『おーっとぉ…っ!遂に最初の試練達成者が出たぞぉ…っ!ほのおの試練の主ポケモン:エンニュートを打破したのはニュイ・ソシエールだぁぁぁ…っ!!』
RRRビーチのステージ上…そこのモニターで一部始終を見届けた舞元の実況が響き渡り、ギャラリーが大きな歓声を上げる
『マフォクシー強ぇ〜…!あれがテールナーの最終進化か〜…!』
『アンジュさんのビッパも凄かったねぇ〜!あの体格差でエンニュートを吹き飛ばすなんて…!』
『ああ!トレーナーのために全力を尽くそうとする想いがビシビシ伝わってきた!さあ、じめんの試練を除いて、他の場所でも追い詰めた主ポケモンが仲間を呼び寄せて試練も佳境に迫って来た!果たして、それぞれの試練をクリアするトレーナーは誰になるのか…!』
「ラグラージ!"れいとうパンチ"!」
『お…!向こうも進展したみたいだね…!』
各場所の試練が進むなか、ステージから少し離れた場所でバトルしていた葛葉と竜胆の方にも動きがあった
「ゴバァ…ッ!」
「ゴルバット…っ!」
猛毒状態にしたものの、それで苦しむ様子は見せず、動きも鈍ることのない強敵:ラグラージとのバトルの末、トドメの"れいとうパンチ"が炸裂し、ゴルバットは戦闘不能に陥る
「これでもう、後が無くなったね。まだやるつもりか?」
「…っ!当然だ…!俺はまだ負けてねぇ…!いけ…!リザード…!」
ゴルバットをボールに戻し、葛葉は最後の1体となるリザードを繰り出す
「ほう、リザード…!その子が相棒なのかな?ドーラと同じなんじゃね。でも、みずタイプポケモンを使う妾相手に最後の1体がその子だと勝ち目はもう無いと思うんじゃけど?」
「何度も言わせんなよ…!勝負はまだついてねぇ…!リザード…!」
「葛葉、そこまでだよ」
葛葉がリザードに指示を出そうとしたその時、2人と2体の間に叶が割り入る
「止めるなよ、叶…!まだ勝負は…!」
「ついてないけど、葛葉だってもう見えてるんだろ?ラグラージは倒せるかもしれないけど、竜胆さんの2体目は倒せない。それにイベントも終わりが近い。竜胆さんにも目的があるみたいだし、最後まで邪魔するのは迷惑じゃない?そうまでして、まだバトルする必要があるのか?」
「…っ!」
真剣な面持ちの叶に正論を説かれ、葛葉は少しずつ冷静を取り戻す
「…そう焦るなよ、葛葉。お前の気持ちは分かるけど、僕達が四天王相手に勝とうと思うのはまだ早いよ。現時点での実力差を把握出来ただけでも十分な収穫だと思おう?」
「でもよ…」
「まったく…お前の被害妄想は敏感過ぎるんだよ。少なくとも、竜胆さんはお前が目の敵にするような考えを持つ人じゃないと思うけど?」
「…分かったよ。行くぞ、リザード」
叶の説得を聞き入れ、葛葉はリザードを連れてその場から立ち去ろうと体を密林へと向ける
「おや?もうよいのか?」
「叶の言った通り、アンタの目的を邪魔してまで続けるのは迷惑だと思っただけだ。そうでなければ最後までやるつもりだった」
「負けることが分かっててもか?」
「負けることを前提にバトルしたりはしねぇよ。その瞬間まで、俺は勝ちを諦めねぇ」
「…その姿勢は嫌いじゃないよ。でも、一言忠告してあげる」
そう言った竜胆に、葛葉は耳を傾ける
「お主がこのまま強さをひたすらに求めるなら妾は愚か、ジムリーダーとしてのドーラにも勝つことは出来ないよ」
「なに…っ!」
「今一度、お主とポケモン達にとってポケモンバトルとは何なのか…考えてごらん?それじゃあ、妾は行かせてもらうね!頼んだよ、スワンナ!」
竜胆はラグラージを戻した代わりに"しらとりポケモン":スワンナを繰り出し、その足に掴まってアンジュ達の下へ飛び立つ
「強さを求めたら勝てないだと…?何訳の分からねぇこと言ってんだ…!強くなろうとしなくてどうやって最強のトレーナーになれるって言うんだ…!」
竜胆が去り際に残した言葉…その真意が分からない葛葉は怒りに声を震わせる
*
