戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌   作:先導

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平和な日曜日

どこかの山岳地帯にある屋敷。その屋敷の近くにある湖の桟橋で、デュランダルを身に纏える銀髪の少女はノイズを召喚できる杖を持って湖をじっと見つめて、薬品工場での出来事を思い返す。

 

(完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲインが必要だと"フィーネ"は言っていた。あたしが"ソロモンの杖"に半年もかかずらったことを、あいつはあっという間に成し遂げた・・・)

 

この少女が持っている杖の名はソロモンの杖。ネフシュタンの鎧、及びデュランダルと同じ完全聖遺物の1つである。このソロモンの杖の起動は、この少女でも半年ほどの長い時間がかかった。だが、デュランダルの場合は、響の歌だけで、あっという間に起動させた。少女はそれを思い出している。

 

(そればかりか、無理やり力をぶっ放してみせやがった・・・)

 

少女はあの日の光景を思い出し、歯ぎしりする。

 

「・・・バケモノめっ!!」

 

少女は愚痴をこぼしながら握りしめたソロモンの杖を見つめる。

 

「このあたしに身柄の確保なんてさせるくらい、フィーネはあいつにご執心というわけかよ・・・」

 

少女が思い返すのはまだ自身が幼かった頃。戦果によって死亡した両親と・・・何らかの組織の捕虜とされ・・・手ひどい扱いを受けてきた忌まわしき記憶。

 

「そしてまた・・・あたしはまた1人ぼっちになるわけだ・・・」

 

そよ風が吹き、少女の髪がなびかせる。そんな時に思い出すのは、敵であるはずの日和が自分に手をさし伸ばし、笑顔で放った言葉だ。

 

『私・・・あなたとお友達になりたいな』

 

(何が友達になりたいだ・・・!戦場で甘っちょろいことを!手を繋げば仲良しになれるってか?そういうの、反吐が出る!!)

 

デュランダルの力を無理に引き出した響よりも、日和の甘い考えが少女をさらにイラつかせる。朝日が昇り、山から太陽が昇り、不機嫌な少女を照らす。不意に少女が振り返ると、そこには黒い服を着込み、黒い帽子を被った長い金髪を持った女性が現れる。この女性が少女の言っていたフィーネなのだろう。

 

「わかっている。自分に課せられたことくらいは。こんなもんに頼らなくても、あんたのいうことくらいやってやらぁ」

 

少女はフィーネに向けてソロモンの杖を投げ渡した。フィーネはそのソロモンの杖を受け取る。

 

「あいつよりも、あたしの方が優秀だってことを見せてやる!あたし以外に力を持つ奴は、全部この手でぶちのめしてくれる!そいつが、あたしの目的だからな!!」

 

少女の確固たる決意を聞き、フィーネは満足そうに不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

~♪~

 

本日は日曜日・・・つまりは学校は休みの日。そんな休みの日の中でも、リディアンは教室を開けており、リディアンの生徒たちは規則を破らない限り、何をしても自由である。そんな日の音楽教室で日和は海恋と共にセッションをしている。いつもより長くセッションをしているからか、2人の額からは汗をかいていた。

 

「ふぅ・・・少し休憩しましょうか。二時間くらい弾いて疲れたでしょ」

 

「私はもう少し弾くよ。海恋は先に休んでていいよ」

 

「・・・そう?じゃあ、そうさせてもらうわね」

 

「うん。ごめんね、せっかくの日曜日なのに、朝から付き合わせちゃって」

 

「いいわよ。多少のハメは大目に見てあげる」

 

「ありがとう~」

 

海恋はピアノの席から立ち上がり、自分の鞄の方へ向かっていった。日和は座り込んで、1人で黙々とベースを弾く。その際に浮かび上がるのは、デュランダル移送作戦で戦った襲撃者の少女のことだ。

 

(あの子はいったいどういう思いで、私たちと戦ってるんだろう。私たちは人同士なのに・・・ノイズと違って、話し合うことができるはずなのに。どうして・・・私はあの子が、かわいそうに思えるんだろう・・・)

 

あの襲撃者は二課の敵であるのは間違いない。間違いないのだが・・・日和にはどうしても、襲撃者が好き好んで戦っているわけでないと思えてくる。何か目的があったからこそ、響を捕まえようとしたり、戦ってるのではないか。そう思えて仕方ないのだが、実際のところはどうなのかは、襲撃者にしかわからない。

 

(私・・・あの子のことが知りたい!そのためにも・・・身体だけじゃない・・・歌の方も鍛えなくちゃいけない!そのためにも・・・もっと前に・・・前に!)

