本作品をご愛読される皆様。新年、明けましておめでとうございます。
昨年はしばらく投稿が滞ることもあったスランプに悩まされた年となりましたが、本年度は完結に向けて邁進したい所存であります。
相変わらず拙いものではありますが、今後ともご愛読してくださる皆様の暇を紛らわせられる程度にでもなれば幸いです。
それでは、本編をどうぞ。
「ペリッパー!"みずのはどう"!」
「プクリン!"ハイパーボイス"!」
グンカンシティにあるトレーナーズスクール…そのグラウンドでは、かつてリゼとコウ、笹木とバトルを繰り広げたチグサ達5人が特訓としてポケモンバトルを行っていた
チグサのペリッパーが繰り出す"みずのはどう"をサンゴのプクリンは繰り出した"ハイパーボイス"で打ち消し、そのまま直撃させる
「ペリィ〜…ッ!?」
「頑張って、ペリッパー!"つばめがえし"!」
「ペ…ペリィ〜ッ!」
ペリッパーはあまりのダメージに飛行を保てなくなり落下し始めるが、チグサの声援に鼓舞されて気力を取り戻すと地上に激突する寸前で飛翔して体勢を立て直し、そのままプクリンへと突っ込んで"つばめがえし"を炸裂させる
「プック…ッ!」
「くっそ〜!決まったと思ったのに〜!しぶといな〜!」
「ふん!そう簡単には負けられないよ!」
「ペリィ〜ッ!」
「いいぞ〜!チグちゃん、ペリッパー!」
「ンゴ〜!油断は禁物だからね〜!」
「2人もポケモン達もその調子だよ〜!」
バトルコートの側に設けられたベンチに腰掛けているアカネ、コハク、ヒスイの3人は悔しがるサンゴとプクリン、まだまだ気合い十分なチグサとペリッパー…互いに一歩も引かないバトルを繰り広げる2人とポケモン達を応援する
「ビパァ…ッ!」
「あれ…?ビッパ…?」
そんななか、目を輝かせながらチグサ達のバトルを見つめるビッパが隣に突然現れ、それに気付いたアカネが怪訝な表情を浮かべる
トレーナーズスクールの敷地内にポケモンが入って来ること自体はそう珍しくもないのだが、ニジサンジ地方で野生のビッパはエデンシティを越えた先の湿地にしか生息しておらず、この辺りで見かけることはまず無かった
「本当だ…!迷い込んじゃったのかな?」
「いや、このビッパ…」
"どうしてこんなところに…?"と、アカネとコハクが首を傾げるなか、そのビッパにヒスイが既視感を覚えた時だった
「いたいた…!もう、ビッパ!勝手にうろちょろしちゃ駄目だって…!」
「え…っ!?」
「アンジュさん…!?」
背後からビッパを呼ぶ声が聞こえて振り返ると、そこに現れたアンジュの姿が目に入り、驚いたヒスイ達は声を上げる
「あ…!ヒスイさん達じゃん!久しぶりだね!」
「お久しぶりです!アンジュさん!RRRビーチ以来ですね!」
「やっぱり、このビッパはアンジュさんのポケモンだったんですね!」
「いやぁ、ごめんね。迷惑かけてない?」
「大丈夫ですよ。熱心な様子でチグちゃん達のバトルを眺めてただけでしたから」
「それにしても、どうしてここに…?リゼさんは一緒じゃないんですか…?」
「まあ、そこは色々あってね…。詳しく話すとちょっと長くなるんだけど…」
「あれ…!?アンジュさんじゃん…!」
「本当だ…!お〜い!アンジュさ〜ん!」
ヒスイ達の話し声でチグサとサンゴもアンジュの存在に気付き、バトルを中断して駆け寄って来る
「チグサさん達も久しぶり。2人とペリッパーとプクリン、RRRビーチで最後に会った時に比べて一段と成長してるね」
「そうでしょそうでしょ〜!」
「私達もリゼさんや葛葉さん達みたいに、いつかポケモンリーグへ挑戦するため毎日特訓を重ねてますから!」
チグサ達も加わって、久しぶりの再会に花を咲かせるなか、グラウンドに1人の女性が足を踏み入れる
「あなた達、どうして声だけ騒がしいの?ちゃんとバトルの特訓は…っ!アンジュ…!?」
「郡道さん…!」
騒がしいチグサ達の話し声を聞きつけてやって来たのは、トレーナーズスクールの先生にしてグンカンジムのジムリーダー…そして、かつてポケモンリーグ挑戦を目指してアンジュが覇を競い合ったライバルの1人である郡道だった
「どうしてアンタがこんなところに…?それも1人で…リゼは一緒じゃないの?」
「リゼとはヘルエスタシティで別れた。もう一度、ニジサンジ地方を一周させるわけにはいかないから」
