「アシュフォード卿。もうじきアークレイ研究所に到着します」
現在、ヴァルフレアは社用のヘリコプターに乗ってラクーンシティのアークレイ山地を飛んでいた。
ヘリのローターが風を切る爆音を聞きながら「分かりました」と伝え窓からアークレイの山々を眺める。
(しかし何故
もしもウィルスが流出などしたらこのような場所では甚大な被害がでるのは確実だ…。)
窓の外を見てそんな疑問が沸いてきた。
研究しているT-ウィルス研究は感染力が非常に高く感染した生物を変異させるなどとても危険な代物だ。
それゆえに研究は人気がなく被害を最小限に出来る場所が選ばれる事が多い。亡くなったアレクシアが研究してた場所は南極の僻地だったのはそのためだ。
しかし今向かっているアークレイ研究所はどうだ?
周りは山に囲まれていて沢山の野生動物が生息している。
こんな場所でもし何らかのアクシデントが起きてT-ウィルスが流出などしたらどうなる…?
(アンブレラ社もその事は重々分かってる筈だ…。
一体なぜ…?)
「間もなく到着します」
パイロットの言葉に思案の海に沈んでいたヴァルフレアの意識が現実に戻る。
窓の外にはヨーロッパ風を感じさせる大きな洋館が見えた。
アレがT-ウィルス研究の第一線を走るアークレイ研究所である。
「ヴァルフレア君。遠路遥々よく来てくれた」
ヘリポートを着陸してヘリから降りるとマーレットが出迎えてくれた。
「いえ…私の方こそ随分と遅くなって申し訳ありません」
「そう謙遜しなくて構わんよ。何せ南米からアメリカの中西部まで来るのは大変だっただろう。
私も無理を言った身でもあるから謝るのは私の方だ。
まぁここで立ち話も仕方ない。着いてきたまえ」
マーレットはそう言いヴァルフレアを研究所へと案内する。
研究所に繋がる通路はコンクリートで覆われどこか無機質に感じる。
「ヘリから見たと思うがアークレイ研究所は廃棄されていた洋館を研究所に改装したものだが、見掛けは古びた屋敷にしか見えない。ときどき一般人が興味単位で来ることもある。」
「確かに…。このような屋敷でウィルス研究をしてるとは誰も思わないでしょう。
それで誤って
「屋敷は入り口を始め窓など施錠しているから大抵はそこで諦めて去っていく。強引に入ってくる者は警備員が捕らえて警察に引き渡す。ただ…」
「ただ…?」
「時には
「…! そ、そうですか…」
素材
ニヤリと口元を歪めて笑うマーレットを見たヴァルフレアは何の意味なのか理解した。
「君以外の者はもうじき到着する。
この部屋で待っていてくれ。
何か必要な物があったらそこの電話を使うと良い。係の者がもってくる」
「分かりました」
案内された部屋に入り荷物を下ろす。
この部屋は客室用なのか無機質な研究所と違って気品が漂い整えられてる。
(外との解離があって逆に居心地が悪いな…。)
先程の無機質な空間から一転、整えられた空間に若干の居心地の悪さを感じてしまう。
椅子に座ると喉が乾いてる事に気付き冷蔵庫からミネラルウォーターがあったのでそれを取り出して飲む。
(此処でT-ウィルスが開発された訳だがそもそも資料に書いてあった始祖ウィルスというのは何だろうか?
私の祖父もその始祖ウィルスの研究をしていて父もその研究の手伝いをしてたそうだが…?
そう言えばアレクシアも研究していたな…
確かそこからT-Veronicaという新種のウィルスを作り出したのだったな?)
当時は余裕がなく考えてなかったのだか妹のアレクシアが開発したT-Veronicaは一体どんなウィルスなのだろうか?
始祖ウィルスをベースにしたそうだが…どのような効力があるのかは誰も知らなかった。
それを公表する前にアレクシアが亡くなってしまったからだ。
T-Veronica…一体どのような効果を持つウィルスなんだろうか?)
あのアレクシアが開発したウィルスだ。
文字通り人智を越えたものだったかもしれない。
だが…
(アレクシアは恐ろしいウィルスを作ったかもしれない…
兄としては受け入れがたいものでもあるな…)
おそらくだがアレクシアはアンブレラの暗部を知
っていた可能性が高い。
そう考えるとT-ベロニカはもしかしたらとても危険な代物だったのではないか?
