超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない! 外伝・黒服作戦計画 Piano:Camicie Nere   作:島スライスメロン

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闇の中を舞うひとひらの蝶の羽ばたきが、或いはそれを生んだのかもしれない。理屈としては検証不可能かもしれないが。


いきなり最終決戦な件

【暗闇、画面】

 

〔疾風大二郎〕

「あーあー、聞こえていますか?……うん、大丈夫みたいだね。

 

どうもこの回線を開いている皆さん、私の名前は疾風大二郎。未知のエネルギー『NSP』を発見し、研究している一介の科学者です。以後お見知りおきを……いや、或いは僕のことを既に知っている方も、恐らくはいるのだろうけど。

 

さて、この回線を開いているということは、皆さんはジンライ君が活躍するヒーロー活劇『超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!』をご覧ということだと思いますが、もしそうならありがとうございます。

 

僕にこんなことを言う権利があるかは定かではないけれど、彼という人物の作る物語の軌跡が、人の目につくことで消えずに記憶・記録という形で残ることは、なんだか感慨深いものがあり、或いはそれが誰か、何かの一生において何らかの意義を担っているかもしれないことを考えると、彼の戦いや平穏な日常が、決して無駄なものではない宇宙の構成要素となっているのが嬉しい。

もしかしたらそれは僕の勘違いでしかないかもしれないけれどもね。

 

さて、毎度ジンライ君とその仲間たちの周囲で巻き起こる様々な騒動を放送してきたこの回線だけど、今回公開するのはいつもの『撮影陣』が撮ったものとはまた別の、『別角度』から撮られた彼らの姿だよ。

 

さて別の角度に関してだけど、それは多元宇宙内の分岐した可能性によるもので、『普段の』ジンライ君たちの『作風』からは少しかけ離れた姿は、或いはそれが『今回の製作者』の意図を受けて編集・改竄された、偽りの模造品であることを強調するだけの結果に終わるかもしれないし、それで今回の事件に対する評価を著しく悪くつけることになるかもしれない。斯く言う僕もまた、可能性の因子から生じたifの存在に過ぎないしね。

 

さて、本題に入ろうか。今回の話は遠い宇宙の彼方からやってきた者たちが引き起こしたある事件に関して、ジンライ君が巻き込まれていく話なんだ。

その事件というのは、ある国の存亡をかけた重大な事件なのだけれど、とにかくいつもとは漂う空気が違っていて、今回の事件の顛末も加えるなら、恐らく多くの視聴者が戸惑うと思う。

 

けれど、それでもどうか、今回の事件を巡るジンライ君たちの活躍を、頭の片隅にでも留めておいてくれないだろうか。なにしろ今回の件は、僕個人の頭の中に仕舞っておくには情報が少しなかり多いからね。まあ、僕から言えるのはそれだね。

 

では皆さんご覧下さい。多元宇宙の可能性の因子、その一欠片を」

 

 

  *   *   *

 

【冬の海沿い道路】

 

〔疾風迅雷(はやて じんらい):ジンライ〕

「絶景だな、海が凍るというのは」

 

〔疾風舞(はやて まい):舞〕

「確かにいい景色だわ。観光資源だというのも頷けるわね……『あんなもの』が無ければだけど」

 

〔ジンライ〕

「うむ。『こんなこと』がなければ物見遊山と洒落込んだところだが、生憎そうはいかないらしい」

 

白い流氷が海上を覆っているのを見て、ジンライと舞はふと感嘆の言葉と残念がる言葉を漏らした。

この世界のジンライが初めて来た時は砂浜の砂層が顔を出していた網走の海岸沿い、オホーツク海も、2月半ばともなればその気温は氷点下を下回るのに加えてオホーツク海上部で凍った海水が流れ込んで、海は一面白い氷で覆われる。

 

そんな網走の流氷景色を、道路沿いの空き地から見ていた二人は、だがしかしその絶景を汚して台無しにしている、上空の赤い球体に注意を払っていた。

その球体はまるで夕方の空で大地に沈み切る太陽のように真っ赤に輝いており、されども実体を持たないのか、その表面はぐにゃぐにゃと歪んでおり、水面に反射しているかのようだ。

その赤い球体が発する光の影響で、海上はまるで燃え立つ溶鉱炉のような光景になっている。

更に上空に目線を移すと、そこには妖しく揺れる赤いオーロラが天を覆っており、それはエネルギーを帯びているのか、時折放電現象を生じ大気を震わせていた。

 

時空の抜け穴である。

 

時空の抜け穴とは、その先に別の時空が繋がる一種の空間の歪みであり、所詮ワームホールとか、その用途次第ではワープホールとも呼ばれるが、その歪みが出現したのは突然のことであった。

 

突如空がオーロラで覆われ、そこから発する異常な電磁波によって、北海道エリア全域にて電子機器を用いる各インフラがダウンする異常事態が発生した。未知の災害現象、その原因を捜索するうちに、この抜け穴の存在に辿り着いたのだが、実はこの抜け穴にはその発生にある人為の絡んだ経緯があり、そしてそれは決して善意的なものではなかった。

 

〔無二瀬(むにせ)マコト:マコト〕

「本来、過去と未来、或いは座標同同士を繋ぐ抜け穴を悪用して、異次元からの歪なエネルギー流入の経路にしてしまうなんて、『ラケーシュ』のサリュウとウリュウ、それと『ファーリ』のマスター・ハンザ、手を組んだ彼らは本当に形振り構っていられないようですね……

まあいつも通りウリュウが犯行の予告状を寄越してきたお陰で、こうして原因の目途が付いたわけですけど」

 

〔テュロン〕

「……」

 

大型バイクに匹敵する体格を有する、灰色の栗鼠のような姿の珍獣テュロンに跨りながら、上空の抜け穴を観察する無二瀬マコトがそう呟く。どうやら今回の件は、いつもとは事情が違う代物らしい。

 

未来から過去に渡ってくる科学犯罪者集団ラケーシュと、超能力で怪獣を操る宗教組織ファーリ、彼らはどのような事情があったのか、手を組んで今回の異常事態を引き起こした。

北海道全土に影響を与えている現在の異常事態はとても無視などできない問題であり、よってジンライ達ご当地ヒーローが立ち上がり、その対処にあたることになったのだ

 

〔マコト〕

「正確な地点の特定が難問でしたが、デコボコさんの妙に鋭い『勘』のおかげでなんとか発見できましたね。ですが、この事態を引き起こしたであろうラケーシュとファーリが待ち構えていると睨んでいたのに、蛻の空だとは肩透かしですね」

 

〔ジンライ〕

「だが、向こうからこちらを誘い込んだ以上、恐らく待ち構えて迎撃してくるはずだ。気を引き締めてかかるぞマコト」

 

〔マコト〕

「ええ。ではとりあえず一番怪しい抜け穴のほうを探索してみるとしましょうか」

 

〔ジンライ〕

「舞はドッポの中で待機してくれ。もしかしたら無線が繋がるかもしれないからな」

 

〔舞〕

「ロボットスーツがあれば私も戦闘できるのに。おじいちゃんってば改造するから持っていくななんて、一体何をする気かしら」

 

〔ジンライ〕

「大二郎のことだ、恐らくこの状況を打開する重要な策に関わることだろう。あれで結構非常時に有能な働きを……

 

舞!急いでドッポの中へ!」ガシッ!

 

〔舞〕

「きゃっー一体何を……って、うわぁ!」

 

ジンライが舞の手を引いてドッポの中に飛び込む。刹那、光のエネルギー弾がジンライ達を襲撃した。

高速で後進するドッポ。その隣では、同じくマコトを乗せて跳躍するテュロンがエネルギー弾を回避していた。獲物を捕らえること敵わず地面に落下して、されども猛るように凶悪な爆発をするエネルギー弾。ドカーンという衝撃が空気を震わせ、ジンライ達に戦いの始まりを告げた。

 

〔???〕

「おや気づきましたか。ふふ、その妙な獣は普通の獣じゃあないようだね。これは厄介だ。まさかこのタイミングで気付かれるとは、出来れば奇襲でかたを着けてしまいたかったのですが……」

 

攻撃を放ったのは上空の抜け穴から身を乗り出した僧衣の男だ。

男は光のエネルギーを固めて作った階段で地面までの経路を作り、ゆっくりと降りていく。

その正体は『ファーリ』の超能力者マスター・ハンザである。

 

〔ハンザ〕

「何をどうやったのかはわからないけど、よくも『広域ステルス装置』を破壊して、あの時空の抜け穴、否『天国の門』の偽装を解いてくたねぇ君たち。おかげでこちらの計画が若干狂うことになったよ。

因縁というやつかな」

 

そう語るハンザの横には、黒い煙を吹き出す四角いコンテナ型の壊れた機械があった。

先ほどジンライたちが発見して破壊した、次元の歪みを偽装隠ぺいする特殊な広域ステルス装置である。

 

〔ジンライ〕

「貴様らが『ソウダイ奪還同盟』から強奪したステルス装置、確かにその効果は強力でこちらも突破には苦労したが、だがこちらにも優秀な味方がついているのでな。それよりも、今の今まで姿を隠していたのは、貴様もまた使い慣れないステルス装置の影響でこちらを発見できなかったせいじゃないか?」

 

〔ハンザ〕

「まあ、所詮獣として中途半端な亜人種が作った程度のものだからね、使い勝手で欠陥があるのさ。

さて、そちらがここまでこれたのは大方探知系の超能力者のお陰だろうけど、でもそれはそれとして、今この場には君ら3人しかいない、特にあの蟹の坊やがいないのは都合がいいね……いや失礼。

 

つまりこれだけしかいないということは、他の連中もそれぞれで散らばってステルス装置を探していたということだろうね。では戦力が集結する前に貴方方を各個撃破してしまえばいい」

 

〔ジンライ〕

「今の今まで失敗してきたことを、今更成功させられるとでも?

今日こそ観念しろマスター・ハンザ。NSPを巡る貴様との戦いは、今この場で終結する」

 

〔ハンザ〕

「そちらこそ、いつもこちらの障害として立ちふさがってきたことを今こそ後悔するがいい。ふふ、本来ならばNSPを使ってからこじ開ける予定だったが、『彼』の協力を得て開いたお陰でもはやNSPなど不要の代物、単なる障害に過ぎない。

故に祝福代わりに特別なる神からの贈呈品を与えよう。裁きのギフテッドを!」

 

そう言ってハンザが右腕を突き出すと、握った拳から光のエネルギー弾が生じて発射される。高速で向かってくるそれを、舞とマコトはテュロンに乗って回避を試みるが、だがジンライは躱すことなくどっしりと構えていた。

 

〔舞〕

「ジンライ!」

 

彼の身を案じる舞。されども光の玉は彼女の心配を他所にジンライへと向かっていく。

彼の絶体絶命の危機に、ハンザは邪悪な笑みを浮かべる。

 

〔ハンザ〕

「さようならジンライ!君は地獄に落ちろ!」

 

狂気を露わに、ジンライの撃破を狙うハンザ。だがしかし、その瞬間ジンライが動いた。彼は手に持ったスーツケースを自身の正面に構えると、ケースを開けて内部に折りたたまれた状態で収納されていたパワードスーツの胸元のスイッチを押した。

 

〔ジンライ〕

「意思を表示!」

 

刹那、スーツはジンライの体を覆い包むように膨張展開する。エネルギー弾はそのスーツに着弾し、爆発が起こるものの、その爆発の中から変身完了した疾風迅雷が飛び出して、右腕から発生したレーザー剣をハンザに振り降ろした。

 

〔ジンライ〕

「メタルフォーム展開完了、『ライトニングブレイド』!」

 

銀色に輝く金属戦士、疾風迅雷メタルフォームがハンザを仕留めにかかる。

 

〔ハンザ〕

「なんの!ギフテッド防護盾ェ!」

 

ハンザが咄嗟に超能力で生成した光の力場シールドが、ライトニングブレイドによる無情な斬撃を防ぎ、攻防は拮抗状態に入った。

 

〔ハンザ〕

「まさか変身しながら形態を変えられるようになっていたとはね。

ですがその形態は以前私が破ったもの、同じ失敗を一度ならず二度も繰り返すとは、君の力はこんなものかい疾風迅雷!」

 

強力な防護盾の裏で、余裕を見せてほくそ笑むハンザ。そう以前ジンライはメタルフォームでハンザと戦い、そして追い込まれたことがあった。

ハンザの言うように、これはジンライの学習能力に欠陥があったのか?

 

〔ジンライ〕

「どうやら貴様は何も学習していないようだな。『ヘッドフラッシュ』、『ニーミサイル』!」

 

ジンライの頭部が閃光を放ち、防護盾越しにハンザの眼を焼く。咄嗟に彼が目を覆った隙に、ジンライは後ろに飛びのいて右膝を付き、左膝のランチャーからミサイルを発射した。

 

〔ハンザ〕

「ふん、目を潰されても音で場所は分かる。そこだろう!」

 

ハンザはジンライの位置を声で確認すると、ニーミサイルを防護盾で防いだ。

防護盾の表面で爆発が起き、衝撃波が爆音となって周囲が振動した。

 

〔ハンザ〕

「君の曲芸はこんなものかい、疾風迅雷?サーカス団のピエロの方がよほど私を驚かせてくれるよ。

さて、次はどんな技で私を楽しませてくれるのかな?」

 

爆発が止んで、煙の中から無傷のハンザが姿を現す。その態度には余裕が溢れており、ジンライに対する自身のアドバンテージに酔っている様子だ。

 

そんなハンザの様子を見て、だがしかしジンライはハンザの挑発を余裕の態度で受け流した。

 

〔ジンライ〕

「ではこれはどうだ?『バーニングハンド』!」

 

ジンライが左腕を下に向けて突き出すと、炎が放射されて地面が燃え上がる。そしてジンライは、ハンザを囲み込むかのような円軌道を描いて走り出した。

 

〔ジンライ〕

「このまま貴様を囲んでバーベキューにするというのは、実に愉快な演目じゃあないか、マスター・ハンザ?」

 

どうやらジンライは、ハンザを防護盾ごと蒸し焼きにする算段らしい。実に残虐ではあるが、或いは有効か?とも思わせる戦術。

だがそんなジンライの奇策に対し、ハンザはやれやれといった様子で呆れた表情を浮かべた。

 

〔ハンザ〕

「確かにその炎はかなり強力なようだけど、しかし私のギフテッドなら脱出することは可能だよ」

 

そういうとハンザは防護盾をカーペット状に展開して地面に敷き、ジンライの起こした火災を沈火して炎の柵から脱出して見せた。

 

〔ハンザ〕

「どうだい種も仕掛けもない火炎脱出ショーは?私のギフテッドは、例え火災からだって私の身を守るほどの強力な神の加護なのさ。

君のそのちんけなスーツとは訳が違うんだ……さて」

 

話を止めたハンザは、懐から隠し持っていた瓶を3つほど取り出して、舞やマコト、テュロンに向けて放り投げた。

地面に落下して割れた瓶の中からは、体長30cmほどの昆虫のヤゴのような生物がはい出す。

更にハンザが竪琴を弾き奏でると、それらのヤゴは体格が倍以上に膨れ上がった。

 

〔ハンザ〕

「彼らは我々が古代の地層から掘り起こした太古の生命体で、怪獣になる素質はあるものの君を倒すだけの力はまだない。しかし……」

 

ヤゴたちは、目の前にいる舞たちに飛び掛かると、前腕の鋏で引き裂きに掛かった。

 

〔舞〕

「きゃっ!」

 

〔テュロン〕

「グォッ!」

 

〔マコト〕

「舞さん、テュロン!ええい!」

 

〔ドッポ〕

「タイショウノトクチョウヲブンセキ、セキタンキノセイブツニコクジ」

 

〔ジンライ〕

「戦力を隠し持っていたか」

 

舞は車両に変化したドッポの中に潜り込み、まちゃマコトはテュロンに跨ってヤゴたちの攻撃を防いだり躱したりしている。が、そのせいでジンライの支援に回れなくなった。

 

〔ハンザ〕

「横やりを入れられると困るのでね、少しばかり彼らの獲物になってくれないか。

さて疾風迅雷、まだまだ行くよ!」

 

〔マコト〕

「しょうがないテュロン、とりあえず一旦引こう。ジンライさん、頑張ってください」

 

〔舞〕

「えっ?でもマコト君、あいつは……」

 

〔マコト〕

「大丈夫です舞さん。『これは作戦ですから』」

 

〔ジンライ〕

「そうだ舞、一旦引け、『これは作戦だ』。ドッポもな、『攪乱のためにテュロンとは別方向に離脱しろ』」

 

〔舞〕

「!……そうね、一旦引きましょうか」

 

〔ドッポ〕

「ナルホド……ショウチシマシタ」

 

舞とマコト、テュロン、それにドッポはその場から離脱し、ヤゴたちもそれを追って飛び跳ねて行った。どうやらバッタのような性質も持っているらしい。

 

一方ジンライは一人取り残され、ハンザと対峙する。

 

〔ハンザ〕

「一対一だね。まあすぐ終わらせようか。しかし……」

 

ジンライと対峙するハンザは、今の戦いの流れの中に、どこか釈然としない違和感を感じていた。

 

〔ハンザ〕

「君の特技は確か『形態変化(フォームチェンジ)』による戦闘能力の変化のはず。それがなぜか今回の戦いでは、その形態のみに固着して、まだ他の形態に変化していない。

きっと何か理由があるんだろうね、例えば……『変身と同時に形態を変化させると、他の形態に変化できない不具合がある』とか?」

 

〔ジンライ〕

「!?……くっ……」

 

〔ハンザ〕

「おや、適当にカマを掛けてみたらどうやら当たりのようだね。

前回のあの巨大化能力が出てきたら厄介だったけど、そうでないならその形態の君なんて何の脅威でもない。

このままじわじわと嬲って差し上げよう」

 

ハンザは勝利を確信し、右手を頭上に掲げようとする。

恐らくエネルギー弾を放つつもりだろう。

 

〔ジンライ〕

「くっ……うぉぉぉぉぉお『ヘッドフラッシュ』!」

 

ジンライが今一度ヘッドフラッシュを使用する。必死の思いを込めたかのような叫びと共に発動したそれは、通常の一瞬だけ閃光を発するものではなく、持続的に光を放ち続けていた。

 

〔ハンザ〕

「種が分かってしまえばそんなもの幾らでも防ぎようがあるよ」

 

ハンザは、強力な光を防ぐために目を閉じる。それと同時に、彼の頭上に光のエネルギー弾が形成され始めた。

 

〔ハンザ〕

「直視できないおかげで命中精度は下がるけれど……そんなことが関係ないほどの破壊のエネルギーをぶつけて差し上げよう。さようなら疾風迅雷、天罰によって滅びるがいい」

〔ジンライ〕

「くっ……くっくっく、あっはっは、あーはっは!」

 

ハンザの光エネルギー弾が巨大化していく。それを見たジンライは、絶望によるものか気が狂ったかのような声を上げて笑った。

そんなジンライを見て、勝利を確信したハンザはされども、ジンライを憐れみながらも妙な違和感に気付く。

 

〔ハンザ〕

「可哀そうに……いや、妙だね、何か、含んだ感情が……

これは……演技?」

 

〔ジンライ〕

「くっくっく、くっくっく、あーっははははは!!!!!天罰、天罰だとっ!マスター・ハンザ!

 

そいつは……こういうもののことを言うんじゃあないか?

 

『ニーミサイル』!」

 

ドカーン!突如ハンザの背後に何かが上空から落下し、爆発を起こした。

突然の事態に驚きながら吹っ飛ぶハンザは、顔面から積もった雪に突っ込んだ。

 

〔ハンザ〕

「うわぁーっ!?

……何?一体何がっ?」

 

今起こったことを理解できないまま地面に突っ伏すハンザは、ジンライを見ながら疑問の答えを探して脳を稼働させる。

間もなくして、その答えに自力で辿り着いた。

 

〔ハンザ〕

「そ、そうだあの時……」

 

―〔ジンライ〕

「どうやら貴様は何も学習していないようだな。『ヘッドフラッシュ』、『ニーミサイル』!」

 

〔ハンザ〕

「ふん、目を潰されても音で場所は分かる。そこだろう!」―

 

〔ハンザ〕

「あの時、私はヘッドフラッシュとニーミサイルに気を取られ、爆発と同時のタイミングで『二発目の二―ミサイルが発射されたことに気付かなかった』のか」

 

〔ジンライ〕

「……フッ」

 

〔ハンザ〕

「その反応、やはり!?おのれ疾風迅雷……」

 

―少し時間を遡ろう。

一回目のヘッドフラッシュとニーミサイルを放った後、ジンライは一発目のミサイルが爆発するのと同時に『二発目の二―ミサイル』を密かに放っていた。

このミサイルは直接ハンザを狙わず、その頭上の空に向けて放たれており、それはハンザの意識の外から隙を狙って攻撃するためであった。所詮ポップアップ機動というものだ

 

ハンザの防護壁は、正面からなら大抵の攻撃を防ぎきることが出来る程強力であり、突破は難しい。とはいえ弱点が皆無ではなく、特に『ハンザが意識しないと使えない』というのは目立つ部分である。

かつての戦いでクラブマンが彼の意識の隙を突いて横やりを入れることで突破できたのも、その弱点があるためだ。

 

とはいえ、いくらハンザの能力に欠点があるといっても、同じ策を何度も繰り返すのは愚策であり、もしハンザが反省してちゃんと対策を取ってきたなら、やはり突破は難しい。

そこでジンライはハンザの意識を逸らすために、幾重にも策を巡らすことにした。

 

ニーミサイルの爆発に紛れさせて二発目を撃ったのもそうだが、一発目のニーミサイル前にヘッドフラッシュを放ったのも、バーニングハンドで派手に立ち回ったのも、舞たちを分散させて離脱させたのも、フォームチェンジを使わなかったのも、突然大声で叫んでみたり、ヘッドフラッシュを放ち続けたのも、全ては上空を飛ぶ二発目のニーミサイルの存在をハンザに悟らせないために、彼の意識を逸らさせ続けるための陽動であったのだ。

 

この一つでも失敗すれば即座に破綻する策を、されども成功させるのに至らせたのは、偏にジンライの度胸がハンザを上回っていたのと、運がジンライに味方したためである。

彼は己の運命を天と賭け、そして天は賭けに出たジンライの度胸に心打たれて彼に味方したのである。

 

〔ジンライ〕

「まあ、ニーミサイルの誘導がこれだけ融通が利いたのが、そもそもの今回の作戦の成功理由ではある。これが上手くいかなければそもそも作戦が成り立っていない。

……態々コントロールを特訓した成果はあったな、さて」

 

ジンライはフォームチェンジによって『クラシックフォーム:ニンジャ』に変化して、分身の術を展開してハンザを包囲しにかかった。

十数体の分身に囲まれたハンザは、その光景を忌々し気に睨みつける。

 

〔ハンザ〕

「疾風迅雷、君形態変化を……」

 

〔ジンライ〕

「別に変身時にフォームチェンジをしたところで、他のフォームになれないなどということはない。

 

貴様が真面目な顔で的外れなことを言いだしたときは、つい笑ってしまいそうになったぞ。はっはっは。

 

俺がメタルフォームを維持していたのは、ニーミサイルの操作のため他のフォームに変化できなかったからに過ぎん」

 

十数体の分身にあざ笑われて、ハンザは癪に障られた。

 

〔ハンザ〕

「結局笑っているじゃあないか。許さない、許さないぞ疾風迅雷……

まだ私には策が残っているんだ。ラケーシュのウリュウとサリュウさえ戻れば、私の計画は実行が可能……」

 

ハンザはこの段階に至ってなお、今回の『計画』に諦めがつくほどに物分かりが良い性格ではなかった。悪の組織、その一員である彼の性根は、捩じれきっているのだ。

 

〔ジンライ〕

「諦めろ。他の場所でも協力者たちがその二人を相手に戦っている筈だ。そして恐らく、協力者たちが負けることはない。奴らの強さを、俺は十分に理解している。

確か俺に地獄に行けと言ったな。では貴様こそ天国ではなく地獄に落ちてもらおうか」

 

〔ハンザ〕

「さよなら!」

 

〔巨大ヤゴ〕

「キシャー!」

 

ハンザが懐に隠していた巨大ヤゴが飛び出し、ジンライに襲い掛かる。

 

〔ジンライ〕

「まだ隠していたか!」

 

ジンライの内の一体がヤゴを殴ると、ヤゴは光を放って爆発した。

 

―ドカーン!―

 

恐らくヤゴに破壊のエネルギーを注入したのだろう、強烈な爆発が閃光と共に複数のジンライを吹っ飛ばし、その閃光に目が眩んだジンライの隙を突いてハンザが姿を消した。

 

〔ジンライ〕

「くっ、転移か、或いはステルスか、だが負傷しているのだそう遠くには……」

 

ジンライは、クラシックフォームを解除して『カラフルフォーム:グリーン』に変化した。強化聴覚でハンザを捜索するためだ。

 

〔ジンライ〕

「(やつは妙なことを言っていたな)」

 

ジンライはハンザの言葉を思い返す。

 

―本来ならばNSPを使ってからこじ開ける予定だったが、『彼』の協力を得て開いたお陰で―

 

〔ジンライ〕

「(一体誰がこんな事態を?それも含めて奴を尋問する必要がありそうだが)」

 

懸命の捜索も空しく時間が過ぎ、数分後やっとジンライの聴覚が捉えたのは、探していたハンザではなかった。

 

〔???〕

「おーいジンライくーん」

 

遠くから響いてくる女性の呼び声に、ジンライは反応する。敵意はない。

 

〔ジンライ〕

「むっ来たか……」

 

ジンライが顔を向けた方向には、道路を走るトラックの群れが存在しており、声の犯人はそのトラック集団の一番前の車両に備わったスピーカーから外に向かって話しかけているようだ。

 

〔女性〕

「やっと『湾曲次元修正装置』が完成したわ。これであの次元の抜け穴を消滅させて、こちらの世界への悪影響を防ぐことができるわね。

先にステルス装置の解除なんかさせちゃって、面倒な仕事押し付けちゃって御免なさいね」

 

道路横の空き地に計5台のトラック集団が停車し、乗員が下りてきてジンライと向き合う。彼らの代表は小柄な女性のようだ。赤を基調とした派手な燕尾服を着ており、頭の上にはシルクハットが乗っかっているのがトレードマークである。

 

彼女の名は坂田杏美(さかた あみ)。PACATFというプロレス・サーカス兼業団体の団長であり、また対怪獣組織の代表でもある。

元々彼らはマスター・ハンザ属する秘密教団ファーリと対立しており、今回の件もファーリ絡みのため協力して貰っている。

 

