異世界の喫茶店   作:莉瑠

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異世界の喫茶店①

 人里離れた場所に小さな喫茶店があった。そこで働くのは店長・()(づか)(よし)、副店長・ととや(りょう)、そしてバイトリーダーの()(うら)(しょう)ゐの男三人であった。

 

「もー! 店長! タバコばっかり吸ってないで開店準備を手伝ってよ~!」

 

 テーブル席のテーブルを拭きながら口を尖らせ文句を言う照ゐに、店長である善は紫煙をくゆらせながら、

 

「おー、しょうくんは毎回、働き者で助かるよ~」

「助かるよ~、じゃなくって、店長も働いてって言ってるのっ!」

 

 照ゐの文句など意に介する様子もなく、善はカウンターでタバコを吸っている。そんな善の背後から足音を消し、ゆっくりと近付く人物がいた。大きな体躯をかがめ、なるべく小さくなってゆっくりと善に近付くこの人物こそが、この『限りなく透明な喫茶店』の副店長をしている、ととや燎である。気配を最大限に消した燎は、善の後ろに立つとゆっくりと口を開いた。

 

「おはようございます~……」

「のわぁっ!」

「りょうくんっ?」

 

 どこから出したのか分からない、低音の燎の声に、今まで()(ゆう)(しゃく)(しゃく)の様子でタバコを吸っていた善の肩がビクリと震える。同時に照ゐの背筋も固まり、驚いて振り返った先に居た燎の名前を思わず叫んだ。

 

「あっはっは! いい反応!」

「りょうくんっ! その登場の仕方はやめてって言ってるでしょっ?」

「だって、面白いんだもん」

「だもんって、カワイコぶってもダメだから! ……、あぁ……、俺の腰、逝った……」

「マジぃ?」

 

 善の反応に満足そうに大笑いする燎だったが、店長である善が今回、腰を痛めたと知って照ゐまでもが大笑いをする。

 

「店長は相変わらず、怖がりだなぁ~!」

「ウルサイ! しょうくん、手ぇ止めないで!」

「はいはーい」

 

 善からの言葉に返事だけは従順な照ゐだったが、先程の善と燎のやり取りを思い出してはクツクツと一人肩を震わせていた。

 普段からこうして悪ふざけばかりをしている三人ではあるが、この三人にはそれぞれ別の顔があった。

 

 店長である善はスナイパーだ。魔物の頭を一発で撃ち抜くことができる。

 副店長である燎は魔導師である。封印に長けたその力を普段は隠している。

 そしてバイトリーダーの照ゐは夢魔の国の王子である。眠ることにより、ターゲットへ幻覚を見せることができる。

 そうした三人たちは普段からじゃれ合いながらこの小さな喫茶店を切り盛りしていた。

 

「でもさぁ、こう閑古鳥が鳴いてたら、喫茶の将来も心配じゃない~? 俺、時給、上がらないし」

 

 照ゐの言葉通り、ここ数日この喫茶店に訪れた客は一人もいなかった。そんな照ゐの言葉を聞きながら、善は痛めた腰をさすりつつ新しいタバコに火を点ける。

 

「ここに客が来ないってことは、世界が平和ってこった」

「確かに」

 

 善の言葉に燎が同意する。

 この『限りなく透明な喫茶店』はその名の通り『限りなく透明』なのである。見える人には見えるが、大多数の人には見えない。なぜなら『透明』だからだ。

 そんな訳ありの喫茶店に来る客人もまた、訳あり、と言うことだ。

 そんな話をしていると、

 

 

 

 チリン、チリン……。

 

 

 

 急に喫茶店の扉が開いた。

 三人の視線が一斉に扉へと向かう。そこに立っていたのは、ボロボロの茶色の衣服を身に(まと)った男だった。

 

「いらっしゃいませ」

 

 善は目を細めながらこの小汚い客に声をかけた。続いて燎が客の前へと向かい、

 

「お一人様ですね? どうぞ、こちらへ」

 

 そう言って奥のカウンター席へと案内した。男性客は黙って燎の後ろをついて歩く。その姿を、照ゐは黙って目で追っているのだった。

 

「どうぞ、ごゆっくり」

 

 燎は男性客にそう言うと、そっとその場を離れる。善はタバコの火をくゆらせながらじっとこの男性客を観察した。

 みすぼらしい外見に似合わず、その瞳には光がある。ギラギラとしたその光は、このみすぼらしい外見にはあまりにも不釣り合いだった。

 

(やはり、この客も訳あり、って訳か……)

 

 善はタバコの煙を吸い込みながらそう思った。それからおもむろにタバコの火を消すとゆっくりと男性客のカウンターの前へ立つ。

 

「ご注文は?」

 

 善の言葉に男性客は顔を上げ、まっすぐに見上げてきた。善はその視線を受けとめる。そしてその男性客の口から出る言葉を待った。

 

「……、アンタたち、異世界の人間なんだろう?」

 

 たっぷりの間を置いて、男性客の重い口から発せられた言葉にその場にいた三人の表情が一瞬、固まる。

 

「俺も、異世界から来た」

 

 続いた男の言葉に、テーブルを拭いていた照ゐの手も完全に止まる。今や三人の視線はこの、怪しい男性客に釘付けである。

 

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