にじさんじ×ポケットモンスター   作:Mr.ソロ

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第71話「別れの時!リゼとアンジュの過去!」

 

「んっ…。あれ…?ここは…?」

 

 

清潔な空間が保たれた病室…そのベッドで眠っていたリゼは窓から差し込む陽光によって目を覚ます

 

同時に、まだ覚醒し切っていない脳から違和感を訴えられ、朧げな意識のなか、すぐに思い出せる限りで直近の記憶を掘り起こす

 

その末に、見上げている天井が見覚えの無いものだと漠然と理解したリゼはゆっくりと起き上がり、眠気が残る眼で辺りを見渡す

 

 

「ルォ…!」

 

 

その時、リゼが腰掛けているベッドの傍の床から、彼女の目覚めを感知して耳をピンと立たせた1体のポケモンが勢いよく飛び起きる

 

 

「わっ…!?ル、ルカリオ…?」

 

 

そのポケモン…ルカリオが突然、死角から現れたことでリゼは驚き、眠気が一気に吹き飛んだ

 

 

「…!ルオッ!ルォルォッ!」

 

 

驚くリゼと目を合わせたルカリオは一瞬目を見開いた後、嬉しそうな表情を浮かべると病室全体に向かって吠える

 

 

「「「「…ッ!」」」」

 

 

その直後、ルカリオと同じくリゼのベッドのすぐ傍の床で寝ていたエンペルト達が飛び起きる

 

 

「エンペ〜ッ!!」

「フリィ〜ッ!!」

「サァ〜イッ!!」

 

 

そして、エンペルト達はリゼと目を合わせた途端、目に涙を浮かべ出し、心底嬉しそうな声を上げながら一斉に彼女へ飛び付いた

 

 

「わわっ…!み、みんな…!どうしたの…!?」

 

 

急に飛び付いてきたエンペルト達に激しく困惑するなか、リゼは彼等から遅れて飛び付いてきた見知らないポケモンに目を丸くする

 

 

「グレ〜イッ!」

 

「え…?グ、グレイシア…?」

 

「グレイ!グレ〜イ!」

 

「…もしかして、イーブイなの?」

 

 

困惑しながらも、自身の手持ちの中で誰よりも長く一緒にいたからこそ感じた繋がりと、知識にあるグレイシアの進化系統の関連から、その正体を推測したリゼは確かめるように尋ねる

 

 

「グレ〜イ!」

 

「本当にイーブイなんだね…!あなた、グレイシアに進化したんだ…!でも、いつの間に…!」

 

 

頷くグレイシアの笑顔でその事実を受け入れられたリゼは待望の進化に喜びを露わにしながら、何故自分の知らない間にそうなったのか疑問を過ぎらせる

 

だが、言葉を紡ぐ途中でリゼはようやく目覚める前の1番新しい記憶を思い出す

 

イーブイがグレイシアに進化するには、"こおりのいし"という道具が必要となる

 

この地方でそれが手に入る場所はコーヴァスシティとシーズシティの間に聳え立つエニカラ雪山

 

山の中腹辺りまでを激しい猛吹雪が包み、自ら取りに行くのを断念して麓の横道を横切るなか、争い合う野生ポケモン達と遭遇し、その最中にソウブレイズが雪山へと足を踏み入れ、その先で伝説のポケモン:フリーザーとバトルすることになった

 

途中、負傷したアンジュを置いてフリーザーとのバトルを継続するソウブレイズを追ったリゼは、遂に見つけた矢先に窮地のソウブレイズを庇って"れいとうビーム"の直撃を受けた

 

その後の記憶で微かに思い出せるのは、涙を流しながら自身を見つめるソウブレイズに自身の胸の内を語ったことだった

 

 

「そうだ…!ソウブレイズ…!ソウブレイズは…!」

 

 

全てを思い出したリゼは視界の中にその姿が無いソウブレイズを心配する

 

 

「…ブレイ」

 

「…!ソウブレイズ…!良かった…!無事だったんだね…!」

 

 

声が上がってすぐ、病室の出入り口に1人離れていたソウブレイズが姿を現し、リゼはホッと胸を撫で下ろす

 

 

「……」

 

 

落ち着いたリゼをしばらく見つめた後、ソウブレイズはその近くに歩み寄ると片膝を床に突き、リゼに深々と頭を垂れる

 

 

「ソウブレイズ…!」

 

 

まるで物語の騎士が仕える者に忠誠を示す…そんな行動を取ったソウブレイズの姿にリゼは自分に心を開いてくれたのだと感じ取る

 

 

「ソウブレイズ!強くなりたいなら、私達と一緒に強くなろう!それと沢山の楽しい思い出を作ろう!いつか、あなたの大切な人が眠る場所に帰って来た時、目一杯の感謝と幸せを伝えられるように!」

 

「ブレイ!」

 

 

大切な人の想いに応えるため、前へ進む…そう決意したソウブレイズはリゼの言葉に頷いた

 

 

「あ…!やっぱり!ポケモン達の騒がしい声がしたと思ったら!」

 

「リゼ様〜…っ!!よかった〜…!!目が覚めて〜…!!」

 

「うっす。気分はどうすっか?」

 

