表とヴィレーネ政府の一員として、アルフレッドはロックフォート研究所の所長として多忙な日々を送っていた。
「アルフレッド、研究所の様子はどうだ?」
「この一年、
あと、他の企業と連携して特殊合金の開発とそれを使った武器の実用化も進めている所かな」
「安全性を高めるのは間違ってない。なにせ商品が商品だからな…。暴走なんてしたら何が起こるのかは明白だ」
この一年、アルフレッドはロックフォート島の研究所と工場のセキュリティを厳重に構築していた。
アルフレッドがロックフォート島の施設の所長と司令官に任命され、暫くしてアンブレラ本社の上級幹部であるマーレッド主任から直々にアンブレラの裏の顔と
マーレッドから聞かされる衝撃の事実にアルフレッドも兄と同じく困惑しそんな彼の気持ちを知ってか知らずかマーレッドは”兄”と共に期待してると言い去っていった。
「いきなりあんな事実を聞かされるなんて堪ったもんじゃないよ。」
「まさか、アルフレッドにも例の商品の説明をするとはな…。」
ヴァルフレアとアルフレッドは溜息をついて今後の事を相談する。
「兄さん…それでどうするんだ?
もしも生物兵器とウィルスの事が世間に漏れたら我々アシュフォード家が只では済まないよ…。
せっかく兄さんが再興の兆しを作ってくれたのにこのまま消えるなんて絶対に僕は嫌だ」
アルフレッドはアンブレラの裏の顔を知ってしまいアシュフォード家の未来に不安を覚えている。彼も兄と同じくアシュフォード家の再興に尽力しており尊敬する兄であるヴァルフレアが築いたアシュフォード家の再興の兆しが見えているのにそれが消えるのをとても恐れている。
「分かっている…。だが下手に動いてもこっちが潰されるだけだ…。
アンブレラの権力の凄まじさを身をもって思い知らされたからな」
ヴァルフレアは重い表情で
「アンブレラの一声でアメリカは
アンブレラは合衆国の政府にも深く入り込んでいるのは確実だ。連中の意向を無視すればこの
そんな事は何としてでも避けなければならない」
アンブレラはあのアメリカ合衆国ですら手出しが出来ない存在だ。真っ向勝負ではまず話にならない。
ヴァルフレアの言葉にアルフレッドは黙り込む。
「とにかくアンブレラの不振を買うのは得策ではない。
連中の顔色を窺いながらアシュフォード家を再興させるしかない
ビラ島の研究所ではハーブを使った新たな治療薬や化粧品も近いうちに完成するし主力のガン治療薬も一歩ずつ進んでいる。
それらはアシュフォード家に大きな財を齎してくれるだろう。
そしてアルフレッド、お前は」
「分かっている。僕はT‐ウィルスのワクチンの開発を進めておくよ
兄さんが回してくれたハーブが大いに役立ってくれるハズだ」
アルフレッドはロックフォート島のセキュリティの強化の他にもう一つ進めているのはT‐ウィルスのワクチンの開発だ。
ヴァルフレアとアルフレッドの二人はマーレッドからBOWの開発の要となる道具…T‐ウィルスの事を教えられた。
彼から渡された資料によればアンブレラ社の幹部であったジェームズ・マーカス博士が始祖ウィルスをベースに品種改良を加えたウィルスで異種間での遺伝子交配の成功率を上げる性質があり生物兵器の創造と改良が容易に出来るとの事だった。
ヴァルフレアとアルフレッドはウィルス研究の本職ではないので細かい事はよく分からなかったがT‐ウィルスがとてつもなく危険な代物だという事は分かった。
もしも流出などしたら感染した生物の変異を引き起こし人間は食欲に突き動かされた生ける屍、ゾンビになってしまうなど周囲の壊滅的な被害を及ぼすのだ。
二人はウィルスの流出に備えてセキュリティを徹底的に強化にすることに意見が一致したのだった。
「しかしあのハーブがまさかT‐ウィルスの浸食を止める程の効果が有るとは驚きだな」
「その辺りはゼネルティーモに感謝しないといけないね」
半年前。
T‐ウィルスのワクチン、または抗ウィルス剤の開発をするべきという意見も一致したが如何せん二人は専門家ではないのでこの事に関してはどうしようもなかった。
