これは大昔の記憶。サンジェルマンがまだ子供であった頃の記憶。サンジェルマンは病に患っている母を助けようと思い、父に助けを求めようとした。身分の違いで相手にもされず、サンジェルマンは部下の男たちに取り押さえられていた。
「お母さんを助けてください!!ずっと熱が下がらなくてすごく苦しそうで・・・お願いです、助けて、お父さん!!」
「奴隷が私にすり寄るな!!!粉吹く虫の分際で!!」
サンジェルマンの声が煩わしくなった父は振り返り、怒鳴り声を上げた。そしてサンジェルマンに近づき、彼女を張り倒した。サンジェルマンは階級貴族である父が戯れで奴隷である母に手を出したことで生まれた子供で、父からの愛情などあるはずもない。
「慰みを与えた女の落とし子につけあがらせるな。奴隷根性を躾けておけ」
父はそう吐き捨て、去っていった。
援助を得ることができなかったサンジェルマンは母がいる部屋に戻った。
「ごめんお母さん。今日も食べ物を手に入れられなくて・・・。でも一昨日のパンがまだ残っているから・・・」
声をかけたが返事はなかった。どうしたのかと思い、サンジェルマンは母に呼び掛ける。
「お母さん?お母さん!」
何度も声をかけたが、母に返事はなかった。それどころか母はピクリとも動くことはなかった。
「お母・・・さん・・・」
そう・・・母はすでに衰弱死し、この世を去ってしまったのであった。
~♪~
サンジェルマンは明かりが灯っていないエドワードの研究部屋で自身が奴隷であった頃の記憶を思い出していた。研究部屋は和が強調されており、床は畳、書物などは巻物、筆記用具などは筆などといった徹底ぶりだ。書物には神の力の解析、アルカ・ノイズのレシピ、錬金術師でも解読困難な図面などが書かれている。そんな和の研究部屋に場違いな装置が設置されいる。装置の中にはハート形の結晶が4つ入っていた。
「ラピス・・・錬金の技術は、支配に満ちた世の理を、正すために・・・」
サンジェルマンには、自分と同じ境遇の者を生み出せはしないという強い志が燃えていた。
~♪~
西園寺家の洋屋敷。この屋敷の正門が開かれ、緊迫した顔をした海恋が入ってきた。先日届いた手紙に書かれていた指定場所とは西園寺家の屋敷だったのだ。夢を叶えるまでは戻らないと誓った家だが、そうも言ってられない状況であるのは間違いない。海恋は警戒を解くことなく、慎重に奥へと進む。懐かしい屋敷、変わらない額縁を見ても、懐かしいという感情は抱かない。その理由は、屋敷が不気味なほど静かで、使用人が誰1人として見当たらないからである。心地悪い心境を抱きながら、海恋は指定場所である父の執務室に入る。だが執務室には誰も人がいない。
「1人で来たわよ!いい加減姿を見せたらどう⁉」
海恋が声を上げても、待っていたのはしばらくの沈黙。すると、その沈黙を破るように床から複数の転送陣が現れ、そこから数多くのフードを被った人間が現れる。突然現れたフードの人間に海恋は固唾を飲んでいる。
「誰にも相談せず、たった1人で来ようとは・・・なかなか勇気があるではないか」
同時に執務室に女性の声が聞こえてきた。その声の主はいつの間にかオフィスチェアに座っていて、海恋に背を向けている。発せられた声にフードの人間たちは全員片膝をついて跪いた。
「あなたは・・・何者なの・・・?」
海恋の問いかけにオフィスチェアに座った女性は座ったまま海恋に顔を向けた。
「妾は、パヴァリア光明結社の錬金術師。名をエドワードという。気軽にエドと呼んでくれて構わぬぞ」
その女性とは、パヴァリア光明結社の幹部の1人、エドワードであった。エドワードは視線を海恋に向けたまま、妖しく笑っている。
~♪~
錬金術師たちは街中にある高級ホテルで待機していた。カリオストロは街の光景を眺めており、ティキはベッドに寝そべり、少女漫画であるうたずきんを読んでいる。だが何が面白いのかわからないといったように、退屈そうにしている。