 

ソウブレイズが改めてリゼのポケモンとして仲間に加わったところで、開かれた病室の扉からイブラヒム、フレン、メリッサの3人が現れる

 

 

「フレン!メリッサさん!イブラヒムさん!」

 

「リゼ様〜…!心配しましたよ〜…!」

 

「ご、ごめんね…フレン…。もしかして、皆さんがここまで運んでくれたんですか?」

 

「まあ、そうっすね」

 

「すみません、ご迷惑をおかけして…」

 

「ブレイ…」

 

 

リゼと共に、3人を巻き込んでしまったソウブレイズも頭を下げて謝罪する

 

 

「そんなに気にしなくていいっすよ」

 

「そうですよ、リゼ様!困った時はお互い様です!」

 

「そうそう。僕もメイフ砂漠の時に迷惑かけちゃったし、お互い様ってことで」

 

「ありがとう…。あの…私達、エニカラ雪山でフリーザーと遭遇したんだけど…」

 

 

イブラヒム達の気遣いに感謝を伝えたリゼは、自身が意識を失った後の顛末を尋ねる

 

 

「僕達がリゼさん達を見つけた時には、フリーザーは既に倒れてたんだ」

 

「流石はリゼ様のポケモン達です!伝説のポケモン相手に相打ちとは言え倒しちゃったんですから!」

 

「そうなんだ…!みんな、力を合わせて頑張ったんだね…!」

 

 

リゼに褒められ、エンペルト達は照れたり自慢げな態度を取ったりと各々の反応を示す

 

 

「その後、倒れたフリーザーはチャイカさんがゲットしたんすよ」

 

「兄上…!?兄上があそこにいたんですか…!」

 

 

イブラヒムから兄であるチャイカの名前が出て、リゼは驚きの声を上げる

 

 

「大きな雪雪崩があった後、アンジュさんを見つけたところで出会ってな。リゼさんのポケモンを一緒にここまで運んだ後は、先に目を覚ましたアンジュさんと何か話した後、スメシシティの加賀美さんのところへ向かいました」

 

「捕まえたフリーザーを預けるため、って言ってました」

 

「そうですか…」

 

「お、落ち込まないでください、リゼ様!チャイカさん言ってましたよ!リゼ様が良いトレーナーに成長してて兄として鼻が高いって!」

 

「そ、そうなの…?そっか…。私、兄上に認められるトレーナーにちゃんとなれてるんだ…」

 

 

RRRビーチ以来となるチャイカとの再会が叶わず残念がるリゼだったが、チャイカから立派なトレーナーとして認められたことをフレンから伝えられ、気を取り直す

 

 

「ところで、アンジュは何処?さっきの話だと、大丈夫そうなんだよね?もしかして、別の病室でまだ安静中…?」

 

 

エニカラ雪山でのその後とチャイカの話が済んだところで、リゼはこの場に姿が見当たらないアンジュのことを尋ねる

 

 

「えっと…」

 

「それが…」

 

「どうしたの…?もしかして、アンジュに何かあったの…?」

 

 

答えに言い淀むメリッサとフレンの様子にリゼが不穏な空気を感じるなか、2人に代わってイブラヒムが答える

 

 

「…リゼさん。アンジュさんはもう退院してます。体の方は特に問題も無いそうです。だけど、もうここにはいません。アンジュさんは…退院してすぐ、ヘルエスタシティへ帰りました」

 

「帰った…?どういうことですか…?」

 

「僕達にも理由が分からなくて…。ただ、もうリゼさんと旅をするつもりは無いみたいなんだ…」

 

「ここを出ていく前に、ポケモンリーグの開催まで私達にリゼ様を頼みたいってお願いされて…」

 

 

イブラヒム達から聞いたアンジュの唐突な行動にリゼは困惑すると共に思考が止まる

 

 

「なにそれ…?急にそんなこと…納得出来るわけないじゃん…!」

 

 

顔を俯かせてしばらく呆然とした後、リゼは声を荒げるとベッドから立ち上がり、出入り口へと向かって行く

 

 

「リゼさん…!?何処に…!」

 

「ヘルエスタに行く!行って、アンジュに直接理由を聞く!」

 

「お、落ち着いてくださいリゼ様…!まだ目を覚ましたばかりなんですから、もう少し安静に…!」

 

 

フレンとメリッサが止めようとするが、リゼはその制止を聞かずに病室の扉を開けて足早に外へと出て行き、エンペルト達も慌ててその後を追って行った

 

 

「い、行っちゃった…!」

 

「イブちゃん…!私、リゼ様達のこと放って置けないよ…!」

 

「分かってる。俺達も行くぞ」

 

 

リゼを心配するフレンとメリッサにイブラヒムも同意し、3人もリゼの後を追う

 

 

 

 

「着いた…!」

 

 

シーズシティのポケモンセンターを飛び出してから約1時間後…ヘルエスタシティに到着したリゼ達は都市部から少し離れた森の中に構えられたアンジュの家に辿り着いた

 

 

「アンジュ!リゼだよ!いるなら出てきて!」

 

 

家に向かってリゼが叫び、少し間を置くも中からの返事は無く、扉が開く様子も無かった

 