「バタフリー!"エアスラッシュ"!」
「バクーダ!"かえんほうしゃ"です!」
密林の東…リゼとレオスは他のトレーナー達と協力し、オニシズクモが呼び寄せたむしポケモン達の数を徐々に減らしていた
「かなり順調ですね…!」
「我々はそうですね…!しかし、他の皆さんはそうでもなさそうです…!」
リゼとレオスはまだ1体も欠けてはいないが、他のトレーナー達はリゼ達が合流する前からオニシズクモとのバトルで1体以上欠けており、続くむしポケモン達とのバトルで更に疲弊、もしくは残り1体に追い込まれた、惜しくも脱落した者も出ていた
「でも、最後にオニシズクモとバトルする上で十分な人数は残ってると思います…!これもレインさんがオニシズクモを押さえてくれたおかげですね…!」
とはいえ、オニシズクモの横槍があったら今以上に戦力を削られ、最悪リゼとレオスも1体以上の戦闘不能に陥った可能性があった
それを阻止し、ここまで単独でオニシズクモとその取り巻きのむしポケモン達を押さえてくれたレインにリゼは視線を移す
「インテレオン!"アクロバット"!」
インテレオンの"アクロバット"とオニシズクモの"アクアブレイク"が衝突…威力は互角、衝撃によって引き起こされた爆発で押し戻されるように両者は後退する
ここまでの間で、レインはインテレオンとヤドンと共にオニシズクモとのバトルに臨み、ヤドンが戦闘不能になるも取り巻きとしていたむしポケモン達を全て倒していた
そして、現在はインテレオン1体でオニシズクモとの攻防を繰り広げていた
「流石はレイン君、あのオニシズクモ相手によく耐えてますねぇ…!インテレオンもかなりダメージが溜まっているように見えますが、もう1体残っていることを踏まえれば、こちらが終わるまで持ち堪えてくれるでしょう…!」
「はい…!残りのむしポケモン達も早く倒して…!」
「うわぁぁぁぁ…っ!?」
残り20体もいないむしポケモン達を倒し切ろうとリゼが意気込もうとしたその瞬間、少し離れた所にいるトレーナー達の方から悲鳴が上がる
リゼとレオスが視線を向けると、そこには予想外のポケモンの姿があった
「あのポケモンは…!?」
「"ぎゃくてんポケモン":カラマネロです…!」
リゼ達の視界に映ったそのポケモン…カラマネロは他のトレーナー達のポケモンに襲い掛かり、次々と戦闘不能に陥らせていく
「あのカラマネロもオニシズクモが呼び寄せて来たポケモン…!?」
「たしかにアローラ地方の試練では、主ポケモンと同じタイプ以外のポケモンも呼び寄せて来ることはあります…!しかし、それはあくまで主ポケモンに何かしらの恩恵を与えられるポケモン…!オニシズクモとカラマネロにはその関係性がありません…!ということは…まさか…!」
「"つばめがえし"…!」
レオスが何かに気付いたと同時、リゼ達の後ろから技の指示を出す声が発せられる
直後に、リゼのバタフリーが"つばめがえし"の直撃を受けて地面に倒れ、戦闘不能となる
「エクスさん…!?何を…!」
「何を?見て分からないんですか?ライバルを蹴落としてるんですよ」
リゼとレオスが振り向くと、そこには2本の剣を手にしたエクスが佇んでいた
「バタフリー…!大丈夫…!?エクスさん…!なんでポケモンに剣なんて…!」
「ちょちょちょ…っ!誤解しないでくださいよ…!これは本物の剣じゃないですって…!」
「でしょうね…!見えたのは一瞬ですが、たしかにあの剣は"つばめがえし"を繰り出していた…!つまりはポケモンです…!」
「あの剣がポケモン…!?」
「そういうことです」
「ニダァ!」
エクスがレオスの推測に肯定するとともに、手にしている2本の剣…"とうけんポケモン":ニダンギルがその目を見開く
「本性を現しましたねぇ…!やはり小賢しい手を企んでいましたか…!我々を攻撃してお咎めなしということは、あなたはコダックがやられた時点で脱落してはいなかったんですね…!」
