近所のマリア   作:naow

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何事でしょうか。


馴染みは有っても用は無い

 その瞬間、私達は沈黙した。

 

 

 

「マリアちゃんごちそうさまぁ! じゃあ、今日もマリアちゃんの服、貰うねぇ!」

「いえ、お粗末様です……エマ!? 当たり前のように何処へ!?」

 夕食を終え、ゆったりと旅の足を休める筈の時間に、エマの不穏な一言に反応した私の目に飛び込むのは、食堂を飛び出す背中だった。

 そんな、1日1着感覚で服を奪われては、私の着る物が無くなってしまう。

「元気だねえ。食べたばっかりだってのに」

「まあ、人形には食後の休憩など不要では有るが、確かにあの活発さは見上げたものだ」

 追いかけようにも食後の片付けが有る私に、そんな私を手伝うアリスとカーラがしみじみと、明らかな他人(ひと)事さでほのぼのと感想を述べる。

「要りませんよあんな傍迷惑な元気なんて! ああもう、アリス、カーラ、此処(ここ)は任せます! 私はドレッサールームを死守します!」

 役に立とうという気概を感じられない仲間に素直に歯噛みして、私は後片付けを放棄して走り出す。

 数歩どころか数十歩遅れての行動で、阻止は既に絶望的だが、だからと言って放置できる事では無い。

 

 背中でアリスの文句を受け止めながら、食堂から廊下へと飛び出した私の脳内に、いつ以来か、その声は響いた。

 

 ――1800秒後、移動を開始します。移動後21600秒経過で帰還準備に入ります。帰還準備開始から3600秒後、帰還します。

 

 脳内に響いたアナウンスを聞き流して走る私の背後で、食堂のドアが荒々しく開けられる音と、各々の部屋へと走る足音が響く。

 あの様子では片付けは完全に放棄されたのだろうが、責める気にはならない。

 

 カーラに何の準備が必要なのかは不明だが、アリスは着替える必要が有る。

 前回、移動に際して猶予が無いと愚痴を零したが、どうやらナニモノカは気にしてくれたらしい。

 猶予時間が与えられたのは喜ばしいが、結局、予告時間になれば問答無用で地球(むこう)へと放り出されてしまうのだろう。

 そうとなれば、余裕のあるうちに急いで身支度を整えたいと思うのは、人間でも人形でも同じことなのだ。

 

 しかし私は、準備よりもエマの蛮行を止めねばならない。

 30分も有るなら、阻止してかつ防衛も可能だろう。

 

 既に出遅れている事からは、意識的に目を逸らすのだった。

 

 

 

 30分後、私達は揃って異世界――地球の片隅、日本の何処か、なにやら大通り沿いの空き地とも言えない小さなスペースに並んで立っていた。

 メイド服防衛戦については、敗北したとだけ述べておこう。

 

「……あのさ、マリア。ちょっと思ったんだけどさ」

 

 いつも通りTシャツにジーンズ、いつの間にか買ったショルダーバッグに財布を収めて、アリスがややうんざりとした顔を私に向ける。

 

「なんでしょうか? 何となく、言いたいことが判るのが悲しいのですが」

 

 私はちらりとアリスへ目を向けてから、なにやら楽しげに仁王立ちのカーラと、私のメイド服を奪取してご満悦のエマが例によっていつも通りに、支配する世界がどうの人間がいっぱい居て暴れたら楽しそうだの、もうツッコむのも面倒な事を言っている。

「うん。話が早くて助かるわ。……エマちゃん! カーラ! ちょっとこっちおいで!」

 現地での行動指針を決定するのは、いつでも私かアリスだ。

 だから、エマとカーラは何も考えていない、故に何も気付いた(ふう)は無い。

 アリスに呼ばれて不思議そうな顔を並べ、2体はちょろちょろと此方(こちら)へと寄ってくる。

 推定185センチ+ヒール分のカーラと、恐らく155センチのエマが並ぶと、思いの外身長差がエグい。

「なぁに? どうしたのアリスちゃん?」

「行き先が決まったのか? いざ、私の威光を示しに行こうではないか」

 素直に疑問をぶつけてくるエマと、まだ何かタワゴトを口の端に乗せるカーラ。

 

 今思ったのだが、魔法住居(コテージ)に放り込んでアイテムバッグに仕舞えば、この二体は完全に封じる事が出来るのでは無かろうか?

 

 そんな蠱惑的な思考に囚われた私だが、しかしすぐに現実に引き戻される。

 ……後々大変な事になるのが目に見えるようだったからだ。

 

 特にエマが。

 

「アンタの威光なんて無いから。エマちゃん、あのね?」

 私が黒い思考に囚われたり想像上のエマに五体分割される想像をして肝を冷やしていると、アリスがカーラを言葉で斬り伏せ、エマに目線を合わせて居る。

 

「私達、さっきご飯食べたよね?」

 

 アリスの言葉にキョトンとした後、口元に指を添えてなにやら考え込むエマ。

 彼女の見上げる先を追って私の目に飛び込むのは、昼の青い空だ。

 

 私達は、夕食を摂った直後だった気がするのだが。

 

「……あっ。え? じゃあ、何食べるのぉ?」

 考えた結果、エマにはアリスの言いたい事がきちんと伝わったらしい。

 しかし、正確に理解したその上で、エマは食事しない、という選択肢は思い浮かばなかったらしい。

「馬鹿な!? それでは我々は、何をしに此処へ来たのだ!?」

 目を見開いて、カーラが私に詰め寄る。

 私に言われても知らないし、まだ食べる心算(つもり)なのかと呆れもするし、そもそもお前の言う威光はどうなった、威光は。

 

 一気に疲れた私が視線をスライドさせると、辺りを見回したアリスが不思議そうに私に視線を戻してきた。

 

「……マリア。ここ、どこなの?」

 

 珍しく自分の居場所を特定出来なかったらしいアリスが、素直な言葉を寄越してくる。

 素直なのは大変に良い事だが、思考放棄はどうかと思う。

 

 嘆息しつつも周囲を見渡し、少し歩いてまたキョロキョロと辺りを観察する。

 ぞろぞろと3体が着いてくる気配を感じながら、交差点で歩行者の邪魔にならないように端に寄りながら、記憶を探る。

 

 ここから見る限り、片側2車線、1車線分の駐車スペースが見える大通りが交差するこの場所は、馴染みは無いが知っている地点だった。

 しかし、知っているからと言って。

 

「……ここは、千○田区外○田。秋○原の近く……ですね」

 

 言いながら右手を伸ばし、人差し指で指し示せば、アリスはそれを追って顔を上げ、信号に括り付けられた交差点名に気が付く。

 だが、それでもピンと来ては居ない様子だ。

 

 無理も無い。

 ここは秋葉○に近いと言われても、イメージするような建物も無く、それらしい気配も無いのだから。

「……ア○バに近いって言われてもね……」

 アリスもまた、私が抱える困惑に似た何かを抱えているのだろう。

 

「どうすんの? 何か食べる気になんないし、何か買うって言っても……上○まで歩く?」

 

 そう。

 食事直後に○葉原付近に案内された所で、私達にはすることが無いのだった。




いい加減な作品のクセに、途中で切るとは良い度胸です。
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