次回の更新はクリスマスにしようかと思っております。
これはキャロルの大昔の記憶。少し肌寒さが残る山をキャロルとイザークは登っていく。山の平原には黄色い花が咲き誇り、美しい青い湖は大空の光を反射している。
『パパ、どこまで行くの?』
『この先でとれるアルニムという薬草には高い薬効があるらしい。その成分を調べて、はやり病を治す薬を作るんだ』
イザークは心優しい男だ。錬金術さえ用いれば、金を錬成し、巨大な富を作ることだって可能なのだ。だがイザークはそのようなことに錬金術は使わず、人々の幸福のために力を振るっている。
『見てごらん』
『わあぁぁ・・・!』
イザークに促され、山の美しい大自然を見て、キャロルは感嘆の声を上げた。
『パパはね、世界の全てを知りたいんだ。人と人がわかり合うためには、とても大切なことなんだよ』
人同士がわかり合うためには、相手をよく知る必要がある。それが世界中の人というのならばなおさらだ。人はもちろんのこと、世界をもっと知る必要がある。イザークはそれを知っているのだ。
『さあ、もう少しだ。行こう』
チフォージュ・シャトーの玉座の間の玉座に座っているキャロルはその記憶を思い出していた。
「ああ行くとも。思い出を力と変えて・・・。万象黙示録の完成のために・・・!」
キャロルは玉座から立ち上がった。
~♪~
フォルテ、切歌、調が奮闘するも、発電施設は破壊されてしまった。だが間一髪だが、強化型シンフォギアの改修が完了したことにより、翼、日和、クリスはそれを身に纏い、戦線に立っている。
「フォルテさん・・・しぃちゃん、切ちゃん・・・ありがとう。おかげで間に合ったよ」
日和はここまで頑張ってくれた3人に労いの言葉をかける。フォルテはその言葉に安堵して、笑みを浮かべて気を失った。翼、日和、クリスはミカとリリィに視線を向ける。
「さて、どうしてくれる?先輩、相棒」
「そうだね・・・フォルテさんやかわいい後輩をここまで痛めつけてくれたからね・・・」
「反撃・・・程度では生ぬるいな。逆襲するぞ!」
ミカは楽しげに笑っており、リリィは静かに3人を見下ろしている。
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一方、S.O.N.Gの潜水艦のブリッジのモニターでは、一糸まとわぬ姿となり、気を失ったフォルテの裸体が映し出されていた。
「男どもは見るな!!!」
「ぬ」
「んぐ」
「うぁぁ!!?な、ななな、なんで私まで!!?」
「あ、ごめん・・・!つい勢いで・・・」
マリアが女性代表として叫び、弦十郎と藤尭が目を背け、なぜか未来が響の目を塞いでいた。戦闘管制担当である藤尭はこのままでは職務遂行できないので、恥を承知で進言する。
「モニターから目を離したままでは、戦闘管制ができません!」
「何その必死すぎるボヤきは⁉」
「3人が撤退するまでの間よ。それに、今の翼とクリス、日和ならそれくらい問題ないはず」
藤尭の進言は友里とマリアの言葉であっけなく両断された。マリアは、3人が戦闘管制がなくても、十分に渡り合えると確信していた。
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2機のオートスコアラーと対峙している中、日和は抱えていたフォルテを調と切歌に任せた。ミカとリリィはまずは小手調べと言わんばかりにアルカ・ノイズの結晶を放ち、アルカ・ノイズを召喚した。
「慣らし運転がてら片付けるぞ!」
「はい!」
「きれいに平らげてやる!」
3人はアルカ・ノイズの群れに突っ込んでいく。翼は刀でアルカ・ノイズを次々と斬り裂きながら進み、クリスはボウガンの矢をアルカ・ノイズに撃ち放って撃墜させていく。日和も拳や格闘技でアルカ・ノイズを倒していき、さらにもう1体のアルカ・ノイズに右拳を叩きつけ、ゼロ距離で右手首の棍を射出してアルカ・ノイズを貫いていく。
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強化型シンフォギアを身に纏い戦う3人の姿を潜水艦のブリッジにいるメンバーはモニターで見守っている。3人の戦いぶりを見る限り、強化型シンフォギアのコンディションは良好だ。
