蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route 作:シオヒガリ
私は予め送られてきていた海域データを元に所定位置にて錨を降ろし、艦長に目配せした。
艦長はうむと頷くと艦長席に備え付けられたコンソールを操作して通信を繋げた。
「ヤハギよりコントロールセンター、所定位置についた」
『こちらコントロールセンター。ヤハギ了解、そのまま待機を』
「わかった」
短い通信が終わるとこちらを見てきたので、軽く頷いてからセンサー系統の兵装を起動させ、探知を開始した。
現状では現海域には二隻の護衛艦、“あまつかぜ”及び“たちかぜ”の反応しかないからまだ大丈夫だろう。
「霧の反応はあるか?」
「まだないわね。401も同じく」
「そうか。……ヤハギ、分かってるな?」
「あまり目立たずでしょ?わかってるわ」
念を押すような問いに、依頼の詳細を見て気づいた謎過ぎる条件を告げる。正直な話、艦長も私も依頼人は何故わざわざこんな条件を設けてきたのか理解出来ていないが、まぁ依頼人には依頼人の考えがあるんだろうと納得していた。
「なら話は早い。理由はわからないが、どうにも依頼人には本艦ではなく401を目立たせたいという意図があるようだからな」
「本音を言うと理由くらい欲しいものだけど……依頼人に対する余計な詮索はタブー、でしょ?」
「あぁ、俺達はただ依頼をこなすだけだからな。あまりにも怪しいのなら兎も角として、余計なことに意識を割く必要はないさ」
艦長とお喋りをしている間にも各機関、各兵装、各システムのチェックを行い、異常がないかの確認を行う。
……ここに来るまでに遭遇した重巡カコとの戦闘で負ったダメージが原因で
「重力子エンジンに異常が発生していることを除けば問題なしよ」
「重力子エンジンに?それって大丈夫なのか?」
「リソースを少し割けば抑えられるくらいだから心配はいらないわ」
「ならいいけどな。……ただ、あちらとは違ってこっちには機関士がいない分少しでも不安要素は消して置きたいところでもある。まだ出てきたばっかりだが戻るか?」
本当に大丈夫なのか?と顔にデカデカと書かれたまま私を見る艦長を呆れながら見返す。あんた自分の艦を疑わないって言った癖に思いっきり疑ってるじゃない……という思いを込めて。
「冗談だよ、冗談。だからそんな顔すんなって、お前がそう言うのなら大丈夫なことくらいわかってるからさ」
「……で、本音は?」
「ドック突っ込んで修理してーなーって思ってますた。……なんつって?」
艦長の少し舌を出しながらの発言に私と艦長は一度互いに真顔になり――――
「「ふっ、アハハハ!」」
そしてお互いに吹き出し声を出して笑った。やっぱりこの人といると退屈しない、私の目的も少しずつだが果たされているのも、こうしてかつてと同じ人間性を取り戻していることが証明している。
「ふぅ~笑った笑った。そんじゃ、仕事すんぞ。切り替えて行け〜」
「えぇ、わかったわ。……でもその前に一ついい?」
「ん?なんだよ?」
こんなあなただからこそ、伝えたいことがある。
「私はこれまでも、そしてこれからもあなたの
「っ!お前……!、……あれ以来一度も呼んでくれなかったっていうのに急に俺の名を言うとは、いったいどういう風の吹き回しだ?」
軍帽で顔を隠してしまったから艦長の表情はわからないが、その声色からして悪いように取られてはいないと思った。
「別に深く考えなくてもいいわ。これは私の「だが、ここまで言われちゃあ手を抜くなんざ出来ねぇな。いいさ、どうせこっちも乗りかかった船だ。それこそ文字通りにな?」!!、艦長……」
「お前がこれからも俺の艦としていてくれるのなら、俺は艦長としてそれに応えるまでだ。たとえ火の中水の中、それこそ深海だろうと隣にいてやるから覚悟しとけ」
