近所のマリア   作:naow

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人の気配のない所に行くのが良いと思いますが……え? そんな所は無い? ご冗談を。


馴染みは有っても用は……無くもない

 特に目的も見出だせず、さりとて途方に暮れていてもどうしようもない、傍目にはただただ怪しい4人組。

 道行く人には街柄コスプレ好きの外人か何かの撮影とでも思われているのか、時折生暖かい視線を受けることは有っても特に気にされている様子は無い。

 こういう都会的なドライさは嫌いではない。

 

 単に怪しい人間に関わりたくないだけだろうというのは、気付いても口にしてはいけない。

 

 そんなこんなで手持ち無沙汰なまま特に考えもなしに歩いた私は、結局見慣れた街並みが一望できる交差点に到達していた。

 歩き旅は慣れたものだ。

 

「ねえねえ、どうするのぉ? ごはん食べないんだったらぁ、遊んじゃう?」

 

 エマが私の傍らまで寄って来て、見上げながら何やら怖い事を言い出す。

 何をして遊ぶのかなんて、怖すぎて聞けやしない。

 

 街の人達には是非逃げて頂きたいが、大声で叫んでも私の頭を心配されるだけだろう。

 

「此処で遊ぶのは止めておきましょう、次に来た時に面倒な事になります。そうですね……」

 

 エマの行動を阻止しつつ、何か気を逸らすモノが無いか。

 考える私は交差点から街並みを眺め、そして少し遠くに懐かしいガードを認めた私はその下に商業施設が群生していることを思い出した。

 雑貨店や喫茶店、傘屋生地屋に季節毎の展示スペース等、冷やかして歩くだけでも時間は潰せそうだ。

 

 しかし、そこに行くなら、久しぶりに少し横道にそれるのも有りかも知れない。

 

「……少し、甘いものでも食べて休憩しましょうか」

 

 本格的な食事を求めては居ないが、おやつ程度なら問題無いだろう。

 土地勘の無いアリスが、周囲の視線を集めていることに気付いた様子もなく私に顔を向ける。

 ゴス衣装の長身女とメイド服2人を従える、ジーンズにTシャツの金髪美女。

 なまじ普通の恰好なだけに、逆に目立ってしまっているのかも知れない。

「甘いモノ? 駅前にでも向かうのかい?」

 秋葉原と甘味処の関係が思いつかないのか、アリスは周囲に視線を飛ばしながら口を開く。

 

 真後ろにたい焼き屋が有るのだが、興味がないのか視界に入ってこない様子だ。

 

 本日のアリスのTシャツの図柄は走っている風のピクトグラム3体の頭部を棒状の何かが連ねるように串刺しにし、それをバックにデザイン化された「DANGO DAISANJI」の文字が踊っている。

 

 この女、今日に限っては甘味を扱う店に連れ込んではいけないのでは無いだろうか。

 

「いえ、少し歩けば喫茶店が有ります。喫茶というよりは、フルーツをふんだんに使ったスイーツを出してくれるお店ですね」

 

 私の言葉に、アリスは失礼にも意外そうな顔を向けてくる。

「この街にそんな店が有るのも意外だけど、アンタがそんな店知ってるってのもね……普通の店なんだろうね? よく判んない基盤が積み上がってるとか、そんな店じゃないだろうね?」

 些か古いイメージを持っているらしい彼女は、今日び中々見ない光景を思い描いているらしい。

 その脳内映像もきっと色々と間違っているのだろうが、まあ、甘いものを食べる店=メイド喫茶とか言われるよりはマシだ。

 

 メイド喫茶が悪いとは言わないし、むしろ私は嫌いではないが……少なくともメイド服を来た私とエマが訪れるには中々厳しいだろう。

 

「行ってみれば判りますよ。期待していて下さい」

 

 私は自信満々に答えながら、そもそも数年その店に訪れていないことも思い出した。

 ……まだ営業していることを、祈るしか無い。

 

 

 

