戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌   作:先導

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最後の鍵は

アダムが放った黄金錬成の威力は壮大なものであった。爆発個所は非常に巨大で、地面は蒸発し、底も赤熱化していた。そんな黄金錬成のギリギリ範囲外に響たちは倒れていた。気を失っていたクリスから順に、3人は何とか立ち上がる。

 

「何が・・・いったいどうなって・・・」

 

「風鳴機関本部が・・・跡形もなく・・・」

 

「・・・!マリアさんたちは⁉」

 

響は自分たちを助けに来てくれたマリアたちを思い出し、周囲を見回す。ちょうどそのタイミングで、切歌が覆いかぶさっていた瓦礫を押しのけて出てきた。

 

「切ちゃん!」

 

日和が切歌に声をかけた。彼女の背後にはマリア、フォルテ、調の3人もいる。4人とも無事ではあるようだが、マリアとフォルテの疲労はかなり大きいようだ。

 

「しっかりするデスよ、マリア」

 

「フォルテ・・・」

 

2人が目を開けると、上空よりヘリの音と同時に、眩いライトが自分たちを照らした。マリアはその光の眩しさに思わず目を閉じ、顔を背ける。

 

「・・・生き・・・てる・・・」

 

マリアは弱々しく、そう一言呟いた。

 

~♪~

 

襲撃から一夜が明け、一部装者たちは仮設本部の装甲車に集合していた。

 

「敗北だ。徹底的にして完膚なきまでに」

 

腕を組んでいた弦十郎が悔しさを滲ませながらそう言い放った。風鳴機関が破壊されたということは、バルベルデドキュメントも消えたことを意味する。装者たちが戦闘不能になったことを踏まえると、確かにこれは完全なる敗北でしかない。モニターには黄金錬成を放つ一糸まとわぬ姿のアダムが映っており、それに次いでファウストローブを身に纏った4人の錬金術師が映し出された。

 

「ついに現れた、パヴァリア光明結社統制局長、アダム・ヴァイスハウプト。そして・・・」

 

「錬金術師共のファウストローブ・・・」

 

「打ち合った瞬間に、イグナイトの力を無理矢理引きはがされたような、あの衝撃は・・・」

 

ファウストローブ纏った錬金術師と打ち合った時、イグナイトが強制解除されたうえに多大なダメージを負ったあの現象に翼が疑問を浮かべていると、エルフナインが答える。

 

「ラピス・フィロソフィカス。賢者の石の力だと思われます」

 

「賢者の石・・・確かに言っていた」

 

「その・・・ラピス・フィロなんとかって・・・いったい何?」

 

「ラピス・フィロソフィカス。完全を追い求める錬金思想の到達点にして、その結晶体。病をはじめとする不浄を正し、焼き尽くす作用をもって浄化する特性に、イグナイトモジュールのコアとなるダインスレイフの魔力は、為すすべもありませんでした」

 

イグナイトの原動力は呪い・・・ラピスとは全くの真逆の力。つまりラピスの特性である不浄を焼き尽くして浄化する作用がイグナイトに働き、打ち合った瞬間にイグナイトの呪いを焼き尽くしたことで強制解除され、大きなダメージを負ったのだ。これらを踏まえると、ラピス・フィロソフィカスはイグナイトにとって天敵と言えるだろう。

 

「とどのつまりは、イグナイトの天敵・・・!この身を引き裂かんばかりの衝撃は、強制解除によるもの!」

 

「決戦仕様であるはずが、こっちの泣き所になっちまうのか!!?」

 

切り札と言えるイグナイトが通用しないラピス・フィロソフィカスの出現は装者たちには大きな痛手になっているのは間違いない。

 

「東京に搬送されたマリアさんたちは大丈夫でしょうか・・・?」

 

この場にはいないマリアたち容態を心配する響は友里にそう質問をした。この質問に友里は答える。

 

「精密検査の結果次第だけど、奇跡的に大きなダメージは受けてないそうよ」

 

「マリアさんたちならきっと無事だよ!ね、響ちゃん」

 

「そうですね・・・。大丈夫・・・絶対・・・」

 

日和が響を安心させようとしているところで、エルフナインには1つの疑問点が浮かび上がる。

 