「はぁ~・・・退屈ったら退屈~!いい加減アダムが来てくれないと、あたし、退屈にくびり殺されちゃうかも~!!このこの~!!」
「・・・ふん」
その様子をソファに座って見ていたプレラーティは鼻を鳴らして紅茶を飲んでいた。プレラーティはティキのことが苦手というより、大がつくほどに嫌いである。ティキが計画の要でなければ、とっくの昔に壊していたところだ。
「ねぇ、エドは?」
カリオストロがエドワードがどこにいるか訪ねてきた。
「知らないワケダ。でも自分の配下の錬金術師を何人も引き連れているのを見たワケダ」
「あらあら、ずいぶん大所帯ねぇ」
どうやらエドワードは自分が何をやっているかまでは教えていないようだ。
「まぁ、あの人ならヘマはしないワケダ」
「それもそうね。で、サンジェルマンは?」
「私たちのファウストローブの最終調整中なワケダ。踊るキャロルのおかげで、ずいぶんと捗らせてもらったワケダ。後は・・・?どこに行こうとしてるワケダ?」
質問に答えたプレラーティの横をカリオストロは通り抜ける。プレラーティはティーカップとソーサーを持ったままソファから立ち上がる。
「もしかしてもしかしたらぁ!まさかの抜け駆け⁉」
「ファウストローブ完成まで待機できないワケダ・・・」
「ローブ越しってのがもどかしいのよねぇ。あの子たちは直接触れて、組みしきたぁいの♡」
カリオストロは振り返り、自身の身体を抱いて楽しそうに言った。
「直接触れたいって、まるで恋ような執心じゃな~い!あー!あたしもアダムに触れてみたい!むしろ散々バラ振れ倒されたい~!!」
カリオストロの言葉に共感したのかティキはが身をよじらせ、ベッドに倒れ込んで左右に転げまわった。その様子にプレラーティは深い呆れの感情を抱いた。
~♪~
西園寺家の屋敷でエドワードと対面する海恋は自分が今気になっていることを問いつめようとする。
「みんなをいったいどこにやったの!!?あなたたちの目的はいったい何!!?」
海恋の態度を無礼だと感じ取ったフードの人間・・・いや錬金術師たちは海恋に近づこうとした時、エドワードが左手を軽く上げて、それを制した。
「ふぅ・・・最近のわっぱは困ったものじゃ。ロクに考えようとせず、すぐに答えを求めようとする」
「答えて!!」
「まぁ、よかろう。1人でやってきたその勇気に免じよう。1つ目の質問じゃが・・・汝が言っておるのは・・・これのことかのぅ?」
海恋の質問に答えるようにエドワードは黄金の球体を取り出した。黄金の球体には、西園寺家の使用人、海恋の両親が眠っていた。
「父さん!!母さん!!みんな!!」
「安心せい。殺してはおらぬ。今はただ、眠っておるだけじゃ。事が終われば全員解放すると約束しよう」
海恋を安心させるようにエドワードはそう言ったが、当の本人はキッとした表情で睨みつけてくる。その様子にエドワードはクスリと笑っている。
「もう1つの質問についてじゃが・・・そうじゃのぅ・・・あるべき姿を取り戻すため・・・と言わせてもらおうかのぅ?」
「あるべき・・・姿・・・?」
あるべき姿という単語に海恋は疑問符を浮かべている。
「この家には元々あるべきものが存在しておった。じゃが、それは時代の流れによって、今や忘れ去られた存在となってしもうた。妾はそれを取り戻したい。そのためには今の支配構造が邪魔でのぅ。現代の仕組みに乗っ取らせて、このようにさせてもらったというわけじゃ」
「現代の仕組み・・・?」
現代の仕組みという単語を聞き、海恋は考えた。そして、すぐにその答えを見つけた。
「まさか・・・西園寺グループの買収は・・・!」
「なかなか察しがよいのぅ。そうとも。買収相手とは・・・妾のことであるぞ」