「地方を一周…?」
理由にピンと来ていない様子の郡道に、アンジュは堂々とした態度ではっきりと答える
「もう一度、ポケモンリーグに挑戦する。リゼとの約束を果たして、私の望みを叶えるために」
「…っ!?」
そう告げるアンジュに郡道は面食らった様子を見せるも、すぐに目付きを鋭くさせる
「アンジュ…。アンタ、トラウマを克服出来たの…?」
「うん。あのトラウマは私の心の弱さがポケモン達への信頼を失くさせてしまったからだった。だけど、今は違う!私のために応えてくれるポケモン達を心の底から信頼してる!その証明も兼ねて、郡道さん!アナタにジム戦を申し込む!」
アンジュが胸を張って堂々とそう宣言すると、郡道はしばらく見つめ合った後、小さく頬を緩める
「いいわよ、アンジュ!あの頃のアンタが本当に戻ってきたのか、バトルで私に示してみなさい!」
*
「それではこれより、ジムリーダー:郡道美玲とチャレンジャー:アンジュ・カトリーナのジム戦を始める!使用ポケモンは2体!どちらかのポケモン全てが戦闘不能となった時点で試合を終了とする!なお、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ行われ、Z技・メガシンカ等は両者ともいずれか一度限りとする!」
ジム戦への申し込みを承諾されたアンジュは郡道、チグサ達と共にグンカンジムへと移動し、もう1人のジムリーダーである神田に事情を説明した後、バトルフィールドがある大部屋へと移り、郡道と向かい合う形でコート端のトレーナーの立ち位置に付く
「まさか、アンジュさんがポケモンリーグに挑戦するなんてね〜!」
「今回のジム戦は普段と違って、Z技やメガシンカの使用がOKなんだね!」
「アンジュさんは昔、郡道先生や四天王の竜胆さんとライバルだったらしいし、高い実力があると判断されてのルールみたいだね」
「そんなに凄いなら、しっかり観て学ばないとだね!」
「どんなバトルになるんだろ〜!楽しみだな〜!」
「それじゃあ、互いに1体目のポケモンを!」
観戦席に腰掛けるチグサ達がアンジュと郡道のバトルを楽しみにするなか、審判を務める神田が2人にポケモンを繰り出すよう促す
「私の1体目はこいつよ!出てきなさい!ヨクバリス!」
郡道の投げたボールから飛び出したのは、かつてリゼもバトルしたポケモン:ヨクバリスだった
「ヨクバリスか…!なら、私はこいつだ!いけ!ビッパ!」
ビパァッ!」
対するアンジュは1体目のポケモンにビッパを繰り出す
「へぇ、ビッパ…!ノーマルタイプのポケモンを専門とする私に同じノーマルタイプのポケモンで来るなんてね!」
「言っておくけど、私のビッパを甘く見たら痛い目見るからな!」
「甘くなんて見ないわよ!アンタの強さはよく知ってる!そのアンタが繰り出すポケモンなら相応の強さを持ってるに決まってるんだから!」
互いに気合い十分な姿勢を見せたところで、準備が整ったと判断した神田がいよいよバトル開始の宣言を下す
「先攻はチャレンジャー!それでは、バトル始め!」
「ビッパ!"つるぎのまい"!」
ビッパは両の爪を剣の如く鋭くさせて舞い、自身の攻撃力を大きく強化させる
「そうきたか…!なら、ヨクバリス!"のろい"!」
攻撃の準備を整えてくるアンジュに対し、郡道は備えようとゴーストタイプとそれ以外のタイプのポケモンが使うことで効果が変わる技"のろい"を指示し、ヨクバリスは攻撃力と防御力を高める
「お互いに能力を上げてきた…!」
「"つるぎのまい"でビッパの攻撃力を大きく高めたアンジュさんに対して、郡道先生はヨクバリスの攻撃力と防御力を上げて、相手の攻撃に反撃する構えだね…!」
「流石は郡道さん…!でも、そう上手くいくかな?ビッパ!"ばかぢから"!」
観戦席のチグサ達が沸くなか、アンジュは能力を高めたヨクバリスに少しも苦い顔を浮かばせず意気揚々と指示を飛ばし、ビッパは"ばかぢから"を繰り出し突っ込む
「格闘タイプの技だ…!」
「ノーマルタイプのヨクバリスには効果抜群だよ…!」
「良い技持ってるわね…!耐えるのよ、ヨクバリス!もう一度"のろい"!」
チグサ達が狼狽するなか、郡道は再びヨクバリスに"のろい"を発動させて能力を高めさせる
「ビッパァァァッ!」
「ヨク…バァァァ…ッ!?」
「ヨクバリス…!?」
