にじさんじ×ポケットモンスター   作:Mr.ソロ

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第63話「明かされる真実!メリッサの過去と迫られる選択!」

 

「りりむちゃーん!いたら返事してくれー!」

 

 

にじレジ団を追った後、メイフ砂漠のポケモン達による砂地獄に呑まれて地下の迷宮に落ちてしまったとされるフレン、メリッサ、りりむの3人を探すため、リゼ、アンジュ、ベルモンドと共に古代の遺跡から中へ踏み入れたコウとイブラヒムはリゼ達と二手に別れ行動していた

 

 

「フレン…っ!メリッサ…っ!何処にいるんだ…っ!聞こえたら返事をしてくれ…っ!」

 

 

コウ達は大きく広がる迷宮の何処にいるか分からないフレン達に気付いてもらえるよう彼女達の名を叫ぶ

 

そんななか、コウは共に行動しているイブラヒムの様子が気に掛かっていた

 

 

(…なんか引っ掛かるんだよな。2人のことを心配してるから当然ではあるんだろうけど、それでも焦り様が少し変っていうか…。必死過ぎるっていうか…)

 

 

コウ自身も当然、フレン達3人の身を案じているが、それでもイブラヒムの様子は何処かおかしいと感じていた

 

コーヴァスシティを出発する前に砂漠の上空で発生したウルトラホールを見てから、イブラヒムの顔色は酷く、まるで3人或いはその内の誰かに明確な危機が迫っていることを知っているかのような焦り様に見えた

 

ただの勘違いかもしれないが、どうしても"何かあるのでは?"という考えが頭から離れなかったコウはイブラヒムに声を掛ける

 

 

「…なあ、ヒム。2人を心配する気持ちは分かるんだけどさ、少しは落ち着いたらどうだ?その調子だと2人を見つける前にバテちまうぞ?」

 

「落ち着いてられるかよ…!ただでさえ、メイフ砂漠の野生ポケモン達は強い個体が多いってのに、ウルトラビーストまでいるんじゃ心配になって当然…!」

 

「それはそうなんどけどさ…。ヒム、お前何か隠してないか?」

 

「はあ?何を言って…」

 

「だってお前、街を出た時から少し様子がおかしかった…!それと、これは俺の思い込みかもしれないけど、お前の焦り様が、まるで3人に明確な危険が迫ってるのを知ってるからみたいに見えてさ…」

 

「…っ!」

 

 

図星を突かれた、と言わんばかりの苦い表情を浮かべたイブラヒムは口を噤んだ

 

 

「ヒム、何か隠してるなら話してくれ。俺達はまだ出逢って日も浅いけどさ、俺はお前のことを良い友達でライバルだと思ってる。言いにくい内容なら全部じゃなくていい、言える範囲で構わないからさ」

 

 

コウの説得を受けて、イブラヒムは諦めたような溜め息を吐いた

 

 

「…分かった。この状況で互いに背中を預けるなら、余計な不安は晴らした方がいいしな」

 

 

隠し事を話す気になってくれてイブラヒムに、コウは耳を傾ける

 

 

「街を出る前、メイフ砂漠に発生したウルトラホールを見た時から、俺はずっとメリッサのことを心配していた」

 

「メリッサのことを…?りりむちゃんはともかくとして、フレンのことは心配じゃなかったのか?」

 

「勿論、2人のことも心配だ。だが、それ以上にメリッサのことが凄く心配なんだ…」

 

 

"何故なら…"と、イブラヒムは声を震わせながら言葉を続ける

 

 

「メリッサは…ウルトラビーストと同じくウルトラホールを介して来た存在…!この世界とは別の世界から来た人間だからだ…!」

 

 

 

 

あれは今から5年程前…偶然掘り当てた温泉で生計を立てて、コーヴァスシティに豪勢な邸宅を築いて悠々自適に過ごしていた、ある日のことだった

 

 

「ウリッ!ウリィッ!」

 

「ワンパワンパッ!」

 

「おい、ウリムー!ワンパチ!」

 

「それ以上行ったら危険だよ!」

 

 

その日はフレンと一緒にウリムー、ワンパチに付き合ってメイフ砂漠の手前で遊んでいた

 

その最中、突然ウリムーとワンパチの様子が変わってメイフ砂漠に向かって走り出した

 

メイフ砂漠は奥へ行くほど気性の荒い屈強なポケモン達が生息しているから、俺達はウリムー達を必死に止めようと追い掛けた

 

やっとの思いで捕まえて、2匹が勝手に行かないように抱き抱えた時だった

 

 

「ウリィッ!ウリィィッ!」

 

「ワンパッ!ワンパァッ!」

 

「ちょっ…!暴れないで、ワンパチ…!」

 

「お前等何をそんなに…っ!?」

 

 

腕の中で必死に何か伝えようと暴れるウリムー達に促されて、俺とフレンがメイフ砂漠の奥へ目を向けると…

 

 

「…っ!イブちゃん…!あそこ…!」

 

「あれは…人か…?それにポケモンもいるぞ…!」

 

 

メイフ砂漠の遠くの方にぼんやりと倒れている人影とその傍に数匹のポケモンらしき影が見えた

 

メイフ砂漠では危険だと知りながら無謀にも、もしくは砂漠を甘くみた愚か者が珍しい資源を求めては足を踏み入れ、そこに棲む野生のポケモン達に襲われて酷い目に遭うことも少なくなかった

 

もし、そういう奴等と同類なら自業自得だが、だからといって怪我をしてるかもしれない上にポケモンに襲われてるかもしれない奴を放っておけなかった俺達は急いで倒れている人の下へ走り出した

 

 

「ビ…ビドォ…ッ!」

 

「ビードル…!それにエモンガとイシズマイだ…!」

 

 

倒れてる人の傍にいたポケモンがこの辺りじゃ見かけないビードルとエモンガ、そして色違いのイシズマイだった

 

俺達に気付くと3匹は精一杯強がるように威嚇し始めたが、その直前の様子は倒れてる人を心配しているようだった

 

そこから俺は、ビードル達が倒れてる人のポケモンなのだと理解した

 

 

「落ち着いてくれ…!俺達は敵じゃない…!お前等の主人を助けようと来ただけだ…!」

 

「ウリッ!ウリィッ!」

 

 

ウリムーの説得もあって、ビードル達は警戒を解いてくれて、俺達は気を失って倒れている人を抱き抱えてコーヴァスシティの病院まで運んで行った

 

