「・・・はっ!!」
気絶していた日和が目を覚ますと、二課の潜水艦の個室の天井が広がっていた。目線で周りを見回すと、海恋がいた。
「日和!目が覚めたのね!」
「・・・海恋?ここは・・・」
「あなたの個室よ。目が覚めてよかった・・・」
「私の個室・・・?」
日和は気絶する前に自分が何をしていたのかを振り返り、クリスに気絶させられたことを思い出す。
「そっか・・・私クリスに・・・。てことは、マリアさんたちのところに寝返った・・・のかな・・・ははは・・・」
「日和・・・」
日和が苦笑いを浮かべていると、それ以上に気になったことを思い出した。
「!海恋!響ちゃんと未来ちゃんは⁉」
日和の問いかけに海恋はにっこりと微笑む。
「安心して。2人とも無事よ。約束通り、2人はちゃんと戻ってきたのよ」
「そっか・・・よかった・・・」
響と未来がちゃんと生きて戻ってきてくれて日和は心の底から安心する。海恋は日和にクリスのことについて質問をする。
「ねぇ日和・・・クリスは・・・あなたに何か言ってた?」
「・・・うん。これがあたしの答えって・・・よくわからないことを・・・」
「そう・・・」
「でも・・・でも私は・・・クリスが何の意味もなく寝返るなんて思えない」
日和はスカイタワーで見せたクリスの責任を感じる顔を今も覚えている。責任感が強い彼女だからこそ、寝返ったからには何か意味があると考えている。
「それで?」
「私は・・・クリスを信じる。だってクリスは、私たちの友達だもん」
日和はクリスを信じ続けることを海恋に伝える。海恋は少し呆れつつも、日和らしいと笑みを浮かべる。
「てっ・・・何の説得力もないよね。他に何て言えばいいかわからないし・・・」
「いいんじゃない?とてもシンプルでわかりやすい。あの石頭もたじろぐわよ」
日和と海恋は共に笑いあい、会話に華を咲かせている。そこへ、緒川が入室してきた。
「日和さん。目が覚めたのですね」
「緒川さん!おかげさまで!」
緒川は日和が目が覚めてほっと安心し、すぐに気持ちを切り替えて本題に入る。
「海恋さん、少し席を外していただけませんか?日和さんにお伝えしたいことがありまして・・・」
「え?でも・・・」
「海恋、お願い」
緒川のお願いに海恋は少し渋っていたが、日和の真剣みな表情を見て、何かわけがあると気づく。
「わかったわ。私、小日向さんのところに行ってるわね」
「うん」
海恋は日和の個室を退室し、メディカルルームへと向かう。この個室に残っているのは、日和と緒川だけだ。
「緒川さん、もしかして・・・」
「はい。フォルテさんの調査が終わりました。どうやら彼女はかつて、バルベルデ共和国の政治に反発する反乱軍に属していたようです」
「バルベルデって・・・確かクリスのお父さんとお母さんが亡くなった・・・」
緒川は何かの資料を懐から取り出し、日和に渡した。
「これは?」
「バルベルデで亡くなられた方のリストです。中を開いてみてください」
日和はどうやってそんなリストを手に入れたのか疑問に思ったが、ひとまず資料を開いてみる。資料には亡くなった人間の顔写真とその人物の詳細が載ってある。ページをめくり続けると、見覚えのある人物の顔写真が出てきた。両目の瞳が緑色で幼さがかなりあるが・・・その顔は見間違えるはずもない。写っているのはF.I.Sに所属しているフォルテであった。
「え?この子は・・・。でもフォルテさんは確かに生きて・・・。それに、このトレイシー・テレサって・・・」
「それが彼女の本名なのでしょう。具体的な詳細はわかりませんが、表向きではバルベルデの作戦に参加し、彼女は戦死したことにされていたようです」
緒川が調べてくれた情報で、日和は真なる平和が何を意味しているのか・・・少しだが、わかってきたような気がした。だが肝心のフォルテが真なる平和を求める理由が曖昧なのだ。戦争をなくすというのはもちろん入っているだろうが・・・日和にはどうもそれだけじゃないように思える。