 

襲撃者を知るためには身体だけでなく、歌も鍛えないといけないと考え、こうしてセッションがてら、歌の特訓をしているというわけだ。歌さえ伝えれば、きっと相手の気持ちに届くという、自分の信条を信じて。

ある程度弾き終えた日和は鞄からドリンクを取り出し、渇いた喉を潤す。すると日和は海恋が何かの雑誌を読んでいることに気が付く。

 

「またその雑誌読んでるの?海恋も飽きないね」

 

「この人たちの出る雑誌はもう出版されないから、私にとっては貴重なものなのよ」

 

「確か・・・雪音雅律・・・それと、ソネット・M・ユキネだっけ?海恋が憧れてる人って」

 

「そう。雪音雅律がバイオリン奏者、ソネット・M・ユキネが声楽家ね」

 

どうやら海恋が読んでる雑誌には海恋が憧れる音楽家夫婦の紹介が載ってあるらしい。日和は海恋の雑誌を覗き込む。

 

「クラシック音楽ってあんまり詳しくないんだけど・・・そんなにすごいの?この人たち」

 

「もちろんよ。この人たちのクラシック音楽は本当に素晴らしかった・・・。子供の頃に見たあの公演・・・今でも鮮明に覚えてるわ。私はあの人たちに憧れてこのリディアンにやってきたのよ。いつか・・・いつかあの人たちが見せてくれた、あの感動を・・・私も与えたいって思いでね」

 

「へぇ~・・・海恋はちゃんと将来を考えてここに来たんだね。私は将来なんて全然わかんないよ。医者もむいてないしさ」

 

「そうね。あんたの場合、ただの翼さんの追っかけだもの」

 

「いやー、それほどでもー・・・」

 

「あんたこれバカにされてるって気が付かないわけ?」

 

きちんと将来を考えて入学してきた海恋にそれとは正反対の日和はすごく感心している。海恋の皮肉に気が付かない日和は雑誌に載ってある雪音夫婦の写真を見る。

 

「・・・この2人って結婚してるんだ・・・」

 

「まぁ、いわゆる国際結婚って奴ね。このグローバルな時代には、珍しくもなんともないけどね」

 

「・・・なんかソネットさんって・・・どこかで見たことあるような・・・」

 

日和はソネット・M・ユキネの顔を見てどこか既視感を覚える。それもつい最近にだ。どこかで会ったのではないかと思考を回らせるが、まったく思い当たらない。

 

「見たって・・・今になって?ありえないわ。だってこの2人、バルベルデのNPO活動ですでに亡くなってるもの」

 

「え?そうなの?だったら違うのかなぁ・・・?でも・・・ん?んんん?」

 

雪音夫婦がバルベルデ共和国という国で亡くなったと知り、余計に頭を混乱させる日和。

 

「もしあんたがその人を見たっていうならそれは・・・ただのそっくりさんじゃないの?ほら、顔が芸能人にそっくりってことあるじゃない」

 

「そうかなぁ?そんなにほいほいいるとは思えないんだけど・・・」

 

海恋は日和が見たのはただ顔が似ているそっくりな人と指摘するが、日和はあまり納得していない様子だ。

 

「とにかく!私は亡くなったこの2人みたいなすごい音楽家になりたくてここに来た!要はそういう話なのよ!はい、この話終わり!」

 

これ以上日和が考えすぎたらダメだと考えた海恋は無理にでもこの話題を終了させる。

 

「そっか。じゃあ海恋が夢を見つけたのは、雅律さんとソネットさんのおかげってことだね」

 

「ん?まぁ・・・そうなるのかしら?」

 

