月の落下を阻止するため、マリアは歌を歌い続ける。その歌によってフロンティアの建造物は輝いている。だがそれでも・・・月の落下を止めるには・・・まだフォニックゲインが足りない。マリアが歌い終わると同時に、フロンティアの光が消滅する。
『・・・月の遺跡は依然沈黙・・・』
無情な結果にマリアは膝と手を地につけ、項垂れる。
「私の歌は・・・誰の命も救えないの・・・?セレナ・・・」
己の情けなさを肌身に感じ、マリアは涙を流す。
~♪~
互いに絶唱を唄い、ぶつけ合った日和とフォルテ。生じた光が晴れると、状況に変化が起きていた。日和のガントレットに・・・大きなヒビがところどころできていた。フォルテはこれで勝ちだと確信した時・・・
バキッ!バキバキ・・・!
「何っ!!?」
フォルテの黒い大剣に大きなヒビが入っており、纏っていた赤いエネルギーが消え去っていた。フォルテもこれには動揺を隠せない。
「ば、バカな!数多の生命を喰らったミスティルテインが、敗れるなど・・・!」
驚いている中、フォルテは気が付いた。バックファイアで自分にダメージが負ってもおかしくない。なのにそれが来ないことを。そして、ミスティルテインの力が、絶唱を放つ前に戻っていることに。そこでフォルテは、如意金箍棒の絶唱の隠された能力に気が付いた。
「ま・・・まさか・・・如意金箍棒の伸縮自在能力・・・それは、触れた物質の力も対象だというのか!!?」
ガントレットが魔剣とぶつかった。それによって物質である魔剣に帯びていた力が、絶唱のバックファイアを引き起こせないほどに、小さく縮めた。それが力が弱まった原因だと気づいた。そうだと気が付かない日和はもう片方のガントレットに力を込める。
『さあ日和、やっちゃいな』
『あのわからずやに、きつい一発を!』
そこに、玲奈と小豆の魂が日和のガントレットに寄り添い、思いを込める。
「やあああああああ!!!」
日和は力を込めたガントレットの拳をフォルテに向けて伸ばした。フォルテはすかさず大剣でガードするも、大剣は拳によって砕かれ、フォルテは直撃をくらい、岩と板挟みになる。
「こ・・・こんなことが・・・!すまない・・・セレナ・・・!」
大きなダメージを負ったフォルテはギアが解除されたと同時に、気を失い、倒れる。
「フォルテさん!!!」
日和はすぐにガントレットを元の棍に戻し、フォルテに駆けより、彼女の体を抱き寄せ、安否を確認する。バックファイアを起こした様子もなく、呼吸も整っており、無事であるのがわかる。
「よかったぁ・・・」
フォルテが生きてると安心すると、今度は手を開いたり閉じたりして、状態を確認する。どうやらLiNKERによって、負担を抑えこみ、超えた適合係数も絶唱で元の数値に戻ったようだ。
「・・・不思議・・・何ともない・・・」
「いやはや・・・驚きましたよ・・・」
日和が状態を確認していると、今まで高みの見物をしていたウェルが拍手をしながら近づいてきた。日和はウェルに視線を向けると、彼の腕を見て驚愕する。
「ウェル博士・・・?その腕・・・」
「まさかあなたが生きていて、フォルテが負けるなんて想像すらしてなかった。本当に面白い結果だぁ・・・」
ウェルはそう言いながら懐よりソロモンの杖を取り出し、光線を放ってノイズを召喚する。
「今さらノイズ・・・!」
「おおっと!!それ以上動いたらお友達の首は木端微塵ですよぉ!!」
日和はすぐにノイズを殲滅しようとした時、ウェルは右ポケットから何かのスイッチを取り出す。今にも押しそうな勢いだ。
「お友達って・・・まさか!そのスイッチはクリスの・・・!」
日和はウェルの言葉でスイッチがギアスの起爆スイッチだと理解し、クリスが今爆弾を抱えていると理解する。人質を取られ、日和は動けないでいる。
「そこでフォルテが炭になる瞬間でも見てなさい」
「!!?」
日和はウェルの言葉に耳を疑った。ノイズも、日和には目を向けず、ギアが解除されたフォルテに向かっている。
「自分の仲間の命も奪うつもりなんですか!!?」
