チフォージュ・シャトーの玉座の間。玉座に座っているキャロルが立ち上がろうとした時・・・
「ぐぅ・・・!」
また拒絶反応が起き、激痛が走り苦しむ。キャロルは激痛を抑えるべく、背中を丸め、膝をつかせて痛みを抑えようとする。無論これでどうにかなるわけではないが、今はそれが最善なのだろう。
「マスター・・・いかがなさいますか?」
キャロルの不調を心配してか、レイアがそう問いかける。
「無論、まかり通る・・・!歌女共が揃っている・・・この瞬間を逃すわけにはいかぬのだ!」
元よりこうなることは覚悟はしていたキャロル。大願である世界解剖が果たされるその時は近い。ならばここで立ち止まるわけにはいかないのだ。
~♪~
都内の病院。海恋は今日も今日とて響のお見舞いにやってきた。海恋は響の病室に入る前に任務に出かけている日和に電話をしている。
「日和・・・本当に大丈夫?休んでなきゃいけないんじゃないの?」
『平気だよ平気。むしろ・・・ほら、私、昨日みんなに迷惑かけちゃったからさ。その分汚名挽回したいんだよ』
「それを言うなら汚名返上。挽回してどうすんのよ」
『とにかく大丈夫だよ。ししょーにも許可もらったし』
昨日のシャルの戦いで装者たちはレールガンの雷を受けたのだが、シンフォギアの防御機能が働いていたおかげで軽く休むことで無理なく任務に行くことができる。ただ日和だけは何度も雷を撃たれたのでダメージは大きい。本当は休んでた方がいいのだが、日和がどうしてもと言い出して、しまいには地に頭をつけてまで土下座をかましたことで弦十郎の方が折れてしまい、無理をしない条件で出撃の許可をもらった。
「どうせ、止めたところで黙ってついていこうとするでしょ?」
『えっ?なんでわかったの?海恋ってエスパー?』
「誰でもわかります!はぁ・・・本当頑固なんだから・・・。けど、本当に無理しないでよ?」
『うん。ありがとう、海恋。じゃ、任務、行ってくるであります!響ちゃんや大悟君のこと、お願いね』
「はいはい、気を付けていってらっしゃい」
海恋は頑固な日和の一面に呆れつつも笑いながら通話を切る。電話を終わらせた海恋はスマホをしまい、響の病室に入る。病室では響が未来に患者衣を着替えさせられていた。
「ふへえぇ~・・・前が全然見えないよぉ~・・・お先真っ暗だって・・・」
「いいからほら、バンザイして?バンザイ」
「ぶは・・・」
未来に面倒を見てもらっている響を見て海恋は少しおかしくなり、笑みを浮かべる。
「こっちもこっちで相変わらずね」
「あ、海恋さん!」
「こんにちは」
「退院しても、大人しくしてなさいよ?ただでさえ危なっかしいんだから」
「もぉ~、それ昨日も聞きましたよぉ~」
「響のために言ってるんでしょ」
海恋の言葉に頭をかいて笑っている響。そんな時、響のスマホに着信音が鳴る。着信相手は『お父さん』・・・つまり洸からだ。どうやらまた電話をかけてきたようだ。響は昨日と同じように何も言わず着信を切る。
「・・・検査、行かなきゃ」
響はすっと立ち上がり、検査のために病室から出ようとする。
「響・・・」
「へいき・・・」
「へっちゃらじゃない!」
平気を装うとする響に未来は立ち上がって声を上げた。響は立ち止まった。
「・・・未来がいる・・・みんながいる・・・だからお父さんがいなくったってへっちゃら」
そう言って響は病室を後にした。
「・・・洸さんから?」
「はい・・・」
「そう・・・」
海恋は響の家族に思うところが多々あるゆえか、響の背中を見つめるように、病室のドアを見つめている。
~♪~
一方その頃、武家屋敷ともいえる館の前に、緒川が運転する車が停車する。車から翼、マリア、フォルテの3人が降りる。
「ここが?」
「風鳴八紘邸・・・翼さんの生家です」
そう、この館は翼の父、風鳴八紘が住んでいる館であり、翼が生まれた家でもある。
「10年ぶり・・・まさか、こんな形で帰るとは思わなかったな・・・」
幼少期に過ごしてきた家に10年ぶりに帰ってきた翼だが、思いふけっている様子は一切ない。
~♪~
3人がどうして風鳴八紘邸に行くことになったのかは、昨日の作戦会議まで遡る。