(LiNKERを介さずの運用・・・ましてやイグナイトによる体への負荷・・・絶唱級のバックファイアを受けてもおかしくなかったはず。なのに・・・)

 

あの時マリアたちは確かにLiNKERを使わずにイグナイトを使用していた。下手をすればシンフォギアの機能の1つである絶唱と同等レベルのバックファイアで絶命してもおかしくない状況下でもあった。それにも関わらず、マリアたちは大したダメージを負っていない。その原因はあの時マリアとフォルテに発せられた光にあると考えられるのだが、それが何なのかが検討もつかない。

 

「風鳴機関本部は、現時点での破棄が決定した。各自、撤収準備に入ってくれ」

 

弦十郎が一同に撤収指示を出した。

 

「バルベルデドキュメントが解析できていれば、状況打開の手がかりがあったのかな・・・」

 

「・・・・・・」

 

藤尭がたらればを呟いた。そこに、緒川の端末から通信が鳴り響いた。緒川が端末を取り出して確認して見ると、端末には鎌倉のシグナルが点滅している。これには緒川は驚いた表情をする。緒川の表情に気付いたのは翼だけであった。緒川はすぐに弦十郎のそばに近づき、耳打ちする。

 

「司令・・・鎌倉への招致がかかりました」

 

「しぼられるどころじゃ済まなさそうだ・・・」

 

本音を言ってしまえば、鎌倉の地には近づきたくないところなのだが、そうも言ってられないことはわかっているため、弦十郎は腹をくくるように笑ってみせた。

 

~♪~

 

サンジェルマンたち錬金術師が現時点での拠点としているホテルに統制局長であるアダムの姿があった。アダムはベッドに腰かけて読書をしており、すぐそばにはまるで子猫のように甘えて彼にすりすりしているティキ。そんな中、サンジェルマンたちは不服そうな態度をとっている。その原因は当然、松代での戦闘での件だ。

 

「ラピスの輝きは、イグナイトの闇を圧倒。勝利は約束されていた・・・それを・・・」

 

「下手こいちゃうとあーしたち、こんがりサクジュワーだったわよ?」

 

「しかもその上、仕留めそこなっていたというワケダ」

 

プレラーティが出した錬金術のモニターには車に乗り込む装者たちの姿があった。これはプレラーティが使役するカエルの視界から送られているものだ。

 

「さて、局長殿。妾たちに何か言い訳はあるかえ?」

 

エドワードは扇子を口元に当て、上司であるアダムに鋭い視線を送っている。

 

「みんな!せっかくアダムが来てくれたんだよ?!ギスギスするより、キラキラしようよ!」

 

ティキはそう発言しているが、4人はアダムと仲良くやっていこうという気持ちは微塵もない。むしろその逆といってもいいだろう。その証拠としてティキの発言に4人は返事を返さず、表情も変えずただ黙っている。

 

「み~ん~な~!」

 

「どうどうティキ。だけどもっともだねぇ、サンジェルマンたちの言い分は。いいとこ見せようと加勢したつもりだったんだ、出てきたついでにね」

 

アダムはティキをなだめ、読書をやめて帽子を被り直し、ベッドから降り、腕に抱き着くティキを気にせず玄関へと向かっていく。

 

「でもやっぱり、君たちに任せるとしよう、シンフォギア共の相手は」

 

「統制局長、どちらへ?」

 

「教えてくれたのさ、星の巡りを読んだティキが。ね?」

 

「うん!」

 

「成功したんだろう?実験は。なら次は本格的に行こうじゃないか。神の力の具現化を」

 

足を止めたアダムは視線をサンジェルマンに向けてそう言い放った。

 

~♪~

 

人がいない街中に、数多のアルカ・ノイズが出現した。現れたアルカ・ノイズの前に、復調したばかりの調と切歌が戦線に立つ。この場にはLiNKERなしで戦うことができる日和たちもいない。手元にはLiNKERもない。だがそれでも構わず、調と切歌はギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Zeios Igalima Raizen tron……

 

ギアを纏った調と切歌はアルカ・ノイズとの交戦を開始する。まず切歌は鎌を大きく振りかぶり、3つに分割した刃をブーメランのように放った。放たれた刃は高速回転して、アルカ・ノイズの群れを切り裂いていく。さらに切歌はもう1つ鎌を取り出し、2つの鎌を合体させて左右対称の三日月型の刃の鎌を形作った。

 

【対鎌・螺Pぅn痛ェる】

 

対する調はツインテール部位のアームを展開して搭載されている大型丸鋸を操って、アルカ・ノイズを次々と切り刻んでいく。

 

(シュルシャガナの刃は、全てを切り開く無限軌道!目の前の障害も!私達の、明日も!)

