蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route 作:シオヒガリ
「さて、あの男はいったいどんな答えを見せてくるのか見ものね」
私は海上ではなく海中を潜航する艦体の艦橋にて一言そう呟いた。
恐れを成して陸に籠るか、もしくは―――まぁどちらにしても選ぶのはあの男自身だからどちらでもいいのだけども。
だが、もし恐れを捨て
「その時は存分に私を使うがいいわ。対価として私も人間に対する疑問の究明のために利用させてもらうから」
なんにせよまだ結論を出すのは早い。自分の命が自分一人のものではないことをよく理解している軍人―――いえ、人間ならもっと考えるだろうし、ここは気長に待つべきね。
ま、私としては彼がどちらを選ぼうが構わないけど、せめて彼自身にとって後悔がない選択をすることを期待しておきましょう。
悔いを抱えたまま生きるなんて、誰でも嫌でしょうしね。
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津嶋side――――
俺はなんとか統制軍駐屯地に駆け込み、既にデータベース上では死亡扱いにされていたのを戻した上で、軽い聴取を受けてから休暇を取り実家へと帰って来ていた。
当然ながら、文字通りの地獄を見てきた大海戦時の生き残りと、あの伊号401を模した潜水艦イ401を除いた霧と対峙した軍人など数少ないどころかほぼおらず、後日事情聴取に訪れることを伝えられたが、今の俺にはそんなことを考えている暇は無かった。
「………」
何故か人間である俺を助けた霧の軽巡洋艦―――ヤハギ。あの女の言葉が片時も耳から離れず、気が付けばあの女が渡して来た端末に目を落としている。
………まさかだが、俺は本心ではこの国を出たいと思っているのだろうか。この国を出た上であのヤハギに乗艦し広い大海原へと乗り出し、海洋を封鎖している霧とドンパチやりたいとでも?
……、だがそう考えれば辻褄が合う。そうでなければあの聴取の時に霧の艦艇に助けられたことを隠した理由がわからない。
ただの気まぐれだったとしても、霧を離反したと言ったあの軽巡洋艦を鹵獲すればもしかすれば霧の技術の一端を手にすることが出来たかもしれないのに何故隠したのか。
………そんなの、決まっている。
「俺の本心が、戦いたいって言ってるんだろうな」
ここまで来れば最早そうとした思えなくなって来た。もし本当は不確かな情報を伝え混乱せるのを防ぐ為だったとしても、やはり報告は必要だろう。
だがあの時の俺はそれを意図的に隠した。ということはもう、そういうことなんだろう。
「………」
手元の端末を見つめ、考える。いくら本心が戦いたいと願っていたとしても、俺は軽率に決めたくはない。
何故なら俺には帰る場所がある。俺の帰りを待ってくれているお袋と妹がいる。
今回だってかなりの心配をかけてしまった以上、そう簡単に決める訳にはいかない。少なくとも、せめて今は学院に籍を置き、大事な時期に差し掛かっている妹には話さずとも、お袋にだけは話す必要があるだろう。間違いなく反対されると思うが。
「……でも、親父なら賛成してくれるかもな」
あの人類と霧の最後の戦いに赴き、そのまま帰ってこなかった親父なら。………そうだな、久しぶりに墓参りにでも行くか。最近忙しくて行けてなかったし。
「久しぶり、親父」
『津嶋 和也』、そう刻まれた墓標を見つめ挨拶をした。当たり前だがこの墓には遺体は入っていない。
親父の遺体は今も海の底か、もう既に無くなっているだろう。多分後者だろうけど。
「信じられるか?俺さ、霧に助けられたんだよ」
当然ながら返事はないが俺は話し続ける。
そしてヤハギに言われたことを伝え、懐にあった端末を取り出し呟く。
「俺はどうすればいいんだろうな……何が正解なのか、もうわかんなくなっちまった……」
心配してくれる家族や同僚達の為にこのまま日本に残るのか、それとも現状を打破するために海に出て霧と戦う。どちらが正しいのか、もう何度も何度も考えたがその度に堂々巡りでどうしようもなかった。
「……確かに、母さんに聞けば一瞬で答えが出ると思う。でもそれじゃ駄目なんだ。俺が、俺自身が自分で答えを出さなきゃ、永遠に納得出来ないって、そう思うんだよ」
『……なら答えは出ているだろう』
それまで俯き、小さな声で話していた俺は、もう何年も聞いていたかった懐かしい声を聞きすぐさま顔を上げた。
