イナズマイレブン 閃光のクオリファイド   作:吉原真人

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 小説は初めて書きましたが、読者参加型には前々から興味があったので勢いながらも始めてみました。後書きのURL先よりご参加、よろしくお願いします。


プロローグ

 サッカーなんて、極めてどうでも良いものだ。

 それが出来たところで人生万事上手くいくわけじゃない。やり抜いて、いつか極めたって世界のひとつも変えられやしない。

 もし仮に世界を変えられるとしたら、そういう人間だけだ。そしてそういう人間は何をやっても世界を変えられる。

 そこそこ止まりの自分とは違う。

 

 少なくとも、理図閃太郎(りずセンタロウ)にとってはサッカーとはそういうものだった。

 だからこそ閃太郎はサッカーをやれるだけやろうと思ったし、これだけに打ち込んで少年期を文字通り()()、その後は適度に勉強して大学に行き、そのままひっそり社会人になれれば良いと思った。

 最低限親孝行して、適当に終わればそれで十分。それ以上を望むことは無い。

 

 ()()()()()()のだ。人生も、努力も、未来も。誰にも迷惑をかけることなく、自身が人並み以上にできることをやれるだけやっていれば何も文句は言われない。

 サッカーもまた、生きていないことを誤魔化す手段に過ぎない。それが一番才能があったから。

 

 

「―――お前、生きてる意味ありますか?」

 

「は?」

 

 だから、中学一年生を待つ春、ある日の夕方に河川敷で掛けられたその言葉が、閃太郎は聞き逃せなかった。

 

 変な雰囲気を纏ったその少女は、整っていながらも微塵も変わらぬ表情の中で雄弁に輝く碧い眼(ターコイズ)に熱を漲らせ、閃太郎に手を差し伸べる。

 

「私がお前の生きる意味を作ってやります。だから、私と来てください」

 

 強く、惹き付けられる。まるで悪魔の誘いのようだ。

 この手を取れば自分は何者でもない曖昧な存在ではいられなくなる。その予感があった。

 

 ゆえに当然、閃太郎はその手を振り払い―――

 

「馬鹿にするな。僕は一人で立てる」

「そうですか。それは結構です」

「で、お前、名前は?」

 

 その問いに、少女はやはり無表情のまま答える。

 

「私は灯紗祇。青色灯紗祇(あおいろヒサギ)です」

「灯紗祇? 変な名前だな。サギって呼ぶぞ」

「お前の呼びたいように、どうとでも呼んでください」

 

 この日、二人の少年少女が出会った。

 

 それを運命と呼ぶのだろう。

 

 

 □

 

 

 人生にはおおよそ意味が無い。

 誰かに見出されでもしない限り、その人物の人生に価値など存在しない。価値を見出させるのだ、上手く生きているように演じて。

 これは、弱冠13歳にして閃太郎が至った人生の理屈だった。

 無論、それに意を唱える者は大勢いるだろうが、その大勢に一人の意見を変える資格も権利も力もない。それこそ、本人が自分の意思で考えを変えでもしない限りは。

 

「ボール、そっち行ったぞー!」

「おう! まかせとけ!」

 

 初春のある日、陽も傾きはじめた午後。

 親の仕事の都合と中学進学に伴い、今年から一家で引っ越すことになった神奈川の地。

 風に靡く艶やかな黒のポニーテール、どこか虚ろにも見える切れ長な赤い瞳。線の細い女性的な顔立ちの少年がひとり、河川敷にいた。

 少年、閃太郎は何の感慨を抱くこともなく草原に座り込み、河川敷でサッカーボールを蹴る少年たちを眺めていた。

 

 本当に、何も考えてはいなかった。ただサッカーをする少年たちの姿をなんとなく見ているだけ。

 歳の頃は小学校低学年くらいだろうか。少年たちは鉄面皮のまま監視するように眺める閃太郎に気がつかぬほど熱中し、休むことも忘れてボールを追い掛けている。

 はっきり言って下手だ。ちゃんと練習に打ち込まなければ中学に上がってもあのままだろう。厳しいようだが、サッカーとはそういうものだ。

 

 そんな風に考えながら少年たちを眺める閃太郎の隣に、予期せぬ人影が腰を下ろした。

 おおかた同じような暇人だろう。ここら辺は治安が良いと聞いた。不審者ではあるまい。

 特に驚くこともなかった閃太郎は何ら反応を示さない。しばらく経っても意識すら向けない彼に焦れたのか、隣に座った人物は閃太郎に声を掛けた。

 

「サッカーが好きなんですか?」

「好きだ」

 

 鈴の音を転がすような、聴き心地の良い少女の声。

 なんとも単刀直入な質問だ。

 閃太郎は逡巡することもなく、テンプレートのままそう答える。

 

