にじさんじ×ポケットモンスター   作:Mr.ソロ

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第44話「挑戦!リゼvs黛!」

 

「2人共お疲れ様」

 

「凄いバトルだったよ!」

 

「うん。負けちゃったけど、最後は緑仙もいいバトルが出来てたと思う」

 

「…そうだね。僕もそう思う」

 

 

バトルを終えたリゼと緑仙は観覧席で待っていたアンジュ達と合流して感想の言葉を受け取っていた

 

 

「ありがとう。でも、少し複雑な気持ちではあるかな」

 

「複雑?どうして?」

 

「もし、緑仙さんが最初から本調子だったらリオルでコジョンドを倒すことは出来なかったと思うし、その場合はコジョンドとウーラオスの2体を相手にエンペルトが勝つことはなかったと思う」

 

「今回は結果的に勝てただけ。だから、素直に勝利を喜べないってこと?」

 

「うん。喜ぶなら全力の緑仙さんに勝てた時じゃないと。だから緑仙さん、またいつかバトルしましょう!もし出来るなら、ポケモンリーグの舞台で!」

 

「…っ!そ、それは…」

 

「リゼちゃ〜ん!」

 

 

リゼの申し出に緑仙が口籠ったその時、聞き慣れた声が自身の名前を呼んでることに気付いたリゼは声のする方へと振り返る

 

 

「ひまちゃん…!それに葛葉さん達も!」

 

 

振り返ったその先には声の主であるひまわりとその一行である葛葉、叶、凛月、天宮の姿があった

 

だが、彼女達の傍には更にリゼ達の見知った人達の姿があった

 

 

「リゼさん、お久しぶりです!」

 

「こんなすぐにまた会えるなんて今日は良い日ですね!」

 

「三枝さんに不破さん…!それにエクスさん、アルスさん、ういはさんまで…!」

 

 

葛葉達と共に現れたのはヤオウシティで出逢った三枝と不破…そして、RRRビーチとスメシシティで出逢ったエクスとアルス、ういはの5人だった

 

 

「どうして皆が一緒に…!?」

 

「ひまちゃん達のジム再戦に向けての特訓で色んな人とバトルしてる間で妙に気が合ってね」

 

「実力も近いし、お互いに高め合えると思って一緒にバトルしてたのよ」

 

「にしても、ふわっち達もリゼさんと知り合いだったんだな。いつ会ってたんだよ?」

 

「ヤオウシティだな。そう言うエクス達は何処で出会ったん?」

 

「俺と師匠はRRRビーチで」

 

「私は先日遊園地で仲良くなったんですよ〜!」

 

「エクスさん達は三枝さん達と元々知り合いだったんですか?」

 

「まゆ君繋がりでね。あっきーなとふわっちはまゆ君の男友達なんだ」

 

「三枝さんと不破さんも黛さんと知り合いだったんですね…!」

 

「も…?ってことはリゼさんもまゆゆと知り合い?というか、緑仙達とも知り合いだったんだ」

 

 

リゼの疑問から始まった互いがいつ知り合ったのかの話し合いは更に緑仙達も巻き込んでいく

 

 

「まあ、会ったのはつい昨日だけど」

 

「緑仙さん達も三枝さん達と知り合いだったんですね」

 

「色々と縁があってね」

 

「そうそう!さっきのバトル見てましたよ〜!緑仙さんに勝つなんてリゼさん強いんですね!」

 

「というか、緑仙は社長には勝ってたよね?なんでスメシシティに戻って来てるの?」

 

「それは…」

 

 

ピンポンパンポーン…!

 

と、明那が緑仙に質問を投げかけたところでアナウンスが響き渡る

 

 

『4番バトルフィールドで予約の凛月様、三枝様。2番バトルフィールドで予約の天宮様、アルス様。間もなく試合を開始いたします』

 

「そうだった!バトルの予約してたんだった!」

 

「それじゃあ、私達行ってくるね。明那さん、よろしくお願いします!」

 

「おう!こちらこそ!」

 

「僕達も行こっか!」

 

「うん!よろしくね、アルスちゃん!」

 

 

順番が回ってきた凛月と明那、アルスと天宮は会話を中断してバトルフィールドへと向かって行った

 

 

「それじゃあ、僕達の順番が回ってくるまで凛月さん達のバトルを観戦しますか」

 

「そうだ!せっかくだし、リゼちゃん達もひま達とバトルしようよ!」

 

「いいですね!緑仙さんもやりましょうよ!」

 

「えっと、僕は…」

 

 

ひまわりの提案に同意したリゼの誘いに戸惑う緑仙は助言を求めるように夢追の方に顔を向ける

 

 

「…せっかくのお誘いだし、受けてあげたら?緑仙」

 

「…そうだね」

 

 

夢追に促され、緑仙は柔らかい微笑を浮かべて提案を受け入れる

 

 

「やったー!じゃあ、まずリゼちゃんはひまとやろう!」

 

「うん!思い返してみれば、ひまちゃんとバトルするのはこれが初めてかもね!負けないよ!」

 

「なら、えーっと…」

 

「緑仙だよ」

 

「緑仙さんね…俺は葛葉だ。俺もさっきのバトル最後の方しか見てねぇけど、相当実力あるみてぇだな」

 

「そう言う君は随分と自信満々だね」

 

「当たり前だ。なんせ俺は今年のポケモンリーグで優勝してチャンピオンになる男だからな」

 

「なら、思わずその自信を折ったりしないよう気を付けないとね」

 

「言うねぇ…!」

 

 

それぞれにバトルする相手を決め、スタジアム内の医療機器でポケモン達を回復させながらリゼ達はバトルの順番が回ってくる時を待つ

 

そして、午後の時間を目一杯使ってリゼ達はスタジアムで葛葉達とのバトルに興じた

 

 

 

 

「ふぅ〜…!やっぱりポケモンバトルは楽しいな〜!」

 

「ですね!ポケモン達と一緒に熱くなれる瞬間は最高の気分です!」

 

「うん!それに色んな人とのバトルすると沢山学べるしね!」

 

「ひまもポケモン達も今日1日でかなり強くなった気がするわ!付き合ってくれてほんまありがとう!」

 

