戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌   作:先導

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奇跡ーそれは残酷な軌跡

ネフィリムは響の腕を食らい、飲み込んだ。響は失ってしまった左腕を抑え、顔を苦痛に歪めて地に膝をついた。

 

「立花!立花ぁ!!」

 

「響ちゃん!気をしっかり持って!!」

 

ウェルは歪んだ笑みを浮かべて、大声をあげて喜んだ。

 

「いったあああああああああああ!!!!パクついたぁ!!!!シンフォギアをぉ!!!!これでえええええええ!!!!」

 

聖遺物を人ごとネフィリムに食べさせるという残酷な行為を簡単にやり遂げたウェルはまさに狂気じみている。

 

「・・・ドクター!!!貴様、最初からそのつもりでネフィリムを!!!」

 

フォルテもさすがにこの行為を見過ごすわけにはいかず、いつも無表情だった顔が怒りに染まっている。

 

「おや、これはこれは珍しいものを見たぁ。あなたがそんなに怒ってる姿は初めてだぁ」

 

「・・・僕は奴らを殺すつもりでいた。それは否定はしない。だが、僕はあくまで正々堂々と戦い、人としての尊厳を尊重して殺す!!このような人の道を踏み外した者が英雄だと?ふざけるな!!!!貴様のやった行為は、全ての生命、全人類に対する冒涜!!!貴様は、世にも卑しい悪鬼外道だ!!!」

 

フォルテは正々堂々と戦ってギアを纏めて奪うつもりだった。それがこの男の歪んだ思想のせいで踏みにじられた。だが怒っているのはそこではない。重要なのは・・・人としての尊厳を踏みにじったこと。それがフォルテの逆鱗に触れたのだ。

 

「そう嫌なことを仰らず・・・この喜びを分かち合いましょうよぉ・・・ねぇ・・・冷酷非道の殺人鬼さん?」

 

ウェルはフォルテの怒りなどなんのその、フォルテが戦争で殺してきた人間を棚に上げてそう返した。

 

「完全聖遺物ネフィリムはいわば自立稼働する増殖炉!他のエネルギー炉を暴食し、取り込むことでさらなる出力を可能とするぅ!!さあ、始まるぞ!!!」

 

ネフィリムはガングニールの一部を飲み込んだことにより、身体が肥大化し、引き締まった肉体を得た。そう、ネフィリムが進化を遂げたのだ。

 

「フォルテさ~ん、聞こえるでしょう?この覚醒の鼓動が!!!この力が、フロンティアを浮上させるのだぁ!!!フハハハハハ!!イィーヒヒヒヒヒヒ!!!!」

 

「下衆が・・・!」

 

非人道的な行いで進化したネフィリムにウェルは狂気の笑いを上げた。いくら計画に必要と言えど、フォルテも我慢の限界が近づいてきた。すると、響に変化が訪れた。

 

ヴ・・・ヴゥ・・・!!!

 

響は獣のような呻き声を上げ、響の心臓付近に宿ったガングニールの破片が輝きだし、そこを中心に黒い闇が響を包み込んだ。

 

「そんな・・・まさか・・・!!」

 

「失念していた・・・!このようなことがあれば、起こりえる事態に!これが・・・フィーネの観測記録にもあった・・・立花響の・・・」

 

「・・・暴走・・・!!」

 

そう、響は破壊衝動に飲み込まれ、再び暴走を引き起こし、暴れる獣と化したのだ。

 

ヴゥ・・・ガアアアアアアアア!!!

 

響が咆哮を上げると・・・なんと、失ったはずの腕が生やすように出現し、再生していった。

 

「ウソ・・・腕が・・・生えて・・・!!?」

 

「ギアのエネルギーを腕の形に固定!!?まるでアームドギアを形成するように・・・!!」

 

「奴は・・・聖遺物との融合症例・・・何が起きても不思議ではないが・・・これほどとは・・・!」

 

腕を再生させるという信じられない現象に日和と翼は驚愕する。フォルテも驚きつつ、冷や汗をかいている。

 

ヴゥゥゥ・・・!!

