にじさんじ×ポケットモンスター   作:Mr.ソロ

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第86話「シーズジム!リゼvsドーラ!後編」

 

ヘルエスタシティでの一件を経て再びジムを巡ることを決意したアンジュと別れ、イブラヒム、フレン、メリッサと行動を共にすることとなったリゼは8つ目のジムがあるシーズシティへ向かう途中で葛葉、叶、ひまわり、凛月、天宮、笹木と再会する

 

シーズシティのジムリーダーであり、同時に母親でもあるドーラに激しい対抗心を抱く葛葉が先にジム戦に挑むも、彼女の強さを前に敗北を喫してしまう

 

その後日、葛葉のジム戦を見届けたリゼは叶からの要望もあって遂に最後のジム戦へと挑む

 

ドーラの1体目:ギャラドスにグレイシアで挑んだリゼは特性やフィールドを駆使して見事に突破

 

続く2体目のバクガメスには"もらいび"の特性を持つソウブレイズをぶつけ、脅威的な威力を誇る"トラップシェル"を封じて優勢を築くが、葛葉のジム戦の時には使われなかった"からをやぶる"を活かした戦法に形勢を覆される

 

そして、"ドラゴンテール"によって意図せず引き摺り出されたサイドンと共に、リゼはバクガメス攻略に臨むのだった

 

 

 

 

「リゼさんはこのままサイドンで挑むみたいですね」

 

「バクガメスに勝つ算段があるってことなんやろな」

 

「でも、どうやって…?」

 

「まあ、そこは見てのお楽しみだろう」

 

「リゼちゃ〜ん!サイド〜ン!頑張れ〜!」

 

 

"からをやぶる"を2回使用し、火力と共に素早さが格段に跳ね上がっているバクガメスを相手に足の遅いサイドンで挑むリゼにひまわり達が声援を送り、勝負は厳しいものとなると見ていたイブラヒム達も何か策があるのだろうと不安はありながらも期待を込めて見守る

 

 

「あのバクガメスを相手にサイドンで勝負か。相性で有利とは言っても、バクガメスはその不利を覆すほどの火力を有してる。どう攻略するつもりなのか楽しみだね」

 

「……」

 

 

イブラヒム達から少し離れたところで観戦している葛葉と叶

 

まだまだ面白いバトルを見せてくれるであろうリゼとポケモン達に期待を寄せる叶の呟きを葛葉が相変わらず無愛想な面持ちのまま無視するなか、社がバトル再開の宣言を下す

 

 

「それでは、バトル始め!」

 

「サイドン!"いわなだれ"!」

 

 

先手を打ったリゼの指示でサイドンは"いわなだれ"を繰り出し、打ち上げた無数の大岩をバクガメスへ降り注がせる

 

 

「バクガメス!"りゅうのはどう"!」

 

 

"からをやぶる"によって防御力が大きく下がっているバクガメスは一撃でも直撃すれば大ダメージになることは当然、最悪の場合には戦闘不能に陥る可能性があった

 

そのため、ドーラは広範囲へと降り注いでくる"いわなだれ"に対して回避ではなく迎撃の判断を下し、バクガメスは繰り出した"りゅうのはどう"で自身が今いる場所へ落ちてくる大岩を次々に破壊していく

 

 

「サイドン!"すてみタックル"!」

 

 

バクガメスが"いわなだれ"に対処に追われている隙にサイドンは"すてみタックル"を繰り出し、降り注ぐ"いわなだれ"の中を破壊しながら豪快に突き進んでいく

 

 

「"いわなだれ"と同時の攻撃…!悪くない手だけど、"からをやぶる"でスピードが格段に増したバクガメスには遅く見えるわ!躱して"ドラゴンテール"!」

 

 

自身の下へ落ちようとしていた"いわなだれ"を十分に破壊したバクガメスは突っ込んで来るサイドンをギリギリまで引き付けるとその場から飛び退き、"すてみタックル"の直撃を回避する

 

 

「躱された…!」

 

「やっぱ、あのスピードのバクガメスに攻撃を当てるのはサイドンじゃ無理や…!」

 

 

サイドンの攻撃が躱されて笹木達が狼狽えるなか、背後を取ったバクガメスは発動させた"ドラゴンテール"で反撃を仕掛ける

 

 

「サイドン!そのまま地面に攻撃!」

 

 

その時、リゼの指示が飛んでサイドンは勢いそのまま前のめりに倒れ込み、フィールドへ"すてみタックル"を炸裂させると、その強力な一撃によって周囲数mの地面が大きく割れ隆起する

 

 

「ガメ…ッ!?」

 

 

隆起したフィールドに足を取られたバクガメスは体勢を崩し、その場で転倒してしまう

 

 

「バクガメスの体勢が…!」

 

「"すてみタックル"の衝撃で地面を破壊して、足場を不安定にさせたんだ…!」

 

「凄い力技…!」

 

「サイドン!今だよ!"ドリルライナー"!」

 

 

バクガメスに大きな隙を生ませたパワフルな方法にひまわり達が驚くなか、サイドンは決まれば効果抜群となる"ドリルライナー"を繰り出す

 

 

「バクガメス!"ドラゴンテール"!」

 

 

回避は間に合わないと判断したドーラは"ドラゴンテール"での迎撃を指示し、バクガメスは急いで体勢を立て直すと"ドラゴンテール"を繰り出し、サイドンの"ドリルライナー"と衝突する

 

 

「サイィィィ…ッ!!」

 

「ガメェェェ…ッ!!」

 

 

押し負けまいと唸り声を上げる両者のぶつかり合いは激しい火花を散らして鬩ぎ合っていた

 

 

「サイドンの"ドリルライナー"がバクガメスの"ドラゴンテール"に張り合ってる…!」

 

「でも、どうして…!?"からをやぶる"で攻撃力が上がってるバクガメスの方が技の威力は上なんじゃ…!」

 

「おそらく、万全じゃない体勢から繰り出したせいで思うように力を込められなかったんだろう…!」

 

 

サイドンがバクガメスと互角に鬩ぎ合っていることに驚くメリッサ達にイブラヒムがそう推論を告げる

 

転倒した状態からサイドンへの迎撃を間に合わせる必要があったバクガメスは攻撃を繰り出すための体勢の立て直しが最低限にしか叶わず、最大限のパワーを引き出すことが出来なかったのだ

 

 

(でも、バクガメスを押し切れそうにもない…!)

 

(このままやと、せっかくのチャンスが水の泡や…!)

 

 

だが、それでも"からをやぶる"による攻撃力の強化が幸いして、十全な状態でなくてもバクガメスはサイドンと張り合うことが出来ていた

 

互いに一歩も譲らない以上、このまま続ければこの鬩ぎ合いは引き分けに終わる

 

そうなれば互いに一度距離を取って仕切り直しとなり、搦手を使ってくると知ったバクガメスは警戒を強め、もう一度今のように崩すのはより困難になるだろう

 

イブラヒムや叶、笹木達がそう試合展開を予想しながらサイドンとバクガメスのぶつかり合いを見守っていた…その最中だった

 

 

「サイドン!バクガメスの尻尾を掴んで!」

 

 

そうリゼから指示が飛ばされ、サイドンは伸ばした両腕でバクガメスの尻尾を掴む

 

 

「サァァァイッ!!」

 

 

そして、サイドンは咆哮を上げると共に掴んだ尻尾を力一杯に地面へと押さえ付けると、すかさず両足でその尻尾を踏み付けた

 

 

「ガメ…ッ!?」

 

「…っ!」

 

「バクガメスの"ドラゴンテール"を止めた…!」

 

「いや、それだけじゃねぇ…!バクガメスを捕らえた…!」

 

 

全体重を掛けて尻尾を踏み押さえるサイドンから逃れようと体を踠かせるバクガメスの姿を目にし、笹木とイブラヒムがそう声を荒げる

 

おそらく、リゼが想定していた作戦はバクガメスの隙を作ったところに攻撃を仕掛けること

 

仮に相手が反撃してきても、咄嗟であれば最大限のパワーは出せず押し切れると踏んでいた

 

だが、実際にはそう上手くいかず、不安定な状態からの反撃でも"からをやぶる"で攻撃力が上がっているバクガメスはサイドンのパワーに張り合ってみせた

 

この時点で、リゼもイブラヒム達と同じくサイドンがバクガメスを押し切れないことを悟っていただろう

 

だからこそ、他に打つ手は無いかと模索した結果、ぶつかり合っている"ドラゴンテール"の尻尾を掴み止め、身動きが取れないようにすることを考えたのだ

 