「いやいや、俺達もひまちゃん達とバトル出来て良かったっすよ!」

 

「それにしても葛葉さん強いな〜…!今日バトルした相手全員に勝ってるんでしたっけ?」

 

「緑仙さんにはギリギリだったけどな。まあ、制覇したジムの数が追い付く頃には超えてるだろうけどな!」

 

「そうやって調子乗ってると足下掬われるよ?そもそも、余裕で勝てたバトルも数えられる程じゃん」

 

「う、うるせぇっ!」

 

 

夕暮れも近付き、長い時間バトルを続けて疲れた一同は観覧席で解散前の会話を交えていた

 

 

 

「緑仙さん…今日1日私と葛葉さん達とバトルしてどうでしたか?」

 

「うん…気持ちはだいぶ楽になったよ」

 

 

そして、会話している葛葉達の少し後ろの席でリゼ達は緑仙に今日1日を通しての感想を聞いていた

 

 

「それでどうかな、緑仙…。気持ちは変わった?」

 

「それなんだけど…ポケモンリーグの挑戦はやっぱりここで辞めようと思う」

 

「どうして…!あんなに楽しそうにバトルしてたじゃん…!」

 

「バトルは楽しかったよ…。でも、ポケモンリーグへの挑戦を考え直した時に思っちゃったんだ…。超えないといけない相手とのバトルで僕は今みたいなバトルが出来るのか…って」

 

 

緑仙は一呼吸置いて、自身が抱いている不安を打ち明ける

 

 

「チャンピオンになるためには今のチャンピオンに四天王、本気のジムリーダー、実力のあるライバル全員に勝たないといけない…。そう考えるだけでもプレッシャーが凄いんだ…。負けられないバトルで少しでも追い込まれたら…その時に僕は冷静でいられるかどうか…」

 

(チャンピオンになるためにはどんな相手にも負けるわけにはいけない…。その想いが強いからこそ、自分より格上とのバトルや敗北が迫ることで焦ってしまうんだ…)

 

 

チャンピオンを目指す上でトレーナーが自らに課す理想…どんな相手にも勝つ強さ

 

だからこそ、逆境に立たされた時に負けたくない想いが強くなり、それが焦りを生んでしまう

 

そうなれば思考も上手く働かず、バトルに対する楽しさや熱さも薄れてしまい、最大限のパフォーマンスで臨むことが出来なくなる

 

 

(今の緑仙さんに必要なのは勝てないと感じてしまうバトルでも全力を出せるようになること…。そのためにはその状況でどうバトルに臨んで、気負い過ぎないようにするかだけど…。そうだ…!)

 

 

緑仙が不安に思うところを理解し、それを克服させるためにはどうしたらいいか…思考を巡らせたリゼはあることを思い付き、ある人物の下へ駆け寄る

 

 

「ういはちゃん!お願いしたいことがあるんだけど…!」

 

「どうしたんですか、リゼさん…?そんなに慌てて…」

 

「ここに…黛さんを呼んでほしいの…!」

 

 

 

 

「…意外な顔ぶれだね。それで?一体何の用で俺をここに呼んだの?リゼさん」

 

 

リゼに頼まれてういはが連絡してから数十分後…バトルスタジアムに姿を現した黛は淡々とした様子でリゼに要件を尋ねる

 

 

「黛さん…私とバトルしてくれませんか?」

 

「「「「「…っ!!!?」」」」」

 

 

リゼの言葉にその場の全員が目を丸くして驚愕する

 

 

「リゼさんが黛さんと…!?」

 

「一体どういうことなんだ…!?」

 

「繋がりがあるからってズルくねぇか!?バトルなら俺もがっ…!」

 

「葛葉…ここはちょっと黙ってなよ」

 

「ち、窒息はさせないようにね?叶さん…」

 

 

葛葉達が騒ぎ出すなか、リゼにバトルを申し込まれた黛は少し眉を顰める程度に反応を示す

 

 

「唐突だね…。一応、理由を聞いてもいいかな?」

 

「緑仙さんのことはご存知なんですよね?」

 

「ああ、良い友人だよ」

 

「訳あって、緑仙さんは今ポケモンリーグへの挑戦を諦めようとしてるんです。私は緑仙さんにここで諦めてほしくない…。そこで、私と黛さんのバトルを見てもらおうと思ったんです」

 

「えぇっ…!?緑仙、そうだったの…!?」

 

「う、うん…」

 

 

リゼから告げられた緑仙の抱えている事情に明那が驚く

 

 

「…どうしてその考えに至ったのかは分からないけど、気持ちは理解した。でも悪いね、俺は今のリゼさんとバトルする気はないよ。せめて、全てのジムを制覇できる実力でもない限りは」

 

「それは…私とのバトルで黛さんが熱くなれないからですか?」

 

「どうしてリゼさんがそのことを…!?」

 

 

明那に続いて今度は不破がリゼの発言に驚く

 

 

「えっと…遊園地でういはちゃんのパフォーマンスがあった日に僕達が話したんだ」

 

「三枝さんと不破さんも黛さんのことは知ってたんですね」

 

「うん。僕とういはちゃん、エビ先輩、あっきーな、ふわっちはそのためにポケモンリーグを目指してるから」

 

「なになに…?どういうこと…?」

 

「実は、黛さんは今年のチャンピオンリーグを最後に四天王を辞めるつもりらしいんです。その要因が挑戦者とのバトルにあるみたいで…」

 

「そうなの…!?」

 

 

アンジュから黛の事情を聞いてひまわり達も驚愕する

 

 

「熱くなれない…そうだね、俺はそうなると思ってる。それに、これはリゼさん自身にも言えることだよ。どちらか一方が熱くなれないばかりか互いに最悪のバトルをすることになれば、むしろ緑仙さんには追い討ちになるかもね」

 

「それは…やってみないと分からないと思います…!」

 

「やらなくても分かるよ…今までがそうだった。新米トレーナーは特にね」

 

 

食い下がるリゼに黛は冷たくそう言い放つ

 

 