この西園寺グループの買収を仕掛けたのは、このエドワードであったのだ。だが海恋はそれならばこのように西園寺家を襲撃した意味が理解できなかった。
「だったら何でこの屋敷を襲ったのよ!それも取り戻したい何かが関係しているの⁉」
「そうじゃのぅ・・・教えてやってもよいが、それではつまらぬからのぅ・・・ふむ・・・」
エドワードは考える素振りをして、笑みを浮かべながらある提案をした。
「ではどうじゃろうか?ここは1つ、妾と勝負せぬか?」
「・・・勝負?」
「そうとも。勝負を受ければ、妾の取り戻したいものを教えてやろう。それだけではない。もし汝が勝てば、買収の話は全てなかったことにしてやろう」
「!!?」
「逆に、妾が勝てば、その西園寺グループとやらは妾のものじゃ」
海恋は耳を疑った。これだけ事を大きくしておきながら、勝負1つ勝つだけで全てをなかったことにしようとしていることが信じられなかった。
「本気で言っているの!!?」
「買収の件じゃがのう。もうすでに9割は完了して、株主も納得しておる。あと一押しで妾の目的は達成する。じゃが妾はあえてそれをしない。それではつまらぬからのぅ。スリルが足りぬ。この妾を激しく燃えたぎるスリルが。ならばこの状況はうってつけだとは思わぬか?西園寺の命運を賭けた大博打。ぞくぞくするじゃろう?」
エドワードの解釈に海恋は彼女を睨みつけつつ、黄金の球体を見る。普段なら挑発に乗ることはないのだが、あの球体には両親や使用人がいる。危害は加えないと言っていたが、どこまで信じていいかわからない。曲がりなりにも育ててくれた家族を放っておくなど、海恋にはできなかった。
「・・・わかった。その代わり、その人たちには手を出さないで!」
「ふふふ、自分や家よりも家族優先とは、健気じゃのぅ。妾はそういう思いやりは好きじゃぞ。いいじゃろう。元よりこちらもこれ以上事を荒立てるつもりはないのでな」
エドワードは笑いながら懐から花札を取り出し、それを海恋の足元に飛ばした。
「いつもなら賭博・・・と言いたいところじゃが、汝はまだわっぱじゃからのぅ。ここは1つ、こいこいという遊びをしようではないか。じゃが、ただ普通にやるのではない。自身の番が終わるたびに、1つ問題を出し、正解ならば番を譲り、不正解ならばもう1度自分の番を行う特殊ルールじゃ。推測、知恵、そして運が試される勝負じゃ。賭博ほどではないが、中々おもしろいじゃろぅ?」
特殊ルールを聞いた海恋は花札を拾い、エドワードに促されたテーブルの椅子に座る。それを確認したエドワードはもう1つの椅子に座り、錬金術でテーブルに花札を並べた。
「さあ・・・始めるとするかのぅ」
全ての準備を整え、エドワードは頭の狐のお面を被る。海恋にとって負けられない特殊こいこいが始まった。
~♪~
一方その頃、S.O.N.G主要メンバーと装者一行を乗せた装甲車はとある場所へと向かうために松代の道を走っている。
「先の大戦末期、旧陸軍が大本営移設のために選んだこの松代には特異災害対策起動部の前身となる非公開組織、『風鳴機関』の本部もおかれていたのだ」
「風鳴機関・・・」
風鳴という名前に日和、響、クリスの3人は思わず翼に視線を向ける。風鳴は翼や弦十郎、そして翼の父八紘の苗字だ。風鳴機関と深く関係があるのは、言うまでもない。
「資源や物資の乏しい日本の戦局を覆すべく、早くから聖遺物の研究がおこなわれてきたと聞いている」
「それが天羽々斬と、同盟国ドイツより齎されたネフシュタンの鎧やイチイバル、ガングニール・・・そして遺跡より新しく発見された如意金箍棒・・・」
「バルベルデで入手した資料はかつてドイツ軍が採用した方式で暗号化されていました。そのため、ここに備わっている解読器に掛ける必要が出てきたのです」
