近所のマリア   作:naow

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またですか。今度は何を食べるのでしょう?


ワンルーム紛争

 私たちは、困惑していた。

 

 

 

 いつものように「霊廟」の談話室――文字にすると意味が理解(わか)らない――で屯していた私たちは、頭の中に響く例の声に、それぞれが席を立つ。

 30分後に移動を開始する、と言うので、それぞれ必要な準備を行う為だ。

 

 アリスが変なTシャツを選んだりとか。

 後は、移動後の日本の季節が不明なので、念の為オールシーズン対応な格好をするとか。

 アリスはレザーのジャケットを用意したり、サラはやはり黒レザーのロングコートをどこからか出してきたり。

 

 ……ただでさえ下着と変わらない格好にそんなコートを着て、漫画ならともかく実際に目にすると不審者感が半端ない。

 

 私とエマ、カーラはオールシーズン変わらぬ格好である。

 ……私も何か、羽織るものくらいは用意しようかな。

 

 

 

 斯くして、つつがなく移動を完了した私たちだが、結果は冒頭の通りである。

 今まではどこぞの通り沿いにぽつんと放り出されていた私たちだが、今回は室内。

 それも、8畳ワンルームの、小綺麗では有るが特に変わった所もない、良く有る賃貸らしい部屋。

 

 フローリングにはラグが敷かれ、少し大きめなテーブルがその上に鎮座している。

 部屋の片隅にはクッションが積み上げられ、それで寛げと言う事だろう……か?

 

「え? なにこれ? 何か、デスゲームでも始まるのか?」

 

 室内をキョロキョロと見回し、玄関らしきドア近くのキッチンに歩み寄ったアリスは設備を確認しつつ、そんな事を口走る。

 

 やめろ。

 

 このメンツでデスゲームとか、1強過ぎるだろう。

 どうやってエマを始末するんだ。

「おい、マリア。テーブルの上に、何やら書き置きが有るが……?」

 アリスのどうでも良い感想に勝手に暗澹たる気持ちになっていた私に、カーラが声を掛けてきた。

 振り返ると、そのテーブル上を覗き込みながら、ゴシックドレスの長身女が怪訝な顔をしている。

 

「……どうしたのですか?」

 

 カーラの様子に不審なものを感じた私が言葉を飛ばすと、顔を上げた困惑顔のカーラと目が合った。

「いや、な? 意味が理解(わか)らんのだ。文字は読めるのだが……単語らしきモノの意味が汲み取れん」

 私とカーラのやりとりに、いつの間にか戻ってきたアリスが私を追い越してテーブルへと近寄る。

 

 エマとサラは、備え付けの梯子を登ってロフトに上がっている。

 

「なになに? ……はあ?」

 

 ワンルーム大冒険に夢中なエマを何となく見上げて軽く手を振ったりしていると、アリスの間抜けな声が耳に飛び込んでくる。

 振り返ると、書き置きを手にし、困惑を顔中に貼り付けたアリスが呆然と佇んでいる。

 

「なんですか、年頃の娘っぽいのが面白い顔をして。何が書いているのですか?」

「余計なお世話だよ、って言うか……。読んでみろよ、コレ」

 

 私の一言に噛みついてから、アリスは私に歩み寄るとその手にしていた紙片を手渡してくる。

 もの凄く気が進まないながら、それに目を通した私は。

 

「……はあ?」

 

 短く声を上げるのが精一杯で、周囲に気を配るどころでは無かった。

 だから。

 

「……あのさ? エマもなんも言わないし、誰も気付いてないのか、私にだけ見えてるのか不安になるんだけどさ? ()()()()()?」

 

 頭上から降ってきたサラの声に、私の反応は遅れたのだった。

 

 

 

「いやあ、なんだか意味の理解(わか)んないことに巻き込まれたと思ったけど、こんな所でマリアちゃんに会えるなんてねえ。元気かい?」

「あの、お久しぶりです。その節は、どうも……」

 

 頭上を見上げ、サラが何やら指差している方向に目を向けて、私は固まった。

 見慣れては居ないが、見知った顔が2つ、そこに並んでいるのだ。

 