「計測結果、出します」
モニターから電力供給図が表示される。オートスコアラーによって発電施設を多々破壊されたために、電力供給は政府要所に優先されている。いくつも表示されているが、その中に一か所、海の中に大きく表示されているものがある。
「電力の優先供給地点になります」
「こんなにあるデスか⁉」
「その中でも、ひときわ目立ってるのが・・・」
「深淵の竜宮・・・異端技術に関連した、危険物や未解析品を封印した、絶対禁区・・・秘匿レベルの高さから、俺にも詳細な情報が伏せられている、拠点中の拠点」
「オートスコアラーがその位置を割り出していたとなると・・・」
「狙いはそこにある危険物・・・」
これまでオートスコアラーが発電施設を破壊していたのは、深淵の竜宮という場所の特定するためであり、そこに眠っている危険物を奪うためであると装者たちは予測する。
「だったら話は簡単だ!先回りして迎え撃つだけのこと!」
「いや、事はそう簡単ではない。襲撃予測地点は、もう二か所ある」
フォルテがそう言うと、モニターには街の地図が表示され、オートスコアラーの襲撃予測地点が現れる。
「1つ目はこの墓地・・・」
そう、この1つ目の襲撃予測地点こそが、小豆の墓がある墓地で後にシャルが襲撃してくる場所となっている。
「そしてもう1つが・・・ここだ」
モニターに別の襲撃予測地点が現れる。その地点こそが風鳴八紘邸だ。当然、その場所を見た翼は驚きの声を上げる。
「ここって!」
「気になることがあったので、フォルテさんと共に調査部で動いてみました」
「調査の結果、神社や祠の損壊していた場所はいずれも明治政府帝都構想で霊的防衛を支えていた龍脈・・・レイラインのコントロールを担っていた要所であると判明した」
「錬金術とレイライン・・・敵の狙いの一環と見て、間違いないだろう」
「風鳴の屋敷には、要石がある。狙われる道理もあるというわけか・・・」
「検査入院で響君が欠けるが・・・打って出る好機かもしれないな・・・」
弦十郎はエルフナインに目配せをし、エルフナインは首を縦に頷き、装者たちに顔を向ける。
「キャロルの怨念を止めてください」
装者たちはわかっているかのように、全員が首を縦に頷いた。
「よし!チームを編成するぞ!」
その後だったのだ。襲撃予測地点の墓地にシャルが襲撃してきたのは。そのおかげで、出撃した装者たちはダメージを負い、翌日まで身動きが取れなくなり、チームの編成をし直したというわけだ。
~♪~
チームの再編成の結果、深淵の竜宮に向かうチームがクリス、調、切歌・・・そして飛び入りで日和の4人に。風鳴の屋敷に向かうチームが、翼、マリア、フォルテの3人になった。そして今に至るわけだ。翼、マリア、フォルテ、緒川の4人は屋敷の門の前に立ち、緒川は弦十郎の連絡を聞いている。
「了解しました」
連絡を聞き終えた緒川は内容を翼たちに報告する。
「クリスさんたちも、間もなく深淵の竜宮に到着するみたいです」
「東雲が無理をしないか心配だが、こちらはこちらのやるべきことをやろう」
「ああ。伏魔殿に飲み込まれないように気を付けたいものだ」
翼がそう言い終えると、木でできた門の両扉がゆっくりと開く。翼が先陣を切るように中に入り、3人もそれに続く。玄関へと続く道を歩いていき、その途中に見えた庭に鎮座する巨大な石に視線を向け、立ち止まる。これが要石・・・昨日の墓地の要石と同じものだ。
「要石・・・」
「あれが・・・」
「僕たちはオートスコアラーの相手をしていたゆえ、見るのは初めてだな・・・」
「翼さん」
緒川が翼を呼ぶと同時に、玄関から黒服の男たちを引き連れた着物を着た男がやってきた。この男こそが、弦十郎の兄であり、翼の父である、風鳴八紘だ。
「お父様・・・」
「ご苦労だったな、慎次」
八紘は翼に目を向けることなく、緒川に労いの言葉をかけた。緒川は黙って頷いた。
「それにS.O.N.Gに編入した君たちの活躍も聞いている」
「は、はい・・・」
「任務を全うしたまでです」
八紘の言葉にマリアは少し戸惑いつつも答え、フォルテはいつものように淡々と述べる。