翼たち3人が持ち帰ってきた資料はドイツ軍の採用された暗号のおかげで解読困難とされている。その状況を打破するために風鳴機関に向かわなくてはいけないというのが現状だ。ただ、その間、最高レベルの警戒態勢に入るため、そこに住む住民たちは退去命令が下されるのだ。その光景は装甲車の窓からよく見える。
「暗号解読器の使用にあたり、最高レベルの警備態勢を周辺に敷くのは理解できます。ですが、退去命令で、この地に暮らす人々に無理を強いるというのは・・・」
「守るべきは、人でなく・・・国」
「人ではなく・・・」
守るべき対象は人ではなく国であるという風鳴機関の考えに装者たちは顔を強張らせる。響は顔を俯かせて、曇った表情を見せている。
「世も末だな。民あっての国であろうに」
「少なくとも、鎌倉の意思はそういうことらしい」
フォルテの皮肉ともいえる言葉に弦十郎は静かにそう返答を返した。話している間にも装甲車は風鳴機関の研究施設に到着した。
~♪~
風鳴機関の研究施設内。ここにあった暗号解読器が稼働を始め、バルベルデの資料の解読が始まった。
「難易度が高い複雑な暗号だ。その解析にはそれなりの時間が要するだろう。翼」
「ブリーフィング後、雪音、東雲、立花を伴って周辺地区へ待機。警戒任務にあたります」
「うむ」
弦十郎が指示を出す前に翼が警戒任務の進言した。翼の言葉に弦十郎は首を縦に頷く。
「あの・・・私たちは何をすれば・・・」
ギアを纏うことができない自分たちは何をすればいいか調は弦十郎に訪ねた。
~♪~
フォルテ、マリア、調、切歌に与えられた役目は避難に遅れた住民たちの捜索である。双眼鏡を持って周囲を見渡す調と切歌。その後ろにマリアとフォルテがついていきながら辺りを見渡す。
「9時方向異常なし!」
「12時方向異常・・・ああああああ!!」
何かを発見した切歌は突然大きな声を上げた。3人は切歌が見た視線の方向に顔を向ける。
「あそこにいるデス!!252!レッツラゴーデス!」
切歌は農園で見えたかかしに指をさし、そちらへと向かっていった。
「真似してみたいのはわかるけど切ちゃん・・・それは・・・」
「早くここから離れて・・・て、怖!!人じゃないデスよー!!」
「最近のかかしはよくできてるから・・・」
「まぁ・・・間違えるのも無理はないだろう」
切歌の様子に調は呆れ、彼女の元に近づいていった。その様子に微笑むフォルテだが、マリアの表情はどこか暗かった。
「LiNKERのない私たちにできる仕事はこれくらい・・・」
「これも立派な仕事だ。悲観することはない」
LiNKERがない状況下がもどかしく感じるマリア。それは調と切歌も同じであろう。そんな3人の気持ちを纏めるように1番大人なフォルテがフォローに入っている。
「これを機に気を紛らわせたい気持ちはわかる。だが焦るな。エルフナインは必ずやってくれる。そうだろう?」
「・・・そうね。フォルテの言うとおりね」
フォルテのフォローによって沈んでいた気持ちが少しは和らいだマリア。
「そうデス!今は住民が残っているかを全力で見回るのデス!」
「ふっ、力みすぎて空回りしないようにな」
「わかってるデス!任務再開デース!」
頬を叩いて気合を入れ直した切歌は前を見ずに走り出した。そのちょうど同じタイミングで切歌の目の前でトマト畑から人影が飛び出してきた。
「切ちゃん!後ろ!」
「ひょえ!!」
「言っているそばでか・・・」
調が注意するもすでに遅く、切歌目の前に現れた人物とぶつかってしまった。その際にいくつかのトマトが転げ落ちて地面に転がっている。ぶつかった人物のおばあさんは格好から見てこの畑の主と見て間違いないだろう。マリアとフォルテはぶつかった人物の元へ駆けよる。
「大丈夫ですか⁉」
「ごめんなさいデス!」
切歌はすぐに膝をついてぶつかったおばあさんに謝罪する。