(落ち着け! 一体何を考えてるんだ… いくら何でもアレクシアはそんな危険な物を造るわけがない…)
ヴァルフレアはアレクシアを悪く考えてしまった事を恥じる。
いくら天才だっとしてもアレクシアはまだ十代の少女だったのだ。
アレクシアもまだそんな恐ろしい事を出来る訳がない。
「アシュフォード卿。マーレッド主任がお呼びです」
「…!分かりました。すぐに行きます 」
呼び出しの声に我に返ったヴァルフレアは返事を返す。
アレクシアやウィルスの事を考えるのは止めて部屋から出ていく。
職員に案内された部屋に入るとそこには弟のアルフレッドをはじめ、顔を知らない数人の人間がいた。
「兄さん。久しぶりだね」
「アルフレッド。お前は元気そうだな」
「そうでもないよ。最近は激務ばかりで中々休みが取れなくてね」
よく見るとアルフレッドは目元が少し黒くなっている。
言葉通り十分な休息を取れて無いようだ。
「無理はするな。お前まで居なくなるのは私としては絶対に避けたい…。」
父と妹を失ったヴァルフレアは家族が居なくなるのはトラウマになっているからだ。
「兄さん…僕は大丈夫だ。今の仕事が一段落したらゆっくり休むよ」
「そうか…頼むから無理はしないでくれよ」
心配するヴァルフレアを宥めるように言うアルフレッド。
「ところで…あそこにいる者達はだれだ?」
話題を変えようとヴァルフレアは先程から気になっている奥にいる見知らぬ人物達に目をやる。
「彼等は各地の支部から送られた幹部候補生だよ。此処に来ているという事は恐らく会社の裏の顔も知っている筈だと思う。」
「各支部で特に優秀な結果を残した者達ばかりで中には大学を卒業して直ぐにスカウトされたり幹部養成所で見込みが有る者とかだね」
「つまりアンブレラ社の期待のホープというわけか」
つまりエリートの集まりというわけだ。
よく見るとまだ成人になってなさそうな者もいる。
「だけど兄さん…あまりあいつらに関わらない方がいい…
少し話しただけだがどいつもこいつも自尊心が高く他人を見下してるし自分達は選ばれた存在と本気で考えているよ」
嫌悪の表情を隠さないアルフレッドは兄に警告する。
「それはまた…マーレッド主任が好みそうな人材だな…。」
以前ヴィレーネで聞いたマーレッドの選民思想丸出しの言葉を思い出すヴァルフレア。
(逆に言えば
そういった人間の考えは価値がない人間は
「あまり関わりたくない連中だな」
「同感だね。僕達をさんざん見下してきた奴らを思い出すよ」
「そうだな…。」
アルフレッドの言葉にヴァルフレアも顔をしかめる。
以前はアシュフォード家に媚びへつらってきた連中が手のひら返して嘲笑う顔を思い出したからだ。
ふと目を向けると何人かこちらを見て薄く嗤っているのが見えた。
「…!」
「よせアルフレッド。時間と労力の無駄だ」
それに気付いたアルフレッドは怒りを滲ませて何か言いに行こうとしたがヴァルフレアは弟の肩を掴んで制止する。
「ああいう出合いは相手にするだけ調子づくだけだ
無視しろ」
ヴァルフレアもそんな視線を幾度も向けられ続けたせいか相手にするだけ無駄だと考えている
「しかし…」
アルフレッドは納得出来なかった。彼は名門アシュフォード家の一族としての誇りがとても高くアシュフォードや自分達を侮辱する者を決して許さない性格だからだ。
「気持ちは分かる… だが今は抑えてくれ
マーレッド主任の顔があるし我々のスキャンダルを掴みたい奴らもいる」
グリーンハーブを使ったBG-001が世界中で大ヒットして成功を収めて以来、ヴァルフレアは各分野でも成功を納めているがそれに伴いアンブレラ社の幹部の中にはアシュフォード家を妬む者が出てきている。
無能と思われていた一族が大成功を収めて影響力が強まったからだ。
一部の人間からすれば今のアシュフォード家は脅威に感じており自分達の権力がアシュフォード家に奪われてしまうのではないかと恐れている。
事実ここ最近、ヴァルフレアは他社との取り引きやアンブレラ社予算との配分などで妙に横やりが食らう事が多くなった。
取り引き相手に謂われもない悪評を流されたり横取りされる、予算を必要以上に持っていかれたりなどだ。
子供のやるような幼稚な嫌がらせや悪質なものなど多種多様だ。
とはいえヴァルフレアも黙っておらずそのような者に相応な報いを受けさせてる(誤解が無いように言うがキチンと社会の法律に沿ったやり方である)
因みにアシュフォード家の者をアークレイ研究所に招待するべきではないと反対する幹部もいた。(ヴァルフレアはその件に関しては知らない。なお反対した幹部はマーレッドがやんわりと宥めた)
兄の言葉にアルフレッドも冷静になり「分かった…」と言いその場から離れた。
「諸君。待たせて済まなかった。
私に着いてきたまえ」
その言葉に皆がマーレッド主任に着いていく。
(いよいよアンブレラ社の裏の…いや真の姿を見るんだな)
僅かな恐怖を押し殺してヴァルフレアはエレベーターに乗り込みアークレイ研究所…生物兵器を開発するアンブレラ社の闇の中心に向き合う事になる。