蒼き鋼のアルペジオ Seeker's route 作:シオヒガリ
横須賀へ向かっていた筈の私達は、とあるアクシデントにより西之島への帰還を余儀なくされていた。
そのアクシデントというのが……
「まさか、カコがずっと着いて来てたなんて……予想外にも程があるわ」
「奴さん、相当俺らのこと目の敵にしてたっぽいな」
「旗艦命令も無視するとか、ちょっと度が過ぎてるわよ……」
行きにも遭遇したカコとの再度の交戦である。
実は私達と重巡カコの間には奇妙な縁がある。その縁というのも……
「まさか受けた仕事の先々で遭遇することになるとか思わんだろ、普通」
「そりゃそうよ」
これである。依頼人達に悪意などある筈もなく、最近はともかくそれまでのカコにも他意はなかった。
ならなんなのかと言われると……単なる偶然、としか片付けられないのよね……
あのお茶目総旗艦から密命を受けているとかならともかく、そんな様子でもないし……今の所不幸な偶然とするしかない。
「しっかし、一杯食わされちまったな」
「
「せめて重巡級、欲を言うなら海域強襲制圧艦のコアくらい欲しいもんだよな」
艦長の言葉には同意である。この西之島基地にも外部演算装置を設置し、騙し騙しやって来たとはいえ、やはりたかが軽巡一隻分の演算能力では役不足と言わざるを得ない。
「……カコもやってくれたわね」
「ありゃあ狙ってやってただろうな。……それに」
「艦長の策も何回か見破られてた」
「あぁ」
艦長の言葉に、私はカコとの戦闘を思い出した。
真正面からの撃ち合いではなく、不規則な行動パターンによる錯乱を主軸とする艦長の戦術は、力の差で押し切られピンチに陥ることはあれど、その戦術自体に完全に対応できた敵艦がいないと言える程、霧に刺さりまくっていた。
実際私からしても時々意味不明、かつ理解不能な艦長の戦術には、中々適応者は現れないだろうと思っていた。
というか、そうじゃないと困るのよね……
前述の通り、私達には力も無ければ人手もない訳だし、艦長の策はそんな困窮した戦況をどうにかこうにか、遣り繰りする中で生まれた代物……
合理的と言うには生々しく、非合理的と言うには硬い。
そんな私の艦長の策を、あの重巡カコは見破って来た。
如何に消耗を少なくし、限られた手札のみで最良の結果を掴み取るかを主軸に定めた作戦は、兵装を惜しみなく使う霧の行動パターンとは対極に位置すると言っていい。
「まさか霧が残弾数を誤魔化すとは思わなかったよ」
「こっちがよくやっていたとはいえ、敵にやられるとその危険性がよく分かるわね」
「連中がどのタイミングで補給に出向くとか、俺たち人類にゃ分かる訳ねぇし」
……にも関わらず、重巡カコは艦長の策すらも利用し、時に私達を上回った。
艦長が冷や汗をかきながら作戦を構築して行く様には、思わず私も唾を飲み込んだくらいだった。
まぁ、流石に全く新しい作戦には対応できないみたいだったから、そこを付いて崩した訳けど、それすらも対処されていた場合、今頃私達は海の藻屑と化していたと思う。
……これからもカコと交戦することになると思うと憂鬱ね。
今回私達に刺さった以上、次もやってくるだろうし……
「戦術ネットワークに情報を上げられるのは、不味いわね……」
「弾切れを装った不意打ちに、錨を下ろしての急停止による回避、どれも前に俺らが使った策だな」
確かに、艦長の言う通りかもしれない。
あの時のカコは、かつて艦長が立てた作戦を実行していたように思える。
なぜ霧がそんな行動を取ったのかは疑問だけど……カコは重巡クラス、メンタルモデルを持っていてもおかしくはない。
「良くも悪くも、霧も成長してるってことだな」
「……」
「そんな顔するなよ。それに、これは場合によってはチャンスかもしれないぞ」
「え?」
思わず艦長に目を向けると、艦長は不敵な笑みを浮かべていた。