 

「まさか、あのバクガメスの動きを封じるなんてね…!」

 

「…っ!」

 

 

サイドンがバクガメスを押し切れなかった時、"これ以上の打つ手は無い、サイドンでの勝ち目は無くなった"と叶達も見切りをつけていた

 

だが、その予想を裏切ってみせたリゼとサイドンに叶は驚嘆の声を漏らし、葛葉は悔しさ交じりの苛立った表情で歯噛みする

 

 

「ガン…メェェ…ッ!」

 

「落ち着きなさい!バクガメス!"りゅうのはどう"!」

 

 

ドーラに呼び掛けられて落ち着きを取り戻したバクガメスは"りゅうのはどう"を繰り出そうと後ろへ顔を振り返らせる

 

 

「サァイッ!」

 

「ガメ…ッ!」

 

 

だが、そうはさせまいとサイドンは右手でバクガメスの顔を掴み、"りゅうのはどう"を繰り出そうとする口が自身に向かないよう押さえ込む

 

 

「よし!これで"ドラゴンテール"を繰り出すための尻尾に加えて、"りゅうのはどう"も封じた!」

 

「"トラップシェル"も甲羅に当たらないよう気を付ければ問題ないから、この勝負は貰ったも同然ですね!」

 

「サイドン!そのまま"アームハンマー"!」

 

 

笹木達がリゼの勝利を確信するなか、攻撃の指示を受けたサイドンは"アームハンマー"を発動させた左腕を振り上げる

 

 

「バクガメス!後ろに跳びなさい!"トラップシェル"!」

 

 

だがその時、ドーラの指示が飛んでバクガメスが後方に向かって勢い良く地を蹴る

 

 

ボカァァァァァンッ!!!

 

 

直後、バクガメスの甲羅がサイドンの懐にぶつかった瞬間に"トラップシェル"が発動し、大爆発が引き起こされる

 

 

「「「「ああぁ…っ!!?」」」」

 

「サイドン…っ!」

 

「自分から"トラップシェル"をぶつけに…!」

 

「そんなのアリ…!?」

 

「いや、盲点だった…!"トラップシェル"は直接攻撃を仕掛けてくる相手へのカウンター技って固定観念に囚われ過ぎてた…!技自体は衝撃が加えられれば爆発するんだから、自ら当たりにいっても当然発動はする…!」

 

 

バクガメスが"トラップシェル"を使うのは相手が直接攻撃を仕掛けてくる時であり、その反撃を確実に決めるため甲羅での防御に専念する

 

本来の足の遅さもあって、その受け身な印象が強いからこそ、構えた"トラップシェル"を自ら当てに行くという可能性が誰の脳裏にも過らなかったのだ

 

 

「サ…イィ…」

 

 

しばらくして立ち込めていた爆煙が晴れると、その中から"トラップシェル"の直撃を受けたサイドンが白目を剥き立ち尽くしていた

 

その様子から効果今一つとは言え、"からをやぶる"で特攻を大幅に上げているバクガメスの"トラップシェル"がサイドンを瀕死に追い込むほどの大ダメージを与えていることは誰の目にも明らかだった

 

激しい動揺や緊迫…皆それぞれの面持ちで固唾を呑んで見つめるなか、次第にサイドンの体がぐらりと傾き始める

 

 

「ガメ…!ガン…メェッ!」

 

 

サイドンの足が少し浮いた瞬間、バクガメスは踏み付けられている尻尾を引っ張り抜き、その拘束から解放される

 

 

「…ッ!?」

 

「「「「「…っ!?」」」」」

 

 

だがその時、サイドンから一度距離を取ろうと動こうとしたバクガメスの体が硬直したかのように、突然その場で止まった

 

何か凄まじい力で後ろから掴み止められている…そう察したバクガメスが振り返ると、そこには首元の甲羅を右手でガッシリと掴んでいるサイドンの姿があった

 

 

「サァ…!サァ…ッ!サイィィィ…ッ!」

 

「ガメェ…ッ!?」

 

 

息は絶え絶えで戦闘不能寸前…にも関わらず、サイドンは何処にそんな力が残っているのだと思わせるほどのパワーでバクガメスを引き寄せるとそのまま地面へ仰向けに引き倒し、握り合わせた両拳を高々と振り上げる

 

 

「…っ!バクガメス…!"りゅうのはどう"…!」

 

「ガ、ガメ…ッ!」

 

 

切迫するドーラの指示で我へと返ったバクガメスは急いで"りゅうのはどう"を繰り出そうとエネルギーを溜める

 

 

「サァァァァァァァァイッ!!!」

 

 

だが、"りゅうのはどう"が繰り出されるよりも先に大咆哮を上げたサイドンが渾身の"アームハンマー"をバクガメスへと振り下ろす

 

 

「ガッ…!!?」

 

 

"ドゴンッ!!!"と、"アームハンマー"の一撃を頭部に受けたバクガメスは地面に沈み、その衝撃で土が間欠泉の如く噴き上がる

 

 

「…っ!」

 

「……」

 

「「「「「…!」」」」」

 

 

リゼは衝撃の余波に耐えながら、ドーラは仁王立ちで佇み、ひまわり達が固唾を飲んで見守ることしばらく、立ち込めた土煙が次第に晴れていく

 

 

「ガ…ガメェ…」

 

「サァイ…!サァイ…!」

 

「バクガメス、戦闘不能!サイドンの勝ち!」

 

 

土煙が晴れ切ったフィールドには息を切らすサイドンと倒れたバクガメスの姿があり、それを確認した社がバクガメスの戦闘不能を宣言した

 

 

「うおおおおおおっ…!サイドンが勝った〜っ!」

 

「凄い凄〜いっ!」

 

「ふぅ〜…。心臓に悪いバトルだった…」

 

「バクガメスの"トラップシェル"が決まった時はもう駄目かと思ったもんね」

 

 

難敵とされたバクガメスを相手に見事勝利を収めたリゼとサイドンにひまわり達は歓声を上げ、ホッと胸を撫で下ろす

 

 

「サイドン…!」

 

「サァイ…。サイ…ッ!?」

 

 

駆け寄って来るリゼに振り返ったサイドンは小さく勝利の笑みを浮かべるも、溜まっている相当なダメージが体に響いたのか苦しそうに目を瞑り、片膝を地に突かせる

 

 

「サイドン…!?大丈夫…!?」

 

「サ、サァイ…!」

 

「…本当にありがとう、サイドン。"絶対に勝つ!"、"倒れてなるもんか!"って強い意志と根性で耐え切ったあの時のあなたの姿、最高に格好良かったよ」

 

 

"これくらいどうってことない…!"、そう言わんばかりに強がるような笑みを浮かべたサイドンにリゼは感謝と称賛の言葉を贈った

 

 

「お疲れ様、バクガメス。ゆっくり休んでちょうだい」

 

 

一方のドーラもボールに戻したバクガメスに労いの言葉を掛けると、改めてリゼとサイドンに向き合う

 

 

「自分のため、何よりトレーナーのために"負けられない"。そんな気持ちを強く感じたあなたのサイドンの戦いぶり、見事だったわ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「サァイ…ッ!」

 

「でも、勝負はここからよ!ポケモンリーグ挑戦を目指すトレーナー達にとって最後の関門となるジムリーダーを任される者として、そう簡単に勝ちを譲ってあげたりはしないわ!いけ!ヌメルゴン!」

 

 

称賛と共にそう意気込みを伝えたドーラは3体目のポケモンに"ドラゴンポケモン":ヌメルゴンを繰り出す

 

 

「3体目はヌメルゴンか…!」

 

「葛葉さんとのバトルでは使ってなかったポケモンですね…!」

 

「これまでの2体と違って一切情報の無い相手…。ドーラさんも言ってた通り、ここからが本番ってわけか」

 

 

ここまでのギャラドスとバクガメスの2戦はドーラにとっては小手調べだった

 

そのバトルスタイルを知られているギャラドスと一度見せたものとは異なるバトルスタイルのバクガメス…この2体でドーラはリゼがどんなトレーナーであるか、その実力が如何ほどのものなのかを測った

 

それを終えた今、リゼの実力を概ね把握し認めたドーラは多少の手加減こそあれど、ポケモンリーグに挑戦するため越えなければならない最後のジムリーダー…その大きな壁として全力で立ちはだかろうとしているのだ

 

 

「それでは、バトル始め!」

 

「サイドン!"いわなだれ"!」

 

 

