スカイタワーの上階が爆発した。そして爆発した階には未来がいた。この爆発に未来は巻き込まれたと考えるのが妥当だ。少なくとも、自ら彼女の手を放した響はそう思っている。
「未来・・・」
手を放してはならなかった手を放してしまった響が浮かび上がるは、未来と過ごした今までの記憶だ。
「なんで・・・こんなことに・・・」
未来を助けられなかった響は悲しみ、膝を地につけ、涙を流す。悲しみの心からギアを維持できず、元の服装に戻っていく。悲しみにくれようがくれまいがノイズはお構いなしに響に襲い掛かってくる。煙から飛び出してきた飛行型ノイズは彼女の辺りの地に突き刺さる。そして最後の1体が響を貫こうとした時、赤いエネルギーの矢がノイズを貫き、地に突き刺さるノイズは棍による打撃、刀による斬撃で消滅する。翼、日和、クリスが駆け付けてくれたのだ。
「立花!!」
「翼さん!響ちゃんをお願いします!行くよ、クリス!」
「おう!」
日和は響を翼に託し、クリスと共にノイズ殲滅に向かう。ノイズは日和とクリスに向かって突進してきた。日和は突進してきたノイズに向かって棍を槍投げのように投擲する。投擲した棍棒は分裂し、突進してくるノイズに向かっていく。
【才気煥発】
続いてクリスは小型のミサイルが搭載されたユニットを展開し、発射され、小型ミサイルはノイズへと向かっていく。
【MEGA DETH PARTY】
小型ミサイルはノイズに直撃して爆発し、分離した棍もまた、ノイズに直撃するタイミングで爆発した。突進してきたノイズは爆発したが、他の飛行型ノイズがさらに突っ込んできた。日和は左手首から棍を取り出し、クリスを守るように棍を振るい、ノイズを倒していく。
(少しずつ何かが狂って、壊れていきやがる・・・あたしの居場所を蝕んでいきやがる!!)
クリスは二丁ボウガンをガトリング砲に変形させ、狙いを飛行型ノイズに定める。
【BILLION MAIDEN】
日和は飛行型ノイズに蹴りを入れ、その反動でクリスの射程距離から離れる。日和が射程距離から離れたのを見計らい、クリスがガトリング砲をノイズに向かって乱射し、次々と撃墜していく。
(やってくれるのはどこのどいつだ!!)
「クリス!!そっちに行ったよ!!」
(お前か!!?)
低空を飛行するノイズがクリスに向かって突進してきている。クリスは跳躍して躱し、ガトリング砲を乱射してノイズをハチの巣にする。
(お前らか!!?)
着地と同時にクリスはこちらに突進してくるノイズに向けてガトリング砲を乱射してさらにノイズを撃墜していく。日和は右手首のユニットを回転して、新しい棍を取り出し、左手の棍と連結する。そして棍を回転させて突風の竜巻を創り出して突進してくるノイズに放つ。
【疾風怒濤】
竜巻はノイズを巻き込ませていき、次々とノイズを切り刻んでいく。
(ノイズ!!あたしがソロモンの杖を起動させてしまったばっかりに!!・・・なんだ・・・悪いのは全部あたしのせいじゃねぇか・・・。あたしが・・・!!)
クリスは自分がやってしまったことの後悔の思考を抱きながら大型飛行ノイズに狙いを定め、大型ミサイルを展開する。
【MEGA DETH FUGA】
大型ミサイルは点火し、大型飛行ノイズに向かっていき、そのまま直撃して爆発した。これで全てのノイズを殲滅できた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・クリス?」
全力を出し切ったクリスは汗をかき、乱れた息を整えている。そしてその表情はどこか、後悔が入り混じっている。その様子を見た日和はクリスを心配している。
~♪~
ノイズを全滅し、事態の収拾のために二課と警察が同時に動いている。弦十郎も現場に来ており、レシーバーで部下に指示を出す。そこに緒川がやってきて、調べた情報を伝える。
「米国政府が?」
「間違いありません。F.I.Sと接触し、交渉を試みたようです」
「その結果がこの惨状とは・・・交渉は決裂したと考えるのが妥当だが・・・」
「ただ、どちらが何を企てようと、人目につくことは極力避けるはず」
「F.I.Sや米国が結びつくことを良しとしない、第3の思惑が横紙を破ったか・・・」
最も考えられる推測に弦十郎は目を伏せる。二課と警察が動いている中、響は二課の車の中にいた。ただ、彼女の顔は、未来を失ったことにより、心ここにあらずといった様子だ。
