このラノベのオチが思い出せないのでラスボスになることにした   作:どっかで本編さぼってる人

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絶望の入死試験

 適正があった以上IS学園入学は避けられないだろうが、それはそれとして受けさせられる入試試験。簡単に言えばISを使った試合である。その会場で俺は「着ろ」と命じられたピッチピチのISスーツを着ることなくアリーナへ踏み入れた。

 そこに居たのはタイトなスカートスーツに黒ストッキングを着こなす視線がキツ目の織斑()()。主人公の姉こと世界最強のIS乗りである。

 

 

「私はスーツを着用の上と言ったハズだが? 書類には()()()()とあったが⋯存外問題児らしいな」

「あはは⋯すみません。へそ出しはさすがに恥ずかしくって⋯。それに男女で布面積もちがうし、別に着なくても同調率には問題ないかなって。それより僕の対戦相手はどこに?」

 

 

 基本的にマイペースな俺は世界最強の言葉も半ば無視。ゴーイングマイウェイする。自分で自分の事マイペースって言っちゃう当たりドン引きだが、こと今回はそういう「キャラ設定」というだけだ。

 

 いや~この設定には悩まされた。

 

 性的なトラウマをこじらせたラスボスで行くのは決定として、できれば主人公一味とは仲良くしたい。終盤で裏切ってびっくりさせるのである。かといってなんの伏線もなく闇落ちするのはあまりに情緒がない。基本は明るく楽しく、たまに闇をチラ見せしたい。

 

 という事で俺には若干「天然」が入れてある。面倒な事や核心に触れそうになれば「え、なんだって?」でスルーでき、多少の奇行も見逃してもらうという算段だ。考え付いた当初は画期的すぎて自分の事を天才だと思ったりもしたが、実践してみると意外とクソ設定。なにより()()()()ポイントを常に考えなければいけないのが辛い。

 

 しかし織斑先生こと、織斑千冬。まあ”ちっふー”には効果てきめんなようで、即座に「あ、コイツ話聞かねえ奴だ」という顔をした後で「まあいい」とスルー。おいおい確かにスーツ無くても操縦できるけど、安全面では大問題。教育者としてどうなのよ?

 

 

「それであの、対戦相手は?」

「そのことだが、本当は山田先生が担当だったんだがもう一人の特別入試試験で、まあその⋯色々あって伸びてしまってな。今他に対応できる教員がいない」

 

 

 はえ~。そういえば一夏くんの入試で緊張から自滅してたっけ。

 というか、そもそもこの試験って結構イカレてるよな。IS学園志望ならともかく、我々メンズは30分の騎乗訓練は用意されどほぼぶっつけ本番で結果出さないといけないという。

 というか男は入学以外の道なくないか? 試験の意味とは⋯⋯

 

 

「という訳で、お前の相手は私がすることになった」

 

 

 ラスボス終了のお知らせ。

 

 いや流石に勝とうとは思ってなかったがのっけから大惨事だ。引きつりそうになる顔を天然でふやかしつつ、スカートスーツでISを展開したちっふーを眺め「あ、だから服装に文句言って来なかったんだ」と理解し、着なかったことを後悔した。

 これ俺生きて帰れっかな⋯

 

 

「何をしている? スーツの事はいい。さっさとお前もISを出せ。⋯まさかやり方をもう忘れたとは言わないよな?」

 

 

 唐突な負けイベントにしばらく放心してると若干()()なちっふーが「早くしろ」と目で脅迫してくる。

 いやどう考えても無理ゲーだし、無理ゲーなのだが、そこで諦めたくない自分がいるのだ。

 

 

——仮にも、『ラスボス』になりたいという奴が、序盤も序盤のイベントシーンで普通に負けてるってどうなのよ?

 

 

「すいませーん! ハンデくださーい!」

 

 

 悩んだ末に俺は手を挙げていた。

 

 

「⋯なんだと?」

「いや、まさか世界最強と戦うだなんて思ってなかったので。装備を見直すのと、あと作戦練るんで5分くらい貰いたいなって。⋯⋯ダメですかね?」

 

 

 降参ではない。勝算を見出すための、かといって勝てるとも思わない、所詮悪あがきである。しかし。

 

 

「ほぅ⋯。まあ確かにハンデは必要だろう。よしいいぞ、5分やる」

 

 

 それを聞き入れたちっふー先生はなにか面白ったのか、悪人のような笑みをほんわかとたたえていた。まるで1000年に一度の好敵手でも見つけた狂戦士とでも言うべきか。完全に狩る側の顔。それ多分先生が生徒に向けちゃいけない奴では?

 

 眠れる虎の尾をを踏んでしまった気がするが、それはソレとして”勝利”するための準備を大急ぎでした俺は、初心者VS最強というカードでは善戦したと言える。

 

 いや、

 

 むしろ善戦しすぎたというべきか——

 

 

「——った! 当たった! カス当たりとはいえ、最強に当たった! これもう主席レベルじゃないですか!?」

「⋯⋯まさか私が銃弾に当たるとは⋯⋯いつ以来だ。⋯フッ、面白い⋯⋯! だが思い上がっても面倒だ、少し本気を出してやろう」

「⋯⋯⋯⋯え?」

 

 

 一言で言えば、勝負に勝って試合に負けたのだ。

 