 

「ま、まさか・・・!」

 

響は四つん這いになり、ネフィリムに向かっていき、獣が如く拳を連続で叩きつけて、ネフィリムを蹂躙する。

 

「や、やめろぉ!!!やめるんだぁ!!!成長したネフィリムはこれからの新世界に必要なものだ!!それを・・・それをおおおおおおおお!!!」

 

ネフィリムは抵抗として響を吹っ飛ばしたが、響はすぐにネフィリムに向かって突進して、蹂躙を繰り返す。

 

「いやあああああああああああ!!!」

 

ウェルはそれを止めようとして響の目の前にノイズを複数召喚する。複数のノイズはくっつきあい、1体の大型ノイズへと変化する。獣のように動く響は大型ノイズの口の中へと入りこみ、体内で暴れまわって、大型ノイズを一気に消滅させた。

 

ガアアアアアアアアア!!!!

 

暴走する響にネフィリムは防衛本能からか逃げようと動き出した。その動きを見逃さなかった響はネフィリムに飛び掛かり、手がネフィリムの体内を貫き、内臓を抉っていく。そして、内臓の中で、ネフィリムの心臓を引きちぎった。

 

「ネフィリムの心臓を!!?」

 

「ひぃぃ・・・うわああああああああ!!!!」

 

ネフィリムの心臓を抜き取った響にフォルテは驚愕し、ウェルは発狂の声を上げる。響は引きちぎったネフィリムの心臓をその場に放り投げ、高く飛んで腕を矢の形に形成、ネフィリムを貫いた。それによって、凄まじい衝撃が辺りを包み、ネフィリムの身体は跡形もなく消え去り、翼たちを拘束していたノイズも消滅する。

 

「立花響の生命力の低下で、胸の中の聖遺物が・・・制御不全を引き起こした・・・それが・・・暴走の原因・・・」

 

暴走をする響を見てフォルテが脳裏に浮かび上がったのは、暴走するネフィリム・・・それを絶唱で止めたセレナの姿だ。それと重なって見えたフォルテは目を見開く。

 

「響ちゃん・・・」

 

「立花・・・」

 

「・・・なんだってんだ・・・?」

 

ちょうど気を失っていたクリスが気が付き、暴走する響に視線が向く。響は獣が如く、荒い息遣いをしている。

 

「ひぃ・・・ひぃぃぃ・・・!」

 

暴走する響にウェルは恐怖のあまり腰を抜かしている。暴れたりないのか響がまた動こうとした時、フォルテが羽交い締めで響を止める。

 

「フォルテさん⁉」

 

「お前・・・」

 

「何をしている!!止めろ!!こいつを止めるんだ!!」

 

敵であるにも関わらず、逃げることはせず、暴走する響を止めるフォルテの姿勢に日和たちは驚く。フォルテの言葉で自分たちのやるべきことを思い出し、日和たちも響を止めにかかる。

 

「よせ立花!!もういいんだ!!」

 

「お前、黒いの似合わないんだよ!!」

 

「お願い、響ちゃん!!正気に戻って!!」

 

暴れている響を4人は協力して何とか抑える。

 

「うわああああああああああ!!!!」

 

ウェルは恐怖のあまり、その場から逃げ出していった。

 

ガアアアアアアアアア!!!!

 

響が獣のような大きな咆哮を上げると、凄まじい衝撃が放たれる。4人はその衝撃を何とか耐えながら、響を抑え続ける。衝撃が収まると、辺りには大きなクレーターが出来上がり、暴走する響も、ギアを纏う前の姿に戻っていた。

 

「立花!!しっかりしろ立花!!立花!!」

 

「響ちゃん!響ちゃん!目を開けて響ちゃん!!」

 

気を失っている響に日和と翼は呼び掛けるが、ここで2人はあることに気が付く。失ったはずの左腕が、まるで何もなかったかのようにしっかりついていたことに。

 

(左腕は・・・無事なのか・・・?)

 

(いや・・・それよりも・・・響ちゃんは、本当に無事と言えるの・・・?)