「で、でもどうやって…!ポケモンは最初に出してからは1体以上ずっと連れ出しておかないといけないのに…!」
「簡単ですよ。僕がコダックを戻してた時、全員オニシズクモに集中してたじゃないですか?あの時にカラマネロを出して潜ませておいたんですよ」
「そういうことでしたか…!だからあの時、ポケモンを連れ出していないように見えたあなたはドローンロトムに警告されなかった…!」
「そう!全てはこの瞬間…オニシズクモが呼び寄せたポケモン達を皆さんが頑張って数を減らし、疲弊してきた頃合いで潰すために!」
事の全貌を明らかにしたエクスはニッと笑う
「エクスさん…!なんでこんな…!」
「卑怯だと思いますか?でも、トレーナー同士の潰し合いはチャンピオンがOKしてくれてたじゃないですか。僕はあくまでも、ルール上問題ない行動を取ったに過ぎないんですよ?」
「でも…!ここまで協力してくれた皆さんを裏切って…!最後に誰が倒せるかは正々堂々と…!」
「そんな考えで四天王もチャンピオンも超えるトレーナーになれるんですか?」
飄々とした様子から一変、真剣な面持ちで疑問を投げ掛けるエクスにリゼは言葉を詰まらせる
「あ…!勘違いしないでくださいね?僕だってポケモンバトルは正々堂々やりますよ?でも、トレーナーとして強くなれるチャンスを前にして手段を選ぶ余裕があるんですか?僕はありませんけど。それとも、リゼさんはZリングとクリスタルが欲しくないんですか?」
「で、でも…!他の人を蹴落としてまでなんて…!」
「なら、ここは引き下がってください!僕はどんな手を使ってでも欲しいんです!僕は強くなりたいんです!全力で臨んでるんです!僕以上に執着してないなら、Zリングとクリスタルは譲ってください!」
叫ぶエクスの言葉に、リゼは目を見開く
エクスがZリングとクリスタルを求めているのは、ただ強くなりたいだけの漠然としたものではなく、何かしら強い想いがあってのことだとリゼは感じ取った
(エクスさんには、ポケモントレーナーとして純粋に強くなりたい想いがある…!なら、負けたくない…!)
チャンピオンを超える強いトレーナーを目指す
経緯や理由こそ違うだろうが、同じ頂きを目指すライバルとしてリゼの闘志が湧き上がる
「譲れません…!私も強くなりたい…!でも、それ以前にエクスさんに勝ちたくなりました…!」
リゼはそう宣言し、ボールを持った手をエクスに突き出す
「そこで1つ提案です。エクスさん、私と1対1でバトルしましょう。私が負けたら、レインさん達と一緒にエクスさんがオニシズクモを倒せるよう協力します。間違って私が倒してもZリングとクリスタルはエクスさんに譲ります」
「逆に僕が負けたらリゼさんを手伝えと?それで間違って僕が倒しても譲る保証は出来ませんよ?」
「エクスさんが負けた時は私達が脱落するまで手出ししないで貰います。その時はレオスさん、お願いします」
「…分かりました」
「この条件でどうですか?エクスさん。ここはトレーナーらしく、正々堂々バトルで決めませんか?」
リゼの提案に、エクスは少し考え込む
「まあ、ここで受け入れなかったら僕を脱落させるために皆さん地の果てまで追いかけて来るでしょ?」
「その間、"アクアリング"で少しずつ回復されるとはいえ、あなたを脱落させるまでの時間分ならなんとかなりますからね」
「本当、仲間がいるっていいですね…。師匠がいてくれたら強引にいくのに…。やったことについては後で怒られそうだけど…。分かりました、その提案に乗ります」
リゼの提案を受け入れたエクスはニダンギルを前に出す
「それじゃあ、私はあと少し残っているむしポケモン達を倒してきます。エクスさん、2体目を使った時は私が全力で相手になるので、覚悟しておいてくださいね?」
「そんなことしたら確実に僕不利なんでしませんよ…。そんなに信用ありません…?」
「念押しです。レインくーん!そういうことだからもう少し耐えてくださーい!」