 

 

 

「あれ…?ここは…?」

 

「お…!目を覚ましたか」

 

「大丈夫…?何処か具合が悪かったりしない…?」

 

 

病院に連れて来てから丸一日経った後、2人の付きっ切りの看病の甲斐もあって、少女は目を覚ました

 

 

「えっと…君達は…?」

 

「俺はイブラヒム。こいつはフレン」

 

「ここはコーヴァスシティの病院だよ。あなたがメイフ砂漠で倒れてたところを私達のポケモンが見つけて、2人で運んできたの」

 

「そう…だったんだ…。ありがとう…」

 

 

少女は2人に礼を言い、ゆっくりと体を起き上がらせる

 

 

「それにしても、この辺りじゃ見ない顔だな。名前は?」

 

「メリッサ…。メリッサ・キンレンカ…」

 

「ねぇ、メリッサ。どうしてあなたはメイフ砂漠にいたの?」

 

「分からない…」

 

「分からない…?どうしてメイフ砂漠に来たのか覚えてないのか?」

 

「うん…」

 

「どういうこと…?ハッ…!もしかして、何か事件に巻き込まれて意識を失ってる内に…とか!?」

 

「想像力豊かだな…。まあ、可能性が0ってわけでも無いけどよ…。とりあえず、意識が戻って良かった。じゃないと身元が分からずじまいだったからな。なあ、メリッサの家は何処なんだ?帰りの手段くらい手配してやるからさ」

 

 

メイフ砂漠で倒れていたまでの経緯は不明なものの、それは追々判明するだろうと話を置き、イブラヒムはメリッサをまず家に帰してやろうとそう尋ねる

 

 

「えっと…分からないんだ…」

 

「え…?」

 

「どういう…ことなんだ…?」

 

「名前以外を思い出せない…。記憶が無いんだ…」

 

 

メリッサの言葉を聞いて、俺とフレンは驚愕のあまりに絶句した

 

我に返った後、すぐに医者を呼んで詳しく診てもらった結果、メリッサは重度の記憶喪失になっていることが分かった

 

 

「ビドォ…」

 

「ごめんね…。君達のことも覚えてなくて…」

 

 

自分のポケモン達のことも忘れてしまっているらしく、日々心配し、悲しい表情を浮かべるビードル達にメリッサも申し訳なさそうな表情を浮かべていた

 

それからしばらく、病院で経過を見たが、メリッサの記憶が戻る様子は一切なかった

 

 

「記憶が戻らねぇとなると、どうすっかなぁ…」

 

「どうするって…?」

 

「手掛かりがねぇんじゃ、あいつを家に帰してやれねぇだろ。ここしばらく、ありとあらゆる情報網を駆使したけど、あいつの身元もメイフ砂漠へ流れ着いたことに関係してそうな情報も何も見つからなかった」

 

「そうだね…。でも、根気よく続ければいつかきっと…!」

 

「これだけ調べて何も出てこないんじゃ、そう簡単にはいかねぇだろ。見つかるまでに1ヶ月か半年か1年か…。あるいはもっとかかるかもしれねぇ」

 

 

"その上で…"と、イブラヒムは言葉を続ける

 

 

「ずっと病院にも居続けさせられねぇ。一応入院費は俺が払ってるわけだしな」

 

「それぐらい払ってあげてよ!イブちゃんお金持ちなんだから!」

 

「無茶言うな、入院費も馬鹿にならないんだぞ?それに病院は身元不明者を受け入れる施設じゃねぇんだからな」

 

「う〜〜〜…っ!ならさ、メリッサの家が見つかるまでイブちゃんの家に泊めてあげてよ!」

 

「はあっ…!?」

 

「だってそうすれば入院費はかからないし、病院の迷惑にもならないでしょ!それにイブちゃんの家デッカいんだから、泊めてあげられる部屋くらい有り余ってるでしょ!」

 

「そ、それはそうだが…」

 

「なんなら私もイブちゃんの家に居候して、メリッサの世話手伝ってあげるから!」

 

「…おい、フレン。お前もしかして、俺の家に転がり込めれば今住んでるアパートの家賃払わなくて済むから…とか考えてねぇだろうな?」

 

「そ、そそそそんなわけないじゃん…っ!」

 

「図星じゃねぇか…。はぁ…分かったよ」

 

 

呆れた溜め息を吐いたイブラヒムは、フレンと共にメリッサの病室へ訪れ、彼女の提案を告げる

 

 

「なあ、メリッサ。行く当てがねぇなら、俺の家に来ないか?」

 

「いいの…?」

 

「気にしなくていいよ!イブちゃん家は豪邸だから、人を1人や2人泊めてあげるなんて訳ないから!」

 

「なんでお前が自慢げに言うんだよ…。まあ、いつかお前の記憶が戻るか、お前の身元が見つかるまでの間だけどな」

 

「…ありがとう。イブラヒム、フレン」

 

「気にしないでいいんだよ、メリー!」

 

「メリー…?」

 

「あだ名だな。というか、距離の詰め方エグいだろ…」

 

「だって、これから一緒に暮らすんだよ!なら、気兼ねない関係になれるのが1番いいじゃん!」

 

「気兼ねない…。家族みたいな…?」

 

「いや、イブちゃんが旦那さんなのはちょっと…」

 

「何勝手に想像してんだよ…。そういうお前は俺の想像の中ではペット枠だからな」

 

「そもそも人の枠じゃない!?そっちこそ失礼なんじゃないの!?」

 

「あははは…!」

 

 

こうして、その日を境にメリッサはイブラヒムとフレンと共に暮らすことになった

 

 

 

 

「それがメリッサとの出逢いだったのか…。でも、それが今お前が抱えてる不安とどう関係があるんだ?」

 

「…メリッサと出逢って3年くらい経ったある日、街中で旅のトレーナーが妙な話をしていたのを耳にしたんだ」

 

「妙な話…?」

 

「この世で確認されたことのない、未知のポケモンが現れる空間の裂け目が広がった奇妙な穴が世界各地で確認されてるって…」

 

「それって…まさか…!?」

 

「ああ、ウルトラホールだ。そして、メリッサを見つけた日の前の晩に、ウルトラホールらしき現象がメイフ砂漠で発生していたことも分かった」

 

「そこから、メリッサがウルトラホールを通って来た別世界の人間だって推測したわけか…!でも、それだけで断言は…」

 

 