「いやいや、こっちこそすまないねぇ」
切歌の不注意をおばあさんは笑って許してあげた。
「政府からの退去指示が出ています。急いでここを離れてください」
「はいはい。そうじゃね。けど、トマトが最後の収穫の時期を迎えていてねぇ」
おばあさんはかごの中に入っていたトマトを握って見せてくれた。
「わぁ!」
「おいしそうデス!」
「おいしいよぉ。食べてごらん」
調と切歌はおばあさんからトマトを受け取り、切歌はさっそくそれをかぶりついた。
「ん~!!おいしいデス!!調も食べるデスよ!」
「いただきます。はむ・・・。本当だ!近所のスーパーのとは違う!」
トマトの味はとてもおいしく、2人はお互いに笑いあっている。
「そうじゃろう。丹精込めて育てたトマトじゃからなぁ」
「あ、あのね、お母さん・・・」
マリアがおばあさんに避難を促そうとした時・・・
「きゃはーん!みぃーっつけた♡」
マリアが危惧していたことが的中するかのように、カリオストロが急襲してきた。マリアがおばあさんを下がらせ、フォルテ、調、切歌が前に出る。
「あれま、じゃない方。いろいろと残念な三食団子ちゃんたちに、超絶美形なイケメン君かぁ・・・」
「三!!?」
「食!!?」
「団子とはという意味デスか!!?」
カリオストロの挑発ともとれる言葉にマリア、調が反応し、切歌が憤慨する。フォルテ自身も言葉にはしないが、イケメンと言われても嬉しくないため、こめかみが引くついている。
「見た感じよ?怒った?まあがっかり団子三姉妹たちとやり合ってもねぇ~・・・」
「その舐めた態度が命取りだ!」
先手に出たのはフォルテだった。フォルテは走り出し、カリオストロに目掛けて拳を振るった。カリオストロはその拳をぎりぎりで躱した。
「ちょ・・・!!?」
さらに追撃するようにフォルテはカリオストロに蹴りを放つが、これも避けられてしまう。しかしフォルテの身体能力を見抜けなかったのは、よほど舐めきっていたからであろう。
「フォルテ!」
「君たちはご婦人をお守りしろ!」
フォルテはマリアたちに的確な指示を送り、マリアたちは首を縦に頷いた。
「ちょっと~、生身でも戦えるってあり~?でも、嫌いじゃないわ。あんたあーし的にはタイプかも。どう?あーしとデートでも♡」
「断る!」
フォルテはカリオストロの挑発に乗らず、拳銃を取り出して発砲する。迫ってくる弾をカリオストロは錬金術の障壁で防いだ。
「あらま、残念。なら、信号機とウサちゃんが来る前に、片付けてあげちゃう!」
カリオストロはアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚した。いくらフォルテでもギアを纏っていないならば太刀打ちができない。ならば自分たちができることはただ1つ。おばあさんを守りながら逃げるしかない。
~♪~
アルカ・ノイズが出現した知らせは風鳴機関の施設内でも確認できた。警戒任務にあたっていた装者たちに知らせが届いた。
『アルカ・ノイズの反応を検知!出現ポイント、S16!数およそ、50!』
「了解です!すぐに・・・」
『あたしに任せな!』
日和が応答したところに、クリスの通信が遮った。
「こっちの方が、近いからな!」
現場に向かっているクリスはギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。
Killter Ichaival tron……
ギアを纏ったクリスは大型ミサイルを放ち、その上に乗ってアルカ・ノイズ出現ポイントに向かうのであった。
~♪~
マリアがおばあさんを背負い、調と切歌を伴って追いかけてくるアルカ・ノイズから逃げる。フォルテも3人の後を追いながら、迫ってくるアルカ・ノイズに拳銃を撃ち放つ。だがその程度でアルカ・ノイズが止まるはずもなく、弾を受けながらも追いかけてくる。
