蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route 作:シオヒガリ
私は隣にある艦長席に座る艦長にこれからのことについてどう考えているのか聞くことにし、顔だけを向けて問うた。
「とりあえずだけど、これからどうするつもり?」
「………出来ればこの艦の性能を最大限引き出す為にクルー達が欲しいところだが、そんな簡単に見つかる筈もない上にまずは身を隠せる場所が必要だ。お前が言っていた通り霧から離反したのなら、本艦が置かれている状況はお世辞にもいいとは言えない」
「正確には離脱なんだけどね」
「どっちも同じことだろ?どうせこれから連中とドンパチやるんだしよ」
私の問に冷静に返した艦長に少し茶化して返答すると、艦長は同じように口元に微笑を浮かべながら言った。
そしてその言葉にそれもそうだと思った私は頷き、先にこれだけは確認しておいて欲しいと前置きし、モニターにこの艦と日本艦海外艦問わず最も標準的な霧の軽巡洋艦のカタログスペックをそれぞれ表示した。
「……なるほどな、本艦の性能は通常の軽巡級と比べれば上だがあくまでそれまでってところか」
「そう。私の性能が少しよくて、本来軽巡洋艦の演算能力では形成出来ないメンタルモデルを持ってるのは、あくまで総旗艦直属艦だったからヤマトに強化してもらっただけ、だから万が一にも慢心なんてしないようにね」
私は艦長の言葉に頷いて返し、絶対に慢心はしないようにと厳として注意した。
「あぁ、わかった―――ん?待て……なぁヤハギ、今総旗艦直属って言った……?」
艦長も真剣な表情で注意を受け入れたから次の説明に移ろうとすると、少しだけ困惑した様子の艦長に止められ私は怪訝な表情になり聞き返した。
「言ったけど……どうしたの?」
「っ、お前!?どうしたのじゃ、ねって!!……いや、落ち着け、落ち着くんだ俺、焦るのは良くない」
「?」
急に激昂したかと思えば、今度は何度も深い深呼吸を繰り返して無理矢理自分を落ち着ける姿に首を傾げていると、なんとか落ち着いた様子の艦長が一つ咳払いして質問してきた。
「ゴホン、えっと……ヤハギ、お前って総旗艦直属だったんだよな?」
「だからさっきもそう言ったじゃない。嘘なんてついてないから安し―――いや、待って……?ちょっと待ちなさい……もしかして艦長が言ってるのってそういう……?」
ユニオンコアがようやく演算処理を終え艦長の言わんとすることを理解し遠慮がちに問うと、艦長が重苦しい顔をしながら頷いたので私は思わず、あ……と口にしてしまったが、勘違いを正すべくすぐに弁明した。
「いや誤解されないように先に言っておくけど、私には海洋封鎖をやめさせるどころか霧に命令する権限自体ないし、元々なかったから」
「……だよな。まぁ薄々わかってはいた」
「わかってたのね……」
しかし最初からわかっていたという顔をした艦長に弁明はどうやら必要なかったようだと悟り、息を吐いた。
「いくら総旗艦直属とはいえ元って言ってたからな。離反した奴に権限保たせる程霧は甘くないってことくらい、ここ何年もで痛いほど理解している。そんな甘かったら人類はまた海に出てるっての」
「まぁ確かに。痛いほど理解は出来ないけど、彼女達が甘くないことはわかるわ……人類の海洋再進出は知らないけど」
まぁ確かに、艦長の言い分も理解出来なくはない。実際のところ人間達は少しずつ霧への対抗手段を持ちつつある。
それに、メンタルモデル――感情の獲得によって霧に変化が起きて霧が分裂するのは確かとして、どこまで混乱が拡散していくのかはまだまだ未知数。いくら物語が前提となった世界だとしても、今はれっきとした現実である以上何が起こるかはわからない。
