翼がシンフォギアを纏えないことを余所に、黒いガングニールを身に纏ったマリアは全国に生中継されているカメラに向かって、全世界に自分たちの要求を告げる。
「我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだなぁ・・・さしあたっては、国土の割譲を求めようか!」
「バカな・・・!」
あまりにも大きく、非現実的な要求内容に翼は驚愕。マリアはそれには構わず、話を続ける。
「もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって憮然となるだろう」
このマリアの要求は、生中継を通じて各国の最高権力者たちに知れ渡っていた。各国の権力者は慌てる人間もいれば、断固とした態度をとる人間もいるだろう。
「どこまで本気なのか・・・」
「私が王道を敷き、私たちが住まうための楽土だ!素晴らしいと思わないか?」
マリアは翼にそう問いかけ、翼が口を開く。
「何を意図しての騙りか知らぬが・・・」
「私が騙りだと?」
「そうだ!ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろ!」
Imyuteus ameno……
『待ってください翼さん!』
翼が詠唱を唄い、シンフォギアを纏おうとすると、通信機から緒川の止める声が聞こえてきた。
『今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと、全世界に知られてしまいます!』
「でも、この状況で・・・」
『風鳴翼の歌は!戦いの歌ばかりではありません!傷ついた人を癒し、勇気づける歌でもあるのです!』
「・・・っ!」
緒川にそのようなことを言われてしまっては、うかつにシンフォギアを纏うことができなくなってしまった翼。シンフォギアを纏えない中で、翼はマリアに視線を向ける。
「・・・確かめたらどう?私が言ったことが、騙りなのかどうか」
マリアと翼はお互いに目で見つめあっている。そして、マリアが口を開く。
「・・・なら・・・会場のオーディエンス諸君を解放する!ノイズに手出しはさせない!速やかにお引き取り願おうか!!」
なんとマリアは、事を有利に進めるための手段である人質の解放を宣言した。意図がまるで見えないマリアに観客はざわつく。
「何が狙いだ?」
「ふっ・・・」
マリアの狙いがわからない翼がそう問い、マリアが笑う。すると、マリアの通信機からフォルテの声が聞こえてきた。
『マリア、どういうつもりだ?こちらの有利を放棄するなど、作戦内容には存在していない。君の考えを聞かせてもらおう』
会話の内容からして、どうやら人実の解放は武装組織フィーネの作戦にはなかったようだ。フォルテの問いかけにマリアは答える。
「このステージの主役は私・・・人質なんて、私の趣味じゃないわ」
『それは覚悟無き者の言葉だ』
マリアの出した答えにフォルテは声質を変えず、淡々とそう述べた。
『何を恐れる?血で穢れることか?人を傷つけることか?どちらにせよ、そんなことはどうでもいい。君は彼女のために戦うと選んだのではなかったのか?そのために覚悟を持ったのではなかったのか?』
フォルテの問いかけにマリアは何も答えず、ただ翼を見つめるだけであった。何を言っても意志は変わらないだろう。すると、マリアの通信機から老女性からの通信が入った。
『・・・調と切歌を向かわせています。フォルテは2人に合流、マリアは・・・作戦目的を履き違えない範囲でやりなさい』
『・・・了解した。これより月読と暁に合流する』
「・・・ありがとう、マム。フォルテ、ごめんなさい・・・」
老女性とフォルテの通信が切れ、マリアは老女性に感謝を述べ、フォルテに謝罪を述べた。その間にも観客は避難していき、会場から離れていく。
「さあ、みんな、ここにいたら危険よ。私たちも、避難しましょう」
特別招待室にいる一同も咲を筆頭にして、避難活動を始める。そんな中、未来は翼を心配して、会場を不安そうに見つめている。
「小日向さん。早く行くわよ」
「ヒナ。私たちがここに残っていても、足を引っ張っちゃうよ」
「立花さんだって帰国してますけど、向かってるんですし」
「期待を裏切らないわよ、あの子は!」
「・・・そう・・・だよね。わかった・・・」
海恋たちの言葉で、未来は不安は残ってるものの、自分たちも会場から避難するために移動を開始する。