 

さらに調はプリマ・マテリアの中を突っ走り、アルカ・ノイズの群れの真ん中でスケートの要領で回転し、鋸に変化したスカートでアルカ・ノイズ真っ二つに切り裂いてく。

 

Δ式・艶殺アクセル

 

ビビビッ・・・

 

だが、調はLiNKERを使わずにギアを纏っているのだ。適合係数が低いがために、バックファイアが発生し、調の身体に痛みが生じている。もちろん、それは切歌も同じだ。

 

(絶対鋭利のイガリマはその気になったら!幽霊だって!神様だって!真っ二つデス!)

 

だがそれでも2人はバックファイアの痛みを耐えながら、戦闘を続けていく。

 

~♪~

 

調と切歌が戦っている中、まだ全回復していないマリアとフォルテは本部潜水艦の通路を走っている。

 

「あの2人・・・!いったい何を考えている⁉」

 

「本当に、無茶を重ねて!」

 

マリアとフォルテの後をエルフナイン、日和、響、クリスが2人の後を追う。

 

「マリアさん!フォルテさん!」

 

「もういいのか⁉そっちだって大変だったんだろう⁉」

 

確かに2人のコンディションはまだ万全ではないが、今気にするべきは調と切歌の方だ。そのためにも急ぎある場所へと向かっていく。

 

~♪~

 

切歌はバナナ型のアルカ・ノイズを肩部から射出したアンカーで巻き付け拘束する。身動きが取れなくなったところで、切歌は両足をギロチンの刃と連結し、ブースターを使って勢いをつけて刃を下ろした。だが・・・

 

ビビビッ・・・!

 

「ああ!!」

 

ギアのバックファイアによる痛みによってギロチンは砕け散り、切歌は真っ逆さまに地面に激突する。

 

「切ちゃん!!」

 

この様子を見た調は慌てて切歌に駆け寄った。同時に、アルカ・ノイズは消滅し、街の光景は訓練場に戻った。先ほどまでの光景とアルカ・ノイズはホログラムによって作り出したものである。つまり2人がやっていたのは実践ではなく、戦闘訓練であったのだ。

 

「大丈夫・・・?」

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

 

シュミレータールームに響たちが入ってきた。

 

「君たち・・・なんという無茶を・・・!」

 

「LiNKERもないのに、どうして・・・」

 

マリアの疑問はもっともだ。もしもこれが実践であったのならば、アルカ・ノイズに分解されてもおかしくない。いや、それ以前にギアの拒絶反応によって体が耐え切れなく慣れ、最悪の場合死に至ることもある。

 

「私たちが・・・LiNKERに頼らなくても戦えていれば・・・あんな・・・」

 

調たちの想いがわからないわけではない。もしあの場でLiNKERなしで戦うことができれば、もう少しマシな状況になったかもしれないし、アダムの妨害も可能だったかもしれない。その思いにマリアは何も言えない。

 

「確かに理解できなくもない・・・だが・・・」

 

「だからって・・・!」

 

「平気!」

 

フォルテやクリスの言葉を遮ってでも大丈夫に振る舞おうとする調と切歌。

 

「それより、訓練の続行を・・・」

 

「LiNKERに頼らなくてもいいように、適合係数を上昇させなきゃデス・・・」

 

訓練を再開しようとする2人に響と日和が止めようとする。

 

「ダメだよそんな無茶!一歩間違えたら死んじゃうかもしれないんだよ⁉」

 

「そうだよ!そんなの絶対にダメ!そんな危険なこと、かわいい後輩には・・・」

 