「……」
「……何なの、その目?」
「……いやさっきの話聞いた感じ、多分お前が例外だってのはわかってんだけど、えっとな?なんかさっきのお前見て霧って実は人間とほぼ大差ないんじゃね?って思って」
「霧と人間が、ねぇ……」
「あー、その不快にさせたならスマン、悪かった。切り替えてこれからのこと考えるぞ。さっきも話してたしな」
艦長があくまで私は例外だと前置きしたが、後の乙女プラグインやら姉さま狂いとかを考えるとつい苦笑いを浮かべてしまい、それを私が不快に思ったと勘違いしたのか慌てて話題を逸らされた。
「別に不快に感じた訳ではないけど……でもそうね、何時までも話をしてる場合じゃあないわ」
「どうだかね……とりあえず必要なのは戦闘時に負った損傷の修理、及び消耗した各兵器の補給を行う為の拠点だ。軍の施設を使えればそれが一番有り難いんだが……」
まぁ確かに、流石に重力子兵器の補給は出来ないけど通常兵器や食料なら補給可能だから、できるならそれが一番手っ取り早いし、アドミラリティ・コードによって陸への攻撃が禁止されている霧を避ける意味でも最適。だけど……
「……あなたの元上司様方はどんな判断を下すのかしらね?」
「あー、保守派は面倒だし、第一この艦のこと黙ってたからな……あんな作戦に参加させられた恨みとか勝手に想像されて不穏分子と見做されて国家反逆罪とかなったら嫌だし……それにお前も俺以外は乗せたくないんだろ?」
「それは当然」
「だと思ったよ」
そしてニヤリと言った笑みを浮かべた艦長だったが、ふと再びモニターを見て顔を顰め私を手招きした。
私は艦長に向かって歩きながら、わざわざ呼ぶほど気になることってこの付近の海域にあったっけ……?ま、いっかと思った。
「この艦隊は?」
「その艦隊は東洋方面第2巡航艦隊ね。現在は前総旗艦のナガトが旗艦として指揮を取っているわ」
「ナガト……あのビッグセブンの一角か……」
「あ、海域強襲制圧艦も数隻所属してるからガチンコはおすすめしないわよ」
「海域強襲制圧艦……?そんな艦種あったか?」
人類の中ではまだ航空母艦を海域強襲制圧艦って呼称する呼び方は広がってないのね。なら丁度いいしここで説明しておきましょう。
モニターを操作し、海図から海域強襲制圧艦に属する艦艇を表示する。
「ん?っておいこれ」
「そう、あなた達の言う航空母艦という艦種の艦艇を霧では海域強襲制圧艦って呼称してるのよ」
「わざわざ呼び方変える必要あったのか?」
「さぁ?私旗艦でもなんでもないただの軽巡洋艦だからわからないわ。けど一つ可能性があるとするなら、今の霧では艦載機を使ってないからかしらね」
「空母が艦載機を運用しないって……それどうやって戦ってんの?」
どうやって戦ってるのか、って言われてもね………
「知らない」
「なんでだよ……お前も霧だろ……」
これしか言えないのよね……なんでだよって言われても知らないものは知らないからしょうがないじゃない……Gコードを持つ旗艦クラスの艦なら情報が開示されてるけど、それ以外の艦艇には秘匿されてるし。
「事情があるのよ!事情が!あーえっとー、うーん、そうね。東洋方面第2巡航艦隊に所属してる海域強襲制圧艦の中で有名なのはこの二隻かしら」
「いきなり話を逸らすな……っておいおい五航戦かよ」
「それと海域強襲制圧艦は出力という点で見れば大戦艦も上回るからそのつもりで」
「チートじゃねぇか」
「それは霧全体」
「そうだった」
そして、少し考えさせてくれと言って顎の下に手を置き、何か考え込むようにブツブツと呟き始めた艦長を見て私は一度海を眺めた。そこには相変わらず美しい蒼く輝く海があった。
忙しくて中々書けない日々が続いております。