(絶対に放しちゃいけなかったんだ・・・未来と繋いだこの手だけは・・・)
響は未来の手を放してしまったことを後悔し、自身の手を握る力が強くなる。
「温かいものどうぞ。少しは落ち着くから」
そこへ友里が開いた窓から温かい飲み物を差し出す。響はそれを両手で受け取るが、飲めるような心境ではなかった。さらに言えば、彼女は悲しみから身体が震えていた。
「響ちゃん?」
「・・・でも、私にとって1番温かいものは、もう・・・どこにも・・・」
守りたかった陽だまりを守れなかった・・・その悔しさ、悲しみで響は涙を流し、泣いた。
~♪~
夕方ごろ、エアキャリアに帰還したマリアは、スカイタワーでの出来事を思い返し、人の命を守れなかったこと、そして、自らも血で汚してしまったことを悔やみ、窓に拳を叩きつけた。
「この手は血に穢れて・・・。セレナ・・・私はもう・・・」
マリアは声をあげて泣いた。そんなマリアの様子を心配している調と切歌。
「マム、フォルテ、教えて。いったい何が・・・」
「「・・・・・・」」
調が尋ねても、ナスターシャとフォルテは何も答えない。
「それは僕からお話ししましょう」
そこへ、スカイタワーの惨状を生み出した張本人であるウェルがやってきて、2人の代わりに事態を話した。
「ナスターシャは10年を待たずに訪れる月の落下より、1つでも多くの命を救いたいという崇高な理念を米国政府に売ろうとしたのですよ」
ウェルに告げられた事実に調と切歌は信じられない気持ちになっている。
「・・・マム?」
「本当なのデスか?」
「それだけではありません。マリアを器にフィーネの魂が宿ったというのも、とんだでたらめ。ナスターシャとフォルテ、マリアが仕組んだ狂言芝居」
告げられた真実にフォルテは目を閉じ、マリアは調と切歌に謝罪する。
「・・・ごめん・・・。2人とも・・・ごめん・・・」
「マリアがフィーネでないとしたら、じゃあ・・・」
切歌がマリアに質問しようとした時、ウェルが遮って話を進める。
「僕に計画を加担させる為とはいえ、あなたたちを巻き込んだこの裏切りは、あんまりだと思いませんか?せっかく手に入れたネフィリムの心臓も無駄になるところでしたよ」
「一般人すらを巻き込む君の強行に比べれば、かわいいものだと思うがな」
ウェルの皮肉に動じず、フォルテは口を開いた。それに対して彼は皮肉めいた笑みを浮かべる。
「ほおぉ~?では数多の命を奪ってきたあなたはどうなんです?フォルテ・・・いやトレイシー・テレサ」
「・・・トレイシー・テレサ?」
ウェルはもはやフォルテにさん付けをしないどころか、別の名を口にした。聞き覚えのない名が出てきて、調と切歌は首を傾げる。この名はフォルテに向けて告げられている。
「それが、かつてバルベルデの反乱軍に所属してたフォルテの本名ですよ」
「・・・その名はとっくの昔に捨てた。今ここにいるのはフォルテ・トワイライト・・・それだけだ」
フォルテは自身がトレイシー・テレサだというのは否定はしていないが、別人として扱っている。
「おや?開き直っちゃうんですかぁ?」
「弁解する気はない」
「けっ!澄ましちゃって・・・これだから殺人鬼は・・・」
ウェルはフォルテに悪態をつくが、彼女は気にした様子はない。次々告げられる事実に調と切歌は頭が混乱してくる。
~♪~
スカイタワー近くの河川敷でも二課と警察の捜査は続いていた。その様子を遠くで見つめている日和。後で合流してきた海恋が日和に声をかける。
「日和、これ以上は邪魔になるわ。早く行きましょう」
「・・・どうしてこんなことになるのかなぁ・・・」
「日和?」
日和は遠くを見て呟き、その呟きに海恋は首を傾げる。
「ただでさえ響ちゃんが大変だって時に、今度は未来ちゃんが死んじゃった・・・。どうしてこうも悲しいことばっかり続くんだろう・・・」
「日和・・・」
「私・・・小豆と玲奈が死んだ時と全然変わってない・・・。急げば助けられたはずなのに・・・。なのに・・・未来ちゃんが・・・」
今にも泣き出しそうな日和に海恋は彼女の両肩を掴む。
「何も変わってないわけないじゃない。現にあなたは、私をノイズから守ってくれたじゃない。あなたがいなかったら、私はとっくに死んでた。あなたはベストを尽くしてる。だからあなたは何も悪くない。だからそう自分を責めないで」