あくまでも、メリッサを見つけた日の前日にウルトラホールが発生していただけ

 

それだけでは、メリッサがウルトラホールを通って来た別世界の人間とは断定出来ないとコウは思ったが、イブラヒムは話を続ける

 

 

「それから更に、ウルトラホールに関する情報を探すなかで俺はFallについて知った」

 

「Fall…?」

 

「Fallはウルトラホールを通った人間のことらしい。その一部は程度の差はあれ、記憶のほとんどを失ってるらしい」

 

「記憶を失う…!たしかに、それならメリッサも当て嵌まるな…!」

 

「加えて、ウルトラホールを通った人間はその際に特殊なエネルギーを浴びちまうらしく、そのエネルギーをウルトラホールと勘違いして、ウルトラビーストの標的になるらしい」

 

「マジか…!その話が本当なら、もしさっき発生したウルトラホールからウルトラビーストが現れて、そのまま帰らずこっちに留まってたら…!」

 

「ああ…!メリッサが真っ先に狙われることになる…!」

 

 

メリッサが別世界からウルトラホールを通って来たFallという存在であることは非常に高く、その通りなら今まさにウルトラビーストの脅威に晒されることになる

 

イブラヒムはそれを知っていたからこそ、ウルトラホールを見た時からメリッサのことを心配して酷く焦っていたのだと、コウは理解した

 

 

「たしかに、そういう事情なら落ち着いてはいられないよな…。悪ぃ、ヒム…」

 

「いや、いいんだ…。それに、こうなってんのは全部…」

 

「…?」

 

「…なんでもない。とにかく、早くメリッサ達を見つけねぇと」

 

「ああ…!」

 

 

何か言いかけてやめたイブラヒムにコウは追及せず、フレン達の捜索を再開する

 

 

(そうだ…!こんなことになってんのは全部俺のせいだ…!あの日に全て話していれば…!そうしてたら、少なくともメリッサは今も安全に…!なのに、俺は…!)

 

 

その最中、イブラヒムは強い自責の念に駆られると共に、メリッサに導き出された結論の全てを話そうとした日のことを思い返した

 

 

 

 

2年前…メリッサがFallである可能性が極めて高いことを知り、全てを話そうとイブラヒムはある日の夜に彼女の部屋へ訪れた

 

 

「ねぇ、メリー。話って、なぁに?」

 

(フレン…?何か話し込んでるみたいだが…)

 

 

部屋の前まで来て扉にノックしようとしたその時、中からフレンの声が聞こえたイブラヒムは手を止め、そっと聞き耳を立てる

 

 

「あのね、フレン…。僕、世界を旅してみたいんだ」

 

(…っ!?)

 

「えぇ…っ!?急にどうしたの…!?」

 

「前々から考えてはいたんだけどさ。僕、音楽や絵が好きじゃん?自分の想いを形にして表現する。それを通して沢山の人に喜びや感動を与えられたらって思ったんだ」

 

 

イブラヒム達と暮らす日々の中で、メリッサはよく歌を口ずさみ、時に想い想いの絵を描いていた

 

それはコーヴァスシティの人々の耳に届き、目に止まり、メリッサのことを知らない者はほとんどいないと言えるほど、彼女の音楽や絵は人々を魅了していた

 

おそらく、記憶を失くす前からずっと続けていた好きなことだったのだろう

 

 

「いいじゃん!でも、それでどうして旅に…?」

 

「より良いものを生み出すには多くのことを知って、経験するべきだと思ったんだ。なにより、僕は記憶のほとんどを失くしてるしね」

 

「そうなんだ。でも、メリーを1人で行かせるのは心配だな…」

 

「うん、それは僕もちょっと不安。でね、もし良ければイブラヒムとフレンも一緒に世界を旅してみないかな…って」

 

「メリー…!うん!勿論、私はメリーと一緒なら何処にでも行ってあげるよ!」

 

 

3人で世界を旅する…その未来を楽しそうに話すメリッサとフレン

 

それを扉越しに聞いていたイブラヒムは険しい表情を浮かべ、1人静かに葛藤していた

 

 

 

 

(あの時、メリッサとフレンの話を盗み聞いて想像しちまった…。俺達3人がこれからも一緒にいる未来を…。それで決心が揺らいじまった…。この関係を壊したくねぇ、メリッサと別れちまうのが嫌だと思っちまったんだ…)

 

 

あの日、情報を手に入れるまでの3年間でイブラヒムにとって、メリッサはフレン同様にかけがえのない存在となっていた

 

もし、全てを話してメリッサが元の世界へ帰る選択を取ったならば、それは彼女との永遠の別れになるかもしれない

 

だから、それを忌避したイブラヒムはメリッサに本当のことを話さなかった

 

 

(俺は身勝手な願いを優先した…。もう少しだけメリッサといられるようにって…)

 

 

あの日から、イブラヒムはメリッサをこの世界に留まらせたことに罪悪感を抱いていた

 

そして、それと同時にある決意を固めた

 

 

(だからこそ、メリッサを俺の都合に巻き込む以上は必ずウルトラビーストだろうと何だろうと、あらゆる危険から守る…!そのために、ポケモントレーナーとして強くなろうとポケモンリーグへの挑戦を決めたんだ…!)

 

 

ポケモントレーナーとして旅立つ者の多くが掲げる代表的な目標であるポケモンリーグへの挑戦

 

人それぞれ様々な想いを込めて挑むその目標に、イブラヒムは並々ならぬ覚悟を抱いていた

 

まだ道半ばではあるが、ウルトラビーストが現れたのならば、たとえこの身を犠牲にしてでもメリッサを守ろうとイブラヒムは改めて強く決意する

 

 

「…っ!おい、ヒム…!あれ…!」

 

 

そんななか、突然何かに気付いたコウが正面を指差す

 

 

「あぁ…っ!イブちゃん…っ!卯月さん…っ!」

 

「バシャ…ッ!」

 

「フレン…!?」

 

 

コウが指差した方…自分達が進んでいた道の先から現れたのは、迷宮の野生ポケモン達に追われながら向かってくるフレンとバシャーモだった

 

 

「メリッサの姿が見えねぇ…!一緒じゃないのか…!?」

 

「りりむちゃんもだ…!でも、今はフレンを襲おうと追い掛けて来てるポケモン達の群れをなんとかしねぇと…!いけ!ラプラス!」

 

 