「天羽々斬、如意金箍棒、イチイバル共に、各部コンディショングリーン!」
「これが・・・強化型シンフォギア・・・!」
「Project IGNITEは壊れたシンフォギアシステムの修復で終わるものじゃなかったんです。そうよね、エルフナイン」
オペレーターたちが強化型シンフォギアに驚いていると、海恋とエルフナインがブリッジに入ってきた。海恋の言葉にエルフナインは首を縦に頷き、解説する。
「出力を引き上げると同時に、解剖器官の分解効果を減衰するよう、バリアフィールドの調整を施しています」
「つまり、アルカ・ノイズではもうシンフォギアを分解できない!」
モニターに映っているアルカ・ノイズが日和の持つ棍を分解しようと解剖器官を伸ばした。分解器官は棍に巻き付いたが海恋の力強い言葉通り、日和の棍は分解器官に触れても分解されなかった。日和は左手首のユニットよりもう1本の棍を取り出し、分解器官を伸ばしたアルカ・ノイズに接近して左手の棍で打撃を与えてアルカ・ノイズを消滅させた。
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3人が戦っている間に調と切歌はジャケットを羽織り、気を失っているフォルテを担いで撤退を始めている。
「ここは3人に任せるデス!」
「私たちが足手まといだから・・・」
託されたのに発電施設を守れなかっただけでなく、フォルテに守られてばかりで、彼女を守れなかったことに調は心を痛め、悔しさでいっぱいになっている。その間にもクリスはガトリング砲をアルカ・ノイズに撃ち放ち、翼は逆立ち状態で脚部のブレードでアルカ・ノイズを切り裂き、日和はアルカ・ノイズに棍による格闘技を繰り出してアルカ・ノイズを倒していく。これによってアルカ・ノイズは全滅し、残る障害はミカとリリィだけだ。
「ふむ・・・」
リリィは氷の氷柱をいくつも創り出し、日和に向けて放つ。日和は右手の棍に炎を纏わせ、槍投げのように構える。そして日和は炎を纏った棍をリリィに向けて投擲する。
【猪突猛進】
炎の棍は氷の氷柱を溶かしながら、リリィに向かっている。リリィは向かってきた炎の棍を跳躍で躱す。炎の棍はリリィの乗っていた氷の高台を破壊した。さらに翼は大剣より刀を抜刀し、クロス状の蒼い斬撃をミカに放つ。
【蒼刃罰光斬】
翼の放ったクロス状の斬撃をミカは飛んで躱した。クリスは2台の大型ミサイルを展開し、ミカとリリィの着地地点に向けて発射する。
【MEGA DEATH FUGA】
空中ではミサイルを回避することはできない。そしてミサイルを真正面から防ぐこともできない。そのため、ミカとリリィが地に着地したと同時に、ミサイルは着弾し、大爆発を引き起こした。
「ふん、ちょせぇ」
これでオートスコアラー2機に大ダメージを与えられた・・・少なくともクリスはそう思っていた。
「いや待て・・・」
「何っ⁉」
「あれは・・・」
だがその思いは見慣れぬ錬金陣によってかき消された。爆発地点に立ち、錬金陣を張っていたのはオートスコアラーの主であるキャロルだった。彼女が2機の前に立ち、障壁を張って防いだのだ。
「お・・・お手煩わせてしまい申し訳ございません!!」
「面目ないゾ」
「いや、手ずから凌いでわかった・・・オレの出番だ」
ミカはキャロルに謝罪し、リリィは跪き、頭を下げて謝罪する。キャロルはクリスの攻撃を凌いで、自分が出るべきだと結論づけた。
「あの子がキャロルちゃん・・・」
「ラスボスがお出ましとはなぁ・・・!」
「だが、決着を望むのはこちらも同じこと・・・!」
キャロルの登場に身構える3人。キャロルは冷静に2機に命令を下す。
「全てに優先されるのは計画の遂行。ここはオレに任せてお前たちは戻れ」
「わかったゾ!」
「承りました。どうか、お気をつけて」
帰還命令を受けたミカとリリィは高く飛び、テレポートジェムを砕いてチフォージュ・シャトーへと転移する。敵前逃亡した2機にクリスは驚く。
「とんずらする気かよ⁉」
「案ずるな。この身一つでお前ら3人を相手するぐらい、造作もないこと」
「それで挑発したつもりなの?」
「その風体でぬけぬけと吠える・・・!」