「アーネンエルベの神秘学部門より、アルカ・ノイズに関する報告書も届いている。後で、開示させよう」
「はい」
八紘は翼に顔を合わせようとしていない。そのことで翼は顔を俯かせている。そして八紘は最後まで翼に一声かけることもなく、屋敷に戻ろうとする。
「・・・っお父様・・・!」
翼は思わず声を上げて彼を呼んだ。その声に八紘は足を止めた。ただ、やはり翼と顔を合わせる様子はない。
「沙汰もなく、申し訳ありませんでした・・・」
「・・・お前がいなくとも、風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場に戻ればいいだろう」
しかし八紘の返ってきた言葉はとても冷たかった。そんな父親らしからぬ言動にマリアが彼に文句を言おうとする。
「待ちなさい!あなた翼のパパさんでしょ⁉だったらもっと他に・・・!」
「マリア、落ち着け」
だがそんな彼女をフォルテが止める。
「でも・・・」
「いいんだ、マリア。いいんだ・・・」
「気持ちはわからんでもないが、抑えろ」
翼自身がそう言うならば今は下がる他ないマリア。もう話すことはないと言わんばかりに八紘は屋敷に戻っていく。そんな時、庭の池の前で大気が揺れた。その揺らめきに気づいた緒川とフォルテは拳銃を取り出し、大気に向けて弾を発砲する。しかし、弾丸は突如発生した強風によってかき消された。そして、その強風が晴れると、風のオートスコアラー、ファラが現れる。
「野暮ね。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに」
「あの時のオートスコアラー!」
突如現れたファラに翼とマリアも身構え、黒服の男たちも八紘を守るために拳銃を構える。
「レイラインの解放・・・やらせていただきますわ」
「やはり狙いは要石か!」
「ダンス・マカブル!」
ダンス・マカブル・・・その言葉の意味するところは死の舞踏。それを体現するかのようにファラはアルカ・ノイズの結晶をばら撒いてアルカ・ノイズを召喚させる。
「ああ、付き合ってやるとも!」
翼は不敵な笑みを浮かべ、ファラの誘いに乗る。ギアネックレスを握りしめ、翼は詠唱を唄う。
Imyuteus amenohabakiri tron……
シンフォギアを身に纏った翼はまずは前座であるアルカ・ノイズを刀で1体、また1体と次々と蹴散らしていく。同じくシンフォギアを纏ったマリアは篭手の短剣をアルカ・ノイズに向けて複数投擲して蹴散らし、さらに右手に持った短剣を蛇腹剣に変形させ、変則的な動きでアルカ・ノイズを斬り裂く。さらにシンフォギアを纏ったフォルテは大剣を両剣に変形させ、両剣を回転させながら斬撃を振るい、アルカ・ノイズを蹴散らし、さらに両剣をブーメランのように投擲して次々とアルカ・ノイズを斬り裂く。
「ここは私が!」
「うむ!務めを果たせ!」
この場を翼たちに託し、八紘は黒服の男たちと共に戦線を離脱する。娘としてではなく、防人としてかけられた言葉に翼は表情を曇らせたが、すぐに気持ちを切り替えて目の前の戦いに集中し、向かってくるアルカ・ノイズを刀で切り裂いていく。
「さあ、捕まえてごらんなさい」
ファラは足元に竜巻を纏い、宙を飛びながら体当たりを仕掛ける。翼は繰り出された風の体当たりを躱し、刀を大剣に変形させて、空中に飛び交うファラに蒼の斬撃波を放つ。
【蒼ノ一閃】
向かってくる青の斬撃波をファラは自身の剣であるソードブレイカーが放つ斬撃波で相殺させた。翼は地に着地してすぐに跳躍し、刀を放り投げる。投げられた刀は巨大な剣へと変形し、翼は脚部のブースターを展開して剣の柄に蹴りを放ち、ファラに向かって降下する。
【天ノ逆鱗】
「ふふ、何かしらぁ?」
ファラは小さく微笑みながら向かってくる巨大な剣をソードブレイカーの剣先で受け止めた。そして、その瞬間、ソードブレイカーの刀身に紋様が現れ、受け止めた大剣を赤黒く変色していく。
「な、何!!?」
そして、巨大な剣に大きな亀裂が走り、砕かれていく。
(剣が・・・砕かれていく・・・!)