〔坂田杏美〕

「あれが次元の抜け穴本体ね。なんというか太陽みたいで、あれの放出するエネルギーが悪用されたらそれこそ『核の冬』でも起こりかねないわね。

 

ところで、なんで緑色になっているの?」

 

杏美の質問に、変身を解除したジンライが残念そうな声色で答える。

 

〔ジンライ〕

「すまないがハンザに逃げられてな。周囲にいるのなら強化聴覚で追える筈だが……どうやら空間転移したらしい」

 

〔杏美〕

「なんですって?……まあいいわ、あいつが何かするより先にこちらがあの穴を消してしまえば、それで今回の件は解決の筈だわ。

 

ところで、舞ちゃんはどこ?ちょっと彼女の力が必要なんだけど……」

 

〔ジンライ〕

「舞の?あいつなら戦闘に巻き込まれないように少し遠くに退避させたが……今呼び戻す」

 

そう言ってジンライは懐からロケット花火を取り出す。今回はとある事情があってスマホや無線機が通信手段としてあまりあてにならないためだ。

ロケット花火を打ち上げてしばらくすると、舞とドッポ、マコトとテュロン、それと合流したのか車一台がジンライの元にやってきた。

先ほどの巨大ヤゴが追ってきていないところを見るに、どうやら撃退したか、追い払ったようだ

 

〔ジンライ〕

「あの巨大昆虫は倒したのか?」

 

〔マコト〕

「ええ、案外しぶとかったですがなんとか」

 

〔ジンライ〕

「どういうことだ……?で、ドッポは?」

 

〔ドッポ〕

「ザンネンデスガ、トチュウデドコカニキエテイキマシタ。

ヤセイカシテ、ヒトヲオソウカモシレマセン」

 

〔ジンライ〕

「或いはハンザが呼び戻したか……まあ、それの捜索は後に回そう」

 

マコトやドッポとの会話をジンライが終えたところで、合流組が声をかけてきた。

 

〔アイス〕

「おーいジンライっち戦闘終わっとる?マスター・ハンザぶちのめした?」

 

〔ジッチョク〕

「おい香里そんな話の入り方はないだろう。ここはまず同輩の身の無事を確認してだな

 

〔十六夜〕

「負傷しているのなら私が治癒しますよ。どこか痛むところありますか?」

 

〔デコボコ〕

「……」

 

ジンライの元に新たにやってきた4人は、それぞれ仁川実直(にかわ さねなお:通称ジッチョク)、香里愛衣子(こおり あいこ:アイス)、菱形十六夜(ひしがた いざよい)、それと平凸凹(たいら あい:デコボコ)である。

 

なお上記4名の内ジッチョク、アイス、十六夜はそれぞれ『クラブマン』、『ファム・グラス』、『魔法少女新誠組:副長』というヒーローをやっており、またデコボコは凸凹探偵事務所の代表として日夜北海道の平和を守っている。

 

〔ジンライ〕

「いや、俺は負傷していない。俺よりこの女の方を見た方がよいのではないか?」

 

〔デコボコ〕

「ねえ十六夜ちゃん、私の疲労ポンって取ってくれないかしら?能力使った後に運転したせいで眩暈がして来ちゃって」

 

そう語るデコボコの顔は少し赤くなっており、発熱していることが見て取れる。

一応心配した十六夜が彼女を見ることにした。

 

〔十六夜〕

「戦闘後の急な興奮物質放出でバイオリズムが狂ってますね。ツマクバではよく治しましたからすぐ治せますよ。

だけどこっちの人では珍しいですね?異能の影響でしょうか。

すいませんもう少し早く気付いていれば、運転を変われたのですが」

 

〔デコボコ〕

「そんなのわかんなぁい。でも大丈夫、免許取りたての十六夜ちゃんにこの凍った路面を運転させるわけにはいかないもの……」

 

〔十六夜〕

「さあこの薬を飲んでください。こっちのドラッグストアで材料をかき集めて作った、自製の鎮静剤です。なんといちご味ですよ」

 

〔デコボコ〕

「(ゴクゴクゴク……)いちごじゃなくて漢方か何かの味が……ううっ……

 

 

  *   *   *

 

 

ありがとう、楽になったわ。すごい即効性ね」

 

〔マコト〕

「あんまり無理しないでくださいね。デコボコさんに何かあったら、ラケーシュを追跡できなくなってしまうので」

 

〔デコボコ〕

「マコトくんらしい言い方ね。でもいいわ、多分あいつらもこの近くにいるんじゃないかしら。

隠れているのなら見つけ出したいわね」

 

〔ジンライ〕

「なんだ、逃がしたのか」

 

〔デコボコ〕

「残念ながらね。広域ステルス装置やらは発見して破壊したのだけれど、護衛のサリュウとウリュウは見失っちゃった。

 

でも今度こそ、あいつらの狙いがあの赤い穴にあるんだったら、ここで待ち構えていれば必ず姿を見せる筈よ。いつも通り勘だけどね」

 

〔ジンライ〕

「これまでもお前の勘には割と振り回されてきたが、最後は必ず正解に行き着いていたからな、実績を踏まえて信頼しよう」

 

〔アイス〕

「なにその態度ジンライっちそれ浮気なわけ?ウチと舞ちんが怒る前に機嫌取った方がいいよ?」

 

〔ジンライ〕

「あいつが怒っているのはいつものことだろうが。何が不機嫌なのかはわからんが」

 

〔ジッチョク〕

「お前のそういうところはずっとだなあ」

 

さて、ジンライが合流組と駄弁っている頃、舞の方は杏美に大事な話をレクチャーされていた。

 

【トラック1号のコンテナ内】

 

〔舞〕

「装置の操作を私に?」

 

〔杏美〕

「そう。この装置の操作にはロボットスーツ……『特殊準重機』の操作が必要なのだけど、生憎私たちは自分たちの作業があって、そっちに取り掛かれないのよ。

そういうわけで、私たち以外でこのロボットスーツを操作できる貴女かジンライ君の力が必要なのだけれど、生憎ジンライ君はもしもの時の戦闘要員として自由にさせておきたい。

消去法で舞ちゃん、貴女が適任なのだけれど、どうにか協力してくれないかしら?

今うちの他の団員は北海道各地で事態に対処していて、ここまで手が回っていないのよ。

でもその間にも敵が行動を取る可能性は十分にある……それもこれも、あのオーロラのせいで無線や飛行機を十分に使えないせいね」

 

杏美が言うように、時空の抜け穴から生じたオーロラの影響で異常な電磁波が生じており、北海道上での航空機や一部の無線通信はその能力を制限されている。その影響で各地に散る味方戦力の連携力は落ちているのだ。

PACATFはこの状況の中で各地の混乱に対処しているが、そのせいで人員が不足してしまったようだ。

 

〔舞〕

「あのトラックは誰かが運転してきたものでは?」

 

〔杏美〕

「一台だけ自動操縦で引っ張ってきたのだけれど、肝心の装置の起動には人間の精神力が必要でね、まあ最悪私が灰人になる気で二人分カバーすればそれでいいのだけれど」

 

〔舞〕

「! わかりました、協力します。だから絶対灰人になんかならないで下さい」

 

〔杏美〕

「ん、ありがとう。このお礼は近いうちにさせて頂くわ」

 

〔舞〕

「ところで私のする作業の内容って一体?」

 

〔杏美〕

「ああ、それはこの電子紙マニュアルを読んで……そうだ光八ィ、舞ちゃんに今回の作業を説明してあげて」

 

様々な機械が詰まった狭いコンテナ内で、何かの装置のスイッチを弄っていた男が反応する。

 

〔鮭延川光八:ベアーマン〕

「だ、団長、お、俺が、ですか?」

 

〔杏美〕

「そうよ、貴方ロボットスーツ動かすの得意でしょ?舞さんとは以前会ってるし、知らない仲でもないから仲良くできるのでないかしら?」

 

〔光八〕

「分かりました……舞ちゃん、宜しく……」

 

〔舞〕

「宜しくお願いします光八さん……大丈夫ですか?あがってますけど」

 

〔光八〕

「いや、心配はいらないよ……こう見えて、俺は君たちのことは信頼しているんだ。

ジンライ君には以前励ましてもらったしね」

 

〔舞〕

「ならいいんですけど、無理だと思ったら気兼ねなく言ってくれて……いいえ、言わなくてもいいので、手を挙げて不安を表明してくださいね。私、不器用なので他人の心の機敏を察せませんから」

 

〔光八〕

「君たちのそういうところがいいんだよ。

では始めようか。まずは今回使うロボットスーツだけど、これは脳波コミュニケータを搭載したマンマシンインターフェイスシステムを搭載していて、登録するだけである程度操作の補助が……」

 

その頃、他のトラックでは……

 

〔4号トラック担当:ピエロA〕

「今回のマシンは凄い機能が付いているね。精神力をエネルギーに転換するシステムなんて、中々お目に掛かれないぞ。

(コツンッ)ん?下の方から何か違和感が。何かがぶつかった?少し確認しようか」

 

そう言ってトラックから降りるピエロA。一方、隣の5号車にいるピエロBもほぼ同じような経緯でトラックを降りていた。

 

〔ピエロA〕

「ん?君も何か感じたのかい?」

 

〔ピエロB〕

「君もか。これは何かあるだろうね。お互い気を付けて確認しよう」

 

そう言ってトラックの下に潜るピエロ二人。一体何があるのだろうか。

 

〔ピエロ’s〕

「「うわー!!」」

 

 

  *   *   *

 

 

数十分後。

 

〔杏美〕

「よし、じゃあ準備ができたから、作業を開始するわよ。各自、一旦集合!」

 

杏美の号令で、その場のメンバーが集合する。ジンライ、舞、マコト、テュロン、デコボコ、光八、アイス、ジッチョク、十六夜、それとピエロA・Bコンビが一か所に集まり、杏美の話を聞く態勢が整う。

 

〔杏美〕

「今回の敵の計画は、複数の組織を跨ぐ大規模なものだわ。その分これが齎す被害も大きくなるでしょう。

逆にこれを防げば、敵に大きな打撃も与えられるはず。それを胸に刻んで、各自、奮闘してくれることを祈るわ。

 

さて、今回の作戦について説明しましょう。今回私たちは巨大人型ロボットによる次元の歪みの修正を行う。これは、人間の生体エネルギーを増幅することによって次元の歪みを打ち消すだけのエネルギーを生み出すためよ。

肝心のロボットに関しては、これからドッキング作業に入るわ。個別のトラックが集結することで一つのロボットが出来上がるの。ドッキングに成功してロボット形態にさえなってしまえば、もう誰も作戦を妨害することは出来ない筈よ。それだけ、今回用意されたロボットは特別なの。

各自それを意識して、是非作戦の成功のために頑張りましょう。

 

 

戦闘配置開始!」

 

その言葉を合図に、それぞれ散っていく各員。

 

〔ピエロ’s〕

「「……」」

 

ピエロA・Bもまたトラックに戻っていき、その動きはコピーアンドペーストでもしたかの如く完全に同調していたが、それを見ていたデコボコは杏美にさり気無く近づき、彼らに気付かれないように告げ口をした。

 

〔デコボコ〕

「ねえ杏美さん、なんかあの二人から妙な気配がするの。見張っていていいかしら?」

 

〔杏美〕

「ふむ?別に構わないけれど、あの二人はそれぞれ別のトラックに搭乗するわ。誰か随伴が必要ね……十六夜ちゃんちょっといい?」

 

〔十六夜〕

「はーい、なんでしょうか?」

 

〔杏美〕

「急で悪いけど、あのピエロを見張っててくれないかしら?

行動に少しでも不審なものがあったら黄色いレバーを引いてね。アイちゃんも」

 

〔十六夜〕

「……わかりました」

 

〔デコボコ〕

「どうなるの?」

 

〔杏美〕

「とりあえずそれで事態を打開するわ。大丈夫、自爆装置は別にあるから」

 

〔デコボコ〕

「あるの!?」

 

〔杏美〕

「パスワードを撃ち込まないと作動しないはずだから大丈夫よ。あの二人が『正気を失っていなければ』だけど」

 

〔デコボコ〕

「……私の勘が外れていたら博打ね。博打はソシャゲのガチャだけで十分なのだけれど」

一方、ピエロA・Bはトラックに乗り込み、作戦を開始していた。

 

〔ピエロA〕

「……大丈夫、マニュアルと作戦計画は読んだ。あとは不審がられないようにやり過ごせば」

 

〔デコボコ〕

「失礼」

 

突如トラックに乗り込み、自身の隣の助手席に座ったデコボコを見たピエロAは驚いた。

 

〔ピエロA〕

「な、なんですかデコボコさん、急にこっちに乗ってきて」

 

〔デコボコ〕

「ん、いやなに、私もこっちを手伝うことになったからさあ。急だけどちゃんと杏美さんの指示に基づいてのことだから気にしないでね」

 

〔ピエロA〕

「あ、はいわかりました……

 

ちっ、勘のいい女め」

 

と、そこで全車に通信が入る。

 

〔杏美(通信機)〕

「みんなマシンと脳波のリンクは済んだわね?それじゃあドッキング作業始めるわよ……

『ドッキングフォーメーションA、セットアップ』!」

 

杏美の掛け声を合図に、4台のトラックが1号トラックの周辺に展開する。因みに杏美は2号トラックに搭乗している。

 

〔一号トラック:舞〕

「ロボットスーツ展開、トランスフォーメーション開始!」

 

その掛け声と共に舞の搭乗するトラックが変形し、人間の胴体を模った形へと変わる。頭部には、舞の操作するロボットスーツが鎮座しており、ヘルメット上のパーツが屋根のようにそれを保護しているのが伺える。

 

〔舞〕

「ここまで大きいと、ちゃんと動かせるか心配ね。パワーに振り回されそう」

 

〔2号トラック:杏美〕

「大丈夫、バランサーシステムの調整は完璧よ……ドッキングシークエンスワン、右足!」

 

寝そべった状態の1号トラックの右部に2号トラックが接着し、右足を形成する。どうやらトラック同士が合体することで巨大ロボットになる機能があるようだ。

 

〔3号トラック:光八〕

「ドッキングシークエンスツー、左足、行きます。エネルギーバイパス確立5秒前……成功」

 

光八の動かす3号トラックが1号トラック左部に接続して、左足が完成する。

更に、それと同時に3台のトラックの間で動力炉の同期が始まり、それが完了することでマシンの稼働に必要なエネルギーが確保できるようになった。

それを確認したピエロAは、次は自身の出番だと張り切り、トラックの操縦を行う。が、しかし。

 

〔4号トラック:ピエロA〕

「ドッキングシークエンススリー、右腕、接続開始―」

 

運転席でハンドルやアクセルを操作して、バックで1号トラックの右側に近づき接続を試みるピエロA。そんな彼に、助手席のデコボコが突如声をかけた。

 

〔デコボコ〕

「ところで私、貴方に自己紹介したかしら?」

 

〔ピエロA〕

「なに言ってるんですか、したじゃないですかデコボコさん」

 

〔デコボコ〕

「私、貴方と会うの今日が初めてだし、皆私の名前を貴方の前では呼ばなかった筈よ」

 

〔ピエロA〕

「……嘘」

 

〔デコボコ〕

「ええ、今のは嘘よ。私PACATFのイベントでファン代表として名乗ったことあるし、本名はともかくあだ名を人に忘れられたことなんて殆どないのよ。

 

さて、あんたはどっち?」

 

〔ピエロA〕

「……っちぃ!」

 

アクセルを踏み込み、猛烈な勢いでバックを試みるピエロA。恐らくドッキング済みの1,2,3号機に衝突するつもりであろう。

 

〔デコボコ〕

「させるか!」

 

しかしデコボコが両手を伸ばし、ハンドルを逸らしたことでトラック4号は目標を逸れた。危機一髪、ギリギリのタイミングでの回避。

 

〔ピエロA〕

「邪魔!」

 

突如ピエロAは右腕を巨大化させ、龍のような鱗と爪を生やしたそれでデコボコの命を狩り取ろうと試みる。

 

〔デコボコ〕

「ウリュウ!」

 

デコボコの指摘と共に、ピエロの顔がゴム皮のように剥がれ落ちる。そしてその下から、赤髪の女が姿を現した。

 

ピエロAの正体、それはラケーシュのウリュウであった。彼女は激昂してデコボコを毒牙に掛けようとする。

されども、その試みは失敗した。

 

〔デコボコ〕

「させるか!えいっ!」

 

ガチッ、パカーン、バシュッ!!

 

〔ウリュウ〕

「何脱出装置だと!?だがそっちが脱出したのなら却って好都合だ

 

(バシュッ!!)

 

こっちもだと?くそっ!!!」

 

トラックの天井が開き、2つの座席がロケットブースターによって上空高く放り投げられる。

デコボコがウリュウが右腕を巨大化させた時点で黄色いレバーを引き、緊急脱出装置を作動させたからだ。

まずトラックの屋根が跳ね上がって、先に助手席のデコボコが射出され、次いで運転席のウリュウが投げ飛ばされていた。

 

〔ウリュウ〕

「うおおっ!小賢しい真似だよ!」

 

脱出の勢いに驚いたウリュウは、だがしかしパラシュートが展開するとそれを切り離し、座席から脱出した。

右腕から放つ空気振動で、反作用を生み出して空中を飛翔していくウリュウは、反対側で同じようにトラックから放り出されて目を回している青髪の女サリュウに近づくと、彼女を救出した。

 

〔ウリュウ〕

「何をやっているのよサリュウ!」

 

〔サリュウ〕

「頭のイッた小娘がいきなり襲い掛かってきて……まるで鬼みたいな気迫だった。

ウリュウの方こそ、あいつらに裏を掻かれたようだな……っと、上!」

 

〔ジンライ・バイオフォーム:怪鳥モード〕

「貴様ら、覚悟しろ!」

 

二人で変化していない方の腕を繋ぎ合わせながら空中を飛ぶ彼女たちを、先に空中に先回りしていたジンライが迎え撃つ

 

〔ウリュウ〕

「小賢しいよ坊や!」

 

ウリュウはジンライの方を向くと、右腕から衝撃波を放出する。空気が振動し、爆発のような力の壁を形成すると、ジンライはそれに吹っ飛ばされる。

 

〔サリュウ〕

「気を付けろウリュウ、空中では上に向けて衝撃波を撃つと、下に墜落する」

 

〔ウリュウ〕

「だからサリュウ、あなたが反動を相殺する役目を担ってくれるんでしょう?思う存分暴れさせてもらうわ」

 

ウリュウとサリュウは背中同士で重なり合い、ウリュウが上を、サリュウが下をそれぞれ向いた。これでウリュウが上に向けて衝撃を放っても、サリュウがその反動を衝撃で相殺するため、その場に滞空できる

 

〔サリュウ〕

「全くあなたは……でもそれでいい。

 

さて疾風迅雷、空中で竜を相手に小鳥で相手をするつもりか?

それなら、金糸雀のように籠に閉じ込もったらどうだ?」

 

〔ジンライ〕

「おい貴様ら、ピエロたちはどうした?」

 

ジンライの質問に、ウリュウは律儀に答えた。

 

〔ウリュウ〕

「安心しなさい、眠らせてトラックの荷台に放り込んであるわ。本来なら脱出するとき、入れ替わらせた彼らに居眠り運転の罪を被せるつもりだったけど、残念ね」

 

〔ジンライ〕

「卑劣な蜥蜴め。一体いつの間に入れ替わっていたんだ」

 

〔ウリュウ〕

「地面を掘り進んで、浮上したところであなたたちのトラックの下に出てね。

哀れなピエロたちは頑張ったけれど、残念ながら私たちには敵わなくってねえ。

睡眠薬であっさりと無力化できたわ。

 

知恵を使うのは禁断の実を齧った人間の性ってね。

さてでは知恵比べと行こう、坊や」

 

〔ジンライ〕

「貴様ら土竜とクイズ対決などするつもりはない。

意思を表示!クラシックフォーム、ニンジャモード!」

 

空中で十数体に分身したジンライが、ウリュウとサリュウに突貫していく。

空中挺身の構えを取るジンライを、されどもウリュウが衝撃波で潰し、爆破処理していく。

 

〔ウリュウ〕

「こんな程度の爆発じゃあ、私の衝撃波を抜くことは不可能だね!」

 

〔サリュウ〕

「落ち着けウリュウ、爆発が多くて高度が下がってる。圧し負ければ叩き落される」

 

興奮するウリュウと対比的に、サリュウが冷静に宥めるが、されどもウリュウの熱は冷えることなく熱いままであった。

 

〔ウリュウ〕

「ならその前に圧し勝つ!うおお!!」

 

ウリュウが大ぶりの挙動で空中に振動を放つ。すると一際強力な衝撃波が発生した。

 

〔ジンライ〕

「パワー対決か、ならば!」

 

ジンライの姿が再度変化する。黄色いスーツにマスクの姿。それは今のジンライのトレードマークである。

 

〔ジンライ〕

「意思を表示!ノーマルフォーム、迅雷モード!」

 

基本形態であるノーマルフォーム、その特徴はスピードに優れた疾風モードと、パワー特化の迅雷モードの切り替え。他のフォームが充実した今ではそれらは影が薄くなっているところがあるものの、されども使い勝手の良い汎用フォームであるこれらは、使いこなせば依然として強力である。

 

〔ジンライ〕

「通常攻撃の、かかと……落とし!」

 

パワーを込めたかかと落としが衝撃波と衝突する。そして拮抗に勝って見せたのは、衝撃波の方であった。

空気の塊に当たって跳ね上がるジンライ。

 

〔ジンライ〕

「うおお!」

 

〔ウリュウ〕

「そのまま吹っ飛びなさい疾風迅雷!」

 

〔ジンライ〕

「まだだ!漲った俺の力はまだ出し切れていない。

連続通常ォ、かかと落……としっ!!」

 

〔ウリュウ〕

「無駄なことを」

 

ジンライは、衝撃波で浮遊しながらも再度かかと落としを繰り出す。それによって僅かに揺らぐ衝撃波はしかし、それでもまだ押し切るには足りない。

だが次、また次と繰り返されるかかと落としを受け続けて、衝撃波は少しずつ、確実に削られていった。そして……

 

〔ジンライ〕

「でやぁぁぁ!!!」

 

ジンライが繰り出した幾度目かのかかと落とし。もはややぶれかぶれで繰り出されたかのような杜撰なフォームでの一撃は、だがしかしなんとウリュウの計算以上の威力を叩き出した。

 

バリッ……

 

〔ウリュウ〕

「まさかこんなことが?衝撃波が、割れる!?」

 

〔サリュウ〕

「なんだと!?」

 

バリーン!

 

それは荒唐無稽な光景。なんと硝子のように軋んだ衝撃波に、かかと落としのエネルギーが伝播して、粉々に砕け散るかのように霧散したのだ。

そして勢いを保ったかかと落としは、そのままウリュウとサリュウのボディに叩きつけられた。

悶絶しながら墜落していくウリュウとサリュウは、動揺を露わにしていた。

 

〔ウリュウ〕

「竜の力が、雷なんかに!?」

 

〔サリュウ〕

「吹けば飛ぶような微風に、竜が屈したと言うのか?

未来から来た私たちが、過去の存在なんかに!?」

 

〔ジンライ〕

「お前たちが未来から来たとして、俺は銀河というより広い世界から来た。

広い宇宙には、惑星丸ごとを吹っ飛ばす雷も風もありふれているだけだ。

正に、スケール(規模/鱗)が違うわけだな……くっ」

 

ウリュウの衝撃波を突破して意気揚々と喋るジンライ。しかし声色とは裏腹に、その身は膝を屈しており、脚部に相当の負荷が掛かったことが見て取れる。

そんなジンライを見て、まだ余裕の残るウリュウとサリュウは強気に出た。

 

〔ウリュウ〕

「だけどそんな体たらくじゃあ、もう戦えないでしょう。逆転してあげるわ」

 

〔サリュウ〕

「一度突破した程度で、生意気言ったことを後悔しろ」

 

地面に着地したウリュウとサリュウは、地面にどっしりと構えてそれぞれの竜の腕をジンライに向け、衝撃を放とうとした。しかし。

 

〔十六夜〕

「邪悪・即座・滅殺」

 

左手から炎を放つ十六夜が、ウリュウとサリュウを野外バーベキューにかける。

 

〔サリュウ〕

「!っあのイカれた女か!?」

 

サリュウの眼を向ける先には、浅葱色のだんだら模様で彩られたドレスを纏った十六夜が立っていた。

彼女は静かに言葉を紡ぐ。

 

〔十六夜〕

「乙女の一生は、美しく咲くためのもの。

柵にありて退く者を斬り、降りながら消ゆる雪あり。

水の北、山の南や、春の月に、報国の心を忘れ。

たとひ身は蝦夷の島根に朽ちるとも、魂は異界の君や護らん。

 

魔法少女新誠組副長菱形十六夜、自分を貫くものは灰に成れ……覚悟しなさい悪党たち」

 

淡々とした、されどもしっかりと力の籠った名乗り上げを前にして、ウリュウとサリュウは警戒心を高める。

だがしかし、取り巻く炎は彼女たちの動きを牽制しており、迂闊な動きは出来ない。

 

〔サリュウ〕

「気を付けろウリュウ、あの女の体術は油断ならない。近づかれたら組み倒されるぞ」

 

〔ウリュウ〕

「でもこの状況じゃあ相手も近づけないでしょう?なら近づく前に倒してしまえば」

 

〔デコボコ〕

「凸凹護身術新奥義!」

 

〔ウリュウ〕

「!?」

 

十六夜の後から来たデコボコが、異能力を使って地面を隆起させるが、その動きは実に奇妙であった。

垂直に盛り上がった複数の大地の柱から、更に横や斜め方向に向けて追加の隆起が発生し、それらが絡み合うことでまるでスポンジ製のビルディングのような複雑な形状の牢に変貌したのだ。

牢の内部に閉じ込められる形となったウリュウ・サリュウは、因縁の相手の参戦に自分たちの余裕が着実に潰されていくのを感じ取った。

 

〔デコボコ〕

「蟻塚……今日は援軍が多いからね、決着つけましょう悪党二人!」

 

〔ウリュウ〕

「あ女、小癪な技を……こんな牢、壊して脱すれば」

 

〔サリュウ〕

「待って、今これを崩したら、崩落に巻き込まれる」

 

衝撃で牢を破壊しようとするウリュウを、サリュウが宥めて止めさせる。

実際今回の牢はいくつもの隆起が彼女たちの頭上にずっしりと層を形成して積み重なっており、迂闊に破壊すると破片が落下しそうである。

 

〔デコボコ〕

「そういうことよ。このまま酸欠で失神するまで、そこで大人しくしてなさい」

 

デコボコは、十六夜と共同戦線を張ることで、ウリュウとサリュウを持久戦で捕縛する算段のようである。

一方の十六夜は、立ち上がれないジンライに寄って、彼の治療を試みる。

 

〔十六夜〕

「ヒーリング」

 

十六夜がジンライの足に両手をかざすと、彼の痛みが引いていき、遂には自力で立ち上がれるまでに回復した。

 

〔ジンライ〕

「救援ありがたい。感謝するぞ」

 

十六夜に礼を述べたジンライは、休憩も程々に牢に近づくと、ドッポを呼び出して自身はカラフルフォーム:イエローモードに変化した。

 

〔ジンライ〕

「酸欠を待つなどまどろっこしい。今すぐこいつらを伸びさせてやる。ドッポ、変形だ」

〔ドッポ〕

「リョウカイ。ウェポンチェンジ、モード、デンゲキバズーカホウ。

ラバーフィルムコーティングカイシ」

 

ドッポがバズーカ砲型の武器に変形し、更に車両やバイク形態時にタイヤパーツに用いられるゴムが分解・再構築されてジンライの体表を覆う。

対電撃用ラバーフィルムコーティングである。これを展開することで、本来イエローモード自体をも感電させてしまう電撃属性のビームから、ジンライを保護することが可能となった。これは以前ジンライが電撃ビームを使った際にその反動で感電したことの反省から追加された機能である。

ゴムフィルムを纏って黒くなったジンライが、バズーカ砲を担いでエネルギーをチャージする。

 

〔ジンライ〕

「雷撃ビーム発射5秒前。4,3,2,1……発射」

 

ジンライが引き金を引くと、砲口から雷撃属性のビームが発射され、ウリュウとサリュウを絶望の淵に叩き込んだ。

 

〔ウリュウ〕

「ちっ……」

 

ドカーン!