(・・・響・・・早く来て・・・)
未来はこちらに向かっている響たちがここに来るのを強く願った。
~♪~
装者3人を乗せたヘリは急いでクイーン・オブ・ミュージックの会場へと急行している。移動の最中に装者3人は二課の本部から現状の連絡を受けていた。
「よかった!じゃあ観客に被害は出てないんですね!」
「はぁ~・・・よかったぁ・・・みんなに何かあったらどうしようと思っちゃったよ・・・」
どうやらマリアは宣言通りに観客を逃がしているようで、被害が誰1人として出ていないことに響と日和はほっと一安心する。
『現場で検知されたアウフヴァッヘン波形については、現在調査中。だけど、フェイクであると・・・』
藤尭はマリアの纏うガングニールが偽物であると睨んでいるようだが、響は自分の心臓付近に食い込んであるシンフォギア、ガングニールの破片のある個所に手を当てる。
「・・・私の胸のガングニールがなくなったわけではなさそうです」
「ということは・・・やっぱり偽物か・・・そうじゃなかったら・・・」
「もう一振りの・・・撃槍・・・」
「それが・・・黒いガングニール・・・」
マリアの纏うガングニールが偽物であるかどうかはわからないが・・・あの黒いガングニールが二課全員に強い印象を与えたのは、間違いないだろう。
~♪~
一方その頃、老女性からの指示を受け、マリアと同じ武装組織フィーネの一員であるフォルテは調と切歌という人物と合流するために、施設内を移動している。そんな中考えるのは、あの状況下で翼がどう動くか・・・そして相手側がどう状況を覆すか・・・そして、それの対応方法についてだ。
(今風鳴翼は世界中の視線に晒されている。日本政府からの盾がある以上・・・うかつな行動をすることはない。さて、その状況でどう覆すものか・・・ん・・・?)
何者かの気配を感じ取ったフォルテは壁に張り付いて隠れ、自分の気配を消して状況を確認する。やってきた気配とは緒川だった。緒川はどこかへ目指して走っている様子であった。
(あれは・・・二課の・・・。奴が向かったのは・・・制御室か。なるほど・・・有効的な手段ではあるな)
緒川がやろうとしていることにフォルテは察したが、作戦には関係ないことだと思い、素通りしようとしたが、その奥で2人の少女が奥に進んでる姿を目撃した。それを発見した緒川はその少女2名の元へ向かっていく。
(・・・迂闊な・・・)
表情をかけることはなかったが、フォルテは内心では2人の少女に呆れている。なぜならあの2人が合流相手なのだ。さすがに放っておくことはできず、フォルテは緒川の後を追っていく。
「やっべぇ!あいつこっちに来るデスよ!」
2人組の少女は緒川に見つかって隠れているが、緒川は近づいてきている。緒川が近づいてきて、金髪で独特な口癖を持つ少女は慌てている。この少女の名は暁切歌。武装組織フィーネの一員で、マリアとフォルテの仲間である。
「大丈夫だよ、切ちゃん」
切歌とは違い、黒髪のツインテールの少女は特に慌てた様子はなく、冷静だ。この少女の名は月読調。同じく武装組織フィーネの一員で、マリアとフォルテの仲間であり、切歌のパートナーである。
「いざとなったら・・・」
調は赤い結晶のネックレスを取り出した。
「あわわわ!調ってば、穏やかに考えられないタイプデスか⁉」
「どうかしましたか!!?」
切歌が調のネックレスを彼女の服の中にしまい込んだ時、緒川が声をかけてきた。
「早く避難を!」
「あ、えっとデスね・・・」
「じぃー・・・」
緒川は切歌と調に避難するように呼び掛けたが、調はじーっと緒川を見つめている。それを切歌が慌てながらなんとか誤魔化そうとする。
「この子が急にトイレとかって・・・」
「じぃー・・・」
「言い出しちゃってデスね⁉」
「じぃー・・・」
「いやー、参ったデスよ!あはは・・・」
誤魔化そうとする切歌だが、調はひょっこりと出てきて、緒川をじーっと見つめている。
「え?じゃあ・・・」
「緒川さん」
予想外な回答に緒川が用事を済ませたら非常口まで連れ出そうと言い出した時、フォルテがマネージャーモードとして自然に彼に声をかけた。
「フォ・・・」
「し、調!!」
調が彼女の名前を呼ぼうとした時、切歌が慌てて調の口を閉じて黙らせる。
「あなたは・・・マリアさんのマネージャーの・・・」
「フォルテ・トワイライトです。何かありましたか?それに、その子たちは?」