「シンフォギア装者は僕の統治する未来には不要!それに僕はこいつが最初から気に入らなかったんですよぉ!だから手始めにこいつを始末するとずっと決めていたのです!!そのためにあんたたちに頑張ってもらおうと思ってたのですが・・・こんな結果になるなんて面白すぎるぅ・・・!」
ウェルは下卑た笑みを浮かべてカミングアウトする。日和はその内容にひどい嫌悪感を覚える。
「サイッテー・・・!」
「いひひひ・・・!さあ、あんたはどっちを選ぶんです?お友達の首か、フォルテの命か・・・究極の選択ですねぇ?」
クリスの命とフォルテの命を天秤にかけられ、日和はどう打開すればいいのか必死に考える。だがそうしている間にも、ノイズはフォルテに迫る。
~♪~
気を失ったフォルテの意識は暗闇の中にいた。深き、深き闇の底へと沈んでいくように、フォルテは落ちていく。
(・・・掴めなかった・・・真なる平和を・・・。結局僕にできたことは・・・人の命を弄んだことだけ・・・。もう・・・セレナに顔向けができない・・・)
目的を果たすことができなかったフォルテは自己嫌悪から、このまま消えてなくなりたい・・・そう思った。
『フォルテ
すると、暗闇の空間に一筋の光がフォルテに近づいてきた。フォルテはその光をじっと見つめ、そして目を見開き驚愕する。なぜならその光は・・・今は亡きフォルテの最愛の友、セレナ・カデンツァヴナ・イヴだったからだ。
『せ・・・セレナ・・・君・・・なのか・・・?』
『私、知ってるよ。
セレナはフォルテの手を取り彼女に微笑みを見せる。
『ありがとう、
セレナの本当の思いを聞いて、フォルテは左目に涙を流す。
『セレナ・・・君は・・・僕を許すというのか・・・?君を守ることができなかった・・・血で染めすぎた僕を・・・』
フォルテの問いかけにセレナは優しい微笑を浮かべながら、フォルテを抱きしめた。セレナの思いを・・・優しさを・・・言葉ではなく、心で理解し、フォルテは・・・自分がどれほど愚かだったかを思い知った。セレナの優しさに触れ、フォルテの流れなかった右目に・・・涙が流れた。
『さあ、行ってください・・・
セレナはそう言い終えると、身体が光の粒子となり、フォルテの義眼を包んでいく。セレナがいなくなり、フォルテは自身の涙を拭い、目を開く。
『セレナ・・・わかったよ・・・君が・・・そう望むのなら!!』
目を開いたフォルテの義眼が、金色から、紫色に変わっている。
~♪~
日和が身動きが取れないうちに、ノイズはもう少しでフォルテに触れてしまいそうだ。
「永遠にさようならだ!!フォルテぇ!!」
「フォルテさああああん!!」
ウェルの指示によってノイズはフォルテに突進を仕掛ける。すると・・・
Ragnarok Dear Mistilteinn tron……
「!!?」
フォルテが詠唱を唄い出し、フォルテの身体が光に包まれる。突然発せられた光にウェルは思わず腕で目を塞ぐ。突進してきたノイズは、大剣で振り払われて炭となって消滅する。
「い、いったい何が・・・!!?」
ウェルが驚いている間に、再びシンフォギアを纏ったフォルテは大剣を銃に変え、ウェルの右手に持つスイッチに目掛けてエネルギー弾を一発放つ。右手に見事にヒットし、ウェルはその反動でスイッチを落としてしまう。
「うあっ!!?す、スイッチが!!?」
日和はその隙を見逃さず、彼をスイッチから離れるように棍を振るって吹き飛ばす。
「ぎゃあああああ!!」
「東雲日和!それを壊せ!そうすればギアスは爆破しない!」
フォルテの声を聞いて日和はすぐに足でギアスのスイッチを踏みつけて壊し、粉々にする。
「ひ、ひいいぃぃ!!」
形勢を逆転され、ウェルは恐怖で腰を抜かす。日和は棍を、フォルテは大剣をウェルに突きつける。
「ひぃ!!」
「私、あなたを許すつもりなんて一生ないから」
「ドクター。僕と共に・・・己の罪を償うんだ」
「ぼ・・・僕は英雄となるんだ!!こんなところで終わってたまるかぁ!!!」
ウェルは悪あがきといわんばかりに、ソロモンの杖で大型を含めた複数のノイズを召喚する。日和とフォルテはそちらに向く。ウェルはその隙に逃げ出していく。
「・・・東雲日和。僕の言うことなど、信用できないだろう。だが今は・・・力を貸してほしい」