社の試合再開の合図と同時に、まずは相手の出方を窺おうとリゼは距離を保って攻撃出来る"いわなだれ"をサイドンに繰り出させる

 

 

「ヌメルゴン!"だくりゅう"!」

 

 

対するヌメルゴンはドーラの指示を受けて水タイプの技"だくりゅう"を繰り出すと、その波に乗って高く上昇し、降ってくる"いわなだれ"の直撃を回避しながらサイドンへと突っ込む

 

 

「サイィィィ…ッ!?」

 

「サイドン…っ!」

 

 

広範囲に及ぶ逃げ場の無い"だくりゅう"にサイドンは回避のしようがなく、成す術無く呑み込まれ押し流されてしまう

 

 

「サ、サイィ…」

 

「サイドン、戦闘不能!ヌメルゴンの勝ち!」

 

 

効果抜群…バクガメス戦で体力を大きく消耗していたこともあり、サイドンは呆気なく戦闘不能に陥った

 

 

「あぁ…!サイドンが…!」

 

「効果抜群の水タイプの技を受けたんだ。流石に仕方がねぇよ。むしろ、あのバクガメスを突破したんだ。十分な活躍だろ」

 

「そうだよね…!サイドンはよく頑張った!」

 

 

サイドンの戦闘不能にフレン達は表情を曇らせるも、イブラヒムに掛けられたその言葉で気持ちを切り替える

 

 

「お疲れ様、サイドン。バクガメスに勝ってくれたアナタの頑張り、無駄にはしないから」

 

 

サイドンをボールへと戻したリゼは必ず勝つと誓いを立てるように労いの言葉を掛ける

 

 

「お願い!グレイシア!」

 

「グレイッ!」

 

 

サイドンに代わって、リゼはヌメルゴンの弱点を突ける氷タイプのグレイシアを繰り出す

 

 

「リゼはここでもう一度グレイシアか」

 

「ヌメルゴンがどんな戦い方をするか分かり切ってねぇからな。ここは無難に相性の有利を活かして攻めるつもりだろう」

 

 

リゼがグレイシアを選出した意図についてイブラヒムはそう推測を述べる

 

 

「それでは、バトル始め!」

 

「グレイシア!"あられ"!」

 

 

先手を仕掛けたのはリゼ…まずは自分達に有利な状況を作ろうとグレイシアに"あられ"を繰り出させ、天候を霰状態に変化させる

 

 

「まずは当然そうだろうな」

 

「"ゆきがくれ"を発動させておけば、相手の攻撃を躱しやすくなりますもんね!」

 

 

特性"ゆきがくれ"を持つポケモンは降り頻る霰の景色に溶け込むことで相手に自身を視認させ辛く、また誤認させることが出来る

 

それを活かさない手は無いと、リゼの判断にイブラヒムと凛月がそう呟く

 

 

「ヌメルゴン!"だくりゅう"!」

 

 

霰の風景の中へ消えたグレイシアに対し、ドーラはフィールド全体を攻撃出来る"だくりゅう"を指示し、ヌメルゴンは発生させた濁流の波を周囲へと繰り出す

 

 

「手応えがない…。上か…!」

 

 

ヌメルゴンが繰り出した"だくりゅう"がフィールド全体を呑み込むも、グレイシアの叫声が上がらなかったことから技が外れたと悟ったドーラはそう呟くと視線を少し上へと向ける

 

 

「グレイッ!」

 

 

すると、ヌメルゴンへ飛び掛かろうとするグレイシアが霰の中からその姿を現した

 

ドーラが気付いた通り、グレイシアは跳躍してヌメルゴンの"だくりゅう"を躱していたのだ

 

 

「グレイシア!"こおりのキバ"!」

 

「ヌメルゴン!"のろい"!」

 

 

ドラゴンタイプには効果抜群となる氷タイプの技"こおりのキバ"を繰り出してくるグレイシアに対し、攻撃を受け止めようと防御の体勢を取ったヌメルゴンは"のろい"を発動させる

 

 

「"のろい"…!?たしか、主にゴーストタイプのポケモンが覚える技じゃなかったっけ…!」

 

「"こおりのキバ"と相打ちする形で呪い状態を与えるつもりなの…!?」

 

 

"のろい"…自身の体力を削ることで相手に呪いの継続ダメージを与えるゴーストポケモンが得意とする技

 

それをこのタイミングで、加えてドラゴンタイプのヌメルゴンが使用してきたことにメリッサ達が声を上げる

 

 

「いや、ゴーストタイプ以外のポケモンが使う"のろい"は全くの別物だ」

 

 

驚くメリッサ達にイブラヒムがそう呟くなか、ヌメルゴンへと飛び込んだグレイシアがその腕に噛み付いて"こおりのキバ"を炸裂させる

 

 

「ヌゥゥゥ…ゴォォンッ!」

 

 

だが、ヌメルゴンはグレイシアの"こおりのキバ"を耐え切り、弾き返した

 

 

「うそ…!?」

 

「効果は抜群のはずなのに…!」

 

「"のろい"のおかげだ。あの技はゴーストタイプのポケモン以外が使うと効果が変わって、素早さが下がる代わりに攻撃力と防御力が上がる」

 

「防御力が…!だからヌメルゴンはグレイシアの"こおりのキバ"を耐えられたんですね…!」

 

「物理攻撃だと押し切れない…!なら、グレイシア!"フリーズドライ"!」

 

 

ゴーストポケモン以外が使う"のろい"の効果について解説するイブラヒムに凛月達が相槌を打つなか、リゼは特殊技の"フリーズドライ"をグレイシアに指示する

 

 

「グッ…!グレイッ…!」

 

「…っ!」

 

 

だが、"フリーズドライ"を繰り出す直前にグレイシアは一瞬だけ体勢を崩しかけた

 

"今グレイシアに起きた異変は何だったのか?"…その理由に思考を巡らせたいリゼだったが、そんな暇も無くドーラが反撃の指示を飛ばしてくる

 

 

「ヌメルゴン!"げきりん"!」

 

「ヌゥゥゥゴォォォンッ!!」

 

 

"げきりん"を発動させて激昂に駆られるヌメルゴンは咆哮を上げると、頭に生えている鞭のような耳をブンブンと激しく振り回しながらグレイシアへと突っ込んでいく

 

 

「もしかして、"フリーズドライ"に突っ込むつもり…!?」

 

 

"フリーズドライ"は物理攻撃の"こおりのキバ"と違って特殊攻撃の技なため、"のろい"で高めた防御力は意味を成さない

 

このまま突っ込めば今度こそ効果抜群の大ダメージを被ると、フレン達が思わず声を上げる

 

 

「ヌゥゥゥゴォォォンッ!!」

 

「グレェェェイ…ッ!?」

 

「「「「えぇ…っ!?」」」」

 

 

だが、"フリーズドライ"に突っ込んだヌメルゴンはそのダメージをものともせずに突き進み、グレイシアに"げきりん"の一撃を炸裂させた

 

 

「ぜ、全然止まんないよ…!?」

 

「もしかして、効いてない…!?」

 

「そんなことはないよ…!ヌメルゴンは防御力よりも特殊防御力が高いポケモンだから…!でも…!」

 

「ああ…!効果抜群の攻撃をまともに正面から受けて少しも怯まないとはな…!」

 

「"げきりん"の影響で興奮状態になっているのも大きいんやろうな…!」

 

「ヌゴォッ!ヌゥゥゥゴォォォンッ!!」

 

 

狼狽えるひまわりや凛月に天宮、イブラヒム、笹木が口々にそう呟きを落とすなか、"げきりん"の影響で激しい興奮状態に陥っているヌメルゴンは咆哮を轟かせ突っ込んで来る

 

 

「グレイシア…!霰に紛れて避けて…!」

 

「グ…グレイ…ッ!」

 

 

リゼは切迫した声でグレイシアに回避を呼び掛けるが、"のろい"の効果で攻撃力が上がってるヌメルゴンの"げきりん"は相当なダメージになっており、すぐには立ち上がれそうになかった

 

 

「…っ!グレイシア!"シャドーボール"!」

 

「グ…レイッ!」

 

 

回避は不可能と悟ったリゼは迎撃に指示を切り替え、グレイシアは力を振り絞って"シャドーボール"を繰り出す

 

 

「ヌゥゥ…ッ!ゴォォォンッ!!!」

 

 

"シャドーボール"は直撃したが、それでヌメルゴンが止まることはなく、再び振るわれた"げきりん"がグレイシアに炸裂する

 

 

「グレェェェイ…ッ!?」

 

 

