蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route   作:シオヒガリ

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久しぶりに漫画読み返してると、やっぱりめっちゃ面白くてどこまでも読み進めちゃうんですよね。


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結論から言うと、修理には一日の時間を要した。

艦長には悪いと思うけど、こればっかりはどうしようもないから諦めて欲しいわね。

 

「まぁ、整備不良で出るよりはマシだからな」

「っ、悪かったわね」

「別に謝る必要なんかないだろ。俺だって半分諦めてたし」

「半分……?」

 

つまり半分本気だったってこと?

 

「こればっかりは俺の都合。というか我儘だからな、気にするなよ」

「我儘、ねぇ……」

 

理由を聞くなら、今かしらね。

私は艦長に向き直り、彼の両目を見詰めた。

艦長も艦長で、私の纏う空気の変化を感じらしく、艦を眺めていた視線を私に合わせて来た。

 

「……最後の希望なんて唄いながら、クライアントは俺達じゃなく、401の連中を主軸に据えてたからな」

「これまであちらが立てた実績的に考えたら、彼らに任せるのは妥当だと思うけど?」

「そうだが、俺らだってやれるだけの事はやって来ただろ?」

「大戦艦、半壊、命懸けの逃亡劇」

「ウッ」

 

一瞬見せた調子に乗ったニヤついた表情にイラつき、現実を聞かせてやればすぐに大人しくなった。

 

「向こうは沈めてるわよ。それも一艦隊の旗艦サマを」

「ちぇっ」

「……何よ」

「いえ、なんでも」

 

じとりと睨めば、すぐさま目線を逸らされ、口笛すら吹き始める。

溜め息を吐き、今も尚進めている注水により、海水によって満たされつつあるドックを見据える。

 

「それに――それだけじゃないんでしょ?」

「……流石だな。やっぱりお見通しってか」

「当たり前。その意志には尊敬……でいいのかしら?ま、そのお相手さん(・・・・・)には伝わる筈もないけどね」

「いいんだよ。あいつが幸せならな」

 

カッコつけながらフッと笑う艦長に、私は少し呆れた。

確かに、このようなご時世じゃ、血を分けた妹(・)が心配になるのも分かるのだけど……相手側の気持ちも考えた方がいいと思う。

 

「妹さん、気が気じゃないようだし」

「っ――。で、いつ終わる?」

 

あら?ボリューム下げたのに聞こえちゃったみたい。

僅かに顔を強張らせた艦長が、急に話を変えてきた。

 

「補給に各種積み込み作業は完了済、防衛機構及びAI管制に関しても異常なし、データリンクも同じく、艦本体のシステムチェックは現在進行形で実行中……あとは注水作業だけ」

「つまり?」

「あと3分」

「早いな。……ありがとう」

「精々頑張りなさい」

 

艦長と二人、他愛ない話をしながら注水作業が終了するまで待っていると、ドック内に流れ込んでいた海水の流れが緩やかになった。

艦、ドック双方からも、注水作業の完了を告げる通知が送られて来た。

 

「行くか」

「ええ」

 

頷いた艦長がタラップへと歩みを進め、私も後ろに続く。

やがて艦橋に辿り着き、それぞれの席に腰を降ろす。

 

「しっかし、いつ見ても寂しい光景だよな」

「人員増やしたいのならあなたがやって頂戴、私(霧)が行ったところで怒鳴られるのがオチ」

「分かってる。ただただ難しいってだけだよ」

 

……言いたいことは分かる。

あの401のように、かつての古巣から人を引き抜いて来ようものなら、艦を拿捕せんと軍人が流れ込んでくるだろう。

無論、私に手を出すようなら容赦はしないが。

 

かといって民間人を誘うのもそれはそれで難しい。

私という霧が変わっているというのもあるのかもしれないが、自分達を海から追い出した連中と、仲良しこ良しができている艦長や、401のクルー達が異常なのであって、普通に考えたら割り切る事などできないだろうから。

 

常々、「人が欲しい手数が欲しい」と嘆き続けているというのに、未だに艦長と私しかいないのにはこういう事情がある。

下手な人を呼んで大惨事になっても困るし、艦長を責めるつもりもないけど……やっぱり”人間"というものを理解するのは、難しいことね。

 

「目的地は横須賀だ。進路は伝えた通り」

「海中に潜るなんて、潜水艦じゃないんだから……ま、カコの一件や二件、三件を思うとそれも仕方ない、か」

 

