メモの内容は、なんというか。
私たち――私とアリス、そしてジュンであれば、それはあまりにも日常的なもので、しかしあまりにも久しぶりすぎる単語の羅列に、素直に困惑した。
異世界ギャップと言うか、それなりに長い時間を環境の違う生活を送っていた弊害というか、見慣れた筈の私たちですらすぐにはピンと来なかったのだ。
私たち転移? 転生? 組がそのザマなのだから、もとより異世界生まれの異世界育ちでは、そもそも理解する事が困難というか、まず単語の意味が掴めないだろう。
その内容はといえば――。
・室内の家電はご自由にご使用下さい。お買い物はアパートを出て右手方向に、スーパーとコンビニが有ります。キッチンの調理器具もご自由にお使い頂いて構いません。ご利用時間は本日20時までとなります。
・備え付けのPCはお使い頂けますが、当部屋のご利用時間30分前にはご利用できなくなりますので、ご注意下さい。また、同時刻まで使用可能な携帯端末もご用意致しましたので、お出掛けの際にご利用下さい。
※追伸:当該地点は海産物が特産となっております。少し足を伸ばせば道の駅もご利用頂けます。お楽しみ下さい。
※PC・携帯端末ともに
「……なあ、どういう意味なのだ? 家電とはなんだ? アパートとは? スーパーもコンビニも
さっそく、カーラが顔中に疑問符を貼り付けて私に困惑の視線を投げて寄越す。
口には出さないが、メモを受け取ったメアリや、その手元を覗き込んでいたサラとエマもまた、カーラと似たり寄ったりの
さて、順を追って説明すべき場面ではあるのだが、いざ説明となると中々骨が折れる。
なにしろ、メモの内容ほぼ全てが説明対象なのだ。
まず、家電をどう訳すべきか。
「……まず、家電というのは家庭用電化製品の略なのですが、その対象が非常に幅広く多岐に渡ります。なのでざっくりと『この世界の魔法道具』とでもお考え下さい」
3秒で面倒になった私は、もの凄く安直かつ安易な説明でカタを着ける。
一瞬何か言いたげな視線を向けてきたアリスだったが、しかし訂正の言葉は思いつかない様子で口を噤んでいる。
ジュンは逆に、感心したような眼差しである。
ジュンの素直さは、久しぶりだと言うのに私の心配性回路を起動させるには充分だ。
メアリも、案外苦労していそうで結構な事である。
「ふ……む。つまりはこの部屋を照らしている照明やら、アチコチにある不可解な物はそうなんだな? 見た目が違い過ぎてピンと来ないが、まあ、そういうものと理解しよう」
カーラの台詞に頷くザガン人形どもだが、恐らくカーラほど理解出来ては居ないだろう。
まあ、更に説明を求められても面倒くさいので、私も特に突付いたりはしない。
そんな感じで大体は魔法道具として、スーパーやらコンビニやらは大型商会の店舗、という説明で押し通す。
どうせ時間で元の世界に追い返されるのだし、詳しく説明した所でそれ程意味もないだろうからだ。
アリスも説明サイドとして思うところはある様子だが、私と同じくこの世界には束の間の滞在だと思い至っているのだろう。
特に口を挟んでくることはない。携帯端末はざっくりと遠距離で通話できる魔法道具として押し通す。
PC……パソコンについては説明が大変困難なので「多岐に渡って使用出来る魔法道具」という事でゴリ押す。
アリスは他に比べて一層微妙な
私は元々仕事でも私事でもパソコンを使っていたし、アリスにしても似たようなものだろうが、互いに専門職では無い。
特定の使い方を知っているだけで、根本の理解など出来てはいない。
プログラミングについて説明しろと言われても無理なのだから、素直にそう告げた上で、ごくごく簡単な説明で済ませた訳だ。
カーラだったら専門書でも渡しておけば、理解してしまいそうではあるが。
そんな感じで簡単な……もとい、
エマ、サラ、メアリはそもそも特に興味も無かったのだろう。
ザガン人形というのは、どいつもこいつも……。
何とも言えない心持ちで部屋の隅に目を向ければ、充電済であろう携帯端末……スマホが7台。
人数分ピッタリな辺りに作為を感じるが、考えてみれば当然であろう。
こんな意味不明な異世界間短期拉致など、何者かの
特に害がないし、仮に有ったところで対向出来るかも不明なので、そんな心配をするくらいなら割り切って楽しんでしまおう、それが私たちの結論だった。
そんな訳で簡単過ぎる説明を終えたのだが、問題はもっと根本的なところにある。
「そんなの、外に出てみれば良いんじゃないか? お前たちにとっては故郷何だろう?」
しかし、お気楽な人形は反応も大雑把だ。
「そうそう。私たちは土地勘も無いしアレだけど、案内役が居るなら何も困ることは無いよね?」
サラのお気楽極まる反応に、メアリが当然のように乗っかってくる。
仲の良いことだ。さっきまでいがみ合っていたように思うのだが、きっと私の記憶違いなのだろう。
「まあ、私もサラの意見に賛成だよ。とりあえず、久々にコンビニとか行ってみたいし、そもそもこの世界で私たちに危険なんか無いだろ」
更にアリスまで乗っかって、カーラは訳知り顔で頷いている。
外に出て、実は日本では無いどころか、どこぞの国の射爆場ド真ん中だったらどういう顔をするのやら。
その場合は私も漏れなく途方に暮れるので、そうでない事を祈るのみだ。
ちなみに
私が呆れたり、ありもしなさそうな状況での悪巧みをしている間にメアリがスマホの使い方をジュンに教えられ、アリスはこちらのメンバーにレクチャーしている。
迷子にでもならねば使うことも無いだろうし、そもそも遠距離での意思疎通ならカーラ製のイヤーカフがあるのだが、どいつも意外と新しもの好きなようだ。
説明されたところで使いこなせるか、
「それでは、外に出ましょう。私が知らない場所だったとしても、アリスなら何とかなるでしょう」
「おい。私だって知らない場所は知らないからな?」
私とアリスのいつも通りの掛け合いを合図に、各々準備も万端、扉を開けるという行為を何故か押し付けられがちな私が先頭で部屋から一歩踏み出し、そして。
あまりにも見慣れない景色に、私はアリスと顔を見合わせて立ち尽くすのだった。
まあ、こんな予感はしていました。色々な意味で。