フレン以外の2人の姿が見えないことが気掛かりにはなったが、一先ず、彼女を追い掛けて来ている野生のポケモン達を対処すべく、コウは"のりものポケモン":ラプラスを繰り出す

 

 

「バシャーモ!フレンを抱えて跳べ!」

 

「バシャッ!」

 

「バシャーモ…!?うわぁっ…!?」

 

 

イブラヒムの呼び掛けにバシャーモは即座に応え、フレンをお姫様抱っこで抱えてイブラヒム達の下へ向かって跳躍する

 

 

「ラプラス!"なみのり"!」

 

 

それと同時に、ラプラスが"なみのり"を発動

 

ラプラスを中心に何処からともなく大量の水が溢れ、次第に形成された大きな波がフレンを追って来ていたダグトリオやサンドパン達に襲い掛かる

 

その一撃が炸裂した半数以上は弱点となる水タイプの技だったこともあり戦闘不能となったが、一部ポケモン達は瞬時に"あなをほる"を繰り出して地中へと潜り、"なみのり"を回避した

 

 

「結構数は減らせたけど、それでも数十匹には上手いこと避けられたか…!流石はニジサンジ地方で屈強に数えられるメイフ砂漠のポケモン達だな…!」

 

 

まだ戦闘不能になっていない野生のポケモン達とコウとラプラスが睨み合うなか、イブラヒムは合流したフレンに駆け寄る

 

 

「フレン…!一先ず、お前が無事で良かった…!コウから大体の話は聞いてるが、その後何があった…!?メリッサ達はどうした…!?」

 

「りりむさんは分からない…!それより、イブちゃん…!大変なの…!メリーが…!私を庇おうと、砂漠の空に開いた変な穴から出て来たポケモンの囮になって…!」

 

「はぁ…っ!?ウルトラビーストを1人で…っ!?なんでそんなこと…っ!どうして追わなかったんだよ…っ!」

 

「追い掛けようとしたよ…!でも、私が追って来れないようにメリーがイワパレスに邪魔させて…!その上、縄張りを荒らされたと思ってる砂漠のポケモン達にも襲われて…!」

 

「…っ!」

 

 

フレンから告げられた最悪の事態に、イブラヒムは気が動転して思わず彼女を捲し立てるが、直後の反論を聞いて口を噤んだ

 

冷静になって考えてみれば、心優しいメリッサであれば、勝ち目のないウルトラビーストからフレンを守るために、そのような行動を取ったのだろうと容易に想像出来た

 

だとしても、相手が悪過ぎた

 

メリッサがまず間違いなくFallである以上、ウルトラビーストは容赦なく執拗に彼女を襲うだろう

 

であれば、トレーナーとしての実力的にメリッサではフレン以上にバトルでの勝ち目は無く、逃げ切るのも容易ではない

 

 

「くっ…!俺のせいだ…!俺のせいでメリッサが…!」

 

「え…?イ、イブちゃん…?どうしたの…?」

 

 

メリッサが絶望的な状況に置かれていると知ったイブラヒムは膝から崩れ落ち、自責の念に囚わ出した彼の姿にフレンは困惑する

 

 

「おいっ!泣き言を言うにはまだ早いだろっ!」

 

「…っ!」

 

 

イブラヒムが絶望に打ちひしがれるなか、その姿を見兼ねたコウが叫ぶ

 

 

「想像したくねぇけど、仮に最悪の結果であろうとその目で見るまでは諦めんな!どんなに望み薄でも、最後まで希望を捨てずに戦え!俺達ポケモントレーナーはいつだってそういう気持ちでバトルにも臨んでるだろうが!」

 

 

コウの言葉にイブラヒムは顔を上げる

 

ポケモンバトルに臨む時、たとえどんなにピンチでも、トレーナーは完全に勝敗が決するその時まで、ポケモンを信じ、諦めずに勝利を掴もうとするものだ

 

メリッサの置かれた状況は限りなく絶望的であることに間違いない

 

だが、メリッサが今どういう状況なのか、正確な事はこの場の誰も知り得ない

 

絶望的だが、最悪の結果はまだ目の前に訪れていない

 

本当にあるかは分からないが、希望は無いと決まってはいない

 

 

「…そうだな。メリッサがまだ無事なら、ここで足を止めてるわけにはいかねぇ…!頼んだぞ!グソクムシャ!」

 

 

メリッサの無事を信じ、希望を持って立ち上がったイブラヒムはグソクムシャを繰り出す

 

 

「よし!手早くこいつらを片付けて、メリッサを助けに行くぞ!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

 

メリッサ救出に向けて、イブラヒム達は砂漠のポケモン達とのバトルに臨む

 

 

 

 

「フレ〜ン!りりむさ〜ん!何処〜!」

 

 

スピアー達の治療を終えたメリッサは自身をウルトラビーストから助けてくれた男と共に逸れたフレン達を探し歩いていた

 

 

「ふむ。これだけ呼んでも返事が全く聞こえないあたり、近くにはいないようだな」

 

「みたいですね…。早く2人と合流しないと…。今ここには、ウルトラビーストだけじゃなくて、にじレジ団もいるのに…」

 

「その危険を理解していながら、友を助けるためとは言え、自らを囮にして離れ離れになるとはな」

 

「それは…うん…。でも、あのポケモン凄く強かった…。フレンのバシャーモの攻撃も素早くて全然当たらなかったから、勝てるか怪しかった…」

 

「まあ、ウルトラビーストはそこらの野生ポケモンとは桁外れに強いからな。特にフェローチェは攻撃と素早さに特化したポケモン。レベル差がある以上は策を要しないとまず勝てない」

 

 

"だが…"と、男は言葉を続ける

 

 

「仲間と力を合わせれば、少しは勝機もあっただろう。囮になるよりも、その方が些かマシだったように思うがな」

 

「どうだろう…。僕、あんまりバトルには興味ないから、フレンやイブラヒムと比べてポケモン達の育成に力は入れてないし、知識も無い。僕がフレンと一緒に戦っても、あのポケモンには勝てなかったと思う」

 

「……」

 

「だから、あのポケモンが僕に敵意を向けてたのが分かった時、こうするしかないって思ったんだ。そうすれば、少なくともフレンは助かると…」

 

「…待て」

 

 

と、男は急に眉を顰めてメリッサの言葉を遮った

 

 

「今の言い方…お前が囮になろうと考え、行動する前からウルトラビーストに他の誰よりも強い敵意を向けられていたのか?」

 