 

牢にぶち込まれたエネルギーは、衝突の瞬間に派手な閃光と衝撃を発生させて、牢をガラガラと崩落させた。

ジンライはラバーフィルムコーティングを解除して、更にカラフルフォーム:グリーンモードに変化する。

 

〔ジンライ〕

「あの爆轟の中で無事だとは思わんが、念のため確認するか……それはそうとして、マコト、ジチョク、来てくれ」

 

ジンライに呼ばれたマコトとクラブマン状態のジッチョクがやってきて、戦いの戦果を確認する。

 

〔マコト〕

「あの二人を倒したんですねジンライさん」

 

〔ジンライ〕

「俺は銀河一のヒーローだからな、あの程度わけはない。念のためあの二人を捜索するぞ」

 

〔ジッチョク〕

「突風天来、俺を何故呼んだ?」

 

〔ジンライ〕

「クラブマン、お前にはやってもらいたいことがある……ところで穴掘りは得意か?」

 

〔ジッチョク〕

「?」

 

 

  *   *   *

 

 

地形の牢、その残骸の上でジンライたちは瓦礫を退かしていた。

瓦礫の下にいるウリュウとサリュウを捜索するためである。

 

〔ジッチョク〕

「うおお俺はショベルカーだぁ!

て、なんでだあ!?」

 

クラブマンの鋏が地面を掘り返して派手に土砂を巻き上げる。その横でジンライとマコトは、スコップを手に地道に土を掘り起こしていた。

なおマコトのスコップはテュロンが変化したものであり、ジンライのスコップはドッポが変形したものである。

 

〔ジンライ〕

「やはり力仕事だとジッチョクは頼りになる男だな」

 

〔マコト〕

「信頼してるんですね……と、本当にこの辺なんですか?」

 

〔ジンライ〕

「恐らくは……っと、そろそろか」

 

ジンライたちが2メートルほども穴を掘る(その大半はクラブマンによる成果)と、明らかに土ではないものが出土した。それは鱗のついた蜥蜴の右手であり、ウリュウだと思われる。

 

〔ジッチョク〕

「恐竜が出てきたぞ!」

 

〔ジンライ〕

「ウリュウなだけにか?

しかし予想以上に原型を保っているな……幻想上の生物が元だとは言っていたが、少し現実離れしてはいまいか?未来の世界はどうなっているんだ?」

 

〔マコト〕

「色々あるんですよ、言えませんけれど……と、確かにこれはウリュウですね。髪も赤いし間違いありません」

 

地面を掘り起こすうちに、右手の次は赤い髪が出てきた。そして次は顔と、段々と下へ下へと露出箇所が増えていく。

 

〔マコト〕

「これ以上はさすがに未成年には刺激が強いので止めておきましょうか……さて」

 

マコトが懐から500mlペットボトル程度の大きさのカプセル容器を取り出して、ウリュウと額に蓋のような部分を押し当てると、ウリュウはカプセルに吸い込まれた。

 

〔マコト〕

「冷凍圧縮装置です。この時代に細胞を残してはいけませんし、回収して未来に持って帰ります。さて、あとはサリュウですね、捜索を続行しましょう」

 

〔ジンライ〕

「なあマコト、ウリュウとサリュウを捕獲したら未来に返るというが、そのあとは?」

 

〔マコト〕

「……未来に戻って、そのまま向こうで暮らすか、或いはまた別の時代に行ってエージェントとして他の悪人を追うか、とにかくここに戻る可能性は低いですね。

ここは激動の時代で一筋縄では行かない部分も多くありましたが、でも終わってみるとなんだかそう悪くも無かったと思います。

これまでいろいろと、ありがとうございますジンライさん」

 

〔ジンライ〕

「……そうか、お前にも使命があるのなら、それに向かって直向きに走り続ければいいさ。

俺も、お前のことは忘れず胸に刻んでおこう、マコト」

 

別れの確定に、されども湿気た空気はない。そんなもの、銀河一のヴィランには似合わないと、ジンライもマコトも理解している。

こうして奇妙な二人の縁は、しっかりとその機能を果たしたのだった。

 

〔ジンライ〕

「さて、では作業を再開するか。ところで舞、そっちは大丈夫か?」

 

ヘルメット内臓の無線機能で舞と連絡を取るジンライ。出た舞は少し元気が無さそうな様子であった。

 

〔舞〕

「私は大丈夫よ。何処も怪我とかしていないわ。ただ、ピエロコンビの二人が……」

 

〔ジンライ〕

「もしかして駄目なのか?」

 

〔舞〕

「ええ。命に別状はないのだけれど、ただ何をどうやったのか、眠りっぱなしでね。

十六夜さんでも今すぐ起こすことができないっていうのよ。それで今杏美さんが急いで対応を考えているんだけど……ん?ちょっと杏美さんからも連絡がきたからちょっと待ってね……

はい、こっちは大丈夫です。そちらは……そうでうすか、では……

ええ?本当ですか杏美さん、それで大丈夫なんでしょうか?本人たちは了承している、なるほど、まあ杏美さんがそこまでいうのなら私は何も……ええ、ではお願いします。

 

……どうやら何とかなるかもしれないわよ。物凄く博打的だけど」

 

〔ジンライ〕

「?何だ?」

 

〔舞〕

「それがね……」

 

〔ジンライ〕

「なに?……それは本当か?」

 

一体何が起こったのか、話は少し巻き戻る。

 

 

  *   *   *

 

 

【少し前、4号トラック内】

 

〔杏美〕

「それで、どうかしら菱形さん。ピエロの方は起こせそう?」

 

ピエロらの上司である杏美は、彼らの容体について代理医師役をやっている十六夜に話を伺う。しかしその回答は杏美の期待するものではなかった。

 

〔十六夜〕

「駄目ですね。かなり特殊な成分でも使っているのか、私の地療術では彼らを今すぐ起こすことはできません」

 

残念な事実に落ち込む杏美。それでも続けて打開策を見出そうとする。

 

〔杏美〕

「確認するけど、彼らの命に別状はあるのかしら?」

 

〔十六夜〕

「一見するとただ眠っているように見えますが、実際はほぼ仮死状態に陥っています。治療を続ければ或いは目覚めてくれるでしょうが、今日中には無理かもしれません」

 

〔杏美〕

「そう……ラケーシュめ、やってくれたわね。でも、こちらももう少し警戒を厳しくするべきだったわ。

ピエロ二人をみんなの見えないところに配置してしまったのが惜しい」

 

悔しさに歯噛む杏美。敵の方が上手であったこともそうだが、それに対応できなかった自分たちの弱さもまた悔やむ。

 

〔十六夜〕

「ですが、これからどうするつもりですか?

今から追加の人員を呼ぶとして、どれくらい時間がかかりますか?」

 

〔杏美〕

「一か八か無線で仲間に呼びかけてみたから運が良ければもうあと一時間半もあれば到着するかもしれない。ただ確実ではないし、それに『あれ』の状態的にはもうそれほどの猶予はないかもね……」

 

杏美が目線を向けた先には、今回の事件の発端である時空の抜け穴が空に浮かんでいた。されどもそれは、先ほどまでとは違い禍々しい様子へと変貌していた。

 

穴から漏れる余剰エネルギーが、周辺を赤く濁らせている。その表面には人間に似た奇妙な形の影が蠢いており、ただ事ではない様子が伺えた。

 

〔杏美〕

「異次元人でもいるのか、そういったものが出てくるかもしれない。

友好的だといいけどねえ、でも最悪の事態も考えておかないと、本気で日本がまずいことになるかも」

 

〔十六夜〕

「……」

 

悩む杏美を見て、十六夜は掛ける言葉が無かった。或いは自分の治療術がもっと高度であったならば、或いは事態の重症化を防げたかもしれないが……

そう思い悩む十六夜の思いはだがしかし、脳みそをフル稼働させて一つの案を構築した杏美が取っ払った。

 

〔杏美〕

「よし、決めた。確か菱形さんは車の運転免許は持ってるわよね?」

 

〔十六夜〕

「え、ええ」

 

〔杏美〕

「なら大丈夫だわ。貴方とアイちゃんには、ピエロたちの代わりに今回の作戦の遂行を手伝って頂きます」

 

とんでもない提案が飛び出して、十六夜は一瞬虚を突かれるが、即座に意味を理解して驚愕した。

 

〔十六夜〕

「……ええっ!?だ、大丈夫なんですか!?」

 

〔杏美〕

「本当なら無茶苦茶もいいところだけど、今回は本当に緊急だからね、もうこれで失敗したら後には引けない本気で博打の策よ。しっかりとサポートしてあげるから、貴方たちは心配せずに私の指示に従って動いて頂戴」

 

〔十六夜〕

「……分かりました。杏美さんを信じます」

 

〔杏美〕

「ありがとう。じゃあ次はアイちゃんだけど……」

 

するとトラックの背後スペース―このトラックは運転席とコンテナが繋がった構造―から、デコボコが出現する。

 

〔デコボコ〕

「話は聞いたわ。本気なのね杏美さん。ならやるわ。やらせて頂戴」

 

〔杏美〕

「ありがとうアイちゃん、じゃあ今からスパルタで装置の操作を叩き込むわよ」

 

斯くして、今回の作戦ではピエロA・Bに代わり、デコボコと十六夜が湾曲次元修正装置の操作を行うこととなった。

 

 

  *   *   *

 

 

数十分後、即席の詰め込み教育でとりあえずは間に合わせた杏美たちは、ピエロたちの抜けた作業を開始する。

時間に追われる中での限られたチャンスに、即席メンバーが果たしてどこまで役目を果たしてくれるだろうか?そんな迷いを抱えながらも、杏美は気合でそれを飲み込んで押し切った。

 

〔杏美〕

「では改めて作業開始。二人とも準備はいい?答えは聞かないわ始めて頂戴。

念のため注意しておくけれど、二人の運転免許は普通車用だからトラックで公道に出ないように気を付けてね」

 

なるようにしかならない、これで失敗したらなどとはもはや考えないという覚悟を決めた杏美の切羽詰まった感情の籠る号令に、即席メンバーが応える。

 

〔4号トラック:デコボコ〕

「十六夜ちゃん、いくよ!」

 

〔5号トラック:十六夜〕

「……おう任せとけ!」

 

!?

 

〔杏美〕

「えええ?……ドッキングシークエンススリー、フォー、マニュアルスピードナウ!」

 

杏美の掛け声と共に4号車5号車が同時にバックし、1号車とドッキングする。

4号車が右腕に、5号車が左腕となり、5本指のついた手も展開する。

そして完成した巨人は、ブリッジしながら逆四つん這い姿勢で立ち上がった後、上体を起こして直立2足歩行形態へと移行した。

 

〔杏美〕

「スタンドアップレディ……直立成功、パワーレベル安定値確保完了……うん、成功よみんな!」

 

〔十六夜〕

「やったぜ!」

 

!?

 

〔舞〕

「……十六夜さんってハンドル握ると性格変わる方だったんだ」

 

〔杏美〕

「ビックリね。さて、では舞ちゃん。ここは一つ『お約束』と行きましょうか」

 

〔舞〕

「……マニュアルにもありましたけど、やらないと駄目ですか?」

 

〔杏美〕

「様式美よ」

 

〔舞〕

「うーん……(シュパッ、シュパッ)

 

第10世代型特殊準重機『ロボットスーツ・ヴァージョンⅩ(テン)』、参上!

 

……こんな感じでいいですかね」

 

X字のポーズを取りながら名乗りを上げる巨大ロボットスーツの雄姿に、杏美が打ち震える。

 

〔杏美〕

「最高よ舞ちゃん!やっぱ巨大ロボは外連味が大事よね!」

 

〔光八〕

「……大事です。

 

でも確かこのロボ、ポーズと同時にBGMが鳴る機能があった筈なんですが……」

 

〔舞〕

「うーん、杏美さんは盛り上がっているけど、やっぱり納得いかないなあ……うん?

 

―(突如外部でキュイーンというBGMが鳴り響く)―

 

……おじいちゃん、調整間違えて音が遅れてる。このロボット大丈夫かなぁ……」

 

……第10世代型特殊準重機『ロボットスーツ・ヴァージョンⅩ(テン)』、それは科学者疾風大二郎が作った最新型ロボットスーツである。

 

これまでに9台ほど舞がスクラップにしてきたそれを、都度ヴァージョンアップさせて再生していくうちに誕生したこれは、何故かロボットスーツで操作する巨大な拡張ロボットスーツという前代未聞の代物に仕上がってしまった。

その大きさは、通常のロボットスーツが頭頂高4メートル程度だとすると、巨大拡張部はそれが掌の上に収まる程ある。おかげで通常のロボットスーツよりも遥かに高いパワーを出せるものの、それを振り回す反動もまた凄まじいものになっているであろう。

果たしてその仕様が、吉と出るか凶と出るか、それは当たるも八卦当たらぬも八卦といったところだろう。

 

〔舞〕

「おじいちゃん、これ急いで後付けしたわね。はあ、後は大丈夫だといいんだけど」

 

さて、ドッキングに成功し、見事直立を果たした湾曲次元修正装置。

されども先ほどの爆音BGMで、外にいたジンライはダメージを食らっていた。

悶絶する彼は苦悶の声を漏らす。

 

〔ジンライ〕

「ぐおお!なんだ今の爆音は。鼓膜が捲れ裏返るかと思ったぞ……フォームチェンジして助かったな。グリーンモードのままだとやられていた」

 

ノーマルフォーム・疾風モードに変化していたジンライは、それ故に助かったことに安堵する。不幸中の幸いといったところだ。

 

〔マコト〕

「っ耳がぁ……さて、やっと再開ですか。結構時間をくってしまいましたね。

結局こちらはサリュウを見つけられませんでしたが、向こうの働きで時空の抜け穴を封じれば、例えサリュウが逃げ延びたとしても当面は動けないでしょう。

 

ところであの名乗りは必要なのでしょうかねえ」

 

〔ジンライ〕

「様式美いうものを重視する輩はどこにでもいるものだ。まあ重視しすぎておかしなことになることも多いが……

 

それよりもうすぐ別れだが、あの女には言ったのか?」

 

ジンライの言うあの女とやらを聞いて、マコトの思い当たるのはたった一人である。

 

〔マコト〕

「実はデコボコさんにはぼかして言ってるんです。

『大変勝手ですが、近いうちに助手を辞めさせていただくかもしれません』と。

まあ本当のことを言っても信じてくれませんから彼女は。

で、ただ一言「そう、でも最後まで頑張ってね」って励まして貰いました」

 

〔ジンライ〕

「お前もあの女も、互いに後悔も未練もないんだな」

 

〔マコト〕

「本来僕はここににない人間ですからね。幽霊みたいなものですよ」

 

〔ジンライ〕

「触れて暖かい幽霊など居るものか。テュロンがいなくなったら舞がモフれなくて愚痴るな。そしてそれを聞くのは俺の仕事だ」

 

〔マコト〕

「はは、ジンライさんと舞さんなら、いつか本当に―」

 

と、マコトがそこまで言ったところで、突如地面から竜の左手が現れ、マコトの服を引き裂くとウリュウ・サリュウの入ったカプセルを強奪した。

 

〔マコト〕

「―うわあっ!」

 

〔舞〕

「マコト君!?」

 

〔デコボコ〕

「何!?舞ちゃん何があったの!?」

 

4号車内部にいるデコボコからは外部の視界がカメラ経由のものに制限されるため、通信越しに舞に状況を確認する(因みに変形時にコックピットの位置は移動しており、肩のあたりにあるボール型のブロックにいて、激しく動き回っても回転して慣性を相殺する仕組みがある)。

 

〔舞〕

「い、今マコト君が何かに襲われてっ」

 

〔サリュウ〕

「取り戻したぞハンザ!」

 

現れたのは、サリュウであった。

なお竜化の範囲は普段の片腕だけものではなく、両手両足が竜のものへと置き換わっている。

パワーアップしているということだろうか。

 

〔ジンライ〕

「サリュウ!地下に潜って逃げていたか!」

 

〔サリュウ〕

「ウリュウが庇ってくれたからな!さあさっさと解放しろハンザ!」

 

サリュウの掘った穴からサリュウの半分ほどの大きさの巨大な蜻蛉が飛び出して、サリュウからカプセルを受け取ると、そいつは飛び去った。

その去った方向に目を向けると、赤い霧の中に何かいるのが垣間見えた。灰色の僧服を纏った特徴的なそのシルエットはほぼ間違いなく、マスター・ハンザのものである。

 

〔ジンライ〕

「ハンザ!なぜもうそこに!?」

 

ジンライの質問に、不敵で気味の悪い笑みを浮かべたハンザが答える。

 

〔ハンザ〕

「転移した際に引き寄せられたので、先に中に入らせて頂きましたが、ふふふ、実に素晴らしい。人を進化させる神の力、私はその力で新しい自分に生まれ変わったのです」

 

僧服を脱ぐハンザ。だがその肉体の首から上は人間のものではなく、化石のような黒い素材で構成された竪琴となっていた。

眼球は竪琴にはめ込まれており、不気味にぎょろついて周囲を見渡す。

 

〔マコト〕

「その頭、あなたもう人間では……」

 

〔ハンザ〕

「そう、私は古く滅び行く人類を選別するために、神によって新たな体を与えられ審判者となったのです。運命を受け入れなさいニンゲnnn」

 

何処に口が付いているのか、竪琴からハンザの声がする。そのハンザの言葉には妙なノイズが混じっていた。何かに思考を塗り替えられているのだろう。

 

〔マコト〕

「肉体の変異が人類の進化だというのなら、人はいつか心を失うことになる。

でも、僕はそんな未来嫌ですね」

 

〔ジンライ〕

「銀河にも肉体の変化を追い求めすぎて精神が崩壊した種族がいるが、ああそうだな、ああいうのは徹底抗戦してでも打倒せねば、美女たちが気持ち悪がるというものだ……

舞、こちらジンライ、ハンザが現れて、ウリュウを強奪した。戦闘になるかもしれん気を付けろ」

 

〔舞〕

「なんですって!了解、戦闘に備えつつ、作業を開始するわ。精々踏みつぶされないように立ち回ってよね」

 

一方ハンザは、巨大蜻蛉が前肢に保持したウリュウとサリュウの囚われたカプセルに対して、奇妙な声を上げていた。

 

 

〔ハンザ〕

「R-A-H-ァ!!!」

 

バリンッ!

 

奇声と共に竪琴からリングの積み重なった円錐状の光線が放出され、頑丈そうな金属のカプセルが砕けて割れた。

それによって縮小されたウリュウが解放され、肉体が膨張していく。

 

〔ウリュウ〕

「うっここは……っは!?

 

うああ!!!」

 

ウリュウの体は冷凍圧縮前と同等になったが、それでも膨張は止まらずより巨大化していく。

またそれに合わせるかのように、肉体の竜化した部分がその範囲を広げていき、ついには全身が竜のそれへと変貌した。

 

〔ウリュウ:完全変態体〕

「ガオォンッ!」

 

Ⅹと比較しても、腰の辺りまではありそうな体格になったウリュウに、マコトが狼狽える。

 

〔マコト〕

「完全変態!下手をすれば人間に戻れませんよ……うわっ!」

 

ドカンッ!

 

赤竜と化したウリュウが両腕を振るうと、凄まじい威力の空気振動が生じて大地を揺るがした。

踏ん張れず浮くマコト達。舞の巨大ロボットスーツも振動の影響でバランスを崩しそうによろめくが、なんとか耐えた。

 

そんな光景を見るハンザは高笑いする。

 

〔ハンザ〕

「はーっはっは!怪獣が神として君臨することこそ進化の道!愚かな旧人類たちよ、神の前にひれ伏すがいい!」

 

〔ジッチョク〕

「そうはさせるかハンターハンマ!『ハサミ斬り』!」

 

勇み立つジッチョクがハンザに飛び掛かる。しかし。

 

〔サリュウ〕

「坊やは近づかなければ攻撃できないのだろう」

 

〔巨大蜻蛉〕

「キシャ―!」

 

衝撃波を放つサリュウと、突進してくる巨大蜻蛉がジッチョクを飛ばし退ける。

 

〔ジッチョク〕

「飛び道具や空を飛ぶのは卑怯じゃないか!?」

 

〔ジンライ〕

「それは俺に対する誉め言葉と取っていいのか?」

 

〔アイス〕

「飛び道具や飛行とはいかないけど、巻き上がれ『キャメルスピン』!」

 

ファム・グラスに変身したアイスが、アイススケートのキャメルスピンまんまの姿勢で必殺の竜巻攻撃を放つ。渦巻く冷気がサリュウや巨大蜻蛉を飲み込まんと猛威を振るうが、効果のほどは。

 

〔サリュウ〕

「竜を相手に竜巻で挑んでくるとは……愚か」

 

サリュウは両手を水平にしてT字になると、ファム・グラスとは逆方向に回転し始めた。

その回転は手から衝撃波を放ちながら猛烈な勢いで加速しており、更に脚部からも衝撃波を放つことで彼女は宙を舞い始めた。

 

〔アイス〕

「ウェイイ何あれマジパねえじゃん、うわ!」

 

サリュウの起こす竜巻がキャメルスピンと衝突すると、キャメルスピンを相殺してファム・グラスを吹っ飛ばし、更に脚部からの衝撃波をコントロールすることでミサイルのような自由な飛行能力を得たサリュウは、両腕を頭上に掲げたドリルのような形態となり、地面に向かって突撃した。

 

〔アイス〕

「消えた!?どこから……うっ!」

 

アイスが姿を隠したサリュウを警戒していると、アイスの背後約1m程の地点からサリュウが飛び出してきて、衝撃でアイスを吹っ飛ばした。

 

〔サリュウ〕

「スケートなんて、足場がデコボコだらけになってしまえばまともに動けないだろう。

このまま地面を地中から掘り起こしてやる」

 

そう言ってサリュウは再び地面に潜航する。宣言通り周囲の地面を掘り起こして、本領発揮に滑走できる平坦な地面が必要なファム・グラスの戦闘力を低下させる算段だろう。

 

〔デコボコ〕

「なんか私の十八番が盗まれた気がする!舞ちゃん杏美さん外に出ていい!?」

 

〔杏美〕

「落ち着いてアイちゃん、貴女が抜けたらこっちの作戦が破綻するわ。

しかもこっちにも……」

 

〔ウリュウ〕

「ガオン!」

 

ウリュウが舞たちのⅩに向かって移動を始める。体格こそⅩの方が倍ほども勝っているが、果たして力比べではどうか?

 

〔舞〕

「叩いて見せます!」

 

〔杏美〕

「敵が来るわ!アイちゃん、装置を起動して!」

 

〔デコボコ〕

「ええい了解です、確か青いボタンを押して……空間湾曲波!」

 

Ⅹが拳を構えて前進していく。ズシンという低音の足音が重厚なリズムを奏でながら、鉄の巨人を称える行進曲を作っていくのを肌で感じ取った舞は、大丈夫だと自身を鼓舞する。

その気概が功を成したか、Ⅹはウリュウの放つ衝撃波を容易く拳で殴り壊して、その勢いのままウリュウに接近すると、華麗な前蹴りでウリュウを吹っ飛ばした。

 

〔舞〕

「行けた!」

 

〔杏美〕

「次元修正の副効果で空間の振動などはある程度かき消せる。このまま突っ切りましょう」

 

〔舞〕

「了解です!さあ行くわよウリュウ!」

 

自身の行為が上手くいき調子付く舞。彼女はこのまま押し切ろうと朦朧として立ち上がるウリュウに接近しようとする。

 

しかし。

 

〔巨大蜻蛉〕

「キシャ―!」

 

高速で宙を舞う巨大蜻蛉が、正面からはむき出しのコックピット部にいる舞に襲い掛かるべく接近して、妨害を掛けてくる。

Ⅹの図体ではウリュウ位の大きさの相手なら十分相手できても、巨大と言っても人間の子供くらいの大きさでしかない巨大蜻蛉相手では、小回りの点で不利すぎた。

舞はなんとか蜻蛉を撃退しようとするが、蜻蛉は大ぶりなⅩの攻撃を悉く回避し続ける。

〔杏美〕

「舞ちゃん!くっ準備が足りなさ過ぎたわ」

 

〔舞〕

「あの蜻蛉、まるで夏の蚊みたいにうっとおしいわね。

ああもう、こっちは武器なんてほとんど積んでないのに!」

 

本来Ⅹは、コアロボットスーツを中心として様々な装備を拡張装備していくことが可能な汎用性の高い道具になるはずであったが、今回湾曲次元修正装置を搭載するに当たり、他の装備は降ろしてしまっていた。

 

更にいうならば、現状搭載可能な兵器の殆ども開発途中であり、仮に積んでいたとしても調整が間に合わずにまともに使うことは難しく、よって頼りになるのはほぼ体格を生かした格闘攻撃のみという有様であった。

 

それもこれも、全ては時間と予算が大二郎には不足していたことにその問題の原因があるといえたが、ここでそれを悲観したところで状況は一切変わらず、舞は困り果てた。

 

〔舞〕

「一応光八さんが護身用にパイプ椅子とサーベル、それと毒霧袋を貸してくれたけど……

どれも私じゃあ持て余すわね。でもこれでどうにかしないと、ここは突破できないわ。

頑張るしかないか……」

 

舞は、光八が貸してくれた護身具がほぼプロレス用の武器であることに弱音を吐きながらも、それでどうにか巨大蜻蛉に対処できないかを検討し始めた

 

〔ハンザ〕

「ウリュウ、サリュウ、それと蜻蛉、どう2か時間を稼いで9れよ。

時間を稼げば稼ぐほど、こちらの優位は高まるんだ」

 

〔ジンライ〕

「協力者の奮闘を横目に、貴様自身はここで立ちんぼか?