ヴァルフレアは悩んだ末に信頼できる研究者、ゼネルティーモに相談することにした。
彼にはこんなアンブレラの悍ましい裏など見せたくなかったが背に腹は代えられない…。
ゼネルティーモをアシュフォード邸に呼び出し忙しい中、申し訳ないと謝罪した後、ヴァルフレアとアルフレッドはゼネルティーモにアンブレラの裏の顔、生物兵器の存在とそれを可能にするT‐ウィルスの事を一つ隠さずに話した。
ヴァルフレアはこの事でゼネルティーモが去ってしまうかもしれない恐怖を感じていた。
しかし…
「そうですか…閣下も遂に
この言葉にヴァルフレアとアルフレッドは目を丸くする。
ヴァルフレアはゼネルティーモに「知っていたのか?」と聞くと彼は静かに頷いた。
「機密事項なので今まで黙っておりました。
しかし閣下とアルフレッド様が知った今なら黙ってる必要がなくなりました」
そう言うとゼネルティーモは静かに自分の過去を語った。
「かつて私はT-ウィルスを使ったBOW研究・開発チームの一員としてアメリカのラクーン地方にあるアークレイ研究所に所属しておりました」
今から12年前…。
ゼネルティーモはチリ共和国の首都サンティアゴにある大学で治療薬の研究の日々を送っていた。
そんなある日の事。
ゼネルティーモの才能に目を付けたアンブレラ社が彼をスカウトしたのだ。
我々のある研究に貴殿の力を借りたいと…
かのアンブレラ社の誘いにゼネルティーモは喜んでその誘いの乗りアークレイ研究所に配属されたのだ。
その場所は正にアンブレラ社の暗部とも言える場所だった。
未知のウィルスにそれを使った人間を素体にした生物兵器の創造が行われておりまともな感性を持つ常人ならこんな所に働けるなど不可能と言える場所だ。
ゼネルティーモは恐怖したがある物に出会う事でそれが消えた。
「T—ウィルス…私はあのウィルスが持つ無限の可能性の虜になりました」
当時のゼネルティーモはこう思った。
このT-ウイルスならば不治の病や末期ガンの治療が可能なのでは…!
ゼネルティーモは世から不治の病を無くしたいという理想を掲げている。
その理想を叶えてくれる存在であるT-ウイルスを研究をしたいゼネルティーモは恐怖と罪悪感を押し殺して研究に没頭したのだった。
「しかし…上層部は私の研究に興味を持ってくれませんでした…。」
それから二年間ゼネルティーモは幾度なくT-ウイルスを使った治療薬の開発を上層部に訴えたが悉く却下された。
そんなものを作るより生物兵器の開発をしろとの一点張りだった。
それでも治療薬の研究を辞めないゼネルティーモに上層部は彼を見限り始めた。
それから暫くしてゼネルティーモは研究所の所長に呼ばれヴィレーネ国のビラ島の研究所の配属を言い渡された。
要するに左遷だったがアークレイ研究所に嫌気が差していたゼネルティーモは祖国チリから近いという事もあり文句は一切言わず受け入れて二年間のT-ウイルスの研究の資料を詰め込んでビラ島に向かったのだった。
「そして今に至るわけです。」
「そうだったのか」
ゼネルティーモの過去を聞いたヴァルフレアは弟以外にアンブレラの秘密を知ってる者がいる事に安緒してる事に気付く。
「ゼネルティーモ…。アルフレッドはロックフォート研究所でT-ウイルスを扱ってる。
だけどそれに対するワクチンや抗ウィルス剤が一切ない。
だから貴方のT-ウイルスの知識を借りたい」
「大恩ある閣下のお願いです。このゼネルティーモの知識でよければT-ウイルスのワクチン開発に手をお貸しします」
ゼネルティーモは嫌な顔をせずアルフレッドのワクチン開発に全面協力をすると言った。
彼はワクチン開発にグリーンハーブやレッドハーブといった様々な種類のハーブを使いたいという意見を述べた。ヴァルフレアとアルフレッドはその考えを受け入れる事にした。
そしてアルフレッドはゼネルティーモの協力を得ながらワクチン開発を始めたのだった。
現在
「おっと…もうこんな時間か…。
済まない兄さん。そろそろロックフォートに戻るよ」
時計を見るとアルフレッドは研究所に戻らないといけない時間になっていた。