フォルテは自分から日和に協力を頼みこんできた。フォルテは、生きる選択を選んだ。それを理解した日和は嬉しくなってくる。
「もちろんです、フォルテさん!一緒に戦いましょう!」
「・・・ありがとう」
日和が快く協力に応じてくれて、フォルテは笑みを浮かべて礼を言う。そしてすぐにノイズに視線を向け、ノイズを殲滅に向かう。日和は棍を振るい、フォルテは大剣を振るって次々とノイズを殲滅する。そこに大型ノイズはフォルテに腕を振るって攻撃するが、フォルテは難なく躱す。そしてフォルテは大剣をチェーンソーに変形し、刃を回転させて赤黒い斬撃を放った。
【Belphegor Of Sloth】
赤黒い斬撃が大型ノイズを真っ二つにし、爆発する。その瞬間に、戦闘機型ノイズがフォルテに迫ってきた。フォルテは慌てることなく、チェーンソーを大剣に戻し、地に突き刺す。そしてその瞬間、大量の剣が地面から現れ、小型ノイズを蹴散らし、そして2つの剣が戦闘機型ノイズを貫き、動きを止める。
【Satan Of Wrath】
「今だ!!」
フォルテの合図で日和は棍を宙に投げ、ドリルの形に変える。日和は回転するドリルに蹴りを入れ、戦闘機型ノイズに突っ込み、貫いた。
【天元突破】
戦闘機型ノイズは爆発し、消滅。残りのノイズが殲滅でき、辺りに敵はいない。
「すごい・・・すごいです!やっぱりフォルテさんはすごい!」
「・・・ぐっ・・・」
日和がフォルテを称賛すると、フォルテはふらつき、大剣を地に刺す。
「フォルテさん!!」
「なんてことはない・・・少し疲れただけだ。少し休めばまた動ける」
フォルテは日和に視線を向け、口を開く。
「東雲日和・・・マリアを・・・頼む。君なら・・・君たちならきっと・・・彼女を救える・・・。僕も・・・後で行く」
マリアを気遣っている様子のフォルテは日和にマリアを託した。
「・・・必ず・・・マリアさんを救ってみせます!」
日和の言葉を聞いてフォルテは笑みを浮かべる。日和はまずは翼たちと合流するために移動する。残ったフォルテは胡坐をかき、空を見上げる。
「・・・セレナ・・・これで、いいのだろう?」
その表情は、とても清々しいものだ。
~♪~
自分の思い通りにならなかったウェルは日和とフォルテから逃げようと、フロンティアの中枢へと向かっている。
「くそ!!くそ!!こんなはずじゃあ・・・うわあああ!!?」
その際にウェルは足を踏み外し、大きな穴にずり落ちる。ずり落ちたウェルが顔を見上げると、そこにはボロボロになって倒れたクリスと、ギアが解除されて倒れた翼がいた。どうやらここは翼とクリスが戦った場所で、爆発のせいで、大地が穿たれて穴ができたようだ。
「・・・その様子じゃあ、失敗したみてぇだな」
すると、ボロボロのクリスが起き上がり、ウェルに近づいてきた。そして、右手を差し出す。
「約束通り、二課所属の装者は片付けた。だから・・・ソロモンの杖を・・・」
報酬のソロモンの杖を要求するクリスだが、ウェルは自身の怒りをぶつけるように、ソロモンの杖で辺りにノイズを召喚する。
「こんな飯事みたいな取引にどこまで応じる必要があるんですかねぇ!!!」
ウェルは約束を反故した。だがクリスは、それを想定に入れていた。
「どうした?スイッチ、押さねぇのか?」
「!」
「いや・・・押さねぇんじゃねぇ・・・壊されたんだ!あたしの相棒にな!」
クリスに痛いところを突かれたウェルは苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「ま、そうでなくても、こいつはとっくに壊れてたけどな!」
そう言ってクリスは自身に付けられたチョーカーを強引に外し、それを破壊する。
「ひ・・・ひぃ!!」
「約束の反故とは悪党のやりそうなことだ・・・」
クリスはノイズを殲滅しようと、アームドギアを展開しようとしたが・・・
「あっ・・・!!?」
突然ギアから激痛が走った。この症状は、適合係数が下がり、バックファイアが襲ったのだ。辺りには赤い霧が巻き散っている。
「Anti LiNKERは忘れたころにやってくるぅ・・・!」
そう、この赤い霧はAnti LiNKERで、ウェルが腰を抜かした際に巻き散ったものだ。これでクリスを一網打尽するにつもりだ。