「たしかに…多くのトレーナーがその傾向にあると思いますが、そうでない可能性も0ではないのではないでしょうか?」

 

 

場の空気が重くなるなか、この場にいないはずのある人物の声が聞こえてリゼ達は振り向く

 

 

「加賀美さん…!?」

 

「「「「「社長ぉ…っ!?」」」」」

 

 

リゼ達のいる観覧席より上…そこに立っていたのはスメシジムのジムリーダーである加賀美だった

 

 

「なんでスメシジムのジムリーダーがこんなところに…!?」

 

「し、仕事はどうしたの…!?」

 

「緑仙さんの様子が気になりましてね…大急ぎで本日の業務を終わらせてきました」

 

 

葉加瀬の質問にそう答えながら、加賀美はリゼ達の下へ歩み寄って黛に向かい合う

 

 

「加賀美さん…あなたもまだ諦めてなかったんですね」

 

「ええ、私もういはさん達と同じで今の心境のまま黛さんが四天王を辞めてしまうことを心苦しく思っていますから。とはいえ、何の解決策も無しに無理矢理そうさせようとまでは思っていません」

 

「その言い方…まるでリゼさんとのバトルは解決策に成り得ると考えているように聞こえるけど?」

 

「ええ、少なくとも私はやる価値があると思っています。あなたのためにも、緑仙さんのためにも」

 

「へぇ、随分と高く評価してるんだね…。まだ旅に出て間もない新米トレーナーの彼女を」

 

「黛さん…私はジムリーダーとして実際にバトルして確信しました。リゼさんはあなたの求めるバトルを実現してくれるトレーナーだと」

 

「俺もそう思います…!リゼさんとのバトルは不思議と自然に熱くなるんです…!」

 

「そうらしいよね。あの狡賢いエビ先輩がZクリスタルを手に入れるチャンスを棒に振ったくらいだし」

 

「そうなんか、エクス…!?」

 

「師匠もふわっちも本当に俺のこと何だと思ってんだよ!」

 

 

リゼに対する加賀美の意見に同意を示すエクスがそれをアルス達に弄られて憤慨するなか、緑仙が黛の前に歩み出る

 

 

「黛…僕からもお願い。リゼとのバトルを見せてくれないかな?」

 

「…最悪の結果に終わるかもしれないよ?」

 

「それでもいいよ。リゼが僕に何を伝えたいのか…それを知りたいんだ」

 

 

真っ直ぐ見つめて頼み込む緑仙の本気が伝わったのか、黛は"そこまで言うなら仕方がない"とでも言いたげに溜め息を吐く

 

 

「…分かった、引き受けるよ」

 

「ありがとうございます…!」

 

 

申し込みが承諾され、リゼがバトルの予約を済ませてから数分後…リゼと黛は空いたバトルフィールドに向かい合い立った

 

 

『これより参加者リゼさんと黛さんのバトルを行います。使用ポケモンは3体。どちらかのポケモン全てを戦闘不能にした方の勝利となります。それでは、お互いに最初のポケモンを』

 

「いけ、メタグロス」

 

 

バトルの審判を執り仕切るドローンロトムから説明と指示がなされ、黛は覇気のない調子でメタグロスを繰り出す

 

 

「わあっ…!メタグロスだぁ…っ!」

 

「いきなり相棒登場かよ…!」

 

「様子見する気は一切無いってことか…。容赦なくリゼさんを叩き潰すつもりだ…」

 

「なあ、兄やん…。リゼちゃん、勝てるかなぁ…?」

 

「それは…はっきり言って不可能だね…。なんせ相手は竜胆さんに次ぐ実力を持つ四天王だから…」

 

「負けることはリゼも覚悟してると思う。でも、重要なのは勝敗じゃない…このバトルの内容です」

 

「内容…?それってどういう…?」

 

「見ていれば分かると思います。さて、対するリゼさんは1体目に何を繰り出すか…」

 

 

1体目から黛のパートナーであるメタグロスの登場に各々が反応を見せるなか、リゼも1体目のポケモンを繰り出す

 

 

「まずはあなたでいくよ!お願い!サイホーン!」

 

 

黛のメタグロスに対し、リゼはサイホーンを繰り出した

 

 

「はがねタイプに相性有利なじめんタイプか…まずはセオリー通りと言ったところだね」

 

「でも、サイホーンはいわタイプも持ち合わせてるからはがねタイプの技は効果抜群になるよ」

 

「そこはリゼさんも織り込み済みだろ。さて、今のリゼさんが何処まで通用するか…。でもって、四天王:黛灰の実力がどんなもんなのか…見せてもらおうじゃねぇか」

 

「……」

 

 

全員が固唾を飲んで見守るなか、遂にバトルの火蓋が切って落とされる

 

 

『それでは、バトル始め!』

 

「サイホーン!"ドリルライナー"!」

 

 

バトル開始の合図と同時にリゼが先制して指示を出し、サイホーンは"ドリルライナー"を繰り出してメタグロスへと突っ込む

 

 

「メタグロス、"コメットパンチ"」

 

 

対する黛の指示でメタグロスは"コメットパンチ"を繰り出してサイホーンとぶつかり合う

 

 

「サ…サイィ…ッ!?」

 

 

技のぶつかり合いは5秒と保たず、"ドリルライナー"に勝ったメタグロスの"コメットパンチ"がサイホーンを大きく吹き飛ばす

 

 

「サイホーン…っ!」

 

 

リゼは派手に吹き飛ばされたサイホーンの下へ駆け寄るが、"コメットパンチ"の一撃だけでボロボロとなったサイホーンに起き上がる様子はなかった

 

 

『サイホーン、戦闘不能!メタグロスの勝ち!』

 

「そ、そんな…!一撃で…!」

 

「流石は四天王の相棒ポケモン…!桁違いの強さだ…!」

 

 

サイホーンを一撃で戦闘不能にしたメタグロスの強さを目の当たりにして叶達が戦慄する

 

 

「まずは1体…他のポケモンもこの程度なら、メタグロスを追い込むことすら出来ないんじゃない?」

 

「それこそ…やってみなければ分かりません!お願い!イーブイ!」

 

 