フォルテはあえて切歌たちとは他人ふりをしている。
「あ、いえ・・・実は・・・お手洗いに来たようでして・・・」
「・・・わかりました。彼女たちは私が責任を持って、非常口まで送りましょう」
「心配ご無用デスよ!ここいらでチャチャッと済ませ・・・」
「・・・とにかく、この子たちは私にお任せください。緒川さんも、どうか逃げてください」
「・・・わかりました。用事を済ませましたらすぐに逃げます。フォルテさんも、どうかお気をつけて」
フォルテはマリアと一緒に行動をしていたため、緒川は彼女を疑っている様子だが、彼女の目には切歌と調に危害を加えないというのが伝わってくる。そして何より緒川には何よりも優先すべきことがある。2人を民間人だと思っている緒川はこの場をフォルテに任せて制御室まで向かっていく。
「・・・はぁ・・・何とかやり過ごしたデスかね・・・。フォルテ、助かったデス!」
「・・・迂闊だな。身を隠す時、侵入する際は常に己を気を配らせろと言ったはずだ。本物の戦場であれば、死んでいたぞ」
「うっ・・・こんな時にお説教は勘弁デスよ・・・」
やり過ごした切歌はフォルテに感謝するが、彼女の無表情ながらの説教に顔を項垂れる。
「月読。君は少し前に出すぎだ。迂闊な行動は自分の首を絞めるとも教えたはずだ」
「・・・大丈夫。いざとなったら・・・」
「わわわ!調!本当に穏やかじゃないデスね!」
「・・・それが迂闊な行動なのだが・・・まぁいい。状況によってはマリアを助太刀する。行くぞ」
これ以上とやかく言ってもキリがなく、時間の無駄であると判断したフォルテは緒川とは逆方向へと進んでいく。
「・・・はぁ・・・フォルテはあたしたちを思ってくれるのはありがたいデスが・・・無愛想だからやり辛いデスよ・・・」
「じぃー・・・」
切歌は疲れからため息をこぼすと、調がじーっと切歌を見つめている。
「?どうしたデスか?」
「私、こんなところで済ませたりしない」
「・・・さいデスか・・・。まったく、調を守るのはあたしの役目とはいえ、毎度こんなんじゃ、フォルテのお説教フルコースで体が持たないでデスよ?」
「いつもありがと、切ちゃん」
調は切歌の気遣いに笑みを浮かべている。
「さ、早くしないとまたフォルテに怒られるデス。行くとしますデスかね!」
切歌と調は急いでフォルテの後についていき、マリアの元へと向かうのであった。
~♪~
観客全員が避難を終えたことで、会場にはマリアと翼、ノイズ以外は、誰もいなかった。
「・・・帰るところがあるというのは・・・羨ましいものだな・・・」
「マリア・・・貴様はいったい・・・!」
会場を見つめるマリアは翼に視線を戻す。
「観客は皆退去した!もう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないというのであれば、それはあなたの保身のため。あなたは、その程度の覚悟しかできてないのかしら?」
マリアはそう言ってアームドギアは展開せず、手に持っていた剣を模したマイクを構え、翼に襲い掛かってきた。ギアを纏っていないとはいえ、剣の扱いに長けている翼はマリアの攻撃をマイクで凌いでいく。
「ふっ!」
マリアは自身の羽織るマントを刃のように扱い、翼のマイクを切断させた。翼はマントをぎりぎりで回避し、バク転でマリアと距離をとる。もう使えなくなったマイクを捨て、翼は回避の姿勢をとる。
~♪~
ヘリに乗っている装者3人ははらはらした様子でマリアと翼の交戦をモニターで見ていた。
「中継されている限り、翼さんはギアを纏えない・・・!」
「せめて・・・せめて私たちが・・・うぅ・・・早く加勢に行かなくちゃ!」
「おい!もっとスピード上がらないのか!!?」
早く手助けをしたい気持ちの響と日和はもどかしい気持ちでうずうずしており、クリスが苛立ちで怒鳴りながら友里に問いかける。
「後10分もあれば到着よ!」
「後10分・・・それまで何とか持ちこたえてください・・・翼さん・・・!」
10分もの間、日和たちは翼の無事を必死に祈りながらマリアとの交戦を見つめるのであった。
~♪~
翼とマリアの交戦は今も続いている。マリアはマイクで翼を攻撃を続け、翼はそれを躱し続ける。防戦一方の状況だが、翼はこれを打破する状況を見つけた。それは、ステージの裏側だ。
(よし!カメラの目の外に逃げてしまえば・・・!)