「じゃあさ!その雑誌、ちょっと貸してくれる?」

 

「?いいけど・・・何に使うの?」

 

日和は海恋から雑誌を受け取り、近くに置いてあった楽譜スタンドを取り出して、雪音夫婦のページを固定させてそれを設置する。これを見ても海恋は日和が何をしたいのかわからなかった。

 

「何やってんの?」

 

「海恋の進みたい夢をくれた2人にお礼にって思ってさ」

 

「お礼?」

 

「うん。2人が天国で安らかに眠れるように、黙祷代わりに演奏を・・・って思ってるんだけど・・・どう?」

 

海恋が夢を見つけたきっかけをくれたお礼として、亡くなった2人に黙祷の代わりに自分たちの演奏を捧げようと考えた日和。それを聞いた海恋はほんの少しポカンとし、そしてすぐにクスリと笑う。

 

「あんたってば本当に突然ね。そういうところ、全然変わらないわ」

 

「え?そんなにおかしい?」

 

「おかしいわよ。だって見ず知らずの人にそこまでする人なんて、そう何人もいないわよ。あんた本当に変わった子」

 

「そういう私に付き合ってくれる海恋も変な子~♪」

 

「・・・かもね」

 

お互いに笑いあったところで、海恋はピアノの席に座り、日和はベースをかけ直して、アンプを繋げて音の調整をする。

 

「雅律さん、ソネットさん、この曲・・・私の思い入れの曲をあなたたち2人に捧げます。どうか、聞いてください」

 

亡くなった雪音夫婦にそう言い放ち、日和と海恋は演奏の態勢に入る。日和のベースを軽く叩く音を合図にし、2人は演奏を始める。

 

「~♪」

 

2人の演奏と日和の歌声が音楽教室中に響く。アビスゲートで演奏していた曲とはまた違った・・・優しい演奏に新鮮味を感じながら、日和は楽しく歌を歌う。

 

(雅律さん・・・ソネットさん・・・海恋に夢を与えてくれて、ありがとうございました。もし、これを聞いているのなら・・・どうか、天国で安らかに眠ってください。これは・・・あなたたちに捧げる・・・黙禱です)

 

演奏が終了し、日和は息を整える。そして日和は海恋とハイタッチを交わす。すると・・・

 

パチパチパチッ

 

教室の入り口の前で誰かが拍手する音が聞こえてきた。2人が教室の扉の方に視線を向けてみると、そこには歌を聞いていたのか響が自分たちに拍手を送っていた。隣には彼女の友達である未来もいた。

 

「!響ちゃん!それに小日向さんも!」

 

響たちに気づいた日和は2人に向かって手を振る。海恋が雑誌を片付けている間にも響は日和の元まで駆けつける。

 

「日和さん!今の演奏・・・すごくよかったです!うまく言えないですけど・・・とにかく!胸に響く歌でした!ね、未来もそう思うよね?」

 

「もう、響ったら・・・急に走り出して・・・すみません、立ち聞きするつもりはなかったんですけど・・・」

 

日和と海恋の演奏と歌に興奮した様子を嗜める未来は2人に頭を下げる。

 

「ああ、いいのいいの!お客さんは1人でも多い方が盛り上がるからね!それより、小日向さんはどうだった?私たちの演奏」

 

「あ・・・はい。とてもいい歌でした。もっと聞いていたいくらいに」

 

「わー、ありがと~」

 

特に気にしてない様子の日和は未来に自分たちの演奏を訪ね、褒められて笑顔になる。

 

「立花さんに小日向さん、あなたたちも学校に来てたのね」

 

「はい。響が身体を動かしたいって言っていたので、その付き添いで。今はその帰りで・・・」

 

響はあのデュランダルの一件でもっと自分を鍛えたいと考えていたようで、運動場のトラックで走ってきたようだ。未来はそんな響きの付き添いで付き合っていたようだ。その後に入浴し終えた帰りで2人の演奏を聞いて今に至るわけだ。ちなみに海恋は響の遅刻の関係で度々ちゃんと響を見ておくようにと何度も注意をしてきているので、未来とはお互いに顔見知りである。