「甘いね! 美味しいね!」

 季節のフルーツを使った限定メニューが人気の店で、この季節は桃のメニューが限定で登場している。

 パティシエこだわりのパフェを頬張ったエマは、外見相応の可愛らしい笑みを満面に浮かべ、幸せそうである。

 

 このまま平和な人形になってくれれば良いのに、世の中上手く行かないことばかりだ。

 

「アンタの知ってる店って割には……何ていうか、落ち着いた良い店じゃないか」

 とても失礼な事をまだ言っているアリスだが、こちらはやはり季節限定のメロンのパフェを堪能して、どうやら御機嫌な様子である。

 隣のカーラは、エマと同じく桃のパフェを黙々と味わい、私たちの事など気にする様子もない。

 

 長身黒ゴス女が黙々とパフェを食す様子に、お店の方はおおらかな笑顔を見せてくれている。

 追い出されなくて良かった。

 

 マンゴーのパフェを堪能する私は、瑞々しいフルーツの芳香と微かな酸味を含む芳醇な甘さを楽しみ、それを包む生クリームの優しい甘さやバニラアイスの上品な甘さ、マンゴーシャーベットのスッキリした甘さと、一口ごとに表情を変えるのに「甘さ」としか表現出来ない自分に歯がゆさを感じてしまう。

 

 お値段が中々のものだが、一口してしまえばそれも納得するしか無い。

 

「まっ、マリア、無くなってしまった……! もうひとつ、もうひとつ食べたいのだが、ダメだろうか?」

 

 パフェのおかわりを要求する存在を、私は初めて目にした。

 大きな身体(からだ)を縮めて上目遣いまでして懇願するカーラの姿に溜息を零し、素直なその願いに鷹揚に頷いて、私はアリスの方へと目を向ける。

 

 ゆっくり味わう心算(つもり)で私とカーラを眺めていたアリスは、目が合うと少し考えた様子を見せるが、手元のパフェに一度視線を落とす。

 それから少し考え込んだ様子で顔を上げると、私に向かって小さく首を振って見せた。

 

 私はカーラの願いを聞き届けるべきかと打診した心算(つもり)だったのだが、アリスはおかわりするかと聞かれたと思ったらしい。

 

 苦笑した私は、エマももうすぐ食べ終わりそうな事に気が付き、カーラの方へと顔を向ける。

「同じもので良いのですか?」

 言いながら視線を転がし、それがエマにぶつかると、少しだけ呆けたエマはその質問が自分にも向いていると気付いたらしい。

 2体は揃って、ブンブンと首を上下させた。

 

 言葉で回答して欲しいのだが。

 

 私は店員さんに無理を承知でお願いし、幸いにも願いを聞き入れて貰えた幸運に感謝しつつ、可愛らしい凸凹コンビに視線を向けた。

 実に楽しそうで結構であるが、笑顔の裏の私は、お会計を考えて少しばかり気が重いのだった。

 

 

 

 素晴らしい甘味を味わった私たちは皆笑顔だったが、お会計一万三千円強は私の顔を少しばかり引き攣らせる程度のインパクトは有った。

 支払いに問題は無いが、貨幣価値を知らない2名はともかく、アリスは少し引き攣った顔で私に申し訳無さそうに手を合わせていた。

 

 それを不思議そうに見ていたカーラが道々軽い説明を受け、こちらでの貨幣価値を少し理解した様子で顔を青くする。

 

 特に用も無いと思っていた街だったが、少し足を伸ばせばゆったりとスイーツを楽しめる、そんな店も有る。

 私は変わらぬ街の一角に心が安らぐのを感じながら、他3体を引き連れて当初の予定通り、ガード下の雑貨屋や日用品店を冷やかして歩く。

 

 結局、御◯町まで普通に歩いた私たちは、アリスの懇願で衣料品店に立ち寄った。

 楽しげにはしゃぎながら物色するアリスと、それについて歩くエマとカーラ。

 

 せっかくのパフェを楽しんだ記憶に、アリスの選ぶおもしろTシャツの画像が貼り付けられる。

 

 私は自分を哀れに思いつつ、無表情で3体の様子を見守るのだった。




所で、「DANGO」とは何でしょうか? 
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