戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌   作:先導

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今話の最後、前の話に少しだけ登場した重要な人物の正体が明らかになります。


自分を信じて

S.O.N.G本部のメディカルルームでフォルテはエルフナインにリリィに付けられた傷の手当てをしてもらっている。

 

「傷の方はそんなに深くありません。もう動いてもらっても大丈夫ですよ」

 

「よかった・・・」

 

「・・・・・・」

 

傷の方は軽傷だったらしく、動いても大丈夫のようだ。マリアが安堵している中、フォルテは悔しそうに顔を歪め、布団を強く握りしめている。

 

「でも、気を付けてください。フォルテさん、あなたはリリィに目をつけられました。彼女はキャロルのためならどんなことでも平気でやります。ここがリリィに襲撃されたとしても、おかしくありません」

 

エルフナインはフォルテのことを思い、そんな忠告を入れた。

 

「・・・つまりは、僕がここにいるだけで、君たちに危険な目に合うか。ならば、僕はここにいない方がいいな・・・」

 

フォルテはその忠告に自身を自嘲するかのようにそう言った。何も出て行ってほしいというわけではなかったので、エルフナインはかなり戸惑っている。

 

「いや・・・あの・・・ボクはそんなつもりで言ったわけじゃ・・・」

 

「フォルテ、いったいどうしたの?そんなこと言うなんて、あなたらしくもない・・・」

 

「・・・・・・」

 

自身を責めているような物言いにマリアがフォルテがらしくないと感じ取り、どうしたのか尋ねた。彼女は何も答えない。

 

「何か悩みを抱えているのなら・・・」

 

「何でもない・・・少し頭に血が上っただけだ」

 

フォルテはベッドから起き上がり、上着を着込んでメディカルルームから出ようとする。

 

「フォルテ!」

 

「・・・少し1人にさせてくれ・・・」

 

マリアの止める声にフォルテは一言そう言って出ていった。そのタイミングで翼とすれ違った。

 

「フォルテ、傷の方は・・・お、おい・・・」

 

翼はフォルテに声をかけたが、フォルテはそのまま廊下を歩いていった。

 

「いったいどうしたというのだ?ずっとあの調子のようだが・・・」

 

ここで何の話をしていたのかわからない翼は首を傾げている。

 

「ごめんなさい・・・余計なことを言ってしまって・・・」

 

「エルフナインのせいじゃないわ。ただあれの頭が固いだけよ。本当に・・・昔からそうなんだから・・・」

 

自分が忠告したせいでと思っているエルフナインは落ち込み、マリアが慰める。マリアはF.I.Sで共に過ごしてきた者として、フォルテを心配している。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部の一室で日和はクリス、調、切歌に飲み物を渡す。

 

「やっぱり戦争が関係してるのかなぁ?」

 

すると日和が突然そんなことを言いだした。

 

「ああ?何の話だ?」

 

「フォルテさんだよ。ほら、フォルテさんって元反乱軍なわけじゃん?悩むとしたらそこかなぁって」

 

フォルテは無表情ゆえに何を考えているかわからないことがあるが、少なくとも何か悩みがあるのだというのは今回の件でわかった。日和はその話を振っていたのだ。

 

「つってもなぁ・・・お前らだってあいつのこと何も知らねぇんだろ?」

 

「はい・・・フォルテはあんまり昔のことはしゃべらないから・・・」

 

「というか、初めて会った頃は無視ばっかりされたデスよ!」

 

「ああ、それは何となく想像できるぜ・・・」

 

共に過ごした2人でさえ、昔のフォルテについては全くと言っていいほどに知らない。

 

「もしかしてフォルテは・・・私たちにまだ心を開いてくれてないのかな・・・?」

 

「そんなことないと思うけど・・・」

 

「そう思いたくもなるデスよ。フォルテが昔のことを話した相手は、セレナだけだったんデスから」

 