だが、ビッパの"ばかぢから"を正面から受け止めたヨクバリスは持ち堪えることが出来ず、吹き飛ばされてしまう
「ヨクバリスが吹き飛ばされた…!?」
「どういうこと…!?2回の"のろい"でヨクバリスの防御力はかなり高まってるはずなのに…!」
「…ビッパの特性は2つ。1つは"たんじゅん"…能力が変化した時その効果を大きくする特性。それを予想した私はヨクバリスの耐久力を加味した上で2回の"のろい"で高めた防御力で受け切るつもりだった」
しかし、郡道の予想を裏切ってヨクバリスは耐え切れず吹き飛ばされてしまった
「夢特性の"ムラっけ“でもないわね…。あの特性を持つポケモンは行動する度に特性を働かせる仕草を見せる。つまり、アンタのビッパの特性は残る1つ…!」
論理立てて推測した郡道がビッパのある特性に思い当たったところで、アンジュが笑みを浮かべる
「そう!私のビッパの特性は"てんねん"!素早さを除いた相手の能力変化を無視することが出来る!だから、せっかく上げた防御力は勿論、攻撃力も無意味ってわけよ!」
「"たんじゅん"だったら多少時間が掛かっても、こっちも能力を高めれば対応出来たのに…!面倒ねぇ…!」
自慢気に答えるアンジュに郡道は憎たらしくも何処か楽しそうな笑みを浮かべる
彼女は本当にトラウマを乗り越え、本気で自分から勝利をもぎ取るべく挑んで来ているのだと
「もう一度かますぞ、ビッパ!"ばかぢから"!」
勢いに乗るアンジュの指示を受け、ビッパは再び"ばかぢから"を繰り出す
「あれ…?ビッパの"ばかちから"、さっきよりも勢いが弱まってるような…?」
「チグちゃん知らないの〜?"ばかぢから"を繰り出したポケモンはその反動で攻撃力と防御力が下がっちゃうんだよ〜?」
「ム、ムカつく〜…っ!」
「それでもまだ十分無視出来ない威力が出てる…!高めた防御力が"てんねん"で無効化される以上、直撃すればヨクバリスはピンチだよ…!」
"ばかぢから"はその強力さ故に使う度に攻撃力と防御力を低下させるデメリットを抱えているが、ビッパは"つるぎのまい"で攻撃力を大きく高めていたことで先程より威力は落ちてこそいるものの、パワーはまだ通常時よりも増している状態にあった
「調子に乗ってんじゃないわよ!ヨクバリス!"ジャイロボール"!」
だが、郡道に焦燥の様子は一切見られず、むしろ受けて立とうと自信満々な姿勢で指示を飛ばし、ヨクバリスは"ジャイロボール"を繰り出してビッパへと突っ込む
「真っ向勝負だ…!」
「でも、ヨクバリスが"のろい"で上げた攻撃力はビッパの"てんねん"で無効化されてるんだよね…!?押し負けちゃうんじゃ…!」
"てんねん"の効果を加味して、攻撃力で勝るのはビッパだと予想したチグサ達は真っ向勝負を挑んだヨクバリスを心配する
「ヨク…バァッ!」
「ビパァ…ッ!」
「よしっ!」
「…っ!」
だが、結果はチグサ達の予想と違い、ビッパとヨクバリスのぶつかり合いは拮抗し、互いに弾き合う形で引き分けた
「あれ…!?互角…!?」
「"てんねん"の能力変化って、相手の上がった攻撃力も無効化するんだよね…?なのにどうして…?」
予想していなかった結果にチグサ達が驚くなか、1人冷静に考え込んでいたヒスイが口を開く
「ヨクバリスの繰り出した技"ジャイロボール"の威力が強力だったからだね。"ジャイロボール"は素早さが下がれば下がるほど威力が上がる効果を持ってる」
「素早さが…?でも、いつの間に…?」
「"のろい"だよ。あの技は攻撃力と防御力を上げる代わりに自身の素早さを下げる。ヨクバリスは2回の"のろい"で大きく素早さが下がってるから、その分"ジャイロボール"の威力も強力になったんだよ」
「お〜!流石はヒスピ!詳しい〜!」
ヒスイの解説にチグサ達は"なるほど〜!"と感心の声を上げる
「やるなぁ、郡道さん…!でも、今ので互角なら高めた攻撃力が落ちてない万全の状態の"ばかぢから"で押し勝てる!ビッパ!"つるぎのまい"!」
"つるぎのまい"で攻撃力を大きく高めた直後の一撃であれば威力の高まった"ジャイロボール"に勝てるとアンジュは踏み、ビッパに"つるぎのまい"を繰り出させる
「させないわよ!ヨクバリス!"じだんだ"!」
しかし当然、そんなことを許すつもりは無い郡道の指示を受け、"じだんだ"を繰り出したヨクバリスは苛立ちを力に地面を何度も強く踏み締め、砕き割れた地面の大破片を勢いよく弾き飛ばす