サイホーンをボールに戻したリゼは続く2体目にイーブイを繰り出す

 

 

『それでは、バトル始め!』

 

「ノーマルタイプ…早くも自棄になったかな?」

 

「いいえ…!イーブイ!"でんこうせっか"!」

 

 

リゼの指示を受けてイーブイは"でんこうせっか"を繰り出し、メタグロスの周囲を素早く複雑な動きで駆け回る

 

 

「なるほど…!イーブイの"でんこうせっか"を活かした素早さでの撹乱が狙いだったんだ…!」

 

「直進ならともかく、あの図体のデカさで小回りが利くような動きは出来ねぇだろ!」

 

「いや、その作戦じゃ通用しません…!」

 

 

リゼの狙いを察した葛葉達が盛り上がりを見せるのに対して黛とのバトル経験があるエクスがそれを否定した直後…状況は一転する

 

 

「今だよ、イーブイ!"かみつく"攻撃!」

 

 

目で追い付けなくなったメタグロスの背後を取った瞬間、そこへ飛び込んだイーブイは"かみつく"を繰り出す

 

 

「メタグロス、"こうそくいどう"」

 

 

だが、"かみつく"が決まる直前の黛の指示でメタグロスは"こうそくいどう"を発動させて素早くその場から移動し、イーブイの背後へと回り込む

 

 

「…っ!?」

 

「"アームハンマー"」

 

 

予想外の出来事にリゼが声も詰まる程に驚くなか、メタグロスの繰り出した"アームハンマー"がイーブイに炸裂する

 

 

「イーブイ…っ!」

 

 

効果は抜群…その一撃をまともに食らったイーブイは力無く地面に倒れ伏していた

 

 

『イーブイ、戦闘不能!メタグロスの勝ち!』

 

「イーブイもやられちゃった…!」

 

「あのメタグロス、"こうそくいどう"を覚えてるのかよ…!」

 

「素早い相手に対応出来る上に、使えば素早さが下がる"アームハンマー"のカバーにもなる…技の構成にも隙がないね…」

 

「うん…。まゆ君のポケモン達の強さは単純なレベルだけじゃない…あらゆる状況への対応力を兼ね備えてるからでもあるんだ」

 

「…っ!」

 

 

続くイーブイも一撃で倒されてしまい、迫るリゼの敗北にひまわり達の表情が険しくなる

 

 

「発想は悪くなかった。でも、その程度じゃチャンピオンや俺を含めた四天王、本気のジムリーダー達には通用しないよ」

 

「みたいですね…流石に見立てが甘かったと反省しています」

 

「…それが分かっていて、まだやるつもり?」

 

「当然です…!お願い!エンペルト!」

 

 

遠回しに黛から促されたリタイアを拒否し、リゼは3体目のポケモンとしてエンペルトを繰り出す

 

 

「…リゼさん、流石に敗北は見えてるんでしょ?それなのにまだ諦めないのは1体でも倒せれば御の字…なんて考えてるからかな?」

 

「いいえ…!私はまだ勝つつもりでいます!エンペルトもそうです!」

 

「エンペッ!」

 

「…その威勢も果たして何処まで保てるだろうね」

 

『それでは、バトル始め!』

 

「エンペルト!"うずしお"!」

 

 

リゼにとってはもう後がないバトル…その開始とともにエンペルトが"うずしお"を繰り出し、メタグロスへと放つ

 

 

「メタグロス、躱して"アームハンマー"」

 

 

迫る"うずしお"をメタグロスは"こうそくいどう"で高めた素早さを以って難なく回避し、エンペルトに迫って右前脚からの"アームハンマー"を繰り出す

 

 

「エンペルト!"ドリルくちばし"で迎え撃って!」

 

 

メタグロスの"アームハンマー"に対してエンペルトは"ドリルくちばし"を繰り出してぶつかり合う

 

そして、ぶつかり合った技の相性もあってか、エンペルトとメタグロスは互角に張り合り続けていた

 

 

「頑張るね…。でも、この状況は俺の方が有利だ。メタグロス、"アームハンマー"」

 

 

しかし、ここで出された黛の指示によってメタグロスは"アームハンマー"を繰り出しているのとは反対の左前脚を使って更に"アームハンマー"を発動…追撃を加えてエンペルトを吹き飛ばす

 

 

「直撃…!効果は抜群だぞ…!」

 

「今の…さっきの緑仙さんとのバトルでリゼさんがやった戦法に似てる…!」

 

「両腕でも攻撃出来る技…その利点が活きましたね」

 

「対してエンペルトの"ドリルくちばし"は正面からぶつかったあの状態からじゃ"はがねのつばさ"を繰り出す際に体勢を変える必要があって隙が生じてしまう…」

 

「加えて、"ドリルくちばし"を繰り出してる状態で"うずしお"や"れいとうビーム"を使うことも出来ない…。緑仙さんとのバトルの時みたいに"はがねのつばさ"で防御すれば打開出来たかもしれないけど、技の相性で切り返す前に押し切られる可能性もあった…。これは流石に厳しいですね…」

 

 

エンペルトに大きなダメージが入ったことでアンジュ達の心配が更に募るなか、リゼは吹き飛ばされたエンペルトに呼び掛ける

 

 

「エンペルト…!大丈夫…!?」

 

「エンペ…ッ!」

 

 

大ダメージは受けたものの戦闘不能にまでは至っておらず、エンペルトはその体を起き上がらせる

 

 

「よし…!なら今度は…エンペルト!"うずしお"からの"ドリルくちばし"!」

 

 

"ドリルくちばし"では対抗し切れないと分かったリゼはエンペルトに"うずしお"と"ドリルくちばし"は絡み合わせた独自の合体技"渦纏うドリルくちばし"を繰り出させる

 

 

「出た…!リゼのエンペルトの大技…!」

 

「これならメタグロスのパワーに勝てるかも…!」

 

 

エンペルトの大技にアンジュと葉加瀬が期待するなか、黛は特に動じることもなく指示を出す

 

 

「メタグロス、"コメットパンチ"」

 

黛の指示を受けたメタグロスは右前脚での"コメットパンチ"を繰り出してぶつかり合う

 