直撃を受けたグレイシアは痛烈な悲鳴と共に大きく吹き飛ばされ、壁に激突する

 

 

「グ…グレェイ…」

 

「グレイシア、戦闘不能!ヌメルゴンの勝ち!」

 

 

激突した壁から摺り落ちたグレイシアはそのまま力無く倒れ込み、社が戦闘不能を宣告する

 

 

「そ、そんな…!」

 

「グレイシアまで…!」

 

「"げきりん"の一撃が相当重かったみたいだな。あのヌメルゴン、"のろい"でパワーアップしているとは言え、かなりの攻撃力だ」

 

 

サイドンに続き、まさかのグレイシアの戦闘不能にフレン達が表情を青ざめさせるなか、リゼは倒れたグレイシアをボールへと戻す

 

 

「ありがとう、グレイシア。ゆっくり休んでね」

 

「ドラゴンタイプの弱点を突ける氷タイプのグレイシアを失ったのはかなり痛いですね…」

 

「そうやな…!でも、大丈夫やよ!ほら、見て!」

 

「ヌゥ〜…ゴ〜…?」

 

 

と、バトルの行末に不安を覚える凛月にそう答えた笹木が指を指した先にはくらくらと頭を揺らして立ち尽くすヌメルゴンの姿があった

 

 

「ヌメルゴンが混乱してる…!」

 

「"げきりん"はしばらく攻撃を続けた後に疲れて混乱しちゃう技だからね」

 

「うん!混乱状態の時は攻撃が成功するかも不安定やから、攻めるなら今がチャンスってわけよ!」

 

「お願い!エンペルト!」

 

「エンペッ!」

 

 

"げきりん"の効果について解説する天宮を交え、ヌメルゴンが混乱している内に畳み掛ければ巻き返せると笹木が自信満々に答えるなか、リゼはグレイシアに代わってエンペルトを繰り出す

 

 

「エンペルトか。まあ、当然だな」

 

「リゼさんのエンペルトは"れいとうビーム"を覚えてるからね!」

 

 

エンペルトを出した意図をすぐに理解して、イブラヒムとメリッサがそう言葉を交わす

 

混乱状態で動きが鈍っているほぼ無防備な今の内に効果抜群の"れいとうビーム"を決め、確実に体力を削ろうという狙いだ

 

 

「それでは、バトル始め!」

 

「エンペルト!"れいとうビーム"!」

 

 

そして、社の合図で試合が再開されると同時に、リゼはイブラヒム達が予想した通り"れいとうビーム"をエンペルトに指示し、繰り出された凍てつく光線がヌメルゴンに直撃する

 

 

「ヌ…ゴ…」

 

「よっしゃあ!決まった!」

 

「それに凍り付きましたよ!これなら一気に…!」

 

「エンペルト!"はがねのつばさ"!」

 

 

"れいとうビーム"の直撃を受けたヌメルゴンは全身が凍り付き、大きな隙が出来たと笹木達の上げる歓声を背に駆け出したエンペルトは"はがねのつばさ"を構える

 

 

「ヌ…ゴ…!」

 

「ヌメルゴン!"だいもんじ"!」

 

 

その時、氷漬けにあるヌメルゴンの混乱が解け、すかさずドーラが指示を飛ばすと、繰り出された"だいもんじ"はその熱と威力で分厚い氷を打ち破り、そのままエンペルトへ迫る

 

 

「エンペ…ッ!」

 

「…っ!エンペルト!戻って!」

 

 

予期せぬ迎撃に回避が間に合わなかったエンペルトは咄嗟に用意していた"はがねのつばさ"を盾のように構えて"だいもんじ"を受け止める

 

そして、その状況を前に顔を顰めさせるリゼはエンペルトをボールへと戻した

 

 

「惜しい〜っ!」

 

「あと少し混乱が遅く解けてれば、ヌメルゴンを更に追い込めれたのに…!」

 

「ああ。だが、今のでも十分にヌメルゴンにダメージを与えられたようだぞ」

 

「ヌゥ…!ヌゥ…!」

 

 

自分のことのように悔しがるフレン達にイブラヒムはそう告げるとフィールドの方へ目配せする

 

その先にいたのはヌメルゴン…その表情は険しく、息を荒くしていた

 

 

「本当だ…!ヌメルゴンが疲れ始めてる…!」

 

「防御が堅いとは言っても、効果抜群の攻撃をあれだけ受けたからな。まだ膝も突かないタフさは異常やと思うけど」

 

「でも、それならなんでリゼちゃんはエンペルトを交代させたんやろ…?」

 

「たしかに…。このまま一気に押せそうなのに…」

 

 

ヌメルゴンの体力もかなり削れてきたのだと笹木達が希望を見出すなか、ひまわりが落とした呟きにフレン達も疑問を抱く

 

このままエンペルトでバトルすればヌメルゴンはまず間違いなく倒せるのに、何故引っ込めさせたのだろうかと

 

 

「おそらく、ドーラさんのリザードンを警戒して温存したいんだろ」

 

「そっか…!今残ってるリゼさんの手持ちでリザードンに相性で有利を取れるのはエンペルトだけだもんね…!」

 

 

葛葉のジム戦でドーラが繰り出した相棒のリザードンが後に控えているなら、リゼに残されているポケモンでその弱点を突けるのは水タイプのエンペルトのみ

 

ヌメルゴンは疲労が見えるまでに追い込めたが、混乱状態が解けた今は先程のように"れいとうビーム"を容易に決められる隙が無く、倒すにはもう少し手間取ることになる

 

エンペルトを出来るだけ万全な状態でリザードンにぶつけたいと考えてるリゼにとって、極力ダメージを負わせたくはない

 

これはそのための交代なのだろうと、推測として疑問への回答を呟いたイブラヒムにメリッサ達は納得の声を上げる

 

 

(ハッ、だとしても次に出るポケモンは無傷じゃ済まないだろうがな)

 

「ここはあなたにお願い!ルカリオ!」

 

「ルオォッ!」

 

 

相変わらずの無愛想な態度で葛葉が内心そう反骨的な意見を呟くなか、リゼはエンペルトに代わってルカリオを繰り出す

 

 

「リゼさんの5体目はルカリオですね」

 

「まあ、ドラゴンタイプの技のダメージを抑えられる鋼タイプ持ちだからな」

 

「それにルカリオにはメガシンカがあるからね!」

 

「そうなんや!?いいな〜!リゼちゃんもメガシンカ出来るんか〜!」

 

「いや、今回リゼさんはメガシンカを使わないと思うぞ」

 

「え…?どういうこと…?」

 

 

ルカリオの登場に盛り上がりを見せるフレン達にイブラヒムがそう告げると、その理由をメリッサが尋ねる

 

 

「さっきも言ったが、リゼさんはドーラさんの手持ちにリザードンがいることを予想してエンペルトを残す判断を取った。つまり、エンペルトでリザードンを倒す算段があるってことだ。そして、俺達はそれを知っている」

 

「そっか…!Z技だね…!」

 

 

メリッサの回答にイブラヒムは首を頷かせる

 

 

「ジム戦のルール上、Z技やメガシンカ等の特殊な戦術はいずれか1つまでしか使えない。だからリザードンに対して相性が不利なルカリオにメガシンカを切るより、Z技を残しておいた方が得策ってわけだ」

 

「なるほど…!先のことまでしっかり考えているなんて、流石はリゼ様!」

 

「まあ、グレイシアとエンペルトのおかげでヌメルゴンの体力もかなり削れてるわけやし、メガシンカが無くても大丈夫か!」

 

「ああ。それに、リゼさんのルカリオにはメガシンカ以外にもパワーアップの方法があるからな」

 

「え…?それってどういう…?」

 

 

余裕な心持ちでいる笹木にそう返したイブラヒムの呟きに凛月達が頭に疑問符を浮かべるなか、社が試合再開の合図を告げる

 

 

「それでは、バトル始め!」

 

「ルカリオ!波導を集中させて!」

 

 

先に指示を飛ばしたのはリゼ…だが、ルカリオは瞳を閉じて仁王立ち、全神経を研ぎ澄ませ精神を集中させる

 

 

(何をするつもりかしら…?)