 

「返事が無いですね…」

 

「今は家に居ないのかな…?」

 

「それか居留守を決め込んでるかだな。どうしたもんか…」

 

 

アンジュが家に居るのか居ないのか、居るならどうやって出てきてもらうかとフレン達が考え悩むなか、リゼは1人家に近寄って扉の取っ手に手を掛ける

 

 

「鍵が掛かってる…。なら…!出てきて、サイドン!」

 

 

鍵が掛かっていることを確認した途端、リゼは唐突にサイドンを繰り出した

 

 

「リ、リゼ様…!?どうしてサイドンを…!?」

 

「ドアをこじ開けるためだよ!サイドン!最悪壊しちゃってもいいから、やっちゃって!」

 

「サ…ッ!?サ、サァイッ!」

 

 

普段のリゼからは想像出来ない乱暴な指示にフレン達は唖然とし、サイドンも一瞬戸惑いを見せるも、アンジュの真意を確かめたいリゼの意志を信じ、意を決して扉へと突撃する

 

 

「ガウッ!」

 

「サイ…ッ!?」

 

 

その時、アンジュの家の屋根上から何かが飛び降り、サイドンに体当たりを食らわせ吹き飛ばした

 

 

「あ、あのポケモンって…!」

 

「ウインディじゃねぇか…!」

 

 

リゼ達の目の前に現れたのは"でんせつポケモン"のウインディだった

 

 

「アンジュのウインディだ…!」

 

「ガウゥゥゥ…ッ!」

 

「威嚇してる…!"近付くな"って言ってるみたい…!」

 

「サイィ…ッ!」

 

「サイドン!待って!」

 

 

威嚇するウインディにメリッサがたじろぐなか、リゼは吹き飛ばされた怒りで反撃に出ようとするサイドンを制止させ、ウインディの前に立つ

 

 

「ウインディ!私、アンジュと話がしたいの!お願いだから、そこを通して!」

 

「ガウッ!ガウガウッ!」

 

 

リゼの頼みに、ウインディは首を横に振って拒否する

 

 

「…手荒な真似はしたくないんだけど、どうしても退いてくれないなら強引にいかせてもらうよ!サイドン!"ドリルライナー"!」

 

 

聞き入れてくれる様子が無いウインディに、リゼはバトルでの強行突破を宣言し、サイドンに"ドリルライナー"を繰り出させ、それに受けて立とうとウインディも"フレアドライブ"で応戦する

 

 

「ゴルゥッ!」

 

「サァイ…ッ!?」

 

「ガウ…ッ!?」

 

「ゴルーグ…!」

 

 

だが、サイドンとウインディが激突する寸前で空からゴルーグが勢いよく降着し、その間に割り入って両者の攻撃を受け止めた

 

 

「ビパ…!」

 

「ビッパも…!」

 

 

ゴルーグが2体を完全に止めると、その肩の後ろからビッパが顔を出し、地上へと下りるとリゼの下へ駆け寄って来る

 

 

「ビパビッ!」

 

「これ…アンジュのスマホ…?」

 

 

リゼはビッパからアンジュの物と思われるスマホを手渡され、その画面にはスピーカー状態の通話画面が表示されていた

 

 

『ゴルーグ、ありがとう…。ウインディ、下がっていいよ…』

 

 

スマホから聞こえたのはアンジュの声…その言葉を聞いたウインディは敵意を収め、ゴルーグ達と共に後ろへと退がり、リゼは一度深呼吸を挟んでからスマホ越しのアンジュへと話し掛ける

 

 

「アンジュ…まずは無事で良かった…。体の具合はどう…?」

 

『大丈夫…。リゼも元気そうで良かった…』

 

「…ねぇ、アンジュ。どうして急に…1人で帰っちゃったの…?それに私のことをフレン達に頼んだって…。まだ私達の旅は終わってないでしょ…?」

 

『…リゼが残すジムはヘルエスタとシーズの2つ。それぞれのジムがある街は隣接していて、周囲には今のリゼにとって危険な地帯も無い。信頼出来るフレンさん達が一緒なら、私がお目付役として付いて行く必要も無くなった。そういうことだよ』

 

「そ、そんな…私との旅が義務的なものだったような言い方…!アンジュ、嘘吐いてるでしょ…!」

 

「……」

 

「…じゃあ、仮にそれが本当だったとしても、こんな終わり方おかしいよ…!何も言わずに勝手にいなくなるなんて…!まるで後ろめたい理由でもあるみたいじゃん…!」

 

 

これまでの言動に違和感を感じてリゼがそう指摘するが、アンジュは一言も返さず沈黙した

 

 

「…アンジュ。私との旅を終わりにしようと思った本当の理由は別にあるんでしょ…?正直に話してよ…!どんなに後ろめたい理由があっても怒ったりしないから…!」

 

『…ごめん、リゼ。私はもう、リゼの傍にはいられない』

 

 

ブツリ…と、アンジュはその言葉を最後に通話を切った

 

 

「…アンジュ!?傍にいられないって、どういうこと…!?ねぇ、アンジュってば…!」

 

 

アンジュが最後に言い残した言葉に納得がいかなかったリゼは声を荒げる

 