「そうか…。
忙しい中、済まなかったな。互いに都合が付いたらまた会おう。
連絡と報告を怠るなよ」
「分かってる。
兄さんも無理をしないようね」
こうして兄弟の休日は終わった。
ヴァルフレアとアルフレッドはまた忙しい日々を送るのだった。
1992年 8月1日
アシュフォード邸
「なに? アークレイ研究所に来てほしいだって?」
『うん…。来週、僕はロックフォート研究所の所長として別の研究所の者と一緒に視察するんだけどマーレッド主任が兄さんも来てほしいとの事で…。』
ヴァルフレアは電話でアルフレッドの報告を聞いていた。
「何故だ? お前はともかく幹部といえど私は
招く理由などないだろう」
『それでも都合が付けば来てもらいたいって言ってきて…
マーレッドはどうも兄さんを気に入ってるみたいだね』
「…分かった。スケジュールを確認するからまた後で連絡するよ」
『それじゃ後で』
ガチャリと電話を置く。
アルフレッドから聞かされた最高幹部であるマーレッド直々のアークレイ研究所の招待…。
だけど本音で言えば断りたい。
なにせ今、ヴァルフレアはアンブレラ・ヴィレーネ支社の代表として他社との取引が多く控えているだけではなくヴィレーネ政府の一員として国家の経済開発にかかりっきりなのだ
ヴィレーネは今、急成長をする兆しを見せておりアシュフォード家の利益に繋がる大事な時期なので手を放したくないのが現状だ。
「だけどマーレッドの機嫌を損ねたくない…。あの人のヴィレーネへの援助は大きいからな」
溜息をついてどうするべきか悩むヴァルフレア。
マーレッドはあの内戦以降、本社に通じてヴィレーネに多額の援助と投資をしてくれているのだ。
この国が早く復興が進み発展しているのはアンブレラ本社もといマーレッドのおかげでもある。
彼の協力が無かったら今みたいな経済発展は無く復興に時間が掛かっていただろう。
「仕方ないか…ロバート」
「はい閣下」
「来週の会談だが全部キャンセルだ。埋め合わせは必ずすると伝えてくれ」
「分かりました」
秘書のロバートに来週の取引のキャンセルを伝える。
時間を掛けた取引だが已む得ないだろう…。
そしてゾラーノ総統にも来週の会議に出席出来ないと伝えた。
(マーレッドは何を企んでるんだ?)
ヴァルフレアはマーレッドの意図が読めなかった。
分からないことを考えても仕方がないのでヴァルフレアは気が重いながらも目の前の仕事に取り掛かった。
1992年 8月13日
「今週の間、私は留守にするが後は頼んだよ」
「はい。ヴァルフレア様もお気をつけて」
その日の朝、メイド長のジーナとその夫のゲイルを始めとした使用人達に見送られながらヴァルフレアはヘリコプターに乗った。
アークレイ研究所の視察は今から三日後だがアメリカに行くまでに結構な飛行機の乗り換えと車の移動の時間を考えて三日間早く出発して現地に向かう事にした。
ヴァルフレアは首都ヴィレネの空港からチリ共和国のサンディエゴからアメリカのロサンゼルスまで乗り継ぎそこからアメリカ中西部に向かった。
そして〇〇市から列車でラクーンシティに向かう。
PM 6:10
辺りは暗くなりつつある中、ヴァルフレアはようやくラクーンシティに到着した。
「全く…移動だけで一日も使うとは…」
溜息を吐いてスーツを整えながらヴァルフレアはタクシーを呼ぶ。
「ホテル・ラクーンまで」
「はいよ。」
黒人の運転手に予め予約していたホテルに行ってくれるよう頼む。
ホテルに向かう途中、窓からラクーンシティの街並みを眺める。
(地方都市と言うが随分と発展しているな…。
ヴィレーネでもこんな都市は首都ヴィレネぐらいなもんだろうな)
高層ビルが建ちショッピングモールもある。遠くから古い時計塔といった建物があるがそれが町の歴史を感じさせる。
「お客さん。ラクーンシティは初めて?」
「えぇ以前から名前は聞いていましたが来るのは今日が初めてです」
「そうか。身なりからして仕事かい?」
「そうです。南米のヴィレーネ国から来ました」
「ヴィレーネ…?