「経緯もよくわからないままに十分な適合係数を物にした響さんや日和先輩にはわからない!!」

 

「「・・・っ」」

 

あまりにも焦りの方が強いからか、調は2人に対し、辛辣な言葉をかけてしまう。その言葉に、響と日和は思わず口ごもってしまう。

 

「いつまでも味噌っかす扱いは・・・死ななくたって・・・死ぬほどつらくて・・・死にそうデス・・・!」

 

長い沈黙が続く。そんな沈黙を最初に破ったのはマリアだった。

 

「やらせてあげて」

 

「マリア?何を言っている?」

 

訓練続行を申し入れるマリアの言葉をフォルテには理解できなかった。

 

「2人がやりすぎないように、私も一緒に訓練に付き合うから・・・」

 

「適合係数じゃなく、この場のバカ率を引き上げてどうする!!?」

 

「いつかきっとLiNKERは完成する。だけど、そのいつかを待ち続けるほど、私達の盤面に余裕はないわ」

 

マリアの言葉にまだLiNKER完成のめどが立つことができないエルフナインは顔を俯かせる。そこでフォルテが異を唱えるように口を開く。

 

「・・・だからといって、無茶をしていい理由にはならない。万が一誰か1人死んだとき、残された者たちは、どのような思いをして戦場に赴かなければいけないのだ?仲間の死という重圧に、君たちは耐えられるのか?」

 

「それは・・・」

 

「暁と月読の行為は、LiNKER解析に精を出しているエルフナインの信頼の裏切りと同然だ」

 

「・・・っ、そんなつもりは・・・」

 

「いい加減にしろ!!!」

 

「「っ!」」

 

普段は怒鳴り声を上げないフォルテがここぞとばかりに叱るように怒鳴ったことに調と切歌は驚愕する。2人だけでなく、他の装者たちもだ。

 

「君たちの薄っぺらい覚悟は覚悟にあらず・・・ただの甘えだ。そんなものは捨ててしまえ!」

 

ポタ・・・ポタ・・・

 

「「!」」

 

調と切歌は何か言い返そうとした時、何かが滴る音が聞こえた。それは、フォルテの左拳から流れる血だった。彼女は自身の左手を強く握りしめていたのが原因だ。それだけではない。彼女の唇も自ら噛んで血を出している。フォルテ自身も同じ思いなのだ。だが無理したところでどうにかなるわけでもない。すぐに状況を打破できるわけでもない。それを1番理解しているからこそ、自分に鞭を打ってまで、押し殺しているのだ。全ては自分たちが無茶をやらないように。それに気づいた2人はもう何も言えず、マリアも軽はずみな発言をして申し訳なさそうな顔をしている。場の空気が悪くなる4人に日和は何とかしようと口を開く。

 

「ほ・・・ほら・・・無茶な訓練なんかしなくても、他に方法があるかもしれないでしょ?それを一緒に探そうよ・・・ね?」

 

「でも・・・」

 

「方法はあります!」

 

日和の言葉に賛同するかのように、エルフナインが話に割って入ってきた。

 

「LiNKERの完成を手繰り寄せる、最後のピースを埋めるかもしれない方法が・・・」

 

「最後のピース・・・」

 

「本当デスか⁉」

 

ようやく見えてきた光明の知らせに調と切歌は起き上がる。

 

「ウェル博士に手渡されたLiNKERのレシピで、唯一解析できていない部分。それは、LiNKERがシンフォギアを脳のどの領域に接続し、負荷を抑制しているか・・・です。フィーネやF.I.Sの支援があったとはいえ、一からLiNKERを作り上げたウェル博士は、いろいろはともかく、本当に素晴らしい生化学者だったとは言えます」

 

「素晴らしい・・・ゾッとしない話ね・・・」

 

「僕のこの特別製の義眼を作り上げたのはドクターだ。性格面はともかく、腕自体は認めざるを得ないだろう」

 

今は亡きウェルの腕前はマリアたちがよく理解しているため、彼女たちは納得している。話の意図が全く理解していない日和と響は頭に疑問符を浮かべている。

 

「???難しくてよくわかんない・・・」

 

「あ、あの、難しい話は早送りにして、最後のピースのとこまで飛ばしてよ・・・」

 