「マリア!もっと急ぐデス!」
「くっ・・・!」
「こんな奴らに、背中を見せるなんて!」
「ぼやくな!走れ!」
アルカ・ノイズの1体はフォルテに向かって解剖器官を伸ばしてきた。危機を察知したフォルテは解剖器官に向けて拳銃を放り投げた。解剖器官は拳銃に巻き付き、それを分解した。すると同時に、上空から矢の雨がアルカ・ノイズに降り注いだ。矢に貫かれたアルカ・ノイズは消滅した。放たれた矢は上空に飛ぶミサイルに乗るクリスが放ったものだ。
「助かったデス!憧れるデス!」
「後は任せた!行くぞ、3人とも!」
後をクリスに任せ、4人はおばあさんと共に戦線を離脱する。
『クリスちゃん、現着!』
『そのまま交戦状態へと移行!』
『錬金術師は破格の脅威だ!まずは翼たちの到着を待って・・・』
「そうも・・・言ってられなさそうだ!!」
弦十郎が通信越しで指示を出す間にも、カリオストロがクリスに向けて光弾を放ってきた。
「会いたかったわぁ!ああ〜ん!巡る女性ホルモンが煮えたぎりそうよぉ〜!」
クリスはボウガンの矢を放って光弾を相殺するが、全て相殺はできず、一部がミサイルのブースターが直撃し、クリスが降りると同時に爆発する。地に着地したクリスはさらに追撃してきた光弾を躱す。
「やっと近くに来てくれたぁ~~~!!」
カリオストロは歓喜の声を上げて、多くの錬金陣を展開し、そこよりさらに大量の光弾が放たれる。クリスはバク転して光弾を回避してカリオストロから距離を取る。光弾の直撃によって砂埃が舞う。砂埃が晴れると大弓を構えたクリスが矢の狙いをカリオストロに定める。
「焦って大技。それが!命取り、なのよね」
だがカリオストロはクリスが矢を放つ前にクリスの背後に回った。だがそれは想定内である。
「ああ。誘い水に乗って隙だらけだ」
「なっ⁉」
逆に自分が誘い込まれていたことに気付いたカリオストロが首を横に振り向くと、響が自身の懐まで入られ、彼女から肘打ちを腹部にもらった。
「内なる三合、外三合より勁を発す。これなる拳は六合大槍!!映画は何でも教えてくれる!」
カリオストロは起き上がったと同時に上空に気配を感じ、上を見上げる。上空には日和がカリオストロに狙いを定めて棍を投擲する態勢をとっている。
「天上天下唯我独尊!それ即ち唯一無二の一撃なり!その身に叩き込め!」
決め台詞を放った日和は力強く棍を投擲した。迫りくる棍にカリオストロは跳躍して躱した。棍は地に直撃し、土煙が発する。地に着地したカリオストロはすぐ近くに壁のようなものがあることに気付いた。壁のようなものは鏡のようにカリオストロを映し出している。
「壁・・・?」
「壁呼ばわりとは不躾な!剣だ!」
突き刺さっていたものは壁ではなく、巨大な大剣であった。柄の上で腰に手を当てて佇んでいる翼は剣を壁呼ばわりしたことに力強くそう指摘する。
「信号機共がチカチカと・・・!ウサちゃんもちょろちょろと鬱陶しい!」
この状況下でも交戦を続けようとするカリオストロにサンジェルマンからのテレパスが届いた。
『私の指示を無視して遊ぶのはここまでよ』
「ちっ・・・!」
カリオストロは舌打ちをして、テレポートジェムを足元に放り投げた。
「次の舞踏会は、新調したおべべで参加するわ。楽しみにしてなさい。ばあ~い♪」
カリオストロは手を振りながら自分たちの拠点へと転移するのであった。
~♪~
一方西園寺家の屋敷。執務室で西園寺の命運をかけたこいこいは最終局面に入っている。ポイント数的にはエドワードが非常に有利な状況で、役も揃いかけている。
(相手の役は揃いつつある・・・総合得点も、あっちが有利・・・多分、次の一手が勝負の決め所!)
「では、錬金術に関する問題を1つ」
(来た!錬金術の問題!)