だが、威力はエンペルトの方がやや勝っており、メタグロスは徐々に押し返されていく

 

 

「メタグロスを押してる…!?」

 

「もしかしていける…!?」

 

「いけぇ〜っ!リゼちゃ〜ん!エンペルト〜っ!」

 

 

先程とは異なるエンペルトの優勢にひまわり達は声を上げる

 

 

「メタグロス、更に"コメットパンチ"」

 

 

しかし、先程と同様にメタグロスがもう片腕を使って"コメットパンチ"を繰り出し、技のぶつかり合いを拮抗に持ち込ませる

 

 

「また両腕での攻撃…!」

 

「威力が拮抗し始めた…。惜しかったけど、相殺されて終わり…」

 

「いや…!相殺どころじゃないですよ…!」

 

 

メタグロスの対応に叶達が言葉を発するなか、異変に気付いた加賀美が声を上げる

 

直後、メタグロスがエンペルトを押し返し始め、最後には両腕での"コメットパンチ"が炸裂し、エンペルトを吹き飛ばす

 

 

「嘘だろ…!?」

 

「押し返された…!なんで…!?」

 

「"コメットパンチ"の追加効果で攻撃力が上がったんだ…!まさか、あの大技を見た瞬間からこの逆転方法を思い付いて敢えて最初の一撃を片腕のみで攻撃したのか…!」

 

「"コメットパンチ"の追加効果が発動する確率はそう高くない…!なのに、あんな冷静な様子で賭けに出てくるなんて…!いや、むしろ成功すると疑ってなかったような…!」

 

「メタグロスならやれると信頼していた…!やっぱり強い…黛さん…!」

 

 

驚く不破達に夢追と叶、ういはがそれぞれ意見を口にする

 

 

「エンペルト…っ!」

 

 

リゼの呼び掛けにエンペルトは体力も限界に近いボロボロの体を起き上がらせようと力を込め、その姿にリゼの表情も険しくなる

 

 

「ほらね…やっぱりこうなるんだよ」

 

 

そんなリゼの表情を見た黛は誰にも聞こえないくらい小さく落胆した声を漏らし、そっと瞳を閉じる

 

 

(そうなんだよ…。目前にまで迫った敗北に顔を歪ませないトレーナーは滅多にいない。勝つことに必死な人や何かを背負ってバトルに臨む人なんかは特にそうだ)

 

 

ジムリーダー達とそう変わらない実力を持つ挑戦者でさえ、敗北を目の前に顔を歪ませる

 

バトルを楽しみ、全力で臨んでくる勢いは消えて、負けたくない焦りや勝利が遠のく苦しさに染まっていく

 

 

(ポケモンバトルは本来楽しく、熱くなれるものだ…。そのはずなのに…俺が四天王になってからというもの、バトルを申し込んで来る挑戦者は皆そうだった)

 

 

四天王…ポケモントレーナーとしての強さを公式に認められ、その地方で指折りの強者であることを示す称号

 

故に、その強さを前に敗れて格の違いを思い知った者達はより明確で絶望的な現実を突き付けられる

 

同じ成長過程にあるライバルや一般人とのバトルでなら、仮に負けても大きく絶望することはない

 

だが、四天王延いてはジムリーダーはチャンピオンを目指し、強さを求めるトレーナーにとってはいずれ必ず超えなければならない相手

 

その実力を体感し、あまりにも大きな差を見せつけられて苦しみや辛さを抱く者は多かった

 

そして、いずれ超えると息巻いていたことが困難な道を極めるものだと知って、ポケモントレーナーとしての夢に見切りをつけて絶望した者も少なくなかった

 

黛はバトルを繰り返す中で挑戦者達のそれを何度も目にし、嫌気が差した

 

四天王である限り…否、四天王という肩書きを失ったとしてもそうであった事実が残るために、自身はもう誰とでも全力を出し合える熱いバトルは出来ないのだと悟った

 

 

「エンペルト…!まだ戦える…!?」

 

「エ…エンペェ…ッ!」

 

(まだやるつもりなんだ…。無駄に足掻いたって苦しくて辛いだけ…もういい加減に…)

 

「…っ!?」

 

 

聞こえたエンペルトの鳴き声からしてまだ戦闘不能ではない…それを察した黛は苛立ちを募らせながら瞳を開けるが、目の前の光景に思わず動揺を露わにする

 

 

(笑ってる…!こんなに追い込まれてるのに…敗北が濃厚なこの状況なのに…表情に一切の曇りが無い…!)

 

 

リゼと立ち上がったエンペルトが自身とメタグロスを真っ直ぐ見つめていた

 

それも迫った敗北に苦しんだり、焦ったような表情ではなく…勝利を諦めず、全力でそれを掴みにいこうとするバトルを楽しむ意志を感じられる表情で

 

 

「そうだよね…!こんな結果じゃ終われないよね…!エンペルト!"れいとうビーム"!」

 

 

リゼはそう言葉を掛けるとともに指示を出し、エンペルトは"れいとうビーム"を繰り出す

 

 

「…っ!メタグロス!"こうそくいどう"!」

 

 

リゼの指示が耳に届いて我に返った黛は反射的に"こうそくいどう"を用いた回避の指示を出し、メタグロスはそれに従って"れいとうビーム"を躱す

 

 

「エンペルト!そのままもっとパワーを上げて!」

 

「一体何を…!」

 

 

だが、リゼはエンペルトに外した先の地面に"れいとうビーム"を放ち続けさせるよう指示を出す

 

それに黛が驚くなか、更に威力を上げたエンペルトの"れいとうビーム"によってフィールドが急速に凍り付き始める

 

 

「メタァ…ッ!?」

 

 

そして、フィールド全体が凍り付いたことでメタグロスは足の踏ん張りが効かなくなり、滑って移動がままならなくなってしまう

 

 

「フィールドを凍り付かせて…!?メタグロス!爪を地面に食い込ませるんだ!」

 

 

リゼの狙いに一瞬驚くも黛はすぐに指示を出し、メタグロスは4本の前脚に備わった強靭な爪を張られた氷を貫通してフィールドに食い込ませて滑りを止める

 

