前回のあらすじ――東京の夏は暑い。
と言うか、ものすごい久しぶりにこっちに来たと思えばまた真夏の東京だし、人形なのになんでか暑さに参ってしまうし、余計なお荷物は増えたのに、良く見ればこちらで食を味わって欲しいウチの料理人は居ないし、どうなっているのか。
世界の壁を超えるのに人間の肉体では耐えられない、と言われたら黙るしか無いが。
……まさかとは思うが、うっかり忘れられたのだとか、そんな事は有るまいな?
何に忘れられたか、とか、その辺の事については敢えて触れはしない、が!
触れはしないし、忘れてただけなんて事は無いと信じているけどな!
思い付きでジェラートなどと口にしてしまったばかりに、私は高身長ゴシックドレスの女に絡まれている。
「お前の口から出たということは、さてはそれは甘味だな? 暑い暑いと騒いでおきながら、まさか鍋モノでは有るまいな? なあ、もう素直に白状して、そのジェラートとやらを出す店に
なんだかとっても鬱陶しいし暑苦しいし胸以外の
妙な勘の良さを発揮するのは構わないから、離れて欲しい。
切実に。
「ジェラートでも食べたい、そう言っただけで、私はそもそもこの辺りに土地勘は有りませんよ。交差点の表示を見ても、私には此処が何処なのかさっぱりです」
言いながら、私は周囲に視線を走らせる。
見た所で、都心部らしい……としか
潮の香りを感じる辺り、恐らく海に近いのだろうが……私の……ええと、生前の? 生活は職場とアパートとの往復で、遊びに行くとすれば秋◯原か御◯町か上◯か……デートなどの流れでは鶯◯に寄ったりとか、まあ、その辺のことは良いとして。
ともかく、私の生活に、このようなエリアは関係してこなかった訳だ。
あ、お◯場とかはデートで行ったことは有る。馴染はないが。
「あー……あんたもこの辺は知らないの? 私もわかんないんだよね……参ったね」
微かな期待を込めて目を向ければ、アリスは素直に目を逸らした。
素直なのは結構なのだが、私としてはこの後の行動に困る。
見回してみれば、マンションやオフィスビル、ちょっと遠くには何やら学校らしき建物と、大通りを挟んで反対側に、あれは……。
「……アリス。あれはショッピングモールだと思うのですが、違いますかね?」
指さしながら問う私は、その先に有る看板に、既に確信を抱いては居た。
そんな私の視線を、指先を追って、アリスは顔を動かす。
「……うん。なんでか名前は読み上げちゃいけない気がするけど、あの系列のショッピングモールは行ったことあるよ」
アリスが呆けた顔で意味不明な事を言っているが、とても不思議なことに、私はそれを笑ったり茶化したりする気が湧いてこない。
不思議なことも有るものだが、きっと暑さの所為だろう。
「あの手のモノは……たいてい、地下が食品フロアだったりしますよね……?」
顎先に指を当て、私はもう、その建物しか見えていない。
「そうだね……そんで、たいていは、フードコートが付き物だよね……?」
アリスもまた、獲物を狙う目つきで、その建物を睨んでいる。
「そうでなくとも……あの中は、涼しそうだとは思いませんか……?」
「ああ、確かにね。ジェラートを探してこの暑い街を彷徨うか、フードコートで適当に妥協するか……みんなはどっちが良い?」
珍しく息のあった、私とアリスの鬼気迫る質問に、残り三人はそれぞれの表情で頷く。
「マリアちゃんとアリスちゃんに任せるよぉ?」
「私は何でも良いよ? 良く
「ジェラートとやらに興味はあるが、この暑い中をダラダラと歩いていたら干からびてしまう。お前たちに任せるぞ」
私達の気迫云々と言うより、主に1体は暑さを忌避している様子で真剣に頷いているのが印象的だ。
だから、せめて黒はやめろと言っているのに。
「決まりですね。行きますよ」
だが、私はカーラに突っ込む事をせず、ただ全員に短く告げると、先陣を切って歩き出す。
暑いのは御免だ。
ただそれだけの簡単で真剣な願いを胸に、私はイライラと信号が変わるのを待つのだった。
そこは、まさに一時のオアシスだった。
無駄に、と言っては失礼だが、広大な敷地の奥まった位置に有るその建物は、それまでの暑さを耐えてきた私たちを祝福するように、ひんやりと迎え入れてくれた。
なんとも言えないデザインのTシャツ女に、メイドっぽい服装が2名、残りは長身ゴシック女に露出狂手前女。
冷静に見て、普通に職務質問待ったなし集団だと思うのだが……日本に来て浮かれた海外旅行者だと思ってくれているのだろうか。
見逃してくれているお巡りさんには感謝の思いと、身内に危険物が混ざっていることの申し訳無さを感じてしまう。
「おい、マリア! 有ったぞ、見ろよ!」
しみじみと涼しさを享受している私に、
あまり仲間だと思われたくないのだが、返事をしなければきっとうるさい事だろう。
「なんですか、何が……」
帰り際にでもカレールーを物色しようか、そんな事を考えながら生返事をしつつ、アリスの何処かを示す無遠慮な指の先を追ってみて、私は言葉が止まった。
「……ジェラート……では無い、ですよね?」
「あー、私は厳密な違いなんか
遠くフードコートの先に見えるその、有名な数字の看板に、私は足が止まってしまった。
思い付きで言ったものとは違ったが、アリスの言う通り、これほど今の私に適したものもないだろう。
「なんだ? お前たちは何を見つけてはしゃいでいるのだ?」
不思議そうに私とアリスの見る先を探るカーラだが、馴染のない彼女では、それが何かどころか、私達が足を止めてしまった理由にも思い当たることはないだろう。
「ジェラートとは違いますが、アイスクリームショップです。
私の言葉に、カーラはエマと顔を見合わせ、何事かを思案する。
そして、
「あれか! メロンフロートとかコーラフロートに浮いてたヤツ!」
「あの冷たい食べ物!?」
そしてその瞳が輝く。
現金なものである。
「……なんだあ? なんだか
一方、初めての異世界旅行を体験中の変た……露出狂は、何一つピンと来るものもなく、困惑顔である。
その反応も、エマを知っているからこそのもので、悪気が有る訳ではない。
私は、なんとなく口にしたモノに近しい何かを発見した喜びと、サラの感想に対する有る種の共感と、そのどちらを優先させるべきか、一瞬判断に迷うのだった。
まさか……まだ引っ張るとは、思いも寄りませんでした。褒めていません。