「……いつから、そこに?」

 

 自分の声が、間抜けに引き攣っているのを感じる。

 だが、これは私は悪くないだろう。

「え? 君たちが来るちょっと前かな? どうしたモンかと途方に暮れていたら、君たちも来た、みたいな?」

 私に笑顔で答え、それは肩を竦めて見せる。

「少しは驚かそうと思ったけどさ? 思った以上に、誰も私たちに気付かないし? どうしようかと焦ったよ」

 言って笑うが、私たちに気付いたならさっさと声を掛けてくれば良いものを。

 

 そこに居たのは、黒のパーカーを羽織り、同色の肩までもないくらいの髪を揺らせて微笑む、私の姉。

 メアリが、にこやかに立っていた。

 

 

 

 どこで手に入れたのか……こちらのデザインっぽいパーカーを着込んでショートパンツ姿のメアリの隣には、色違いのパーカーにやはりショートパンツのジュンが立っている。

 ジュンは少し髪が伸びたようだが、メアリは髪を切ったのだろうか?

 以前はもっと長かった記憶があるのだが、それはともかく、切ってしまった人形の髪は伸びるのだろうか?

 少なくとも私は髪の長さが変わらないし、仲間たちもそうだ。

 

 あまりにも思い掛けない事態に、私はどうでも良いことに思考を逃避させてしまう。

 

 同じ室内、8畳のワンルームでまったく気が付かなかったとか、自分の危機感の方を心配すべきなのだろうが、思考がついていかない。

 しかし表面上はそんな事など一欠片たりとも見せず、室内を静かに見回す。

 

 私の隣にはアリス、少し後ろにカーラ。

 眼の前にはメアリとジュン。

 ロフトには、サラとエマ。

 

 私を含めて、7名。

 

「だからさ、マリア。その2人は誰なんだってば。無視されると、お姉ちゃん泣いちゃうぞ?」

 

 考える私の頭頂部に、ロフトから声が降ってくる。

 鬱陶しさを隠すことも忘れた表情で見上げて、私はサラとメアリが初めて顔を合わせたのだとようやく気が付いた。

 

 同じザガン人形同士、知らない筈が無いだろうと思っていたが、同じ2シリーズとは言え先に造られて野に放たれたサラと、2シリーズとしては最後で、かつ、何やら調整に手間取ったらしいメアリは、そもそも出会う機会も無かったのだ。

「マリアちゃん? あの、ちじょ……ンンッ、個性的な格好のヒトは、お友だちかな? ……お友だちは選んだほうが良いと思うよ?」

 私と同じ様に上を見上げたメアリは、言葉を選ぼうとして失敗しつつ、私に余計な助言めいた言葉を投げ付けてきた。

 

 友人を今から選び直せるなら、私はひとり旅に戻りたいのだが?

 

「痴女とはまたご挨拶だな? まったくどいつもこいつも、美的センスがどうかしてるんじゃないのか?」

「美的センス? 美的って言ったのかな? 美と言うか……いや、あまり本人を前に酷いことを言うもんじゃないね」

「……私から見て、今のお二人はどちらもそれほど変わりないと思いますがね。メアリ、あれは『剣舞(けんぶ)』サラです。サラ、コレは『鉄姫(てっき)』メアリ、貴女(あなた)の妹で私の姉です」

 

 いつもどおりの格好、レザーのブラの上に極端に丈の短いボレロを羽織り、際どめのホットパンツを履いているだけのサラ。

 今日はその上にレザーコートを羽織っているが、室内ではそれは脱いだ方が良いと思う。

 一方のメアリは、いつぞやのフォーマルにも見えたパンツスタイルとは打って変わり、少しばかり丈の短さが気になるショートパンツに、上はパーカーを羽織ってしっかりとジッパーを上げている。

 肌を隠したいのか晒したいのか、良くわからない格好である。

「ちょっとマリアちゃん。私はあんな、下着同然の格好と一緒にされる謂れは無いよ? この服だって、そっちのクローゼットに『ご自由にお試し下さい』ってメモ付きで掛けてあったのを借りただけだよ?」