海恋は日和を励ましているが、そんなことで日和の気持ちは晴れない。
「・・・でも・・・未来ちゃんは・・・」
「日和・・・ん・・・?」
海恋はどうすればいいか悩んでいると、河川敷に何かが沈んであることに気づいた。海恋はすぐに何が沈んであるかを確かめに向かう。
「海恋?」
「あ、こら!君!勝手に入っちゃ・・・」
捜査員が止める声を聞かず、海恋は川に近づき、沈んであったものを回収した。それは、壊れてしまった二課の通信端末であった。
「これは・・・!」
この壊れた通信端末を見て、これの持ち主が誰かというのに気が付いた。そして、この壊れ方を見て、ある可能性も浮かび上がった。
「日和!!今すぐに弦十郎さんに連絡を!!」
「え?え?え?」
日和は何が何だかわからず、戸惑っている。
「小日向さんは・・・死んでないかもしれない!!」
「えっ!!?」
未来が生きている・・・その可能性を聞いた日和は驚いた顔をし、すぐに弦十郎に連絡を入れるのであった。
~♪~
夜の9時、クリスはファミリーレストラン、イルズベイルが気に入ったのか、ここに翼を連れてきている。翼は何も注文していない中、クリスは口の汚れを気にせずにパスタを食べている。
「何か頼めよ。奢るぞ?」
「夜の9時以降は食事を控えている」
ただでさえ機嫌が悪い翼だが、何の用で呼ばれたかわからない翼はさらにご立腹だ。
「そんなだからそんななんだよ」
「何が言いたい!用がないなら帰るぞ!」
「・・・怒ってるのか?」
「愉快でいられる道理がない。F.I.Sの事、立花の事・・・何より・・・仲間を守れない私の不甲斐なさを思えば・・・!」
翼の言い分は最もだ。敵の動きを気に掛けるのはもちろんのことだが、仲間たちの不幸が立て続けに起こっているのだ。気も張りつめてしまうのも無理はない。
「・・・呼び出したのは一度一緒に飯を食ってみたかっただけさ。腹を割っていろいろ話し合うってのも悪くないと思ってな」
クリスはパスタを食べ終え、フォークを皿においてつまようじを取り出す。
「あたしらいつからこうなんだ?目的は同じはずなのに、点でバラバラになっちまってる。もっと連携を取りあっ・・・」
「雪音」
クリスの話を翼が真剣な声質で遮った。
「腹を割って話すなら、いい加減名前ぐらい呼んでもらいたいものだ」
「はあ!!?」
クリスは頬を朱に染めて驚愕するが、翼の言葉も一理ある。確かにクリスは今日まで、誰にたいしても名前で呼ぼうとはしない。普段相棒と呼んでいる日和にたいしてもそうだ。信頼はしているのだが、照れの方が勝ってしまい、誰かの名前を呼ぶことは、クリスにはやっぱり抵抗があるようだ。
「そ、それは・・・おめぇ・・・」
クリスが言いよどんでいる間にも翼はヘルメットを持って店を出て行ってしまう。
「あ!ちょっ・・・。・・・はぁ・・・結局話せずじまいか・・・。相棒みてぇにはいかねぇなぁ・・・。・・・でもそれでよかったのかもな・・・」
クリスは何とも言えないような表情で、コーヒーを啜る。
「・・・にっがいなぁ・・・」
今の言葉は、コーヒーの味に対してか、それとも現在の状況かと問われると・・・それは、両方なのであろう。
~♪~
エアキャリア内で、調と切歌は混乱しっぱなしだったが、少しずつ落ち着いてきた。だが不穏な空気が抜けたわけではない。
「マム・・・マリア・・・フォルテ・・・ドクターの言ってることなんて、嘘デスよね・・・?」
切歌の問いかけにマリアが答える。
「本当よ。私がフィーネでないことも、人類救済の計画を一時棚上げにしようとしたこともね」
「そんな・・・」
信じられない気持ちでいっぱいになる2人にフォルテが口を開く。
「マムは、フロンティアの情報を米国政府に供与し、協力を仰ごうとした。僕はそれに賛成した」
「だって、米国政府とその経営者たちは自分たちだけが助かろうとしてるって・・・」
「それに!切り捨てられる人たちを少しでも守るため、世界に敵対してきたはずデェス!」
「恩師の想いに応えたい。そう思うのは至極当然のこと。違うかい?」
「「それは・・・」」
ナスターシャを思うフォルテの嘘偽りない言葉、そしてフォルテ自身の優しさを知っている調と切歌は言葉を詰まらせる。
「だがその思いは、この男に踏みにじられたがな」