3人の装者に対し、キャロルはたった1人・・・しかも生身でやり合うというのだ。これは挑発以外の何ものでもない。だがそんな挑発に乗る翼たちではあらず、逆に挑発してみせた。キャロルもこれが挑発であるのはわかっている。しかし彼女は不敵な笑みを浮かべてあえてわざと挑発に乗ることにした。
「なるほど。なりを理由に本気が出せなかったなどと言い訳されるわけにはいかないな・・・。ならば刮目せよ!」
キャロルは自身の真横に錬金陣を展開し、そこから紫色のハープのような楽器を取り出した。ハープを手に持ったキャロルに3人は武器を構えて警戒する。キャロルは変わったことはせず、ハープの弦をつま弾いた。ハープの美しい音色が鳴った。
~♪~
キャロルがハープを引くと同時に、潜水艦のブリッジで強大なエネルギー反応が観測された。そのエネルギーは、シンフォギアの放つアウフヴァッヘン波形と似ているが、異なるものだ。
「アウフヴァッヘン!!?いえ、違います!ですが非常に近いエネルギーパターンです!」
「まさか・・・聖遺物起動!!?」
キャロルの持つあのハープは何かしらの聖遺物ではないかと考えが出る。唯一あのハープを知るエルフナインが口を開いた。
「ダウルダブラのファウストローブ・・・!」
ダウルダブラ。それがキャロルが持つあのハープの名称である。
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ダウルダブラの弦を弾いた瞬間、ダウルダブラは形を変えていき、キャロルの身に纏っていく。同時に、キャロルの身体が成人の女性の艶やかな身体へと成長していく。キャロルの身に纏ったダウルダブラは紫の鎧へと変化する。その鎧は、シンフォギアのものと似て異なるものであり、言うなれば、錬金術師のシンフォギアといったところだ。その名も、ファウストローブ。
「これくらいあれば不足はなかろう?」
キャロルは自身の身体に不具合はないかを確認するため、自らの胸を揉みしだき、後に指先よりハープのような弦を伸ばし、3人に攻撃してきた。3人は伸びてきた弦を飛んで躱した。伸びてきた弦はかなり鋭利で先ほどまで3人がいた地面は容易く切り裂かれた。さらにキャロルは伸ばした弦を翼に目掛けて横薙ぎに払う。翼はそれを伏せることで回避する。弦に切り裂かれたタンクは爆発を引き起こした。
「大きくなったところで!」
「引くわけにはいかない!」
「張り合うのは望むところだ!」
翼は刀を構え、日和は棍を構えて突進し、クリスはガトリング砲の弾幕をキャロルに撃ち放つ。キャロルは3人の攻撃を潰すべく、背部ユニットを展開し、張られた弦を弾く。弾いたと同時に、水と炎、雷の錬金陣を展開する。炎の錬金陣からは火柱、水の錬金陣からは水柱、雷の錬金陣からは雷柱が放たれ、それぞれ3人に向かって一直線に打ち込まれる。3人は飛んで躱すが、3属性の特大な柱の威力は凄まじく、直撃した地面は大爆発を引き起こした。
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キャロルの錬金術の威力はブリッジのモニターで見ている者たちにもわかる。同時に、藤尭はある疑問を浮かべる。
「歌うわけでもなく、こんなにも膨大なエネルギー・・・いったいどこから・・・」
シンフォギアと違い、歌を必要としないファウストローブもそうだが、キャロルの錬金術の力は見てわかるように強力だ。これほどの強力な力が何の代償もなしに得られるはずがない。その疑問にキャロルが答える。
「思い出の焼却です」
「思い出の焼却?」
「キャロルやオートスコアラーの力は思い出という脳内の電気信号を変換錬成したもの。作られて日の浅いものには力に変えるだけの思い出がないので、他者から奪う必要があるのですが・・・数百年を長らえて、相応の思い出が蓄えられたキャロルは・・・」
「それだけ強大な力を秘めている・・・!」
思い出という誰もが持っている記憶を錬金術の力で錬成し、それが現実の力になる。それがキャロルやオートスコアラーの力の起源。今映っているキャロルの力も、これまでのオートスコアラーの力も全て、思い出の焼却によるものであったのだ。海恋はその思い出について、ある1つの疑問をエルフナインに質問する。