剣が砕かれたと同時に強力な閃光が放たれ、翼は吹っ飛ばされる。
「うああああ!!」
「翼!!」
「風鳴!!」
衝撃に吹っ飛ばされた翼は地に叩きつけられる。
「私のソードブレイカーは『剣』と定義される物であれば、強度も硬度も問わずかみ砕く哲学兵装。さ、いかがいたしますか?」
剣殺しの剣、ソードブレイカー。文字通りの名を持つ剣の切っ先を横たわっている翼に指し向けるファラ。自身を剣と評している翼とはまさに相性は最悪である。
「強化型シンフォギアでも敵わないのか・・・⁉」
「剣がダメなら・・・これはどうだ!」
フォルテは大剣を銃に変形させ、ファラに切っ先を向け、エネルギー弾のエネルギーを溜め、大きくなった弾をファラに撃ち放つ。
「無駄よ」
ファラはソードブレイカーを振るい、斬撃波を放って向かってきたエネルギー弾の弾を飲み込んでいく。向かってきた斬撃波にフォルテはすぐに大剣を元に戻し、地面を大剣で抉って巨大な土の盾を創り出す。斬撃波は土の盾を破壊した。斬撃波を防ぐことはできたが、衝撃までは消すことができず、風圧でフォルテは吹っ飛ばされる。
「うおおおおお!」
「フォルテ!」
「申し訳ないけど、あなたの歌には興味がなくなりましたの」
フォルテに興味をなくしたファラは彼女に向けてそう言い放った。
「くっ・・・おのれ・・・!」
「ぜああああ!!」
マリアは複数の短剣をファラに向けて投擲して攻撃を仕掛けた。ファラは先ほどと同じようにソードブレイカーを振るって斬撃波を放った。放たれた短剣はこれもまた剣と定義とされ、斬撃波によって砕かれた。まったく衰えない一撃にマリアは間一髪で躱した。しかし、それによって射線上にある要石に斬撃波が直撃し、粉々に砕け散った。
「あら?アガートラームも剣と定義されてたかしらぁ?」
ファラの物言いからして、マリアは最初から最後まで眼中にない様子だ。
「哲学兵装・・・概念や呪いに干渉するゲッシュに近いのか・・・?」
「ごめんなさい?あなたの歌にも興味がないの」
ファラはそう言って右手を振り下ろして自身の周りに竜巻を引き起こした。
「剣ちゃんに伝えてくれる?目が覚めたら改めてあなたの歌を聞きに伺いますって」
ファラがそう言い残すと竜巻は周囲に霧散した。そこにファラの姿はどこにもなかった。同時に雲行きが悪くなり、雨が降り始めた。要石の防衛に失敗したマリアとフォルテは気を失っている翼を屋敷に運んでいく。
~♪~
S.O.N.G本部の潜水艦は目的地である深淵の竜宮に向かっている。ブリッジで弦十郎は緒川からの報告を聞く。
『要石の防衛に失敗しました。申し訳ありません・・・』
「二点を同時に責められるとは・・・」
『二点・・・?まさか・・・!』
「ああ、深淵の竜宮にも侵入者だ!セキュリティが奴らを補足している!」
モニターの映像に映っていたのは深淵の竜宮に侵入したレイアと復活したキャロルであった。レイアはコインを投擲して、目の前のセキュリティを難なく突破する。キャロルは監視カメラに気付いているのかこちらをちらりと見つめた。
「キャロル・・・」
「キャロルちゃんはあの時私たちの目の前で自殺したはずなのにどうして・・・?」
「閻魔様に土下座して蘇ったのか?」
自害したはずのキャロルが生きていたことに少なからずここにいる一同全員が驚いている。
「奴らの策に乗るのは癪だが、見過ごすわけにはいくまい。クリス君は、調君と切歌君と、一緒に行ってくれ」
「おうよ!」
弦十郎の指示にクリスは威勢よく答える。
「ししょー!私も行きます!」
「ふぅ・・・どうせ止めたって行くつもりだろう?」
日和も一緒に行くと聞き、弦十郎は少しため息をこぼしてそう答えた。
「わっ!ししょーまで!もしかしてししょーもエスパー?」
「さすがにあそこまで必死になったら折れるだろ・・・」
弦十郎に考えを見抜かれた日和は非常に驚いたが、頼み込む一部始終を見ていたクリスは呆れてツッコミを入れる。
「えへへ・・・。でも、昨日迷惑をかけた分、私も精いっぱい頑張りたいんです!ししょー、私に汚名挽回のチャンスをください!!」
「それを言うなら汚名返上・・・」
「わかったわかった。だが、無理だけはするなよ」
「はい!!」
出撃の許可をもらい、日和は元気よく返事をする。その間にもカメラに映っているキャロルたちは先へ進んでいき、レイアは監視カメラに向けてコインを投擲してカメラを破壊した。
デストロイヤーモード
雷のオートスコアラー、シャルに搭載された決戦機能。通常状態が制圧戦が得意なのに対し、デストロイヤーモードは殲滅戦を得意としている。外見はカウガールの服装が機械化し、レールガンはシャルの手に纏い、機銃となる。この状態になった時の雷の弾丸は威力、連射性能、感電性能も向上されており、さらにミサイルも搭載されている。思い出が消費しきるか、相手を殲滅するまで止まることは決してない。当然、この形態になった時の思い出の消費量は凄まじく、滅多なことではシャルはこの形態を使うことはない。