ステージの裏側であればカメラなどは目が届かない。そこでギアを纏えば翼はノイズやマリアに対抗できる。その答えに至った。翼はステージの裏側へと移動を開始する。マリアは逃がさないと言わんばかりにマイクを翼に向けて投げた。翼はマイクを避けてステージの裏側へ移動しようとしたが・・・彼女のヒールが壊れてしまい、バランスを崩してしまう。
「あなたはまだ、ステージを降りることは許されない」
マリアは翼の腹部を蹴り上げ、彼女をステージへ吹っ飛ばす。すると、ノイズは落ちていく翼の方へ向かってきている。
「!!勝手なことを!!」
これはマリアの想定には入っておらず、ノイズを操作している人間に対し、怒りを露にするマリア。翼はノイズの元へと落ちていく。
(決別だ・・・歌女であった私に・・・)
翼は目を閉じて・・・そして・・・
「聞くがいい!!!防人の歌を!!!」
意を決したようにして、目を見開いたのであった。
マリアの誕生日(F.I.Sにいた時)
調「マリア、誕生日おめでとう」
切歌「おめでとデース!」
マリア「ふふ、調、切歌、ありがとう」
フォルテ「マリア、誕生日おめでとう」
マリア「あら、フォルテ。あなたも・・・」
マリアはフォルテの顔を見て固まった。なぜなら・・・いつも無表情で無愛想な彼女が、一目見たら惚れてしまうような笑顔を浮かべていたからだ。
マリア「ふぉ、ふぉふぉふぉふぉ・・・フォルテ!!?」
フォルテ「マリア、どうだろうか、僕の誕生日プレゼントは?気に入ってくれただろうか?」
マリア「ま、待って待って!!」
マリア(えっ?何あれ!!?あれがいつも無愛想なフォルテなの!!?あんな満面な笑顔、初めてみたんだけど!!?ちょっとやめてよ!!私たちは女同士なのよ!!?変な気を持ってどうす・・・)
フォルテを見ていると、マリアはあることに気づいた。フォルテの肌が顔だけ妙に艶やかなのが。指を触れてみると・・・
ガキンッ!
・・・ちょっと触れただけでもすごい音がなった。
マリア「・・・調!!切歌ぁ!!」
調「わ、私たちはただ、フォルテに笑うだけで誕生日プレゼントになるって答えただけなんだけど・・・」
切歌「まさか笑顔のままで顔を固めるなんて思わなかったんデスよー!!」
フォルテ「何故2人に怒っているんだ?2人は何も関わっていないぞ?」
マリア「あなた体張りすぎよぉ!!」
フォルテ「マリア、この場合は体張りすぎではなく、顔張りすぎの方が・・・」
マリア「うるさい!!誰がうまいことを言えと言ったこの天然堅物!!ちょっと来なさい!!顔を洗うわよ!!」
マリアはフォルテの顔を洗っている間、あの笑顔は悪くなかったとまんざらでもなかった。ただもう1回やってほしいとは思わなかった。