プルフォウ・ストーリー2 月に降り立つ少女たち 後編   作:ガチャM

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宇宙世紀0088年。ネオ・ジオンと地球連邦軍との関係は緊張状態にあったが、ジオン共和国で発生した暴動は、くすぶっていた火種に火を灯してしまった―。

挿絵:おにまる twitter @onimal7802
   ガチャM

■デザイン協力 
かにばさみ 4、5、11 twitter @kanibasami_ta
アマニア  7 twitter @amania_orz
いなり   8 twitter @inr002
ねむのと  9 twitter @noto999
おにまる  10 twitter @onimal7802

※Pixivにも投稿しています。


第3話「襲撃するプルツー」

    3

 

 

 

『あいつが敵だとでもいうのか?』

 

 プルツーは、なるべく視線を合わせないようにして、視界の端で男の顔つきや態度を観察した。

 服装は、ラフな上着とブカブカした短パン。背丈は平均的で、頭髪は短く刈りこんだ黒髪。顔は鼻と口が少し曲がっていて、斜に構えているような、他の人間を排除するような表情を浮かべている。平気で他人に危害を加えるような、そんな態度だが、ようするにまるで善良そうには見えない人間だった。

 

 プルツーは男が襲いかかってくることを予想して、いつでも反撃可能な体勢を整えた。だが接近してすれ違っても、男がこちらを意識することはなかった。

 フン、取り越し苦労だったか……。安堵して息を吐き、身体の緊張を解く。

 だがプルツーは、自分が襲われるよりも厄介な事実を、男から感じとってしまった。

 

「こいつ!? あの家に向かっているのか!」

 

 ニュータイプ能力で思考を読んだから間違いない。男はイサベルの顔を頭に思い浮かべていたのだ。

 めんどうなことだが、さすがにこのまま立ち去るわけにはいかない。

 

 プルツーは、急に忘れ物を思い出したかのような仕草でくるっと方向転換すると、親子の家から二十メートルほど離れた十字路の角に隠れて様子を伺った。

 予想通り、男はイサベルの玄関前で足を止めてドアを強く叩き始めた。しばらくすると、イサベルが出てきて応対し、二人は何やら話し始めた。

 イサベルはひどく動揺した様子で男に抗議している。なにか受け入れ難いことがあるという感じだった。

 

 男がイサベルに襲い掛かれば、プルツーは即座に走って行って彼を叩きのめすつもりだった。

 だが、どうやら強盗や暴行目的ではないようで、それについては安心出来たものの、男がイサベルを困らせていることに違いはなかった。

 イサベルはほとんど泣きそうになっていて、男は最後に彼女を怒鳴りつけると、ドアを蹴り付けて立ち去っていった。

 あれは恐喝か脅しだ。

 

 プルツーは他人の面倒事に介入する気はなかったが、イサベルには一食一晩の借りがあるので見て見ぬふりはできなかった。

 借りは返さないと気が済まない性格なのだ。

 道の角で待機していたプルツーは、男が近づいてきたところで不意に身体を掴むと、グイッと引き寄せて壁に叩きつけた。片手は即座にパンチを放てる体勢だ。

 

【挿絵表示】

 

「おい、お前! あの家の女に何を話していた!?」

「なんだ、いきなり!」

「女はかなり困っていたようだな。嫌がらせか?」

「ガキが、口の利き方を知らねえようだな。テメエにいうことなんてねえよ!」

 

 男が強引に手を振り払おうとしてきたので、プルツーは勢いよく脚払いをして両脚を開かせると、思い切り脛を蹴りつけた。

 

「痛ぇっ!」

「詳しく話をきかせろ!」

「ガキが調子に乗るんじゃねぇ!」

 

 男がキレて飛びかかろうとしてきたが、プルツーはさっと両手を離して身体を翻すと、右脚で男の膝を思い切り蹴り付けた。

 

「う、うぎゃあああーっ!?」

 

 プルツーは悲鳴をあげて膝をついた男の背後に素早く回り込むと、右腕を背中側に回して捻りあげた。

 