 

「落ち着いて、リゼはん。いくら理由を問い詰めても、傷心してる今のアンジュはんは何も答えへんよ」

 

 

その時、背後から声を掛けられたリゼ達が振り返ると、そこには黒鳶色の髪に黄と赤のオッドアイが特徴的な和風のメイド服を身に纏う1人の女性がいた

 

 

「…っ!!!?」

 

「とこちゃん…!」

 

「とこ…?まさか、ヘルエスタジム:ジムリーダーの戌亥とこか…!」

 

「あら、よく知ってはるね。もしかして、リゼはんと同じポケモンリーグ挑戦を目指してるトレーナー?はじめまして、私はヘルエスタジムでジムリーダーを務めてる戌亥とこ。よろしく」

 

 

それはリゼのよく知る人物…ヘルエスタシティのヘルエスタジム:ジムリーダーにして、幼い頃から親しい仲にある戌亥とこだった

 

 

「とこちゃん、聞いて…!アンジュが…!」

 

「うん、大体の事情は知ってる。一先ず、ウチの喫茶店に行かん?アンジュはんがこうなった理由…その知る限りを私が話してあげるから」

 

「わ、分かった…」

 

「リゼはんのお友達も良ければ一緒に。えーっと…」

 

「俺はコーヴァスシティのイブラヒムと言います。こっちはフレンとメリッサ。邪魔にならないならお願いします」

 

「イブラヒムにフレン、メリッサね。それじゃあ皆、私に付いて来て」

 

 

戌亥に誘われ、一同は彼女が働く喫茶店に向けて歩き出す

 

 

「あれ…?フレン、どうしたの?」

 

 

その時、ふと傍にフレンの気配が無いと気付いたメリッサが後ろを振り返ると、フレンはその場から一歩も動いておらず、呆然と立ち尽くしていた

 

 

「ん…?急にどうしたんだ、あいつ…?」

 

「分からない…。お〜い!フレ〜ン!」

 

 

イブラヒムも疑問に思うなか、メリッサが再度呼び掛けた数秒後、フレンはゆっくりと歩き出したが、イブラヒムとメリッサに目も合わせず素通りして戌亥に向かって真っ直ぐ進んでいく

 

 

「フ、フレン…?」

 

 

様子のおかしいフレンにメリッサが心配するなか、フレンは戌亥の目の前で立ち止まると腰を屈ませて片膝を地に突き、真っ直ぐに右手を差し出した

 

 

「好きです。結婚してください」

 

「あら…!」

 

「突然のプロポーズゥゥゥゥゥ…っ!!?」

 

「いや、色々と素っ飛ばし過ぎだろ…!?」

 

「あ…。フレンが女性相手に求婚すること自体には驚かないんだ…」

 

 

フレンの突然の告白に戌亥は少し驚いたように目を丸くし、リゼとイブラヒムは驚きのあまりに大声を上げ、メリッサはイブラヒムの発言に冷静なツッコミを入れた

 

 

 

 

「先程はすみませんでした…」

 

「べつにええよ。それにしても、初対面の人からいきなり告白を受けたのは初めての経験だったわ」

 

「僕もあんなフレンを見るのは初めてだったな〜」

 

「いや〜…。戌亥さんが私にとっての運命の相手に思えて、つい…。あ…!とこさんって呼んでもいいでしょうか?」

 

「図々しいな、お前…」

 

「構わへんよ」

 

「いいんだ…!?」

 

「ありがとうございます!!お呼びする時は常に愛を込めさせていただきます!!」

 

「アハァ〜。面白いお友達が出来たみたいやね、リゼはん」

 

 

戌亥に連れられたリゼ達は一度アンジュの家を後にし、彼女が働く喫茶店に訪れた

 

 

「はい。マスターからみんなに珈琲」

 

「ありがとうございます…!」

 

「う〜ん…!いい香りだね!」

 

「マスターが淹れる珈琲はヘルエスタ1番なんよ。砂糖もあるから、お好みでどうぞ」

 

「あざっす」

 

 

イブラヒム達が差し出された珈琲に舌鼓を打つなか、リゼは戌亥に話を切り出す

 

 

「…とこちゃん。アンジュが私との旅を終わりにした理由に心当たりがあるんだよね?それって何なの?」

 

「そう焦らないで、リゼはん。久しぶりに故郷へ帰って来たんだから、少しはゆっくりし。そのついでに、私にリゼはん達の旅の話でも聞かせてくれへん?」

 

「え…?で、でも今は…」

 

「いいからいいから…ね?」

 

「わ、分かった…」

 

 

優しく落ち着いた声音でそう提案してくる戌亥に押し負け、リゼはアンジュと共に旅立ってからの日々…ポケモン達と色んな人達との出逢い、各街でのジム戦、印象に残る様々な出来事を戌亥に語った

 

 

 

 

「…そっか、私が想像してたよりもずっと濃厚な旅をしてきたんやね。ポケモンや人との出逢いは勿論、トラブルやハプニングも沢山…」

 

 

陽が落ち始めた頃、リゼの旅の話がようやく締め括られ、その膨大な物語に戌亥は満足そうな表情を浮かべる

 

 