大した身分だなハンザ」

 

〔ハンザ〕

「生憎この体では直接戦闘には向かな9手根。それで君はどう4てここ2?」

 

〔ジンライ〕

「決まっている。貴様を完全に倒すためだ……電撃ビーム発射!」

 

カラフルフォームのジンライが、ハンザ目掛けて電撃属性のビームをバズーカ砲から発射する。

 

電気を帯びた光線がハンザに着弾し、放電現象を伴う爆発を起こす様を見たジンライは、だがしかし腑に落ちないと感じた。

 

〔ジンライ〕

「奴の自慢の防護盾が、今展開しなかっただと?もしや……」

 

ジンライの懸念を裏付けるように、爆発の晴れた後には無傷のハンザが一歩たりとも動かない状態でそこに立っていた。

 

〔ハンザ〕

「今の私には、全身に防護盾の加護がついているんだ。だから君たちのあらゆる攻撃を食らおうとも、もはや傷一つつかないよ」

 

〔ジンライ〕

「なるほど、これは予想以上に厄介だな。だからどうした」

 

ジンライはノーマルフォーム・迅雷モードに変化すると、ハンザに対して殴打を繰り返した。

 

〔ジンライ〕

「この世に壊れないものなど存在するか。貴様が無敵の防御力でガードを続けるのなら、俺はそれ以上の破壊力でそれを覆す」

 

〔ハンザ〕

「甘いねえジンライ。今の僕にそんな戦法が通用すると思っているのかい?

 

ギフテッド『時空操作』 R-A-H-ァー」

 

ハンザが奇声を発すると、突如ジンライの周囲に光の粒子が発生し、それらが膜となってジンライを包み込むと、ジンライの動きが極めて鈍くなった。

 

〔ジンライ〕

「なんだこれは、重くて固いぞ!?自由に動けん……」

 

〔ハンザ〕

「今君の時間10空間2負荷を掛け、動きを束縛施た。

君が動くたび似その体力を急速に奪1取り、最後は立ったまま気絶するの3

どうだジンラ1、言葉を発することすら辛ゐだろう?五の調子だとあと20文字も言えな1まま君の体力は完全に尽き果てるだろう。

神から授けられた、私の新しい加護だ」

 

〔ジンライ〕

「このて、い、ど、た、い、し、た、こ、と、な……あ……」

 

ハンザの言う通り、ジンライの言葉が次第に遅くなり、遂には止まってしまった。

 

〔ハンザ〕

「予想以上弐あっけ菜かった名、13文字か。

か2てイエス・キリストがゴルゴダの丘の13段を上ったかのよう二位、君も13の文字ととも2朽ちるがEE」

 

〔ジッチョク〕

「微風伝来!」

 

〔ハンザ〕

「やあ蟹男。仲間の醜態を見てむざむざとやられにきたのか」

 

〔ジッチョク〕

「カンマ、よくも俺のライバルをコケにしてくれたな。貴様のような悪は俺が叩き切る!」

〔ハンザ〕

「灰汁を出して蟹みその4たたり2なるのは君のほうさ!『時空操作』!」

 

〔ジッチョク〕

「秘儀高速移動!」

 

ジッチョクは自身の周辺に発生した光の粒子を、高速移動で振り切るべく駆動する。

 

〔ジッチョク〕

「どうした拳銃の弾より遅いぞ!この程度ならいくらでも振り切れる!」

 

〔ハンザ〕

「蟹だ10思って甘9見てゐたが、意外途俊足だ茄……なら8これはどうだ井。

 

『広域時空操作』!」

 

ハンザを中心とした広い範囲に光の粒子が出現し、ジッチョクが惜しくも囚われる。

 

〔ジッチョク〕

「しまった!動きを止められ……」

 

〔ハンザ〕

「ふは88は、私の新4い加護は効果範囲も広いんだ。このま、ま君の体力を0にし、て、や、……る、……?」

 

ハンザは何かがおかしいと感じ、そしてすぐにその正体に気付いた。

 

自分の動きもジンライたち同様に負荷が掛かっていると。

 

〔ハンザ〕

「(しまった、広域時空操作を使うのが初めてで、自分に対しても効果がかかることを全く知らなかったぞ!ど、どうする……取り合えず解除するか)か、い、じょ……

 

ふう、もとに戻ったな」

 

〔ジンライ〕

「そうかそれは良かったな、食らえ!」

 

〔ハンザ〕

「72!」

 

ハンザは動き出したジンライによって蹴り飛ばされた。

 

〔ハンザ〕

「何故動ける!」

 

〔ジンライ〕

「どうやら能力を掛けるときは個別に出来ても、解除は一律のようだな。しかも負荷が掛かっていた時のエネルギーは蓄積されて溜まるらしい。普段より遥かにパワーが出たぞ」

〔ハンザ〕

「知らなかった……全9聞いてない1ぞ神よ」

 

〔ジンライ〕

「どうやら貴様の神とやらはいい加減な性分らしいな」

 

〔ハンザ〕

「馬鹿2する7!『時空操作』!」

 

〔ジンライ〕

「囚われれば動きが止まるエネルギー、だがしかし振り切れば効果は出ない。モードチェンジ・疾風モード!」

 

ジンライは、自身を拘束せんと追跡してくる光の粒を疾風モードの俊足で置き去りにする。

その速度にハンザは対応できない。

 

〔ハンザ〕

「8、早1!」

 

〔ジンライ〕

「コントロールが甘いな、それ!」

 

ジンライの掌底がハンザの側面を打ち据えるが、その威力は防護盾の加護を貫くほどには程遠い。

 

〔ジッチョク〕

「疾風で張り手か、面白いぞ痛風外来!俺も付き合ってやる」

 

ガシッガシッと、付き添いのジッチョクもジンライに習い、ジンライの反対側から両腕の鋏を握り拳にしてハンザの側面を打ち付け始めたため、ハンザのストレス係数は増え続ける。

 

〔ハンザ〕

「疾風迅雷、蟹男!効かな1、10言ったの2、二人4て無駄な足掻きを!」

 

ハンザはどうにかして二人を振り払おうとするが、パワーで押し負けているのか二人は引き剥がれない。

 

〔ジンライ〕

「なるほど、体は頑丈でもパワーは精々人間程度だな、ならこうしようか」

 

ジンライはハンザの腕を掴むと、そのままアームロックを決めてきりきりと締め上げた。

〔ハンザ〕

「アーッ!!」

 

よほどの激痛なのか、ハンザは言葉にならない叫び声を上げた。

 

〔ジッチョク〕

「なんだそんなのでいいのか、なら俺も」

 

ジッチョクもまたハンザの腕を鋏で掴み取り、アームロックを決めると、ハンザの両腕は完全に使い物にならなくなり、だらんと力なく垂れた。

 

〔ハンザ〕

「アーッ!!

9そ!何故だ、何故神の加護が効か71?何故こうも敗北を喫するのだ!」

 

〔ジッチョク〕

「そんなの、心の正義が足りないからに決まっているだろう!

俺は体を怪人にされたが、心に宿る正義の力で悪の誘惑を跳ね除けた。

貴様もその力を正義のために使うべきだったんだ」

 

〔ジンライ〕

「新しく手に入れた力に酔ってそれを有効活用できていなかったようだな。はっきり言って、弱くなっていたぞ」

 

〔ハンザ〕

「舐める7貴様ら私こそが正義だぁー!」

 

ハンザは顔を地面に向けると、竪琴から光線を放って爆発を起こした。

吹き飛ばされるジンライとジッチョク、それとハンザだが、ハンザはこの状況の中で高らかに笑った。

 

〔ハンザ〕

「あーっ8は!最後2勝つの8神だ10いうことを思い知るが11悪魔の子羊たち4!」

 

〔ジンライ〕

「意思を表示、『クラシックフォーム・トルーパーモード』」

 

〔ハンザ!〕

「!」

 

爆風の中で、ランスを掲げた銀色の甲冑がその姿を現す。その銀塊はどこからともなく現れた馬に空中で跨ると、ハンザ目掛けて突進を始めた。

 

〔ジンライ〕

「チャージ(突撃)!」

 

人馬一体の騎士は地面に着地し、倒れ伏してまだ起き上がれないハンザ目掛けて突っ込む。

避けられないハンザはそのまま轢かれ、ランスで宙に跳ね上げられた。

 

〔ジンライ〕

「頑強が自分の専売特許だと思わんことだ。それに追いつめると爆発で牽制を掛けてくるのはさっき見た。だから予測できたぞ」

 

〔ハンザ〕

「苦っ……」

 

両腕を折られ、爆発に晒され、人馬に轢かれながらも、それでもまだ防護盾の加護によって致命的な損傷を避けているハンザは、されども現状を打破する術を見出せずに苦悶を漏らした。

 

〔ジンライ〕

「さあ諦めてとっとと防護盾の加護を解け。それともまだやる気か?」

 

〔ハンザ〕

「我が意思2一片の陰りも無4!時が来れ8報われる!その時まで決して屈48施茄井!」

 

戦闘が続く。

 

 

  *   *   *

 

 

巨大化したウリュウを相手に叩く舞。しかし彼女の行く手を阻まんと、巨大蜻蛉が巨大パワードスーツⅩに付きまとい、舞の気を散らさせる。

 

舞は蜻蛉を叩き落そうと試みるも、Ⅹの大ぶりな動作では蜻蛉を捉え切れない。どう打開するのか。

 

〔杏美〕

「舞ちゃん落ち着いて。とりあえず私が対処するから」

 

杏美はそういうと、コックピットを離れてメンテナンスハッチらしき扉をこじ開けた。

 

〔杏美〕

「舐めないでよ化け物蜻蛉。今日の私は一味違うんだから」

 

彼女はシルクハットを脱ぐと、それを変形させて筒状のバズーカ砲に変えた。

 

〔杏美〕

「レーザーのエネルギーは一発分限り。よく狙って……発射」

 

バズーカ砲から発射された熱光線は、巨大蜻蛉の右翅を撃ち貫いてバランスを崩させることに成功した。ふらつきながら墜落していく蜻蛉。

 

〔杏美〕

「っと、こんなもんね」

 

調子付く杏美。しかし……

 

〔ハンザ〕

「甘いな。 R-A-H-」

 

ジンライやクラブマンと戦うハンザが、奇声を発しながら光線を放出すると、蜻蛉の負傷が修復した上に倍の体格への巨大化まで果たし、復活した。

 

〔杏美〕

「ちっ相変わらず面倒くさいわねマスター・ハンザ。だけども今回こっちの戦力は多いのよ」

 

〔マコト〕

「仕留める!」

 

短刀を構えたマコトがテュロンに跨りながら蜻蛉に突撃し、首を切断することでとどめを刺すことに成功する。

 

〔サリュウ〕

「ちっ、ハンザの奴大口叩くわりに大したことのない……まあこっちのやつは大したことないし、ウリュウのサポートと行くか」

 

〔アイス〕

「ちょ、待った……うっ、今回まだ見せ場無しじゃん」

 

ボコボコに耕された地形の上で、身動きの取れないアイスが苦悶を漏らす。

するとそこに馬に乗ったジンライがやってきた。

 

〔ジンライ〕

「ファム・グラス、対戦相手をチェンジだ。俺に変わってハンザの奴を抑えていてくれ。

正直、俺よりも冷凍能力を持つお前の方が奴の相手には向いている」

 

どうやら、頑強な加護を持つハンザを相手取るのに手間取り始めたジンライは、冷凍能力で相手の行動を制限できるファム・グラスにバトンタッチを望んでいるらしい。

今回の戦いで活躍したいアイスは、その提案に乗っかった。

 

〔アイス〕

「分かった。でもあのサリュウっての半端なく強いよ。ジンライっち気を付けて」

 

仲間の身を案じながら、対戦相手を交換するアイス。さて、この判断は吉と出るか。

 

 

  *   *   *

 

 

〔サリュウ〕

「行くよウリュウ、突撃だ」

 

〔ウリュウ〕

「ガゴッガ!」

 

地面を耕しながらⅩに向かうサリュウと、飛び跳ねながら距離を保つウリュウ。その連携戦法はⅩを翻弄していた。

 

〔舞〕

「うっ、サリュウが地面を衝撃で陥没させてるせいで、足場が取られてる……」

 

サリュウがウリュウのサポートのために、Ⅹ周辺の地面を掘り返しているせいで、Ⅹは思うように動けなくなった。そこにウリュウが小回りの良さを生かして離れた場所から衝撃波を放ち続けることで、Ⅹは消耗を強いられている。

 

〔ジンライ〕

「『ジャイアントフォーム』!」

 

と、ジャイアントフォームに変化し巨大化能力でトリコロールカラーの巨人と化したジンライが、助っ人として戦いに加わる。彼はウリュウの背後から飛び掛かり、ドロップキックでウリュウを転倒させた。

 

〔ジンライ〕

「先ずウリュウの奴から先に片づけるぞ、舞」

 

ジンライは自身の腰の辺り程度の体格のウリュウを持ち上げると、Ⅹのほうに向かって投合した。

拳を握って待ち構えるⅩ。しかしサリュウがそれを妨害する。

 

〔サリュウ〕

「悪いけど、あれに殴られるよりはマシだろ!」

 

サリュウがウリュウに向かって衝撃波を放ち、ウリュウを強引に滞空させる。更にウリュウも衝撃波を放って投合の勢いを相殺した。

 

〔舞〕

「さっきから面倒のくさい二人は纏めて吹っ飛ばすわ!」

 

先ほどから妨害ばかり食らって思うように活躍できていない舞は、逸る感情を噴出させてⅩを突撃させる。

 

〔ジンライ〕

「鋏打ちだ!」

 

ジンライもまた、Ⅹの勢いに合わせて攻勢を掛けていく算段を立て、ウリュウに再度ドロップキックを掛けんと跳躍する。しかし。

 

〔サリュウ〕

「ウリュウ、潜航だ!」

 

〔ウリュウ〕

「ゴーゲー!」

 

サリュウとウリュウが地面に衝撃を放ち、泥化を起こしながら沈んでいくと、ジンライのキックは目標を外してⅩに直撃した。

衝撃で仰け反りながら転倒するⅩ。搭乗する舞も苦悶を漏らす。

 

〔舞〕

「うわっ!ウリュウとサリュウ、やるわね……」

 

〔ジンライ〕

「すまんロボットチーム、大丈夫か?」

 

〔杏美〕

「幸い損傷は軽微よ。ただ、相手の能力が厄介で決定打がないのが痛いわね。どうにかならないかしら」

 

〔デコボコ〕

「要するに土竜叩きをすればいいんでしょう杏美さん。ならここは一つ私がどうにかしましょう。

凸凹護身術!陥没!」

 

デコボコが異能を駆使してⅩ真正面の地面に陥没現象を引き起こす。地面に潜伏した二人を炙り出す目的だ。

と、デコボコの異能発動を察知したⅩのシステムが起動を始める。

 

〔Ⅹ〕

「特殊脳波検出、フィードバック、入出力増幅」

 

陥没現象が拡大し、直径数百メートル、深さ数十メートルにも及ぶ巨大な崩落穴が発生すると、ジンライとⅩ、それとテュロン、マコトを落下させた。

ジンライが咄嗟に重力に引かれるがテュロンとマコトをキャッチする。その後なんとか無事に着地したジンライとⅩだが、突然の事態を引き起こしたデコボコに対して苦情を申し立てた。

 

〔ジンライ〕

「加減しろ穴掘り女。深堀りしすぎだ」

 

〔マコト〕

「デコボコさん、これはやりすぎなのでは?」

 

〔デコボコ〕

「ちょっ、なにこれ予想外なんですけど。杏美さん?」

 

〔杏美〕

「どうやら機体に積み込まれた脳波コントロールシステムの影響で、能力が増幅したようね。都合がいいしこのまま押し切るわよ」

 

〔サリュウ〕

「貴様等!とんでもないことをやってくれるな!まさかここまでやるとは思わなかったぞ」

 

デコボコが地面を陥没させたことで、潜伏していたサリュウとウリュウが姿を現した。

まさかこんなことが起こるとは予想もしていなかったのだろう。

 

〔デコボコ〕

「覚悟しなさいウリュウ、サリュウ。今日こそとっ捕まえて司法機関に突き出してあげるわ」

 

〔ジンライ〕

「もう逃げ場はないぞ、観念しろ」

 

〔サリュウ〕

「なんの!」

 

サリュウとウリュウは再度潜航を試みる。されども調子付いたデコボコがそれを阻んだ。

〔デコボコ〕

「種が分かればトリックなんて、破るのは簡単なのよ。凸凹護身術、隆起!」

 

陥没した地面が、今度は反対に隆起を始め、その勢いに突き上げられたサリュウ、ウリュウ、ジンライ、Ⅹが宙に浮く。

 

〔サリュウ〕

「しまった!」

 

〔ジンライ〕

「今だ波に乗れマコト!」

 

ジンライが掌に乗ったマコトとテュロンを投合する。滑空するテュロンが波乗り板に変形して、空気を掴んでサリュウに突撃した。

 

〔マコト〕

「覚悟!」

 

〔サリュウ〕

「時空キーパー、吹っ飛べ!」

 

テュロンとマコトの突撃を高速回転による竜巻で迎え撃つサリュウ。マコトは圧し勝てるか?

 

〔マコト〕

「読めた!答えはこうだぁ!」

 

マコトはテュロンから一旦飛び降り、されども重力に引かれ落下しながらも波乗り板の後端を掴むと、体を捻って回転を加えた。

螺旋する刃と化したテュロンが空気の壁を採掘し突破する。その突撃をなんとか先端部を避けて身に受けたサリュウだが、衝突の衝撃で地面に向かって落下していった。

 

〔デコボコ〕

「捕まえた!」

 

デコボコが地面の隆起でクッションを作り、そのクッションに沈み込んだサリュウを捕えた。

 

〔ウリュウ〕

「ガギュウー!?」

 

〔デコボコ〕

「次はウリュウあんたよ!十六夜ちゃん!」

 

〔十六夜〕

「おう任せとけデコボコ姐!爆ぜろ魔法の炎ビルキラファイアー!」

 

Ⅹが左腕拳をウリュウに向けると、搭乗者の十六夜の魔法力を増幅した高温高圧の火炎が放射され、ウリュウを襲った。

それを衝撃波で空気をかき乱し、炎を避けたウリュウはされども、それが牽制を目的として放たれたものであることを察知していなかった。

炎で塞がれた視界の向こうで、Ⅹがウリュウに向かって前進する。そして拳が届く距離まで接近すると、殴ることなく取り押さえて、左腕から魔法少女の力が発揮された。

 

〔十六夜〕

「『ヒーリング』!」

 

本来ならば生命体の治癒力に干渉して負傷を修復するその魔法は、しかし十六夜による応用術か、或いはマシンによる強化増幅によるものか、通常以上の効果を発揮した。

 

〔十六夜〕

「人間に……治す!」

 

邪悪を滅する魔法の力が、ハンザによって付与された歪な生命力を除去し、ウリュウを赤竜から本来の人間の姿に戻した。

Ⅹの掌上で茫然とするウリュウ。人間に戻されたこともそうだが、戻ったのは肉体だけで服は無くなっていた。

咄嗟に恥部を両手で隠すウリュウ。

 

〔十六夜〕

「これまで行った非道の罪の数々、それを覆すことは出来ませんが、せめて人間として介錯してあげましょう……行くぜ!」

 

〔ウリュウ〕

「ええい鬼かあんた!殺生だから着るものを寄越しなさいよ!」

 

〔ハンザ〕

「おの0ヒーロー達、49もウリュウtおサリュウを」

 

〔アイス〕

「こっちも決着を付けようか。『トリプルルッツ』、『トリプルループ』、必殺『キャメルスピン』!」

 

〔ハンザ〕

「!」

 

助走を付けながら跳躍と回転運動を続けるアイスが運動エネルギーを蓄積し、T字のポーズを取ると、ファム・グラス必殺の竜巻攻撃『キャメルスピン』が発動する。

 

強烈な冷気に襲われたハンザは凍り付き、その動きを停止させた。

 

〔アイス〕

「タイムアウト!」

 

回転運動を停止し、地面に直立するアイスが勝利宣言をする。

 

〔ウリュウ〕

「ハンザのやつ、敗北したわね」

 

〔マコト〕

「先ほどは油断しましたが、今度こそ逃がしません」

 

テュロンを変化させたグライダーに乗るマコトが上空を旋回し、ウリュウを監視する。

 

〔舞〕

「ごめん皆、私人間にとどめさすのはちょっと……」

 

〔デコボコ〕

「オーケー舞ちゃん、私が捕縛するわ」

 

〔十六夜〕

「助太刀致します」

 

デコボコと十六夜がコックピットから外に出る。

 

〔ジンライ〕

「逃がさん」

 

巨人ジンライが、ウリュウを視線で威圧する。

巨大な人型機械の掌で、四方を敵に囲まれたウリュウは、万事休す状態であった。

 

〔ウリュウ〕

「捕まってたまるものですか!絶対逃げ切ってやるわ!」

 

右腕を竜化させるウリュウ。どうやら魔法でも未来の技術で作られた能力を完全に消すのは難しいらしい。恐らくハンザの与えたエネルギーだけが消えたのだろう。

されども、もはやこの状況から抜け出すのに竜の力だけでは足りまい。

 

〔デコボコ〕

「諦めなさい。今ここから逃げ出してもそんな格好じゃあいずれ司法機関に捕まるわ。

隠すものは用意してあげるから大人しくお縄に付きなさい」

 

〔ウリュウ〕

「くっ何という恥辱……」

 

と、その時。

 

―ゴーン、ゴーンー

 

力強い何かが空気を振動させたかのような重低音が周囲に鳴り響いて、ジンライたちの意識をウリュウから逸らさせた。

 

〔ジンライ〕

「まさか……」

 

〔舞〕

「何、何が来るの?」

 

〔光八〕

「む……」

 

ジンライたちが時空の抜け穴を見ると、そこには人型の影が蠢いていた。

その影は、最初は薄い白色だったものの、時を経るごとにその濃さを増していき、終いには実態を持ち始めた。

 

〔杏美〕

「いけない、急いであれを消滅させないと……舞ちゃん!」

 

〔舞〕

「行きます!デコボコさん十六夜さん戻って!ジンライは私の援護を!というかウリュウをお願い!」

 

舞はデコボコと十六夜をコックピットに戻らせると、ウリュウをジンライに向かって放り投げた。

驚きながらも、ジンライの掌に収まるウリュウ。彼女はこの状況に感慨深そうな言葉を漏らす。

 

〔ウリュウ〕

「あっこら何するのよ!ったく……あれがハンザのやつが言っていた異次元人とかいうやつかしら?私たちには味方だとか言っていたけれど……」

 

〔ジンライ〕

「おい、何か知っているのか?話せば暫く生かしておいてやる。あれはなんだ?あれが今回の事態を引き起こしたのか?ハンザとお前たちに協力したのは一体何者なんだ」

 

〔ウリュウ〕

「っち、まあいいでしょう。どうせもう引き返せないのよ。

ハンザのやつが言っていたけど、あれは異次元に潜む怪獣で、この世界の法則を塗り替える神の器だそうよ。

あいつはあれを成長させて、自分に都合のいい人造の神に仕立て上げようとしていたのよ。

まあ私たちもだけどね」

 

〔ジンライ〕

「説明が聊か抽象的だな。あれは具体的には何をできる?お前たちの目的、何故ファーリとラケーシュが態々共同作戦を?」

 

〔ウリュウ〕

「これはハンザのやつの話からの推測だけれど、地球上の怪獣やその候補となりうる存在を目覚めさせて、より強大な存在に強化するんだって。

その内、怪獣の軍団がこの過去を破壊し尽くすでしょうね。

そして過去が滅茶苦茶になってしまえば、私たちの存在を否定する社会の煩雑な規則やらがうやむやになって、私たちが生き残るために必要なお偉いさんなんかへの面倒なご機嫌取りから解放されると思ってね。

それと、仲間をこっちの時間軸に本格的に移住させるためかしら」

 

〔ジンライ〕

「過去と未来を繋げたままに出来るとでも?危険すぎるな」

 

〔ウリュウ〕

「この時代の住民には無関係なことではなくて?未来の人間の在り様なんてものは。

それとも何、過去の人間を救えば私たちも救われるとでも?

高々100年少しの自分の命の範疇で起こることの責任すらもまともに考えない、過去の人間を?

もし人間が未来のことをちゃんと考えられるのなら、過ちなんて犯さないのよ」

 

〔ジンライ〕

「そんなことは救ってから考えればいい。過去を変えることに意味があろうとなかろうと、目の前の何かを守り、救いさえすればそれで生きることには十分だろう。

それが出来ないのなら、過去になんか来るべきではないだろうが」

 

〔ウリュウ〕

「禅問答ね」

 

〔ジンライ〕

「生憎禅宗どころか、この星の住民ですらなくてな。それよりも、あれの止め方は?」

 

〔ウリュウ〕

「さあ。そんなことは止めてから考えなさい」

 

〔マコト〕

「もうそれくらいでいいでしょう。いい加減捕縛しましょう」

 

いつの間にかジンライの掌に着地していたマコトが、ウリュウの腰に短刀を突き立てる。

〔ウリュウ〕

「いたたたたた!ちょっと話の途中でしょう!これだから時空キーパーは嫌いなのよ。

改造人間に対する労りの精神が欠けているのをいずれ後悔するわよ。疾風迅雷あんたからもこいつを止めなさいよ」

 

〔マコト〕

「何時かの後悔を恐れて使命は達成できませんので」

 

〔ジンライ〕

「別に俺は看守でもなんでもないのでな、マコトがどうしてもというのならお前の身柄がどうなろうと別にどうでもいいことだ。

 

で、結局のところハンザの言う『彼』とは何者だ?やつがそうなのか?」

 

〔ウリュウ〕

「……いいえ、『彼』は私たちラケーシュの『仲間』よ。それも相当重要なね。なんせ、組織の中でも数少ない『仲間を増やす能力』の持ち主ですもの」

 

〔マコト〕

「!」ガッ!