「マリアさんたちなら、何か知ってるかなぁ・・・?」
「そのことなのですが・・・実は、日和さんが未来さんを追ったすぐ後、僕は月読調さんをここに収容しました。今はここの独房にいます」
「えっ!!?本当ですか!!?」
「僕はちょうど、彼女に話を聞こうと思うのですが・・・どうしますか?」
調がここに収容されていると聞いて驚いたが、日和にとってかなり都合がいい。調ならばフォルテについて何か知っている・・・真なる平和を求める理由を知っているはずだと。
「私に取り調べをさせてください!!フォルテさんの仲間なら・・・きっと何か知ってるはずです!フォルテさんが、真なる平和を求める理由も!」
日和は調の取り調べを自分にやらせてほしいと緒川に頭を下げて頼み込む。
「・・・日和さんならそう言うと思っていました」
緒川はそう言って、懐から調がいる独房の鍵であるカードキーを日和に渡した。
「後のことはお願いしますね」
「緒川さん・・・私の個人的なお願いに付き合ってもらって、ありがとうございます!」
日和はカードキーを受け取り、緒川に頭を下げてお礼を言い、調のいる独房へと向かっていく。そんな日和の姿を見て緒川は微笑ましい笑みを浮かべた。
~♪~
ブリッジにて、現れた島、フロンティアの姿の確認作業を行う藤尭。
「映像回します!」
フロンティアの姿はモニターで見ても、とても巨大であるのがわかる。
「これが・・・F.I.Sの求めていたフロンティア・・・」
「海面に出ている部分は全体から見てもほんの一部・・・フロンティアと呼ばれるだけのことはありますね・・・」
ヴー!ヴー!
ブリッジ内に警告音が鳴り響く。モニターでその正体を確認してみると、新たな米国の艦隊が接近してきている。
「新たな米国所属の艦隊が接近しています」
「第二陣か・・・」
艦隊が近づいてきたと同時に、日本政府からの通信が入った。この状況で通信を入れてくれるのは斯波田以外にはいない。斯波田は以前の通信と同じようにそばを啜っている。
『まさか、アンクル・サムは落下する月を避けるためフロンティアに移住する腹じゃあるめぇな?』
「我々も急行します」
斯波田にそう伝えた弦十郎はすぐにオペレーターに指示を出し、事態の収束のために出現したフロンティアへと向かうのだった。
~♪~
メディカルルームでは神獣鏡から解放された未来が治療を受けていた。目立った外傷はないが、念のためだ。治療を終え、今は大人しくしている未来。そんな時に響、翼、海恋、友里が入室した。
「未来ーー!!」
響は未来にすぐさまに抱き着いた。大切な親友が戻ってきたのだ。その喜びは誰よりも強い。
「小日向の容態は?」
「LiNKERの洗浄も完了。ギア強制装着の後遺症も見られないわ」
「ほっ・・・何もなくてよかった・・・」
「よかったぁ~!ほんとによかったぁ~!」
後遺症も何も残っていないようで、響は満面な笑みで安心している。海恋も安心しており、翼も軽く微笑みを見せている。
「・・・響・・・その怪我・・・」
操られていた中でも、未来は自分が何をしていたのかをしっかりと覚えており、響の怪我を気にしている。当の響は何ともないように答える。
「うん」
「・・・私の・・・私のせいだよね・・・」
未来は口もとに手を当て、涙を流している。大切な親友を守るどころか、傷つけてしまった。未来はそれで自分を責めている。
「うん!未来のおかげだよ!」
「え・・・?」
「ありがとう、未来!」
「響・・・?」
「私が未来を助けたんじゃない・・・未来が私を助けてくれたんだよ!」
響の言っている意味がわからない未来は疑問符を浮かべている。友里が未来の疑問を答えるように、響のレントゲン写真を未来に見せる。以前までのレントゲン写真にはガングニールの破片がしっかりと残っていたのだが、今見せている写真にはそれが一切見られない。まるで最初から破片などなかったかのように。