「エニカラ雪山での事には、私からもフレン達に感謝せんと。リゼはん達を助けてくれて本当にありがとう」

 

「いえいえ…!当然のことをしただけですから…!」

 

 

3人を代表して謙遜するフレンの大仰な身振りに戌亥がクスリと微笑を溢す

 

 

「それにしても、それだけの旅をして来てアンジュはんもよくここまで保ったね。まあ、幸運にもアンジュはんが無理をする必要があった場面が少なかったからみたいだけど」

 

「…その言い方、まるで戌亥さんはアンジュさんが何処かでリゼさんとの旅を辞めてしまうことが分かってたみたいですね」

 

「…とこちゃん、そろそろアンジュのことについて教えてくれない?」

 

「…そうね。リゼはんから旅の土産話も聞けたことだし、そろそろ本題に入ろっか」

 

 

戌亥は珈琲を一口飲み挟んでから、緊張するリゼ達に改めて向い合う

 

 

「アンジュはんがリゼはんとの旅を辞めた理由。それは"リゼはんの足手纏いになってしまう"と判断したからなんよ」

 

「「「「…!?」」」」

 

 

戌亥から明かされたその理由にリゼ達は瞠目する

 

 

「足手纏いって…!この旅でアンジュには何度も助けられてるんだよ…!どうして…!」

 

 

戌亥が告げた理由に納得がいかないリゼが声を上げる

 

アンジュはポケモンやバトルに関する知識で力になってくれただけでなく、ヤオウシティで遭遇したウルトラビースト:ウツロイドの撃退やコーヴァスシティ付近の鉱山で対峙したにじレジ団からディアンシーを取り返すことに尽力してくれたからだ

 

 

「たしかに、アンジュはんがいてくれたことで無事に事なきを得たこともあったと思う。でも、本来のアンジュはんなら、もっと上手く立ち回って危なげなくリゼはん達を助けられた」

 

「本来なら…?どういうことですか…?」

 

「アンジュはんは昔、みんなと同じようにポケモンリーグ挑戦を目指すトレーナーだったのよ。その実力は今ニジサンジ地方最強の四天王と謳われてる当時の竜胆はんと互角だった」

 

「あの竜胆さんと互角…!?」

 

 

戌亥の言葉にイブラヒムが驚愕するも、直後に口元に右手を当てて黙考する

 

 

「…もし、仮にその話が本当なら、どうしてリゼさんは鉱山で遭遇したにじレジ団の幹部とのバトルで、アンジュさんを参加させなかったんすか?」

 

 

イブラヒムが鉱山でリゼと共にヒスイ:ゾロアークを使うにじレジ団の幹部を名乗る謎の黒コートの女性とバトルした時、参戦の意志があったアンジュをリゼはメレシー達の避難を頼んで遠ざけていた

 

戌亥の話が事実なら、その時にアンジュもバトルに加わっていた方が楽になったのではないか?と、イブラヒムは疑問は抱いた

 

 

「そ、それは…」

 

「…リゼはん、本当はもう分かってるんやろ?アンジュはんが自分を足手纏いと思った理由を」

 

 

イブラヒムの問いに口籠るなか、戌亥にそう言われたリゼは追い詰められたウールーのように顔を強張らせ、しばらく沈黙してからこくりと首を縦に振った

 

 

「多分、今のアンジュはバトルをすることを怖がってる…。違う…?」

 

「「えっ…!?」

 

「…!」

 

 

リゼの言葉にフレンとメリッサが驚き、イブラヒムは顔を顰め、戌亥は静かに頷いて肯定した

 

 

「…さっきの話で、私が旅立ってすぐに野生のオニドリルと遭遇した時、美兎委員長達が偶然助けに来てくれるまで、ゴルーグが攻撃から私達を守ってくれてたんだけど、アンジュは指示も出せずに顔を真っ青にして怯えてた…」

 

「その時から、アンジュはんの様子がおかしいことは気付いてたんやね」

 

「…うん」

 

「その時に違和感を感じてたなら、どうして理由を聞かなかったんだ?」

 

「…深入りするのが怖かったんです。10年くらい前、アンジュはポケモンリーグに挑戦してた。でも、突然それを辞めちゃったばかりかバトルもしなくなって…。理由を聞こうとしたんだけど、その時のアンジュは"ごめんね"って苦しそうに謝るばかりで…」

 

 

"それ以上聞く勇気が無かった…"と、痛切な思いを語るリゼに心を痛ませたフレンとメリッサの表情は悲哀を帯び、その気持ちを理解したイブラヒムも口を噤んだ

 

 

「…ねぇ、とこちゃん。アンジュがバトルを怖がってるのって、ポケモンリーグへの挑戦を辞めた時からなんでしょ?一体、アンジュに何があったの?」

 

 

縋るように尋ねてくるリゼに、戌亥は目を瞑って黙考し、しばらくしてゆっくりと瞼を開ける

 

 

「…とうとう話す時が来たみたいやね」

 

 

その意味深な言葉にリゼ達が疑問符を浮かべるなか、戌亥は言葉を続ける

 

 

「リゼはん。アンジュはんがポケモンリーグへの挑戦を辞める少し前に、貴女が大怪我したことを覚えてる?」

 