「騒ぐんじゃないよ! このまま腕を折られたくなかったら、あの家の事情を全て話しな!」

「は、話すわけねえだろ!」

「そうか、なら仕方ないなっ」

 

 プルツーは、さらに力を篭めた。

 

「い、痛えーっ! わ、わかった。わかったからやめてくれぇ」

 

 男は意外と情けない奴で、観念したかのようにうなだれると、イザベルを脅した事情を洗いざらい話し始めた。だが予想通りただの使い走りで、たいしたことは知らないようだった。

 

「フン、もういいよ。でも、またイサベルにちょっかいをだしたら、今度は手足を全部折ってやるからな! ほら、消えな!」

 

 プルツーが乱暴に解放すると、男は悪態をつきながらふらふらと逃げていった。

 もちろん逃したのには算段があって、男が逃げた先が『ボス』のいるところだとプルツーは考えたのだ。

 

『奴が単純なことを祈るよ』

 

 プルツーは、警戒させないために距離を置きながら、妹のプルセブンにレクチャーを受けたテクニックを駆使しながら、慎重に男の跡をつけていった。

 尾行には忍耐力が必要なのだ。

 そのまま二十分ほど尾行すると、街の中心部と住宅街に近い場所、いわゆる郊外にある目立たない二階建ての建物にたどり着いた。

 看板には『ハーベスト不動産』と書かれている。

 

「不動産……。コロニーの土地を扱っているわけか」

 

 プルツーが距離を取った安全な場所から監視していると、男は建物にフラフラと入っていった。そして、しばらくすると別の男に付き添われながらどこかへ向かった。

 おそらく病院にいくのだろう。よし、今が好機だ。建物内の人間が減れば、それだけこちらには有利になる。

 

 プルツーは、まるで家を探しにきた学生のように物件の張り紙を眺めつつ、入り口のドアを開けて店の中に入った。

 

「いらっしゃい、家をお探し?」

 

 店内に入ると、カウンターの向こうから女が話しかけてきた。なるほど、こいつが不動産業者の代表か。

 外で監視しているときにコンピューターパッドで情報を調べていたのだが、確かにこの女の写真が会社の紹介ページに掲載されていた。名前はレベッカ・ファーガソンだったか。

 ブルネットのワンサイドヘアに丸メガネをかけた姿は地味で、オフィスワークをしている普通のOLという雰囲気だ。仕事はそこそこ出来そうに見えるが、やや脳みそが足りない印象か。

 

「学生さんかしら? 女性の一人暮らしにはセキュリティが完備されたマンションがおすすめよ」

 

 レベッカが、いくつかの物件をカウンターに設置されたモニターに表示させて説明し始めた。

 もちろん全く興味はないので、聞いている振りをしつつ店の中を素早く見回した。

 

 この女の他には、オフィス内にコンピュータで作業をしているYシャツ姿の男が二人座っていて、カウンター横にはレベッカをガードするように黒スーツ姿の男が二人立っている。治安が悪いコロニーなので保安要員を雇っているのだろう。

 プルツーは、この程度の人数なら、不測の事態になっても十分に対応可能だと判断した。

 

「いや、家を探しにきたんじゃない」

「えっ?」

「だから説明はいらないよ」

「じゃあ、なんなの? あ、もしかしてここで働きたいとか? 子供は雇えないから」

「それとも違う。時間を無駄にしたくないから要求を述べる。土地を担保にしたイサベル・ロンゴリアの借金を無効にしろ」

「はっ? いきなりなに? わけがわからないけど?」

 

 プルツーのストレートな要求に、レベッカは呆れたように肩をすくめた。

 

「お前は、借金を返せないなら家と土地を明け渡せとイサベルを脅したようだな?」

「それ、なんの話?」

「社長、朝に報告した件です」

 

 オフィスに座っていた事務員が歩いてきて資料をみせると、レベッカは軽く目を通した。

 