 

2人が疑問を浮かべる中、暴走が収まったと判断したフォルテは手を離し、その場から去ろうと動く。

 

「おい待てよ!なんであたしたちを助けた⁉」

 

去ろうとするフォルテにクリスが呼び止めて質問をする。

 

「・・・別に君たちを助けたわけではない。今回の件はこちらの落ち度だ。僕はその露払いをした。それだけだ」

 

フォルテはそう答えて、4人に顔を向ける。

 

「次に会う時は、君たちを殺す時だ。それを肝に銘じておくのだな」

 

フォルテはそれだけを言い残してその場を去っていく。その場に残った3人は気を失った響の治療のため、急いで二課に連絡を入れた。

 

~♪~

 

任務失敗と判断し、エアキャリアへと歩きで帰還するフォルテは敵である響を助けた行為に、らしくないと考える。

 

(・・・本当は助けるつもりなどなかった・・・。これでは、マムに呆れられてしまうか・・・)

 

フォルテは目を閉じて、ナスターシャに言われたことを思い出す。

 

~♪~

 

時は遡り、フォルテがあの場に残り、他のメンバーがエアキャリアの中へ入ってく時。

 

「フォルテ、あなたに言っておき事があります」

 

「なんだ?」

 

エアキャリアに乗り込む前にナスターシャがフォルテに声をかけ、彼女は耳を傾ける。

 

「あなたはマリアたちと違い、人を殺すことに何の躊躇いもない。しかし、それでもあなたは優しさが目立ちます」

 

「・・・昼間の事か」

 

ナスターシャの言葉にフォルテは昼間に逃げ出した特殊部隊を見逃そうとしたり、ウェルによって炭素分解された野球少年たちを思い、彼を殺しかけたことを差して言っているのだとわかった。

 

「その優しさは、今日限りで捨ててしまいなさい。私たちには、微笑など必要ないのだから」

 

「わかっている」

 

ナスターシャの言葉にフォルテは深々と受け止め、口を開く。

 

「僕たちは、僕たちの成すべき使命を果たす。例えそれが悪なのだとしても、成就するべき悲願のためには、犠牲はやむを得ない。それだけだ」

 

「・・・わかっているのならばいいのです」

 

本人が理解しているのならば、これ以上言うことがないナスターシャは車椅子を操作してエアキャリアの中へと入っていく。エアキャリアはこの場にフォルテを残し、どこかへと移動していった。

 

~♪~

 

そして今、現在に至る。ナスターシャに釘を刺されてたにも関わらず、彼女は響たちを助けた。フォルテは6年前の悲劇を思い出し、拳を強く握りしめる。

 

「・・・それでも・・・それでも僕は・・・暴走によって何かの命が失われるのは、耐えられなかった・・・。そんな思いをするのは、・・・僕1人だけで十分だ・・・」

 

引き起した暴走を止め、失われゆく命をフォルテは知っている。暴走によって命が失われてゆき、誰かが辛い思いをするのは、フォルテにとっては許せないことだ。この思いを背負うのは、自分1人だけでいいと。それが響を助けた理由であり、今回日和たちに協力した理由である。思いふけっていると、フォルテの通信機に通信が入った。通信を入れたのは切歌と調だった。

 

『フォルテ!!やっと繋がったデス!!』

 

「どうした?」

 

『マムが・・・マムの容体が・・・』

 

「何っ⁉」

 

ナスターシャの容体が悪くなったと聞き、フォルテは目を見開く。緊急事態と感じ取り、彼女は急いでエアキャリアへと帰還していく。

 

~♪~

 

エアキャリアに帰還したフォルテはすぐにナスターシャの元へと向かう。

 

「マム!無事か⁉」

 

ナスターシャの元にはマリアが寄り添っており、ナスターシャは口もとには血がついていた。どうやらまた発作が起きて血を吐き、今度は意識まで失っているようだ。フォルテはナスターシャに近づき、彼女の容体を確認する。そしてすぐに切歌と調に指示を出す。

 

「暁、月読、ドクターをすぐに回収してきてくれ」

 