「え…?う、うん…」

 

「大怪我って…!リゼ様の身に何があったんですか…!?」

 

 

思いもよらぬ話を口にされ、フレンが大声を上げて驚く

 

 

「お、落ち着いてフレン…!私はその時のことを憶えてないんだけど、母上達から聞いた話だと、お城の大階段から足を滑らせて転落したからだって…。憶えてないのは、頭の打ち所が悪かったからみたいなの…」

 

「…それで、そのリゼさんの大怪我がアンジュさんとどう関係してるんですか?」

 

「…嘘なんよ」

 

「…え?」

 

「リゼはんが小さい頃に大怪我を負った原因はお城の大階段から転落したからじゃない」

 

 

唐突な話が出てきたかと思えば、その内容が嘘だと耳にしてイブラヒム達は当然、当事者であるリゼも驚愕を通り越して呆然となる

 

 

「う、嘘ってどういうこと…?何のために…?」

 

「…本当のことを話したら、リゼはんの心に深い傷を残してしまうかもしれんかった。だから、大怪我の全容を偽ったんよ」

 

「…それじゃあ、本当の原因は何なんすか?」

 

「…本当の原因は、アンジュはんがポケモン達に行わせた特訓中に起きた事故。激しい技のぶつかり合いで吹き飛ばされたアンジュはんのポケモンの下敷きになってしまったからなんよ」

 

「「「「…っ!!?」」」」

 

 

戌亥から衝撃の真実を告げられたリゼ達は驚愕のあまりに言葉が出せなくなった

 

 

「どうして、ずっと黙ってたの…?」

 

 

静寂に包まれてしばらく、信じ難い真実を受け入れ切ることが出来ない様子のリゼは、震える声で戌亥に問い掛ける

 

 

「…事実を知った時に、リゼはんがポケモンに恐怖を抱くかもしれないと思ったからよ」

 

「たしかに、小さい頃にポケモンに襲われたことがトラウマになって、それ以降ポケモンに触れられなくなるケースは珍しくないっすもんね…」

 

「当時のリゼはんはアンジュはんとチャイカはんに憧れてポケモントレーナーになることを夢見てた。みんな、リゼはんのその夢を潰したくなかったんよ」

 

「そう…だったんだ…」

 

「…どう?リゼはん。あの時の大怪我がポケモンによるものだったと知って」

 

 

少し不安そうな表情をする戌亥にそう聞かれ、リゼは少し考え込む

 

 

「…正直、その瞬間の記憶も無いから実感が湧かなくて分からない。でも、ポケモンと関わる上で多少の危険は付き物なんでしょ?私もそれは理解してるし、その上でポケモントレーナーになったから、今更ポケモンを怖がったりしないよ」

 

 

真っ直ぐな眼でそう告げたリゼの気持ちを聞いて、戌亥は安心したように微笑んだ

 

 

「…それは良かった。でも、アンジュはんはその事件をきっかけにポケモンが持つ力の強大さと危うさを痛感し、人を傷付けてしまう恐怖を深く心に刻み込まれた」

 

「ポケモンを戦わせることで誤って誰かを傷付けてしまうかもしれない。それがアンジュさんのトラウマになってしまったってことすか」

 

「…普段のアンジュはんなら、そんなミスをすることはなかった。ただ、あの時のアンジュはんは自分を追い詰めていたから…」

 

「追い詰めてた…?どうして…?」

 

「…リゼはん。チャイカはんが突然行方不明になった日のことを覚えてる?」

 

「え…?う、うん…。たしか、私が大怪我をする少し前だったよね…?」

 

「…チャイカはんがいなくなった日の前の晩のことよ。アンジュはんはチャイカはんにバトルを申し込んだ」

 

「「「「…!?」」」」

 

 

戌亥から告げる更なる事実にリゼ達は驚愕する

 

 

「アンジュが兄上に…!?どうして…!」

 

「チャイカはんは自分が成すべきことを見つけたと言って、その活動を本格化するために家を出ようとした。アンジュはんはそれを阻止するためにバトルを申し込んだのよ。リゼはんのために」

 

「私のため…?」

 

「アンジュはんは、まだ幼かったリゼはんがチャイカはんとの長い別れに酷く悲しむと思った。それで、チャイカはんに考え直すよう頼んだ末にバトルで決めることになったんよ」

 

「..でも、チャイカさんは次の日にはいなくなった。ということは、アンジュさんはバトルに…」

 

「そう、負けた。当時のアンジュはんの実力ではまだ、リーグトレーナーを引退した身であるチャイカはんには届かなかった」

 

「そんなことがあったなんて…」

 

「…バトルに負け、チャイカはんを止められなかったことを悔しがったアンジュはんは、それからしばらくポケモン達と過酷な猛特訓を始めた」

 

「それ、私も覚えてる…!兄上がいなくなった後、アンジュが何度もお城の庭にあるバトルコートを借りてポケモン達とトレーニングをしてた…!」

 

「ポケモンリーグに勝ち抜き、チャンピオンを超え、次こそチャイカはんに勝ってリゼはんの下に戻らせようと、アンジュはんは死に物狂いでポケモン達を鍛え上げようとした。その結果…」