「ああ、立ち退き案件の……。ごめんなさい。この貧乏コロニーには借金を返さない人がたくさんいるから覚えきれなくて」

「高利で金を貸して、返せなければ土地を奪う……。汚いやり方だな?」

「そうかしら? 親切にしてあげてるほうよ。私たちぐらいじゃない? 貧乏な人たちにお金を貸してあげてるのは」

「フン、親切心があるなら借金を無効にしてやりな! 彼女に返せる金はない。それとも、最初から土地を奪う気だったか?」

 

 プルツーがそう指摘すると、レベッカの表情が狡猾そうに変化した。

 

「フフフ……。子供の割には良く分かってるじゃない。あなた見どころあるわよ。あの辺りには大規模な工場建設計画があるの。私たちは区画整理を手伝ってるってわけ」

「だから邪魔な奴らを強引に排除しようというんだな?」

「お金が払えるなら住んでいいわよ。なければ出て行く。シンプルな話。さあ要件が済んだなら、家に帰ってお風呂にでも入りなさい。ほら、社会勉強することができた女の子に事務所から出てもらって!」

  

 レベッカが手をひらひらさせて命令すると、黒スーツの二人が近づいてきて、一人がドアを開けてプルツーに退出を促した。

 

「そんな理屈で納得できるか! あたしの話は終わってないんだ」

 

 プルツーは、違法なことをする連中が簡単に要求を呑むわけはないと思っていたが、まるでとりつく島がないことに苛立ちを覚えた。

 少しばかり強い態度で交渉する必要があるだろう。だが、相手も本性を表し始めたようだった。

 

「うるさいね。ガキが屁理屈こねんじゃないわよ! 正義感ででしゃばると痛い目に会うよ。帰れといったわよね?」

 

 黒スーツの男が、感情を爆発させた社長の顔色を伺いながら、プルツーの腕を乱暴に掴んだ。

 

「ほら、出ていけ!」

「あたしに触るな!」

 

 プルツーは素早くスーツ男の腕を取ると、グイッと手首を回転させて捻りあげてから、間髪いれず膝を蹴り飛ばした。

 スーツ男はギャッと短く悲鳴をあげて床に倒れた。

 

「こいつ!」

 

 ドアを開けていたもう一人の黒スーツが、怒鳴りながら走り込んでくる。

 プルツーはその動きに対応し、前に抱えていたバッグを床に放りながら左脚を軸にして回転すると、スーツ男が放ってきたパンチを回避しつつ、同時に頭にハイキックを喰らわせた。

 

【挿絵表示】

 

 後頭部に強烈な一撃を喰らって、男は横に勢いよく吹っ飛び、その勢いのまま棚を派手に壊しながら壁に激突した。

 飾られていたアジア風の調度品がいくつも床に落ちて割れた。

 

「緊急事態よ! すぐに応援を呼びなさい!」

 

 レベッカの叫び声がオフィスに響いた。

 体勢を素早く整えたプルツーは、次にこいつらは銃を持ち出してくるだろうと予測した。スーツ男たちが、胸のホルスターに銃を携帯しているのを見逃さなかったのだ。

 だから彼女は先手を打ち、床に放ったバッグからナバン・タクティカルハンドガンを素早く取り出すと、身を屈めながらダッシュしてレベッカに素早く接近した。

 

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 そしてカウンター越しに彼女の頭をぐいっと掴むと、こめかみに銃口を突き付けた。

 

「少しでも動けば、こいつを射殺する!」

 

 プルツーの素早い動きにスーツ男たちはまるで反応出来ず、銃を取り出したものの、ただ狼狽えるばかり。

 

「あらあらあら……。可愛いのになかなかやるじゃない。その動き、かなり慣れてる。あなた、外で部下に怪我させた子ね。いま流行りの子供兵士とか?」

 

 レベッカが落ち着いた風を装って言った。部下の手前、強がっているのだ。

 

「さあな? そう思うなら早くあたしの要求を受け入れな」

「どうやら本気のようね……。もし断ったら?」

「お前の頭が吹き飛ぶだけさ。さっさとイサベル・ロンゴリアの借金を無効にするんだ!」

「わかった。わかったわよ!」

 

 レベッカは渋々コンピューターのキーボードを操作すると、モニターに借用書の一覧を表示させた。

 データは大量にあって、被害者は相当に多いことが分かる。

 