「力に変えた思い出はどうなるの?」
「燃え尽きて失われます」
思い出が燃えてなくなる・・・それすなわち、記憶が消えてしまうことを意味している。それを理解していないはずがないキャロルがこうして力を使ったということは・・・
「・・・キャロルは、この戦いで結果を出すつもりです・・・!」
キャロルはこの戦いで全てを出し切るつもりなのだ。思い出が消えようと構わない。全ては、世界を解剖するために・・・万象黙示録のために。
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キャロルが放つ弦は戦場のありとあらゆるものを切り裂いていく。タンクは切り裂かれたことで誘爆し、その爆風で翼は吹っ飛ばされ、地に叩きつけられる。その隙を見逃さないキャロルは背部ユニットの弦を弾き、複数のエーテルの錬金陣を張り、光の弾を翼に向けて放った。全弾が命中し、翼は炎に包まれる。
「先輩!!」
「このぉ!!」
日和は棍を構え、キャロルに向かって弾丸のようなスピードで突進した。
【電光石火】
しかし日和のこの突進はキャロルが指先の弦を盾のように束ね、それで凌いだ。さらに弦の盾より氷の錬金陣が現れ、そこから猛吹雪が発生し、日和を吹っ飛ばした。
「ああああああ!!!」
「相棒!!」
「その程度の歌でオレを満たせるなどと!!」
キャロルはクリスに向けて伸ばした弦を振るう。迫ってきた弦をクリスは飛んで躱し、空中で反転しボウガンより巨大な2本の矢を放った。
【GIGA ZEPPELIN】
2本の矢は分散し、小さな複数の矢となってキャロルに降り注ぐ。キャロルは冷静に弦を高速回転させて全ての矢を破壊する。さらにキャロルは自身の手に弦を束ね、ドリルを形作る。キャロルは創り出した弦のドリルより風の錬金術をクリスに向けて突き放つ。竜巻は地面を抉りながらクリスに襲い掛かった。竜巻の無風空間に拘束されたクリスにキャロルは弦のドリルで突きを放つ。突きを喰らったクリスは竜巻によって上空に巻き上げられ、竜巻が収まったと同時に落下し、地面に叩きつけられる。
「クソッタレがぁ・・・!」
「大丈夫か?東雲、雪音」
「あれを試すくらいにゃぁ、ギリギリ大丈夫ってとこかな・・・!」
「私も・・・まだやれます!」
3人は痛みを堪え、何とか立ち上がる。強化型シンフォギアに搭載された、イグナイトモジュールの可能性が、まだ残っているのだから。
「ふん。弾を隠しているなら見せてみろ。オレはお前らの全ての希望をぶち砕いてやる!」
「付き合ってくれるよな?」
「もちろん!」
「無論、1人で行かせるものか!」
3人は笑みを浮かべながら胸のギアコンバーターに触れ、声を合わせる。
「「「イグナイトモジュール!抜剣!!」」」
3人はギアコンバーターのスイッチを押し、宙に投げる。ギアコンバーターより、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、コンバーターが変形し、中央部に光の刃が現れる。ギアコンバーターはイグナイトモジュールの発動主に向かって、光の刃で刺し貫いた。すると、禍々しいオーラが3人を纏い、3人は苦し気に声にならない呻き声を上げている。
「・・・っ!腸を掻きまわすような・・・!これが・・・この力が・・・」
翼は苦しみながらも、Project IGNITEの計画の概要を思い返す。
~♪~
時は遡り、Project IGNITE計画が発表された日。エルフナインはこのProject IGNITEの概要を説明する。
「ご存じの通り、シンフォギア・システムにはいくつかの決戦機能が搭載されています」
「絶唱と・・・」
「エクスドライブモードか・・・」
絶唱。それはシンフォギアに搭載されたシステムの1つで、歌を歌えば増幅したエネルギーを解き放ち、特大ダメージを負わすことができると同時に、多大な負荷を与えてしまう諸刃の剣そのもので、使用者も無事では済まされない。エルフナインもそれは理解している。
「とはいえ、絶唱は相打ち前提の肉弾。使用局面が限られてきます」
「そんときゃあエクスドライブで・・・!」