理解できていない2人のためにエルフナインは話を最後のピースのところまで飛ばす。

 

「鍵は、マリアさんの纏うアガートラームです」

 

「白銀の・・・私のギアに⁉」

 

自分のギアがLiNKER完成の鍵になっていることに驚愕するマリア。

 

「アガートラームの特性の一つに、『エネルギーベクトルの制御』があります。土壇場にたびたび見られた発光現象・・・。あれは、脳とシンフォギアを行き来する電気信号が、アガートラームの特性によって可視化、そればかりか、ギアからの負荷をも緩和したのではないかと、ボクは推論します。これまでずっと、任務の間に繰り返してきた訓練によって、マリアさんたちの適合係数は少しずつ上昇してきました。おそらくは、その結果だと思われます」

 

「マリアの適合係数は、私たちの中で一番高い数値。それが・・・!」

 

「今までの頑張り、無駄ではなかったというわけデスか!!?」

 

見えてきた希望に調と切歌は目を輝かせている。

 

「ええ!マリアさんの脳内に残された電気信号の痕跡を辿っていけば・・・!」

 

「LiNKERが作用している箇所が判明する・・・か。だがどうやってそれを解明する?」

 

そう、1番の問題と言えばどうやって脳の電気信号を辿っていくかだ。いくらS.O.N.G でも、そんなことを可能にできるものは存在しない。

 

「それこそウェルの野郎に頭を下げない限りは・・・」

 

「でもそのウェル博士はもう・・・」

 

ウェルに訪ねようには彼はもうこの世を去っている。彼に聞き出す術はないのだ。

 

「ついてきてください」

 

エルフナインはシュミレータールームを後にし、ある場所へと向かっていく。装者たちは言われたとおりにエルフナインについていく。

 

~♪~

 

エルフナインが向かった場所とは自分の研究室だった。研究室にはヘッドギアのような装置がケーブルに接続されていた。

 

「これは?」

 

「ウェル博士の置き土産、ダイレクトフィードバックシステムを、錬金技術を応用し、再現してみました」

 

ダイレクトフィードバックシステム。それはかつてF.I.Sに未来が洗脳され、シンフォギア、神獣鏡に搭載されていたシステムだ。数多くの戦闘データの中から最適解を算出し、それを装着者の脳に直接伝達することで装着者の肉体を動かすことが可能なのだ。戦闘経験が皆無の未来が装者たち・・・響と立ち回ることができたのは、このシステムが大きく働いていたからだ。そのシステムをエルフナインは研究目的のために創り出したのだ。

 

「対象の脳内に電気信号化した他者の意識を割り込ませることで、観測を行います」

 

「つまり、そいつで頭の中を覗けるってことか?」

 

「理論上は・・・。ですが、人の脳内は意識が複雑に入り組んだ迷宮。最悪の場合、観測者ごと被験者の意識は溶け合い、廃人となる恐れもあります。そこで使用したいのが、フォルテさんのミスティルテインです」

 

「僕の魔のギアを?」

 

ミスティルティンを使用する疑問を浮かべるフォルテにエルフナインが答える。

 

「ミスティルティンにも、アガートラームと同じエネルギーベクトルの制御がありますが、ミスティルティンにはもう1つ、『エネルギー負荷の抑制』があります。これは、周囲に漂う微量の自然エネルギーを吸収し、ミスティルティンのエネルギーと調和。それを排出することにより、身体への負担を抑えていたのです」

 

「生命を喰らうミスティルティンだからこその特性と言えるな」

 

「バックファイアのダメージで、フォルテさんにかかる負担が1番少なかったのも、この特性が作用されているものだとボクは推測します。これをダイレクトフィードバックシステムに応用できれば・・・」

 

「・・・そうか。この2つの特性を組み合わせることで、御前に電気信号が絡み合わせることを防げる。そういうことだな?」

 

エルフナインの説明を理解したフォルテは推測を出した。その推測にエルフナインは首を縦に頷く。

 

「しかし絶対はありません。失敗すれば、先ほど申しあげたとおり、廃人となるかもしれません」

 

「やるわ」

 

「「「!」」」

 