「嘘ですね」

 

 だが、少女はそれを即座に否定した。

 こればかりは閃太郎も何の反応を示さない訳にはいかなかった。

 どこか鬱陶しげな雰囲気を纏ってみせ、振り向いた閃太郎の視線と澄み渡るような青がぶつかる。

 まず印象に残ったのは長い白髪に蒼い眼。まだ少し幼いながらも整った顔立ちだ。歳も閃太郎とそう離れてはいないだろう。顔に感情の揺れ動きは無いが、意思は確かにある。それも燃えるような熱量の。

 

 閃太郎はそれを()()()と思った。

 

 少年のそれとは質の違う無表情のまま、少女は口を開いた。

 

「好きなら、もっと好きだという気持ちを出したらどうですか?」

「随分と好き放題言うな。僕と同じ能面のくせに」

「私はお前と違って顔に出にくいだけです」

 

 少女の物言いにほんの少し苛立ちを覚えた閃太郎は、少し乱雑な口調で少女に返す。

 たとえ閃太郎のように感情の起伏の少ない人間と言えど、どこか否定するようなニュアンスで詰られれば苛立ちもするだろう。

 

「私とサッカーをしましょう」

「はぁ? どうして僕がそんなこと」

 

 閃太郎はそうそうに彼女のことを苦手であると認めた。

 

 唐突なサッカーの誘い。こいつ、何を言ってるんだ?という怪訝な目を隠すこともなく、閃太郎は少女を横目で見遣る。

 よく見れば、少女は白地に赤いラインの入ったシンプルなデザインのユニフォームに身を包み、サッカーボールを抱えていた。

 胸元には称練の文字。

 

 少年は頭を抱えたくなった。

 

「お前、もしかして称練中学か?」

「いえ、称練小学校ですが。今年から称練中学校に上がります」

 

 嫌な予感的中。少年は頭を抱えた。

 

 称練は小学校と中学校が提携している、いわゆる小中一貫の学校だ。そして称練小学校の生徒は余程のことがなければそのままストレートに上がってくる。もしかすると馴染めないかもしれないなどと母親に言われたことを思い出す。

 そして、目の前の彼女も本人の言葉の通りストレートに進学するのだろう。

 つまり彼女は称練中でもサッカーをやるということだ。

 小学校でサッカーをやっていた人間は、余程の理由が無い限り中学校までならサッカーを続ける。高校より上はまた本人の能力の話だが、そこまでは間違いない。

 閃太郎は称練中学に入学後、何の検討もなくサッカー部に入部するつもりであったが、まさか苦手認定した相手と三年間同じ部活で過ごすことになるかもしれないとは。不運だと思わざるをえない。

 

「なるほど。まあ、なんにせよサッカーをしましょう」

「何がなんにせよなのか分からないんだが」

「行きますよ、ほらさっさと来てください」

「あ、ちょ、お前っ」

 

 嫌そうな雰囲気を隠そうともしない閃太郎を意に介さず、少女は閃太郎の手を引っ張った。

 流石にここまで存在感を出せば、サッカーに熱中していた子供たちも気がつく。

 彼らは目を輝かせてふたり、正確には少女の下に駆け寄ってきた。

 

「あ、いつものねーちゃん!」

「おう、昨日ぶりですねちびっこ達」

「またアレ見せてくれよ!」

「しかたないですね。特別に私とこのお姉さんとで見せてあげましょう」

「まじ!? こっちのねーちゃんもアレできんのかよ!」

 

 ()()、とはなんだろうか。

 閃太郎は少年たちが目を輝かせて少女にねだるアレとやらが気になったが、それ以上に勝手に進む会話の中で聞こえる一言が聞き捨てならなかった。

 

「おいお前ら、というかお前」

「はい? どうかしましたか?」

「僕はこんなナリでも男だ。お姉さんじゃない」

「「え」」

 

 固まる一同。少女もまた然り。

 どことなく少女の性格の悪さを察知していた閃太郎は、てっきり間違えて伝えたのもわざとかと思っていたのだが、少女の様子を見るに本当に女だと思っていたらしい。

 まあ、間違えられるのは慣れているからどうということはない。強いて言えばこうして一々訂正するのが面倒臭いだけだ。少年ははぁとため息を吐きながら、少女からボールをふんだくる。

 

「ワンオンワンでいいな?」

「っ、はい。それでいいですよ」

 

 今度は少女が面を食らう番であった。

 如何に強引にここまで引っ張ってきたと言えど、本当にやりたくないと言うなら無理にとは言わないつもりだったのだ。それが、まさかあれだけ嫌そうだった彼自身からワンオンワンを申し出てくるとは思いもしなかった。