「ビパァ…ッ!?」
「ビッパ…っ!?」
"つるぎのまい"を繰り出そうとしていたビッパは無防備な状態で飛来する地面の大破片の直撃を食らい、大きく吹き飛ばされてしまう
「甘いわよ、アンジュ!私のヨクバリスに射程技が無いとでも思ったかしら?それに、アンタのビッパは2回の"ばかぢから"で攻撃力だけじゃなく防御力も下がってる!一撃のダメージが相当大きくなってる今、隙を見せたら命取りよ!ヨクバリス!"ジャイロボール"!」
郡道はアンジュの油断を指摘するとヨクバリスに"ジャイロボール"を繰り出させる
「ビッパ!"あなをほる"!」
2回の"ばかぢから"によって"つるぎのまい"で高めた攻撃力は無くなった状態では正面から挑んでも確実に押し負ける
そのため、回避以外に手はないと即座に判断したアンジュは"あなをほる"を指示し、地面へと潜ったビッパは"ジャイロボール"の直撃から逃れる
「"あなをほる"まで覚えてるなんてね…!でも、逃がさないわよ!ヨクバリス!"じだんだ"!」
"ばかぢから"に続いて"あなをほる"も覚えるビッパの多彩さに郡道は感心しつつ、"じだんだ"による強力な踏み締めで地面を割ることでビッパを地中から炙り出してやろうとヨクバリスに指示を飛ばす
「させるな、ビッパ!いけぇぇぇっ!!」
「ビパァッ!!」
「ヨクバ…ッ!?」
その時、アンジュの呼び掛けと共にヨクバリスの真下から飛び出したビッパは"あなをほる"を炸裂させ、上空へと打ち上げる
「ヨクバリスを打ち上げた…!?」
「すっごいパワー…!」
「やるわね…!でも、これは利用できるわ!ヨクバリス!"のしかかり"!」
「ヨクバァ…ッ!」
ビッパのパワーにチグサ達が驚きの声を上げるなか、郡道は"のしかかり"を指示し、ヨクバリスは空中で体勢を立て直すと全体重をかけてビッパへと落下する
「ヨクバァッ!」
「ビパァァァ…ッ!?」
落下のスピードを利用したヨクバリスの強烈な"のしかかり"が直撃し、下敷きとなったビッパは痛烈な悲鳴を上げる
「"のしかかり"が決まった…!」
「"ばかぢから"で防御力が大きく下がってる所にあの高さからの落下で威力が上がってる"のしかかり"…!ダメージは相当なものになってる…!」
「最悪、このまま戦闘不能になっちゃうんじゃ…!」
「ビ…パァ…ッ!」
「…っ!負けるな!ビッパ!"ばかぢから"!」
ヨクバリスにのしかかり続けられて苦しむビッパにアンジュは熱い気持ちを乗せた指示を飛ばす
「ビ…ビパァァァッ!!!」
「ヨクバァ…ッ!?」
「なんですって…!?」
自分を信じ、諦めないアンジュの想いに応えようと、力を振り絞って"ばかぢから"を繰り出したビッパはヨクバリスを持ち上げ吹き飛ばす
「いいぞ、ビッパ!トドメの"ひっさつまえば"!」
「ビパァッ!」
吹き飛ばされたヨクバリスが体勢を立て直す前にビッパは渾身の"ひっさつまえば"を繰り出し、炸裂させる
「ヨクバァァァ…ッ!?」
「ヨクバリス…っ!」
"ひっさつまえば"の直撃を受けて絶叫を上げるヨクバリスはそのまま地面へと墜落した
「ヨクバァ〜…」
「ヨクバリス、戦闘不能!ビッパの勝ち!」
「よっし!ビッパ、よくやったで〜!」
「ビパァ〜!」
神田からヨクバリスの戦闘不能が宣告され、アンジュはビッパと勝利を喜び合う
「凄い!あの状況から勝っちゃうなんて!」
「郡道先生とヨクバリスもそうだったけど、アンジュさんとビッパが互いに信頼し合ってた!」
「だからこそ最後、アンジュさんの想いに応えようとしたビッパはあんなパワーが出せたんだね!」
「と〜っても熱いバトルだった〜!」
「うん!バトルには特性や技のタイミング、応用だけじゃなく、ポケモンとの絆も重要だってことを学ばせてもらった良いバトルだったね!」
繰り広げられたアンジュと郡道のバトルに興奮したチグサ達が互いにその感想を口にし合うなか、郡道は倒れたヨクバリスをボールへと戻す
「お疲れ様、ヨクバリス。良いバトルだったわよ」
ヨクバリスに労いの言葉を掛けた郡道は改めてアンジュと顔を見合わせる
「本当にトラウマを克服出来たようね、アンジュ!こうしてまた、アンタとバトルで覇を競い合えて心底嬉しいわ!」
「私もだよ、郡道さん!」