「!・・・あの人を・・・」

 

「でも・・・」

 

元よりウェルのことを快く思っていない切歌と調はかなり渋っている。

 

「今は選り好みをしている場合ではない。この程度の容体ならば僕とマリアで応急処置ができる。だが、より容態を安定させるには、ドクターの能力が必要不可欠だ。急を要する。急げ!!」

 

「・・・わかったデス!」

 

ナスターシャを助けたいのは2人も同じだ。ゆえに、今は気持ちを抑え、切歌と調はウェルの回収に向かった。

 

「・・・全ては・・・私がフィーネを背負いきれないから・・・」

 

「後悔を口にする前に手を動かせ!この人を失うわけにはいかない!」

 

「!え、ええ・・・」

 

マリアが自身の生半可な覚悟を抱いていたことに後悔していると、応急処置の準備をしているフォルテに叱咤され、すぐに行動を開始する。フォルテはナスターシャの手に触れる。

 

(マム・・・いやナスターシャ教授・・・あなたは僕に居場所を与えてくれた恩がある。なのに僕は、未だにその恩を返していない・・・。決してあなたを死なせはしない!例え悪魔に魂を売ってでも、あなたを救ってみせる!)

 

フォルテは、例えウェルに施しを受けることになっても、ナスターシャを助けようとする強い意志が宿っていた。

 

~♪~

 

気を失った響はメディカルルームへと搬送された。運ばれていく響を見て、弦十郎を含め、日和たちは響を心配する。特に翼は悔しさで拳を壁に叩きつけていた。

 

メディカルルームで治療を受けている響は夢を見ていた。もう見ることはなかった、あの忌まわしき日々を。

 

2年前のツヴァイウィングの事件・・・あの惨劇を生き残った響の生活は、まるで地獄のようだった。最初はみんなから心配されていたのだが、たまたま同級生のサッカー部のキャプテンが同じライブにいて、ノイズによってその子の将来を奪った。それをガールフレンドが響に向かって喚いたのがきっかけで同級生から陰口を言い放ち、陰湿ないじめを受けるようになった。家の方でもネットリテラシーのない一般市民からひどいバッシングを受けていて、しまいには石を投げつけ、ガラスを割られてしまうなんてこともあった。日和の実家の東雲総合病院で頑張ってリハビリをして元気になることで、母や、祖母が喜んでくれると思っていたが・・・それが逆に苦しめることになってしまうとは、何とも皮肉で、悲しい話だ。

 

~♪~

 

メディカルルームで眠っていた響は目を覚ました。目を覚ました響が首を横に振り向くと、未来からの手紙がベッドに置いてあった。

 

『早く元気になってね』

 

今の響が挫けることなくここまで来れたのは、間違いなく未来のおかげだろう。彼女がいなければ、きっと違う未来を歩んでいただろう。だが、心に受けた傷は、どれほど時間が経とうと、心に残り続ける。

 

(・・・私のやってることって、調ちゃんの言うように、偽善なのかな・・・?私が頑張っても、誰かを傷つけて、悲しませることしかできないのかな・・・?)

 

響がそこまで考えると、2年前の傷跡に何か違和感を感じ取った。なんだろうと思い、響は起き上がり、傷跡に触れた時、何かが落ちてきた。

 

「え・・・?瘡蓋・・・?」

 

それは瘡蓋であった。響自身の身体に変化が起きている・・・それは、この瘡蓋が証明している。だが響は、そのことに気づくことはなかった。




フォルテの夜食

マネージャー業務を務めている彼女の仕事は常に忙しい。そのために夕食をとることがままならない日もある。そういう日には調が夕食をとっておいてくれている。だがフォルテは夜食に日本のインスタント麺を作って、調の作ったおかずを麺のトッピングにして食べていることが多い。作ったおさんどんを普通に食べてくれないのと、保存していたインスタント麺を勝手に食べたことに対して、調はよくフォルテを叱っている。その時のフォルテはいつもこう呟く。

「何故だ・・・」

その時の彼女の瞳は若干涙目であった。(義眼からは涙は出ない)
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