「キッツいけど頑張る〜…っ!」
「すみません、レインさん…!お願い!ポッタイシ!」
レインに感謝を言いつつ、リゼはポッタイシを繰り出す
「それじゃあ…!」
「いきます…!」
リゼとエクス…Zリングとクリスタルを懸けた2人のバトルが始まる
「ポッタイシ!"バブルこうせん"!」
「ニダンギル!"シャドークロー"で突っ込め!」
ポッタイシが繰り出した"バブルこうせん"にニダンギルは"シャドークロー"を突き出す形で繰り出し、突っ込んで行く
「ポッタイシ!"メタルクロー"で迎え撃って!」
"バブルこうせん"を物ともせずに突っ込んで来るニダンギルにポッタイシは"メタルクロー"で迎撃…両者の技がぶつかり合う
「ポッ…タァ…ッ!」
技のぶつかり合いはニダンギルに軍配が上がり、ポッタイシに"シャドークロー"が炸裂する
「強い…!接近戦は不利かも…!ポッタイシ!"うずしお"!」
ポッタイシを上回る攻撃力を持つニダンギルに接近戦で挑むのは不利と考え、リゼは"うすしお"を指示し、ポッタイシの繰り出した"うずしお"にニダンギルは呑み込まれる
「ニダンギル!渦の回転を利用しろ!"ジャイロボール"!」
エクスの指示で、ニダンギルは渦の回転に乗ることで威力を増させた"ジャイロボール"で"うずしお"を打ち破り、そのままポッタイシに炸裂させる
「上手い…っ!でも、これならどうですか…!ポッタイシ!"れいとうビーム"!」
"うずしお"を破られたことに驚きつつも、リゼは冷静に次の指示を出し、ポッタイシの"れいとうビーム"をニダンギルに直撃させ、こおり状態にさせることで動きを封じさせる
「これで今度こそ身動きは取れないはず…!ポッタイシ!"バブルこうせん"!」
こおり状態で身動きができないニダンギルを一気に削り倒そうと、リゼはポッタイシに"バブルこうせん"を指示する
「くっ…!耐えろニダンギル…!"ソーラーブレード"だ…!」
それに対し、エクスはニダンギルの体力が持つことに賭けて"ソーラーブレード"を指示…氷漬けのニダンギルの剣に太陽から吸収した光のエネルギーが蓄積されていく
「くさタイプの技…!?ポッタイシ…!"うずしお"!」
くさタイプの物理技で脅威の威力を誇る"ソーラーブレード"を警戒し、リゼは"うずしお"に閉じ込めることでその威力を弱める、もしくは攻撃の中断を狙ってポッタイシに指示を出す
氷漬けのまま"うずしお"に呑まれるなか、ニダンギルの剣に光のエネルギーが十分に蓄積され、ソーラーブレード"を放つ準備が整う
「いけぇ…っ!"ソーラーブレード"…っ!」
技を繰り出す直前、光のエネルギーを蓄積させたニダンギルの刀身はそれを帯びて巨大化し、自身を拘束していた氷を砕く
そして、"うずしお"を無理矢理斬り裂いて突破し、ポッタイシに"ソーラーブレード"を炸裂させる
「ポタァ…ッ!」
「ポッタイシ…!」
効果抜群…"うずしお"によって威力は少し弱まっていたものの、その一撃によってポッタイシは大ダメージを負い、地面に伏せる
「これは勝負ありましたね…!それじゃあ、約束通り僕がオニシズクモを倒すために協力を…っ!?」
勝敗が決したと思ったエクスだったが、瀕死寸前の体を起こして立ち上がるポッタイシの姿が目に入り、言葉を詰まらせる
「ま、まだ立ち上がるんですか…!そんなボロボロの体で…!?」
「心配、ですよね?私もそうです…!でも、ポッタイシはまだ頑張ろうとしてる…!私と同じで負けたくない、勝ちたいって想ってるんです…!なら、私はこの子が最後まで全力を出せるように弱気なところは見せない…!最後まで気持ちを1つにして、あなたとニダンギルに挑みます…!」
劣勢にもかかわらず、敗北に対する恐怖や焦りを一切見せないリゼとポッタイシの迫力に、エクスは冷や汗を流しながらも笑みを浮かべる
(ジムリーダーやチャンピオン、"あの人"とはまた違うけど…!この人は…!いや、リゼさんとあのポッタイシは…強い…っ!)