「まぁ・・・ただ私たちを気遣ってるのかもしれないけれど・・・」

 

「フォルテさん・・・」

 

話を調と切歌に聞いている中、フォルテは今何をしているのだろうと日和は考えている。

 

~♪~

 

夕暮れ時の墓地。フォルテはこの場所に訪れ、文字が刻まれていない墓の前に立っている。墓には数多くの軍人の大人たちが映った写真が飾られている。この墓はバルベルデで散ったフォルテのかつての仲間たちの墓でS.O.N.Gの方でフォルテに気を利かせて建てられたものだ。だが遺骨は何もない。ただの空っぽな墓だ。

 

(・・・僕の行動が遅かったせいで・・・彼らが死ぬことはなかった・・・)

 

フォルテの頭の中に浮かび上がってくるのは、リリィが召喚したアルカ・ノイズによって分解された調査部員の人間たちだ。

 

(いや・・・今日だけじゃない・・・。自衛隊の連中も・・・立花の怪我も・・・そして・・・セレナも・・・みんな・・・僕のせいで・・・)

 

これまでの出来事を振り返って、自分に関わった者が皆傷ついてしまったのは全て自身の責任だと感じているフォルテは悔しさで拳を握りしめる。同時に、自分はいつまでたっても人を傷つけることしかできないと思いこんでしまう。

 

(僕では・・・誰1人として誰かを守ることは・・・できない・・・)

 

誰も守れないと思い込んでいるフォルテは墓を見つめていったいどうすればいいのかと考えている。そこへ・・・

 

「あら・・・?フォルテさん?」

 

ふと誰かに声をかけられた。声をかけられた方角を見てみると、そこには墓参りの道具を持った咲がいた。

 

「咲殿・・・」

 

「こんなところで会うなんて・・・フォルテさんもお墓参りですか?」

 

「ええ・・・まぁ・・・」

 

「・・・そうですか・・・」

 

フォルテの答えを聞き、咲は小さく微笑む。会話する気分ではないフォルテはそれ以上の会話が続かず、思わず目を逸らしてしまう。何も語ろうとしないフォルテに咲はこんなことを聞いてくる。

 

「あの、フォルテさん。もしよろしければ、彼らに黙祷を捧げても、構いませんか?」

 

「え?」

 

フォルテのかつての仲間たちと何の関係もない咲が彼らのために黙祷を捧げたいと聞いて、フォルテは驚いている。

 

「やはり・・・ダメですか?」

 

「いえ・・・大丈夫ですが・・・」

 

「そうですか。よかった」

 

フォルテは戸惑いながらも黙祷を捧げることを了承した。許可をもらった咲は墓前にしゃがみこんで線香を立て、両手を合わせてフォルテの仲間たちに冥福を祈った。その姿を見てフォルテはなぜそんなことをするのか不思議でならなかった。

 

~♪~

 

黙祷を捧げ終わり、フォルテは咲を自宅まで送ろうと思い、彼女を自身が乗ってきた車まで案内している。そこに至るまで2人の間には会話は1つもなかった。咲はフォルテの心情を察し、彼女が話すまで何も言わなかった。

 

「・・・咲殿」

 

「はい?」

 

長い沈黙の中、フォルテは口を開いて、咲に質問をする。

 

「・・・なぜ・・・彼らに黙祷を捧げてくれたのですか?あなたと彼らは何の関りもないのに。それなのにあなたは、何も言わず、彼らの冥福を捧げてくれた。なぜ・・・?」

 

フォルテの至極当然の質問に咲は口を開く。

 

「確かに私はあの人たちと何の関りもありません。あの人たちが何のために戦争に赴くのかさえも、私にはわかりません」

 

「なら・・・」

 

「命は皆平等」

 

咲の口から発せられたその言葉にフォルテは目を見開いた。

 