「…本当は、ようやくトラウマから立ち直って帰って来たアンタと全力でバトルしたいと思ってる。でも、ジムリーダーの立場がある以上、そんなことはジム戦において許されない」
"でも…"と、郡道は言葉を続ける
「せめて、最後の1体でのバトルはジムリーダーとして許される手加減抜きの本気でアンタと勝負したい!いいかしら、アンジュ!」
トレーナーを試し導く立場でありながら、"ただ相手に勝ちたい"という私欲を優先したい
それがジムリーダーとしてあるまじき我儘だと理解しながらも、郡道は抑え切れないほど待ち望んでいた想いを真っ直ぐに伝える
「臨むところ!でも、勝つのは私達だ!」
嬉しそうに笑みを浮かべるアンジュはその想いを快く承諾すると共に、威勢よく勝利宣言を言い放つ
「…言ってくれるじゃない!それじゃあ、私の2体目はこいつよ!出てきなさい!ガルーラ!」
そう答えてくれるだろうと理解ってたはいたものの、いざ言われると嬉しさが込み上げてきた郡道は笑みを浮かべつつも、生意気な啖呵を切ったアンジュにそう言い返しながら、最後の1体となる"おやこポケモン":ガルーラを繰り出す
「ガルゥラァッ!」
「郡道先生の最後はガルーラ…!手強そうな相手が出てきたな…!」
気合いの入った雄叫びを上げるガルーラにアンジュがそう呟きを落とすなか、神田がバトル再開の宣言を下す
「それでは、バトル始め!」
「まずは下がった攻撃力を上げ直すぞ!ビッパ!"つるぎのまい"!」
ヨクバリスを倒す切り口となった"ばかぢから"を以って通常よりも攻撃力が下がった状態にあるビッパにアンジュは"つるぎのまい"を繰り出させ、攻撃の準備を整える
「よし!一気に決めるぞ!"ばかぢから"!」
「ビパァッ!」
そして、アンジュはヨクバリスとのバトルで溜まったダメージと何度も繰り出した"ばかぢから"によって大幅に低下した防御力では、ビッパは次に一撃食らっただけで戦闘不能になると判断し、最後の1体に繋げるべく大きなダメージを与えようと"ばかぢから"での速攻を仕掛ける
だが、その瞬間に郡道の口角が不敵に吊り上がる
「ガルーラ!"ふいうち"!」
「ガルゥッ!」
指示を受けたガルーラは地を蹴り、正面からビッパへと突撃する
「"ふいうち"…!?マズい…!ビッパ…!」
郡道が指示した技の名前を耳にして焦り出したアンジュはビッパに危険を報せようと声を出す
だが時既に遅く、共に相手へ突っ込みにいった2体の距離は目の前にまで迫っていた
「ガルゥッ!」
「ビパァ…ッ!?」
両者がこのままぶつかり合う…かに思われたその時、ガルーラが不意に右へ飛び退いて衝突を避けると、驚くビッパへ即座に強烈な一撃を叩き込む
「ビッパ…っ!?」
名前を叫ぶアンジュの声が響くなか、ガルーラの"ふいうち"を食らったビッパは地面に沈んだ
「ビパァ〜…」
「ビッパ、戦闘不能!ガルーラの勝ち!」
「くっ…!」
相手にしてやられたと、アンジュは悔しい表情を浮かべる
「真っ向からぶつかりに行くと見せかけて相手の攻撃を躱し、生まれた隙にすかさず攻撃…!」
「技の通り、アンジュさんとビッパは不意を突かれたわけだね」
「流石は郡道先生…!追い込まれても冷静に立ち回って、ガルーラを無傷に済ませたね…!」
チグサ達がそう言葉を交わすなか、アンジュはビッパをボールへと戻す
「お疲れ様、ビッパ。お前の頑張り、無駄にはしないぞ」
「さあ、これで互いに残るポケモンは1体!最後のポケモンは決まってるんでしょう?出してきなさいよ、アンタの切り札を!」
「ガルゥッ!」
「言われなくても!頼んだぞ!ゴルーグ!」
気持ちが高まっている様子の郡道とガルーラの催促に応じ、アンジュは2体目のポケモンにゴルーグを繰り出す
「出たわね、ゴルーグ…!」
かつて、ポケモンリーグ挑戦を目指していた頃に何度もバトルしたアンジュの相棒であるゴルーグの登場に郡道は笑みを浮かべる
「アンジュさんの最後の1体はゴルーグだ〜!」
「ゴーストタイプのゴルーグには、ガルーラのノーマル技は効かないね!」
「でも、逆にゴルーグのゴースト技もノーマルタイプのガルーラには効果が無いよ」
「ガルーラにはさっき使った悪タイプの技"ふいうち"があるからゴルーグの弱点は突けるね」
「お互いにどんな技を覚えさせているのか…。そこが勝敗に大きく影響しそうだね」
(さて、それはどうかな?)