「なら・・・ぶっ飛べ!!アーマーパージだ!!」
クリスの纏ったシンフォギアの装甲が弾丸のように放たれ、ノイズを撃破していく。ウェルは何とか回避し、岩陰に隠れた。音が聞こえなくなり、ウェルは様子を確認しようと岩陰から覗く。そしてその瞬間、一糸纏わぬ姿となったクリスがソロモンの杖を奪い取ろうと強襲する。ウェルは突然の不意打ちにソロモンの杖を手放してしまう。
「杖を!!?」
「ひ、ひいぃぃぃ!!」
ソロモンの杖を手放したことで、制御が失った。そして、残ったノイズは兵器としてプログラムに従い、人間であるウェルとクリスに狙いを向ける。
「・・・先輩!!」
クリスは叫んだ。そして、その瞬間・・・上空に複数の剣が降り注ぎ、ノイズが切り刻まれて消滅する。土煙が晴れると・・・そこには、シンフォギアを纏った翼がいた。翼が身に纏っているギアは・・・ルナアタック時に身に纏っていたものだ。
「そのギアは・・・!!?バカな!!?Anti LiNKERの負荷を抑えるため、あえてフォニックゲインを高めず、出力の低いギアを纏うだと・・・!!?そんなことができるのか・・・!!?」
「できんだよ。そういう先輩だ」
あの時のミサイルと剣のぶつかり合い・・・その際に生じた爆発とミサイルを翼は躱し、見事にクリスのチョーカーを斬ったのだ。それが、ギアスが壊れていた理由だ。
(一緒に積み上げてきたコンビネーションだからこそ、目をつぶっていてもわかる・・・だから躱せる・・・躱してくれる・・・ただの一言で通じ合えるから・・・あたしのバカに、付き合ってもらえる!)
これらの芸当も目の前の光景も奇跡ではない。互いに信じあっていたからこその、必然だ。翼は刀でノイズを切り伏せ、脚部のブレードも展開し、逆立ちで回転しながらノイズを次々と殲滅する。そしてさらに刀を大剣に変え、蒼の斬撃をノイズに放つ。
「付き合える・・・」
「やあああああ!!」
「ぐべえええええ!!!」
ウェルは逃亡を図ろうとしたが、日和が追い付き、彼に飛び蹴りを放った。蹴りを入れたウェルは吹き飛ぶ。
「相棒!!」
「クリス!信じてたよ!」
クリスと日和は互いに目が合い、にっと笑い合う。
「ひ・・・ひいいいいいいい!!!」
日和に追いつかれ、恐怖を抱くウェルはすぐに起き上がり、逃亡する。
「東雲!!奴を追え!!」
「はい!!」
翼の指示を受け、日和はすぐにウェルを追いかける。ウェルを日和に任せ翼は刀に炎を纏わせ、ノイズに向けて振るった。ノイズは焼き払われ、全滅する。同時にクリスは服装が元に戻り、手元にギアのネックレスが渡る。翼もギアを解除し、ライダースーツに戻る。
「回収完了。これで一安心だな」
翼は回収したソロモンの杖をクリスに渡す。クリスは照れで頬が赤くなる。
「・・・1人で飛び出して・・・ごめんなさい・・・」
「気に病むな。私も1人では何もできないことを思い出せた。何より・・・こんな殊勝な雪音を知る事が出来たのは僥倖だ」
翼のセリフで照れたクリスはぷいっとそっぽを向く。
「・・・それにしたってよ・・・なんで、あたしの言葉を信じてくれたんだ?」
「雪音が先輩と呼んでくれたのだ。続く言葉を斜めに聞き流すわけにはいかぬだろう」
「それだけか?」
「それだけだ。さ、立花と合流するぞ。東雲も、必ず合流する」
翼はクリスの問いに答え、響の元へと合流するため移動をする。
(まったくどうかしていやがる。だからこいつらのそばは、どうしようもなく・・・あたしの帰る場所なんだな・・・)
クリスは自分の居場所を改めて認識し、翼の後をついていく。
~♪~
日和はウェルを捕らえようと、彼を追いかける。
「待て!ウェル博士!」
「く・・・来るなあああああ!!」
ウェルはフロンティアのエレベーターに乗り込み、すぐに扉を閉じる。乗り遅れた日和は他に行ける道を走ってウェルを追いかける。
「くそっ!!フォルテが生きていて、さらにソロモンの杖を手放すとは・・・!こうなったらマリアをぶつけてやる・・・!」
ウェルの行き先は・・・マリアのいるブリッジだ。
~♪~