「犬も、虫も、魚も、花も・・・そして人間。この世界に生まれた命は皆等しく美しい。だからこそ美しい命を守らないといけない。だけどそれは、命が散ればそれで終わりというわけじゃない。散ってしまったからこそ、散った命とちゃんと向き合い、弔わなければいけない。父の教えです」

 

「父上の・・・」

 

「医者とは命と向き合う職業です。当然常に責任が伴います。命尽きればそれで終わりじゃ済まされないんです」

 

咲は夕日を眺め、続きを話した。

 

「私はもう、無責任な医者にはなりたくないんです。誰々があれだとか、恩を売っておけばとか関係ありません。人も、亡くなった方も・・・両者の気持ちや思い真摯に受け止められるような本当の医者になりたいんです」

 

本当の医者になりたいがゆえに冥福を捧げたい。おそらくそれがフォルテの仲間・・・いや、あそこに眠る人々に黙祷を捧げた理由なのだろう。咲はそこまで言い張ると、今度はフォルテに視線を向ける。

 

「お節介なのはわかってます。でもそれが私の信念ですから」

 

「咲殿・・・」

 

ドガアアアアン!!!

 

フォルテが咲に何か話そうとした時、突如爆発が発せられた。2人が爆発がした場所に視線を向けてみると、そこには巨大な氷の柱に貫かれたフォルテの車があり、爆発の炎も凍り付いていた。氷の柱の上には、リリィが腕を後ろに組んで立っていた。

 

「・・・少しは、頭を冷やされましたか?」

 

「フォルテさん・・・これはいったい・・・?」

 

「咲殿・・・下がっていてくれ」

 

事情をまったく知らない咲は目の前の現状に戸惑っており、フォルテは咲を守るように前に出て、首の包帯を外してギアネックレスを取り出す。

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

詠唱を唄い、フォルテはシンフォギアを身に纏って大剣を構える。

 

「今回は、失望させないでくださいね」

 

リリィは小手調べとしてアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚した。

 

「の、ノイズ・・・⁉」

 

「何も心配ない。あなたには、指一本触れさせない!」

 

アルカ・ノイズを見て驚く咲を守ろうと、フォルテはアルカ・ノイズの群れに突撃する。アルカ・ノイズもフォルテに襲い掛かる。フォルテはアルカ・ノイズの攻撃を躱したり、大剣で受け止めたりしながら、咲まで行かないようにしながら、アルカ・ノイズを大剣で薙ぎ払っていく。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部のブリッジにて、オペレーターたちはアルカ・ノイズの反応を検知し、フォルテがまた1人で戦っている姿を確認する。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「現在フォルテさんがアルカ・ノイズと交戦中!近くにオートスコアラーもいます!」

 

「すぐに日和君たちに出撃を・・・」

 

弦十郎が指示を出そうとした時、新たなアルカ・ノイズの反応が別の場所で確認された。それも1か所ではなく、複数だ。

 

「都内複数の発電施設にて、新たなアルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「同時多発・・・だと・・・!!?」

 

フォルテが戦い始めた直後にアルカ・ノイズによる各発電施設の襲撃に弦十郎は驚愕する。その狙いは、戦力の分散であるということも同時に理解した。

 

~♪~

 

襲われている発電施設は3か所。その3か所でアルカ・ノイズは解剖器官を用いて施設を分解している。その3か所にレイア、シャル、ファラが配置されている。

 

「リリィにしては、派手すぎる戦略・・・」

 

「それだけリリィは本気ってことかい?殊勝だねぇ」

 

「ふふ、そういうところは、ガリィと似ているんだから」

 

リリィが発案した作戦が大胆すぎることに対し、3機のオートスコアラーは各地で思っていることを口にした。

 

~♪~

 

リリィの襲撃にあったフォルテは彼女が召喚したアルカ・ノイズを全て切り裂き、視線を氷の柱に立っているリリィに向けた。フォルテは大剣をチェーンソーへと変形させ、刃を回転させ、赤黒い斬撃波を放った。