両者のポケモンが出揃い、チグサ達がバトルの展開を予想して話し合うなか、その会話を耳にしていた神田は心の内でそう呟くと最後のバトルの幕を切って落とす
「それでは、バトル始め!」
「ゴルーグ!"ジャイロボール"!」
「ガルーラ!"ふいうち"!」
バトル開始…"ジャイロボール"を繰り出し突っ込んで来るゴルーグに対し、ビッパの時と同様にガルーラも正面から相手へと突っ込んでいく
そして、衝突する寸前で横へ飛び退いたガルーラはゴルーグの側面へと回った直後にゴーストタイプに効果抜群となる悪タイプの技"ふいうち"を叩き込む
「ゴ…ルゥゥゥッ!!」
「ガルゥ…ッ!?」
だが、"ジャイロボール"の回転で"ふいうち"のダメージを抑え弾いたゴルーグはそのまま攻撃をガルーラに炸裂させる
「ガルーラの攻撃を"ジャイロボール"の強力な回転で弾いた…!?」
「流石はアンジュさん…!こんなに早く"ふいうち"を攻略するなんて…!」
「いいぞ!ゴルーグ!そのままもう一度攻撃だ!」
"ふいうち"を破り勢いに乗ったアンジュは再び"ジャイロボール"での攻撃を指示する
「まともに決まれば効果抜群だけど、"ジャイロボール"との張り合いにはパワーが足りないみたいね…!だったら…!ガルーラ!"メガトンパンチ"!」
「えぇ…っ!?」
「なんで…!?ノーマルタイプの技はゴーストタイプに効果が無いのに…!」
郡道の指示にチグサ達が驚くなか、再び"ジャイロボール"を仕掛けてくるゴルーグをガルーラは"メガトンパンチ"で迎え撃つ
「ガルゥッ!」
「ゴ…ルゥ…ッ!」
それぞれの技を激しくぶつけ合ったゴルーグとガルーラはほぼ互角のパワーで押し合い続けるも、最後で僅かに勝ったガルーラがゴルーグを押し飛ばす
「ゴルーグにダメージが入ってる…!?」
「どういうこと…!?」
「ノーマルタイプの技がゴーストタイプに効いた…!もしかして、郡道先生のガルーラの特性は"きもったま"なんじゃ…!?」
そう推測を口にしたヒスイに、"その通り"と神田が答える
「郡道さんのガルーラの特性は"きもったま"。本来であればゴーストタイプに効果の無いノーマル・格闘タイプの技を有効に出来るんだ」
「それじゃあ、有効な技の手数でガルーラはゴルーグに有利を取ってるんだ…!」
「ゴーストポケモン対策は万全ってわけだね…!」
「まあ、そうだろうとは思ってたけどね…!ゴルーグ!"ばくれつパンチ"!」
神田の解説を聞いてチグサ達が感心の声を上げるなか、ガルーラの特性が"きもったま"であることを想定していたアンジュは驚き焦ることなく指示を飛ばし、"ばくれつパンチ"を発動させたゴルーグはガルーラへと突っ込む
「格闘タイプの技…!まあ、ノーマルタイプの対策は当然してるわよね!ガルーラ!"ふいうち"!」
"ばかぢから"を覚えていたビッパに続き、ゴルーグも同じ格闘タイプの技である"ばくれつパンチ"を覚えていることに郡道は一瞬顔を顰めるが、アンジュならば当然だとすぐに納得してガルーラに"ふいうち"での反撃を指示する
「そう来ると思った!ゴルーグっ!」
「ゴルゥッ!」
短く名前だけをアンジュが叫んだ直後、まだガルーラとの距離が少しある所でゴルーグは右手に発動させた"ばくれつパンチ"を地面へ振り下ろす
ドゴォォォォォンッ!!