「これ・・・響・・・?」
「あのギアが放つ輝きには聖遺物由来の力を分解し、無力化する効果があったの。その結果、2人のギアのみならず、響ちゃんを蝕んでいたガングニールの欠片も除去されたのよ」
「ふぇ・・・?」
「小日向さんの立花さんを守りたいって強い思いが、死に向かっていく立花さんの命を救ってくれたのよ」
「私がホントに困った時、やっぱり未来は助けてくれた!ありがとう!」
「私が・・・響を・・・!」
「うん!」
過程がどうであれ、守りたかった響がこうして助かり、生きている。それを成したのが未来。それを聞いて未来は笑顔を見せてくれた。
(・・・でも・・・それって・・・)
だがそれと同時に、響はもう、シンフォギア装者ではなくなった。その事実に未来は顔を俯かせている。
「力があったとしても、命を蝕んでしまうものなら、ない方がいいもの。立花さんを助けたんだから、もっと胸を張っていいのよ」
「海恋さん・・・」
海恋は顔を俯かせる未来を自分なりに励ましている。
「だけど、F.I.Sはついにフロンティアを浮上させたわ。本当の戦いはこれからよ」
「F.I.Sの企みなど、私と東雲の2人で払ってみせる。心配など無用だ」
「・・・2人?」
翼の言葉を聞いて未来はこの場に日和とクリスがいないことに気が付いた。
「そういえば、日和さんとクリスは・・・?」
「日和なら今月読さんのところに行ってるわ」
「・・・クリスちゃんは・・・」
未来の問いに海恋は日和の居場所を伝えた。そして響は・・・クリスが今二課にはいないことを告げた。
~♪~
エアキャリアを浮上してきたフロンティアに止め、マリアたちはフロンティアの中枢区へと向かっている。その中には・・・二課を裏切ったクリスがいた。
「こんなものが海中に眠ってたとはな・・・」
これほど巨大な島が海の中に封印されていたことにクリスは多少ながらも驚いている。
「あなたが望んだ新天地ですよ」
クリスはフロンティアの建築物を見て、自分がしたことを思い返す。
~♪~
そもそもなぜクリスがマリアたちの元にいるのかは・・・それは、クリスが日和を気絶させた後、フロンティアが浮上してきた時に遡る。
「いったい何が・・・?」
突如として現れたフロンティアに翼が驚愕している時・・・
バァン!バァン!バァン!
クリスが翼の背後に立ち、彼女をアームドギアの銃で撃ったのだ。クリスが仲間である翼を撃ったことに切歌は驚愕している。
「なっ・・・⁉」
「くっ・・・雪音・・・⁉」
「・・・さよならだ」
バァン!
そう言ってクリスは翼に向けて銃をもう一発撃ち放った。これによって翼は気を失ってしまう。その後にクリスは切歌にマリア側に付きたいと言い出したのだ。
「仲間を裏切って、私たちに付くというのデスか⁉」
「こいつが証明証代わりだ。向こうにいる相棒も沈めてきた」
「しかしデスね・・・」
切歌はクリスには何か裏があるのではとかなり渋っている様子だ。
「力を叩き潰せるのは、さらに大きな力だけ。あたしの望みは、これ以上戦果を広げない事。無駄に散る命を一つでも少なくしたい」
クリスの言葉を聞いて、切歌はひとまずはクリスの言葉を信じ、自分たち側に引き入れることを選んだ。
~♪~
そして今に至るというわけだ。とはいえ、クリスの出した答えに、迎え入れたとはいえ、マリアたちも疑っている。ゆえに簡単には信用できない。
「本当に私たちと一緒に戦う事が、戦火の拡大を防げると信じているの?」
「ふん、信用されてねえんだな。気に入らなければ鉄火場の最前線で戦うあたしを後ろから撃てばいい」
「無論そのつもりだ。僕たちは君を信じたわけではない。使えると思ったから迎え入れている。それを忘れるな」
特にフォルテはいつ裏切ってもおかしくないと思い、常にクリスを警戒している。
「着きました。ここがジェネレータールームです」