……本当にあの重巡、今どこで何してんのかしらね。

なんか急に怖くなって来た。

 

「機関始動。ヤハギ、発進!」

「了解!」

 

重力子機関(グラビトン・エンジン)が唸りを上げ始める中、ドックとの固定を解除し、艦を自由にする。

 

「……なんとカコが待ってました。なんてことには、ならないよな?」

「センサーに反応はないし、カメラにもそれっぽいのは映ってないけど……」

 

あの重巡に全力で隠蔽されてたとしたら、私は見抜けるのか……ちょっと不安かも。

 

「でもここが私達の拠点って割れてるなら、それこそ他の霧集めて来そうじゃない?」

「分からんぞ、案外単艦で突撃してくるかもしれない」

「それは無い――って言いきれないのがね」

「思い出せば出すほどってやつだ」

 

重い溜め息と共に吐かれたその言葉に、私は最早両手では数え切れないカコとの戦闘記録の内、艦長が"色んな意味で忘れられない”と評した一つに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それは、私達がまだまだ駆け出しの域を抜けなかった頃の出来事――

――かの"蒼き鋼”と呼ばれる彼らに比べれば、仕事の質も数も段違いだったが、それでも構わないと一つ一つを積み重ねていたあの日のこと――

 

「お疲れ様、ヤハギ」

「お疲れ様、艦長」

 

その日、私達は日本からの亡命を望んでいた依頼人(クライアント)を、隣国たる韓国へと送り届けるべく、数々の霧の警戒網を潜り抜けた。

駆け出しな以上、たった一つでも無駄にできないと十分に気を張った結果、目立った戦闘は無いままに、依頼を達成することができた。

 

「こんな時に、たかが出身国の違いくらいで迫害だなんて、人間って案外暇なの?」

「霧との戦いなんて、遠い世界のことだと思ってんのさ。……多くはな」

 

久方ぶりに再会した家族と、涙ながらに抱き合う依頼人を見て、私は疑問を口にした。

 

今のご時世、霧の海洋封鎖によって故郷に帰れなくなった外国人も多い。

そんな彼ら彼女らも、今では出身が外国なだけの日本人と言っても過言ではない筈……なのだが、前時代的な考え方の持ち主というのは、そこら辺の線引きが厳しいらしい。

 

「自分達の生活も苦しいのに?」

「それもこれも、あいつらのせいって考え方になるんだよ」

「……なんで霧じゃないの?」

「普通の人間に霧は倒せないだろ?」

「でも、だからって……」

「思想ってのはおっかないんだよ。……忌々しいことにな」

 

艦長は吐き捨てるように目を細めた。

指先が一定のリズムで肘掛けを叩いているのを見るに、相当ご機嫌斜めらしい。

やっぱり軍人は軍人なんだし、そういう場面とか目にしてたりするのかしら……

 

その場面を想像してしまい、気を紛らわせようとして……すぐに後悔した。

……これ伝えたらもっと機嫌悪くなりそうだけど、伝えない訳には…行かないわよねぇ。

 

「……艦長」

「どうした?」

「センサーに感あり、"いつもの”よ」

「あ?……はぁ」

 

こめかみを押さえ目を瞑る艦長。

しかし、次の瞬間開かれたその目には、鋭い光が宿っていた。

 

「”敵であるものを全て滅ぼして"、か……それもまた、一つの答えだよな」

「物騒ね。誰の言葉?」

「アニメのキャラクターだよ」

「……なんで今?」

 

そこで艦長は表情を緩め、笑った。

しかし私は見てしまった。鋭さがより増した艦長の瞳を。

 

「深い意味はねぇよ。ただ――人と霧の戦いも、そうなのかと思ってな」

「っ」

「目的も分からず海を封鎖し続ける霧と、そんな霧を倒す(滅ぼす)手段を模索し続ける人類……」

「それ、は……」

「その手段を手に入れてしまった時……どうなるもんかね」

 

目だけが鋭い歪な笑みを浮かべる彼は、少しずつ接近してくる重巡洋艦を、今か今かと待っている。

先程の言葉もあって、私は少しだけ艦長が――津島智也という男が、怖く感じた。

 

「ロクな事には、ならない気がするがな」




カコとの戦闘もどこかの番外編でやると言ったな。
……あれは嘘だ。

何でもかんでも番外編にしてると後が大変かと思ったので、次回で重巡カコ戦をやった後に横須賀行きます。
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