「アンジュ〜!お待たせ〜!」
天開からポケモンを貰ったその日の昼…ヘルエスタシティの入り口で待っていたアンジュにリゼが駆け寄る
「親御さんとの話はちゃんと済んだ?」
「もう大変だったよ。お母様はともかく、お父様が泣きついてきて…」
「まあ、しばらく会えんくなるからなぁ」
「そういうアンジュこそいいの?別に付いて来なくても…」
「いやいや、自分の立場を忘れないでよ。リゼは王族なんだから、旅の最中に何かあったら困るでしょ。それに、私も久しぶりに旅ができるの楽しみだったんだから」
「ありがとう、アンジュ。でも、手助けするのは私が本当に無理ってなった時だけにしてね!1人前になるためにも出来ることは1人でしないと!」
「うぅ…あのリゼがこんなに立派になって…アンちゃん嬉しいような寂しいような…」
「はいはい、いいから行くよ」
「人の感傷をそんな軽く遇らうことある!?」
「それで、まずは何処に行くのがいいかな?」
「無視はよくないよなぁ!?…まあ、最初に挑戦するジムとしては、ここから西にあるグンカンシティが1番いいよ。この地方で1番有名なトレーナーズスクールもあるし」
「よし、ならグンカンシティ目指して出発だ!」
*
ヘルエスタシティとグンカンシティの間に位置する道路。そこから少し外れた草むらをリゼとアンジュは歩いていた
「リゼ〜…。普通に道路の方歩かん…?」
「なに言ってるのアンジュ!せっかく旅に出たんだからポケモンとの出会いを求めて草むらを通るのは当然でしょ!」
正に旅に出たばかりのトレーナー、と言わんばかりの初々しい解答にアンジュは仕方がないと諦める
視界に広がる草むらを見渡せば、そこには至る所にポケモンが見えた
草むらの中を駆ける小型のポケモン、木々に止まってこちらを見つめる鳥ポケモン
そんなポケモン達をリゼは興奮気味に見ていた
「野生のポケモンがこんなに…!どの子も欲しい〜!」
「こらこら、あんまり贅沢言わない。6匹までならまだしも、それ以上は城の庭に送られるんよ?沢山ゲットしても世話し切れるんか?」
アンジュにそう言われ、リゼはたしかにと少し残念がる
これが育て屋や研究所を持つ人ならもっと広い敷地があるため、多くのポケモンをゲット出来るのに…
と、たらればなことを考えた時、ふとあることを思い出す
「そういえば、兄上は今どうしてるのかな?」
兄上という言葉に、アンジュが僅かにピクリと体を震わせるが、リゼはそれに気付かない
「さ、さあね?まだポケモン修行の旅を続けてるんじゃない?結構頑固というか、こだわりのある人だし」
リゼの兄は彼女がまだ幼少の頃から改めて旅に出ており、それから一度も帰ってきたことはない
「…心配?」
「ううん、そんなことはないよ。だって兄上は強くて逞しい人だから。きっと色んなところでポケモンと触れ合ったり、バトルしたりしてると思う」
「…そうだね」
と、会話をしていると辺りから騒がしい音が聞こえ始める
ポケモンの鳴き声と、慌ただしく羽を羽ばたかせている音だった
「な、なに…!?何処から…!?」
リゼが周囲を見渡すと、少し先の林の中から3匹のことりポケモン:オニスズメが飛び出す
そして、その様子は何かを追いかけているようであった
オニスズメの視線の先を注視するとそこには全力で逃げようとしているいもむしポケモン:キャタピーの姿があった
「あの子襲われてる!助けないと!」
「あっ…!ちょっと、リゼ…!」
オニスズメに襲われているキャタピーを見てリゼは無我夢中で駆け出し、モンスターボールを構える
「ポッチャマ!イーブイ!お願い!」
リゼが投げたボールからポッチャマとイーブイが飛び出す
「ポッチャマ、"あわ"攻撃!イーブイはその間にキャタピーをこっちに!」
リゼの指示に2匹が動く
ポッチャマが繰り出した"あわ"をオニスズメ達が食らっている間に、イーブイはキャタピーを背中に乗せてリゼの下まで運んで来る
「もう大丈夫だからね…!」
リゼはキャタピーを抱きかかえ、安心させようと声をかけていると、獲物を取られたと激怒したオニスズメ達が再び襲い来る
「ポッチャマ!もう一度"あわ"攻撃!」
ポッチャマは再びあわを繰り出すも、オニスズメ達は怒りによって怯むこともなく突っ込んで来る
そして、"あわ"を抜けたところで3匹が同時に"つつく"でポッチャマを攻撃する
「ポチャ〜…っ!」
「ポッチャマ…!?」
3匹分の"つつく"が直撃し、ポッチャマはダウンしてしまう
そしてそのまま、オニスズメ達はリゼに向かって突き進み、リゼは攻撃が当たると思い目を瞑る