 

「…リゼさんを巻き込んでしまう事件を引き起こしてしまった」

 

 

アンジュが抱えることとなったトラウマの全容…それを知ったリゼ達は沈痛の面持ちを浮かべる

 

 

「…ねぇ、とこちゃん。アンジュを助ける方法は無いの?」

 

 

リゼの問いに戌亥は首を横に振る

 

 

「リゼはん、残念だけどアンジュはんが心に負った傷は私達が思う以上に深い。それに、リゼはんとの旅で試みた克服も失敗に終わった。アンジュはんは今希望を失ってる。そんな状態でトラウマと向き合うことは…」

 

「そう…だよね…。そんな簡単に解決出来る問題じゃないもんね…」

 

 

アンジュをよく知る親友として1番に頼りにしていた戌亥が心苦そうにあっさりと諦観を口にしたことで、突き付けられている現実を受け入れざるを得なくなったリゼは沈黙する

 

 

「…そろそろ日も暮れてきた。今日のところはこのくらいでお開きにしよか」

 

 

アンジュをトラウマから救う方法を見出せず俯き黙るリゼ達を見兼ねた戌亥は日暮れを理由に解散を告げ、皆から空になった珈琲のカップを回収する

 

 

「一先ず、数日はゆっくりしたらどう?アンジュはんのことはどうしても気掛かりになるだろうけど、まずは自分達のことよ。私の方でも何か出来ないか模索してみるから。気持ちの整理が着いたら、ジムに挑戦しに来て」

 

「…分かった」

 

「それじゃあ、俺達も宿を取りに行くか」

 

「それなら、お城の客人用の部屋に泊まりませんか?コーヴァスシティでイブラヒムさんの屋敷に泊めてもらったから、その御礼に」

 

「え…!いいの…!?」

 

「マジすか?なら、お言葉に甘えて」

 

「やった〜!」

 

「…それじゃあ、とこちゃん。今日は話してくれてありがとう。また来るね」

 

「…うん。またいつでもおいで」

 

 

イブラヒム達と共に喫茶店を後にするリゼの寂寥に包まれた背中を、戌亥は微笑みながら、しかし少し悲しげな面持ちで見送った

 

 

 

 

「ううん…。リゼしゃま…とこしゃん…。お二人同時に告白なんて…。私はどちらを選べば…」

 

 

時刻は深夜…城に着くなりリゼの両親と兄弟達に迎えられた一同は豪華な夕食を堪能した後、寝支度を済ませて床に就いていた

 

一緒に寝たいとせがんできたフレンと共に自室のベッドで眠りに着こうとしていたリゼは、隣で夢見心地な彼女の寝言がよく聞こえる真っ暗な中で、眠れずにジッと天井を見つめていた

 

 

(とこちゃんの言う通り、私も頭の中では理解してる。今のアンジュからトラウマを取り除くことが容易じゃないどころか、不可能に近いってことは…。でも、全てを知っちゃった今放っておくことなんて出来ない…!アンジュのトラウマを克服させて、またバトル出来るようにするためには…!)

 

 

たとえ、周りの誰もが無理だと諦めても、アンジュをこのままにしておきたくなかったリゼは時間の許す限り、彼女をトラウマから救い出す方法を見つけようと思考を巡らせた

 

 

 

 

「……」

 

「ビパァ…」

 

 

翌日…道具の錬金に関する研究資料やその材料が散乱している薄暗い部屋の奥で、アンジュは虚な様子で机に突っ伏していた

 

そんな元気の無い彼女をビッパが不安そうに物陰から顔を覗かせ見つめるなか、アンジュはエニカラ雪山の後…シーズシティのポケモンセンターの病室で目覚めた時に再会したチャイカとの会話を思い出す

 

 

 

 

「久しぶりだな、錬金術師」

 

「チャイカ…さん…!?どうして、貴方がここに…!」

 

「お前達がフリーザーと遭遇した時、俺も偶然エニカラ雪山に居合わせていただけのことよ」

 

 

10年ぶり…それも思わぬ形での再会に動揺を見せるアンジュに対し、チャイカは淡々とした様子で話を続ける

 

 

「まずは貴様もリゼも無事で何よりだ」

 

「リゼ…!リゼもここに…!?」

 

「ああ。別の病室にいてまだ目は覚めてないが、命に別状はない」

 

「…そうですか。…なら良かった」

 

「俺がリゼの連れと駆け付けた時には、フリーザーは既にリゼのポケモン達が倒していた。我が妹ながら、その素晴らしい成長ぶりに思わず感極まるところだったわ。ところで、錬金術師よ。何故、貴様が付いていながらリゼは危険な目に遭っている?」

 

「…っ!?」

 

 

リゼの成長を喜ぶ穏やかな雰囲気から一変、ニョロトノを睨むアーボックの如き圧を放って問い質してくるチャイカにアンジュは身を震わせる

 

 

「そ、それは…」

 

「そもそも、何故ポケモンを2体しか連れていない?それも内1体は私も初めて見る顔…。おそらく、リゼとの旅の間に捕まえた仲間だろう?貴様がこうしてリゼと共にいる理由は危険から守るためではないのか?何故連れて来たのがゴルーグだけなのだ?」