「う、うん…。最初に狙われた時は勘違いかと思ったんだけど、二度目の攻撃の時にフレンのバシャーモを無視してまで僕を狙って来たから…」

 

「手を出す前から、そこまでウルトラビーストが執拗にお前を狙っていた…?もしかすると…。いや、まさか…。だが、そうとしか考えられないか…」

 

「おじさん…?どうしたの…?」

 

 

急にぶつぶつと独り言を呟く男に、メリッサは恐る恐る声を掛ける

 

 

「…一つ尋ねるが、お前は何かしら記憶を失っていたりするか?」

 

「え…!?なんでそれを…!」

 

 

メリッサが名前以外に関する全ての記憶を失っていることを知るのはイブラヒムとフレン、そして出会った日に運ばれた病院の一部関係者のみ

 

その事実を、今日初めてあった男がずばりそれを言い当てたことにメリッサは思わず声を上げて驚いた

 

 

「その反応…そうなんだな?そうか、噂には聞いていたが、まさか本物に出逢えるとはな…」

 

「な、何を言って…?」

 

「…単刀直入に言おう。お前はウルトラホールを通ってこの世界へと来た別世界の人間…Fallだ」

 

 

 

 

「も、もうダメだ…!おしまいだぁ…!」

 

「くそっ…!あのウルトラビーストにポケモン達がやられてなけりゃ…!」

 

「メラァッ!」「エレザァッ!」「サナァッ!」

 

「ひ、ひぃぃぃ…っ!?」

 

 

地下迷宮のとある場所…フレン達と同じくメイフ砂漠のポケモン達の砂地獄によって落とされたにじレジ団の下っ端達は、逸れた椎名を探している最中にメラルバ等の野生ポケモン達と遭遇

 

直前のフェローチェとのバトルで手持ちのポケモンが全てが戦闘不能になっていたことから、成す術なく追い込まれていた

 

 

「ダイケンキ!"ひけん・ちえなみ"!」

 

 

絶体絶命のその時、突如として彼等の目の前に黒いフードを被った女性と共にヒスイ:ダイケンキが現れ、"ひけん・ちえなみ"でメラルバ達を攻撃した

 

 

「メ、メラァ〜…ッ!」

 

 

ヒスイ:ダイケンキの一撃でメラルバ達はすっかり怯んでしまい、一目散に迷宮の奥へと逃げ帰って行った

 

 

「みんな〜、大丈夫〜?」

 

「よ、夜見さん…っ!」

 

「た、助かった〜…っ!」

 

 

ポケモン達が去ったところで、女性が黒いフードを脱いで素顔を晒す

 

その正体はにじレジ団幹部の夜見れなであり、彼女の姿を見て下っ端達は安堵の息を漏らした

 

 

「それにしても心配したよ。約束の集合場所で待ってたら、鉱山でバトルしたばかりのジムリーダー達が来て、みんなが地下迷宮に落ちたかもって話を偶然耳にしたんだもん」

 

「す、すみません…。立て続けに予想外の邪魔が入ったもので…」

 

「それは大変だったね〜。ところで、椎名先輩は?一緒じゃないの?」

 

「そ、それが砂地獄に呑まれた時に逸れてしまったみたいで…。探してる最中だったんですが、運悪くあのポケモン達と出くわして…」

 

「やっぱり逸れちゃってるのか〜…。厄介なジムリーダー達も彷徨いてるし、早く見つけないと色々面倒なことに…あれ…?」

 

 

唯一逸れてしまった椎名を案じるなか、夜見はこちらへと徐々に近づいて来る"ドドドドド…"という音を捉えて振り返る

 

 

「カバァァァァッ!!」

 

「誰かぁぁぁぁっ!!助けてぇぇぇぇっ!!」

 

「椎名先輩…!?と、あれはりりむちゃん…!」

 

 

夜見が目にしたのは、メイフ砂漠と地下迷宮を住処にする野生のカバルドン達に追われて泣き叫ぶ椎名とりりむの姿だった

 

 

「あぁ…っ!夜見ぃぃぃ…っ!!助けてぇぇぇ…っ!!」

 

「そんなに泣いて頼まなくてもやりますよ!出ておいで、クレベース!"ひょうざんおろし"!」

 

 

夜見はヒスイ:クレベースを繰り出すと共に"ひょうざんおろし"を指示する

 

ボールから飛び出たヒスイ:クレベースは氷山のよう巨大な氷塊を形成し、それを椎名達を追い掛けているカバルドン達へ向けて落とし、炸裂させると共にそれを以って彼等の行手を阻ませる

 

 

「あ、ありがとう夜見…。助かったぁ…」

 

「どういたしまして〜。それにしても、まさかりりむちゃんも一緒だったなんて。少し前から連絡が付かなくなったから心配してたんだよ〜?」

 

 

と、夜見がりりむに歩み寄ろうとした時、その行手を遮るように椎名が手を出す

 

 

「ちょっと待って、夜見。りりむは今あたし等の仲間じゃない」

 

「えぁ〜?どういうことですか?」

 

 

バキィィィンッ!!

 

 

「「「…っ!?」」」

 

 

椎名の言葉に夜見が首を傾げたその時、ヒスイ:クレベースの"ひょうざんおろし"によって野生ポケモン達の行手を阻めていたかに思われていた氷塊を、ズルズキンの群れが"とびひざげり"を駆使して突破してきた

 

 

「うわぁぁぁぁ…っ!?あいつ等まだ追いかけて来る気満々やん…!?」

 

「よ、夜見さん…!もう一度"ひょうざんおろし"で攻撃を…!」

 

「分かってる!クレベース…!」

 

 

ビキビキ…ッ!