「ゴルーグ!リゼを守って!」
その時、アンジュの叫び声が聞こえると共に、リゼのすぐ目の前でゴーレムポケモン:ゴルーグがリゼとオニスズメ達の間に飛び出し、その攻撃を受け止める
「リゼ!そこから離れてこっちに!」
アンジュに呼ばれ、リゼはポッチャマをボールに戻し、イーブイと共に駆け寄る
「ありがとう、アンジュ…!」
「考えなしに突っ込んだら危ないだろ!まあ、そのキャタピーのことを思ってのことなのは分かるし、そこがリゼの良いところでもあるけど…!」
「ご、ごめんなさい…」
ツンデレのような発言に、リゼは少し照れながら反省の言葉を述べる
「ゴルーグ!"ジャイロボール"で追い払って!」
群がって攻撃してくるオニスズメを、ゴルーグは"ジャイロボール"で弾き飛ばす
それを受けたオニスズメは一目散に林の中へと消えて行った
「ふぅ…なんとかなった…」
オニスズメ達を追い払い、アンジュは安堵の息を漏らす
「アンジュ、本当にありがとう。ゴルーグも」
リゼからの感謝の言葉にゴルーグはニコリと笑って応える
「まあ、こういう時のために付いて来たわけだしね。でも、あんまり無茶はしないでほしいかな。今回はまだ良い方だけど、もっと強いポケモンが出てきたりしたら…」
と、アンジュが言葉を言い切る前に、再び騒がしい音が聞こえる
音のする方を振り向くと、先程のオニスズメ達がその親分であろう、くちばしポケモン:オニドリルを引き連れて戻ってきていた
(オニドリル…!たしかオニスズメの進化系…!でもアンジュのゴルーグは強いし、どうってこと…?)
「アンジュ…?」
と、アンジュの方に視線を移したリゼはそこでアンジュの様子がおかしいことに気付く
アンジュの目は怯えていた
息は上がり、拳を強く握りしめている
「アンジュ…!?どうしたの…!?」
声が届いていないのか、アンジュは身動き1つしない
そうこうしている間にオニドリルは接近し、手前にいるゴルーグに攻撃を仕掛ける
幾度と繰り出される"つばさでうつ"攻撃をゴルーグはただただ受け止める
「アンジュ…!指示を出さないとゴルーグが…!」
リゼが懸命に叫ぶ。それでもアンジュは動かなかった
「…っ!ゴルーグ!なんでか分からないけど、アンジュが指示を出せないの!だからあなた自身で反撃して!」
アンジュが指示を出せないならゴルーグ本人の意志で戦ってもらおうと伝えるリゼ
だが、そのリゼの言葉にゴルーグは応えることはなく、ただ懸命にオニドリルの攻撃を受け止めるだけだった
「なんで…?どうして…?このままじゃ…」
訳の分からない状況で絶望に追い込まれ、リゼはもうダメだと感じた
「ヒコザル!"ひのこ"です!」
「イーブイ!"たいあたり"!」
だがその時、突如として現れたトレーナー2人が2匹のポケモン…こざるポケモン:ヒコザルとイーブイにオニドリルを攻撃させ、怯ませる
「あ、あなたは…!?」
その2人のトレーナーを見て、リゼが驚きの声を上げる
「リゼさん!大丈夫ですか!?」
1人は、リゼが通う学校の同級生であり、リゼの憧れの人である月ノ美兎
そしてもう1人は、その美兎の親友であり先輩、イーブイ好きとして知られる樋口楓であった
「オォーーッ!」
不意打ちを受け、オニドリルの敵意がヒコザルと楓のイーブイに向けられる
「あれ?全然ピンピンしてますね…」
「流石にレベル差が違うってことか…!」
自分達のポケモンとオニドリルのレベル差に雲行きが怪しくなる2人
「美兎さん、楓さん、ここは私に任せて」
その2人の後ろからもう1人…たしかな自信を持ったトレーナーが前に出る
静凛…美兎と楓と合わせてJK組と言われるほど2人と仲の良い先輩である
「カメール!"みずのはどう"!」
凛はボールを投げると共に指示を出し、ボールから飛び出したかめポケモン:カメールは"みずのはどう"をオニドリルに繰り出す
"みずのはどう"を受けたオニドリルはダメージを受けるとともに追加効果によって混乱し、自身に攻撃する
「これでトドメ!カメール!"ロケットずつき"!」
カメールの"ロケットずつき"が炸裂し、戦意を喪失したオニドリルはオニスズメ達を引き連れて空の彼方へと逃げ帰った
「流石は凛や。1年間特訓してただけのことはあるな」
「まあね。カメール、お疲れ様」
「カメッ!」
凛の労いにカメールは尻尾を振って喜ぶ
「リゼさん、大丈夫ですか?」
「委員長…!ありがとうございます!でもどうしてここに…?それにそのポケモンは…」