 

「今だよ、エンペルト!"はがねのつばさ"!」

 

 

その時、爪をフィールドに食い込ませたことで動きが止まったメタグロスにエンペルトが凍り付いたフィールドを滑走し、その勢いを乗せた"はがねのつばさ"を炸裂させる

 

 

「メタァ…ッ!」

 

「メタグロス…っ!」

 

 

本来であれば効果は今一つだが、滑走の勢いで威力の増した"はがねのつばさ"を食らったメタグロスは後ろへと押し飛ばされる

 

 

「おいおい…!遂に一発入れたぞ!」

 

「黛さんのメタグロスがダメージを受けたの…久しぶりに見た…!」

 

「これ…!ひょっとするとひょっとするんじゃない…!?」

 

 

遂に攻撃が決まり、葛葉達が口々に歓喜と驚きの声を上げる

 

 

「油断した…!でも、次はもう食らわない…!メタグロs…っ!?」

 

 

このバトルで初めてダメージを許してしまった黛は苛立ち混じりにそう呟くが、呼び掛けたメタグロス…その表情を見て言葉を詰まらせる

 

 

「メェタァ…ッ!」

 

(メタグロスも笑ってる…!?まさか、リゼさんとエンペルト…2人のバトルに感応して…!)

 

 

先の攻撃にしてやられて心に火がついたのか、黛のメタグロスはニヤリと楽しそうな笑みを浮かべていた

 

そんなメタグロスを目にした黛は改めてリゼとエンペルトに視線を移し、2人が自身に向ける意地を感じ取る

 

 

(ああ…久しぶりの感覚だ…。こんなにも真っ直ぐな気持ちを向けられるのは…。バトルの勝敗なんて気にもしてない…ただ目の前の相手に全力をぶつけようとするその感じ…)

 

「そうだよ…ポケモンバトルはそうでなくちゃ面白くない…!」

 

 

ここまで覇気を感じさせなかった黛に生気が宿り、その表情には楽しそうな笑みが浮かんでいた

 

 

「まゆ君が…笑った…!」

 

「もしかして、リゼさんとのバトルに熱が入って…!」

 

「本当にやってのけるとは…!」

 

「凄ぇじゃん!リゼさん!」

 

「リゼさ〜ん!頑張れ〜!」

 

 

黛の様子に変化が起きたことに驚きや歓喜の声をういは達が上げるなか、リゼは本気になった黛を前に武者震いする

 

 

「ここからが本番だよエンペルト…!最後まで気を引き締めていこう…!もう一度"れいとうビーム"!」

 

 

リゼの指示が飛び、エンペルトが"れいとうビーム"を繰り出す

 

 

「メタグロス!"ひかりのかべ"!」

 

 

対する黛は今度はメタグロスに回避をさせず、"ひかりのかべ"による特殊技のダメージを抑える効果を利用して"れいとうビーム"を受け止めさせる

 

 

「二度も同じ手は食わないよ…!」

 

「なら…!"うずしお"!」

 

 

"れいとうビーム"による直接的な凍り付けやフィールドでの有利を作る狙いを阻止されたリゼはエンペルトに"うずしお"の指示を出す

 

 

「メタグロス!突っ込め!」

 

 

リゼのペースに乗せられないよう攻めに出た黛の指示を受けてメタグロスは"ひかりのかべ"を活かした強行突破を仕掛ける

 

 

「エンペルト!フィールドに向かって放って!」

 

 

だが、ここでリゼが更なる指示を出してエンペルトは作り出した"うずしお"を突っ込んで来るメタグロスの手前に目掛けて放つ

 

次の瞬間、"うずしお"はフィールドに直撃したと同時に弾けて大きな水飛沫の壁を発生させ、メタグロスの視界からエンペルトを完全に隠す

 

 

「なっ…!?」

 

「メタ…ッ!?」

 

 

エンペルトを見失うなか、急には止まれないメタグロスはそのまま水飛沫の壁を突き抜ける

 

 

「エンペルト!"ドリルくちばし"!」

 

 

直後、水飛沫の壁を抜けた先の側面で待ち構えていたエンペルトが"ドリルくちばし"を繰り出してメタグロスに炸裂させる

 

 

「メタァ…ッ!」

 

 

"ドリルくちばし"を食らったメタグロスは後ろへ押し飛ばされるが、体勢を崩すまでには至らず踏み止まった

 

 

「隙を突いたとは言っても、普通に攻撃した程度じゃ倒れない…!もっと威力のある技じゃないと大きなダメージを与えられない…なら…!」

 

 

今のエンペルトのレベルと覚えている技ではメタグロスを突破することが困難であると判断したリゼは左腕の袖を捲って手首に装着したZリングを露わにする

 

 

「Z技か…!」

 

 

Zリングを目にした黛がそう呟くなか、リゼは左から右へと水が流れていく様子を彷彿させる"みずタイプのゼンリョクポーズ"を取り、直後に溢れ出したZパワーがエンペルトへと流れてその体に纏われる

 

 

「流石にこの一撃を受けたら一溜りもないね」

 

「メタメタァッ!」

 

「分かってるよ、メタグロス。ここまで来たら完全勝利だ」

 

 

メタグロスと言葉を交わした黛は特徴的な青色のインナーカラーがある左側の髪をかきあげる

 

かけあげられた髪の内側から出てきた左耳には3つのイヤリングが着けられており、その内の1つ…下側のイヤリングに中央に遺伝子の模様が刻まれた丸い七色の宝石がぶら下がっていた

 

そして、その宝珠にリゼと観覧席のアンジュ達は目を見開いた

 

 

「アレって…キーストーン…っ!?」

 

「ということは、まさか…っ!」

 

「いくぞ、メタグロス!メガシンカ!」

 

 

その宝石の名はキーストーン…ある一部のポケモンに対応するメガストーンと共鳴することでメガシンカと呼ばれる現象を引き起こすための物

 

黛がそれに触れて叫んだ瞬間、キーストーンとメタグロスが隠し持っていたメガストーンが同時に光り輝き出して双方から溢れ出したエネルギーが繋がり、直後に体が光り輝いたメタグロスは姿形を変えてメガメタグロスへとメガシンカする