 困惑しながらも少年の対面に位置取るために歩き出そうとする彼女に向けて、閃太郎は指を一本立ててきっぱりと口にする。

 

「仕方ないからやってやるが、僕が勝ったら中学校では僕に話し掛けるな」

「なるほど、自信があると。分かりました」

 

 きっと、挑戦的にニヤリと笑ったのだろう。表情筋は全く動いていないが、なんとなく分かった。

 

 少年たちが使っていた線を引いただけの粗製のコート。

 その真ん中に向かい合って立つと、少女は少年にボールを蹴り渡した。

 

「お前はチャレンジャーです。先に蹴ると良いです」

「……そうかよ。なら、遠慮なくッ!」

 

 閃太郎はボールを蹴り、一直線に駆け出した。

 彼我の距離はわずか五メートル足らず。普通なら、最高速度に乗ることなく相手とかち合うだろう。

 

 ()()なら。

 

「っ、はや!?」

「すっげー!」

 

 しかし、少年は踏み出してすぐ二歩目から最高速に乗ってみせる。

 まるで疾風のような速さで少女を抜き去らんとする。

 

「抜かせません……!」

 

 だが、少女とてそれで抜かれるようなプレイヤーではない。

 反応してしっかりと目の前に立ち塞がった少女に、内心で舌打ちする。当然、ついてこられる可能性も想定してはいたが、そうなると面倒臭かった。

 だから、ここで少年は手札を切る。

 

「【スーパースキャン】」

 

 少年の視界にウィンドウが表示され、この時に知り得る情報が全て明示される。

 それらを一瞬のうちに全て確認し、そして同じように一瞬で少年はルートを導き出した。

 

「おー!! 必殺技だ!」

「かっけー!」

「っ、やはりですか……!」

 

 ソレを見て子供たちは口々に賞賛する。

 ソレは、ソレを使えるプレイヤーはサッカーに夢見る子供たちの憧れであった。

 

 必殺技。

 ある程度の域に至ったプレイヤーが習得する個人技。使える者こそ世界で見れば数多いるが、しかし珍しいことに変わりはなく、プレイヤーとして優れていることにも変わりはない。

 閃太郎がその域に達していると見抜いていた少女は、慌てることなく対応する。

 

「【アンブレイカ・ブルー】!」

「くっ」

 

 少女をかわそうと閃太郎が滑り込んだその横で、蒼い炎が吹き出す。

 それは瞬きの間に燃え上がり、閃太郎の組み上げたコースを見事に阻害してみせる。

 

「でたー! ねーちゃんのブロック技!」

「あのにーちゃんの技もかっけーけど、ねーちゃんの方が派手でいいなー!」

 

 なんとなく、閃太郎は子供たちの言葉を無視できなかった。

 自分の技に絶対の自信だとか、そういうのがあるわけではない。

 しかし、目の前の少女の技と比べられて少年は少しばかり冷静さを欠いた。

 

「隙あり、ですよ」

「くっ」

 

 少女はその隙を見逃さず、必殺技に怯んだ閃太郎からボールを奪い取る。そしてそのまま閃太郎側のゴールへと駆け出した。

 

「させるか……!」

 

 このままでは不味い。先に一点を取られて負ける。

 負ける。そう思った時、閃太郎は初めに見せた凄まじいスプリントで駆け上がり、少女をブロックせんとボールに足を伸ばす。しかし少女は優れたキープ力でボールを保持すると、弄ぶように一回転。

 

「いっけー、ねーちゃん!」

 

 少女はそのままゴールに見立てたゾーンにボールを蹴り放つ。

 

 その横を光が走った。

 

 

 

「―――【閃光のクオリファイド】」

 

 

 

 ゴールエリアの手前。既のところ。

 ボールは少年の足に収まった。

 誰も彼もが閃太郎の動きを目で追うことなどできず。いつの間にかゴール前に現れたその姿に、呆然とするばかりであった。

 

「っ、やりますね」

「……お前もな。僕にこれを使わせるなんて」

 

 少女の賞賛に、けれども閃太郎はどこか煮え切らない思いを抱える。

 使うつもりなどなかった。なのに、気が付けばこの技を使っていた。

 

 習得してから今に至るまで誰の目にも晒すことなく、秘め続けた技。

 だが、この少女に点を取られてしまう。そう思った時、閃太郎は咄嗟にこの技を解き放っていたのだ。

 

 

 

 少年にとって、この技は特別だった。

 

 

 少年は天才だった。当然、その才能だけで成り上がれるようなものではない。

 しかし、少年が初めて必殺技を会得したのは今から五年前。小学校一年生の頃。サッカーを初めてから半年のこと。それだけでも少年の才能が分かるだろう。

 少年は簡単な技ならどんなものでも一目見ただけで習得できてしまった。

 