ジムリーダーやチャンピオンのようなそもそもの実力が格上の相手とは違った強さをエクスはリゼから感じ取る
「油断するなよ、ニダンギル…!俺達も最後まで全力だ…!"シャドークロー"!」
「受けて立とう…!ポッタイシ…!"メタルクロー"!」
再び、ポッタイシとニダンギル…2体の技がぶつかり合う
「ポォタァ…ッ!」
「ニィダァ…ッ!」
最初の時よりも鬩ぎ合う…しかし、攻撃力が上回るニダンギルが徐々にポッタイシを押し返していく
「いけぇ…っ!ニダンギル…っ!そのまま押し勝てぇ…っ!」
「ポッタイシ…っ!あなたは負けない…っ!エクスさん達に勝って…私達、もっと強くなろう…っ!」
「ポォ…タァァァ…ッ!!」
リゼの呼び掛けに応えるようにポッタイシが咆哮した瞬間、その体が急に光り輝き出す
「おいおい…!まさか、嘘だろ…!?」
「これは…!?もしかして、進化…っ!」
光に包まれたポッタイシはその姿形を大きく変え、"こうていポケモン":エンペルトへと進化を遂げる
そして、"メタルクロー"から派生した新たな技"はがねのつばさ"でニダンギルを押し退ける
「ポッタイシ…!あなた、エンペルトに進化したのね…!それに"はがねのつばさ"まで…!」
「エンペッ!」
「…!」
進化を喜ぶリゼに、エンペルトは"喜ぶのはまだ早い"と言いたげに鳴く
「そうだね…!まだバトルの最中だもん…!喜ぶのは勝利と一緒にしよう…!」
エンペルトの気持ちを察したリゼは気を引き締め直してエクス達に向かい合う
「バトル中に進化って…!いや、それこそ小細工なんかじゃない…!上等だ…!ニダンギル!"ソーラーブレード"!」
進化した相手に驚くも、エクスとニダンギルの闘志が燃え上がり、"ソーラーブレード"を繰り出す態勢を整え始める
「エンペルト!"はがねの…"!」
「エンペ!」
そんなエクス達に受けて立とうとリゼも覚えたばかりの"はがねのつばさ"を指示に出そうとするが、エンペルトに声を掛けられて止められる
急にどうしたのかと思ったリゼだが、振り向いたエンペルトが技によって尖らせた嘴を見せた瞬間に理解する
「…っ!もう1つ新しい技を覚えたのね…!分かった!ならそれで決めよう!エンペルト!まずは"うずしお"!」
リゼの指示を受け、エンペルトは"うずしお"を繰り出す
だが、その"うずしお"は渦の下部を相手に向ける形で放たれた
「さっきと攻撃の仕方が違う…!一体何を…!」
「エンペルト!"うずしお"を利用して"ドリルくちばし"!」
先程とは異なる"うずしお"の攻撃方法にエクスが警戒するなか、エンペルトは"うずしお"に飛び込み、その中で渦の回転に合わせて"ドリルくちばし"を繰り出す
回転が噛み合った"うずしお"と"ドリルくちばし"は一体化して1つの技へと昇華…"渦を纏うドリルくちばし"となってニダンギルに迫る
「2つの技を1つにして攻撃してくるとか滅茶苦茶だろ…!でも、俺達も受けて立つぞ!ニダンギル!"ソーラーブレード"!」
チャージが完了して繰り出されたニダンギルの"ソーラーブレード"とエンペルトの"渦を纏うドリルくちばし"がぶつかり合う
強力な威力を誇った互いの技はぶつかり合った瞬間に凄まじい衝撃を放つ
激しい鬩ぎ合いの末…押し勝ったエンペルトがニダンギルを背後に通り過ぎ、遅れて発生した技の余波による爆発がニダンギルを襲う
「ニダンギル…!?」
エクスが叫ぶなか、相当なダメージを負ったものの耐え切ったニダンギルはよろめきながらも立ち上がる
「エクスさんのニダンギル…!強いですね…!」
「リゼさんのエンペルトこそ…!」