 

〔マコト〕

「今なんと言いました……?」

 

マコトはウリュウに強く突っかかり、背後から押してウリュウを這いつくばらせた。

 

〔ウリュウ〕

「ラケーシュとは、つまるところ彼の退屈を紛らわす箱庭、幇間蠢く大夫の衆に過ぎないということよ。首領とは違うけど、でももしかすればより恐ろしい組織の暗部、冷徹な狂気を体現する男よ。

私たちは彼のことを『マンティコア』と呼ぶわ。人を食らい続ける恐ろしい怪物という畏怖を込めて」

 

〔ジンライ〕

「どういうことだ?そのマンティなにがしやらは仲間を増やすのだろうが?食らうというのなら矛盾しているぞ」

 

〔ウリュウ〕

「いいえ、彼は人間に改造を施して変異させることができるけれど、でも変異させた上で『食らう』の……言葉通りの意味で、ね」

 

〔ジンライ〕

「そいつは今どこにいる?近くにいるのか?」

 

〔ウリュウ〕

「いいえ、別の場所に行くと言っていたけれど……詳しくは私たちも分からないわ。なにせ胡散臭くてね」

 

〔マコト〕

「戯言を。今のマンティコアの下りは全て虚言なのではないですか?少なくとも、僕はそういった話を一切聞いたことがない」

 

〔ウリュウ〕

「Cut Stick One's」

 

その謎の言葉にマコトが驚愕する。

 

〔マコト〕

「! ふふっ、そういうことでしたか……そういうことなんですね!

ウリュウあなたは全てを知った上で、今まで散々僕を振り回してきたそういうことなんですね!

ラケーシュめぇッ!」

 

マコトは激昂しながら再度圧縮冷凍カプセルを取り出すと、ウリュウに押し当てて捕縛した。

カプセルに吸い込まれる刹那、ウリュウの浮かべた表情は、名残惜しさを表立たせて残念そうに脱力していた。

 

〔マコト〕

「全く、ラケーシュが、奴らは手を焼かせる……さて、では僕らもデコボコさんたちの援護に回りましょうか」

 

〔ジンライ〕

「……何か事情があるようだが、聞かないでおこう」

 

 

  *   *   *

 

 

時空の抜け穴から出現した異次元人に接近するⅩ。異次元人の体格はⅩと相違なく、巨人と言って差し支えない。

その異次元人は動くことなく直立不動の姿勢を取っており、舞たちは警戒しながらも接触を試みる。

 

〔杏美〕

「そこの白い巨人!言葉が通じるのかどうか分からないけれど、何でもいいから何か答えてみなさい!

貴方は誰?何処から来て、何を目的としてこの世界に来たの?」

 

異次元人はスピーカー越しの杏美の言葉に反応して、それに対応した。

 

〔異次元人〕

「私の名はオメガ……此処ではない次元から来訪した」

 

まるで船の汽笛のような重い低音の響く声、それがオメガの声質のようだ。

 

〔杏美〕

「日本語は通じるようね」

 

〔オメガ〕

「この世界は悪しき負のエネルギーに満ちている。私はその力を使いこの世界を破壊する。滅びよ」

 

〔杏美〕

「元の世界に帰りなさい」

 

〔オメガ〕

「この世界を滅ぼした後、私は元の次元に帰還する。滅びよ」

 

〔杏美〕

「交渉の余地なしね。みんな、あの話の通じない白い巨人を討伐するわよ!」

 

〔舞〕

「了解!行っきます!」

 

〔デコボコ〕

「デコボコ護身術!」

 

〔十六夜〕

「爆ぜろ!」

 

大地の隆起が槍と化し、魔法の炎が大気を焦がしてオメガを襲う。

それをオメガは躱すことも受け身を取ることもなく無防備に食らい、胴体は穴を穿たれ、焼けた。

これで終わり?舞が猜疑を持って見ていると、オメガが喋り出した。

 

〔オメガ〕

「ふむ、これは……炎は神仏の法力で、大地の躍動は星の……だが、この程度なら大した脅威ではないな。

 

R-A-H-」

 

オメガの奇声と同時に、大気が激しく振動して大地が粉砕され炎が掻き消える。

その後胴体の穴や燃焼痕も消え、どうやらこの程度の攻撃は余裕で耐えられるらしい。

 

〔杏美〕

「頑丈ね。なら先に次元の抜け穴から潰すわ。ジンライ君そいつの相手して」

 

ジンライが跳躍しながらやってきて、オメガにドロップキックを決めようとする。

一方Ⅹはオメガを迂回して次元の抜け穴に向かおうとする。しかし。

 

〔オメガ〕

「認めぬ」

 

オメガはジンライに対して、先ほどは取らなかった迎撃として腕から光のエネルギー弾を放って吹っ飛ばすと、Ⅹに向かって接近し、頭突きを繰り出した。

 

衝撃に仰け反るⅩ。どうやらオメガの頭は恐ろしく硬いらしく、Ⅹの装甲に目立つ傷などはないものの、オメガの頭もまた無傷であった。

 

〔オメガ〕

「時空の抜け穴はこの世界に滅びを呼び込むために必要なもの。手出しはさせぬ」

 

〔杏美〕

「じゃあ私たちはあんたを倒して時空の抜け穴も消滅させることにするわ。皆、気合入れてね!」

 

杏美の発破に呼応して、エネルギー弾のダメージから立ち直ったジンライが力強く啖呵を切る。

 

〔ジンライ〕

「今のは効いたぞオメガとやら。この世界を滅ぼすだと?フン、それは不可能だ。何故ならここに、超一流のヒーローが存在するからだ!

 

吹けよ、疾風! 轟け、迅雷!疾風迅雷、参上! 貴様の邪な野望は俺様が打ち砕く!

ドイタール帝国第十三艦隊特殊独立部隊部隊長である俺の超一流ヴィランの力、味わいたいというのなら見せないこともない!」

 

ジンライがオメガに向かって走り出す。オメガはそれを腕から放つエネルギー波で妨害しようとするが、それでもジンライは止まらず、オメガに拳の届く距離まで近づくと、鋭いアッパーを繰り出した。

胴体に拳がめり込んで浮かび上がるオメガ。されども彼は意に返さず、ジンライの顔面に光のシャワーを浴びせる。

オメガの攻撃に耐えながらも、今の状況を読み解くジンライ。それは決してジンライに都合の良いものではなかった。

 

〔ジンライ〕

「なんて頑強な奴だ!全く手応えがない」

 

〔オメガ〕

「この男の力、『銀河皇帝』の……なるほど、これは『片割れの根っこ』か。

もう一人の、『覆い隠す者』の方もこちらの次元にいるのか、いずれにせよまだ習熟していないのであれば、脅威ではない」

 

〔ジンライ〕

「何を言っているのかは分からんが、俺がNSPを使いこなしていないだと?その認識改めさせてやるぞ。探偵女、十六夜、武器をくれ!」

 

〔デコボコ〕

「いいわヒーロー君、凸凹護身術!」

 

〔十六夜〕

「爆ぜろ炎!」

 

デコボコが隆起させた地面に十六夜が魔法の炎を纏わせて即席の武器にする。それを幾つも生成してⅩに持たせると、ジンライの側まで投合した。

ジンライの側、大地に突き刺さる炎槍。それを確認したジンライはオメガを煽る。

 

〔ジンライ〕

「武器で戦闘力が上がったぞ?さあ食らえオメガ」

 

オメガを宙に放り投げたジンライは、地面に刺さった炎槍を抜くと上に構えて跳躍し、オメガを突き刺す。

 

〔オメガ〕

「ふむ、これでは傷が焼け固まって、再生機能で埋められないな」

 

〔ジンライ〕

「多少頑丈なようだが、全身を分解した上で焼き払われれば、行動不能ではないか?

痛覚があるのかは知らんが、精々覚悟することだな」

 

〔オメガ〕

「覚悟?それは確かこういうのでよかったか?」

 

オメガの背中から砲身のような突起が4つ飛び出すと、白い泡のようなものが噴出し、やがてそれは固まって玉となった。その玉はそれぞれがハンザ、巨大蜻蛉、サリュウ、ウリュウの元に向かい、彼らと一体化した。

〔マコト〕

「カプセルが!あの光は一体?」

 

〔ジッチョク〕

「誘拐して融解ということか?」

 

〔アイス〕

「ウチ寒いのチョー苦手なんだけど、いい加減冷凍蟹になろうかジッチョク?

 

そんなことより、あの白い奴氷漬けのハンザをどうするつもり?」

 

〔マコト〕

「ウリュウ、サリュウ、ハンザ、あと巨大蜻蛉、一体なぜこれらが?」

 

〔ジンライ〕

「一体何をするつもりだオメガ?」

 

〔オメガ〕

「覚悟せよこの世界の人間たちよ。悪の力がこの世界を滅ぼすとはどういうことか、今見せてやろう。R-A-H-」

 

オメガが一際重い低音を発すると、白い玉が上空に浮いて爆発し、その場に4体の怪獣が出現した。

 

〔ジンライ〕

「何!?」

 

〔ジッチョク〕

「怪獣が増えたァ!」

 

〔アイス〕

「今の感じ、三次元世界の法則が乱れた?次元と次元の境界を破壊して、全てを取り込もうとでもしている!?」

 

〔マコト〕

「物質と生き物を作り変えて、人間を滅ぼす気なのか!?」

 

〔オメガ〕

「これがこの世界に満ちる悪の力、それが成す異業である。

強力な悪の意思は時として怪獣をも生み出し、世界の法則を侵食する。

滅びは必然、滅びは宿命、故に足掻かず逝け、光の意思持つ弱き人間たちよ」

 

〔怪獣軍団〕

「GUOHHHHH!!!!!」

 

〔光八〕

「一度に5体の怪獣を相手にしなければいけないのか!ここにいる人員だけで!」

 

〔アイス〕

「実質2対5じゃん!戦力差が倍以上開いているのはかなり厳しいよ!?」

 

〔ジッチョク〕

「さすがの俺でも挫けそうだ」

 

〔ジンライ〕

「どうする?一時撤退するか?」

 

〔杏美〕

「いいえ、今撤退しても連絡手段の無い今、各地の戦力を集めるのに時間がかかるわ。

あいつの能力が怪獣を増やすことなら、今ここで倒さないと相手の戦力が増加し続けることになる。厳しいけどお腹括って戦うわよ!」

 

〔ジンライ〕

「フッ、どうしてもというならここでヒーローになってやらんこともない。さあこい悪党ども、銀河の超一流ヴィランヒーローがこの星の未来を切り開いてやる!」

 

〔舞〕

「ヴィランなのかヒーローなのかどっちよ!?まあいいわ。こっちも覚悟決めて北海道の平和を守って見せようじゃないの」

 

炎槍を携えて怪獣軍団に挑むジンライとⅩ。果たして彼らは無事この障害を突破し、異次元人を倒し時空の抜け穴を消去できるか!?

 

 

  *   *   *

 

 

〔デコボコ〕

「陥没と隆起!」

 

巨大ロボットスーツⅩに搭乗するデコボコが、地形変化の異能で戦場を構築する。

直径数百メートル、深さ数十メートルに及ぶ穴を大地に穿った彼女は、更にそのクレーター内部に幾つもの突起を出現させ、怪獣軍団の機動を制限することを試みた。

 

〔十六夜〕

「爆ぜろ!」

 

十六夜が魔法の力で突起に着火し、単なる土と石の塊を高熱の槍へと変える。ジンライとⅩはその槍を抜くと、怪獣たちに向かって投合した。

 

〔ジンライ〕

「じゃんじゃん作れ迷探偵女、十六夜!こちらにあって向こうにないもの、それは武器だ!

こっちには異能による武器精製という強みがある、その強みを押し出して敵の勢いを削ぐぞ!」

 

〔舞〕

「なるべく遠くで体力尽かしてね怪獣軍団!って、全然効いてないみたいだけど!」

 

ジンライとⅩが次々に投合してくる槍に対して、かたや怪獣軍団の方は衝撃波やバリア、エネルギー弾などで迎撃を行っていた。どうやら元形態での能力を引き継いでいるようだ。

 

〔舞〕

「蜻蛉が飛び出してくるわ!早い、全然当たらない!」

 

〔ジンライ〕

「くそ、当たれば虫タイプに火炎は特攻なんだが」

 

マコトに首を刎ねられた巨大蜻蛉は、怪獣化する際にその胴体と分離した首が癒着・再生しており、また以前よりも体に棘状の突起が増えている。そんな全身凶器の蜻蛉が翅を振動させると、巨大な図体からは想像もできない高速を発揮し、槍撃を回避しながらジンライたちに接近して格闘攻撃を繰り出してきた。

 

〔舞〕

「尻尾を振りかざしてる!来るわよ!」

 

〔ジンライ〕

「っく、素早い以外に能力はないが、格闘攻撃は厄介だな」

 

蜻蛉は動きが素早い以外にこれといった能力はないらしいが、それでもその素早さを生かして肢や尻尾を用いた打撃を繰り出してきており、非常に鬱陶しい。

叩き落すには集中して相手しないといけないが、数の不利がジンライたちから対処の余裕を奪う。

 

〔杏美〕

「エネルギー弾よ、避けて!」

 

ジンライたちの居た場所を、光の縁エネルギー弾が爆撃する。爆発の衝撃と閃光、熱がジンライたちに焦燥を強いる。

 

〔杏美〕

「マスター・ハンザ、怪獣になっても加護とやらは健在のようね」

 

怪獣と化したハンザは、されども加護を失わずに活用していた。

4足歩行の蜥蜴と竪琴を合わせたような容貌のハンザは、背中と、天に反りあがった尻尾との間に糸が張った体構造になっており、それが自動で鳴る度にバリアやエネルギー弾が生成され、こちらの攻撃を防ぎつつも反撃をしてきている。機動力はさほどないが、防御力と攻撃力はかなりのものだ。

 

〔マコト〕

「凄い風圧だ!まるで峡谷みたいだな。地下とは思えない。

お陰で僕ら等身大組は突起の影に身を隠すのが精々ですよ、サリュウ」

 

青い竜人がその腕力で空気を振動させ、衝撃の波を風として飛ばしてきている。サリュウだ。

彼女の起こす風により、巨大化していないマコトやジッチョク、アイスはデコボコの作った穴や突起に身を隠すしかなくなっている。

外に身を晒しても台風の時のように自由に動けないだろう。

 

〔ウリュウinカプセル〕

「……」

 

他の怪獣が何らかの行動を行っているのに対し、特に何もしていないのがウリュウの入ったカプセル型の怪獣だ。こちらは怪獣化しているのはカプセルの方で、怪獣化に巻き込まれた筈のウリュウの要素は見られない。大量のシャボン玉のように透明な気泡が一つに寄り固まった塊の形状になっている。

元が保管容器故かこれといった防御能力や攻撃能力はなく、ただその場でじっとしており、一見すると無害なようであるが、怪獣化している為ひょっとしたら何かあるかもしれない。油断は禁物だ。

 

そんな怪獣軍団とジンライたちの戦いを他所に、一人穴の外で胡坐を掻きながら瞑想し、何らかの呪文を唱えるオメガは背中の砲身から泡状のエネルギーを放出し続けていた。泡は放出されるとオーロラに向かって上昇していき、そして泡がオーロラと混ざり合う度に、オーロラは放電現象を起こした。

恐らくオーロラのエネルギーを介して怪獣を増やし続ける算段だろう。その現象がどこまで広がるのかは不明だが、もしこのまま範囲が広がれば、地球が滅亡するというのも強ち過大妄想ではないだろう。それだけの不気味な雰囲気を、オメガは纏っている。

ジンライたちは一刻も早く怪獣軍団を撃退し、オメガを倒す必要に迫られていた。

 

〔光八〕

「この状況……打開するには、やるしかない」

 

圧倒的な危機を前にして、光八が覚悟を決める。

 

一方のジンライ。

 

〔ジンライ〕

「多勢に無勢、ええいどうにかならんものか」

 

数の不利を覆す術が見つからない彼は苦悶を漏らしながらも戦い続けていた。

されども何も解決しないまま、時間だけが過ぎていく。

 

〔ジンライ〕

「俺の巨大化時間もそう長くはない。早急さが必要だが……」

 

〔ジッチョク〕

「おい疾走波紋!お前の力で俺たちを巨大化しろ!以前俺の鋏を巨大化しただろう!」

 

〔アイス〕

「うちらも大きくなれば、怪獣と正面切って戦えるよ」

 

〔ジンライ〕

「無理だ。多大なパワーを要する巨人化は精々人間一人とちょっとぐらいが限度。既に俺が巨人化している今、お前らを巨人化することはできん。数倍程度に少しだけ大きくすることはできるが今それをやっても役には立たん。

そもそも俺の巨人化はNSPに適合しているから上手くいっているんだ、お前らを巨人化するには適合率が不足している」

 

〔ジッチョク〕

「不可能なんてものはな、正義の心で覆すもんだ!無理という前にやって見せたりできないか!?」

 

〔ジンライ〕

「なら自力でやってみろ!いや違うな、今はこんな争いをしている場合では……」

 

〔光八〕

「皆、聞いてくれ!」

 

〔杏美〕

「光八?」

 

〔光八〕

「今から俺の力で皆を巨大化させる。力を分けるのは初めてだから上手くいくのか分からないが、兎に角試してみる。

だから諦めずに戦って、勝とう!」

 

〔杏美〕

「何言ってるの?あんたの力って……」

 

〔光八〕

「疾風博士、どうか俺の力を皆に分けてくれー!」

 

光八がそう叫ぶと、3号トラックの担当するⅩの左足部から虹色の光線が放出されて、それを浴びたジッチョク、アイス、マコト、テュロン、ドッポが瞬く間に巨大化した。

 

〔ジッチョク〕

「これは……」

 

〔マコト〕

「僕たちが巨大化している!」

 

〔ドッポ〕

「フメイナエネルギーノセツゾクヲカクニン。システムニシンコクナショウガイハッセイチュウ。タダチノテイシフヨウ」

 

〔アイス〕

「これでうちらもジンライっちや舞っちと一緒に、向こうと戦える!よーし、行くよ!」

光八の力を受けて巨大化したアイスたちが、怪獣軍団に向かっていく。

その様を機内のモニターで見る杏美は困惑した。

 

〔杏美〕

「どうなってんのよ、光八あんたまさか……」

 

そんな杏美の不安を或いは予想していた光八は、だがすっきりとした声色で爽やかに言葉を漏らす。

 

〔光八〕

「そうだこれでいい、俺の願いは皆の……」

 

一方ジンライと舞は、光八の行動の意味を考えて、そこに込められた思いを噛み締めながら、自分に喝を入れた。

 

〔舞〕

「光八さん、貴方の覚悟、絶対に無駄にはしません。私たち絶対この戦いを勝って、貴方に感謝を述べてみせます」

 

〔ジンライ〕

「ベアーマン、助太刀感謝するぞ!これで俺はあのすかした異次元人やらを倒しに行ける!行くぞ舞!」

 

〔舞〕

「そっちこそしっかりしなさいよヒーロー!」

 

斯くして、巨人たちと怪獣たちとの戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

  *   *   *

 

 

まずヒーロー達の先陣を切って見せたのは、アイス扮するファム・グラスである。

真っ白なドレス調のスーツが地を駆け抜け、吹き荒ぶ風を押し退けていく。

 

〔アイス〕

「『スケートオンアイス・スピード』!」

 

アイスの靴底に刃が構築され、滑走時の接地圧と摩擦率の変化を齎す。スピード形態は直線的な速度を出すのに秀で、その高速度は等身大時には疾風モードのジンライをも凌駕するほどだ。巨大化してもなお、その特性は変わらないだろう。

 

〔アイス〕

「虫タイプに火炎放射は特効?じゃあこれはどう!」

 

アイスが蜻蛉を追いかける。蜻蛉は躱そうとするものの、ファム・グラスの速度がそれを許さない。

 

〔アイス〕

「バニーホップジャンプ、今のウチは北国の雪兎のように愛くるしいよ」

 

助走を付けたアイスが跳躍し、キックで蜻蛉を叩き落す。地に伏せた蜻蛉はされども、ヤゴの頃そうであったように前肢を使って格闘攻撃を繰り出してきた。

鋭い棘や爪がアイスを傷物にしようとするが、彼女はひょろりとそれを躱す。

 

〔アイス〕

「『スケートオンアイス・テクニック』、サーペンタインステップ!」

 

アイスのS字状の蛇行機動が、本能的に獲物を狙う蟲の攻撃を凌駕する。蜻蛉の瞳に映るアイスの姿は渦を巻いて、もはや詳細を留めてはいないだろう。

そのチャンスをアイスは見逃さない。相手の隙を見つけたアイスは、足場を冷気で凍らせると、その冷気を巻き上げて弾丸として放った。

 

〔アイス〕

「『ショットガンスピン』!」

 

高速回転運動によって加速した氷が礫として飛び、散弾銃の弾丸の如く蜻蛉を打ち据えると、蜻蛉は倒れ伏せて動きを止めた。

 

〔デコボコ〕

「まずは一体!」

 

 

  *   *   *

 

 

〔ジッチョク〕

「己の身の丈を理解し、謙虚に事を運ぶことを蟹穴主義という!」

 

ジッチョクはハンザと対峙し、彼の攻撃を耐えている。

ハンザは背中の竪琴から波上の光線を発射しており、ジッチョクはそれを幾度も食らっているものの、されども腕の鋏を前にしてガードを固め、着実に距離を詰め防護盾の前まで来ることに成功していた。

されども並大抵の攻撃では防護盾を破ることはできない。ジッチョクはどうするのか。

 

〔ジッチョク〕

「この盾は固い。俺の攻撃では、残念だがこれを貫き叩き切ることは出来ないだろう」

 

試しに鋏を突き立てようとしたものの、見事に跳ね返されてしまった。恐らくジッチョク自身の言う通り、クラブマンの力では防護盾を抜くことは出来ないであろう。

されども彼は諦めてはいなかった。一つの方法に固執しても進歩はない。かつて横歩きしか出来ず、悪の組織の怪人との戦いで苦戦した失敗の経験が彼の糧になった。

 

〔ジッチョク〕

「だがしかし、それでも俺はお前に勝てる。何故なら俺は、自分の正義を信じているからだ!」

 

地面に鋏を叩きつけ、砂埃を巻き上げるジッチョク。ハンザはジッチョクを見失い、故に防護盾を自身の周囲に球形のドーム如く張り巡らせた。

 

かつてクラブマンに隙を突かれ敗北した記憶、怪獣化してもなお残るそれが、防護盾を一面だけではなく多面的に展開させることをハンザに要求させた。これで前後左右、また上方からの攻撃に関して、杞憂は無くなった。

 

甘かった。

 

〔ジッチョク〕

「これが俺の蟹穴だー!」

 

地面に穴を掘って下から防護盾の内側に侵入したジッチョクが、ハンザの背中の竪琴、その糸を切断する。

恐らくこれで加護能力類は使えなくなるだろう。

 

〔ハンザ〕

「R-A-H-!」

 

するとハンザは尻尾を振るってジッチョクの首を締め上げてきた。ジッチョクはどうにかしてそれを振り払おうとする。

 

〔ジッチョク〕

「『ハサミ斬り』!」

 

尻尾が切断されるがしかし、神経が独立しているのか、硬直しているのか、尻尾は緩まずに相も変わらず首を締め上げている。もがくジッチョク。

更にそこにハンザが追撃を掛けてくる。噛みついてきたハンザの牙がジッチョクの右腕に食い込み、更に前腕が左腕を押さえつけてきた。ジッチョクは振り払おうとするが、ハンザは組み付いたまま離れず、押し合いが始まった。お互い相手を倒れ伏せさせるために、全身を駆使して体重を掛け合う。

 

……

 

一方ジンライとⅩ、ドッポ、それとマコト、テュロンは、サリュウとカプセルを相手取っていた。

 

〔ドッポ〕

「キュウカソクカイシ!」

 

車両モードに変形したドッポ。その屋根上には巨大化ジンライとⅩが並んで立っており、落下を阻止する支持もなく実に危険走行だ。

されども、今はそれで充分であった。

 

〔ドッポ〕

「ドリフトスピンカイシ!」

 

意図的なスリップ走行を行って回転しながら直進するドッポ。慣性力を得たジンライとⅩは跳躍して離脱する。

 

〔ジンライ、舞〕

「「ダブルドロップキック!」」

 

ジンライとⅩが同時に宙を飛び、ドロップキックを繰り出す。それをサリュウは自身も跳躍すると、ジンライ達よりも高い高度まで昇って、その上でジンライ達以上の速さで降下して未だ滞空中であったジンライに踵落としを繰り出し、更にその反動で宙に浮いて今度はⅩに対して踵落としを決めて、両者を地に叩き落した。

 

〔舞〕

「っがあっ!」

 

強烈な衝撃でⅩの操縦席ではエアバッグが作動し、操縦者達を保護する。幸い機体も操縦者も無事である。されども、生憎戦況は宜しくない。

 

〔舞〕

「ジンライは……!

大変、縮み始めてる!」

 

〔ジンライ〕

「うっ……」

 

舞がジンライを見て焦る。何故ならジンライの巨人化が解け始めてきているからだ。

連戦に次ぐ連戦による心身の疲弊に加えて、今の攻撃の衝撃で意識が朦朧とし、戦意を保てなくなっているのだ。

この状況で戦力が減るのは不味い。されども状況は舞の願いを裏切って、悪化していく。

空中から降り立ったサリュウが、縮んでいくジンライを持ち上げてバックブリーカー掛けたのだ。

 

〔ジンライ〕

「ごがっ!ぐぅぅ……」

 

〔サリュウ〕

「お前を食らえばNSPの力も取り込めそうだ。さあ、私の血肉になれ疾風迅雷。

貴様の遺伝子を私の中で生かし、育て上げてやろう」

 

進化を極めて竜人と化したサリュウは、或いは通常の有性生物のように繁殖に他の生物の遺伝子を取り込む必要はないかもしれないが、されどもそれでも尽きぬ進化への意思か、若しくは生存本能が、ジンライの持つNSPへの適合性を欲して、ジンライの血肉―ジンライの肉体を構成する遺伝子、栄養素、免疫抗体―を屠ろうとしていた。

 

〔舞〕

「生憎そいつはあんたが食べきれるような奴じゃないのよ!