 そんな彼が、初めて行き詰まったのがこの技だった。

 ある時から、内より芽生え始めた形容し難いナニカ。掴みたくても掴めない霞のような渦。不動だった自分を逸らせる不可思議で不定形な存在。

 

 少年はそれに悶々とさせられたまま一年を過ごした。

 それは少年にとって初めての苦悩、壁であった。

 

 

 そしてある日、閃太郎はそれを掴んだ。

 

 

 ()()()()()のだ。内から生まれ出る衝動を捉え、形にして外へと解き放った。

 【閃光のクオリファイド】。形をなぞるだけだった無気力な少年が得た唯一の体験。少年がサッカーを続ける理由の一つ。

 この技の存在こそが、少年にとってのサッカーだった。

 

 だからこそ、この技は絶対に使わない。この技を晒すのは嫌だから。

 そう決めていた少年は、少女に負けると思ったその時、咄嗟にこの技を【閃光のクオリファイド】を繰り出していた。

 それがどうしてか、分からなかった。

 

「一点先取ですよ、防いだくらいで安心しないでください」

「っ、分かってる」

 

 少年は走り出す。

 また、胸の内に生まれたよく分からないモヤモヤを振り払うために。

 今は一先ず、目の前の少女に勝つために。

 

 □

 

 ゼロ対ゼロ。夕日が河川敷を赤く照らす。

 結果から言えば、二時間経って日が暮れても勝負はつかなかった。

 子供たちが先に帰っても、二人はボールを蹴り合い、負けるものかと走った。

 

 息も絶え絶えになりながら、それでも二人共に目は死なず。ボールを追い掛け続けた。

 

「はぁっ、はぁ……お前、悪くないですね」

「っ、はぁっ、何が悪くないだ。上から目線にっ」

 

 苛立ち混じり。

 閃太郎は吐き捨てるように言うと、ボールを蹴る。しかし精細を欠きつつあったプレイは簡単に見切られ、似たように疲弊した少女に容易くボールを奪われる。

 

「っ、てっきり、サッカーを惰性でやってるヤツかと思いましたが、お前は私に勝ちに来てる。とても良い」

「だから、さっきからなんで上から目線なんだよ、お前は……っ」

 

 まるで試されているみたいではないか。

 癪に障る。

 

 奪い返そうと踵を返した時、少女と少年の足はもつれあって絡まり、互いを地面に倒した。

 

「っ、まだまだ……!」

 

 癪に障る。ムカつく。腹立たしい。

 

 ……いや、どうして自分は敗北を予感して苛立っている? それも初対面の相手に。

 やっていることは、たかだかサッカーだろうに。人生を上手く見せる為の手段に過ぎないくせに。どうして、僕は熱くなっている?

 分からない。僕はこんな風に熱くなる人間ではないはず。初めてのことで、分からない。

 

 地面に転がって息を荒らげながらも懊悩する閃太郎。

 彼の内心を見透かすように、少女は問い掛ける。

 

「―――お前、生きてる意味ありますか?」

「は?」

 

 それはつまり、今のところの彼の人生そのものと言っても過言ではないサッカーに、実のところ意味はあるのか? という問いであった。

 

 ただ、斜に構えているのではない。本当に人生(サッカー)に価値を見出していない。

 そんな彼が、それでもサッカーにだけはなけなしの感情を発露させる。果たして、そこに無の概念はあるか。

 

 それは、まだ意味が無いというだけで、無価値ではないのだ。少なくとも、少女はそう思っている。

 ならば、己の()()のためにもこの少年を無意味のまま終わらせるのは惜しい。

 

「私がお前の生きる意味を作ってやります。だから、私と来てください」

 

 強く、惹き付けられる。まるで天使の誘いのようだ。

 この手を取れば自分は何者でもない無知な存在ではいられなくなる。その予感があった。

 

 ゆえに必然、閃太郎はその手を振り払い―――

 

「馬鹿にするな。僕は一人で立てる」

「そうですか。それは結構です」

「で、お前、名前は?」

 

 その問いに、少女はやはり無表情のまま答える。

 その眼に自信と激情を滾らせて。

 

「私は灯紗祇。青色灯紗祇(あおいろヒサギ)です」

「灯紗祇? 変な名前だな。サギって呼ぶぞ」

「お前の呼びたいように、どうとでも呼んでください」

 

 この日、二人の少年少女が出会い、幾らかの運命が加速していくことをまだ誰も知る由もなかった。

 それでも確かにこの出会いがあって、この物語は始まる。

 

 

 これは空の少年が駆け抜けた、三年間の物語である。

 




 まだまだ知名度も低いため、キャラクターの投稿も少ないでしょうから、ゆっくりと更新していきたいと思います。よろしくお願いします。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=282875&uid=287252
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