リゼとエクスは瀕死寸前でも立ち上がる互いのポケモンに称賛を送り合う
そして、互いに今度こそ勝負を決めようと指示を出そうとしたその時だった
「リゼ君…!オニシズクモがそっちに…っ!」
「リゼさん…!エンペルトに回避を…っ!」
レオスとレインの叫び声が聞こえてリゼが振り向くと、レインのインテレオン達を倒したオニシズクモが次の標的に定めたエンペルトに"アクアブレイク"を繰り出して迫って来ていた
「…っ!エンペルト…!避けて…っ!」
リゼは回避の指示を出すが、ここまでのバトルで疲弊したエンペルトは膝を突いてしまう
万事休す…誰もがそう思った
「ニダンギル…!エンペルトを守れ…っ!」
だが、エクスのニダンギルがエンペルトの前に飛び出し、オニシズクモの"アクアブレイク"をその身で受け止める
「うおおおおおお…っ!!」
更に、そこへエクスも飛び込んで押されるニダンギルを支えてオニシズクモの攻撃を抑え込む
「エクスさん…!?」
「今です…っ!オニシズクモを…っ!」
ニダンギルと共にオニシズクモの攻撃を耐えるエクスの想いを受け取り、リゼはエンペルトに指示を出す
「エンペルト…!"ドリルくちばし"!」
エンペルトは最後の力を振り絞って"ドリルくちばし"を繰り出し、オニシズクモに炸裂させる
「キシャァァァァァ…ッ!」
"ドリルくちばし"を受けたオニシズクモは大きく仰け反り、仰向けになりながらゆっくりと力無く倒れ込む
倒したのかどうか分からず、緊迫した空気に呑まれて誰も声を上げないなか、1体のドローンロトムがオニシズクモに近付く
『…オニシズクモ、戦闘不能!みずの試練勝者…リゼ・ヘルエスタ!』
「勝った…?勝った…!勝ったよ…!エンペルト…!」
ドローンロトムの勝利宣言から数秒遅れて、それを理解したリゼは大喜びでエンペルトの下へ駆け寄り、抱き締める
「おめでとう、リゼさん!それと最後は危ない目に合わせちゃってごめんなさい…!」
「いえ、ここまでレインさんが押さえてくれてなかったらどうなってたか分かりませんでした。みんなのために大変な役回りをさせてしまってこちらこそすみません…」
「それは気にしないでくださいよ。言ったじゃないですか、リゼさんにお礼がしたいって。そのためならこれくらいどうってことないですよ」
「そうですよぉ?だから暗い雰囲気はこれでおしまい!我々の勝利を素直に喜びましょう!」
「…お二人共、本当にありがとうございます。それとエクスさん、エンペルトを助けてくれてありがとうございました!」
リゼは手助けしてくれたレインとレオス…そして、最後にエンペルトを助け、オニシズクモを倒すチャンスを作ってくれたエクスとニダンギルに感謝を伝える
「…まあ、最後までやればバトルは僕の負けでしたからね。それなのに、勝った相手が横槍でやられる瞬間を見るなんて後味悪いじゃないですか。それだけですよ」
「その割には、かなり必死に見えましたけどねぇ?人としてどうかと思うところはありますが、ポケモンに対する愛は深いみたいですね」
「そ、そんなんじゃありませんよ…!ただ、あそこで助けないのは"英雄"らしくないじゃないですか…」
「"英雄"…?あんな姑息な手を使って…?」
「"英雄"というのは、過程がどうであれ偉業を成し遂げた人がそう呼ばれるんです。それに僕が取った行動はあくまでルールの許容範囲内…到底許されないような悪行をしたつもりはありません」
「法に抵触しない限りは多少卑劣な行為も躊躇わないと…。まあ、私もその考えには同意できますけど、それを世間が認めてくれるかは怪しいですね」