 

【Belphegor Of Sloth】

 

放たれた斬撃波をリリィは跳躍して躱した。斬撃波によって砕かれた柱の破片がリリィに向かってきた。リリィはこの破片を逆に利用し、右手の氷の刃でさらに小さく砕き、さらに鋭くなった破片をフォルテに放った。フォルテはチェーンソーを元の大剣に戻し、向かってきた氷の破片を大剣の一振りで砕いた。しかし、放たれた氷の破片は1つだけではなく、複数あり、その破片はフォルテの周辺に突き刺さった。

 

(なんだ・・・?)

 

この氷は何を意味をしているのだろうと考えていると、氷の破片から冷気が発し、フォルテの足元に巨大な錬金陣が出来上がる。地に着地したリリィが手を地にかざした瞬間に、錬金陣から強烈な猛吹雪が放たれる。

 

「フォルテさん!!」

 

「これしきのこと・・・!」

 

フォルテは吹雪をまともに喰らったが、何とか堪える。そして、大剣に炎を纏い、跳躍して吹雪から脱出し、リリィに炎の大剣を振るう。だがその一撃は氷の纏った右手で難なく止められる。それだけでなく、大剣に纏った炎までもが凍り付く。

 

「なんだと・・・⁉」

 

「炎でどうにかできると思わないでください。私が操りしは、炎さえも凍てつくす絶対零度。どんなものであろうと、絶対零度の前では全てが凍る」

 

そう言ってリリィは左手に氷の刃を纏わせ、フォルテに向けて突きを放った。フォルテは対応が遅れ、氷の刃の突きをまともに喰らってしまう。

 

「ぐ・・・あ・・・!」

 

突きを喰らったフォルテは後ずさり、膝を地についてしまう。そんなフォルテを見てリリィはため息をこぼす。

 

「はぁ・・・どこまでも強情ですね。これでは全力を出すに出せませんよ」

 

「黙れ・・・!貴様は・・・なんとしてでも・・・」

 

「・・・私もあなたに構ってばかりいられるほど暇ではありません。イグナイトを使わないのであれば・・・このまま・・・」

 

(くっ・・・やはり・・・僕では・・・奴に勝てないのか・・・)

 

リリィは右手に纏った氷に刃を創り出し、フォルテに近づく。自信が失われそうになった時・・・

 

「そぉ・・・れ!!」

 

咲が杉桶樽に入った水をリリィに向けて放った。

 

「咲殿!!?」

 

だが水はリリィに当たることなく、そのまま凍り付き、粉々に砕け散った。リリィは咲に視線を向け、睨みつける。

 

「・・・何の真似ですか?」

 

咲はリリィの質問には答えず、フォルテに向けて声を上げる。

 

「フォルテさん!!怖がらないで、自分自身を、信じるんです!!」

 

咲の言葉を聞いて、フォルテは目を見開いた。同時に、かつての仲間と交わした言葉を思い出した。

 

『てめぇは心のどこかで、自分じゃ何もできねぇ、役に立たねぇとかネガティブに思い込んでビビっちまってるんだよ。そんな甘ったれに何ができる?てめぇがてめぇ自身を信じねぇでどうする?そんなんじゃ、守れるもんも守れなくて当たり前だろうが』

 

『でも・・・前の戦いでも・・・僕がもっと素早く・・・』

 

『それを暗示っつーんだよ。ビビってるのを隠すための。そういうのがよくねーつってんだ』

 

『別にビビってるわけでは・・・』

 

『いーやビビってるね。いいか?戦場じゃあ、結局最後に頼れるのは自分だけなんだ。ビビっちまってたら守るどころか自分も生き残れねぇ。てめぇはまず自分の自慢できるもんを作れ。なんだっていいんだ。それがてめぇの自信に繋がる』

 

『自信・・・』

 

