蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route 作:シオヒガリ
さてと、日本に向けて航路を進めているのだが、如何せん暇でしょうがない。
そう思考すると同時にこのような時間を”暇"として認識したのは何時ぶりかとも考える。少なくとも私が軽巡ヤハギとなってからは感じたことは無かった筈だ。
感情というモノは私がヤハギという兵器に成り代わったその時に一度失ったのだから。
「……いや、そんなことはどうでもいいわね。過去は過去と見切りをつけましょう」
一度艦体との接続を切り、腰掛けていた二番砲塔から甲板に向けて飛び降りる。そこまで高さが無くすぐに足が甲板に付いたが、それだけでも少しは風を感じることが出来た。
………そしてそれと同時に一つ考えなければならないことが出来てしまった。
「そういえば、行き先を日本にしたのはいいけど、何処に行くかはまだ決めてなかったのよね……」
どうしようかしらと言葉を口にしながら幾つか挙げた候補から目的地を絞って行く。
横須賀は論外として……呉、いやダメね。あの辺りの海域はコンゴウ旗下東洋方面第1巡航艦隊の管轄な上に少し配備されている艦の数が多い。
考えれば考えるほど候補が潰れて行く。せめて進路上に霧の艦艇がいるか居ないかさえ分かればいいのだけど、相手が重巡クラス以上ならセンサー性能の時点で負ける。
離れたところでも情報を集められる偵察機でも……ん?
「そういえばあるじゃない。偵察機」
ナノマテリアルを利用し、かつてこの艦にも配備されていた二機の零式水上偵察機の内一機を後部に搭載されていたカタパルト上に形成した。
特徴的な緑色の機体はかつての大日本帝国にて活躍した零戦そのもの。違うといえるところがあるとすれば、それは機体の両翼に浮かび上がる私、ヤハギ固有のイデアクレストと、二つのそれから流れるように機体に走り輝く赤いラインだろうか。
「と、こんなこと考えてる場合じゃない」
頭を振り邪念を振り払い、偵察機側と艦本体とそれぞれ接続し、瞬時に両方の操作を行えるよう準備を整えカタパルトに意識を向ける。今から15年前の霧と人類の最終決戦にて人類側の兵装によって艦載機が落とされてから一度も使ってこなかったが、カタパルトは正常に稼働し海へと回頭した。
「カタパルト充電開始━━━━━発艦せよ」
一言だけ告げカタパルトに電力を流し始める。電力が最大に達した瞬間、カタパルトを稼働させ偵察機を勢い良く発艦させる。
そして空へと飛び立った偵察機を見やり視界を共有、それと同時に偵察機の状態が正常であることを示すウィンドウが視界の端に出現し、溜め息を吐いた。
「ただの偵察機にも誘導ミサイル搭載されてるとか本当に霧ってなんなのかしら……」
まぁもう艦載機とか使ってる艦いないんだけどね。確かに色々有用ではあるけれど、今の状態で事足りる分空母……海域強襲制圧艦の奴らも使ってないし。でもこれ記憶からの情報だから実のところどうなのかは……わからないけど、まぁいいか。
言葉にせず内心で霧への呆れを解消し、改めて意識を偵察機に向けた。
広い大海原を上空から見下ろす偵察機。付近の海域には霧の艦艇どころか魚一匹見られない。少し不審には思ったが今は気にしないでおこう。
そして目を眼下の海から前方へと向けようとしたその時、どこからか立ち上っている黒煙に気づいた。
「黒煙……なにかしら?恐らく沈められた人間の艦だと思うけど……」
以前ならその内死ぬだろうと断じていたのだろうが、今の私はかつての人の感性を少しだけながら取り戻している。
故にそこに人がいると思うと居ても立ってもいられなくなってしまい、恐らく助けを求める人がいるであろうそこを仮称地点Aとして現場に急行することを決めた。
「機関全開、最大戦速!目標、仮称地点A!」
私の意志に従い重力子エンジンが唸り声を上げ、緩やかに航行していた艦体が急速で前進を始める。
誤差などなく目標の方角に向けて進んでいるのを確認し、艦体の制御を片手間に偵察機で生存者の捜索を行う。
「……、今までの私はこんなことをやってたのね……」
黒煙が立ち込める海面近くを飛ばせば、既に半分近くが海に沈んでいる護衛艦の惨状がしっかりと見えた。
艦後部はまるでスプーンで掬われたかのように消滅。レーザー放火に晒されたのか船首は赤く染まり丸く抉られており、ひしゃげ歪んだ砲の一部や砕け剥がれた飛行甲板、その他艦上構造物を成していたであろう残骸の山が艦本体を離れ海面を浮かんでいる。オマケに一部の海水が少し暗くも明るい色の赤に染まっている時点でお察しだろう。
私は思わず顔が歪むのを感じながら眼下に意識を集中させ捜索を再開させた。
せめて火災を消す為の消火装置でも欲しいところだが、幾ら演算能力が拡張されたとはいえ今の私のユニオンコアでは偵察機を通した、遠隔でのナノマテリアルの操作なんて高度な真似は出来ない。だから消火に関しては諦めるしかない。
「それにしても……さっきから誰一人として見つからないということは、もう避難したあと……?」
いやしかし、だとしたらこの避難艇らしい残骸が複数この場に残っているのが不自然だ。残された残骸の数から恐らく搭載されていた全てがここにあるだろう。……ならクルー達は一体どこへ消えたんだ……
「………」
ひとまずもうこの付近に生存者は居ないだろうと結論付け、偵察機を戻そうと帰還ルートに載せた瞬間、赤く染まった海に浮かぶ残骸の山の一つに引っかかるように乗せられていた腕に気づいた。
まさかと思いながら偵察機をそちらに向けると、やはりそれは人の腕そのもの。
見た感じなんとか残骸に掴まって持ち堪えたというふうに見えるが……何にせよ急ごう。
あれからも全速で飛ばし続け、三分程で仮称地点Aに到着した。とりあえず、まずは生存者の確認をしないと。
「あれか」
クラインフィールドを足元に展開し、それを足場に近づき腕しか見えていなかった体を引っ張りあげ、軽く状態を調べる。
軽くスキャンしてみたところまだ心臓は動いているようだけど、意識はあるのかないのか……でも軍服を着ているってことから思った通り統制軍の軍人であることは間違いなさそうね。
「大丈夫!?生きてる?」
……肩を叩きながら大声で呼びかけても反応はなし。けど見えてなかっただけで顔は浸かってなかったのか呼吸に問題はないところが幸いってところか。しかし……
「酷い傷……」
海水が血で赤くなっている時点で薄々察してはいたけど、まさかこれ程とは……ひとまず治療が最優先か。艦内に医務室と手術室を生成、そこに運び込もう。
「安心しなさい。もう少しの辛坊よ」
既に意識が無く聞こえてる筈がないというのに、私は何故かそう口にしてしまった。