「お話なら後にしましょう。まずはポケモン達の回復を。それにリゼさんのお連れの方も顔色が良くないみたいですし」
美兎に言われ、リゼはハッと振り返り、アンジュの下へ駆け寄る
「アンジュ!大丈夫…!?」
「リゼ…。あはは、ごめん…。急に強そうなポケモンが出てきたものだからパニックになっちゃって…。いやぁ、しばらくバトルもしてなかったからかな〜…。あはははは…」
「そ、そうなの?大丈夫ならいいんだけど…」
「まあ、久しぶりの旅のトラブルで流石にちょっと疲れたかも。今日はこのままポケモンセンターに行って、そこに泊まるとしよか」
「う、うん…」
こうして、一向は真っ直ぐグンカンシティのポケモンセンターへと向かった
*
「はい、ポケモン達はみんな元気になりましたよ」
「ありがとうございます。ジョーイさん」
グンカンシティのポケモンセンター…リゼ達はそこで、先程の一件で傷ついたポケモンを回復してもらい、アンジュ以外の4人は施設内のラウンジで早めの夕食を取る
「アンジュさんは大丈夫ですか?」
「本人はそう言ってますけど、私としては心配です。ああいうアンジュを見るのは初めてなので…」
「まあ、野生のポケモンとのバトルでパニックを起こす事例はありますし、アンジュさんの場合は一過性のものかもしれませんから、旅をする内に慣れてくるんじゃないでしょうか?」
「そうですね…。ところで、もしかして美兎委員長も今日旅に…?」
「はい!天開博士からヒコザルを貰って、楓ちゃんと凛先輩と旅をするんです」
「そうだったんですか…!ということは、楓さんと凛先輩もポケモンを…?」
「いいや、私はイーブイとその進化系しか持たん主義だから貰ってないよ」
「私のカメールは去年に博士から貰ったゼニガメなの」
「去年ってことは1年旅に出るのを待ったんですか?」
「美兎さん達と旅をしたかったから。その間はずっとゼニガメと特訓して、カメールに進化したの」
「そうだったんですか」
そうして時間は過ぎ、夕食も食べ切って
「美兎さん達はこれからどうするんですか?」
「私達は先程の道路に戻ってみようと思います。どんなポケモンがいるのかじっくり見てみたいので」
「巻き込んでしまって本当にすみません…」
「いえいえ、困った時はお互い様です。まあ、実際私達も凛先輩がいなかったらどうなってたか…」
「あ〜、気にしなくていいよ〜」
「…ところでリゼさん。そのキャタピー、ゲットしないんですか?」
と、美兎は自分達の足元でご飯を食べるポケモン達…その中で誰のポケモンでもない、リゼが助けたキャタピーを見る
「どうでしょう…?無我夢中で助けただけでゲットのことまでは考えて…」
「…リゼさん、私はゲットすべきだと思います。こうしてリゼさんとキャタピーが出会ったのも何かの縁に違いありません」
「縁…」
美兎にそう言われ、リゼはキャタピーを見つめると、それに気付いたキャタピーもリゼを見つめ返す
「…ねぇ、キャタピー。よかったら私と一緒に行かない?」
勇気を出したその言葉にキャタピーは笑顔で応える
それを見たリゼはモンスターボールをキャタピーに向け、こつん、と当てる
ボールの中へとキャタピーが入り、数度揺れた後カチッ、とゲットの音を鳴らす
「よろしくね、キャタピー!」
「いいですねぇ。こうしたポケモンとの出会いも旅の醍醐味ですね」
「あかん、今めっちゃ感動して涙出そう…」
「おめでとうございます、リゼさん」
リゼのキャタピーゲットに美兎達が祝辞を送り、夕食を終えて各々の部屋へと別れた
*
「アンジュ…?大丈夫?ご飯持ってきたけど食べる?」
「あぁ、リゼ…。ごめんな、貰うわ」
ポケモンセンターの宿泊部屋に戻ったリゼは、受け取ったご飯を食べるアンジュと向き合う
「ねぇ、アンジュ…。本当に大丈夫?」
「あ、ああ…!大丈夫大丈夫!いきなりあんなことになるとは思ってなかったからな!次からは心構えできてるはずだから安心せぇ!」
"でも無茶は程々にな〜"と、アンジュは笑って付け加える
それでもリゼは不安に感じたが、当の本人がそう言う以上は信じてみようと肩の力を抜く
「…分かった。そうだ!見て見てアンジュ!キャタピーをゲットしたの!」
と、リゼは初めてのゲットを嬉々として話し出す
旅に危険はつきもの。だが、それと同時に思いがけない出会いもある
旅の1ページを刻んだこの夜は…少し長くなりそうであった
リゼ・ヘルエスタ
手持ち:ポッチャマ、イーブイ、キャタピー
アンジュ・カトリーナ
手持ち:ゴルーグ
月ノ美兎
手持ち:ヒコザル
樋口楓
手持ち:イーブイ
静凛
手持ち:カメール