 

と、再び"ひょうざんおろし"で行手を阻もうと夜見が指示を出そうとしたその時、ヒスイ:クレベースの足下に亀裂が入る

 

 

「「「ワルビィッ!」」」

 

「クレェ…ッ!?」

 

「クレベース…っ!?」

 

 

次の瞬間、地中から飛び出してきたワルビル達の"あなをほる"が炸裂し、大ダメージを受けたヒスイ:クレベースは横倒れた

 

 

「うわぁぁぁぁぁ…っ!!?どどどど、どうしたら…!そ、そうだ…!夜見…!フーディン出してよ…!"テレポート"を使えば簡単に逃げられるやろ…!?」

 

「いや、フーディンはリーダーに貸してるから今手持ちにはいないよ?だから最終的な逃走手段を用意してる集合場所で落ち合おうって作戦にしたんじゃないですか」

 

「えぇ…っ!?そうだったっけ…!?」

 

「あ〜…椎名さん、作戦会議中寝てたからなぁ…。って、落ち着いてる場合ですか夜見さん…!?どうするんですか…!?」

 

「大丈夫!椎名先輩がなんとかしてるから!」

 

「あてぃし…!?」

 

「えぁ〜?椎名先輩、もう戦えるポケモン残ってないの?」

 

「いや、残ってはいるけど…!それを言ったら夜見こそ…!」

 

「私、鉱山で手持ちのほとんどがやられちゃってて、今万全に戦えるのがモルペコだけなんですよ〜。でも、あのポケモン達の群れには地面タイプの子が多いから、あまり役には立てないと思います」

 

「そ、そんなぁ…!あ〜…もうっ!面倒くさい前線立ちたくない怖いぃぃぃ…っ!」

 

 

弱音を吐きながらも、この状況から脱する手立てを持つのが自分しかいないと理解していた椎名は夜見に代わって前に出る

 

 

「し、しぃしぃ…!逃げるならりりむも一緒に…!」

 

「それは無理!決心が出来ない内は連れてはいかないから!」

 

「そ、そんなぁ…!りりむを置き去りにするつもりなの…!?」

 

 

逃げるための手段に打って出ようとしたところで、助けを求めるりりむを椎名は拒むが、涙を浮かべて訴える彼女の姿に顔を歪ませる

 

今は決心が揺らいでいるとは言え、一時でも仲間だったりりむを見捨てられる程、椎名も非情ではなかった

 

 

「…〜っ!分かった!せめて逃げ道と時間くらいは作ってあげるわ!ただし、あたし等の後は付いてくるなよ!いけ!バクフーン!"ほのおのうず"!」

 

 

せめてもの情けとして、りりむが逃げるための手助けをしてやろうと椎名は通常の個体とは異なるおどろおどろしい風貌をしたヒスイ:バクフーンを繰り出すと共に、"ほのおのうず"を指示する

 

ヒスイ:バクフーンが繰り出した"ほのおのうず"はワルビル達に炸裂すると共に、その規模を更に大きくして後続のカバルドンやズルズキン達をも巻き込み、その中に包み込んだ

 

 

「ほら!今の内に適当な道へ逃げろ!あたし等も早く逃げたいんだから!」

 

「う、うん…!ありがとう、しぃしぃ…!」

 

 

椎名にお礼を言い残し、りりむは彼女達が逃げようとしているのとは別の道へと走って行った

 

 

「椎名先輩!私達も早く!あと、りりむちゃんのこともちゃんと説明してくださいね!」

 

「分かってる!バクフーン!いくよ!」

 

 

りりむが逃げるのを見送った後、夜見に催促されて椎名も彼女達と共にその場から離脱する

 

 

「「「カバァァァッ!!」」」

 

 

しばらくして、カバルドンの群れが繰り出した強力な"ふきとばし"によって彼等を呑み込んでいた"ほのおのうず"は掻き消され、自由となったポケモン達は分かれて椎名達とりりむそれぞれの後を再び追い始めた

 

 

 

 

「これで最後だ!グソクムシャ!"アクアブレイク"!」

 

「グシャァッ!」

 

「ダグゥ…ッ!?」

 

 

メイフ砂漠の野生ポケモン達の群れとのバトルに臨んでいたイブラヒム達は激闘の末、ようやく最後の1体を倒し切った

 

 

「はぁ…!はぁ…!やっと片付いた…!」

 

「ああ…!だけど、このバトルでラプラス達も相当疲れたみたいだ…!」

 

「お疲れ様、バシャーモ。ゆっくり休んで」

 

 

数十体にも及ぶポケモン達とのバトルを経て、グソクムシャ、ラプラス、バシャーモの体力は限界に達しており、イブラヒム達は奮闘したポケモン達を労い、ボールへと戻す

 

 

「よし!それじゃあ、メリッサを助けに向かうぞ!」

 

「丁度良く、フレンを追い掛けて来たポケモン達の足跡が残ってる。これを辿って、一旦フレンがメリッサと逸れた場所へ向かいつつ、道中ですれ違わないように探しながら進もう」

 

 

コウの提案に賛同し、イブラヒム達は野生のポケモン達が残した足跡を辿りながらメリッサを探しに走り出す

 

 

「ところで、ウルトラホールから現れたウルトラビーストはどんなポケモンなんだ?」

 

「えっと…めちゃくちゃスリムでポケモン界の美女って感じのポケモンだった!」

 

「いや、そういうのじゃなくてバトルの役に立ちそうな情報はないのか?」

 

「あ…そっちね?凄く素早い上に攻撃力もかなり高いの。にじレジ団のポケモンはみんな一撃だったし、私のフライゴンも一瞬で倒されちゃった」

 

「お前のフライゴンが…!?」

 

「相当ヤバそうなポケモンだな…。でも、攻撃力と素早さが高くて、体は細身…ってことは能力が攻撃に特化してる。つまり、逆に防御面は脆いはずだ」

 

 

道中、イブラヒムとコウはフレンから遭遇したウルトラビーストについて情報を聞き出し、そこからどんなポケモンなのか分析する

 

 

「なら、一撃を食らわせるのが最大の問題になりそうだな。ちなみに、戦えるポケモンは何体残ってる?俺はあと3体だ」

 

「私も3体」

 

「俺は5体だ。素早さ勝負なら、エースバーンが1番張り合える」

 

「なら、俺とフレンはコウのエースバーンが一撃食らわせられるようサポートするぞ」

 

「うん!分かった!」

 

「…っ!?2人共、止まれ…!」

 

 

ウルトラビーストへの対策を練り終えた丁度その時、何かに気付いたコウがイブラヒム達の足を止めさせ、"シーッ"と口元に人差し指を立てて声を潜ませる

 

 

(どうしたんだ、コウ…!)

 

(この先から微かに何かの呻き声が聞こえた…!何かいるかもしれない、慎重に進むぞ…!)

 

 

小声で話しながら、コウを先頭にイブラヒム達は道の先へと進んでいく

 

 

「サ…サダィ…」

 

 

徐々にコウが聞こえたとされる呻き声が大きくなるなか、道の先に広い空洞が見え、イブラヒム達はそーっと壁に張り付きながら近付き、角から中を覗き込んだ

 

 

「「「…っ!!?」」」

 

 

そこで見た光景に、イブラヒム達は思わず目を見開いた

 

 

「フェロ…!」

 

「サ…サダィ…」

 

 

ウルトラビースト:フェローチェがサダイジャを押さえ付け、その喉元に噛み付いていた

 

更にそれだけではなく、既にフェローチェの餌食となったと思われる横たわった数十体のポケモン達の姿があった

 

 

(なんなんだよ…!この有り様は…!?)

