蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route 作:シオヒガリ
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あぁ……悔しいな。ここまで来て直接奴らをぶちのめすことが出来ないことがこんなにも歯痒いとは……
俺は先程まで俺達が乗っていた護衛艦━━━を構成していた残骸に背中を預けながらそう思っていた。
もう用はないとでも言うかのようにどんどん離れ行く霧の艦艇に激しい怒りを覚え睨みつける。
だがこんなことを出来る時間なんかもう僅かしかないことくらい分かっている。今はアドレナリンが麻酔のように痛みをかき消してくれているが、この出血量ではどの道長くないだろうから……
「父さん、母さん……親不孝な息子でごめんな……」
両親に向けて謝罪の言葉を口にすると同時に、これまでのことがまるで走馬灯のように脳内を駆け巡った。
まだ霧が現れておらず、平和だったあの日。霧が初めてこの世界に姿を現し、大混乱となったあの日。
そして、今俺がこうなっている原因ともいえるあの時偶然聞いてしまった会話。
「という事は、やはり……」
「ええ……刑部博士曰く、まだデータが足りないのでなんとも……ですが、このままでは新型弾頭兵器の開発は困難なのは確かでしょう……」
あの時の俺は新型弾頭兵器という言葉を聞いても所詮は眉唾、どうせ霧には通用しないだろうと軽く思っていた。
だからこそすぐにその場を去ろうとしたのだが、出来なかった。その後に聞いた言葉に驚愕し、嫌でも聞かねばという思いを抱いてしまったからだ。
もう後悔はしないと決めたとはいえ、今思えばこの時に離れていれば、こんなことにはならなかったかもしれないとは思ってしまう。
「……例の作戦を実行するしかないようだな…」
「な!?ほ、本気なんですか!?そんなことをしてもし国民達に情報が漏れてしまえば、軍は終わるかもしれないんですよ!?」
「もう人類に後はない…少しの犠牲を看過しようにも、もう犠牲を出し過ぎてしまった……」
軍が終わる。俺もまた一介の軍人である以上その言葉を聞き逃す訳には行かなかった。軍がなくなってしまえば、同盟国からのSSTOでの支援でなんとか命を繋いでいるというかなりギリギリな状況であるこの国が、どうなってしまうのか想像に難しくないからだ。
「無人操作では本来の目的を果たすことなく沈められてしまう以上、乗員は必要不可欠だ」
「で、ですが……」
「……私とて、こんな命令は下したくない。いくら人類の希望の為とはいえ、霧の生贄になれなど……」
俺はその言葉に持っていた水筒をその場に落とし立ち尽くしてしまった。
そして、その音を聞いた二人の上官が俺の元に走り寄り、「聞いて、しまったか……」「若い芽をこんなところで……」という悲しげに言うその姿に大声で叫んだ。
「い、今のどういうことなんですか!?霧の生贄になれって!!」
「……すまない」
「……」
「答えてください!!どういうことなんですか!?」
俺が何度大声を出そうと、上官達は悲しげに目を伏せるだけで答えを教えてはくれなかった。
結局何も聞き出せず悶々とした思いを胸に抱えその日は終わったが、翌日上官達の言葉の意味を理解させられた。
”霧の艦隊が持つ侵食兵器の情報収集"
それが軍人として俺達に与えられた最後の命令だ。だがそれもそうだ、その作戦の内容は先日の上官達の言っていた通りに、人類の希望の為の生贄になれという内容だったのだから。
作戦として成り立つようにそれっぽく書いてあるが、この作戦の真意がわからない奴などここにはいない。
だからこそ皆は死を覚悟し緊張を全面に出したが、誰一人として逃げようとするものはいなかった。一人一人がこれを最後の戦と認め、最後の戦いに全身全霊をもって望むという意志を見せた。
そして上官はそんな皆の様子を見て、決意の宿った瞳の奥で炎を燃やし、一糸乱れぬ敬礼と共に告げた。
「我々は、勇敢なる諸君等のことを決して忘れない!そしてここに宣言する!!諸君等の尊い犠牲の果て、我々は必ずや霧から海洋を取り戻し、この世界に再び平和と安寧を訪れさせる!!」
その言葉に俺達もまた敬礼を返し、上官の目を見つめ返した。昨日はあんなことになってしまいましたが、あなた方の下で働けて幸せでしたという思いを込めて。
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そして今、俺は与えられた役目である"侵食兵器”のデータ収集をこなし震える腕、血に染まった指でEnterキーを叩きデータを本部に送信した。
「もう、終わりだな……」
もうこの艦にも俺しか残っていない。魚雷群を何度も躱し、遂には侵食兵器の使用に踏み切らせた優秀な操舵手も、襲い来るミサイルの山を何度も迎撃した砲雷長も、適切な指示を飛ばしここまで生き延びさせた艦長も、先程の侵食兵器の直撃とその後に襲いかかった数多のレーザー砲やミサイル、魚雷によって命を落とした。
たからこそ俺は最後の仕事をやり遂げた。きっとあの人達は俺達の犠牲を無駄にすることなく人類の希望を完成させるだろう。
一目見ることも出来ないのが残念で仕方ないが、もうそれは諦めよう。
「……最後だし、海でも見るか」
俺は唐突にそう思い。激しい痛みを訴える足を引き摺りながら、もう用はなくなった艦橋から立ち去り甲板に出た。
そして、傾いた甲板の上をなんとか登ろうと足をかけたその瞬間、保管室の燃料タンクにでも引火したのか艦全体が激しい爆炎に呑み込まれ俺は海に放り出された。
なんとか残骸の一つを手繰り寄せ浮きを確保はしたが、どの道もう長くないのは知っている。でも、せめて……
「せめて……俺のこの手で奴らに、一矢でも報いたかったなぁ……」
「……ん、ここ、は…?」
「目が覚めたかしら?」
「お前は、いったい……」
この女との出会いが、これから俺達が身を投じることとなる数々の戦いの始まりになるとは、この時の俺は知りもしなかった━━━━━━━━―――――