 それから数秒でブラックアウト。気が付いた時にはもう消毒液の匂いがする部屋で精密検査を受けていた。そう、本来地球外活動用に作られたISの、その宇宙レベルの防御力を貫通するまでボコボコにされたのである。入試とは思えないあまりの仕打ちを流石に悪いと思ってか、開口一番謝罪のちっふー。

 

 ちっふーが頭を下げるなんて珍しい光景に恨むどころか満足である。面白い。貴様は最後に殺してやろう。

 

 

——しかしこの一件。「()()織斑千冬に()()()()()」が噂の中で尾ひれ背びれで誇張され、まさかあんんあ事になろうとは、この時の誰も予想だにしなかった⋯⋯

 

 


 

 

 その少年の印象はあまり良くなかった。

 

 今時男で生徒会長なんて役職に着いてるあたり優秀なのだろう。服装からして今時ああもきっちり校則通り、まあ()()はその限りではなかったが、第一ボタンすら閉めている中学生なんてそういない。

 

 

「あはは⋯すみません。へそ出しはさすがに恥ずかしくって⋯。それに男女で布面積もちがうし、別に着なくても同調率には問題ないかなって。それより僕の対戦相手はどこに?」

 

 

 だからこそ落差が大きかった。言いつけを守らずヘラヘラとしてる様に古い知り合いを思い出して、余計に怒りが湧いて来た。

 ただし、それもすぐに覆る。

 

 「ハンデをくれ」

 

 試験官が私であると、つまりこれから戦う事になると知った瞬間から、奴は奴なりに算段を立てていたのだ。

 入試における勝利とはすなわち、試験官に認めさせること。それは私も理解していた。必ずしも勝利は必要ではなく、付け加えて私は元世界一の座にいたこともある。そして相手は総搭乗時間30程度だと来れば、ハンデを自ら提案したのは我が弟と違い戦術眼があると言えた。

 

 

「いや、まさか世界最強と戦うだなんて思ってなかったので。装備を見直すのと、あと作戦練るんで5分くらい貰いたいなって。⋯⋯ダメですかね?」

 

 

 しかし、私も人の子である。

 いまさらその称号を誇ろうとは思わないが、まさか初心者が「5分で対策できる」と受け取れるようなことを言ってきたことで燻るプライドがまだ残っていたらしい。一定時間攻撃をしない。こちらからアドバイスをする。色々考えていたことが吹き飛んでしまった。

 

 どれほどか見てやろう。

 

 そう意気込んだ私の戦意は、またも覆された。

 

 

「よし、準備完了!」

 

 

 奴が持ってきたモノを見て確信した。()()は弟を超えるアホである。

 その手に抱えていたのは何でもないIS用の小銃をこれでもかと束ねた何かだった。掃射すれば、初心者相手なら当たるかもしれない、絶望的に取り回しの悪そうな銃の束。それを二丁。両手に装備だ。

 

 当然そんなものに私が当たるわけもなく、しかも試合開始数秒でむやみやたらに撃ちまくり片方空にする始末。

 

 あきれて物も言えない。

 

 期待、落胆、期待、そしてまた落胆させられた私は、見事術中に嵌まっていた。

 

 奴を追い詰め、もう一方の不格好な銃を打ち切ったタイミングで終わらせようと思っていた最中、奴は銃を投げつけた。

 

 

「爆散!!」

 

 

 玉切れを装い投げられた銃の束は音声認識で自爆。残弾を一斉に誘爆させ、無差別に金属片をまき散らす。

 

 

——これが狙いだったか。しかし、当たらないな。というか備品を使い捨てるな。

 

 

 

「まだだ!」

「なに、高速切替(ラピッド・スイッチ)だと?」

 

 

 今度こそ驚かされた。それなりに乗り慣れた者でも得手不得手ある、瞬時にデータ領域から武器を取り出す技術。今思えば照準や武器選びなどかなぐり捨て、ただ取り出す事だけに特化したからこその速さだったのだろう。両手に顕現した新たな銃を手裏剣のように投げて来た。

 しかし一瞬動揺したといえ、やりたいことは見えている。脳内では既に()()()()()、備品を破損させることへの苛立ちが占めようとしていた。

 

 だからこそ最初の布石を見落とした。

 

 

「爆散!!」

 

 

 全方位映るセンサーの中央に続き視界端が煌めいた直後、背後から襲いかかる多量の金属片にエナジーが減らされる。最初の一丁は打ち切ってなどいなかったのだ。いや、打ち切っていたとして爆薬の付け方で銃身だったものには指方性が持たされていた。

 

 最初から本気であればこんな小細工、する暇も与えない。だが私は教師でこれは試験。奴は操縦技術でも、武術でも、射撃でも、ビギナーズラックでもない。最初からこの結果を見据えていたのだ。

 

 感情はどうあれ、認めざるを得なかった。まったく腹立たしい。

 

 

——だが面白い。

 

 

 伸びる芽をつまらない増長で枯らしたくなかった。

 ドイツで今も頑張っているだろう、最初の生徒たちを不意に懐かしみ。年齢から弟に重なった彼を、つい、弟相手のつもりで叩きのめした。⋯⋯結果、精密検査が必要なほどに。

 

 それについては説明の上で謝罪したことで本人の理解は得られたが——

 

 

 私は今も後悔する。

 なぜISスーツを着なかったか、あの時嫌でも問い詰めなかったことを。

 その結果として、本人が隠したかっただろう、ほぼ半身におよぶ痛ましい古傷を医者と私、そして居合わせた山田先生に晒してしまったことを⋯⋯

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