「関係ないですよ。僕は僕にとっての"英雄"らしさを目指すだけ。それに過程さえ見せなければ表面上は綺麗じゃないですか」
「そんな英雄やだなぁ…」
「でも、エクスさんらしいですね!」
「それじゃあ、僕はもう行かせてもらいますね。まだやれることが残ってるかもしれないんで」
そう言うとエクスは最後に残ったカラマネロを連れて颯爽とこの場から走り去って行く
「行っちゃったね」
「たしか、あの方角にはでんきの試練がありますね…。郡道君とその生徒達がいますが、どうしますか?」
「手伝ってあげたい気持ちはあるんですけど、エンペルトも限界だし、私はここまでにします」
「パタちも疲れた〜…!」
「なら、我々はビーチに戻って皆さんの帰りを待つとしましょう」
こうして、激闘の末にオニシズクモを倒してZリングとみずのクリスタルの獲得が約束されたリゼはレイン達と共に一足早くイベントを終え、アンジュ達の帰りを待つべくRRRビーチへと向かう
*
「ソシエ…!これ…!」
「流石にこれは予想してなかったかな…!まさか、ここの試練に挑んだ人達が全員もう脱落してるなんて…!」
密林の西…じめんの試練の主ポケモンが待ち構える場所に通ずる断崖絶壁に囲まれた通路の入り口に辿り着いたアンジュとニュイ
2人はそこで、脱落したと思われる様子で立ち去って行くトレーナー達を目の当たりにする
そんななか、1人のトレーナーがアンジュ達に声を掛ける
「なんだ?あんた等2人でここの主ポケモンに挑むつもりか?だったらやめときな、アレは2人は愚か、10人が束になっても勝てねぇ相手だ…」
「そうみたいね。大方、最初から協力する人が少なくて主ポケモンに蹂躙された…ってところかな?」
「へっ、お見通しか…。そうだよ、俺達は判断を誤ったんだ…。この場に集まった半分以上が最後を掻っ攫えればいいと最初から協力をしなかった…。俺もその1人だった…。仕方ないだろ?誰だって危険を冒さずに勝利を得たいもんだ…」
トレーナーは震える声で話を続ける
「でも、ここの主ポケモンは化け物だ…。どんなポケモンもほぼ一撃で戦闘不能にする力がある上に、効果抜群の技を受けても怯みやしねぇ…。遅れて協力してから少しは弱まったかと思えば、野生のポケモンを呼び寄せてきやがった…。こっちもそれまでのバトルで疲弊してたって言うのによ…」
「でも、最初から全員が協力していれば全滅は避けられたかもしれない」
「ああ、そうだ…。俺を含めて、誘惑に負けて保身に走った奴が多かった結果がこのザマだ…。Zリングとクリスタルが欲しいなら、他の試練を終えた奴等が来るのを待った方がいいぜ?」
「忠告ありがとう。でも、私達には私達の事情があるから」
「そうか…。無謀だろうが、健闘を祈るよ…」
トレーナーはそう言い残し、先を進むトレーナー達に続いてこの場から立ち去る
「全滅してたことには驚いたけど、私達にとっては好都合かもね。アンちゃん、心の準備はいい?」
「正直、怖いしめちゃくちゃ吐きそう…。でも、私はまだリゼの傍にいたい…!だから…行くよ…!」
呼吸は荒く、顔色も悪い…それでも立ち向かうことを決めたアンジュは体を震わせながらもその一歩を踏み出す
リゼ・ヘルエスタ
手持ち:エンペルト、イーブイ、バタフリー
サイホーン
アンジュ・カトリーナ
手持ち:ゴルーグ、ビッパ
葛葉
手持ち:リザード、ゴルバット、ギャラドス
ガバイト
竜胆尊
手持ち:ラグラージ、スワンナ
エクス・アルビオ
手持ち:コダック、ニダンギル、カラマネロ
レイン・パターソン
手持ち:インテレオン、ヤドン(ガラル)、ウデッポウ
レオス・ヴィンセント
手持ち:バクーダ、シュバルゴ