 

(あのポケモンがウルトラビースト…!状況から見るに、たった1体であの場のポケモン達を倒したってのか…!?)

 

(ね、ねぇ…!あれ、何をしてるの…!?)

 

 

この惨状を作り出したとされるフェローチェのまだ見ぬ強さにイブラヒムとコウが驚愕と共に恐怖を覚えるなか、フレンはフェローチェの狂気的な行為を指摘する

 

 

(あれは…"きゅうけつ"か…!ポケモン達から体力を奪ってる…!)

 

 

サダイジャに噛み付くフェローチェの姿、周囲に倒れているポケモン達の生気を吸われたような弱々しい様子から、コウはフェローチェが"きゅうけつ"を行っていると見破った

 

それと同時に、ある疑問がイブラヒムの脳裏に浮かんだ

 

 

(でも、妙じゃないか…?フレンの話だと、あのウルトラビーストはバシャーモやフライゴンを圧倒したんだろ…?)

 

(う、うん…。それがどうしたの…?)

 

("きゅうけつ"は相手の体力を奪って回復する技だ。見たところ、あの場に倒れてるポケモン達は全員"きゅうけつ"をされた後に見える。つまり、それだけ体力の回復を必要とするだけのダメージがあったってことだ)

 

(う、うん…?)

 

(分からねぇのか?お前のバシャーモ達より遥かに強いあのウルトラビーストが、俺達が束になって倒せたポケモン達の群れを相手に手こずるとは思えねぇ)

 

(要するに、俺達やここの野生ポケモン達以外で、誰かがあのウルトラビーストに深手を負わせてたんだよ…!)

 

(そういうこと…!もしかして、メリーかな…!?)

 

(いや、メリッサの実力的にそれは無いだろ。それに、メイフ砂漠とその地下迷宮に化け物じみた強さを誇る野生ポケモンがいるなんて話は一切聞いたことがない。となると、考えられるのはジムリーダー級に相当腕の立つトレーナーの仕業だろうな)

 

(一体誰が…?)

 

 

数十体にも及ぶポケモン達から"きゅうけつ"をする程にフェローチェを弱らせた何者か

 

新たな謎に思考を奪われるなか、コウが2人に呼び掛ける

 

 

(気になってるところ悪いけど、その話は今は無しだ。それでどうする?あのウルトラビーストとここでバトルするか、引き返してメリッサを探し出すのを優先するか)

 

(…正直、一刻も早くメリッサを探したいところなんだが、どのみちウルトラビーストは障害になる。それに気付かれていない今なら、こっちから先手を取って仕掛けられる。何処かでバトルすることになるなら、今が最大の好機だろ)

 

 

メリッサの無事を信じることにしたイブラヒムとしては、ここで脅威となるウルトラビーストを放っておく気はなかった

 

加えて、"きゅうけつ"を行っていることからフェローチェがまだ万全の状態ではない可能性があること

 

そして、自分達から気付かれずに先手を仕掛けられる優位な状況にあることもバトルに臨む大きな要因となった

 

 

(そうだね。あのポケモンを見逃したら、それが今無事かもしれないメリーの危機になるかもしれないし)

 

(決まりだな。じゃあ、さっき話した作戦通り、俺がエースバーンで攻勢に出る。2人はサポートに回ってくれ)

 

 

全員の意見が一致し、イブラヒム達はフェローチェとのバトルに臨むことを決めた

 

 

 

 

「フォー…ル…?別世界の人間…?僕が…?」

 

「突然のことで理解出来ないのも無理はないが、お前はその可能性が高い。いや、状況から考えてまず間違いないだろう」

 

 

突然に突拍子もないことを告げられたメリッサが混乱するなか、男は話を続ける

 

 

「Fallはウルトラホールを通り、その中の特殊なエネルギーを大量に浴びてしまった者の総称。Fallとなった者はその特殊なエネルギーによってウルトラビーストから狙われやすくなり、その多くは記憶障害に陥っていると聞く」

 

「ウルトラビーストに狙われやすい…。それに記憶障害…。そっか…。そういうことだったんだ…」

 

 

男の話したFallの説明を聞いて、メリッサは不思議と納得した

 

地下迷宮に落ちる前、地上でウルトラホールを見た時に感じた違和感

 

アレは過去に自分がウルトラホールを通っていたから感じたのだろうと腑に落ちた

 

そして、身に覚えのあるFallの特徴がそれをより強く確信させた

 

 

「俺としては、国際警察やウルトラホールについて研究している機関の保護下に入ることを勧める。彼等ならば、どのウルトラビーストが現れても対処法を熟知している。まず身の安全は守られるだろう」

 

「でも、そうしたらイブラヒムとフレンとは一緒にいられなくなるんでしょ…?」

 

 

彼女の身を案じての男の提案に、メリッサは不安そうな声音で返答した

 

 

「ずっと…は、その本人達次第だな。それに守られるのはお前の身の安全だけではない。お前の友人を含めた周囲の人間の安全もだ」

 

「…っ!?」

 

 

男の言葉の意味…それをすぐに理解したメリッサは声を詰まらせる

 

ウルトラビーストがFallである自身を真っ先に襲って来るなら、当然その周囲にいる人達にも危険が及ぶかもしれない

 

 

(イブラヒムとフレン…それにみんなを僕のせいで危険な目に遭わせたくない…!でも、2人と一緒にいられなくなるのも嫌だ…!)

 

 

どちらの選択を取っても訪れるであろう耐え難い未来にメリッサは体を震わせ、表情を曇らせる

 

 

「…すぐに答えを出すことはない。だが近年、世界各地でウルトラホールの発生が増えている。次にまたウルトラビーストに襲われる未来もそう遠くはないだろう」

 

 

苦悶するメリッサに、男は気を遣いつつも現実から目を背けないよう、そう忠告する

 

そこからしばらくの沈黙が流れるなか、メリッサは思いを巡らせる

 

 

(イブラヒムもフレンも優しいから、きっと僕がFallだと知っても一緒にいてくれる…守ってくれる。でも、それで2人が…ポケモン達が傷付くのは耐えられない…!どうしたら…!…っ!そうだ…!)

