蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route 作:シオヒガリ
幸いにも手遅れになる前に間に合ってなんとか命に別状はないことがわかったが、あと少しでも遅れていたら危なかったから少しヒヤヒヤした。
今のところは眠っているようだけど、いつ目を覚ますかわからないし注意しないと。
軍人ということは霧を憎んでるだろうし、ただでさえ人間を乗せた影響で演算に狂いが発生している今暴れられたらちょっとマズいのよね……
「……それにしても、なんでこんなところまで出てきたのかしら……」
霧の艦隊がアドミラリティ・コードによって地上への攻撃が禁止されている以上、海洋まで出張ってこなければ沈められることもないというのに。
まぁそのまま地上に引き籠もっててもどうにもならないのは目に見えているが、それはそれとしていったいなぜなのか……
「後で重要な情報を見逃してました〜とかなっても遅いし予め調べときましょうか」
周囲にリングを展開し、ネットと接続。続けて日本統制海軍の機密情報にアクセス……なーんかコア強化されてからハッキングがさらにやりやすくなってるのよね……最早人類国家の機密なんかあってないようなもの、パスワードなんか一瞬で探り当てられるし。
と、これか。結構簡単に見つけられたわね。
そしてその内容は口減らしにも捨て駒にも思えるその作戦を閲覧し考えを纏める。
「犠牲を出してでも新兵器開発のためのデータを収集……要するにこんな感じかしら?」
それにしても、端から侵食兵器の直撃とかを想定していたとは………通りで付近に生存者が居ないわけだ。恐らくは振動弾頭開発の為の犠牲として、あの男以外は纏めて侵食魚雷か侵食弾頭の直撃を受けて無に帰したのだろう。
残念なことだと思ったが、それと同時にこうも思う。
「……まさかだけど、描写がなかっただけで原作でもこの作戦実行されてたりって……」
………この世界で実際に行われた以上、あの世界でも行われたのだろう。この世界とあの世界、二つの世界の勇敢なる死者達に冥福を――――とそこまで考えたところで異常に気付いた。
今の私はかつての自分に限りなく近くなっている。それは喜ばしいのだが、なぜなんの前触れもなく急に………いや、推測に過ぎないが原因はわかっている。それは―――
「ヤマトからのプレゼント……それに人の死」
これらが私のコアに変化を与えているのだろう。強化されたコアは身近に感じた人の死によってかつて兵器に不要と断じ、奥底に封印したソレを再び呼び起こし引っ張り上げている。
だからこその変化。そして、これこそが私に対してヤマトが望んだことなのだろう。
「もっと言えば、これを通じて千早群像を守って欲しかったのかもしれないわね」
千早翔像氏とヤマトの会話、そしてこれからヤマトが起こすであろう行動の数々からそう結論付ける。
だとすれば彼女には悪いが私は私の道を征く。私がやりたい、したいと思ったことのみを実行する。そう決めたのだ。
決意を新たに医務室へと赴く。そこにはまだ目覚めていない男が一人。
「……ん、ここ、は…?」
が、彼は私が眠っていたベットの隣にある椅子に腰掛けた瞬間に薄く目を開けた。
「目が覚めたかしら?」
少し前まで生死の境を彷徨い、今も意識朦朧としつつも周囲から情報を集めようとする姿には軽く尊敬すら出来る。それにわかった。この男は誰よりも平和を愛する人間であろうことも。
「お前は、いったい……」
もう少しばかりこの男を観察していたかったが、流石に質問されては返さない訳にはいかないだろうから答えよう。
私は彼の目をしっかりと見つめながら名乗った。
「私はヤハギ。“元”霧の艦隊に所属していた軽巡洋艦よ」
「ヤハギ…?……霧!?な、んでッ!いつつ…」
「こらこら暴れないの。手術はしたけど傷はまだまだ塞がらないんだから」
「うるっ、せぇ!!誰が霧なんかに……!!あ痛って!?」
はぁ、まぁ今まで霧の艦隊が人類にして来たことを思えば当然にも思えるけど、聞く耳を持たないとは困ったものね……どうすればこっちの話を聞いてもらえるか……
正体が霧だと名乗った途端に暴れだした彼をなんとか宥めながらそう思った。
「チッ、……人質か?悪いがこんなことしても意味はねぇぞ。理解したならさっさと殺せ。もしくは俺を本国に帰すんだな」
急に冷静になったかと思えば何を言い出すのか。悪いけど今の人類に対して人質取ってまで欲しい情報とかないから。
「別にそんなつもりはないのだけど……まぁいいわ。そんなにお家が恋しいのなら帰してあげる」
「え、は?」
「聞こえなかったの?帰してあげるって言ったのよ。ほら喜びなさい」
……あからさまにポカーンと口を開けてる目の前の男には悪いが、ぶっちゃけ男のそれは需要ないからやめて欲しい。というかやっと人の話聞く気になったみたいだ。
「別に私はあなたをどうこうしようなんて思ってないわよ。ただ見捨てられたみたいに一人で「見捨てられてなんかいない!!勝手なこ「話は最後まで聞きなさいよ、放り出すわよ」っ!!……ぐっ」
「さっき人類のデータベース見たから見捨てられた訳じゃないくらいわかってる。ただあの時はそう見えたってだけなのよ」
「………」
私が話している間、彼は私をひたすら睨み続けていたが、この目はどちらかといえば警戒――――それも逃亡を企てているように見える。死を恐れるというよりは、一度体制を整えて反撃の機会を!とかそんな感じに見える。けど逃げたから何になるのかって話。
大方私の隙を突いてこの部屋から逃げ出したあと艦内を探索、避難艇があったらそれを奪取して脱出、無ければ自害って感じかしら。人間視点で見ればそれが最適だからなんとも言えないけど、仮にここから逃げたとしても艦全体が私の意思の下にある以上、逃げ場なんて無い。
「逃げようとしたって無駄よ。この
「!、気づいてたのか……」
「当たり前でしょ?こういう時人間達の言葉では”顔に書いてある“って言うんだっけ?まさにそれよ」
「はいはい、わかったわかった。降参降参〜」
なんて口では言ってるけど諦めてないのは丸分かり。相当護国防衛の意志が強いらしい。
それにしても……見るからに愚直に平和を目指すこの男ならば、もしかすれば……っと、そろそろ到着ね。降ろす準備をしないと。
「ついて来なさい」
「な、なんで」
「もうすぐ着くからついて来いってこと」
「も、もう着くのか……」
「速力に関して霧に常識を求めない方が身の為よ」
半信半疑という様子で甲板までついてきた彼だったが、そこから見えた町並みを見て一瞬言葉を失っていた。
「私が近付けるのはここまで。小型のモーターボート用意したからそれを使いなさい」
そうモーターボートを示すと、複雑そうな表情を浮かべた彼と目があった。
「……なぁ、なんでこんなに良くしてくれたんだよ。お前も霧なんだろ?」
「さっきも言った筈だけど?霧は霧でも“元”、霧だって。あ、そうそう行く前にこれを渡しておきましょうか」
私は振り向いた彼に向けて小型の端末を放り投げ、告げる。
「
名乗られてないからか、「なんで俺の名前を…」なんて言っていたが作戦書見たんだから当たり前だし、そんな反応に興味はないので、さっさとモーターボートを発進させた。