 

「ルオッ!!」

 

 

興味半分、相手の出方を慎重に窺おうという警戒半分でドーラも見守ること十数秒後、カッと目を見開かせたルカリオはその両掌に炎の如く激しく揺らめく蒼いオーラを纏わせる

 

 

「「…っ!?」」

 

「なにアレ…!?」

 

「蒼い炎…!いや、波導か…!?」

 

 

リゼがベルモンドとのジム戦で編み出したルカリオのパワーアップ方法"波導纏い"…それを初めて目にする笹木達は思わず目を見開かせる

 

 

「はい!リゼ様が編み出したルカリオのパワーアップ方法です!」

 

「意識させた箇所に流した波導を纏わせることで、技のパワーや身体能力を向上させるんだ!」

 

「そんなパワーアップ方法があるなんて…!」

 

「すご〜い!」

 

「へぇ…!面白いこと考えるわね…!」

 

 

声を弾ませ答えるフレンとメリッサの解説に一同は感心の声を漏らし、ドーラも興味深そうに呟きを落とす

 

 

「ルカリオ!"はどうだん"!」

 

 

準備が整ったルカリオは通常のそれよりも一回り大きく、込められた波導が荒々しく渦巻く"はどうだん"を合わせた両掌に生成する

 

 

「なにあの"はどうだん"…!?」

 

「あの感じ…!たしかに凄いエネルギーや…!」

 

「なるほど!だから"れいとうビーム"を覚えているエンペルトの代わりにルカリオを出してきたのか!」

 

 

ルカリオが作り出した"はどうだん"を目にした叶達はその威力が相当なものであることを肌で感じ取り、"これならばヌメルゴンに通用するかもしれない"と期待に声を弾ませる

 

 

「ヌメルゴン!"だいもんじ"!」

 

「ヌゥゴォォォッ!」

 

 

その"はどうだん"を迎え撃とうと、ドーラの指示を受けてヌメルゴンは"だいもんじ"を繰り出す

 

 

「ルカリオ!いっけぇぇぇ!」

 

「ルオォォッ!!」

 

 

直後、リゼの掛け声と共にルカリオも荒ぶる"はどうだん"を放ち、バトルフィールドの中央で両者の技が激突する

 

そして、数秒と経たずに"はどうだん"は"だいもんじ"を貫き、掻き消した

 

 

「「「おお〜っ!!」」」

 

「あっさりと"だいもんじ"を打ち破った…!」

 

「流石の威力だな」

 

 

波導纏いによる"はどうだん"の威力にひまわり達は歓声を上げ、笹木は目を見開き、改めて感心するイブラヒムは小さく笑みを浮かべる

 

 

(…っ!たしかに威力は凄ぇが、"はどうだん"は格闘タイプの技…!大したダメージにはならねぇだろ…!)

 

 

だが、葛葉は相性の観点から"波導纏い"による"はどうだん"のダメージは高く見積もっても効果抜群を突けたグレイシアのタイプ一致"フリーズドライ"とそう変わらないだろうと、驚きながらも内心でそう予測する

 

 

「ヌメルゴン!受け止めるのよ!」

 

「ヌゥゥゥゴォォォ…ッ!ヌゴォ…ッ!?」

 

「…っ!?」

 

「「「「「「うおぉぉぉ…っ!!?」」」」」」

 

「なっ…!?」

 

 

迎撃も回避も間に合わないと判断したドーラは攻撃を耐え切るよう指示を飛ばすが、"はどうだん"を受け止めたヌメルゴンは踏ん張ろうとするも耐え切れずに吹き飛ばされてしまう

 

 

「ヌメルゴンを吹き飛ばした…!」

 

「グレイシアの"フリーズドライ"にビクともしなかったのに…!凄い…!」

 

「……」

 

 

グレイシアの攻撃を耐え抜いてみせたヌメルゴンに攻撃が通用したことでフレン達が歓声を上げるなか、イブラヒムだけは神妙な面持ちを浮かべていた

 

 

「イブラヒム?どうかしたの?」

 

「…たしかに、ルカリオが更に波導を纏わせる攻撃は強力だ。だが、それにしてもヌメルゴンに効き過ぎてる」

 

 

尋ねるメリッサにそう返答したイブラヒムはその内心、ルカリオの波導纏いによる"はどうだん"がヌメルゴンに与えるダメージの程は概ね葛葉と同じ考えだった

 

ドーラのヌメルゴンの特殊防御力は弱点となる氷タイプのグレイシアが繰り出した"フリーズドライ"に耐えられるほどの堅さ

 

如何に波導を纏わせることで威力を上げているとしても弱点を突けているわけではない以上、吹き飛ばすほどの有効打にはならないだろうと見立てていた

 

 

(たしか、リゼさんのグレイシアが最後に繰り出したのは"シャドーボール"…。"シャドーボール"…?)

 

 

"はどうだん"がヌメルゴンが吹き飛ばすほどのダメージになったのは"波導纏い"以外の要因があるはずだと、直前のグレイシア戦を思い返したイブラヒムはそこで起こったある事象が目に止まった

 

 

「そうか…!"シャドーボール"…!あの技の追加効果でヌメルゴンの特殊防御力が下がってるのか…!」

 

 

ヌメルゴンの"げきりん"を食らい、回避が叶わないほどのダメージを受けたグレイシアにリゼが最後の足掻きに繰り出させた"シャドーボール"

 

その技が持つ"相手の特殊防御力を下げる"追加効果が幸運にも働いていたことで、波導纏いの"はどうだん"が有効打になるほどのダメージになったのだとイブラヒムは導き出した

 

 

「エンペルトの"れいとうビーム"で思ってたより早くヌメルゴンが疲れ始めたとは感じたけど、そういうことだったのね。なら、早々に決着を着けないとね!ヌメルゴン!"だくりゅう"!」

 

 

薄々感じていたヌメルゴンの様子への違和感に納得がいったドーラは相手の攻撃を受け切り反撃する戦法はもう通用しないと見切り、ヌメルゴンに"だくりゅう"を繰り出させ攻勢に出る

 

 

「ルカリオ!ギリギリまで引き付けてから跳んで!」

 

 

高波となって迫る"だくりゅう"をルカリオはリゼの指示通りに直撃しそうなギリギリまで待ってから力強く地を蹴り跳び上がって回避する

 

 

「"はどうだん"!」

 

 

そして、跳び上がった空中でルカリオは波導纏いの"はどうだん"を生成する

 

 

「ヌメルゴン!フィールドに向けて"だいもんじ"!」

 

 

その迎撃にドーラは先程同様に"だいもんじ"を指示する

 

だが、先程と違う点は技を放つ先だった

 

 

「ヌゥゥゥゴッ!ゴォォォッ!!」

 

 

ヌメルゴンはドーラの指示通りに真下のフィールドに向けて"だいもんじ"繰り出し、更に炎を吐き続ける

 

 

「…っ!?気を付けて!ルカリオ!下から来るよ!」

 

「ルオ…ッ!?」

 

 

リゼがルカリオに叫んだ直後、ヌメルゴンを中心にフィールド上で大の字を描く"だいもんじ"の炎が勢い良く噴き上がる

 

 

「…ッ!ルゥゥオォォォッ!!」

 

 

"だいもんじ"を描く5つの炎線…その1つの真上にいたルカリオはヌメルゴンに繰り出すつもりだった"はどうだん"で噴き上がる炎を抑え止めることを咄嗟に思いつき、すぐさま叩きつけるようにぶつけた

 

結果、ルカリオへ噴き上がり迫る"だいもんじ"は"はどうだん"によって相殺され、弾け消えた

 

 

「あ、危なかっ…」

 

「ヌメルゴン!"げきりん"!」

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

 

だが、ひまわり達が安堵の息を吐くも束の間、ルカリオの真下でヌメルゴンが"げきりん"を発動させ、落下してくるのを待ち構えていた

 

 

「い、いつの間にかヌメルゴンがルカリオの下に…!?」

 

(マズいな…!"はどうだん"で迎撃しようにも、あの距離じゃ落下し切るまでに十分な威力を高めるだけの時間が無い…!)

 

 

フレン達が慌てふためくなか、イブラヒムは"はどうだん"での迎撃は意味を成さないと悟る

 

"だいもんじ"ならばともかく、"のろい"で攻撃力を上げているヌメルゴンの"げきりん"に対抗するには波導纏いの状態であれど相当に力を込めなければならないからだ

 

 

(この状況、偶然作り出されたとは思えない…!おそらく、ルカリオが最初に繰り出したあの"はどうだん"が"だいもんじ"を破り、ヌメルゴンに予想以上のダメージを与えたその直後からドーラさんはこれを狙っていた…!)