すかしてて、お調子者で、煽てられるとすぐその気になる、どうしようもなくムカつくけど、でも誰かの居場所を守るためにその身を挺して戦って、人を笑わせて、元気にして、常識って器に収まらない、そんな変な奴なんだから、一口でも齧れば即食あたりするわ!」

 

舞は、ジンライの身を守るために必死でⅩを操縦する。

巨大な金属人形が大地に立ち上がり、聳える様は実に勇ましいが、されどもそれだけでは現状をひっくり返すには足りない。

 

〔サリュウ〕

「若いな女子高生。自分の未熟さを恨んでここで朽ち果てろ」

 

ジンライを担いだまま回転を始めるサリュウ。恐らく竜巻を起こしてⅩを吹っ飛ばすつもりだろう。

大地を揺るがしながら螺旋を描いていくサリュウ。その様はまるで巨大な回転刃のようで、触れるものを傷つける悪意が籠っている。

 

〔マコト〕

「いいえ、舞さんもジンライさんも、ここで終わる存在ではありません。

彼女たちには未来を形作っていく役目があるんです」

 

〔テュロン〕

「……」

 

マコトとテュロンが、回転するサリュウにしがみ付きながら踏ん張ってブレーキを掛ける。一人と一体の足を乗せた大地が圧力で軋んで、穿たれ、耕されていく。

 

〔サリュウ〕

「非力だな時空キーパー!地面ごと回してやるぞ!」

 

〔舞〕

「皆で抑え込んでしまえば!」

 

〔デコボコ〕

「私を忘れてないかー!」

 

〔ドッポ〕

「ショウトツシマス!」

 

Ⅹとドッポがサリュウに組み付き、デコボコの異能が地面から柱を幾本も発生させて、マコト達ごと回転運動を妨害する。

 

〔サリュウ〕

「今だウリュウ、やれ!」

 

〔ウリュウinカプセル〕

「……(ブクブクブク……クパァ)コォォー!!」

 

カプセル型怪獣が体表を泡立たせると、中心部に穴が発生し、そこに向かって周囲の空気が強烈な勢いで吸い込まれ始めた。

カプセルはその勢いで宙に浮き、サリュウらの所まで飛んでくると、サリュウごとジンライ達を吸引した。

 

〔マコト〕

「何!?」

 

容積を無視したかのようにジンライ達を吸引したカプセルは、次いでハンザと取っ組み合うジッチョクに向かい、彼とハンザも吸引した。

 

〔アイス〕

「皆!あのカプセルの中で、皆は無事なの!?」

 

自身に向かって飛んでくるカプセルを見ながら、アイスは不安を募らせる。

 

 

  *   *   *

 

 

カプセルの中身は、圧力の地獄であった。

空間に満ちる空気そのものが物質の分子の動きを停止させる為に圧力を発生させているのだ。其処に落ちたが最後、あらゆる物質は凍結し、凝縮されて時を停止させてしまうだろう。

そんな超圧力空間に取り込まれた舞たちは、されどもそれに抗堪していた。

 

〔舞〕

「十六夜さんが咄嗟に炎で機体を包んでガードしたおかげでなんとか完全に凍り付く前に助かったけど、ここは一体……」

 

〔ドッポ〕

「キオンケイソク、ガイキオンマイナス40℃。バナナデクギガウテマス。マアワタシニハツイテイマセンガ」

 

舞達が現在いるのは、大量の透明な泡があちこちに発生した透明な筒状の空間内であった。

光は上から注いでおり、暗くはないものの、泡が光を虹色に反射しており、見通しはさほど良くはない。舞の体感だとざっと見通し200メートル程度といったところだ。

なお試しに泡に触れてみたところ、さほど強度は無いらしく簡単に割れた。そしてかなり軽量であったことから、恐らく何かが浮くための気体を閉じ込める袋なのだろうと推測した。

 

〔マコト〕

「恐らく僕の持っていた冷凍圧縮カプセルの内部でしょう。元の形質を受け継いでいるのならどこかに電池があると思いますが……」

 

〔舞〕

「マコト君無事だったんだ。未来の技術のお陰?」

 

マコトの体にはある秘密があるのだが、この世界の舞はそれを知らない。その為マコトが凍り付かずにいる理由を、未来由来の技術だと推測した。

実際のところ、マコトの肉体にある秘密は未来の技術に由来するため近からずも遠からずといったところであるが。マコトのほうも態々秘密を明かす気が無い為、舞に話を合わせてぼかすことにした。

 

〔マコト〕

「まあそんなところです。テュロンまではカバーできないので今は縮小させて懐に入れています。それより、何処かに逃げたサリュウを探さないと、ジンライさんの身が……」

 

この空間に閉じ込められた際、サリュウがジンライを連れて何処かへ去ったため、舞達はそれを探す必要があった。サリュウの発言的に、彼女はジンライを無事に済ます気はないだろう。

 

〔舞〕

「じゃあ探しましょうか。で、どこに向かえばいいの?」

 

現在舞たちの道は二つ。正面か真後ろかだ。空間に吸引される際に気流でもみくちゃにされたため、どちらが入り口か奥かすらも定かではない。

 

〔マコト〕

「壁や床を壊して外に出れませんかね?」

 

〔舞〕

「そうね。じゃあここの壁を……」

 

Ⅹが横の壁を破壊した瞬間、破壊面から泡が噴出してⅩを押し退けた。

 

〔舞〕

「!駄目ね、壊して進もうとしても、物凄い勢いで再生するみたい」

 

〔マコト〕

「うーん面倒ですねえ。二手に分かれるのは危ないですしね……とりあえず二人一緒に、こっちの方に向かってみましょう」

 

〔舞〕

「分かったわ」

 

斯くして舞とマコト、ドッポ、テュロンによるジンライ探索が始まった。

 

 

  *   *   *

 

 

一方残されたアイスは、仲間を吸引したカプセル型怪獣を倒すべく、戦闘を開始した。

 

〔アイス〕

「みんなを何処へやったの!さっさと戻しなさい!」

 

距離を取りつつ足先から氷礫を怪獣に飛ばして攻撃するアイスだが、カプセル型怪獣は攻撃を受けてもその破壊面から泡を発生させて瞬く間に修復してしまう。

 

〔アイス〕

「遠くからじゃあ駄目ね、危険だけど近づいて戦うしかないか。『キャメルスピン』!」

ファム・グラスは先ほどの吸引を警戒しながら回転攻撃でカプセル型怪獣に接近し、纏った冷気で凍結を試みる。幸いというべきか怪獣の方はそれを無警戒で食らい、表面が凍り付く。

 

怪獣が動きを停止させたのを確認したアイスは、続いて格闘を始める。

 

〔アイス〕

「このっこのっ!」

 

アイスの必死の攻撃はしかし、怪獣よりも寧ろ内部に閉じ込められた舞達のほうに危機を及ぼしていた。

 

ドカーンドカーン!振動する空間。壁や床、天井が振動してそこにいるものを脅かす。

 

〔舞〕

「なんの衝撃!?」

 

〔マコト〕

「恐らく外の誰かが攻撃しているのでしょう。けどまいったな、これじゃあ僕たちも危ないぞ。急いで動力を破壊しないと怪獣諸共僕たちもここで終わってしまいそうです」

 

〔舞〕

「大変、急がないと……ん?これはジッチョク?凍り付いてるわね」

 

舞達が暫く通路を進んでいると、泡で出来た柱の途中にジッチョクが嵌って凍り付いているのが発見できた。

 

〔舞〕

「とりあえず火で炙って……大丈夫ジッチョク?」

 

〔ジッチョク〕

「うーん……舞か?ここは一体?」

 

〔舞〕

「密閉された空間の中よ。多分動力を破壊すれば抜け出せると思うわ。あとジンライとはぐれたの、探すのに協力して」

 

〔ジッチョク〕

「密閉空間だと?だったら俺に任せろ」

 

ジッチョクが壁をぶち抜こうとして、泡に圧し返される。

 

〔ジッチョク〕

「この泡の吹き方、まるで蟹のようだな。今度俺もやってみよう」

 

〔舞〕

「できるの?」

 

〔ジッチョク〕

「多分!何是なら俺は蟹の戦士だからな!」

 

〔舞〕

「そう、頑張りなさい」

 

〔ジッチョク〕

「ところで按摩はどこだ?」

 

〔マコト〕

「マスター・ハンザのことならそこに……」

 

マコトが指さした先には、壁にへばり付いた泡塊に埋まったまま凍り付いた怪獣ハンザの姿があった。その口は大きく開いており、これはジッチョクが何とか剥がした後も再び食らいつこうとしたところでこの空間に吸引され、そのまま凍ったせいだ。

 

〔ジッチョク〕

「『乱れ斬り』!」

 

ジッチョクはハンザの手首と舌を切断した。これでもはやハンザはこの後仮に人間に戻ったとて竪琴のギフテッドを使えないだろうし、他のファーリの信者と言葉を交わすこともできないだろう。

殉教者に成れず、扇動者にもなれず、ただ一介の信者として生きることになるのだ。

故に彼の脳裏には刻み込まれるだろう、これを成したある者の名が。

 

〔ジッチョク〕

「この世の悪を挟み込み!正義の心で切り刻む!バカとハサミは使い様、いい得て妙のクラブマン参上!」

 

今ここに仁川実直という男のもう一つ名、その乗り上げは成った。

 

 

  *  *   *

 

 

〔ジッチョク〕

「行き止まりのようだな」

 

〔舞〕

「この先なの?」

 

〔マコト〕

「いえ、これは蓋みたいですね。一応試しに破壊してみましょうか」

 

斯くしてⅩとジッチョクの二人がかりで蓋の破壊に挑んでみることとなったが。

 

〔舞〕

「駄目ね、ここは硬いわ。全然壊れない」

 

〔マコト〕

「どうやら物質の特性が強化されているようですね。しょうがないですが逆に向かいましょうか」

 

〔舞〕

「逆のほうもこんな感じで頑丈なんじゃあ」

 

〔マコト〕

「底部の方は吸引装置や冷凍圧縮装置など、精密機器の集まりなので、多分脆さは変わらないかと―

 

(ドカーン!)

 

―さあ急ぎましょう、アイスさんが僕たちを巻き込む前に」

 

 

〔舞〕

「余計な時間を掛けたわね、急いで挽回しないと」

 

 

  *   *   *

 

 

反対方向に向かった舞達は、内部構造への入り口と思しき複数の扉が並ぶ壁面まで辿り着いた。

 

〔舞〕

「ここが機械部分への入り口ね。で、どの扉に侵入すればいいの?」

 

〔マコト〕

「確か吸引装置と動力がコードで繋がった構造になっている筈なので、真ん中の大きい扉を進みましょう」

 

〔舞〕

「吸引装置やらが作動したら?」

 

〔マコト〕

「吸引ファンは高速回転する風車です。巻き込まれればまあ大惨事ですね。最も、動力を直接破壊すればこの装置は作動できない筈ですし、動力に直接繋がるここは避けては通れない通路です」

 

〔舞〕

「設計した人間はきっととんでもなろくでなしでしょうね……じゃあ、気合入れて行ってきてね、ジッチョク」

 

〔ジッチョク〕

「えっ俺だけ?」

 

〔舞〕

「吸引装置が作動したら私たちじゃあ成すべもなく引き込まれるし、これは立派な鋏を持つジッチョクにしかできない仕事でしょ?頑張って吸引装置のコードを切断してきてね」

〔ジッチョク〕

「なるほど、大いなる力には大いなる責任と義務が伴うというわけか、任せろ!」

 

ジッチョクが跳躍し、大きな円形の扉を鋏でぶち抜いて内部に侵入する。

 

〔マコト〕

「気を付けてくださいね」

 

 

  *   *   *

 

 

〔ジッチョク〕

「この穴は蟹穴主義に反するほど、俺には大きいな」

 

筒型の通路を進むジッチョクは、舞達に代わって動力コードを切断するために進む。

万が一吸引装置が作動しても踏ん張れるように爪を足元に突き刺しながらゆっくり進む彼は、遂に動力コードを発見した。

 

〔ジッチョク〕

「壁面にあるあれがそうか。天井に無くて助かったな、流石にこの丸い壁を上って天井まで行くのは大変だからな。ふむ、確かに内部に通じる穴が開いているようだ」

 

ジッチョクの言う通り、コードは壁から生えており、生え際には内部構造に通じる穴が開いていた。ただ問題なのは場所で、少し昇って行かないといけない。

そういうわけでジッチョクは丸い坂道を登ってコードの所まで行くことにした。

そして順調に上ってあと少しでコードに鋏が届くという距離まで到達した時、アクシデントは起こった。

 

内部に通じる穴から、突如サリュウが顔を出したのだ。

 

〔サリュウ〕

「お前はあいつの仲間の蟹だな。なるほど生き延びてここまで辿り着いたのか、だが残念だったな、偶々私が様子見に来た所為で行いが無駄になったぞ。おいウリュウ!」

 

〔ウリュウinカプセル〕

「コォォー!」

 

サリュウの指示で吸引装置が作動し、空気の流れがジッチョクを襲う。

 

〔ジッチョク〕

「くっこんなところで妨害が……だが、あと少し昇ればコードに鋏が届くんだ、あと少し踏ん張るんだ俺ェ」

 

〔サリュウ〕

「させるか、落ちろ蟹坊主」

 

穴から左手を出し壁に添えたサリュウが、壁に直接振動を伝播させてジッチョクを振り落とそうとする。

振動で壁から抜けそうになる鋏を、深く押し込んで脱落に抗うジッチョク。

 

〔ジッチョク〕

「俺は今蟹穴主義なんだよ!」

 

荒れ狂う気流に抗って何とか登り切ったジッチョクは、鋏でコードを切断する。すると動力を絶たれたファンが停止し、気流が滞った。

 

〔ジッチョク〕

「よし!」

 

〔サリュウ〕

「よし、じゃないんだ蟹人間!甲殻類なら虫らしく潰れろ!」

 

吸引装置が止められたことを悟ったサリュウは、それを成したジッチョクに苛立ちを込めた衝撃波を放ち、壁から剥がし墜落させた。

 

〔サリュウ〕

「ヘラクレスに踏み潰されるカルキノスのように、ここで蟹味噌を滴らせてしまえ!」

 

穴から飛び降りて降下するサリュウは、咄嗟に回避したジッチョクを踏めずに外したが、着地と同時に足から衝撃を放って地面を砕くことでジッチョクの足運びを不安定にし、続く拳撃にジッチョクを引きずり込んだ。濁流の如く押し寄せる攻撃に抗うためにジッチョクは鋏を振るうが、されども地を踏み揺さぶりながら同時に攻撃や回避を行うサリュウに翻弄されて、上手く捉えることが出来ない。サリュウの動きはヘラクレスというよりは、9つの首を以て獲物を翻弄する蛇の怪物ヒュドラのようだ。

 

〔ジッチョク〕

「枯れ木の巣だかなんだか知らんが、俺は負けるわけにはいかないんだ」

 

〔マコト〕

「カルキノスというのはギリシャ神話に出てくる大蟹のことですよジッチョクさん。下がって下さい」

 

〔サリュウ〕

「ちぃ!」

 

テュロンに跨ったマコトが参入し、サリュウの背後に回り込む。

 

〔マコト〕

「この環境下でも凍らずに済んだとは、一体どういうトリックですかサリュウ」

 

〔サリュウ〕

「凍り付きそうなのを咄嗟に衝撃波を纏って耐えたのさ。最も、そのせいで疾風迅雷を手放して、あいつは氷漬けになってしまったがね。

解凍するまで食えないのが残念だ」

 

〔マコト〕

「なるほど、つまりあなたとウリュウを倒してジンライさんを救出すれば、僕たちはここから抜け出せるというわけですね。

さてサリュウ、いい加減竜の力なんかに頼るのは止めなさい。でなければ、毒蛇を啄むヘラの孔雀の力が、毒事貴女を討伐することになりますよ」

 

〔サリュウ〕

「小賢しい!孔雀の力だと?一体何が出来るのか見せてみろ!」

 

〔マコト〕

「いいえ、貴女はもはや何も目で追うことは出来ない」

 

突如マコトの腕から炎が生じたかと思うと、それが一気に周辺に広がって、光がサリュウの視界を焼き払った。

周囲に広がる炎の霧にされども、サリュウを焼く程の熱量は全く無く、それを以てサリュウはこれが単なる賑やかしだと受け取った。

 

〔サリュウ〕

「なんだこけおどしか?(ザスッ)

 

! ぐっ馬鹿な真正面からの攻撃が全く見えないだと!?」

 

腹部に受けた刺突の痕を見て、サリュウは困惑した。

一見すると多少見通しが悪いだけに見える炎の霧が、マコトの姿をほぼ完全に隠蔽しているらしく、その証拠に真正面からの攻撃に一切気付かなかったのだ。

 

〔ジッチョク〕

「これは、頭角現した俺でも見抜けないな」

 

後方に下がったジッチョクが感想を漏らす。

 

〔サリュウ〕

「蜃気楼か。ならば霧散させればいい」

 

サリュウが衝撃波で炎を掻き消すが、されども暖簾を手で押すかの如く吹っ飛ばしても補充されていき、キリがない。

 

〔マコト〕

「いいえ、プラズマです」

 

多方面から反響するマコトの声。見渡すと周囲にマコトの影が複数出現しており、それが目まぐるしく現れては消えていくのを繰り返している。

 

〔サリュウ〕

「声が反響するだと?それに遍在する像、まさか電磁場を形成したというのか」

 

〔マコト〕

「その通りですよ、この場の中では電磁波や音波はそのスペクトルが攪乱し、物体の実体を捉えることは極めて困難になります。更に」

 

マコトが短刀を構えて突っ込み、サリュウの腕に切りかかると、その瞬間空中放電現象が生じてサリュウにダメージを与えた。

 

〔サリュウ〕

「うおっ!」

 

〔マコト〕

「物質が電荷を帯びることで、物と物の接触による通電現象が起こります。馬鹿みたいに動き回ると、帯電して却って危険ですよ」

 

〔サリュウ〕

「ならばお前だって無事でいられるはずがない!どういう小細工だ?まさか貴様も私たちと同じく……」

 

〔マコト〕

「能力です」

 

事実マコトはプラズマを操作して形成した電荷の中和フィールドを纏っており、自身はプラズマ場の内部を動き回っても影響を受けない。その程度の異能をマコトは保持していた。

なおマコトがサリュウの姿を捉えている理屈については、電磁場の反射を通り抜ける波長の電磁波を特殊な方法で捉えており、それは人間の可視域を外れている為サリュウには気づかれないでいる。

 

左手に金色の羽毛を摘まみながら、時折赤く変色するのを確認しているのを見るに、どうやら金色の羽毛が電磁波のセンサーの機能を果たしているようだ。

そういうわけで現在、マコトはサリュウを一方的に攻撃できていた。

……そのことが、マコトが只の人間ではないことの証でもあったが。

 

〔マコト〕

「(とはいえこの技は体力の消耗が激しい大技、早めに決着を付けないと)」

 

〔サリュウ〕

「能力勝負で私に挑もうなどとな!」

 

サリュウが高速回転を開始し、電磁場を吹っ飛ばす。とはいえそれでもマコト自身を覆う中和フィールドがマコトの姿を可視光から赤外線域まで隠蔽している為、サリュウはマコトを発見出来はしない。

故にそれは虱潰しであった。回転しながら移動するサリュウは、無規則的にジグザグ軌道を描いて、辺り一面を荒らしまわっている。確かにこれならマコトの姿が見えずとも、何れは当たることも可能であろう。

 

〔サリュウ〕

「燃え尽きる前にお前を捕え、貪ってやる!」

 

〔マコト〕

「さて、勝負の分かれ目だ」

 

恐らく次の攻撃で勝敗が決するだろう。次の一撃でマコトがサリュウを仕留められない場合、能力が解除されてサリュウはマコトを捉え、倒してしまうだろうことをマコトは悟っていた。故に次の一撃に全神経を集中させる。

 

〔サリュウ〕

「さあ、お前の能力はどこまで持つ?無二瀬マコト!」

 

気まぐれに、乱暴に、暴虐の限りを尽くす竜の動きを、マコトは心の眼で捉えて隙を探る。タイミングを外せば、マコトの攻撃は回転に弾かれてその効力を発揮しないだろうことを理解しながらも、それでもやり遂げる無謀の意思を括って賭けに出る為に。

 

〔マコト〕

「今だ!」

 

ランダムな軌道を描くサリュウが、進行方向を変えた瞬間にマコトは回転運動に飛び込んで、そして短刀をサリュウの左胸に突き立てた。

 

〔サリュウ〕

「! そこか!」ドンッ!

 

〔マコト〕

「ぐわっ!」

 

されども入りが浅かったか、刃はサリュウの左胸を確かに貫いたものの、刃先が心臓を貫くよりも前で止まったため、サリュウに反撃の機会を許してしまった。

サリュウの左拳撃を鳩尾に食らって吹っ飛ぶマコトは、ダメージの深さで地に倒れ伏した。

 

〔サリュウ〕

「ふ、ふふ……残念だったな時空キーパーズ、あと少し深く踏み込めていれば、私の息の根を止められたものを」

 

〔マコト〕

「くっ……」

 

能力が解除され、姿を現すマコト。恐らくサリュウは、このままマコトに止めを刺しに来るだろう。万事休すか。

 

〔サリュウ〕

「ま、全く、本当に残ね……くっ馬鹿な、私の心音が、止ま……」

 

サリュウは仰向けに倒れ伏し、意識を失った。

 

〔マコト〕

「言ったでしょう、帯電していると。帯電した物と物が触れ合えば、通電するのは道理。

最後の最後で間抜けを晒すなんて、全く以てらしくもない」

 

マコトの能力で帯電したサリュウと短刀が接触した結果、電気の流れが発生した。その生じた電気はサリュウの心臓を麻痺させて、その活動を停滞させた。それがサリュウの敗因であった。

 

意識を失ったサリュウが凍り付いていき、氷のオブジェと化したのを見届けたマコトは、されどもその場に留まることなく、移動を始めた。

ジッチョクの穿った穴を使って壁をよじ登り、動力に繋がる内部空間に侵入したマコトは、先にそこに到達してマコトを待っていた舞から謝罪を受けた。

 

〔舞〕

「ごめんねマコト君、助勢できなくて」

 

〔マコト〕

「いいんです、ジンライさんを助ける為には僕がサリュウの足止めをするのが必要だったんですから」

 

〔舞〕

「十六夜さんがヒーリング掛けるそうよ」

 

Ⅹの左手がマコトの胸に触れると、そこから治癒魔法が生じてマコトの疲労や負傷を治した。

 

〔舞〕

「とりあえずまたジッチョクを先に行かせたけれども、上手く行ってるならそろそろ動力を破壊しているかも。まあ分からないんだけどね」

 

〔マコト〕

「では確認しに行きましょうか舞さん」

 

 

  *   *   *

 

 

〔ジッチョク〕

「やっと来たか。神父in地雷はこの通りカチコチに凍っているぞ」

 

先に動力エリアに到達したジッチョクは、そこで放置されていたジンライを見つけていた。ジッチョクの言う通り、怪獣の能力で凍り付いており、動かない。

 

〔マコト〕

「取り合えずジンライさんは解凍するとして、動力の方は?」

 

〔ジッチョク〕

「動力ってのはこれでいいのか?」

 

先に内部構造を探っていたジッチョクはしかし、マコトのいう動力がどれなのか見当がつかず、とりあえずマコトの助言を求めた。

 

〔マコト〕

「怪獣化するにあたって相当に構造が変化しているようですね。本来なら米粒型ダイヤ電池で動いている筈なんですが、結晶構造が成長して訳の分からないことになっている」

 

〔舞〕

「これってウリュウよね?何、ウリュウが動力ってこと?」

 

マコトの目線の先には、壁にはめ込まれた巨大な結晶の塊があった。凡そ今のジッチョク達ほどの大きさのそれは、形状がポップコーンのように弾けており、また何より妙なのは、ウリュウと一体化していることであった。

いうなれば、ポップコーンの中にウリュウが埋まっている状態なのだが、そのウリュウは胎児のように丸まって眠っている。

 

〔マコト〕

「どうやらエネルギー源としてウリュウを取り込んだようですね。でジッチョクさん、これ壊せますか?」

 

〔ジッチョク〕

「試しに切ろうとしたが駄目だな、全然切れ込みが入れられん」

 

〔舞〕

「ダイヤモンドだしね、刃物には強いか」

 

ダイヤモンドの硬度はモース硬度で等級10程であり、モース硬度は引っ掻き傷や摩擦に対する強度尺度であるが、等級10というのは1から10までで物質の硬度を計るモース硬度の尺度では最高等級に当たる。つまりダイヤモンドは刃物では極めて切りにくい物質だと言えるのだが、それ故にジッチョクの鋏では歯が立たなかったようだ。

 

〔ジッチョク〕

「いや俺の鋏だって人工ダイヤモンドでコーティングしてあるからそこいらのダイヤモンドなら切断できるんだぞ?」

 

〔マコト〕

「恐らく通常のダイヤモンド以上に構造が強化されているようですね。恐らくジッチョクさんの鋏ではカット不可能でしょう。となるとここはやはり……」

 

〔舞〕

「どうするの?」

 

〔マコト〕

「いや燃やして灰にするんですよ、ダイヤモンドは硬度は高くても可燃性のある物質、即ち火で炙れば焼けるんです」

 

〔舞〕

「なるほど、じゃあ早速始めましょうか」

 

斯くして舞とマコトによるダイヤモンドinウリュウ焼却作戦が始まった。

 

〔マコト〕

「燃えろー燃えろー」

 

勢いよく炎を灯すマコトとⅩ。強烈な熱で、ダイヤが灰化していく。

 

〔ウリュウ〕

「うーんここは一体……ってあちちちちち!ちょっあんたら何してんのやめてやめて!」

火でダイヤ部分を焼却することで、囚われていたウリュウは復活したようだ。

 

〔マコト〕

「揺ぎ無き忿怒たる守護者、金剛、不動明王よ、斬釘截鉄、豁然大悟、厭離穢土欣求浄土。

 

ノマク-サラバタタギャテビャク-サラバボッケエビャク-サラバタタラタ-センダマカロシャダ-ケヌギャキギャキ-サラバビギナー-ウーンタラータカーンマン」

 

〔ウリュウ〕

「お経を唱えるなー!」

 

自身を炙る炎を竜化させた右腕から放つ空気振動で消化させながら、こびり付いたダイヤも落としていくウリュウ。やがてダイヤを落とし切ると、壁から零れ落ちた。

 

その瞬間に世界が泡立ち、崩壊していく。

怪獣の内部から抜け出して、外に出たマコト達。周辺には凍り付いたサリュウやハンザもいる。

皆が無事怪獣から抜け出したのを見て、駆け寄るアイス。

 

〔アイス〕

「皆大丈夫だった?」

 

〔マコト〕

「動力を失って怪獣化を維持できなくなったようですね。アイスさん、オメガはどうしてますか?」

 