あぁ…確かチリの近くにある島国で最近までは内戦がずっと続いていたとかだったか?」
「その通りです。交通が不便な所でしてね…。
朝から出発して飛行機を乗り換えて車で走り続けて電車に乗ってようやく着いたんです」
「そりゃあ大変だったな…。」
運転手から話しかけられてヴァルフレアは当たり障りのない会話をする。
「なぁ…お客さん。
もしかしてアンブレラの方かい?」
「…! そうですがどうして分かったんです?」
「いやなに…このラクーンシティはアンブレラ社の関連する企業が沢山あるからこの町に仕事に来るという事は大体アンブレラ関係だからな
結構な数のアンブレラ社に人間を運んだから直ぐにピンと来るんだ」
「なるほど。」
そういえばこのラクーンシティはアンブレラの工場が建設されそこからアンブレラ社に関連する企業が次々と建てられていった結果、町はアンブレラ社の企業城下町となり飛躍的に発展したと聞いてる。
住民の三割はアンブレラ社の関連する企業で働いている。
またアンブレラ社はラクーンシティに多額の投資もしてくれているおかげで次々と新しい建物を建てられるという好循環になってる。
「以前は寂れた町だったんだがアンブレラ社の工場のおかげで人口も増えてデケェ町になった。アンブレラ様々だよ」
「それは良かった。私も嬉しい限りです」
運転手は話が上手くヴァルフレアも楽しく会話が出来た。
そうしてるうちにタクシーが目的地に到着した。
「ついたぜ。お客さん」
「有難う。楽しい時間だったよ。
これチップです」
タクシー代を払いチップも弾んだ。
「マジか! こんなにくれるのか!
ありがとよ! 良かったら電話してくれよ。こいつはウチの会社の電話番号だ。
連絡してくれたら直ぐに駆け付けるぜ。
おっと…名前を聞いていいか?」
「ヴァルフレア。
ヴァルフレア・アシュフォードです」
「アシュフォードさんだな。
俺はロイド・ジェファーソン・ウェイドって言うんだ。
皆からL.J.と言われてるんだ。
もしラクーンシティを観光したいって言うんなら隅々まで案内するぜ」
そう言ってタクシーは去っていった。
ホテル・ラクーン
ホテルに入ったヴァルフレアは荷物を置いてこれからの事を思案する。
「さて、視察は明後日15日からだが…一日だけ時間あるな」
ヴィレーネからアメリカまで行くことから余裕を持って早く出発したヴァルフレアだったが一日だけ空きが出来てしまった。
「一日何もせずにここで休息をとってもいいが…ラクーンシティを見て回るのもいいな」
ラクーンシティはアンブレラから援助で飛躍的に成長した町だ。
ヴィレーネもアンブレラから多額に支援を受けてるのでここでラクーンシティを見て回ればヴィレーネの発展に役立つかもしれない。
「町だけではなくアンブレラ社の工場も見てみるか」
このラクーンシティに有るアンブレラの工場はどの様な製品を作っているのか見てみよう。
明日はラクーンシティを見て回る事に決めたヴァルフレアは食事をソコソコに早めにベットに横になった。
次回
ラクーンシティ