近所のマリア   作:naow

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星に願いを。マリアの願いは、どうせ届きません。


逢いたくもなくて、夏

 寒い時期に呼び寄せられたら、すき焼きを食べたい。

 

 そんな儚い思いを微かに抱いて、私は旅を続けている。

 ……いや、別に常に食べ物の事を考えているわけではない。

 たまたま、そう、たまたま冬の日本に強制移動させられたら、もののついでで食べてみたいと思うくらいは良いと思うのだ。

 

 海まで渡って続いた旅は、結局その終点を見せていない。

 私たちの旅はこれからだ! と適当な所で銘打って、適当にその辺で暮らしてしまっても良いとは思うのだが……やはり周辺に人間たちが生活していると、何かと面倒だ。

 森に住む魔女が夜な夜な、鍋を突付いているとか、そんな妙な噂になってしまうのもそれはそれで……。

 

 ……私はなんで、どうでも良い想像の中でさえ鍋を突付いているのだろうか。

 

 冬の夜空を見上げて、私は八つ当たりの悪態をぶつける対象を探すのだった。

 

 ――いや、それならカーラで充分な気がする。

 

 

 

「暑いよ! っていうか熱いよもはや! なんで()()()は冬なのに、こっちは夏なんだよ!」

「うるさいですね。私に言われても、判る訳が無いでしょう。その頭の中味はどうなってるのですか? 私を天候を操る悪魔か干魃(かんばつ)を呼ぶ魔女とでも思っているのですか? もう少し考えて発言して下さい」

 騒ぐアリスに対して、私は一切の遠慮を度外視して思った以上の事を言葉にして突きつける。

 みっともないとかうるさいとかそれ以前に、内心としてはアリスと全く同じ様子なのでは有るが……要するに八つ当たりである。

 

 冬のさなかに久々の移動アナウンスで、ウキウキで準備したアリスは当然のように冬の装い。

 そんな格好で真夏の都心に飛び出したものだから、本人は暑いわ悪目立ちするわ、なかなかに愉快な目に遭っている。

 

 とは言え私たちも多少なりとも冬支度ではあったので、笑って見ている場合ではない。

 

 無いのだが、そもそも私たち人形は常識の範囲内での温度変化には基本無頓着で済む筈なのに、こちらに来ると暑いものは暑い。

 どうなっているのか、可能ならば説明を聞きたいのもアリスと同意見ではある。

 

「ほーん。これが異世界、ねえ。妙に硬い地面に、ヘンテコな建てもんばっかだな。石でも削って作ってんのか、ありゃあ?」

 

 この珍道中に初めて巻き込まれた存在が、ヘラヘラと物珍しそうに周囲を見回している。

 人目の少ない場所に移動し、人目を避けて簡単な着替えを行っている我々に対して、()()はヘソ出しどころか黒レザーのブラトップにやはりレザーのボレロ――私に言わせればそれでも丈が短すぎる――を羽織り、同じく黒レザーのホットパンツに黒のブーツを着用している。

 脱いだり履いたりが面倒そうな編み上げのブーツだが、よく見るとサイドジッパー付き。

 

 妙な所で便利なモノを持っている女だ。

 

 そんな塩梅で季節感が行方不明な彼女は()()()の世界基準で見てもわりと際立った変た……尖ったファッションであるのだが、それが東京の一角に降り立ってみれば、それはそれは立派な変質者の完成である。

 

 そんな周囲の目を悪い意味で独占しかねない彼女は、何処から湧いて出るのか自信満々な表情で黒のポニーテールを揺らせている。

 

 ……なんでコイツまでこっちに来てるんだ。

 嫌々とは言え仲間認定してしまえば、こっちでも強制集団行動なのか。

 メイド服を着込んだ私が言うのもどうかと思うが、しかしあんな露出狂半歩手前な輩とは同一視して欲しくはない、そう思うのは我儘だろうか。

 

「わっかんないけど、面白いよねぇ? ねぇ、サラちゃん、どっちがいっぱい殺せるか、競争しよっかぁ?」

 

 そんな私の鼓膜を、最も危険な人形が私の不意を突いて危険な発言を繰り出す。

 やめろ馬鹿、伏せ字が間に合わないだろうが。

 

「えー? 特に悪さしてるわけでもないのを()るのはちょっとなあ……それなら、エマが()るのを、私が防ぐってのは? 3人()れたら、エマの勝ちでどうだ?」

 

 頭痛を覚える私に遠慮無く、サラと呼ばれた露出過剰娘が楽しそうに提案する。

 だから不穏な発言をポンポン連発するな、このポンコツ狂戦士(バーサーカー)が。

 

 こんなのが揃って私の()とは、もう好い加減世を儚んでグレたとしても、誰も私を責められまい。

 

「やめなさい。ふたりとも私の障壁で拘束して、『霊廟』に放り込みますよ? ただでさえ暑くてイライラするというのに……」

 業を煮やした私が2体(ふたり)の方へ顔を向けると、エマもサラもすっと私から目を逸らした。

 何やらマズいと勘付いてくれたようで何よりである。

 

 言われる前に自主的に収まってくれたなら、というかそもそも発言しなかったならもっと良かったのだが。

 

「マリア……暑いからもう、何処か涼しい所であれだ、コーラとか飲もう。というか飲みたい! 私は久しぶりにコーラを飲みたいぞ!」

 

 私が能天気狂戦士(バーサーカー)とポンコツ狂戦士(バーサーカー)を叱りつけていると、情けない声色のカーラが私に縋り付いてくる。

 暑いし鬱陶しい。

 

 夏服に着替えた筈なのに黒のゴシックドレス、ご丁寧に長袖なので、見た目にもとても暑い。

 と言うか、そんなゴテゴテした服をよくもまあ簡単に着替えられたものである。

 

「マリア、私もカーラに賛成だ。この暑いのに、あちこち歩き回る気になんかならないよ」

 

 カーラの発言に、アリスが乗っかる。

 そんなアリスの今日のTシャツは「馬&鹿! 出没注意!」と書いてある。

 

 ……間の「&」を取っ払ってしまえば、お前らの立派な紹介になるのに。

 

「……まあ、反対する理由も有りませんし、適当に喫茶店にでも入りますか。私はジェラートでもあればもう、言うこともないですがね」

 

 私はこの時、珍しくも不用意だった。

 私自身が暑さでイライラしていたのもあったのだが、それにしても、である。

 私の後ろで、真横で、私の発した「ジェラート」と言う単語に興味を惹かれた連中が目を光らせたことに、まったくもって気が付かなかったのだ。




だから……こんな作風のくせに話を分けるのは止めなさいとあれほど……。
それと、さり気なく新キャラを()()()で出すのも悪いクセです。
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