〔アイス〕

「なんか瞑想しながらエネルギー出してて、こっちはずっと攻撃してたんだけど、全く効いてないし相手にもされなかった」

 

〔マコト〕

「どうやらオメガを倒すには通常の手段では通じないようですね。まあそれはこれから探るとして……そこのウリュウを氷漬けにしていただけますか?」

 

マコトに促されて全裸で立ちすくむウリュウに意識を向けたアイスは、彼女を氷漬けにするべく近づく。

 

〔アイス〕

「三次元の平和はウチが守る!」

 

〔ウリュウ〕

「いや台詞を言う場面!もっとこうあるでしょ盛り上げる使い方が」カチーン

 

ツッコミの甲斐もなくアイスの力でウリュウは氷漬けになった。

斯くして4体の怪獣を撃破したジンライたちは、残ったオメガを倒すための最後の戦いに挑むこととなった。

 

まず、舞達は氷漬けになったジンライを解凍することにした。

因みにジンライの巨大化は解除され、等身大サイズへと戻っている。

 

〔十六夜〕

「炎の魔法と治癒の魔法、二つの力を一つに。神仏習合」

 

二つの魔法を合わせた炎を発生させた十六夜が、ジンライを解凍しながら治癒する。

 

〔ジンライ〕

「うーん……この暖かさ、十六夜か。どうやら全員無事怪獣軍団を倒したようだな」

 

凍結から目覚めたジンライは、仲間が無事揃っていることから、瞬時に状況を理解したようだ。

 

〔ジンライ〕

「オメガの奴は……まだのようだな、オーロラが活気付いている。こっちはいい加減腹が減ってきたんだ、さっさと事態を終息して疾風家に戻りたい。

さて、ひと暴れしてこようか」

 

さっと立ち上がり肩を鳴らすジンライの様子を見て、その元気さに呆れた舞が忠告をする。

 

〔舞〕

「もう巨大化は解除されてるんだからこっちに来なさいよね。光八さんの隣席空いてるわよ」

 

〔ジンライ〕

「超一流ヴィランは空腹のまま無様を晒したりはしない。

 

なあ舞、今日の夕飯は肉じゃがにしてくれないか?お前の作る味噌肉じゃがが食べたい。あと湯豆腐もな」

 

そう言いながらⅩの左足に搭乗するジンライ。巨大化は解除され、戦闘の疲労が蓄積してもなお彼の闘志は尽きず、されどもひょうきんさも失わない。

そんな彼の態度に呆れつつ、故に自身の気合を入れ直した舞はされどもジンライの出すどこか間の抜けた空気にあてられてそのノリに乗ってしまう。

 

〔舞〕

「お調子者ね、言っとくけど肉じゃがが食べたいならあんたは野菜の皮剥きなさいよ。

居候の分際で家事を手伝いなさい」

 

〔アイス〕

「デザートはバニラアイスにしない?スーパーのリットル箱売りのやつ」

 

〔舞〕

「アイスなに言ってるの?」

 

〔ジッチョク〕

「前菜はカニカマと葉野菜のサラダにすると、彩りがいいんじゃないか?」

 

〔デコボコ〕

「ドリンクはウーロン茶にしましょ」

 

〔光八〕

「サラダのドレッシングはオリーブオイルを使うといい。アイスクリームにはハチミツと醤油を付けよう」

 

〔十六夜〕

「じゃあ私はご飯を土鍋で炊きますよ皆さん」

 

〔舞〕

「ちょっと待って、なんで皆で一緒に夕飯取ることになってるの?」

 

〔杏美〕

「まあいいんじゃない?偶には皆で賑やかにご飯を食べるっていうのも、友睦を深めるうえでは大切じゃない?私も色々と奢ってあげるから、今日のところはさっさと戦いを終わらせましょう」

 

〔マコト〕

「なんとも締まらないなあ。でも、闇の存在と戦うには光の力が必要ですからね、これはいい方向に転ぶかもしれない」

 

〔ジンライ〕

「疾風は既に吹き、迅雷は轟いている。ご当地ヒーロー軍団参上!オメガ、貴様の邪な野望は俺様達が打ち砕く!」

 

〔デコボコ〕

「凸凹護身術奥義、私はようやくのぼりはじめたばかりだからなこのはてしなく遠い乙女坂をよ……!」

 

デコボコが打ち切りを仄めかす台詞と共にオメガに続く道を形成し、ジンライ達はそこを通ってオメガに向かって行く。

 

〔オメガ〕

「あれらを退けたか。不完全な光としては良い働きをしたものだ。

 

それ故に惜しいものだな、所詮出来損ないに過ぎぬことが」

 

 

  *   *   *

 

 

オメガにとって悪とは、人間の感覚に置き換えたところの悪臭に近しいものだ。

 

耐え難い悪臭、その発生源たる地球上の生命を排除することは、言ってしまえば衛生上の問題であり、精神の健全なる活動を意味する、要はそういった事情であった。

地球上の生命の放つ生体的なエネルギーは、オメガにとっては存在を許しがたかったというただそれだけのことだ。

 

生き物の生きる権利に干渉することは或いは問題もあろうが、所詮その是非は程度の問題であり、悪を滅することが彼の心の平穏に繋がるのならば彼は容赦なく断行した。

とどのつまりオメガの正義とは独善に基づくものであるが、そんなことがジンライ達の勝利に何らかの形で寄与するかと言えば、そんなことは全く以て違った。

 

圧倒的な力は、時として不条理を他者に押し付ける。結果を言ってしまえば、ジンライ達の攻撃はオメガに有効打を入れるに足りなかったのだ。

 

〔ジンライ〕

「おい全然攻撃が通らんぞ!こいつは無敵のロボット兵器じゃなかったのか!」

 

Ⅹの左足コックピット部にて光八と共にマシンの操作を行うジンライは悪態をついた。

最強戦力であるはずのⅩ、その戦闘力を持ってすらも、オメガを倒すには至っていない。或いはそれはただただ不運、相手が悪かったとしか釈明できないが、そんなことを明らかにしたところで現状を打開するには至らない。

更に、状況の一層の悪さを光八がぶち上げる。

 

〔光八〕

「いけない、戦闘が長引いてエネルギーが残り少なくなってきている。もうあまり戦闘は……!」

 

〔アイス〕

「こっちももう巨大化が解け始めて……もう限界みたい」

 

もはや皆の体力は限界が近かった。

 

〔光八〕

「こうなったら止むを得ない」

 

光八が何かを覚悟し、Ⅹから飛び出した。彼はそのままオメガに飛びついて、力任せにオメガの表皮を突き破って体内に侵入すると、オメガの内側から巨大化を始め、ベアーマンに変身した。

 

〔光八〕

「ベアー!」

 

〔杏美〕

「ベアーマンの正体は光八だったのね!あいつ一体何をする気!?」

 

〔光八〕

「うおお!」

 

光八がオメガを抑え込みながら次元の穴目掛けて走っていく。オメガは内側からベアーマンに突き破かれながらも、軟体状の肉体をベアーマンの肉体に張り付かせて、飲み込むかのように包み込んでいく。

 

〔光八〕

「俺がこいつを抑え込んでいる間に早く次元の穴を塞ぐんだ団長!」

 

〔杏美〕

「あんたはどうすんだ!」

 

〔舞〕

「どうしようジンライ!」

 

〔ジンライ〕

「待て!周りの様子が……」

 

〔マコト〕

「なっ、あれは!」

 

ドカーン!ドカーン!ドカーン!

 

マコト達が目撃したもの、それは、オメガの元に向かうかのように現れた幾多もの怪獣の姿であった。恐らくオメガが発生させたものであろう、不気味な咆哮を上げ、地響きを起こしながらジンライ達に接近してくる怪獣達。ここに来て出現した敵の援軍を確認して、ジンライが冷酷な言葉を発した。

 

〔ジンライ〕

「いずれにしろ俺たちはここから逃げ延びられそうもないな、残念だが」

 

〔舞〕

「嘘でしょ、こんなことって」

 

決定的な敗北条件、絶体絶命のピンチに置かれたジンライたちには絶望しか残されていないのか?

 

〔オメガ〕

「終わりだ悪(ヴィラン)たちよ」

 

〔???〕

「ちょっと待ったー!!」

 

〔舞〕

「!?」

 

〔???〕

「どうやら絶体絶命のピンチみたいじゃない?あたしらが事態を解決するよ

 

『デスボイス・コーラスヴァージョン』!」

 

突如として響き渡る超重低音。それらは発生すると無数に存在する怪獣達をノックアウトし、意識を喪失させた。

 

〔ジンライ〕

「この突き抜けたアホ声は……」

 

〔???〕

「助けに来たわよ疾風迅雷!」

 

ジンライ達が声のした方向を見ると、そこには白亜色の巨大な正方形が宙に浮いていた。その上の面に立つのは、4人。

 

〔舞〕

「あれは『カラーズ・カルテット』!来てくれたの」

 

〔茶色スーツの女戦士〕

「勝利の凱歌を轟かす!『シャウトブラウン』!」

 

シャウトブラウン/茶畑唱(ちゃばたけ うたい)

 

〔紫スーツの女戦士〕

「栄光の姿を世に示す!『メロディーパープル』!」

 

メロディーパープル/涼紫楽(すずむらさき たのし)

 

〔緑スーツの女戦士〕

「輝く未来を書き記す!『リズムグリーン』!」

 

リズムグリーン/新緑奏(しんりょく かなで)

 

〔橙スーツの女戦士〕

「蔓延る悪を叩き伏す!『ビートオレンジ』!」

 

ビートオレンジ/橙谷響(とうや ひびき)

 

〔唱〕

「四人揃って!」

 

〔4人の女戦士〕

「「「「『カラーズ・カルテット』!」」」」ドカーン(爆発音)

 

ジンライ達の前に登場したのは『カラーズ・カルテット』の4人であった。

彼女らはライブステージを設置し、楽器を手に持っている。

更に、彼女らとは別の声も発生する。

彼女らの乗った箱の方から、年老いた男性の声が発生する。

 

〔大二郎〕

「おーい待たせたね皆!」

 

〔舞〕

「お爺ちゃん!そこにいるの!?」

 

唐突に現れた大二郎に驚く舞。

 

〔大二郎〕

「そんなことより、そいつを倒さないといけないんだろう。

だったら皆一旦ここに来るんだ」

 

箱型の物体が着陸し、オメガを抑え込んでいる光八以外の全員がそれに近づくと、その箱の正面の面が扉のように上下に割れて開き、中に入るように唆される。

箱は巨大であり、巨大ロボであるⅩもなんとか中に入ることが出来た。箱の奥には区切りとなる壁があり、更にその奥には操縦席が備わった部屋が存在していて、一旦Ⅹから降りたジンライ達はそこに行った。

 

操縦席には大二郎が座っており、スイッチやレバーを操作してこの箱型の物体を制御していた。

 

〔舞〕

「一体全体これはなんなのお爺ちゃん?」

 

〔大二郎〕

「分からない」

 

〔舞〕

「はぁッ!?」

 

〔大二郎〕

「カラーズ・カルテットがソウダイ同盟の移動要塞を攻略しにかかったのは知っているね」

 

〔ジンライ〕

「いや初耳だが?この騒動の中どこにいたのかと思えばそんなことしていたのか。

というか同行していたのか」

 

 

〔大二郎〕

「いやあちょっとコンビニに行ってくる途中で、乗ってた移動用ドローンの制御が狂ってうっかりかちこみしちゃって。決戦中みたいで助かったよ」

 

〔唱〕

「必殺技の最中にいきなり飛び入ってくるからビックリしたわ。お陰でバンク画使えなかったし」

 

〔マコト〕

「バンク画って」

 

〔大二郎〕

「それで、これはその中から発見したものだが、よく分からない代物でね、何やら厳重なロックが掛けられていたようだけど、脱出するのに丁度いいから使わせて頂いたんだ。

なにせ脱出に使うはずだったバンとドローンが彼らのレッカーに持ち運ばれてしまったからね」

 

〔ジッチョク〕

「とどのつまり泥棒では?」

 

〔大二郎〕

「それで色々動かしていくと、飛行能力があることが分かってそれでここまで来たというわけだ。どうやら何らかの防御機構のお陰で異常な電磁波の影響も弾いてくれているらしい。

それよりも、あの巨人が倒せなくて手を焼いているんだろう?任せてほしい、丁度撃退に使えそうな機能を備えているから。

しかしそのためには、ここにいるみんなの力が必要だ」

 

〔舞〕

「どうするの?」

 

〔唱〕

「私たちがステージを盛り上げていくから、皆はそれに合わせて歌って頂戴。

あの危険そうな異次元人に、私たちの熱いビートを叩き込んでやるのよ」

 

〔ジンライ〕

「なに、よくわからんぞ?」

 

〔デコボコ〕

「取り合えず歌えばいいのね?ピンときたわ!始めましょう」

 

ジンライ達は箱の上面までエレベーターで移動する。

到着すると早速唱たちが早速演奏を開始した。

 

〔唱〕

「じゃあ行くわよ。最初の曲は私たちのデビュー曲『暑苦しい、鬱陶しい、騒々しい友達』!」

 

〔ジンライ〕

「いきなりか……しょうがない、付き合ってやる」

 

斯くしてカラーズ・カルテット主導のゲリラライブが始まった。

ジンライ達は、唱たちの先導に合わせて後から歌詞を紡いでいく。生憎そこまで覚えにくくない曲ではなく、また曲調も落ち着いてゆったりとしていたため皆音ズレ無く合唱していく。

また、それと同時に箱型の物体も浮上を開始し、高度を上げていく。

 

〔唱〕

「イイね。じゃあ次はこの曲、『カルテット躍動』!」

 

次は少しアップテンポの曲だ。合唱難易度は先ほどより少し上がり、されどももたつくほどでもない。

曲が終わるころには箱も上昇を追え、高度を一定に保った。息苦しさがさほどない程度の気圧がまだ高い高度である。

 

〔唱〕

「暖まってきたわ。じゃあ行くわよ、『五色の力』!」

 

この曲が演奏された瞬間、ジンライ達は戸惑った。なにせこの曲はアップテンポなわりに歌詞一節あたりが先ほどまでと比べてやたらと長い上、難解な言いまわしや日本語ではなさそうな何らかの語が混ぜこぜになっていたからだ。

更に裏声などを要求される場面もあって、それで皆曲に翻弄されしどろもどろになり、一番が終わり間奏に入ったところで苦言を呈する。

 

〔ジンライ〕

「なんだこの曲は全く追走できんぞ。特に序盤のラップパート、あれは一体なんだ」

 

〔アイス〕

「結構歌うの難しいね」

 

〔唱〕

「この程度で弱音吐いてられないわ。2番行くよ!」

 

2番に入っても問題は解決せず、寧ろより増える。なにせ2番は一番の曲と同じテンポに加えて、新しいパートまで追加されたからだ。

 

〔ジッチョク〕

「そ誌マうぇジォBWUな須ら子……ぶべらっ!」

 

〔アイス〕

「これは舌かんじゃうし」

 

〔ジンライ〕

「フフフンフフフンフフフンフンソイヤ」

 

〔舞〕

「あんたそれほぼ鼻歌じゃない。ずるいっ」

 

〔唱〕

「ストーップ!みんなバラバラね、最初から仕切り直しよ」

 

〔楽〕

「唱さん、何故貴女が仕切っているのかしら!」

 

〔響〕

「ここはやはり僕が皆を先導して」

 

〔奏〕

「船頭多くして船山に登ってんなあこりゃ!まあ山登るどころか空飛んでんだけどよ」

 

揉め始めたカラーズカルテット達を見て、ジンライが宥めに入る。

 

〔ジンライ〕

「まあ待てカラーズ・カルテット、ここは言い出しっぺのブラウンが場を仕切ってみろ。

歌自体は下手でも、お前の歌には他人を引っ張る力がある。今回はそれに乗っかろう」

 

〔舞〕

「今は味方同士で争っている場合じゃないわ。そりゃあ方向性の違いで行き先を違えることはあるしそれは仕方がないけれど、でもそれでも集ったのが仲間っていうものなんじゃないですか?」

 

〔唱〕

「いいえ、私たちの目的地は伝説で繋がっているのよ、今ね!」

 

ギュイーンとギターの音が鳴り響く。

 

〔楽〕

「伝説は伝統を説いてこそ!」

 

ドララと弾けるドラム。

 

〔響〕

「説(よろこば)しさは風のように伝わるもの!」

 

ベンベンと空気を震わせるのはベース。

 

〔奏〕

「伝わる物語を説い正して!」

 

〔唱〕

「今こそ伝説が生まれるよ! もう一度『五色の力』を!」

 

演奏が始まり、唱が皆を先導する。

 

〔唱〕

「まずはラップパート!今度はゆっくり行くよ!」

 

先ほどよりスローテンポで曲が演奏され、歌もそれに合わせてゆっくりと進められる。お陰で皆曲についていけるようになった。

 

〔唱〕

「裏声も、今度は低めで」

 

高音の裏声パートも、今度は低めで喉に負担がかからないように変化する。これもまた歌いやすくなったため皆ついていける。

 

〔唱〕

「みんないいよ!その調子で突き進もう。次はこう」

 

何より、唱が先だって手本を見せ、皆を誘導しているためジンライ達は方向性を見失うことなく突き進むことが出来た。

 

〔唱〕

「ラストパート……みんなお疲れ様。すっごく良かったよ」

 

無事歌い終わったジンライ達に、唱が賞賛の言葉をかけて雰囲気を良くする。

 

〔ジンライ〕

「ところで何故俺たちは歌う必要があるんだ大二郎。一体何をしている?」

 

いつの間にかエレベーターで上面に上がってきた大二郎に、ジンライが詰め寄る。

 

〔大二郎〕

「僕たちはこれを孵化させないといけない」

 

大二郎がジンライ達の前に出したのは、片手のひらに収まる程度の小さな白い卵であった。

 

〔大二郎〕

「この中にいる生き物は、かなり濃密な高次元のエネルギーを保持しているらしい。これを解き放てば、別次元の生命体にも恐らくダメージを与えられると思う。

しかし、これを開放するためには硬い殻を共振現象で破壊する必要があるのだけど、それには様々な周波の音波で刺激しないといけない。即ち歌の力が必要なわけだよ」

 

〔ジンライ〕

「それで、あとどれくらい続ければいいんだ?」

 

〔大二郎〕

「そうだね、あと一曲分くらいかな?まあカラオケ大会だと思って続けてほしい」

 

〔唱〕

「じゃあ次が最後の曲、『心からのシャウト』!」

 

〔ジンライ〕

「畳みかけてやる」

 

伝説を生む最後の曲が始まる。

これまでで形作られてきた場の熱い空気の中で、ジンライ達は気持ちを高ぶらせて歌う。『心からのシャウト』は最初アカペラ・バラード調の静かなメロディラインで始まるが、途中からはオペラ的なコーラスパートを含んだり、ハードロック的な力強い歌声が求められる壮大な曲だ。ある種の狂騒曲と言っても良いだろう。

 

狂気に錯乱し、騒がしく、鬱陶しく、暑苦しくも、躍動する生命の力、心の叫びを体現したかのような曲に、大二郎の持つ卵が反応する。

 

〔大二郎〕

「おお、孵化するよ」

 

殻を突き破って現れたのは立体的な影としか言いようのない黒い鳥状の物体であった。カラスに似ているといってもよいが、カラスよりもなお濃い黒であり、輪郭がおぼつかない。

 

その黒い鳥は一直線にオメガに向かって行くと、彼の腹部を鋭い嘴で一突きした。

それは一見啄木鳥が現代の鉄筋コンクリートのビルの外壁を突くが如き珍妙さを醸し出していたが、意外というべきかオメガの反応はかなり切迫したものが出てきた。

 

〔オメガ〕

「むうっ濃密な高次元のエネルギーが。ここは一旦引くか」

 

そう語ると、オメガはこれまでの暴虐武人ぶりが嘘であるかのように次元の抜け穴の奥深くへと引っ込んでいき、黒い鳥はそれを追いかけて行った。

 

〔アイス〕

「去ったみたいだね」

 

〔ジッチョク〕

「厄介な敵だったな。まるで霧や泡立てだてで固まっていないメレンゲに刃を立てるような掴みどころのなさ、もし博士が現れてくれなかったら俺たちは負けていた」

 

〔マコト〕

「さて、あれがまだ戻ってこない間にさっさとあの抜け穴を塞いでしまいましょう」

 

ジンライ達はⅩに乗り込むと、高度を下げて地面に近づいた箱から出て、抜け穴に近づいた。穴の前では、先ほどまでオメガを抑えていたベア―マンが疲れを感じさせぬ堂々とした佇まいで立っており、近づいてきたⅩの前で天高く垂直飛びすると、普段の人間体姿の光八に戻って、両掌で受け皿を作ったⅩの掌に着地し収まった。

 

〔ジンライ〕

「大丈夫かベアーマン」

 

怪鳥モードになってベアーマンに近づいたジンライが、光八に声を掛ける。そうしながら、ジンライは光八を抱きかかえると、左足へと戻った。

 

〔光八〕

「心配をかけたな疾風迅雷。しかし多分大丈夫だ。体の調子も、これからの処遇も」

 

皆を助ける為についに杏美に正体を明かした光八はしかし、憑き物持たないすっきりした様子で少年の質問に答える。実際もう、彼は大丈夫だろう。

肉体を巨大化させる体質も、ベアーマンという使命も、彼を構成する正常な要素だ。そのことがPACATFで活動する上でのハンデになることは、もはやない。

彼は自分の戦いを勝ちぬいて、生き残ったのだ。

 

〔ジンライ〕

「そうか、ではやっとのことだが、この厄介な次元の抜け穴を閉じるぞ。

やってくれるな舞」

 

ジンライの半ば命令ともとれる強気な口調に、舞は少しはねっかえりな態度を表して答える。

 

〔舞〕

「あんたに言われなくても、私は動けるんだから。見てなさいよ」

 

舞の操作でⅩは次元の抜け穴に両手から放つ次元修正のエネルギーを当てて、まるで掴むかのように穴の端と端を保持し、閉めた。

すると、これまで空を追い追っていた奇怪なオーロラは忽然と姿を消し、空は元の自然通りの青空を取り戻した。冬の北海道に出現した快晴なる群青の空が、正義のヒーローたちを温かく迎える。もはや空は閉ざされてはいなかった。

 

〔ジンライ〕

「とりあえず今回の事態はこれで終息したとみていいのか?ただ、ハンザやウリュウが言っていたことが気になるな」

 

ジンライは事態の解決に安堵しながらも、今回の事態に関わりのあるらしき謎の存在、『彼』ことマンティコアなる男のことを気に掛けた。

 

〔ジンライ〕

「結局姿を現さなかったらしいな、そのマンティコアやらは。だが油断はできないぞ、そいつはこういった事態を起こせるのだ、或いは既に別の事態も起こっているかもしれん。一層戦力を充実させねば」

 

ジンライが今後のことに考えを及ばせているころ、舞の方はというと今回の件を終わらせた解放感から、息を付かせていた。

 

〔舞〕

「はぁ、大変だったなあ。ねえこれでもう今回の件は解決したのお爺ちゃん?

 

あれっ返事がないなあ」

 

舞は無線で大二郎に連絡を取ったものの、反応がない。オーロラの影響でまだ無線が使えないのだろうか?

 

〔舞〕

「お爺ちゃーん?」

 

〔大二郎〕

「……っと、おお舞、どうやら通信が回復したようだよ。北海道各地からの電波が確認できる。

それで今、あちこちと連絡を取っていたところでね、幸いどこも深刻な被害というものは出ていないようだ。一先ず函館に帰ろうか」

 

〔舞〕

「ああそうなんだ。ふぅ、なんとかなったみたいで良かったなー。

でも、これから皆でご飯の準備か。騒がしいことになりそうね」

 

気疲れを発露してロボットスーツに身を預ける舞は、今しばらく訪れないだろう安息を待ちわびた。

 

〔ジッチョク〕

「正義は勝つ!勝利のVサインだ!」

 

〔アイス〕

「あんなのが出てくるなんて、やっぱり次元というのは広いなあ」

 

〔マコト〕

「ラケーシュを二人確保したし、未来に戻る準備を始めますか」

 

〔唱〕

「次のライブに向けた練習に励まないとね」

 

〔十六夜〕

「悪がまだまだ蔓延っている。迎え撃たなければ」

 

〔光八〕

「仲間の試合が近いし、訓練を支えないと」

 

今回の事態はヒーロー達に試練を与えたが、彼らは無事乗り切った。きっと成長しているだろう。

そしてその成長は、彼らが明日以降の世界を生き、支えるための大事な要素になるに違いない。お疲れ様ヒーロー。ありがとうヒーロー。君たちは人々のヒーローだ。

 

そんな彼らの様子を見つめる瞳があった。

 

それは鏃のような形をした飛行物体に備わった器官であった。恐らく眼球のような構造であろうそれは、瞳孔を閉じたり広げたりして、何かに焦点を合わせていた。

恐らくそれはヒーロー達に対する観察行為だったのだろうが、だがしかし厄介なことに、そいつは人間以上の自身の体格全てを光学的、電子的に欺瞞し隠蔽しており、即ち発見は困難であった。

 

事実ヒーロー達はそいつにずっと見られているにも関わらず、その事象にも存在にも気付くことは無い様子である。即ち飛行物体はその目的の為に、何処かの何者かの手によって作られ、機能を盛り込まれて、そして使われて役目を果たしているというわけである。

 

そしてヒーロー達を観察しているそれは、偵察だけでは飽き足らず、その情報を遠く離れた何処かの何者かに送信していた。

 

一体何が起こっているのだろうか?