話している間にも目的であるジェネレータールームに到着した。中央には祭壇のように奉られている球体の巨大な建造物があった。
「なんデスかあれは・・・?」
切歌の問いには答えず、ウェルは祭壇に近づき、トランクケースよりネフィリムの心臓を取り出す。ウェルはネフィリムの心臓を球体に押し付ける。するとネフィリムの心臓は血管が伸びていき、球体に繋がった。そしてその瞬間、球体は黄金色に輝きだし、フロンティアが起動した。
「ネフィリムの心臓が・・・」
「心臓だけとなっても聖遺物を食らい、取り込む性質はそのままだなんて・・・卑しいですねぇ・・・ひひひ・・・」
ウェルは下卑た笑みを浮かべる。フロンティアが起動した瞬間、島の大自然が復活したかのように、緑が生い茂る。
「エネルギーがフロンティアに行き渡ったようですね」
「さて、僕はブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ先生も制御室にて、フロンティアの面倒をお願いしますよ」
ウェルはナスターシャにそう告げて、フロンティアのブリッジへと向かっていく。切歌は輝く球体を見て、調が言った言葉を思い返す。
『ドクターのやり方では、弱い人たちを救えない・・・』
「・・・そうじゃないデス・・・フロンティアの力でないと、誰も助けられないデス・・・。調だって助けられないデス!!」
切歌のその言葉を聞いて、フォルテは目を閉じ、ただ1人フロンティアの外へと向かっていく。
「・・・いよいよだ・・・セレナ・・・。いよいよ・・・君の望む真なる平和が実現する。その時こそ・・・僕の役目は・・・終わりを迎える」
外に出たフォルテは空を見上げ、自身の手を見つめ、そう呟いた。
~♪~
二課の潜水艦の独房で、調は手錠をかけられ、大人しくしていた。独房といっても思っているようなものではなく、部屋は清潔で不快感など全く感じられないような至って普通の部屋である。どうすれば暴走した仲間を止められるのか・・・調はそのことばかり考えている。そんな時、部屋のロックが解除される音が聞こえてきた。そちらに視線を向けていると、日和が部屋に入ってきた。
「や。調子はどうかな?」
「あなたは・・・」
のほほんとした様子で入ってきた日和は調に近づき、彼女のシンフォギアのネックレスを外す。
「悪いけど、これはこっちで預からせてもらうね」
日和は調のシンフォギアのネックレスを自分のポケットの中にしまった。
「・・・お願い・・・みんなを止めて・・・」
「え?」
「・・・助けて・・・」
調は今にも泣きそうな様子で、そう縋るような思いで頼みこんできた。調の泣きそうな表情を見て、日和は笑みを浮かべて、持ってきたベースを取り出す。まずは調の気持ちを落ち着かせようと思ったからだ。
「・・・調ちゃん。まずは、私の演奏を・・・聞いてくれる?」
「え・・・?」
調は日和がどうしてここで演奏しようとするのかわからなかった。日和はそんな調の疑問を無視して調の隣に座り、ベースを弾く体制になる。
「こほん・・・えー、それじゃあ・・・聞いてください。生きる道のり」
日和はベースを軽く叩く音を合図にして、演奏を始め、歌い始めた。
「~~♪~♪」
「・・・っ!」
日和の歌声を聞いて、調は日和の歌に魅了し始めた。美しい歌声、楽しそうに歌う顔・・・そして何より、歌に込められたフレーズ。歌の中には・・・差別も弊害もなく、誰もが平等に生きてほしいという願いが込められている。調は日和の歌の何もかもが、魅了された。日和は歌い終え、語り始める。
「・・・私ね、2人の友達がいたんだ。大切な友達で、大切なバンドメンバーだったよ。私が今こうしていられるのは、2人が私を守ってくれたからなんだ。でも、その代償として、2人は死んじゃった・・・しかも、私の目の前で」
「・・・・・・」
調は日和の語りに驚かずに聞いている。まるで、最初から知っているかのように。