エクスドライブはシンフォギアに搭載されている奇跡と呼ぶに相応しい決戦機能だ。だがそのエクスドライブの発動はそう簡単ではない。
「いえ、それには相当量のフォニックゲインが必要となります。奇跡を戦略に組み込むわけには・・・」
エクスドライブは奇跡の集大成といっても過言ではない。その奇跡を顕現するためには莫大なフォニックゲインが必要となってくる。それを狙って出そうというのは無謀であり、不可能だ。だから緒川はこの案を否定している。
「役立たずみたく言ってくれるな!」
クリスが緒川にかみついている間にも、エルフナインは話を続ける。
「シンフォギアにはもう1つの決戦機能があるのをお忘れですか?」
エルフナインの言葉に翼とクリスは1つ心当たりがあった。それは響がシンフォギアの力に飲まれ、暴走した時の姿だ。ただあれは、決戦機能には程遠い。
「立花の暴走は搭載機能ではない!!」
「トンチキなこと考えてないだろうな!!?」
翼は声を荒げ、クリスは感情のままにエルフナインの胸倉を掴み上げる。暴走を利用して戦うなど、認められるわけがない。だがエルフナインは冷静に話を続ける。
「暴走を制御する事で、純粋な戦闘力へと変換錬成し、キャロルへの対抗手段とする・・・これが、Project IGNITEの目指すところです」
暴走を制御するとは言うが・・・当然ながらそれは簡単なことではない。
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暴走を制御するのがとても難しく、苦しい道のりであることは・・・ブリッジのモニターに映っている苦しさにもがいている3人を見ればわかる。
「モジュールのコアとなるダインスレイフは、伝承にある殺戮の魔剣。その呪いは、誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こします」
「それでも、人の心と叡智が、破壊衝動をねじ伏せることができれば・・・!」
「シンフォギアは、キャロルの錬金術に打ち勝てます・・・!」
「心と・・・叡智で・・・!」
一同が3人を見守っている中・・・海恋は3人が・・・日和が呪いを打ち破ってほしいと願って両手を合わせて祈っている。
「お願い・・・負けないで・・・!」
海恋がここまで心配するのは・・・日和のことを誰よりも理解しているからだ。明るい性格で忘れがちだが・・・日和はとても臆病だ。お化けも、人の恨みが込められた言葉を怖がるほどに繊細だ。そして装者の中で日和が1番心が弱い。そんな彼女が心の闇を打ち砕けるかどうかわからない。そしてそれを打ち破るきっかけもない。だから海恋は心配でならないのだ。
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ダインスレイフより流れる負の呪いによって苦しむ3人は、響が暴走する際、どんな苦しみを味わってきたのか、こういった形で知ることとなった。
(流れ込んでくる・・・怒りや恐怖・・・憎しみが・・・この身体に・・・!!)
(あのバカは・・・ずっとこんな衝動にさらされてきたのかぁ・・・!!)
(気を抜けば・・・まるで深い闇に・・・!)
3人はダインスレイフの呪いを耐えようとするが・・・ダインスレイフが見せる悪夢を目の当たりにする。
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翼の心の闇。翼はステージで大好きな歌を歌う。だが、翼の歌を聞くのは観客ではない。ステージの観客席を覆いつくすのは、人類の敵ノイズだけで、翼の歌を聞いてくれるのは誰1人いなかった。
(新たな脅威の出現に、戦いの歌を余儀なくされ・・・剣に戻ることを強いられた私は・・・)
本当は世界で羽ばたいて歌いたいが、それもできない。父である風鳴八紘に認められたいがゆえに、夢を捨て、その身を剣に戻す。だが・・・
「お前が娘であるものか。どこまでも穢れた風鳴の道具にすぎん」
八紘は翼を認めてはくれなかった。
(それでも認められたい・・・だから私は・・・私はこの身を剣と鍛えた!そうだ・・・この身は剣・・・夢を見ることなど許されない道具・・・!)