瞬間、大爆発が起こると共に周囲の地面が大きく罅割れ、抉り返される
「ガル…ッ!?」
"ふいうち"を仕掛けようとしたガルーラは目の前で起きた爆発に驚くことに加え、不安定な地面に足を取られてしまって動きを止めてしまう
「今だ!ゴルーグ!"ジャイロボール"!」
ガルーラに生まれたその隙を機に、足を体内に収め、ジェット噴射によって足場の悪くなった地面から浮遊したゴルーグは繰り出した"ジャイロボール"をガルーラに直撃させる
「ガルゥ…ッ!?」
「ガルーラ…っ!?"ばくれつパンチ"で真っ向勝負を仕掛けようとしたのはフェイク…!?最初からこれを狙って…!」
「そっちが"ふいうち"を仕掛けてくるなら、こっちも不意を突いてやろうと思ってね!畳み掛けるぞ!ゴルーグ!今度こそ"ばくれつパンチ"!」
"ふいうち"を参考に仕掛けた作戦が見事に決まったアンジュは更に追い討ちを掛け、ゴルーグは"ばくれつパンチ"をガルーラへ振り下ろす
「根性見せなさい!ガルーラ!"メガトンパンチ"!」
吹き飛ばされて仰向けで地に伏せていたガルーラは郡道の言葉に奮起し、繰り出した"メガトンパンチ"をゴルーグの"ばくれつパンチ"にぶつける
衝突した両者の技は数秒の均衡を保った後、凄まじいエネルギーによって爆発が引き起こされ、お互い爆風に押し飛ばされる
「ガルーラ!ゴルーグの腕を封じなさい!」
その時、飛ばされた郡道の指示にガルーラは素早く動き出し、ゴルーグに肉迫するとその両手を自身の両手で掴んで取っ組み合う
「ゴルーグの両腕を封じた…!」
「これで"ばくれつパンチ"は繰り出せないね!」
「でも、あの状態だと逆にガルーラも"メガトンパンチ"で攻撃出来ないよ…!」
「たしかに、この状態だと"メガトンパンチ"も"ふいうち"も繰り出せない。でも、私のガルーラには腕を使わなくても繰り出せる技があるのよ!"かみくだく"!」
チグサ達が興奮と不安の声を漏らすなか、郡道は口を使った攻撃技"かみくだく"を指示をし、ガルーラはゴルーグの両腕を掴み抑えたまま、その身体へと思い切り噛み付く
「ゴルゥゥゥ…ッ!?」
効果抜群の大ダメージにゴルーグは堪らず呻き声を上げる
「ゴルーグ…っ!?両手を掴まれただけじゃなく、噛み付きまで…!"ジャイロボール"で振り解けるかどうか…!だったら…!ゴルーグ!"10まんばりき"で吹き飛ばせ!」
ガッチリと捕まえられてはそう簡単には振り解けず、加えて"かみくだく"のダメージが続く状態で相当な回転力を必要とする"ジャイロボール"が最大の威力を発揮出来るか怪しいと判断したアンジュは"10まんばりき"を指示する
「ゴ…ルゥゥ…ッ!!」
"かみくだく"のダメージに耐えながら、ゴルーグは繰り出した"10まんばりき"でパワーを漲らせると右足から放った強烈なキックをガルーラに炸裂させる
「ガルゥゥ…ッ!?」
あまりのダメージに苦悶の声を上げるガルーラはその拍子に噛み付きを解き、両手の力を緩めてしまう
「今だ!投げ飛ばせ!」
その瞬間、両手が自由となったゴルーグはガルーラの両手首を掴むと勢いよく振り回し投げ飛ばす
「ガルゥ…ッ!?」
「ゴル…ッ!ゴルゥ…ッ!?」
投げ飛ばされて地面に激突したガルーラから呻き声が上がるなか、"ここからだ!"と意気込む様子を見せるゴルーグも堪えていた"かみくだく"のダメージに体が悲鳴を上げ、地面に片膝を突いてしまう
「互いに体力は限界に近いようね…!」
「そうですね…!なら、次の一撃に全てを懸ける!」
そう言うとアンジュは左腕の袖を捲り、そこに装着させているZリングを露わにする
「Z技ね…!だったらこっちも…!」
Z技を繰り出そうとするアンジュに応じようと、郡道は上着のポケットから取り出したZリングを左腕に装着する
「アレって、Zリングだよね…!?」
「ってことは、Z技同士のぶつかり合いだ…!?」
「待ってました〜!!」
サンゴが興奮し、チグサ達他4人が目を見開くなか、アンジュは"地面タイプのゼンリョクポーズ"を決め、郡道は両腕をそれぞれ上下斜めに広げると地面と水平になるよう曲げてZの形を作る"ノーマルタイプのゼンリョクポーズ"を決める
直後、2人から溢れ出るZパワーがゴルーグとガルーラに流れ、力を漲らせる
「勝つぞ!ゴルーグ!"ライジングランドオーバー"!」
「いきなさい!ガルーラ!"ウルトラダッシュアタック"!」