『いいか?信じるのはてめぇ自身だ。てめぇを信じる俺でもない。俺を信じるてめぇでもない』

 

「『てめぇを信じる・・・てめぇを信じろ』・・・」

 

フォルテが仲間に言われたことを口にしている間にも、戦いの邪魔をした咲にリリィが氷の刃を纏って近づいている。

 

「わけのわからないことを・・・。そんなに死にたいのならばお望み通り・・・楽にしてあげましょう」

 

リリィは咲の首に目掛けて右手の氷の刃を振るった。咲は迫ってくる氷の刃を前に、恐怖を押し殺して目を瞑る。

 

「はああああああ!!」

 

そうはさせまいとフォルテはリリィに向けて大剣を振るう。それを感じ取ったリリィは咲への攻撃をやめ、両腕の氷の刃で大剣を受け止め、払いのける。

 

「確かに僕は・・・この身に纏う罪に・・・失うことの恐怖により、自信をなくしていた。自身では何もできないと・・・。そんなことでは、何も守れないのに・・・」

 

「・・・・・・」

 

「仲間に頼れるならば頼ればいい。だが・・・頼れる仲間がいないならば・・・自分がやらなくてはならない。友はそう言って・・・自信を持つことの大切さを教えてくれた」

 

「フォルテさん・・・」

 

「咲殿は恐怖を押し殺し、立ち向かった!それは僕が守ってくれると本気で信じたからだ!ならば僕は・・・己を信じ、その期待に応えよう!イグナイトモジュール!抜剣!!」

 

危険を冒したことは感心しなかったが、咲の勇気ある行動によって、フォルテは勇気が湧き、躊躇していたイグナイトを使用した。フォルテはギアコンバーターのスイッチを押し、掲げた。ギアコンバーターは起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃がフォルテを刺し貫いた。そして、ダインスレイフの呪いがフォルテの身体に流れ込む。呪いで苦しむフォルテの脳裏に、かつての仲間と、セレナが死ぬ間際に放った最後の言葉を思い出す。

 

『いいかテレサ・・・てめぇを信じろ・・・そして・・・てめぇの未来を掴め・・・』

 

『フォルテ師匠(せんせい)・・・みんなを・・・よろしくね・・・』

 

(今にして思えば、あいつやセレナは・・・僕に後を託したのだろう・・・。僕ならば・・・必ず未来を掴めると信じて・・・)

 

「フォルテさん・・・」

 

「己を信ずることもまた強さであるならば・・・!僕はセレナや同胞たち・・・そして志半ば死した者の無念を、全て背負おう!!それが僕にできる、唯一の償いだ!!」

 

己を信じ、歩むべき道を見出せる強い思いが、ダインスレイフの呪いを凌駕する。フォルテは漆黒の闇を身に纏い、闇は漆黒のシンフォギアの形へと変わる。フォルテもイグナイトに成功したことに、リリィは目を見開いて、笑みを浮かべた。

 

「時は来たれり!今こそ、粛清の時!!」

 

この時を待っていたと言わんばかりにリリィはアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、さらにアルカ・ノイズを召喚する。フォルテは黒い双大剣を持ち、地に向けて双大剣を振るった。

 

「飛べ!!」

 

双大剣が地と衝突した瞬間、アルカ・ノイズがいる地面が盛り上がり、アルカ・ノイズは宙に放り投げられる。フォルテはアルカ・ノイズに向かって跳躍し、双大剣による連撃を放って、アルカ・ノイズを全て斬り裂いた。アルカ・ノイズを倒した時、凄まじい殺気がこちらに向かってきた。フォルテはそこに向けて右手の大剣を振るった。

 

ガキィン!!