 

「おお!それがベッキーですか!こうして生で見るのは初めてです!」

 

「もう・・・響!」

 

「大丈夫だよ、小日向さん。それより響ちゃん、ベッキー触ってみる?」

 

「いいんですか!!?ぜひお願いします!!」

 

響は日和のベースに興味津々で見つめていたところ、未来に咎められるも、日和の厚意でベースを持たせてもらった。

 

「これ・・・思ったより重いんですね・・・」

 

「だよね。私も最初そう思ったもん。そうだ、響ちゃん、ちょっとベッキー弾いてみてよ」

 

「ええ!!?私、ベースの弾き方を知りません!」

 

「大丈夫、私が教えてあげるから。まずは・・・」

 

ベースを介して日和と響は仲のいい先輩と後輩という雰囲気を作り上げた。その様子を見ている未来は響に呆れてため息をし、海恋は笑みを浮かべる。

 

「はぁ・・・すみません・・・響がご迷惑を・・・・」

 

「いいのよ。むしろ2人が楽しそうでいいじゃない」

 

「そうですね。ところで、海恋さんと日和さんはいつもここで演奏をしているんですか?」

 

「まぁね。私は風紀委員の仕事があるから、たまにだけど。まぁそれでも、他のクラスメイトより多いかも」

 

「仲がいいんですね」

 

「そ、そうでもないわよ。毎日日和に付き合わされて、私まで遅刻しそうになるし・・・毎回説教しても直らないし・・・」

 

「ふふ・・・」

 

仲がいいことを言われた海恋は頬を少し赤らめ、髪をいじりながら否定する。この反応だけで肯定を意味していると理解してる未来は笑みを浮かべる。

 

「そ、そういう小日向さんも大変じゃないの?立花さんにいろいろ振り回されて・・・」

 

「そうかもしれませんね。でも、それが響ですから」

 

「・・・お互い、苦労するパートナーを持ったわね」

 

「ですね」

 

風紀委員以外あまり接点がなかった海恋と未来はお互いのパートナーの話で華を咲かせ、中を深めあっている。

 

「ほへ~・・・ベースって結構奥が深いんですね」

 

「響ちゃん、中々見どころあるよ~。なんてったってベッキーを・・・」

 

日和にベースを教えてもらっていると、突然響が持っていた二課の端末に着信が鳴る。

 

「あ、ちょっと失礼しますね~、すぐに戻りますので・・・」

 

「ちゃんと待つからゆっくりでいいよ~」

 

聞かれてはまずい内容かもしれず、いったん音楽教室から出る響。ベースを返してもらい、かけ直そうとする日和に海恋が未来を連れて声をかけてきた。

 

「ねぇ、さっき小日向さんと話し合って、この後一緒に買い物に行くことになったけど・・・あんたと立花さんも一緒にどう?」

 

「本当に⁉いいの⁉」

 

「はい。その後に、ふらわーに行って、お好み焼きでも食べませんか?」

 

「やったーーー!!一度食べてみたかったんだー、ふらわーのお好み焼き!」

 

「前に用事で行けなかったものね。よかったじゃない」

 

買い物、その後にふらわーのお好み焼きを食べに行かないかと誘われ、日和はもちろん大賛成している。日和が大喜びしていると、教室の入り口から響がひょっこり出てきた。

 

「あ、あのー・・・日和さん。ちょっとよろしいですか?」

 

「響ちゃん?2人ともちょっとごめんねー、すぐ戻るから」

 

「「?」」

 

手招きしている様子からして、おそらくは二課関連であろうと悟った日和はすぐに響の元へと向かった。置いてけぼりの海恋と未来は首をかしげるのだった。

 

~♪~

 

音楽教室から出た日和は響から電話の内容を聞いた。緒川からの頼みで翼のお見舞いに行ってほしいという内容で、近くに日和がいるなら、それを伝えて一緒に行ってほしいとのことだ。それを聞いて日和はわかりやすく気落ちする。

 

「そ・・・そっかぁ・・・。せっかく2人に誘ってもらったのになぁ・・・」

 