「おいおい、先鋭的な私のファッションと、下着姿で出歩く痴女を同列に語られても困るね。大体、自信が無いからそんな半端な格好になっているんだろう? 素直にスカートでもパンツでも、そのずんぐりした足を隠せるモノに替えたらどうだ?」

 そんな2体は、私がせっかくお互いを紹介したというのに、そんな事にはお構いなしである。

 挙げ句、何やら睨み合いまで始める始末だ。

 

 やめろ、エマを刺激するような真似をするんじゃない。

 

「口の減らない奴だ、ちょっと躾が必要かい? 私は妹思いの……は? 妹?」

「全く困ったものだね、こんなのが私の姉だって……え? 『剣舞(けんぶ)』? コレが?」

 

 挙げ句、互いに口に出してようやく、相手がどんな存在かを認識したらしい。

 揃って私に顔を向けるが、お前らは鑑定なりなんなり使えるだろうが。

 私を見るんじゃない。

 

「……エマちゃんが何体かザガン人形を壊したとは聞いてたけどさ? 出会った所でこの有り様じゃあ、そりゃ壊し合いになるよなあ……」

 

 呆れ顔に良く似合うアリスの声に、カーラがしきりに頷いている。

 ちらりとロフトの上、サラの隣に視線を送れば、きょとんとした顔のエマが2体を不思議そうに眺めているのだった。

 

 

 

 ロフトを降りたサラとエマ、部屋の隅で突っ立っていたメアリとジュン、そして半ば呆れて傍観していた私とアリス、そしてカーラ。

 気を取り直してテーブルを囲み、それぞれに思い思いにクッションを手にし、それを敷いたり意味もなく抱いていたりと、それぞれの個性で床に腰を下ろしていた。

 

 もっと早く、この状況に持ってこれた筈なのだが……ザガン人形というのは、面倒な代物である。

 

「……サラ、それにメアリ。好い加減、面白い顔で睨み合うのはお辞めなさい。笑いを堪えるのが大変です」

 

 現状、その面倒なザガン人形の代表のようになってしまっている2体に、私は冷水でも浴びせようと声を上げる。

 効果は有ったのか、揃って私へと顔を向けてきた。

「面白いってなんだ、面白いって」

「剣舞《けんぶ》のはともかく、私は至って普通の顔だろう? ああ、アレか、僻んでるのかい?」

 サラはどこか剣呑な眼差しをそのまま私にスライドさせ、メアリは人を食った物言いで戦火をこちらにまで広げてくる。

 実はメアリのほうが好戦的であったか。

 とんだ平和主義者も居たものである。

 

「馬鹿な言い合いは取り敢えず一旦止めて下さい。話が進みませんし、何より時間は限られているのですから」

 

 そして懲りもせずに睨み合いを再開する2体に、私はついに堪えきれず、溜め息を零す。

 これまでの旅路で、私は幾つの幸せを逃がしてしまったのだろうか。

「取り敢えず、ジュン。そしてアリス。これをどう思いますか?」

 話を進めなければ、また睨み合いを始めそうな……というか、まだやめていない2体を私は放置することに決めて、矛先を話の理解(わか)りそうな2名に向ける。

 

 向けられた片方、既にそれを見ているアリスはソワソワと落ち着きの無い表情で、ジュンの方は食い入るようにメモに視線を走らせている。

 まあ、読んですぐには私もアリスも面食らったのだが、理解さえ追いつけばなるほど、それはそれで面白い趣向になりそうだと思う。

 一方で、全く未知の状況、良く理解(わか)らないままに、しかもただの人間としてはただ一人で人形に囲まれているジュンは、メモを読み進めるに連れ、当惑をその表情に浮かべていた。

 

 そして。

 

「あの、ええと? コレって……何か、特別な意味が有る事なんですか?」

 

 私も、そして恐らくアリスも思ったであろう事を、困惑顔のジュンは言葉に変えるのだった。




は? 長々と引っ張って、何やら微妙な新顔まで加えて、此処で切るのですか? 何も意味が理解(わか)りませんが?
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