しかしそこには親父はおらず、親父の名が刻まれた墓標のみ。だが、今確かに……
『そりゃな、俺にだってお前にとっての正解なんかてんでわからねぇさ』
「ッ!」
『だがな、わざわざこんなとこまで来てまで俺に聞きに来たってことはそういうことなんだろ?なら、自分の意志に従え。さっきお前も言ってたが、それは他人が決めることじゃぁない。お前自身で決めることだ』
「………ありがとう、親父」
俺が親父に礼を言った時にはもう声は聞こえなくなっていたが、俺の中の迷いもまた消えていた。
俺は携帯電話を取り出しある番号へと電話をかける。
「もしもし、お袋か、悪いが少し時間をくれないか?話があるんだ。出来れば加奈も呼んでほしい」
墓参りから帰ってきた俺は、お袋と妹――加奈と向き合っていた。
「それで、話ってなんなんだい?」
「……わざわざ私まで呼んだってことは、大切な話なんだよね。でもまたあんな作戦に参加するとか言わないよね……?ねぇ……」
「……」
二人の不安気な表情を見るとつい決意が揺るぎそうになるが、俺は歯を食いしばって気合を入れた。
「実はな、俺もう家に帰れないかもしれないんだ」
「な、あんた……それ、どういう……」
「ど、どういうことなの!?ちゃんと説明してよ!?」
俺は混乱している二人に先程親父に説明した通りに話し、最後に俺はヤハギに乗り霧と戦うと口にした。
俺が全てを語り終え顔を上げようとすると、加奈に頬を叩かれた。
「お兄の馬鹿……!私達がどれだけ心配したと思ってるの!?なのにまた戦うなんて……信じられない、もう知らない!!」
「加奈!待て!!」
「………あの子のことは少しほっといておやり」
「お、お袋、でも……」
目に涙を貯め出ていってしまった加奈を追いかけようとするとお袋に止められた。諦めきれず食い下がろうとすると無言で首を振られ、俺も流石に諦めた。
「あの子はね、あんたのことを誰よりも心配してた。それに今は大事な時期でもある。そっとしておいてあげて」
「……あぁ」
「ただね、次会う時には絶対に話すことだよ」
「わかった―――え?次会う時?」
お袋の言葉に頷いた俺が、まるで帰ってくることを前提としているようなその口振りに違和感を覚え聞き返すと、お袋は溜め息と共に口を開いた。
「はぁ、そりゃアタシだって文句の一つや二つ言いたいさ。でもね、どうせあんたの心の中じゃもう決まってるんだろ?だとすればお父さん譲りの頑固者のあんたにゃ、今更もう何言っても無駄よ……」
「お袋……ありがとな」
「ただし、一つだけ約束しな。絶対に生きて帰ってくること、いいね?」
「あぁ!」
「よろしい。それじゃ行っておいで」
「行って来ます!」
認めてくれたのを喜べばいいのか、確かに頑固なのは認めるがそんな風に思われていたのを悲しめばいいのか複雑だったが、俺はお袋に礼を言い、加奈に向けて少し手紙を書いてから家を出た。
そのまま端末を操作しヤハギを呼び出そうとすると、ある場所の座標が表示された。
「とりあえず、ここに行けばいいんだな」
座標の通りに向かうと、そこには既に赤みがかった白髪ショートヘアが眩しい女―――ヤハギが待っていた。艦の上に立ち、こちらをじっと見下ろしている。
「呼んだってことは、答えは出たのね?」
「あぁ、出たさ……俺に力を貸せ、ヤハギ」
ヤハギの目を見つめ返し、意志を込めて言葉を口にする。ここでもし拒否されたとしても何が何でも俺のものにしてやる!!精々利用させてもらうぞ!
「……フッそうこなくっちゃね。ここでまだ少しでも迷おうものなら殺してやろうかと思ってたけど、認めてあげる。あなたが私の艦長だってね」
ヤハギの所々不穏な単語が紛れた言葉と共に俺の前に複数の六角形の板で構成された階段が現れた。俺はその階段を登り甲板へと上がり、ヤハギに案内されるままに艦橋へと入った。
「さぁ艦長、命令を。こっちは何時でも」
「わかった。……ヤハギ、抜錨せよ!」
「了解!」
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文才の関係で本編では描写しきれなかったヤハギさん
◆メンタルモデル:ヤハギ
・赤みがかった白髪ショートヘア。
・黒に近い濃紺に少し赤が混じった色の旧日本海軍 第一種軍装を着込んでいる。
・顔は、まぁ……クールな女の子想像してください(汗)
なんとか言葉に表したかったけど無理だった…(´д`)