 

その瞬間、右手の大剣が空中で金属音が鳴り響いた。これは、透明化したリリィが作った氷の刃と重なった音だ。フォルテは攻撃の手を緩めず、左手の大剣も振るった。この攻撃はリリィにヒットし、地に激突する。フォルテはリリィが激突した地に向けて双大剣を振るった。

 

【Belial Of Vanity】

 

フォルテの双大剣は地と激突する。だがフォルテにはわかる。この一撃はリリィには当たっていないことを。

 

「それでこそ粛清し甲斐があるというもの!」

 

フォルテの一撃を躱したリリィは透明化を解除しており、その際に割れた氷の破片をフォルテに放った。向かってきた氷の破片をフォルテは今度は1つ残らず双大剣で切り裂く。これに乗じてリリィは再び氷を身に纏って姿を消した。

 

「もうこれ以上、貴様の思い通りにはさせん!」

 

フォルテは双大剣に虹色の炎を纏わせ、咲に当たらぬように周辺に放った。放たれた炎は辺りに燃え盛る。すると、水滴が落ちる音がある。そちらに視線を向けてみると、リリィが身に纏った透明の氷が溶けだしている。

 

「そんな!!?全てを凍てつくす絶対零度の氷が・・・なぜ溶けるのです!!?」

 

自身の得意技が炎によって溶かされていることにリリィは信じられず、動揺を隠せないでいた。

 

「これはただの炎ではない。この炎は、死した者の思いが宿った、魂の炎!不滅の魂の炎は、絶対零度で凍てつくせぬと知れ!!!」

 

フォルテは双大剣の魂の炎をブースターとして利用し、リリィに突撃する。完全に姿を現したリリィに向けてフォルテは双大剣を振るい、二刀両断に斬り裂いた。

 

【Lucifer Of Pride】

 

「きゃはははははははは!!!!」

 

切り裂かれたリリィは狂気じみた笑い声をあげ、炎に包まれて爆散した。リリィを倒したフォルテは大剣を地につけ、膝をつく。そんなフォルテに咲が駆け寄る。

 

「フォルテさん!大丈夫ですか?」

 

「ええ・・・なんてことはないです」

 

フォルテは咲に微笑みで返して立ち上がり、マリアと日和に連絡を入れる。

 

「マリア」

 

『フォルテ⁉オートスコアラーは・・・』

 

「心配ない。何とか倒したさ。そっちの状況は通信で聞いた。そっちはどうだ?」

 

『は、はい!大丈夫です!出てきたアルカ・ノイズは全部倒しました!翼さんたちやしぃちゃんたちも同様です!』

 

「そうか・・・。心配はしてなかったが、それを聞いて安心した」

 

フォルテは日和たちが何とかしてくれると信じていたようで心配してなかったが、報告を聞いて笑みを浮かべた。

 

『・・・フォルテ、なんだか変わったわね』

 

「?そうか?」

 

『とにかく、すぐに迎えに行くわ。待ってて』

 

「それは助かる。車が壊され、咲殿も送らねばならなかったから困っていた」

 

『お姉ちゃんが⁉すぐに行きます!!』

 

「ああ。頼む」

 

フォルテが通信を切ると、近くで咲が黙祷を捧げるように手を合わせていた。

 

「何をしているんです?」

 

「さっきの人に黙祷を捧げてたんです」

 

「黙祷を・・・あなたを殺そうとした人形ですよ?」

 

「それでも、生きていたことには変わりませんから」

 

リリィに黙祷を捧げていた咲はフォルテの疑問の声に笑みを浮かべて答える。フォルテは咲に対し、笑みを浮かべた。

 

「・・・やはりあなたは、どこまでも甘いですよ」

 

「でも、それが信念ですから」

 

「・・・まぁ・・・僕もその信念に、救われましたがね」

 

咲の信念に呆れながらも、フォルテは咲に感謝しながら夕焼けを眺め、日和たちの到着を待つのであった。

 

「そういえば・・・咲殿はなぜ、僕が自分自身に恐れていたとわかったのですか?」

 

「それは・・・」

 

フォルテの疑問に咲は日和とそっくりな茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて答えた。

 