「あ、あの!私1人で大丈夫ですので、日和さんは海恋さんと未来と買い物に行って大丈夫ですよ!」

 

気落ちする日和を見て響は慌ててそう言いだした。気を遣っての事だろうが、日和は響の提案を断る。

 

「大丈夫だよ。一緒に行こう。どのみち、翼さんに一度挨拶しないといけないし・・・それに、行けなくて残念なのは響ちゃんも同じだしさ」

 

「すみません・・・せっかくのお誘いなのに・・・私って呪われてるかも・・・」

 

「そう落ち込まないで。買い物ならまた今度行けばいいからね。海恋と小日向さんには私から言っておくから、響ちゃんは外で待ってて」

 

「何から何まで・・・すみません・・・」

 

事情説明を日和が引き受けてくれて、何から何まで申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらリディアンの外へ出ていく。2人に事情説明のため、日和が教室に戻ろうとすると、海恋が教室から出てきた。

 

「か、海恋!!?」

 

「どうしたのよ、急に驚いて?・・・あれ?立花さんは一緒じゃないの?」

 

「それなんだけど・・・海恋ごめん!!実は急な用事が出来ちゃって買い物に行けなくなっちゃった!響ちゃんも同じで・・・」

 

二課のことを言うことはできない日和はそう言ってごまかして買い物に行けなくなったことを話した。

 

「・・・そう。なら・・・しょうがないわよ。小日向さんには私から言っておくわ」

 

「ごめん・・・。この埋め合わせは、響ちゃんと一緒に話し合うから!」

 

「そんなの気にしなくていいわ。それより急ぎの用じゃないの?早く行ってきなさい」

 

「うん・・・本当にごめんね」

 

日和は何度も海恋に謝り、リディアンの外に出て響と合流する。日和を見送った海恋は寂しそうな顔し、未来に事情説明をしに教室に戻っていく。

 

~♪~

 

二課の医療施設の廊下。日和の姉である咲は診察の資料を持って廊下を歩いている。実は咲は病院は病院でも二課の医療施設に所属しており、その診察医である。二課が所有している病院といっても、一般の病院と変わらず、医者も看護師も二課の仕事内容までは知らされていない。

 

「あ、お姉ちゃーん!」

 

そんな咲に話しかけてきたのは翼のお見舞いにやってきた日和だった。

 

「日和!病院で廊下を走らない!いつも言ってるでしょ!」

 

「はは、ごめん。お姉ちゃんが見えたからつい・・・」

 

「ついじゃないでしょう。患者さんにぶつかったら・・・あら?その子は?」

 

咲が日和に注意していると、日和についてきた響に気が付いた。

 

「紹介するよ。私の後輩の響ちゃん」

 

「立花響です!初めまして、日和さんのお姉さん!」

 

「・・・立花・・・響・・・?」

 

響の名前に聞き覚えがあるのか咲は指を顎に添えて、響をじっと見つめる。

 

「・・・あ、あのぅ・・・」

 

「!あ、あぁ・・・ごめんなさいね、ぼーっとしちゃって。えーっと、初めまして。日和の姉の東雲咲よ。妹がお世話になったみたいね」

 

「あ、いえいえ、お世話だなんて・・・むしろこっちがお世話になっております」

 

反応がなかったことで戸惑う響に気づき、咲は響に謝罪し、改めて自己紹介を行った。

 

「お姉ちゃんはこの病院の診察の先生をしてるんだよ」

 

「へぇ~、そうだったんですね」

 

「・・・あれ?そういえばお姉ちゃん、今日休みじゃなかったっけ?」

 

本来この曜日が咲の休日だったことを思い出し、日和は首をかしげる。

 

「それが今日出勤する先生が体調不良で休んじゃってね・・・先生の代わりに私が出なくちゃいけなくなったのよ」

 

「あらぁ・・・大変そうですね。お勤めご苦労様です」

 

「ふふ、ありがとう、響ちゃん」

 

体調不良で休みになった医者の代わりに出勤することになった咲に響はねぎらいの言葉をかける。

 