 

("だくりゅう"は身動きの取れない空中への回避を誘い、その後の"だいもんじ"はルカリオが仕掛けてくる"はどうだん"を防御に使わせ、尚且つ落下地点へ移動する隙を作るためだったわけか。流石に対応が早ぇ。これでもうルカリオはヌメルゴンとの接近戦を避けられない)

 

 

"だくりゅう"から始まったこれまでの指示は全て接近戦に持ち込ませるための布石だったのだと気付き、叶はドーラのトレーナーとしての格の高さを改めて思い知り、葛葉は何処か安心したように頬を緩める

 

 

「…っ!ルカリオ!"ボーンラッシュ"!」

 

 

"はどうだん"では太刀打ち出来ないとイブラヒムと同じ考えに至ったリゼはドーラの望み通り接近戦に挑む覚悟を決める

 

 

「ルオォォッ!!」

 

「ヌゴォォォッ!!」

 

 

ルカリオは波導を纏わせた"ボーンラッシュ"を振り下ろし、ヌメルゴンは鞭のように撓らせた耳で"げきりん"を振るい、激突させる

 

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

「ルゥゥゥ…!オォ…ッ!?」

 

 

威力はヌメルゴンの"げきりん"がやや勝り、ルカリオは弾かれるも空中で素早く体勢を直し着地する

 

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

「ルカリオ!"かげぶんしん"!」

 

 

"げきりん"の効果によって激しい興奮状態にあるヌメルゴンが攻撃を続けようと暴れ狂いながら突っ込んで来るなか、リゼはパワーで劣るなら数で押そうと"かげぶんしん"を指示し、ルカリオは十数体の分身達を作り出す

 

 

「「「「「ルオォォォッ!!」」」」」

 

「ヌゴォォッ!ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

 

ルカリオは分身達を取り囲むように散らばらせて四方八方から同時に攻撃を仕掛け、ヌメルゴンはそれら全てを薙ぎ払おうとするように豪快に耳を、尻尾を、体を暴れ振るわせる

 

ヌメルゴンの"げきりん"にルカリオの分身達は1体、また1体と少しずつ数を減らしていくが、その打ち合いの最中で攻撃を潜り抜けられた度にルカリオと分身達は"ボーンラッシュ"を叩き込み、ヌメルゴンへダメージを与えていく

 

 

「"のろい"の効果で防御力が上がってるだけあって、なかなか倒れへんな」

 

「だが、それも時間の問題だ。この調子でいけば"かげぶんしん"が全て消される前にヌメルゴンを倒せるだろう」

 

 

"げきりん"で興奮状態にあることもあってか、何度も"ボーンラッシュ"を受けているはずなのに攻撃の勢いが衰えないヌメルゴンの頑丈さに笹木が言及するなか、それでもダメージは着実に溜まっていること、"かげぶんしん"が減っていくスピードや"げきりん"の持続時間等からルカリオの勝利はまず間違いないとイブラヒムが推測を述べる

 

だが、打ち合いが続いてしばらくしたところでルカリオと分身達に異変が起こる

 

 

「ヌゴォォォッ!!」

 

「「「ルオ…ッ!ルオォ…ッ!?」」」

 

「「「「「…っ!?」」」」」

 

 

ヌメルゴンの"げきりん"を受け止め押し返された3体のルカリオの分身達が再び攻撃を仕掛けようと踏み込んだその瞬間、突然全員が揃って足を滑らせ体勢を崩した

 

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

「「「ルオォォォ…ッ!?」」」

 

 

その隙を突かれた分身達はヌメルゴンが振るう"げきりん"の直撃を受けてしまい、消えてしまう

 

 

「な、何が起きたの…!?」

 

「…っ!足下だ…!ルカリオとヌメルゴンの足下をよく見てみろ…!」

 

 

訳が分からず混乱するフレン達は何かに気付いたイブラヒムのその言葉を受け、目を向ける

 

ヌメルゴンを中心としてルカリオと分身達が展開しているフィールド…そのあちこちに粘液のようなものが散乱していた

 

 

「何あれ…!?」

 

「あれはヌメルゴンの特性"ぬめぬめ"で飛び散った粘液だ…!物理攻撃を受けた時にあの粘液を撒き散らすことで相手の動きを鈍らせるんだ…!」

 

(そっか…!あの時、グレイシアが攻撃を繰り出すのが一瞬遅れたのはこれのせいだったんだ…!)

 

 

"ぬめぬめ"…物理攻撃を受けた際に撒き散らした粘液で相手を動き辛くさせ、スピードを奪う特性

 

これによって"こおりのキバ"で攻撃したグレイシアも、"ボーンラッシュ"で攻撃したルカリオの分身達も飛び散った粘液に足を取られ滑らし、その動きを鈍らせたのだ

 

 

「ルゥ…!?ルオォ…!?」

 

 

気付けば、ヌメルゴンに何度も"ボーンラッシュ"を叩き込んでいたルカリオと他の分身達の体の至る所にも"ぬめぬめ"の粘液が付着しており、足を滑らせないよう注意し踏み止まっていた

 

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

「「「ルオ…ッ!?」」」

 

 

その状態をチャンスと言わんばかりに、"げきりん"を続けるヌメルゴンが猛攻を仕掛けてくる

 

ルカリオと分身達はそれぞれ躱し、捌いて凌ごうとするが、先程やられた分身達と同じように粘液に足を取られた分身達が次々に体勢を崩し、その直後に"げきりん"の一撃を食らって1体また1体と消えていく

 

 

「分身がどんどん減っていってる…!」

 

「このままだとマズいんじゃ…!」

 

「ここは一度、ヌメルゴンから距離を取った方が…!」

 

「いや、下手に動き過ぎれば転倒のリスクが高まる…!ここは耐えるしかねぇ…!」

 

「うん…!ヌメルゴンが"げきりん"を発動させてから結構時間も経つし、疲れ果てて混乱状態になるのもそう遠くないはずやからな…!」

 

「ルカリオ〜っ!頑張れ〜っ!」

 

 

どんどん窮地へと追い込まれていくルカリオを一同が固唾を呑んで見守ることしばらく、遂に最後の分身がヌメルゴンの"げきりん"を食らい消えてしまい、本体が残るのみとなってしまう

 

 

「ヌゥゥゥゴォォォォォッ!!!」

 

「ルオ…ッ!」

 

 

ドスドスと足を踏み鳴らし突撃してきたヌメルゴンの振るう"げきりん"をルカリオは"ボーンラッシュ"の棍棒を駆使し、転倒しないよう足下にも細心の注意を払いながら捌いていく

 

 

「ルゥゥ…ッ!ルオォ…ッ!」

 

(ルカリオ…!なんとか持ち堪えて…!)

 

 

必死に耐えるルカリオの姿にリゼは祈るように心の中で応援するなか、程なくしてその時が訪れる

 

 

「ヌゥゥッ!ヌゴォォォッ!!」

 

「ルゥゥ…ッ!ルオ…ッ!?」

 

「「「「…っ!?」」」」

 

「「「「「ああ…っ!?」」」」」

 

 

幾度もの攻防の末、ヌメルゴンの攻撃を受け止めたルカリオは次第に体へ付着していった粘液によって遂に足を滑らして大きく転倒し、その拍子に波導纏いも解けてしまう

 

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

「ルオ…ッ!」

 

 

そこへ振るわれるヌメルゴンの"げきりん"をルカリオは咄嗟に構えた"ボーンラッシュ"の棍棒で受け止める

 

 

「ルオォォォ…ッ!?」

 

 

だが、不安定な体勢での防御は"げきりん"の一撃を受け止め切れず、棍棒は真っ二つに折られ、ルカリオは大きく吹き飛ばされる

 

 

「ルカリオの方が耐え切れなかったか…!」

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

「ヌメルゴンの"げきりん"はまだ続いてる…!もう一度攻撃が来るよ…!」

 

「ルカリオ〜っ!早く立ち上がって〜っ!」

 

「頑張って〜っ!」

 

 

絶体絶命のピンチにフレン達が叫ぶが、ルカリオは足に付着した粘液のせいですぐに立ち上がることが出来ないでいた

 

 

「も、もう駄目や〜っ!」

 

 

ヌメルゴンがもうすぐ目の前まで迫り、直撃は免れないと思わずその瞬間を目にしたくないひまわりが反射的に両手で顔を覆う

 

 

「…まだだよ!ルカリオっ!"ボーンラッシュ"で飛び上がってっ!」

 

「…ルオッ!」

 

 

だがその時、リゼの指示が飛んでルカリオは地面に両掌を突く

 

 

「ヌゥゥゴォォォッ!!」

 

「ルオォォォッ!」

 

 

そこへヌメルゴンが"げきりん"を振り下ろすが、ルカリオは地面に突いた両掌から繰り出す"ボーンラッシュ"の棍棒で自身を押し突き上げさせて体を浮かせると、そのまま棒高跳びの要領で高く飛び上がって直撃を回避する

 

 

「「「ルカリオが飛んだぁ…っ!?」」」

 

「"ボーンラッシュ"を地面に突き立てて繰り出した際に生まれる反発力を利用したのか…!」

 

「それをこんな一瞬で考え付くなんて…!」

 

「やるやん!リゼェ!」

 

「ルカリオ!最大パワーで"はどうだん"!」

 

 

危機を脱したリゼの一手に笹木達は沸き立ち、ヌメルゴンの上を取ったルカリオは繰り出した"はどうだん"へ更にありったけの波導を注ぎ込む

 

 

(いや、まだだ…!"はどうだん"を撃たれる前にヌメルゴンが反撃出来れば…!)