「・・・あのまま講和が結ばれてしまえば、私達の優位性は失われてしまう・・・。だからあなたは、あの場にノイズを召喚し、会議の場を踏みにじってみせた・・・」
名指しされたウェルのメガネは光を反射し、彼は笑みを浮かべる。
「嫌だなぁ、悪辣な米国の連中からあなたを守って見せたというのに・・・このソロモンの杖で・・・!」
ウェルはナスターシャに杖の先端を向けさせた。フォルテは誰よりも早く動き、ウェルの手を蹴り上げてソロモンの杖を引きはがす。
「なっ・・・!!?」
「今ここで君の命を奪ってもいいのだぞ?スカイタワーで失われた命のように」
フォルテはウェルから引き離されたソロモンの杖を回収しようとすると、マリアが彼女の前に立ちふさがる。
「・・・マリア。どけ」
「いいえ、どかないわ」
「・・・君のその行為は、ドクターを援助すると捉えてもいいのか?」
フォルテの問いかけにマリアは無言で首を縦に頷いた。フォルテはいつも通りの無表情だが、調と切歌は動揺している。
「マリア?」
「ど、どうしてデスか!!?」
「は・・・はははは!そうこなくっちゃあ!」
フォルテに反撃されて内心ビビったものの、嬉しい展開にウェルは笑う。
「偽りの気持ちでは世界は守れない。セレナの思いを継ぐことなんてできやしない。全ては力。力を持って貫かなければ、正義を成すことなんてできやしない!世界を変えていけるのはドクターのやり方だけ!ならば私はドクターに賛同する!!」
マリアの決意に対し、フォルテは本当に覚悟があるのかどうか、強い睨みで試した。いかにも殺しそうな殺意の視線・・・マリアはその視線に耐えることこそが、覚悟を証明できるとし、冷や汗をかきつつ、まっすぐに見つめる。2人の衝突に、ウェルは怪しく笑う。
「・・・そんなの嫌だよ・・・。だってそれじゃあ、力で弱い人たちを抑え込むってことだよ・・・」
マリアが出した決断に調は賛同したくはない。切歌はそんな調に視線を向けた後、2人の衝突に視線を戻す。
「・・・どちらにせよ、真なる平和を導くにも、フロンティアの封印解除にも、今はドクターの知恵が必要不可欠か・・・。いいだろう。君の覚悟は見届けた。ドクターの企みに、1枚かもう」
「そんな・・・」
マリアの覚悟は本物とし、フォルテはいつもの無表情に戻り、ウェルの肩を担ぐことを決めた。
「ただし、目的が果たせればその男は用済み・・・後のことは僕の好きにさせてもらう。構わないな?」
「ええ」
(ちぃ・・・!さすがはフォルテ・・・さすがに忘れてはくれませんか・・・!)
フォルテは宣言通りに目的達成の後はウェルを処刑するつもりでいる。フォルテの言葉にマリアは了承する。ある意味でフォルテを認めているウェルは冷や汗をかいている。
「・・・わかりました。それが偽りのフィーネでなく、マリア・カデンツァヴナ・イヴの選択なのですね?」
ナスターシャの問いかけに、マリアは沈黙で答えた。この沈黙が、肯定を意味していると、ナスターシャには理解できた。
「ゴホッ!ゴホッ!」
「!マム!」
ナスターシャは発作が起きて咳き込み、フォルテは彼女に駆け寄る。マリアも駆け寄ろうとしたが、それでは覚悟を証明した意味が無駄になると思い、踏みとどまった。
「大丈夫デスか⁉」
調と切歌もナスターシャの容体を心配する。その間にもウェルはソロモンの杖を回収する。
「後のことは僕に任せて、ナスターシャはゆっくり静養してください。さて、計画の軌道修正に忙しくなりそうだぁ。来客の対応もありますからねぇ~」
計画の主導権がナスターシャからウェルに変わった。その事実で喜びが隠しきれていないウェルはそう言って部屋を後にした。
トレイシー・テレサ
バルベルデ共和国の反乱軍に所属していたフォルテの本名。赤ん坊の頃から両親はすでに他界しており、反乱軍の人間がその名を与え、1人の兵士として育て上げた。ある作戦の最中に彼女は仲間に裏切られ、手ひどい大怪我を負った。そんな状況ながら拠点に戻ってみると、彼女はすでに死亡扱いされていた。天涯孤独の身となり、バルベルデを彷徨っていた時にF.I.Sの人間に拉致された。F.I.Sに連れてこられ、彼女を気遣っていたナスターシャが新たな名を与えた。それがフォルテ・トワイライトだ。ナスターシャによくしてもらったナスターシャの恩義に報いるため、彼女はかつてのトレイシー・テレサを捨て、フォルテ・トワイライトとして生きることを選んだ。