イガリマの絶唱の刃で貫かれた調は意識を失い、生死を彷徨っている。傷は深くはないが、イガリマの絶唱は魂を切断する。よってダメージは深刻なものだ。
「調・・・!目を開けて・・・調・・・!!」
切歌は涙を流しながら調に呼び掛けるが、返事が全くしない。
~♪~
調の意識はどんどんと暗闇の中へと落ちていく。闇の中でも、切歌の呼ぶ声は聞こえてくる。調が目を開けると・・・彼女の前に、黒い靄が人の形として集まる。
「切ちゃん・・・じゃない・・・。だとすると・・・あなたが・・・」
黒い靄が晴れると、そこに白いローブを纏った女性・・・ルナアタックを引き起こした張本人、フィーネが現れる。
「どうだっていいじゃない、そんなこと」
「どうでもよくない。私の友達が泣いている・・・」
「そうね・・・。誰の魂も塗りつぶすことなく、このまま大人しくしているつもりだったけれど・・・そうもいかないものね・・・。魂を両断する一撃を受けて、あまり長くは持ちそうもないか・・・」
フィーネの身体はだんだんと光の粒子となっていく。それすなわち、彼女の魂が消滅していくのだ。
「私を庇って・・・?でも、どうして・・・?」
「あの子に伝えてほしいの」
「あの子・・・?」
調はフィーネの言っているあの子が誰なのかわからない。構わずフィーネは口を開く。
「だって、数千年も悪者やって来たのよ?いつかの時代、どこかの場所で、今さら正義の味方を気取ることなんてできないって・・・。今日を生きるあなたでなんとかなさい」
フィーネの身体はとうとう透け始める。調はフィーネの言うあの子が、響であると気づいた。
「立花響・・・」
「いつか未来に、人が繋がれるなんてことは・・・亡霊が語れるものではないわ・・・」
調にそう言い残し、フィーネの魂は、完全に消滅した。
~♪~
現実では、目を覚まさない調に、切歌は大量の涙を流し、悲しんでいる。
「目を開けてよ・・・調・・・」
「開いているよ・・・切ちゃん・・・」
「え・・・?え?え・・・?」
返ってくるはずのなかった返答が返ってきて、切歌は驚いている。さらに辺りに漂っていた粒子に気が付き、さらに驚く。粒子が消えると、調は何事もなかったかのように起き上がる。
「身体の怪我が・・・!」
さらには調の怪我が魔法のようにすっかり消え去っていた。まるで何もなかったかのように。
「じー・・・」
「調!!」
調が無事だったことに切歌は喜びを隠さず、彼女を抱きしめる。ただ、疑問は残ったままだ。
「でも、どうして・・・?」
「多分・・・フィーネの魂に助けられた」
「フィーネに・・・デスか・・・?」
切歌は一度調から離れる。すると今度は調が切歌を抱きしめる。
「みんなが私を助けてくれている・・・だから切ちゃんの力も貸してほしい・・・一緒にマリアを救おう?」
「あ・・・。うん・・・今度こそ調と一緒に、みんなを助けるデスよ・・・」
調と切歌は和解しあった。その光景をフォルテは木の陰に隠れて見ていた。フォルテは安心した笑みを浮かべ、視線をフロンティアの中枢区へ向ける。
~♪~
どんなに歌っても月の遺跡が再起動しない・・・それを突きつけられたマリアは絶望し、涙を流している。
『マリア、もう1度月遺跡の再起動を・・・』
「無理よ・・・!私の歌で世界を救うなんて・・・!」
『マリア・・・!月の落下を食い止める、最後のチャンスなのですよ・・・!』
ナスターシャが通信越しでマリアを説得している間に、思い通りにいかず、これまでの怒りが爆発しそうなウェルが戻ってきた。彼は意味不明な叫びをあげて、ネフィリムの腕でマリアをどかす。不意打ちを喰らってマリアは倒れる。
「月が落ちなきゃ、好き勝手できないだろうが!!!!」
『マリア!!』
「あぁん!!?やっぱりおばはんか・・・」
ウェルはネフィリムの腕で球体を起動させ、フロンティアを操作する。ナスターシャは通信越しでウェルを止めようとする。
『よしなさい!!ドクターウェル!!フロンティアの機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、バラルの呪詛を司どる遺跡を再起動できれば、月を元の起動に戻せるのです!!』