「そんな2人にね、約束されたんだ。生きてってさ。2人だけじゃないよ。今も生きてる友達にも、それから・・・お世話になった人にも。でもその約束は、私だけが生きるっていうのは、ちょっと違うと思うんだ」
「・・・どういうこと?」
「調ちゃんたちに大切な人たちがいるように、私にも大切な人たちがいる。その大切な人たちと一緒に、笑いあったり、悲しみあったり、泣いたり、そして喜びを分かち合う。それが、私にとっての、生きるっていう意味で・・・果たすべき約束なの。だから私は、調ちゃんにもそういう意味で、ちゃんと生きてほしいって思ってるんだ。もちろん、切歌ちゃんもマリアさんも・・・それに、フォルテさんだって」
日和の言葉を聞いて、調は笑みを浮かべる。
「・・・ちゃんと守ってくれてるのね。安心したわ」
「へ?」
調の守ってくれてるの言葉の意味が理解できず、多くの疑問符を浮かべる日和。
「・・・私の知ってること、全部話す。だから・・・みんなを・・・フォルテを止めて」
そう言って調は自分の知っていることを、憶測も交えながら日和に話した。
~♪~
調との話を終えた日和はブリッジに向かい、弦十郎に調のシンフォギアのネックレスを渡し、聞いた話を報告する。
「助けてほしい・・・そう言ったのか?」
「はい。目的を見失って暴走する仲間を止めてほしいって」
「うぅむ・・・」
調の話を聞いて、日和は絶対にマリアたちを・・・フォルテを止めなくてはいけないという思いが強くなっている。それゆえなのかいつにもまして真剣な表情だ。2人が話していると、未来、響、翼、海恋、友里が入ってきた。
「未来ちゃん!身体はもういいの?」
「はい。いてもたってもいられなくなって・・・」
「クリスちゃんがいなくなったって聞いて、どうしてもって・・・」
未来にとってクリスも大切な友達なのだ。そんな彼女がいなくなったと聞いて、大人しくしてるわけにはいかなかったのだろう。
「確かに響君とクリス君が抜けた事は、作戦遂行に大きく影を落としているのだが・・・」
「でも、翼さんに大事がなかったのは本当に良かった。致命傷を全て躱すなんて、さすがです」
友里の言うとおり、翼はクリスに撃たれ、頭に包帯が巻かれているが、致命傷といえる傷は負っていない。翼と海恋はどうにもそこが引っ掛かる。
(躱した・・・?あの状況で雪音の射撃を躱せるものか。だとしたら・・・あれは・・・)
(日和・・・あなたの勘、まったく間違ってないかもしれないわ・・・)
クリスはあえて致命傷を外したと考え、何か裏があってマリアたちに付いた・・・そう考える翼と海恋。
「フロンティアの接近、もう間もなくです!!」
二課の潜水艦はフロンティアにまで近づいている。決戦の時は、もう間もなくだ。
~♪~
フロンティアのブリッジにやってきたマリアとウェル。部屋の中心には球体がそびえ立っており、2人は球体の前に近づく。そしてウェルは懐からガンタイプの注射器を取り出す。
「それは?」
「LiNKERですよ。聖遺物を取り込む、ネフィリムの細胞サンプルから生成したLiNKERです」
ウェルは自身の左腕に注射器を当て、LiNKERを自ら流し込んだ。すると、LiNKERが打ち込まれた腕は黒く変色し、変形して人間とかけ離れた歪な腕になった。その腕はまるで、ネフィリムの腕のようにも見える。ウェルは変化した腕で球体に触れる。すると球体はネフィリムの細胞に反応した。
「ふふへへへ・・・早く動かしたいなぁ・・・ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんかぁ?ねぇ、マリア」
「・・・っ!」
ウェルの下劣な笑みを見て、マリアは嫌な予感が浮かび上がる。こういう笑みを浮かべる時のウェルはたいていがろくなことにならないと知っているからだ。起動したフロンティアでウェルは外の様子をモニターで映す。外では米国の第二艦隊が近づいてきている。