 

 

長い熟考の末、1つの答えを導き出したメリッサは俯いていた顔を上げて男に面向かう

 

 

「…忠告、ありがとうございます。でも、ごめんなさい。僕は保護を受けません」

 

「…理由を聞いてもいいか?」

 

 

メリッサが下した決断に男は少しも動じることなく、その訳を問う

 

 

「僕は…イブラヒムとフレン、2人とまだ離れたくない。何処の誰とも分からない僕を、家族のように受け入れてくれた大切な人達だから。出来ることなら、許されるなら、これからもずっと一緒にいたい」

 

「その大切な者達が、ウルトラビーストの脅威に晒されるとしてもか?」

 

「それは嫌です…。だから、僕が2人を守れるように強くなります…!どんなに強いウルトラビーストが何体来ようとも、退けられるくらい強く…!」

 

「…っ!」

 

 

メリッサの想いとそれに伴う覚悟を聞き、男は一瞬だけ驚いたように目を見開いた

 

 

「…楽な道のりではないぞ?」

 

「2人と離れ離れになる方が、僕にとっては苦しい。それに、これは僕の我儘だから。その責任を負う覚悟は出来ています」

 

 

メリッサはそう力強く言い切り、彼女が向ける真っ直ぐな瞳を見て男は"フッ…"と笑みを溢した

 

 

「大切な者のためなら、どれほど過酷な道が待っていようと厭わない…か。その覚悟が本物なら、お前がFallだとして、いずれ記憶が戻ったとしても悔いはしないだろう」

 

 

メリッサの決断を尊重し、そう言葉を贈った男はジャケットのポケットからある物を取り出した

 

 

「ウルトラビーストと戦うならば、並大抵の力で不足だ。これはその一助になる物…餞別として受け取るがいい」

 

「それは…!キーストーンとメガストーン…!」

 

 

男が差し出してきたのは、ポケモンをメガシンカさせるために必要な道具であるキーストーンとメガストーンだった

 

 

「このメガストーンは"スピアーナイト"。これがあれば、お前のスピアーをメガシンカさせることが出来る」

 

「でも、キーストーンもメガストーンも貴重な物なんじゃ…」

 

「気にするな。俺はスピアーどころか、現在確認されているメガシンカ可能なポケモンの1匹も所持していない。宝の持ち腐れってやつだ。それに貴重な物だからこそ、これは相応しい者の手に渡るべきだ。少なくとも、俺は強い想いと覚悟を示したお前を見てそう感じた」

 

「…ありがとうございます」

 

 

男の厚意を受け入れ、メリッサはキーストーンとメガストーン:スピアーナイトを受け取った

 

 

「ディグディグゥゥ…ッ!」

 

「ヒポォォ…ッ!ヒポォォォォ…ッ!」

 

「…っ!あれは…!」

 

「な、なに…!?」

 

 

その直後、"ドドドドド…ッ!"と地鳴りを響かせながら、酷く怯えた様子の野生のポケモン達がメリッサ達を横切っていった

 

 

「い、今のは…?」

 

「メイフ砂漠と地下迷宮を住処としている野生のポケモン達だ。だが、酷く怯えている様子…それに、あのポケモン達の親が見当たらなかった」

 

「親…?」

 

「ダグトリオやカバルドン達だ。状況から察するに、あのディグダ達は親から逃がされて来たんだろう。身を挺しても勝てない程の相手から」

 

「一体何から…?ハッ…!もしかして…!」

 

「ああ。それほどの相手となれば、現状から考え得るのはウルトラビーストでまず間違いないだろう」

 

 

ディグダ達が逃げて来た先にウルトラビーストがいる

 

そう断言した男の推測を聞いたメリッサの体に緊張が走るが、イブラヒムとフレン…2人と一緒にいたい強い想いが恐怖を吹き飛ばし、メリッサは一歩踏み出した

 

 

「…行くのか?」

 

「うん。僕はイブラヒムとフレンと一緒にいたい。そのためにも、ウルトラビーストには立ち向かわないといけないから」

 

「…そうか」

 

「ここまでありがとうございました。おじさんをこれ以上巻き込むわけにもいかないし、ここからは1人で行きます」

 

「お前がそう望むなら引き留めはしない。だが、その前にこれも持って行ってくれ」

 

 

と、男は最後に珍しいデザインのモンスターボールを2個、メリッサに手渡した

 

 

「これは…?」

 

「ウルトラボール。普通のボールだとウルトラビーストは捕獲しづらいが、これなら問題なく捕獲出来る。そして、出来ることなら捕まえたウルトラビーストは加賀美インダストリアルの下へ届けてほしい。ウルトラビーストは本来、この世界にいないはずのポケモン。彼等を保護するには、信頼出来る所へ預けるのが1番良い。加賀美になら安心して任せられる」

 

「分かりました。その約束、必ず守ります」

 

「すまないな。それじゃあ、幸運を祈る」

 

「うん!」

 

 

男に見送られ、メリッサは自身の因縁と向き合うため、ウルトラビースト:フェローチェの下へ走り出す

 

 

 

 

 

「覚悟ある者よ、その想いに従って突き進むがいい。そして、俺も全身全霊を懸けて理想へと進むと改めて誓おう。俺の理想が叶えば、お前を含めたFallの者達もウルトラビーストの脅威に苛まれることなく生きていけるのだからな」

 

 

そして、メリッサを見送った男はそう独り言を呟いた後、地下迷宮の奥へと消えて行った





リゼ・ヘルエスタ
手持ち:エンペルト、イーブイ、バタフリー
   サイドン、リオル、ソウブレイズ

アンジュ・カトリーナ
手持ち:ゴルーグ、ビッパ

卯月コウ
手持ち:エースバーン、サーナイト、ラプラス

イブラヒム
手持ち:マンムー、コモルー、グソクムシャ
   サンダース、ドラピオン

フレン・E・ルスタリオ
手持ち:バシャーモ、パルスワン、ラッキー
   フライゴン、ニューラ

メリッサ・キンレンカ
手持ち:エモンガ、スピアー、イワパレス

椎名唯華
手持ち:ゲンガー、ヒスイ:バクフーン

夜見れな
手持ち:ダイケンキ(ヒスイ)、モルペコ
   フーディン、マタドガス(ガラル)
   クレベース(ヒスイ)、ゾロアーク(ヒスイ)
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