 

  *   *   *

 

 

【???荒野???】

 

砂ばかりが広がる砂漠と形容できる荒野の上を、銀色の球形ロボットが浮遊している。

それは立体映像を空中に投影しているのだが、内容は今しがた戦闘を終わらせたばかりのジンライ達の現在の様子を映しているものだ。

そしてそれを見ているのは謎の男だった。

 

〔???〕

「おめでとう疾風迅雷さん。いや『ジンライ』さん。君はやっぱりヒーローです。

銀河系で超一流のヴィランとして名を馳せている貴方が、地球ではヒーローに転向していること、私は喜ばしく思っていますよ。

 

かつて星の光を飲み干した漆黒のスーツが黄色い残飯のスープの様に色褪せ、堅硬な宇宙要塞を陥落させた冷徹な誇りが冷めた熱狂で溶けて、幾多もの種族から立てられた立派な悪意の政治宣伝が宇宙の真空内の喧騒と化そうがね。

 

そう、天上天下唯汝独瞋(ゆいじょどくしん)、いずれ全宇宙からの憎悪を一身に集める貴方だからこそ、この只一時あるだけの、ヒーローショーという『茶番劇』の珍妙さが甚だ滑稽で堪らない。

 

分かりますかね?」

 

暗闇の中にひっそりと佇む男がそう呟く。さて、何故そいつが男なのかというと、声は低いし胴体は女性のようなふくらみや丸みを欠き、固く尖りのある特徴があったからだ。

 

男であろうそいつは地球人とはかけ離れた肉体的要素から成っていた。まずは腕。そいつの腕は赤い毛で被われており、その赤の質は鉱石の辰砂のようだ。腕の先端には5本指のついた手があるが、その掌には肉球があって、指先から生える爪は鉤状で、曲がっている上先端は鋭く尖っている。

 

足もまた同様であり、足は腕よりも太く長い。その足の付け根たる臀部には、細長い尻尾が生えており、或いはそれは鞭のようにしなやかである。

 

胴体には余分な脂肪や筋肉はなく、かといって痩せすぎというほどでもない中肉中背の体形。そしてその胴体から首を通して繋がった頭は、若干赤みを帯びているものの、地球人の、特に黄色人種に近いそれであった。若干掘りは深いが白人というほどではなく、鼻も鋭くはない。なお通常耳がある位置は赤みを帯びた髪の毛で隠され、代わりに頭頂部に猫のそれに似た耳が付いている。果たしてそれが飾りなのか本当に耳になっているのかは分からない。概括するならば、男は猫人間とでもいうべき姿形をしているのだ。

 

その猫男の背中には、蠍の入れ墨が彫ってあった。金色の反射をするそれは、もしかしたら金を使っているのかもしれない。またそれだけではなく、肩に触れそうで触れない程度に伸びた髪の先端には一見すると蠅のようにも見える小さな金色の髑髏が噛みついている。そうした点を鑑みると、恐らく彼は金が好きなのではないだろうか。

 

さてそんな彼は、側を浮遊する銀色の丸いポッド型ロボットに語り掛けるように呟いた。ロボットの方は男の言葉を理解しているのかいないのか不明だが、特に返答はしない。或いは男の言葉は独り言なのかもしれない。恐らく退屈というものが嫌いで騒がしいことが好きな性格なのではないだろうか。

そして男の喋りはなお続く。

 

〔謎の男〕

「Ridicolo(滑稽です)!人はここまで落ちぶれられるのですか。皇帝の子、次期の皇帝、遺伝学上の必然、選別されたエリート戦士。そんな人間がいとも容易く堕落していく様は何とも香ばしく情欲をそそるものですね。

 

否、堕落というのは語弊、そもそもが落ちるだけの高度を生まれつき持っていなかったのだ。霊長たるものの高貴さは、堕落した生活の伝承で遺伝子ごと欠落し、身に着けた技術は介護ありきの作り物。他者に向けた心掛けは社会階級上の傲慢で、そして生物としての欲求は……自覚の感覚が欠如したハンデを背負っている!

 

嗚呼、星よ、天体よ、何故彼に何も与えなんだのだ。彼は余りに無垢であり、汚れ云うもの吸わずに育った。そんな純粋培養の畜産物を、何故地球などという宇宙の掃き溜めに遣わしなさったのか。そんな、そんな、そんな残酷で、冷徹で、淡泊なほどに無関心な、そんな天罰、運命、星巡りの運動法則は……

 

私にとって好都合ですよあーっはっはっはっは!!!!」

 

男は砂漠の中で大声を上張りげて笑った。その砂漠は垂直の空に宇宙空間が広がり、されども水平には山も谷も、凡その人工物と呼べるものすらも存在せずただ砂と、それで形成される隆起と陥没のみがある荒野である。

そんな場所で男は、砂に体を浸からせて余韻に浸っていた。なんとも豪勢な話である。

 

〔???〕

「こんなところで何をしているのですか」

 

と、男の前に別の人間が現れる。その人間は宇宙服を着ており、下の姿は不明であるが、少なくとも人間型から大きく離れた姿形ではなさそうである。

声色からして、恐らく男である。掠れのないまだ若い、されども少年という域は越えた大人の男。

 

〔赤猫男〕

「ああ君ですか、サルヴォ・アノアンツマーレ君」

 

サルヴォと呼ばれた男は、赤猫男に対し追及をする。

 

〔サルヴォ〕

「居ないから探してみれば、こんなところから位置信号がするから来たのです。これから忙しくなる時にこんなところで油を売っていいとでも?」

 

〔赤猫男〕

「何事もリラックスが大切ですからねえ、繁忙期の前であればなおのこと。そういうわけで私は暫くこの砂風呂でゆっくりと沐浴させて頂きます」

 

砂に寛いだ様子で浸かる赤猫男を見て、サルヴォは眉を引きつかせる。

 

〔サルヴォ〕

「ふざけないで頂きたい。大体ここは真空空間です。ゆっくりと寛ぐような場所ではありません」

 

〔赤猫男〕

「真空など、私にとっては海水の中とそう変わるものではありません。精々水分子かヒッグス場かといった違いですよ」

 

〔サルヴォ〕

「なんて無茶苦茶な。真っ当な生物ではあり得ない」

 

軽く引き気味のサルヴォに突っ込まれた赤猫男は、されどもそれを可笑しいとばかりにアハハと前置きの笑いを吐きながら、次のように述べた。

 

〔赤猫男〕

「世の中普通ばかり溢れていたらつまらないでしょう。私が愛しているのは、狂気の中で輝く平凡であって、平凡に埋もれた平凡には何ら見出すべき輝きを感じません。まあ、君くらいなら合格点ですかね」

 

そう言って―何故か宇宙空間で普通に会話する―赤猫男は苛立つサルヴォを気にすることなく垂直跳躍すると、落下して砂の中に飛び込んだ。

 

〔サルヴォ〕

「碌な重力もない小惑星上で、慣性を無視した軌道をするとは、つくづく化け物めいている……」

 

サルヴォの言う通り、赤猫男がいる場所は小惑星の上であった。

大きさは軽く見積もっても直径10キロメートル程度はあり、それは地球上の大抵の建造物よりも巨大ではあり、かつて地球の白亜紀末に落下して恐竜の大量絶滅を引き起こしたとされるチクシュルーブ・クレーターの隕石にも匹敵しようというものであったが、地球の衛生たる月が直径で地球の4分の一あって重力も6分の一ほどだということを考慮すると、石ころとしか言えない程度である。

 

当然重力などほぼ存在しないに等しく、重力によって維持される大気の膜などというものもない。真空、無重力の生物の生存に適さぬ環境の場所であるそこに、赤猫男とサルヴォはいるのだ。そのことにサルヴォはぞっとしている。生存が宇宙服に依存する環境下において、万が一それが破損などしたら自分の命が無くなることを理解している故に。

 

そして、赤猫男に関してはそんな自身の常識が通用せぬ奇怪さがあり、飄々とした態度も相まって自身の癪に障られているということにも。

 

或いはもしかすれば、凡そふざけた生態をしているこの赤猫男も、ひょっとしたら頭に握りこぶし大の石ころが当たれば気の一つでも喪失するのではないかという疑惑がサルヴォの心中にはあって、この自身と赤猫男、他にはロボットしかいない場所でならそれを試したところで咎める余所者はいないというのも相まって、今すぐこいつを始末しろという自信と同じ姿をする見えない悪魔の囁き声に身を任せてしまおうかとサルヴォはふと考えた。丁度足元に、握り拳大の石が転がっていたのもその思考に拍車をかけた。

 

サルヴォは石ころを拾って赤猫男目掛けて投げた。石ころは頭を砂中に埋めている赤猫男が露出していた尻に当たって、跳ねて、小惑星の重力に囚われることなくそのまま頭上の宇宙空間に飛び出していった。

 

〔赤猫男〕

「今何かしました?尻に固いものが当たった気がするのですが」

 

〔サルヴォ〕

「いいえ、宇宙塵じゃあないですか?なにせここは小惑星帯ですし」

 

惑星の質量によって物質が滞留する小惑星帯には、眼鏡のネジ程度の些細な塵から天体クラスの小惑星まで様々なものが漂う。確かに小惑星上に何かが衝突することも日常茶飯事だろう。或いはそれが例え人為のそれであってもだ。

 

〔赤猫男〕

「なるほど、そういうことにしてあげましょう」

 

或いは恐らく赤猫男は石を投げたのがサルヴォであろうことは気付いたのかもしれないが、そんなことを気に留めずにおかしそうに笑って流した。きっと友達同士の悪ふざけ程度に認識しているのであろうが、だがサルヴォの方には赤猫男に対する友情は無かったため、サルヴォの神経は逆撫でされた。

 

〔赤猫男〕

「ところで『女王陛下』のご機嫌はいかなる様子でしょうか?私は彼女が今回の件を快諾したことを喜ばしく思っておりますが、果たして彼女の心中は如何なるものなのでしょうかねえ。家臣たる立場の貴方からご意見を伺っても?」

 

『女王陛下』という単語に強く反応したサルヴォは、気を引き締めて答弁した。

 

〔サルヴォ〕

「陛下は聡明なる君主であり、今回の件もまた聡明なる判断を下された故です。

かつての戦いの時と同じく、気高き大君の御心は太陽の様に眩く熱いのみ。

如何な状況にも曇ることはないのです」

 

サルヴォの弁に、赤猫男は興味津々といった様子で聞き入っていた。

 

〔赤猫男〕

「太陽とは大きく出たものですね。さて、ではその太陽を謁見させて頂きましょうか」

 

パチン、と赤猫男が指を鳴らす。すると小惑星に停泊していた長さ12メートル、幅4メートルほどの大きさの宇宙ヨット―見た目はほぼ地球のヨットと同じだが後部にロケットエンジンが付いている-が赤猫男の元にひとりでにかっとんできて、それに乗り込んだ赤猫男はサルヴォを置いてけぼりにするかのように出航した。

 

〔サルヴォ〕

「スーケット・シー、あの放浪者はっ!」

 

赤猫男をスーケットと呼んだサルヴォもまた自身の宇宙ロケットー大きさは赤猫男のヨットとさほど変わらないが、形状は潜水艦に似る―に乗り込むと、赤猫男の後に続く様に出航する。

 

2隻の宇宙船は凄まじい速度で至近にあった木星を掠めていくと、木星の輪の内側一層目たるハロ環に到達した。

 

ハロ環はそれ自体が巨大な円であり、宇宙を漂う微小な物質同士が木星や物質同士の重力の影響で集積してそれを形成しているのであるが、その中に奇怪な空白が生じていた。

 

真っ黒な円とそれを取り巻く白い渦巻き状のそれは、自律的に渦を発生しており、周囲の物質を攪乱している。真空中であっても風が発生しているようである。その正体は次元の抜け穴たるワープホールであり、しかもそれは自然発生したものではなく、人工的に作られたものらしい。

 

というのも台風の中にはワープホールを発生させているであろうモカコーヒー色の巨大な櫂型の機械が、気流にもみくちゃにされながらもその場に留まっているのが見えるからだ。なおその櫂は赤猫男らの小惑星にも匹敵する大きさで、それらが10機程で直径数百キロ規模の円陣を形成するように配置されている。

 

〔スーケット〕

「そろそろ時間ですね」

 

スーケットが時間を確認すると、ワープホールから青色の巨大な球が出現した。

直径数百キロの、ワープホールより若干小さい程度の巨大な青い球。

惑星にも似たそれは、青は液体の色であり、上下の極に白い大陸の浮上部がある。その浮上部には巨大なロケットエンジンがあって、それで宇宙空間内を移動できるようだ。

 

〔スーケット〕

「女王陛下のご来訪だ」

 

スーケットのヨットはミニマム惑星の海上に落着水すると、そのまま潜航してやがて海底にある港に入った。港は海底都市といった風体のガラスドームの人工施設であり、内部には空気があるらしい。

 

ヨットをその中に停泊させたスーケットがヨットから降りるどうやら彼はヨット内で着替えていたようで、鳥の羽のついた緑色のベレー帽と、黄豹柄のマント、それに黒いシャツとその上の白いベストに、白ズボン、そしてピンク色のブーツという組み合わせの着飾りをしていた。

 

スーケットは港内のエレベーターに乗り込むと、『オペラハウス』まで移動した。

オペラハウスはまるで地球のヨーロッパにあるオペラハウスまんまの内装である。

 

〔スーケット〕

「スーケット・シー、入ります」

 

スーケットはオペラハウスの内部に入ると幕の下りた舞台の前まで赴き、そこで片膝を付いて傅いた。

舞台の幕が上がって、隠された王室が解放される。

舞台の真ん中に備え付けられた玉座に悠然と腰掛けるのは、青白い地肌をした、赤いドレス姿の高貴な雰囲気の女性であった。彼女は自らに傅くスーケットを一瞥して声を掛ける。

 

〔高貴な女性〕

「何用かスーケット」

 

女性はスーケットを淡々とした声色で問いかける。その言葉のみを切り出すと、生気感じさせぬ青白い肌も相まってまるで生気のない死者の言葉のようにも感じられるかもしれない。されども彼女の緋色の双眸がガスランプのように輝いて、紅色の長髪が溶鉱炉の融解鉄のように煌めいているのを目にすれば、決して彼女が動く遺骸などではないことが伺えた。

 

〔スーケット〕

「麗しき陛下にご報告申し上げます。私の仲間がかの者が現地に留まっていることを確認いたしました。それと、周辺宙域でのかの帝国の動きがないことも確認済みです」

 

高貴な女性はスーケットの報告にも一切動じることなく、淡々と答える。

 

〔高貴な女性〕

「そうか、では計画通りに事を進められるということで宜しいのだな」

 

〔スーケット〕

「はい、事前の計画に変更なく遂行できます」

 

なにやらスーケットと高貴な女性との間には、何らかの計画による繋がりがあるようである。

 

〔高貴な女性〕

「よしなに取り計らえ」

 

〔スーケット〕

「はっ、仰せのままに。陛下の御心のままに」

 

スーケットはそう述べると、その場から立ち去った。

 

〔高貴な女性〕

「……帝国の皇子、ジンライか。

スーケット、奴はどの程度計画通りことを進めてくれるだろうな。

精々、私の機嫌を損ねてくれるなよ」

 

高貴な女性は淡々とした口調で独り言を呟く。

 

 

  *   *   *

 

 

【???暗闇???】

 

 

〔スーケット〕

「フフ、ついにこの時が来ましたよ。

ジンライ、それとついでに時空キーパー。よくもまあラケーシュのウリュウ、サリュウ、ファーリのドクターハンザ、それと異次元人オメガを倒してくれましたねえ、私の『計画通り』に。

貴方方に恨みはありませんが、だからこそ都合がいい。精々地球の平和でも守っていなさい、気が付いた時には全てが手遅れになりますから。

そう、ラケーシュの連中あたりからは『マンティコア』なんて呼ばれて恐れられている、この『私』に狙われてしまったんですからねえ。

ハッハッハ」

 

そういうとスーケット―マンティコア―は、宇宙の深淵の中へと姿を消していった。

一体彼は何者なのだろうか?ジンライとマコトに何をするつもりなのだろうか。そして地球はどうなるのか。

ヒーローたちの新しい戦いの物語は、彼らの知らぬ闇の中でひっそりと動き出していた。

そうそう物語と言えば、とあるところには物語を作るある若者たちがいるのだが、その人物らの様子を一度伺ってみよう。

 

 

  *   *   *

 

 

【とある若者たちの職場】

 

家の中としか言いようのない場所には、デスクや本棚が設置されている。

デスクの上には漫画の描かれた紙やパソコン、それに絵を描くためのペンや線引きインクなど道具一式が種々揃っている。

恐らく漫画家の職場なのだろう。

そんな職場には、端正な身なり風貌の成年男子が4人も会同し、華やかさが醸し出ている。

そんな中、パソコン画面を覗いていた青髪短髪男子が見ていた何かに反応する。

 

〔若者1 青髪短髪男子〕

「電波障害収まったってー」

 

その言葉を聞いた他の男子は、ふうと肩を撫で下ろして安心だという様子を見せる。

 

〔若者2 朱髪男子〕

「これでやっと今週の原稿をネットで送れるね」

 

〔若者3 白髪男子〕

「俺たちの物語を待っているファンたちのためにも、休載するわけにはいかないからな」

〔若者4 黒髪の筋肉質な男子〕

「うん。でもところで俺たち、何かを見落としてる気がしないか?」

 

いきなり珍妙なことを言いだした黒髪男子の言葉に反応して、青髪男子が質問をする。

 

〔青髪〕

「何かって?」

 

〔黒髪〕

「いや、なにかこう……重要な使命というか、存在意義に関わる大事な役割というかさ。

なんとも表現できないんだけど、何かある気がするんだよ」

 

〔朱髪〕

「それよりニュース見てみなよ。今回の事件を解決したのはご当地ヒーローらしいよ。凄いよねえ」

 

〔青髪〕

「へー。やっぱヒーローってすげーよな。『俺たちも一度、ヒーローってやつになってみたいと思わないか』?」

 

青髪男子の突飛な発想に、白髪が呆れた様子を浮かべる。

 

〔白髪〕

「いやいや、俺たちがヒーロー?それはないな」

 

黒髪が深刻そうな顔をして思い悩んでいるのを見て、青髪が問う。

 

〔青髪〕

「どうかしたのか?」

 

〔黒髪〕

「ヒーローか、何かヒーローに纏わる何かが俺たちには本来あるはずだった気がするんだよ。それがなんだったのかは分かんないけどさ」

 

〔朱髪〕

「うん?昔話し合った漫画のネタとか?」

 

〔黒髪〕

「いやもっとこう、違った何かを……」

 

〔青髪〕

「案外俺ら、昔のヒーローの生まれ変わりだったりしてな」

 

〔朱髪〕

「だったら凄いけど、まあ、今の僕らはヒーローじゃなくて漫画家だからねえ」

 

〔白髪〕

「全くだ」

 

〔黒髪〕

「ううむ、なんだか釈然としないが、一体何なんだこの違和感は?」

 

この場の若者たち4人はシーズンズ。今乗りに乗っている気鋭の漫画家集団である。

それぞれ青髪:桜花青春(おうか せいしゅん)、朱髪:疾風朱夏(はやて しゅか)、白髪:佳月白秋(かげつ はくしゅう)、黒髪:吹雪玄冬(ふぶき げんとう)という名の彼らは、ある世界のそれと違ってこの世界ではヒーローではない普通の漫画家である。

闇の中を舞うひとひらの蝶の羽ばたきが、或いはそれを生んだのかもしれない。理屈としては検証不可能かもしれないが。

 

そしてもう一人、この世界において、ある世界とは異なる境遇にある者がいた。

 

 

  *   *   *

 

 

その者は地球を離れたとある場所、黄色い霧の立ち込める荒野の惑星上にて、ただ独り静々とした足取りで何処かを目指して彷徨っていた。

 

重くて動きづらそうな真っ白い宇宙服を着ている所為でゆっくりとしか動けないらしきその人物は、移動している内に真っ青としか言いようのない液体が溜まった液溜まりの前まで辿り着いた。高温なのだろうか或いは他の要因があるのか、その液体は泡立っている。

人物はその液体の前で膝を付き、右腕部に固定された道具箱状の装備から棒を伸ばすと、その先端を液体に浸らせた。すると左腕部のモニターに何らかの数値や図が浮かんで、どうやら成分を分析してるらしいことが分かった。

安全を確認したのか、胸部に取り付けられた500ミリリットル容器程の大きさのスポイトを液体に刺して、液体を容器一杯になる程に回収した。

 

用事を終えたらしい人物が立ち上がり、振り返ると物陰に何かが潜んでいることに気が付いた。

 

一瞬だけ獣の耳らしきものを物陰から出した後に直ぐに姿を隠したそれの正体を確認するために人物が物陰まで近づくと、その隠れた何かは飛びつくように身を晒して襲い掛かってきた。

 

その正体は人物よりも倍以上体格で上回る大型の、銀色をした毛むくじゃらの蠍のような生き物であった。地球の蠍と違って、腕の鋏に兎の耳のような器官がついたその生き物は、恐らく肉食性の宇宙生物であろう。人物を餌と定めて襲撃を掛けてきた。

 

鋭い鋏を槍のように突き出して刺し貫こうとした蠍は、されども人物が咄嗟に腰から抜いた拳銃によって繰り出していた右鋏を水風船のように破裂させられ、初撃を頓挫させられた。更に人物が右と時間差で突き出すために構えていた左鋏まで撃ち抜いたのに至り、蠍は後ずさって振り返り、逃げる素振りを見せる。

 

瞬間、背面飛びと同時に尻尾が鞭のように振り下ろされ、人物が握っていた拳銃諸共右腕を叩き落された。

 

バランスを崩して地面に平伏す人物に、蠍は更に追い打ちとして圧し掛かってきた。

体格で上回るため、優位に立てると踏んだのであろう。体重が百キロを優に越しそうな蠍に伸し掛かられて、果たして人物は動きを止めた。

 

自慢の鋏を傷物にした生意気な獲物が苦悶してくたばることを期待していた蠍は、きっとこの獲物はもうお終いだと認識し、口を大きく開いて飲み込んでしまおうとした。しかし蠍が飲み込んだのは獲物寸前のはずの人物ではなく、地面の土であった。人物は伸し掛かる蠍をものともせずに立ち上がって、蠍を持ち上げ地面に顔面を叩きつけたのだ。

 

不意を突かれた蠍の隙に付け入り、更に人物は腰背面の斧を取り出して、蠍の右脚ごと脇腹を切断する。蠍の切断面からは体液代わりに緑色のガスを噴出した。恐らく気体の圧力で肉体を駆動させる生物なのだろう。

 

ガスで視界が曇る中でも、人物は迷いなく振り抜いた斧を再度振るって切断面を押し広げる。すると緑色の液体の入ったガラス管のような器官が垣間見えた。そのガラス管から全身にチューブが伸びている所を見るに、心臓のようなものなのだろう、人物はそのガラス管を斧で叩き割って、その上で引っ張り出した。駆動源を失った蠍は全身をだらんと弛緩させて、それで動かなくなった。

 

蠍の亡骸を前にした人物は、背負った背嚢からスコップを取り出して、地面に穴を掘るとそこに解体した蠍を放り込んだ後に土をかけて埋め直した。

 

 

供養の意味合いもあるが、惑星上の生物の栄養素はその生物の生まれ育った惑星上で循環させるのが自然の摂理であり、銀河の掟はそれに追従するべきだというのが人物の哲学である。自身ももし朽ちるのならば、遥か遠く離れた母星に帰還したいという情が心をよぎって、人物は感傷的な自己を自覚した。

 

自身が母星を離れてこんなところにいるのは、とある目的によってここに連れてこられたためだと人物は状況を確認する。

その目的とやらの全貌を人物は知りえないが、もしその目的が達成するときが来るのならば、その時は母星に帰ることができるのだろうか。

出来ればそうでありたいし、その為ならば如何なる冷酷な行為とて自身は許容しようという執着、もう長いこと抱いてきたその感情、それを捨て去るという選択肢を排することによってのみ、人物は自己を維持できた。

 

それは容易ならざる覚悟であって、故に人物はとうの昔に本来の自己からは変質していた。或いはそれもまた計画の内なのではないだろうかと、人物は謎を解き明かさんと思考する。

 

果たして、自身は何をさせられるのか、今後のことを考えると、人物は不安に身が悶える。脅迫観念に苛まれているといってもよい。例えそれが自己を保つ代物であったとて、そこに安らぎを感じることはなく、身を任せたとて見返りに温もりを与えられた記憶もないし、関係はいつも一方的に向こうが手綱握る主君なのだ。

 

ふと、彼の脳裏にある人物の姿が浮かんだ。黒い髪の少年だ。人物はその少年の姿を垣間見て、衝動的に言葉を漏らした。

 

〔人物〕

「ジンライ……」

 

ドイタール帝国の皇子、その名を人物が思考経路に刷り込まれてからもう暫く経つ。

ある目的やらのために、人物を誘拐し洗脳教育を施した恐ろしい怪物によって、その名を忘れないように徹底的に条件付けさせられた。

 

具体的には、睡眠教育で脳に名を含めた膨大な量の情報を刷り込まれたのである。故に人物は、かの皇子の容貌は無論のこと、思考体系や行動まで記憶しているし、その先の予想も推測できた。

呼吸一つからでも、その日の体調どころかその翌日の状態まで当てられるほどにだ。そこまでされてなお、人物は本物のジンライに対面したことはなかった。

だがその時は必ず来るだろう、怪物の目的のために。

 

〔人物〕

「僕はいつか出会えるのかな?ジンライ、君と直接に」

 

〔スーケット〕

「ほう、興味があるのですか、君は」

 

と、その怪物がいつの間にか人物の正面に立っていた。いつ現れたのだろうか、この怪物はいつだって神出鬼没である。赤い毛並みが全身を覆う、猫と人間を合わせたような底の読めない濃厚な闇そのものは、自身にとって有毒の大気をものともせずに平然と喋る程に自身とは異質な存在なのだと人物は思った。

 

 

〔スーケット〕

「迎えに来ましたよ、もう一人の英雄くん。12年間よく頑張りましたねえ。

さて、今日は……といってもここでの今日は2400時間もあるんですが、とってもいい報告があります。宇宙服の無線チャンネルを開いてよく聞いてください」

 

人物は思う、怪物がこういう時はいつだってろくでもないことが起きる予兆、前振りでしかないと。一一身構えるのが億劫だ。

 

〔スーケット〕

「今から本物のジンライ君に会いに行きます。そこで君の、12年間積み上げてきた努力の成果を存分に発揮して頂きます。

そして、ジンライ君を……」

 

人物はされども、怪物の言葉は何とも地獄の入り口の扉から漏れ出る毒の霧に似た危険物だと思う。

或いは、本当に毒の霧を吐いているのかもしれないとも。

 

 

  *   *   *

 

 

果たして、スーケットらの狙いとはなんなのか?ジンライ達がどうなるのか、それは次回以降にて語られるだろう。

 

つづく。




今回の投下は以上です。第2回は日常回で戦闘描写ほぼ皆無にする予定なのでこっちに戦闘場面を纏め書きしました。多分これで暫く戦闘書かなくてもいいでしょう。いいよね?(疑問)

さて、今作は原作の設定を下地にオリジナル要素ぶち込んで再構築したので原作読んでても訳分からんと思います。まあなるべく原作リスペクトして矛盾には理由付けたいと思っています。今回出てないキャラとか今後出す予定のオリキャラとかね。

かなり無理くりな作品になる可能性大ですが、なんとか無事終わらせてしまいたいです
あとがきも色々書きたいな。今回は本編で体力使い果たしたせいであまり書かないで済ませますが。
次回も宜しくお願い致します。
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