 

 

「黛のメガメタグロス…!去年のチャンピオンリーグで竜胆さんとバトルした時に見て以来だ…!」

 

「それだけリゼさんとエンペルトのZ技に対して黛さんも全力だということですね…!」

 

「凄い…!」

 

 

メガシンカまで切り出した黛の本気具合に夢追と加賀美、緑仙はそれぞれ言葉を発する

 

 

「メガシンカ…!まさか、こんなにも早くバトルで目に見るすることになるなんて…!」

 

「出し惜しみするわけにもいかないからね。悪いけど、勝ちどころかメタグロスを倒すことすらさせないよ」

 

「臨むところです…!いくよ、エンペルト!"スーパーアクアトルネード"!」

 

 

リゼが意気込んだ瞬間、エンペルトはZパワーによって生み出した激流を身に纏ってメガメタグロスへと突っ込む

 

 

「メタグロス!"コメットパンチ"!」

 

 

対する黛の力強い指示でメガメタグロスは4つの腕全てを用いた最大火力の"コメットパンチ"でエンペルトを迎え撃ち、激突する

 

ドゴォォォォォンッッッ!!

 

と、両者の技の激突によって凄まじい衝撃波が空気を震わせ、フィールドを囲む頑丈なバリアに僅かだがヒビが入る

 

 

「エンペェェェッッ!!」

 

「メタァァァッッ!!」

 

 

互いに一歩も譲らずぶつかり合うエンペルトとメガメタグロスが咆哮を上げ、更にパワーを強めた瞬間に両者を中心に大爆発が起こる

 

直後、その大爆発によって互いにダメージを負ったエンペルトとメガメタグロスは吹き飛ばされ、フィールドに墜落する

 

 

「エンペルト…っ!」

 

「メタグロス…っ!」

 

「勝ったのか…!?負けたのか…!?それとも引き分けか…!?」

 

 

叫ぶリゼと黛…そして葛葉達が見守るなか、そのポケモンはゆっくりとボロボロの体を起き上がらせた

 

 

「…決着です。この勝負…」

 

「メ…タァ…ッ!」

 

「エンペェ…」

 

『エンペルト、戦闘不能!メタグロスの勝ち!よって勝者、黛!』

 

 

メガメタグロスが起き上がり、ドローンロトムから黛の勝利が宣言される

 

 

「かあ〜…っ!惜しかったな〜…っ!」

 

「意外だね…。葛葉は完全な勝ち以外認めないと思ってた」

 

「流石に他人にまで…つーか、俺自身にだって今無理なもんを求めるつもりはねぇよ!四天王相手なら、今の俺やリゼさんの実力ならエース1体でも倒せりゃ大金星だろ!」

 

「それを言うなら、まゆにメガシンカを使わせただけでも本当に凄いよ…!俺達でさえ、そこまでさせることは出来なかったのに…!」

 

「リゼちゃん負けちゃったけど、凄いバトルだったね!」

 

「うん!サイホーンとイーブイの結果は残念だったけど頑張ってたし、エンペルト凄く格好良かった!」

 

「リゼさんのバトルを見てたらなんだか凄くやる気が溢れてきたよ!スメシジムへの再挑戦、私達も頑張らないとね!」

 

 

リゼと黛のバトルを見届けた一同は口々にその感想を言い合う

 

 

「良いバトルでしたね」

 

「うん…凄かった…」

 

「…緑仙、どうだった?リゼさんと黛のバトルは」

 

「…最後の黛もそうだけど、どんどん追い詰められていく中でもリゼは最後まで全力だった。バトルを心の底から楽しんでた」

 

 

"でも…"と、緑仙は顔を俯かせる

 

 

「僕はリゼが追い込まれていくのを見て不安しかなかった…。そんな僕がチャンピオンや四天王、この先のジムリーダー達を相手にリゼみたいなバトルが出来る気は…」

 

 

自分のことだけでなく、他者の勝敗ですら見切りをつけてしまう

 

そんな自分がリゼ達のようにバトルに全力を尽くし、楽しもうとしようとしてもまた折れてしまうのではないか

 

そう感じて表情が暗くなる緑仙に夢追が優しく声を掛ける

 

 

「ねぇ、緑仙…。緑仙はチャンピオンを目指すため…ポケモンリーグ挑戦のためにポケモントレーナーとなって旅に出たわけだけど、ポケモントレーナーとしてチャンピオンになる…そのことに強く拘る必要はないんじゃないかな?」

 

「どういうこと…?」

 

「チャンピオンを目指す…ポケモンリーグに挑戦することはポケモントレーナーとして成長するための1つの要素で、初めてトレーナーになって旅に出るための大雑把なきっかけに過ぎないと思うんだ。要するに…」

 

「本当に重要なのは旅にこそあり、ポケモントレーナーの道は1つでしかない…ということです」

 

 

夢追の伝えたいことを加賀美が代弁する

 

 

「僕やハヤトも最初に旅に出たきっかけはポケモンリーグへの挑戦とチャンピオンを目指すことだった。その過程で色んな人に出逢って、色んな物を見て感じて、とにかく全部に全力で楽しんでた」

 

「ええ。社さんやチャイカさんに出逢い、競い合って、共に苦難を乗り越え、多くのことを見て感じた。ポケモンリーグ挑戦のために初めて出た旅はとても良い思い出です」

 

「そしてポケモンリーグ…僕は4回戦でハヤトとのバトルに負けて、それ以降の年にリーグへの挑戦は止めた。でも、納得のいく悔いのない終わりではあったんだよ。僕の全力に応えてくれたハヤトの全力にこれ以上出せない結果で負けたんだから」

 

 

と、夢追は当時を懐かしみながら穏やかな様子でそう答えた

 

 

「でも、そんなに頑張ったならもう少し挑戦を続けたってよかったんじゃ…」

 

「そうだね。でも、そうしなかったのはチャンピオンを目指すことよりも優先したいことが出来たからなんだ」

 

「優先したいこと…?」

 