「診察医、ですから♪」

 

咲の解答とその笑顔でフォルテはやはり姉妹なのだなと、感心して笑みを浮かべた。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。任務に出ていた3機のオートスコアラーが帰還した。同時に、リリィの台座から白い光が放たれ、白い垂れ幕を包んだ。これによって、白い垂れ幕に錬金術の化学式が描かれる。

 

「・・・リリィは散ったか・・・」

 

台座の光を見てキャロルはリリィが倒されたのだと理解する。すると・・・

 

「ぐうぅ・・・⁉」

 

キャロルは突然頭を抱え、苦しみだした。

 

「マスター・・・」

 

「最後の予備躯体に不調ですか?」

 

「負荷を度外視した思い出の高速インストール・・・さらに自分を殺した記憶が拒絶反応を起こしているようだ・・・」

 

現在のキャロルの身体は予備躯体と呼ばれるもので、この予備躯体に自身の思い出のインストールをすることでこうして生き永らえている。だがその予備躯体は、自分が死んだ思い出・・・それも自分自身を殺したという思い出によって、拒絶反応を引き起こし、痛みを引き起こしたのだ。キャロル自身、こうなることは覚悟していたのだが想像以上の激痛が彼女に襲い掛かっている。3機のオートスコアラーはキャロルを心配する。

 

「マスター・・・このまま計画を続行するのかい?」

 

「無論だ・・・!万象黙示録が完成されるまで、この歩みは止まることはない・・・!」

 

心配するシャルの問いにキャロルは迷うことなく断言した。キャロルがこうだと決めたのならば、残るオートスコアラーはその使命を最後まで全うすると誓った。

 

~♪~

 

翌日の早朝・・・日和と海恋はリディアンに向かう前に、とある場所に向かっている。場所が場所であるため、海恋は日和を心配する。

 

「ねぇ・・・本当に大丈夫?無理してない?」

 

「大丈夫だよ。いつまでも、目を背けていられないから」

 

そうは言うものの、日和の笑顔は少し引きつっている。海恋は日和が心配ではあるが、今は何も言わない。数分歩いていると、目的地にたどり着いた。その場所とは、かけがえのない大切なバンドメンバー・・・伊南小豆が眠る墓地であった。

 

「小豆・・・遅くなってごめんね・・・」

 

2人は小豆の墓に向かって歩き出す。

 

「あら・・・?誰かいるわ」

 

小豆の墓までたどり着くと、墓の前には先客がいた。その後ろ姿は黒いTシャツを着こんだスキンヘッドの男だ。男は後ろを振り返り、2人と目があった。

 

「え・・・!!?」

 

「ウソでしょ・・・」

 

日和と海恋はその男を見て、非情に驚いている。2人はこの男を知っているからだ。昔とかなり印象が変わってしまったが見間違えるはずがない。

 

「てめぇらは・・・」

 

「・・・大悟・・・君・・・」

 

この男・・・伊南大悟は・・・亡くなった小豆の弟で、かつては日和を尊敬していた少年だ。海恋が恐れていた事態が、起きてしまったのだ。




ミスティルテインの技

【Belial Of Vanity】
フォルテの技。日本語に略すとベリアルの虚飾。双大剣を持ち、空高く跳躍し、刃に赤黒いエネルギーを纏い、目標に目掛けて降下し、双大剣を振り下ろして斬撃を放つ技。敵を上空に放り投げるという使い方もある。

【Lucifer Of Pride】
フォルテの技。日本語に略すとルシファーの傲慢。大剣に業火の炎を纏わせ、斬撃と共に炎を放ち、敵を焼き払い、切り裂く技。今回は1度だけ、自分を信じ、散った命を背負う勇気を持ったフォルテは虹色の不滅の魂の炎を放つことに成功した。この炎はリリィの絶対零度の冷気さえも打ち勝てるほどの熱量を持つ。

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