そう考える翼の前に現れたのは、大切なパートナー・・・天羽奏と、かけがえのない大切な戦友、北御門玲奈だ。
(でも・・・私は・・・)
翼は目の前に現れた奏と玲奈を抱きしめようとする。だが、翼は2人を抱きしめることは叶わず・・・その手で2人を切り裂いてしまった。
(剣では・・・誰も抱きしめられない・・・)
これが・・・翼の抱える、心の闇だ。
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3人は自身の抱える闇によって、苦しんでいる。それによって、3人のバイタルが不安定になってきている。
「システムから逆流する負荷に、3人の精神が耐えられません!!」
「このままでは、翼さんや日和ちゃん、クリスちゃんが!!」
心の闇に打ち勝てなかった者の末路・・・それはここにいる誰もが理解しているだろう。
「暴走・・・!」
「やはり・・・ぶっつけ本番では・・・!」
「だとしても信じてあげてください・・・3人を・・・」
ここにいる者ができることは、3人を見守ることだけ・・・だが、海恋はだんだんと、嫌な予感が込み上げてくる。
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クリスの心の闇。リディアンという、彼女がいていい、心の休める場所。ずっとほしかったものだが、今も違和感を感じてしまう。
(それでも・・・この春からは、新しい後輩ができた・・・なのに・・・あたしの不甲斐なさで・・・あいつらがボロッカスになって・・・)
今年になって調と切歌の先輩になったのに・・・それらしいことが何1つできない。
(1人ぼっちが、仲間とか、友達とか・・・先輩とか後輩とか・・・相棒とか求めちゃいけないんだ!でないと・・・でないと・・・!)
次に現れたのは何もかもが破壊された光景。そして、そばには・・・大切な後輩である調と切歌が力なく倒れた姿。そして目の前には、かけがえのない相棒の日和が、弱々しくも、にっこりと笑いかけてくれる姿。だがその背後に、オートスコアラーシャルがレールガンの引き金を引こうとしていた。クリスは駆けつけようとするが・・・それよりも早くシャルが引き金を引き、日和を雷で殺害した。
(残酷な未来がみんなを殺しちまって・・・本当に1人ぼっちとなってしまう・・・!)
1人ぼっちは嫌だ。そんな思いから今見た悪夢から目を背けようと、クリスは逃げ出そうとする。そんな時に、誰かから手を握られた。
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自身の闇に飲まれかけていた翼は咄嗟にクリスと日和の手を握って何とか自我を保とうとする。
「すまないな・・・東雲と雪音の手でも握ってないと、底なしの縁に、飲み込まれてしまいそうなのだ・・・!」
「おかげで・・・こっちもいい気付けになったみたいだ・・・危うくあの夢に溶けてしまいそうで・・・!」
翼とクリスの禍々しいオーラが消え、辛うじて自身を制御することができたが、己の闇を克服できず、ギアも変わっていない。2人の息も絶え絶えの様子だ。だが、それよりも・・・
「ヴ・・・ヴウゥゥ・・・!!」
日和だけは禍々しいオーラが消えておらず、日和の口からは獣のような呻き声を上げている。
「お・・・おい・・・相棒・・・?」
「まさか・・・!!」
クリスと翼は最悪な状況が頭によぎる。今の日和は・・・響が暴走する時の衝動とかなり似た雰囲気を出している。そして、ギアコンバーターが輝きだし、黒い闇が日和を包み込んだ。
「ヴゥ・・・ギャオアアアアアアアアアア!!!」
黒い闇が全身に回った日和は獣のような大きな咆哮を上げた。そう・・・日和はすでに自身の心の闇に負けてしまい暴走してしまったのだ。3人のイグナイトモジュールは・・・失敗は失敗でも・・・日和が暴走するという最悪な失敗で終わってしまった。
リリィにとっての神
リリィのキャロルに対する忠誠心はオートスコアラーの中で1番強く、その姿勢はまるで神を見るかのようだ。いや・・・リリィにとってキャロルという存在は自分を生み出した神そのものなのだ。それゆえなのかリリィは神という存在に何の興味も示さない。興味本位で聖書などを読んでいるが、それさえもつまらないの一言で終わる。リリィにとって神とは創造主であるキャロルただ1人・・・神など、古き文明のただの故人と考えているのだ。