 

「ヌ、ヌゥ〜…ゴォ〜…?」

 

(なっ…!?ここで混乱…!)

 

 

その最中、ヌメルゴンがもう一度"げきりん"を繰り出せれば勝負はまだ分からないと、リゼに対し謎の反発心を湧き上がらせる葛葉だったが、それを見計らったかのように"げきりん"の持続時間が限界を迎えたヌメルゴンは混乱状態に陥ってしまう

 

 

「…ここまでね」

 

「ルゥゥゥオォォォォォッ!!!」

 

「ヌゴォ…ッ!?」

 

 

それを以って勝負を悟ったドーラは瞳を閉じ、ルカリオは出来上がった大玉の"はどうだん"を咆哮に乗せて頭上から叩き付け、その直撃と共に"はどうだん"はドーム状に広がる波導の嵐となってヌメルゴンを呑み込んだ

 

 

「ルオ…!ルオ…!」

 

「ヌ、ヌゥゥ…」

 

 

しばらくして波動の嵐は霧散し、晴れたフィールドには息を上がらせながらも立つルカリオとぐったりと倒れ伏したヌメルゴンの姿があった

 

 

「ヌメルゴン、戦闘不能!ルカリオの勝ち!」

 

「うおおおおおっ!!凄〜〜〜いっ!!」

 

「サイドンとグレイシアがやられて、ルカリオがヌメルゴンの"ぬめぬめ"に翻弄された時はどうなるかとヒヤヒヤしたけど…!」

 

「持ち前の知恵と発想は当然、次のポケモンに託すため最後まで全力を尽くしたことがこの勝利に繋がったな」

 

「流石はリゼ様!」

 

 

ヌメルゴンの戦闘不能が社から告げられ、そのバトルを讃える声がフレン達から上がる

 

 

「頑張ってくれてありがとう、ルカリオ!良いバトルだったよ!」

 

「ルオッ!」

 

「ご苦労だったわね、ヌメルゴン。おかげでかなり巻き返せたわ。ゆっくり休んで」

 

「…っ!」

 

「…どうかした?葛葉。ドーラさんが追い込まれているのが悔しいって顔してるけど」

 

 

リゼとドーラが互いに奮闘した自身のポケモンに労いの言葉を掛けるなか、より一層苛立ちを募らせている様子の葛葉に叶が声を掛ける

 

その言葉で一瞬我に返った葛葉は直後すぐにギロリと鋭い眼付きで叶を睨み付ける

 

 

「…馬鹿言ってんじゃねぇよ、叶。俺が母さんの心配をするなんて間違っても有り得ねぇ…!」

 

「でも、リゼさんを応援してるってわけでもないんでしょ?」

 

「そんな気分じゃねぇからな。それと言っておくが、母さんは追い込まれてなんかいない。お前もあいつらと同じでリゼさんが優勢だと思ってるなら、俺のライバルとして失望するぜ」

 

「分かってるよ。数の上では優勢でも、リゼさんに残ってるポケモン3体は全員少なからずダメージを受けている。勝敗の行方を見極めるには、まだ早い」

 

 

葛葉と叶がそう言葉を交わし合ったところで、ドーラが次のボールを手に取る

 

 

「次はこの子よ!いけ!オンバーン!」

 

「バオーン!」

 

 

ドーラが続く4体目に繰り出したのは"おんぱポケモン":オンバーンだった

 

 

「ドーラさんの4体目はオンバーン…!」

 

「これまでの3体以上にスピードに長けたポケモンだね!」

 

「しかもオンバーンは飛行タイプ。リゼが残す3体には飛行能力が無いから、空中に留まられると攻撃を当てるのは厳しくなるやよ」

 

「だが、防御面はこれまでで1番脆い。大きな一撃が決まれば、そこから一気に勝負をつけられるだろう」

 

「リゼちゃ〜ん!ルカリオ〜!頑張れ〜!」

 

 

オンバーンの登場にイブラヒム達が意見を交わし合い、リゼとルカリオに声援を送るなか、社の合図で試合が再開される

 

 

「それでは、バトル始め!」

 

「ルカリオ!波導を纏って!」

 

「ルゥゥオォォォ…ッ!」

 

 

オンバーンが滞空している間、ルカリオからの有効打は"はどうだん"のみとなる

 

だが、ヌメルゴンやバクガメスと比較して防御力がそう高くないとは言え、格闘タイプの技である"はどうだん"は飛行タイプのオンバーンに効果は今一つ、1発当たった程度では大きなダメージにはならない

 

だからリゼはまず、"はどうだん"の威力をより強力なものにするため波導纏いを指示し、ルカリオは集中力を高め始める

 

 

「オンバーン!"いやなおと"!」

 

「バァオ〜〜〜〜〜ンッ!」

 

「ルオ…ッ!?」

 

 

だが、オンバーンの繰り出す"いやなおと"に当てられたルカリオはその騒音に集中力を乱され、波導纏いを阻止されてしまう

 

 

「…っ!流石にもうそんな隙は与えてもらえないよね…!ルカリオ!"はどうだん"!」

 

「ルゥ〜〜〜…オッ!」

 

 

波導纏いのパワーアップを諦めたリゼは攻撃に切り替え、ルカリオは"いやなおと"に耐えながら"はどうだん"を繰り出す

 

 

「オンバーン!"ばくおんぱ"!」

 

「バァオ〜〜〜〜〜ンッ!!」

 

 

オンバーンの繰り出す"ばくおんぱ"が"はどうだん"と衝突し、小規模の爆発となって相殺される

 

 

「"ドラゴンクロー"!」

 

 

その直後、立ち込める爆煙を突っ切って"ドラゴンクロー"を構えるオンバーンがルカリオ目掛けて猛スピードで急降下する

 

 

「ルカリオ!"かげぶんしん"!」

 

 

ルカリオが"かげぶんしん"で複数の分身達を作り出すと直後に"ドラゴンクロー"を突き出してオンバーンが突っ込んで来るが、数体の分身達を薙ぎ払って通り過ぎ、再び上空へと飛翔する

 

 

「"はどうだん"!」

 

「"アクロバット"!」

 

 

ルカリオは残った分身達と"はどうだん"を繰り出すが、オンバーンは急旋回したと同時に繰り出した"アクロバット"の軽やかで素早い身のこなしで次々と回避、撃墜させる

 

 

「"ばくおんぱ"!」

 

「バァオ〜〜〜〜〜ンッ!!」

 

「「「「「ルオ…ッ!?」」」」」

 

「ルオォ…ッ!?」

 

 

そして、"はどうだん"全てを凌ぎ切ったオンバーンは薙ぐように"ばくおんぱ"を繰り出し、直撃した分身達は消し飛ばされ、ルカリオもダメージを受けてしまう

 

 

「"アクロバット"!」

 

「ルカリオ!"メタルクロー"で迎え撃って!」

 

 

"アクロバット"を繰り出し迫るオンバーンにルカリオは"メタルクロー"を構え接近戦に臨む

 

 

「ルオォッ!」

 

「バッ!バオォッ!」

 

「ルゥゥ…ッ!?」

 

 

タイミングを見計らってルカリオは"メタルクロー"を振るうが、オンバーンは衝突する寸前で目にも止まらぬ速さで身を翻して躱し、直後に"アクロバット"の一撃を叩き込まれてしまう

 

 

「あのオンバーン、かなりのスピードですよ…!」

 

「ああ、想像以上だ…!」

 

「それに"アクロバット"を繰り出した時は目で追い切れない速さだよ…!」

 

「"いやなおと"で防御力を下げたところにあの"アクロバット"…!ルカリオにはかなりのダメージになってるはずやよ…!」

 