 

「……」

 

「…まさか、リゼの身を守る上で戦力をゴルーグだけに留まらせるつもりだったのか?」

 

「…っ!」

 

 

答えないアンジュにチャイカがそう推測を口にした瞬間、図星を突かれたかのようにアンジュは顔を強張らせ、その様子から全てを察したチャイカは目を細める

 

 

「…なるほどな、錬金術師。貴様はリゼを危険から守るのではなく、避けさせるつもりで付いて来たらしいな。そして、その理由までは知らんが…貴様、バトルすることを避けているな?」

 

「…っ!!」

 

 

そう結論付けるチャイカに、アンジュは答えない代わりに酷く表情を歪ませる

 

 

「…そうか、これで合点がいった。ならば、そんな貴様にリゼを任せることは到底許容出来ん」

 

 

失望の眼差しでアンジュを一瞥したチャイカはそう言うと腰掛けていた椅子から立ち上がる

 

 

「錬金術師、貴様はリゼとの旅から降りよ。腑抜けてしまった今の貴様では、リゼを守るどころかより危険に晒すだけ。リゼはいずれ、私以上の高みに至れる存在。輝きを失った貴様等、最早共にいても邪魔なだけだ」

 

 

チャイカは冷たくそう告げると病室から出ていき、1人部屋に残されたアンジュは毛布に顔を埋めて嗚咽混じりに涙を流した

 

 

 

 

(チャイカさんの言う通りだ…。私はもう、リゼが憧れる私じゃなくなった…。弱くて臆病で情けない…そんな私が今のリゼに必要なわけがない…。ごめんな、リゼ…。ごめん…)

 

 

チャイカから言われたことを思い返したアンジュは、自分のことを好い、憧れてくれたリゼの想いを裏切ってしまった罪悪感と悔しさ、己の情けなさに耐え切れず、瞳に涙を浮かばせた…その時だった

 

 

バキバキバキ…ッ!!

 

「ふぇっ…!!?」

 

「ビパァ…ッ!!?」

 

 

唐突に家の扉が乱暴に引っ剥がされ、薄暗い部屋に陽の光が差し込む

 

驚き振り向いたアンジュとビッパがその眩しさに目を眩ませるなか、陽の光を背に1人の少女が仁王立っていた

 

 

「おはよう、アンジュ。もうお昼だけど」

 

「リ、リゼ…!?」

 

 

強引な方法で会いに来たリゼに思わず動揺するアンジュだったが、その後ろに彼女に付いて来たであろうイブラヒム達と戌亥に加え、気不味そうに引っ剥がされた扉を両手に持つゴルーグの姿を目にして更に驚愕する

 

 

「ゴルーグ…!?どうしてお前が…!」

 

「ゴルーグ達には、私の想いを伝えた上で協力してもらったの」

 

 

外で見張らせていたゴルーグ達の裏切りに戸惑うアンジュにそう説明しながら、リゼは彼女の下へ歩み寄る

 

 

「アンジュ。とこちゃんから聞いたよ。アンジュが私との旅を辞めた理由も、アンジュがバトルを怖がってることもその経緯も、幼い頃に私が大怪我したことの真実も」

 

 

そう告げるリゼに、アンジュは心苦しそうに目を逸らす

 

 

「…リゼには本当に悪いと思ってる。大怪我をさせてしまったことにも、こんな情けない様になっちゃったことにも…」

 

 

今にも泣き出しそうな震える声で、アンジュは言葉を続ける

 

 

「リゼのことが心配で旅には付いて来たけど、このトラウマを克服しようなんて思ってなかった…。諦めてた…。でも、ビッパや尊様達に背中を押されて頑張ろうとしたんだ…。それでも、出来なかった…」

 

 

ポロポロと、アンジュの瞳から大粒の涙が零れ落ちる

 

 

「私がポケモン達に出した指示のせいで誰かを傷付けてしまったら、傷付けることになったら、最悪その命を奪ってしまったら…そう思うと足が竦んで…!私はもう、その恐怖を意識せずにはいられないんだ…!」

 

 

アンジュは懺悔するように胸の内に抱えた思いを吐き出し、泣き崩れる

 

その姿にイブラヒム達やゴルーグが沈痛な面持ちになるなか、リゼだけは表情を崩さず、アンジュに言葉を掛けた

 

 

「…私、アンジュに無理をさせてまで、そのトラウマを克服させたいとは思ってないよ。アンジュが苦しんでる姿は見たくない。私との旅をここで辞めることにも文句は言わない」

 

「なら、もう私のことは…」

 

「それでも…!それでも、1つだけ諦められないことがあるの!私が立派なポケモントレーナーになったら、必ず果たしたかったこと!」

 

 

アンジュの言葉を遮り、そう告げたリゼは一呼吸置いて言葉を続ける

 

 

「アンジュ!私とバトルして!」

 





リゼ・ヘルエスタ
手持ち:エンペルト、グレイシア、バタフリー
   サイドン、ルカリオ、ソウブレイズ

アンジュ・カトリーナ
手持ち:ゴルーグ、ビッパ、ウインディ
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