~♪~
一方その頃、ナスターシャは制御室でこのフロンティアのエネルギーをコントロールしている。
(フロンティアが、先史文明期に飛来したカストディアンの遺産ならば、それは異端技術の集積体・・・月の落下に対抗する手段もきっと・・・)
ナスターシャがパネルを操作していると、1つの情報が開示され、それを見て彼女は驚愕する。
「これは・・・!」
『どうやら、のっぴきならない状況の様ですよ?』
そこへ、ウェルの通信が入り、外の状況の映像が映し出される。
『1つに繋がることで、フロンティアのエネルギー状況が伝わってくる・・・これだけあれば、十分にいきり立つぅ・・・』
「早すぎます!!ドクター!!!」
『そうさ・・・どうせフォルテに殺されるんだ・・・ならば早いに越したことはなあああい!!!!』
ナスターシャはウェルを止めようとするが、加速するウェルの欲望の前では、その声は無に帰す。
『さぁ、いけぇー!!!』
ウェルに応えるかのように、フロンティアの3本の柱より光が放たれ、雲を突き破って宇宙へと昇っていく。そして光は手の形となり、月に到達し、それを抑え込む。
『どっこいしょおおおおお!!!!』
月を抑え込んだ光の手は霧散した。そして、その瞬間、フロンティアが浮上し始めた。
「加速するドクターの欲望!手遅れになる前に、私の信じた異端技術で阻止して見せる!」
ナスターシャは起こり始めた緊急事態を何とか止めるべく、動き始める。
~♪~
フロンティアが浮上したことにより、海流が攪拌され、潜航していた二課の潜水艦を大きく揺らす。ものに掴まっていないと立つことができないほどだ。
「いったい何が!!?」
「広範囲にわたって海底が隆起!我々の直下からも迫ってきます!」
潜水艦は浮上するフロンティアの陸に着底し、衝撃が走る。そして、浮上するフロンティアと共に、海より打ち上げられた。
~♪~
米国の艦艇は本部の命令により、フロンティアを制圧するために砲撃を開始するが、フロンティアには傷1つ着けることはかなわない。ウェルはモニターを介してその様子を見下ろしている。
「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだぁ・・・!」
ウェルはネフィリムの腕を介してフロンティアに指示を出す。フロンティアの突起が光を放ち、航行していた艦艇を持ち上げる。打ち上げられた艦艇は空中で押しつぶされ、圧壊し、爆発を引き起こした。
「ふぅん・・・制御できる重力はこれくらいが限度の様ですねぇ・・・ふふふははははは!!!」
(果たしてこれが・・・人類を救済する力なのか・・・?)
ウェルが高笑いする中、マリアは本当にフロンティアで人類を救済できるのか、疑問を持ち始める。
「手に入れたぞ・・・蹂躙する力を・・・!!これで僕も英雄になれるぅ・・・!!この星のラストアクションヒーローだぁ~!!!いひひひひひひ!!!やったぁーーー!!!」
ウェルは自身のメガネを外し、笑いながら高らかに叫んだ。ジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス・・・通称ウェル。彼はもう・・・ドクターでも、英雄でもない。ただの下劣な・・・英雄を語る諸悪の権化だ。
日和と海恋のお小遣い
2人は咲から寮で生活していくための資金を毎月もらっている。日和は家族だから、姉妹だからと遠慮はしないが海恋はもちろん受け取りを拒否している。だが海恋の家庭の事情を知っている咲は海恋の反対を押し切って渡している。そのたびに海恋は咲には申し訳ない気持ちでいっぱいになり、いつか必ずお金は返そうと心に決めている。二課に入り、給料が入るようになった今でも、咲はご厚意で2人にお金を渡している。ただ事情を知った後では、渡すお金も本当にお小遣い程度になったとかで日和はショックを受け、海恋は少しだけ安堵している。