うまくいかなかった場合のリスクを聞いたうえで、マリアは迷うことなく答えた。

 

「ようやくLiNKER完成のめどが立ちそうなのに、見逃せようはないでしょ」

 

「でも危険すぎる!」

 

「やけっぱちのマリアデス!」

 

「君たちがそれを言うか、愚か者」

 

「「・・・っ」」

 

調と切歌は止めようとしたが、LiNKERを使用せずに訓練をやっていたために、フォルテに言い返されてしまう。無茶をやった自覚がある2人はぐぅの音もでない。

 

「・・・1つ確認したい。観測者・・・即ち、君にもその危険が及ぶのだな?」

 

エルフナインの説明には観測者が出ていた。この場合によると、エルフナインが観測者となるわけだから、彼女も廃人となる可能性は十分にあるということだ。

 

「それがボクにできる戦いです」

 

だがエルフナインはそれを覚悟したうえでこの提案をしているのだ。

 

「ボクと一緒に戦ってください、マリアさん!」

 

エルフナインの覚悟にマリアは心強い笑みを浮かべ、首を縦に頷くのであった。

 

~♪~

 

一方同時刻、海恋は都内にある図書館で本を借りに来ていた。借りようとする本を見つめる時、思い浮かべるのはエドワードの言葉だ。

 

『他人の聞いた噂を鵜吞みにし、組織の実態、内情、人間関係・・・様々な要素を払い、何も考えずこれを否定する・・・それは、怠慢というべきではないか?』

 

『友人が汝の願いとは裏腹に、望まぬ結末へと歩んでいく。それは果たして、汝にとっての幸せと言えるか?納得さえしていれば、友を死地へと送り出すそれは、果たして互いに理解しあえたと言えるか?』

 

「・・・・・・」

 

西園寺家の一件を終えてからというもの、海恋は寝ても覚めてもこれらの言葉に自問自答を繰り返している。果たして自分の出した選択は、本当に正しいのか。果たして本当に、よい結果を導くことができるのか。彼女はそのことばかり考え、苦悩の表情を浮かべている。

 

「書物とは知恵の宝庫。知恵を蓄える手段。知恵を振るうための道具。面白いものよの。たった1つの書物で、様々な知恵のあり方が表れ出るのじゃからな」

 

「!」

 

考え事をしていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。背後に視線を向けて見ると、そこには椅子に座り、難しい本を読んでいるエドワードの姿があった。

 

「どうじゃ?あれから決心は固まったかのう?」

 

「バカを言わないで。何度来ても、あなたの誘いには乗ったりなんかしないわ」

 

「本心から出た言葉とは思えぬな」

 

海恋の否定の言葉にエドワードは読んでいた本を閉じた。

 

「その気になればS.O.N.Gに全てを報告できたはずじゃ。なのに汝はそれをしなかった。それ即ち、汝は迷いの渦に飲まれておる。妾の言っていることは間違っておるか?」

 

「・・・っ」

 

痛いところを突かれて海恋は口ごもる。その様子を見てエドワードはふっと笑う。

 

「そう警戒するでない。妾はただ汝と話がしたいだけじゃ。妾とおしゃべりしようではないか。甘味でも食しながら・・・のう?」

 

妖しく笑うエドワードとは対照的に、海恋は緊迫したような表情で固唾を飲みこむのであった。




エドワードのギャンブルの賭け金

彼女は自身が勝利するという絶対的な自信を持ち、なおかつギャンブルで味わうことができるスリルや緊張感を何よりも好んでいるがために、ギャンブル1回に賭ける金額は所持金全てである。例え敗北しても彼女の錬金術の腕や実力があれば億単位の金額を入手できるルートも用意されており、後にも先にも常に用意周到で抜かりがない。ただギャンブルで敗北したことなど一度もないため、資金の入手ルートは常に見送りとなり、勝利を重ねて賭け金がさらに跳ね上がっていっている。
ちなみにたまにサンジェルマンたちを誘っているが、カリオストロとプレラーティはエドワードの強運を目の当たりにしてからというもの、何かしらの言い訳をして勝負を避けており、サンジェルマンはそもそもギャンブルをするつもりがないためいつも断っている。
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