「ニジサンジ地方を旅して、僕は色んな人やポケモンとの出逢い…様々な場所や景色を見ることが多くのことを学ばせてくれて心も知識も豊かにしてくれた。そして、それは世界の広さだけ存在している…だから他の地方でも体験したいと思ったんだ」

 

「そういえば、夢追さんはポケモンリーグが終わった後にカントー地方へ旅立ったんでしたね」

 

「うん。それがポケモントレーナーになる前から興味のあった音楽活動…シンガーソングライターに活かせるものを得らせてくれると感じたから」

 

「そうだったんだ…」

 

「緑仙…出来ることなら僕はまだポケモンリーグへの挑戦を諦めないでほしい。止めるにしても、せめて初めてとなる今回だけは悔いの残らないよう最後まで挑戦してほしい。最高の経験や体験は全力で臨んでこそ価値があって、そこから新たなものに繋がる。そのための旅を…最初に掲げた目標に全力で挑んで楽しんでほしいんだ」

 

 

リゼと黛のバトル、夢追と加賀美の言葉を緑仙は今一度振り返る

 

 

「…たとえ結果が望み通りにならなくても、そこから得た経験や体験は何かに活きる。それを得るために全力を尽くす…今の自分に出来る精一杯をぶつける。それが大事だってことなんだね…」

 

 

夢追達の伝えたいことを簡潔に整理、解釈して納得を示した緑仙は気が楽になったような笑みを浮かべて立ち上がる

 

 

「夢追…僕、まだポケモンリーグへの挑戦を続けるよ」

 

「緑仙…!」

 

「悔いが残ったまま諦めちゃう程度じゃ、チャンピオンどころか好きな音楽活動にだって全力を注げなくなっちゃうからね。だから…もう少しだけ僕の旅に付き合ってくれないかな?」

 

「勿論だよ…!緑仙が悔いを残さないよう、全力でサポートするから!」

 

「私もです。何か困ったことがあれば、いつでも頼ってください」

 

「私も〜!」

 

「ありがとう、みんな…!」

 

 

リゼのバトル、夢追の言葉を受けた緑仙は改めてポケモンリーグへの挑戦を決意する

 

 

「お疲れ様、エンペルト…良いバトルだったよ」

 

「リゼ、お疲れ様。負けたのは残念だったけど、最後は良いバトルになってたよ」

 

 

バトルフィールドから出てきたリゼはボールに戻したエンペルトに労いの言葉を掛け、歩み寄ったアンジュもまたリゼに労いの言葉を掛ける

 

 

「ありがとう、アンジュ。ある程度予想はしてたけど、黛さんやっぱり凄く強かった…。でも、もっと強くなれば更に良いバトルが出来ると思う!いつかまたバトルするためにも、次のジムも頑張らないと!」

 

「リゼさん」

 

 

リゼがアンジュにバトルの感想を話すなか、黛に声を掛けられる

 

 

「黛さん…!バトル、楽しかったです!ありがとうございました!」

 

「礼を言うのはこっちの方だよ。久しぶりに心の底から全力でバトルが出来た。感謝するよ」

 

「いや本当、凄いバトルを見せてもらったよ!」

 

 

リゼと黛が互いに感謝を伝え合うなか、黛と関わりのある明那達が2人の下へ駆け寄る

 

 

「あんなに迫力のあるバトル初めて見たわ!リゼさんもまゆもナイスファイト!」

 

「リゼさん!黛さんが熱くなれるバトルをしてくれてありがとう!」

 

「俺達もリゼさんみたいに黛さんを熱くさせられるようなバトルが出来るよう、もっと強くならないとですね!」

 

「うん!」

 

「…明那、不破君、ういは、アルス、エクス。俺からみんなに伝えておきたいことがあるんだ」

 

「き、急に改まってどうしたの?」

 

 

リゼと黛のバトル…その感想を伝える三枝達に黛は真剣な面持ちで向き合う

 

 

「俺はべつに強いトレーナーと戦いたいわけじゃないし、俺のためを思って強さを求めてバトルに臨んでほしいとは思ってない。俺はただ、相手と全力でぶつかり合いたいだけなんだ。勝つことに固執して、それが原因で苦しそうな顔をされると俺も辛くなる」

 

 

"だから…"と、黛は言葉を続ける

 

 

「勝つことよりも自分の全力が何処まで通用するのか…その可能性に挑戦する気持ちを強く持って挑んで来てほしい。四天王やジムリーダーはチャンピオンを目指す上で立ちはだかる壁ってだけじゃない…トレーナー1人1人の可能性を高めるための存在でもあると俺は思ってるから」

 

 

バトルを楽しむ1人のトレーナー…そして四天王の1人として告げた黛の想いに、ういは達は大事なことを気付かされて我に返るように目を見開く

 

 

「大事なのは勝つことじゃなく挑戦すること…結果じゃなく自分を高めることが本質…」

 

「なんか凄ぇ見方変わったわ…!」

 

「ごめん!まゆ!ずっと勘違いしたまま逆にまゆを苦しめるようなことしてて…!でも、俺達に必要なことは今ちゃんと理解した!それを胸に刻んで、改めてポケモンリーグの挑戦を目指すよ!」

 

「覚悟してくださいね、黛さん!私達、黛さんに勝てるまで何度でも挑戦しますから!」

 

「それいいですね!俺達がつまらない相手になるか諦めない限り、全員が勝つまで黛さんは四天王を辞めるの禁止にしましょう!」

 

「それは参ったね…そっちが諦めない限り、一生辞められなさそうだ」

 

「おいおい!それはどういう意味だよぉ!」

 

 

黛の減らず口にアルスがツッコみ、その光景に一同は笑い合う

 

 

 

こうして、緑仙と黛が抱える問題を無事解決したリゼのスメシシティ滞在最終日は終わりを迎えた

 

次なる街:オウマシティでは、一体どんな出逢いが待ち受けているのか…

 





リゼ・ヘルエスタ
手持ち:エンペルト、イーブイ、バタフリー
   サイホーン、リオル

アンジュ・カトリーナ
手持ち:ゴルーグ、ビッパ

黛灰
手持ち:メタグロス、ジバコイル
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