相手に勝ちたい強い気持ちを乗せるアンジュと郡道の声を背に、ゴルーグとガルーラはそれぞれが発動させるZ技を同時に仕掛ける
「ゴルゥゥゥッ!!」
「ガルゥゥゥッ!!」
衝突したゴルーグとガルーラはそれぞれの力を激しく押し付け合う
「ガァルゥゥゥゥゥッ!!!」
「ゴ…ルゥゥゥ…ッ!」
押し合いを制したのはガルーラ…ゴルーグに"ウルトラダッシュアタック"の直撃を決めると、その勢いのままジムの壁に向かって押し進む
「ゴルゥゥゥ…ッ!?」
「負けるなっ!ゴルーグゥゥゥっ!」
「ゴ…ルゥゥゥゥゥグッ!!!」
壁への激突がどんどん迫るなか、アンジュの叫びを耳にしたゴルーグは彼女の想いに応えたいと闘志を燃え上がらせると自身の限界を超えた力を引き出し、ガルーラの"ウルトラダッシュアタック"を抑え止める
「ガ…ルゥゥゥ…ッ!?」
そして、ガルーラを押し返し始めたゴルーグは反撃の"ライジングランドオーバー"を繰り出すと強烈な踏み締めで割った地中へガルーラを押し込み、その深くへと勢いよく突き進む
「ガルーラ…っ!?」
ガルーラの身を案じて郡道が声を上げるなか、地中の奥底へと突き進んだゴルーグはその先に存在するマグマへとガルーラを押し込み、直後に衝撃を加えられたマグマが大噴火を引き起こした
「…っ!」
「「…っ!?」」
「「どわあああああああ…っ!?」」
「「「きゃああああああ…っ!?」」」
噴火による凄まじい熱気と爆風が室内を駆け巡り、絶叫を上げるチグサとサンゴはひっくり返り、アカネとコハク、ヒスイは互いに身を寄せ合い、アンジュと郡道、神田は足腰に力を入れて衝撃に耐える
しばらくして熱気と爆風は弱まり、フィールドに立ち込めた黒煙が次第に晴れていく
「ゴ…ルゥ…!」
「ガ…ルゥ…!」
黒煙が十分に晴れたそこには、"まだ倒れるものか"と息も絶え絶えな状態の身体をその気力だけで起こし、互いに鋭く睨み合うゴルーグとガルーラの姿があった
「ガルゥ…!ガル…ッ!?」
しかし、数秒続いた睨み合いの最中にガルーラが満足そうな笑みを溢した直後、堪えていたダメージに表情を歪ませるとそのまま地面へと倒れ込んだ
「ガルーラ、戦闘不能!ゴルーグの勝ち!よって勝者、アンジュ・カトリーナ!」
「〜〜〜…っ!よっしゃあああああっ!!!よく頑張ったぞ!ゴルーグ!」
「ゴルゥッ!」
ガルーラの戦闘不能を以って神田からジム戦の勝利を宣告されたアンジュは飛び跳ね、ゴルーグは両腕を上げて大喜びする
「凄い凄い!アンジュさん、郡道先生に勝っちゃったよ!」
「リゼさんの時もそうだったけど、目が離せない白熱したバトルだった!」
「うん!2人とポケモン達の熱い想いが強く感じ取れたて、観てるこっちも熱くなっちゃった!」
「最後のZ技の激突も大迫力だったね〜!」
「おめでとうございます!アンジュさん!」
2人のバトルに大興奮のチグサ達は思わず立ち上がり、勝利したアンジュを祝福する
「お疲れ様、ガルーラ。良いバトルだったわよ」
その最中、郡道は奮闘したガルーラに労いの言葉を掛けてボールへと戻すと、満足気な笑みを浮かべた後、アンジュの下へ歩み寄る
「おめでとう、アンジュ。それとありがとう。アンタと久しぶりに燃えるようなバトルが出来て大満足だわ」
「こちらこそ、郡道さんとまた本気でバトルすることが出来て楽しかった」
互いの健闘を讃え合い、アンジュと郡道は固い握手を交わした
「それじゃあ、これを渡すわ。グンカンジムに勝った証、グンカンバッジよ」
「ありがとう、郡道さん」
「今のアンタなら、すぐに8つのバッジを集められるわ!リゼのためにも、今度こそ絶対にポケモンリーグの舞台に進みなさい!」
「当然!そんでもって、優勝してチャンピオンリーグにも挑む!その時はジムリーダーの立場なんて気にしなくていい、全力で本気のバトルをしよう!郡道さん!」
「…っ!ふふっ…!相変わらず威勢は良いわね!なら、楽しみに待ってるわ!頑張りなさい!」
「ああ!」
郡道とのバトルに勝利し、無事に1つ目のジムバッジを手に入れ新たな旅立ちの一歩を踏み出したアンジュはこの先に待ち受けるジムリーダー達への挑戦に胸を熱くさせる
リゼとの約束を果たすため、彼女の旅はまだまだ続く…
アンジュ・カトリーナ
手持ち:ゴルーグ、ビッパ、ウインディ
郡道美玲
手持ち:ヨクバリス、ガルーラ
西園チグサ
手持ち:ペリッパー
周央サンゴ
手持ち:プクリン