「イサベル、イサベル・ロンゴリア……。ああ、あのゴミ溜めみたいな小屋に住んでる。息子さんは幼いのに働いてて可哀想。いっそのこと引越した方がいいんじゃないかしら?」

「フン、息子からピンハネしてるのはお前だろ」

「え?」

「とぼけるなよ。情報収集のために子供たちを働かせてることは知ってる。お前の間抜けな部下が教えてくれたよ。汚い奴だな、お前は」

「なんで仕事を斡旋してるのに怒られなくちゃならないのよ!」

「騒ぐなっ。黙って作業しろ!」

 

 プルツーは急かすために、銃口をレベッカの頭に一層強く押し付けた。

 

「わかった、わかったから! はい、このデータで間違いないわね。あなたも確認してくれない?」

「データを削除すれば、イサベルの借金は全部無効になるんだな?」

「そうよ。でも、脅して契約を無効にさせるなんて、これは違法行為よ」

「ふざけるな! お前に言えたことか!」

 

 レベッカがなかなか指示に従わないので、プルツーはハンドガンにさらに力を込めた。

 この銃はダブルアクションで、トリガーがセイフティを兼ねているから、人差し指を引いたとたんにこの女は即死する。

 

「そんなものを突きつけられたら、怖くて作業できないわよ!」

「作業を止めたり、誤魔化したりすれば即座に射殺する」

「無茶言うわね、可愛い女の子なのに」

「余計なことは言うな」

 

 レベッカは仕方ないという感じでキーボードを操作して、いくつかの処理を走らせた。

 その間もプルツーは気を抜かなかったが、レベッカのそばに置いてあるプラスチックケースが気になって目を止めた。

 見ると、中には四つ足のおかしな生物が入っていて、渡された木の枝をのしのしと歩いていた。

 色は緑で派手な模様をした姿は、よくみると怪物みたいで、プルツーは内心ギョッとして驚いた。

 

「あら、私のリザちゃんが気になるの?」

「う、うるさい! どうでもいい!」

 

 プルツーは生き物があまり好きではないのだ。

 だが妹のプルテンは動物好きで、いつもこんな感じの薄気味悪い生き物の動画を見ている。その神経が理解出来ないとプルツーは思った。

 

「はい、これで完了よ。画面を見て確認してくれる?」

 

 プルツーは、レベッカがポンとキーボードを叩いたのを確認した。

 

「間違いないだろうな。ちゃんと一覧から消えて……なにっ!?」

 

 プルツーは、なるべくケースの生物を見ないようにしていたので集中力を欠いていた。だから、突然上下左右から吹き出してきたガスを回避することが出来なかった。

 まずい、トラップか!?

 彼女は素早く口を塞いでその場を離れようとしたが、反応が遅れて、うかつにもガスを吸い込んでしまった。

 

 プルツーはたちまち見当識を失い、意識が薄れていった。全身が痺れて、筋肉から力が抜けていく。

 もはや立っていられず、カウンターから滑り落ちてドサッと床に倒れ込んだ。

 

「あらあら油断したわねぇー」

 

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 いつのまにか酸素マスクを被っていたレベッカが、プルツーの長いもみ上げをぐいっと引っ張りながら勝ち誇ったように言った。

 プルツーは抵抗しようとしたが、麻酔ガスのせいで、すでに痛みすらぼんやりとしか感じなくなっていた。

 

「経験の差かしら? 私も敵が多いから、このくらいの襲撃は想定済みよ」

「こ、このガスは……」

「これは即効性の麻酔ガス。G3とかじゃないから安心なさい」

「か、勝ったと……思うな……」

「ふふっ、少し硬いベッドだけど、ゆっくりと寝ていいわよ。ほら、このヒロインぶったガキを連れていきなさい! たぶん地球連邦政府かジオン共和国のエージェントでしょう。たっぷりと尋問して情報を吐かせないとね?」

「……」

 

 もはや意識は混濁し、言葉を返す思考もままならない。

 プルツーの意識は暗黒の世界に嵌まり込んでいき、ついには何も考えられなくなった。

 

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