不測の事態が立て続けに起こって、怒りを溜め込んでいるウェルにとって、ナスターシャの声は不快でしかなかった。
「そんなに遺跡を動かしたいのなら!!あんたが月に行ってくればいいだろ!!!!」
ウェルは怒りをぶつけるようにネフィリムの腕でフロンティアに指示を出す。すると、ナスターシャがいた制御区画が煙を上げながら、月へと上昇していった。
「マム!!!」
「有史以来、数多の英雄が人類支配をなし得なかったのは、人の数がその手に余るからだ!!!だったら支配可能なまでに減らせばいい!!!僕だからこそ気づいた必勝法!!!英雄にあこがれる僕が英雄を超えて見せる・・・!!!フハハハハ!!!!」
ウェルは高笑いをしているが、その姿は英雄とは大きくかけ離れている。今の姿は・・・フォルテの言ったとおり、独裁者となっている。
「よくもマムを!!!」
マリアはナスターシャに手をかけた怒りで、ウェルを殺そうとする。その殺気は・・・フォルテが放つ殺気とは違うが、よく似ている。
「手にかけるのか!!?この僕を殺すことは、全人類を殺すことだぞ!!!」
「殺す!!!!」
マリアは槍を振り上げ、ウェルに襲い掛かろうとする。
「うわあああああ!!?」
ウェルは情けない悲鳴をあげる。するとそこに、ようやくブリッジにたどり着いた響が介入する。
「そこをどけ!!融合症例第1号!!」
「違う!!私は立花響16歳!!融合症例なんかじゃない!!ただの立花響が、マリアさんとお話ししたくてここにきてる!!」
「お前と話す必要はない!!マムがこの男に殺されたのだ!!ならば私もこいつを殺す!!世界が守れないのなら、私も生きる意味はない!!!」
マリアは響を無視して、ウェルに向かって槍を突き出す。だが響が槍の刃に手を握り、受け止めた。響は出血した痛みを堪え、マリアを説得する。
「お前・・・!」
「意味なんて、後から探せばいいじゃないですか。だから、生きるのを諦めないで!!」
響は目を閉じて、唄う。もう胸にはない・・・ガングニールの詠唱を。
Balwisyall Nescell Gungnir トロオオオオオオーーン!!!!
叫びが混じった詠唱に、マリアのガングニールが応えた。マリアのガングニールは光の粒子となり、輝きを放つ。
~♪~
ガングールの輝きは、外でも見えていた。
「あれは・・・」
驚いている調と切歌に、フォルテが2人の肩に手を置く。
「マリアを救うぞ!」
「フォルテ!」
フォルテも駆けつけ、調と切歌は笑みを浮かべる。
「あのバカの仕業だな」
「ああ。だが立花らしい」
クリスと翼も笑みを浮かべている。
「やっぱり響ちゃんはすごいなぁ・・・」
弦十郎と緒川と合流した日和も、タブレットの映像を見て、笑みを浮かべる。映像は、全世界で放送されている。
~♪~
今起きている現象に、マリアは困惑している。
「何が起きているの・・・?こんなことってありえない・・・!!融合者は適合者ではないはず!!これは、あなたの歌・・・胸の歌がしてみせたこと!!?あなたの歌って何!!?なんなの!!??」
マリアが困惑している間にも、粒子は響を纏う。
~♪~
二課の潜水艦でも、この映像が流れている。
(解読が難しいのが、立花さんの歌よ!)
「行っちゃえ響!!ハートの全部で!!」
海恋は心の中で響を応援し、未来が叫ぶ。
~♪~
響に纏う粒子は、形を纏い、シンフォギアとなる。
「撃槍!!!ガングニールだあああああああああああ!!!」
響は大きく叫ぶ。撃槍・ガングニールが・・・復活した瞬間であった。
如意金箍棒の絶唱の隠された能力
如意金箍棒の特性である伸縮自在能力。それは何も自身のガントレットだけが対象ではない。絶唱限定ではあるが、ガントレットで触れた物質の持つ力を引き延ばしたり、逆に縮めたりすることが可能で、これを利用して相手の力を極限まで低下させることが可能である。無限の再生能力を持つデュランダルに大きなヒビを着けたり、フィーネが張った障壁が容易く砕けたのはこの能力のおかげである。フィーネの観測記録では知ることができなかった隠された能力である。ただ、絶唱であるがために、これらを使用する機会はないだろう。なお日和自身、この能力に気づいた様子は一切ない。