エドワードは次の番を決めるための問題を海恋に出す。海恋は相手が錬金術師ならば、必ずこの問題を出すという推測が当たり、身構える。
「錬金術は、解析、分解、構築からなる3つが基本じゃが、その構築において最も必要なこと、そして、それに伴うリスクを答えてみよ」
人々は錬金術という技術そのものを知らない。普通なら答えられないものだ。だが海恋はエルフナインを通じて錬金術を学び、今も学びを続けている。ゆえに答えられる。
「構築に必要なこと・・・それは等価交換。いかに錬金術と言えども、無から有を作ることは決してできない。ゆえに原材料が必要不可欠。そして、正しい構築、原材料を揃えなければ失敗し、それが対価以上のものとなれば、リバウンドが発生し、術者に多大なダメージを負うこととなる!これが、構築に伴うリスク!」
海恋が出した答えにしばらくの沈黙・・・そしてしばらくたつとエドワードが拍手を送る。
「お見事。実に素晴らしい回答じゃ。さあ、汝の番じゃ」
正解して海恋の番になったのはいいが、手元の札では、合い札で札を回収することはできるが、役を作ることはできない。ならば、勝負は山札の1枚で決まる。海恋が山札をめくろうとした時、脳裏に幼少期に培った苦労、孤独、虚無感を味わった日常を思い出した。それら全てを虐げられてきた原因は、他ならない、この西園寺家にある。ならば助ける必要があるのか?しかし、それでも育ててもらった事実は変わらない。自分を娘として認めてほしい。様々な感情が海恋の心に渦巻いてきた。海恋はそんな迷いを無理やり振り払う。
(それでも・・・こんなところで終わらせられたら・・・後味が悪いのよ!!」
迷いを強引に振り払い、海恋は札を1枚めくった。出てきた札は・・・『松に鶴』。海恋が獲得した合い札が揃い、1つの役が完成した。
「雨四光・・・これで・・・あなたの持つ得点を越えた・・・私の・・・勝ちよ!」
海恋の得点が雨四光の完成で1点差でエドワードのポイントを越えた。ギリギリと言えど、海恋は勝利を収めたのだ。
「・・・一目で記憶できる直観記憶力・・・あらゆる問題を推測する洞察力・・・難問を難なく回答する知恵・・・そして・・・土壇場で掴みとる、天からの恵み、運・・・」
エドワードはぶつぶつ呟きながら海恋をじーっと見つめる。そして・・・
「・・・ふ・・・ふふ・・・」
バッ!ガシャーン!!
「はははははははは!!」
顔を覆っていた狐のお面を放り投げ、嬉しそうに大きな笑い声をあげた。放り投げた狐のお面は大きな音を立てて割れてしまう。突然高笑いをするエドワードに海恋は彼女を不気味に思った。
「な、何がおかし・・・」
海恋が問い詰めるよりも先に、エドワードは海恋の顔にずずいっと近づいた。表情も元の状態に戻っている。そして・・・エドワードは驚くべきことを言い放った。
「気に入った。西園寺海恋。妾たちパヴァリア光明結社に入らぬか?」
S.O.N.Gの敵であるパヴァリア光明結社。そこに所属するエドワードが何の力も持たない海恋を勧誘してきた。海恋は何を言っているのか意味が理解できず、驚愕した表情でエドワードを見つめるのであった。
フォルテの誕生日
マリア「ねぇ、フォルテ・・・」
フォルテ「なんだ?何か言いた・・・」
プルルル・・・
フォルテ「と・・・電話だ。すまないが後にしてくれ」
マリア「あ・・・」
数分経過・・・
マリア「フォルテ、今日なんだけど・・・」
フォルテ「すまない、やらなければいけない仕事ができた。もう少し待ってくれ」
マリア「あ・・・もう!」
仕事が終わるころには夜に・・・
フォルテ「思いのほか時間がかかってしまった・・・。そういえばマリアは、いったい何を伝えようとしていたのか・・・?」
フォルテ、宿泊先のホテルに帰還
フォルテ「今戻った」
マリア「遅い!どれだけ待たせるつもりなのよ!」
フォルテ「マリア?待たせる・・・とはどういう意味だ?」
マリア「どうもこうもないわよ!今日はあなたの誕生日でしょ⁉」
フォルテ「・・・ああ、そうか。今日は僕の誕生日だったか。では話したかったこととは・・・」
マリア「誕生日プレゼントを渡そうと思ってたのよ!それなのにあなたは仕事でのらりくらりと・・・」
フォルテ「すまない・・・」
マリア「・・・まぁ、反省はしてるようだし、特別に許す!みんなのバースデーメッセージも届いてるわよ」
フォルテ「ああ。全て見させてもらう。だが・・・お腹が空いた。ご飯を食べてからでもいいか?」
マリア「あなたはそうやってまた・・・まぁいいか。今日はあなたの好きなものを揃えてあるわ。用意するの、結構大変だったのよ?」
フォルテ「マリア」
マリア「何?」
フォルテ「・・・ありがとう。僕は幸せ者だ」