「まぁそれはそれとして・・・お姉ちゃん、翼さん、ここの一般病棟に移ったよね。どこの部屋かわかる?」

 

「・・・いったい誰から翼さんがここに入院してるって情報を聞いてきたんだか・・・」

 

二課の情報源で聞かされた事実を知らない咲は日和に対して驚きつつも少し呆れている。

 

「ええ、確かに翼さんは一般病棟に移ったわよ。部屋は402号室。お見舞いはいいけど、はしゃがないようにね。他の患者さんの迷惑なるし」

 

「わかった!ありがとう、お姉ちゃん!」

 

「だーかーらー、廊下は走るなって!!まったく・・・」

 

翼の病室を聞き、日和は走って病室へ向かう。当然ながらまた咲の注意を受けた。聞いていないが。

 

「待ってください日和さん!すみません、咲さん。失礼します」

 

「ちょっと待って響ちゃん」

 

「はい?」

 

響は急いで日和の後を追いかけようとすると、咲に呼び止められる。

 

「あの子、見ての通り話聞かないし、困った子でしょ?何度も迷惑をかけると思うけど・・・あの子を支えてあげてね。ああ見えてあの子、結構怖がりだから」

 

「・・・はい!任せてください!」

 

咲からの頼みに響は元気よく返事をする。その答えを聞いて安心したのか咲はにっこりと微笑む。

 

「響ちゃん何やってるの?早く早くー!!」

 

「す、すみません!では咲さん、失礼します!」

 

「ちょ・・・あなたまで廊下を走らない!!」

 

戻ってきた日和に急かされ、響は廊下を走って日和についていく。もちろん響にも注意をする咲。

 

「・・・立花響・・・2年前のあの子・・・。いい子じゃないの」

 

響の人柄の良さを見た咲は笑みを浮かべながらそう呟き、自分の仕事に戻っていった。

 

~♪~

 

402号室・・・翼の病室の前で日和と響は緊張している。気持ちを落ち着かせるために2人は深呼吸をし、平常心を持って病室を開ける。

 

「し、失礼しまーす」

 

「つ、翼さ・・・え?」

 

翼の病室に入るや否や、日和と響は病室を見て絶句している。

 

「ま・・・まさか・・・そんな・・・」

 

「う・・・ウソ・・・でしょ・・・?」

 

「何をしているの?」

 

そんな2人に話しかけてきたのは、この病室で入院していた翼だった。

 

「だ、大丈夫なんですか!!?本当に無事なんですか!!?」

 

「い、いえ、それよりも、怪我とかしませんでしたか!!?」

 

「入院患者に怪我や無事を聞くってどういうこと?」

 

「だって・・・これは・・・」

 

「これ、どう見ても襲撃後ですよね!!?」

 

響と日和は翼の病室に指をさしてそう言い放った。2人の言い分は最もだろう。なぜなら翼の病室は・・・脱ぎ散らかった服や下着、散乱するゴミや雑誌、しおれた花にぐちゃぐちゃになった栄養ドリンクに薬剤・・・もう言葉では言い表せないほどに散らかっていたのだ。

 

「私たち、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかって思って・・・二課のみんながどこかの国の陰謀を巡らせてるんじゃないかって思ってて・・・」

 

響の言葉を聞いて、翼は恥ずかしそうに顔を赤く染めている。

 

「「・・・え?え?・・・あー・・・えーっと・・・」」

 

翼の様子を見て、日和と響は何とも言えないような声を上げた。そう・・・とどのつまり翼は・・・片付けられない女だったのだ。




東雲日和の楽曲

最高のthankyou

悲しみに支配された自分を救ってくれた友に心からの感謝を込めた歌。主に相手に感謝を伝える時に歌う1曲である。今回は雪音夫婦に海恋に夢を与えてくれたお礼として黙祷代わりの演奏を行った。余談ではあるが、1年前の秋桜祭のカラオケ大会。悲しみより立ち直った日和がこの大会のために誰にも内緒で1人で作詞作曲を行い、本番当日でこの歌を歌い、優勝し、チャンピオンの座に君臨した思い入れの深い曲となっている。
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