「重巡カコは、一部とはいえ俺の戦術を用いて戦っていた。そりゃあつまり、"逆”もまた然りってことじゃないか?」
「――逆?」
艦長の言う逆の意味が分からず、オウム返しのように同じ言葉を口にした私に、艦長は再び笑った。
「あぁ、逆だ。俺の戦術を理解できるのなら、俺達の
「ッ!!」
……理解した。理解したとはいえ、それって……
「カコが私達に着いてくるかしら……」
「そればっかりは分からん。けど、カコが来るなら結構デカイと思うぞ?」
「……。単純に火力の上昇と、当基地の各種機能の向上、陣形による警戒範囲及び攻撃範囲の拡大。ってとこかしら」
「一つ一番重要なやつを忘れてるだろ」
一番重要?いったいなんの―――あ。
「超重力砲……」
「持ってるのは重巡クラス以上の艦艇からなんだろ?実際俺らだってカコのあれには苦渋を舐めさせられた。……あれがこっちに来るかもしれないって思うと、試してみる価値もあるだろ?」
「艦長……いや、智也。あなたって本当に……」
なんてこと考えるのかしらね、この艦長……
「惚れたか?」
「惚れる……よく分からないわね」
「おっと、そりゃ残念」
おどけたように肩を竦めた艦長だったが、不意に真剣な表情になる。
「と、こっからは真面目な話だ。クライアントからSSTOが撃墜されたとの連絡があった」
「撃墜?あぁ、あれね」
「こっちの状況も伝えたからな、無理にとは言われなかったが……どうするよ?」
「答えなんて最初から決まってるんでしょ?艦長、私はあなたの
「フッ、ありがとよ」
それにしても……まぁ、やっぱり撃墜はされるわよね。
支援物資はともかく、明確に私達を殺しうる兵器とか、霧からしたら脅威以外の何者でもないし。
霧の戦術ネットワークを覗きながら、考え事をしていたところ、艦長が爆弾発言をした。
「一日、と言いたいところだが、半日で済ませてくれないか」
「――は?」
「悪い!カコがまた動き出す前に出たいんだよ!」
「えぇ……どれだけ急いでも一日はかかるって伝えたわよね……?」
カコのユニオンコアのロックが解けるのが、あの戦いから24時間後と考えると、艦長の危惧も分かる。
……けど、こればっかりは……
「なんとかならないか……?」
「……無理」
少なくとも
こっちは機関損傷時のショートで一部が焼け付いただけだから、エンジンと比べたらまだマシ……いや、やられてる時点だマシも何もわね。
……重力子兵器すらも囮に使うあの執念には敬意を表するけど、タイミングがタイミングだし、やめて欲しかったとしか……
「ハァ、やっぱり無理か……」
「いくらカコが居たとしても、ズタズタにされた回路を半日では厳しいし、まして私一人とか無理ゲーにも程があるわ」
「工作艦とかいたらいいんだけどな……明石とか」
「……」
無いものねだりをするような艦長の発言に、思わず真顔になる。
確かに人類の前には滅多に姿を現さないが、工作艦――それもまさに今名前が出たアカシという名を持つ艦は、実在しているのだから。
「そうね」
しかしそれを艦長に伝えるつもりはない。
わざわざ伝えなくとも艦長も分かってると思うし。
過去の大戦時の艦艇の姿を模している以上、アカシを含む工作艦や補給艦といった艦艇達もまた霧に属していることも。
そして……それらの艦艇が私達に与する可能性が低いということも。
「今できることを、するしかないわね」
「無茶言って悪いな。半日は言い過ぎとしても、一日切れるようにはしてくれ」
またこの艦長は……
「そこは一日でいいって言うとこでしょ?まぁ、善処はするけど……」
「頼んだぞ」
「はいはい」
私が返事を返すと、艦長は眼光を鋭く光らせながら、そそくさとドックを出ていった。
……妙に横須賀に行きたがってたし、何か考えでもあるのかしらね。
過去の重巡カコ戦は描写しようか迷ってるとこですが、機会があるなら基地関連のアレコレと一緒に、番外編で乗せるかもです。