「え、それって…、もしかして…?」
先程まで俗に言う感極まるという状況だった私だが、流石にそれは不味いのでは?と思い一気に冷静になった。
荒ぶっていた感情波のコントロールが急速に平時と同じレベルになっていくのを感じながら問いかける。
「死んでも一緒にいて「それはだめ」…な、なんでぇ?死なばもろともじゃねぇの?」
何をカッコつけているのかこの男は……冷静になってからもう一度自分が何を言っているのか理解しろしか思えない。
何にせよこのままだと埒が明かないだろうし端的に示そう。そうしよう。
「あなたが良くてもあなたの家族は良くないからに決まってるでしょ?お父さんはもうこの世にいないようだけど、まだお母さんと妹が生きているのに置いて逝くなんて私も許さないわよ」
「あ……」
あと言外に私が沈むって言ったの口にはしてないけど許さんからなお前……っ!と、来たようね。予想外の戦闘があったとはいえ到着が結構ギリギリになったのは要反省ね。
「その気持ちは嬉しいけど、自分の命をもっと大切に。命あってこその生であることは忘れないように」
「……そうだったな、すまん。思い出させてくれてありがとよ」
その言葉に頷き、それと同時にモニターにレーダーの探知反応を映し出す。
「それじゃ準備して、来たわよ」
「あん?ハァ、もうお出ましか。火器管制システム起動、各VLSに各種ミサイル装填」
「了解、各VLS展開」
私の意志に呼応して甲板のVLSが口を開き、中からミサイルが顔を出す。それと同時に敵艦のスキャン及び戦術ネットワークでの照合を開始――完了。
完了と同時に、まるで狙い澄ましたかのような言葉が艦長の口から飛び出した。
「敵の艦名はわかるか?」
「ナガラ級ナガラ、
「やっぱりか。なら作戦に変更は無し、撃沈は401に任せ裏方に徹するぞ」
「了解」
チラリと艦長の顔を覗き込むと、そこには先程までの腑抜けた男はおらず、戦場に立つ一人の戦士がいた。その切り替えの早さ、まさに風の如し――って何言ってんの私……
「宇宙センターの防衛システムに連動、ミサイル郡に合わせて撃て、なるべく向こうには悟られないようにな」
指示に従い宇宙センターミサイル防衛システムと連動。
連動許可は予め得ているし、仮に得ていなくても無理矢理連動出来るから問題はない。
「ナガラミサイル発射、防衛システム発射信号感知」
「撃て!」
ナガラから発射された数々のミサイルを迎撃するために宇宙センターから放たれる多数のミサイル。
それらに紛れさせながら撃ち出したミサイルは全てナガラのクラインフィールドに阻まれ有効打にはならない。
「敵艦健在、今の攻撃でのクラインフィールドの稼働率は……13%弱くらいかしら」
「織り込み済みだ、予定の数まで撃ち続けろ」
「発射継続、予定数まで残り――あっ」
発射と再装填を繰り返し、予定数までのカウントをしようとしたその瞬間、目の前でナガラの主砲が火を吹き二隻の護衛艦に命中。その艦体を海に沈めた。
「………」
「………」
私と艦長は思わず無言になりつつも、それぞれ作業の手は止めなかった。
あまつかぜとたちかぜを轟沈させたナガラが機雷原を抜けようとしたまさにその時、新たな重力子反応を検知した。
「っ!新しい重力子反応検知、潜水艦急速接近」
「…………もう来たのか。抜錨の後取舵一杯、ここを出るぞ」
「えっ――本当にいいの?」
急速で接近してくるその潜水艦はまず間違いなく401、ここに来る前にその艦長に会いたいと言っていたからこそ艦長の言葉を理解するのに時間がかかり、問いかけた。
「気が変わった。佐賀湾を出た後は進路を横須賀に設定しろ」
「気が変わったって……それに横須賀……?ハァ、了解」
結局気が変わったとしか答えない艦長の言い方にこれは口を割らないと判断し、言われた通りに進路を横須賀に設定した。
本格的な戦闘はまだですが、もう少しかもです。