「ルカリオの攻撃は躱されるのに、オンバーンの攻撃は避けられない…!飛んでる上にあんなに速いんじゃ不利だよ…!」

 

「…っ!ルカリオ!戻って!」

 

 

脅威的なスピードを有するオンバーンとのバトルは状況が劣勢だとフレン達が表情を険しくさせるなか、リゼもこのままでは苦しいとルカリオを一度ボールへと戻す

 

 

「お願い!エンペルト!」

 

「エンペッ!」

 

 

そして、ルカリオに代わってリゼはエンペルトを繰り出す

 

 

「ここでルカリオからエンペルトに交代か。妥当な判断だな」

 

「水・鋼タイプのエンペルトなら、判明したオンバーンの攻撃全てのダメージを抑えられるからね!」

 

「それに"れいとうビーム"が決まればオンバーンには超効果抜群!一撃で戦闘不能にすることだって…!」

 

「だが、問題はあのオンバーンにどう攻撃を当てるかだ。エンペルトがルカリオよりも多く射程のある技を覚えているとは言え、素早さでは劣ってる」

 

「相性でダメージが抑えられるとは言っても、何度も攻撃を受ければリザードン戦で十分に戦うための体力を残せないもんな」

 

「そう時間は掛けられないってことだね…!」

 

「大丈夫!リゼ様がエンペルトを出した理由は他にもあるはず!…多分!」

 

 

ルカリオよりも比較的有利に戦えるであろうエンペルトに交代したからと言って油断は出来ないと、見守るフレン達の不安は拭えないなか、ドーラからの先攻でバトルが再開される

 

 

「オンバーン!"いやなおと"!」

 

「バァァオ〜〜〜〜〜ンッ!!」

 

「エンペルト!"れいとうビーム"で身を守って!」

 

 

まずはルカリオの時と同じように相手の防御力を下げようと、ドーラの指示でオンバーンが"いやなおと"を繰り出してくるのに対し、エンペルトはリゼの指示を受けて繰り出した"れいとうビーム"で自身を包み隠すように分厚い氷のドームを形成させる

 

 

「なるほどな。氷のバリアで"いやなおと"の効果を軽減させてるのか」

 

 

完全に防ぎ切れるとまではいかないが、隔てた氷を分厚く張ることで振動の伝わりを弱め、音技の効果を大幅に軽減させる方法にイブラヒムは感心の声を呟く

 

 

「エンペルト!"うずしお"!」

 

「オンバーン!躱して!」

 

 

"いやなおと"が止んだところで攻勢に転じるリゼの指示でエンペルトが繰り出す"うずしお"が氷のバリアを突き破って放たれるも、オンバーンはいとも容易く躱してしまう

 

 

「今だよ!エンペルト!」

 

 

だが、躱された"うずしお"がオンバーンとすれ違った直後、リゼの指示と共にその中からエンペルトが飛び出す

 

 

「おお〜っ!?」

 

「エンペルトがオンバーンの上を取った…!」

 

「ヘルエスタシティのコンテストでフレンのバシャーモが"ほのおのうず"を使った大ジャンプの"うずしお"版!その応用だね!」

 

「たしかに、この方法ならオンバーン相手に空中戦を仕掛けられる。だが…」

 

「"れいとうビーム"!」

 

「エンペッ!」

 

 

メリッサ達が歓声を上げる隣でイブラヒムが浮かない表情を見せるなか、背を向けているオンバーンの上からエンペルトは"れいとうビーム"を繰り出す

 

 

「オンバーン!"アクロバット"!」

 

「バオッ!」

 

「エンペ…ッ!?」

 

 

だが、"アクロバット"を繰り出したオンバーンは空中で跳ぶかのように俊敏かつ軽やかな動きで"れいとうビーム"を躱すと、そのままエンペルトに肉薄して尻尾を振るった一撃を叩き込んだ

 

 

「惜っしい〜…っ!」

 

「あと少しだったのに…!」

 

「やっぱり、"アクロバット"を利用した回避スピードには及ばないか…!」

 

(オンバーンの反応速度を以てすればこれくらいは当然だ。"うずしお"を使った空中戦に臨む手も、もう母さんには通じない。こいつは苦戦必至だな)

 

「まだだよ…!エンペルト!」

 

 

"うずしお"を駆使した空中戦が無為に終わってしまい、悔し嘆くひまわり達が表情を曇らせ、葛葉がほくそ笑んだその時、リゼがエンペルトに呼号する

 

 

「エン…ッ!ペェェェェェッ!!」

 

 

落下の最中にエンペルトは再び"れいとうビーム"を繰り出すが、その先は空中にいるオンバーンではなく、落下先のフィールドだった

 

 

「え…?どうしてフィールドに向かって"れいとうビーム"を…?」

 

「…っ!あれは…!?」

 

「氷のコースに…ジャンプ台…!」

 

 

一体何をする気なのかと、凛月達が注目するなか、次第に"れいとうビーム"がぶつけられたフィールド上に氷で出来たすり鉢状の傾斜滑走路とジャンプ台を作り出される

 

 

「エンペルト!そのまま飛び込んで!」

 

「エンペッ!」

 

「まさか、アレを利用してもう一度オンバーンに仕掛けるつもりなんか…!」

 

 

両腕の翼を畳んだ真っ直ぐな体勢を取り落下したエンペルトは氷の滑走路に着氷すると勢いそのままに猛スピードで滑走していく

 

 

「"はがねのつばさ"!」

 

 

そして、滑走路先端のジャンプ台から上空を飛ぶオンバーン目掛けて飛び出したエンペルトは両翼を広げて"はがねのつばさ"を繰り出す

 

 

「速い…っ!オンバーン!」

 

「バ…ッ!バオォォォ…ッ!?」

 

 

ドーラは呼号で回避を伝えるも、落下と氷の滑走路で得た凄まじいスピードで突っ込んで来るエンペルトにオンバーンは自慢のスピードを持ってしても間に合わず、その直撃を受けて墜落していく

 

 

「オンバーンに攻撃が当たった…!」

 

「落下で付けた速度を氷の滑走路で更に加速させたことで、オンバーンのスピードを超えたんや…!」

 

「やるわね…!頑張りなさい!オンバーン!立て直すのよ!」

 

 

遂にオンバーンに攻撃が決まって笹木達が沸き立つなか、墜落の最中に叫ばれたドーラの声でオンバーンは気力を取り戻すと、地上に激突する寸前で体勢を立て直す

 

 

「エンペルト!回転しながら"れいとうビーム"!」

 

 

そこへ畳み掛けるように、"はがねのつばさ"を決め終えて落下を始めていたエンペルトがリゼの指示を受けて体を回転させながら下に向かって"れいとうビーム"を繰り出し、広く大きな渦を巻きながらオンバーンを呑み込もうと迫る

 

 

「オンバーン!範囲外に逃げるのよ!」

 

 

渦巻く"れいとうビーム"に呑まれれば逃げ場を失い大ダメージは免れないと、ドーラは捉えられる前に範囲外への脱出を指示し、即座に急降下したオンバーンは地面スレスレを飛び、フィールドの端へと真っ直ぐに向かう

 

 

「バァ…ッ!バオォォォ…ッ!?」

 

「オンバーン…!?」

 

 

だが、苦しい表情を浮かべ飛ぶオンバーンは"れいとうビーム"が届く前にその範囲外へ脱出することがあと少しのところで叶わず、直撃した尻尾が凍り付き、大きくはないが効果抜群のダメージに体勢が崩れてしまい、飛行を保てず頭から地面に突っ込んでしまう

 

 

「"れいとうビーム"もギリギリ当たった!」

 

「でも、オンバーンのスピード…さっきまでよりも少し落ちてたような…?」

 

「おそらく、直前に受けた"はがねのつばさ"が原因だろう。あのオンバーンが反応し切れない程の猛スピードで直撃したんだ。相当大きなダメージになってるはずだ」

 

「なるほど、それで…!」

 

「とにかく!これは大きなチャンスやよ!」

 

「リゼ様〜っ!エンペルト〜っ!いっけぇぇぇっ!!」

 

「決めるよ、エンペルト!"ドリルくちばし"!」

 

 

フレン達の声援を背に、ここで勝負を決めようとリゼは指示を飛ばし、エンペルトは"ドリルくちばし"を繰り出してオンバーン目掛けて突っ込んでいく

 

 

「オンバーン!意地を見せなさい!"ドラゴンクロー"!」

 

 

ドーラからの激励に気力を振り絞らせ立ち上がったオンバーンは両爪から繰り出した"ドラゴンクロー"でエンペルトの"ドリルくちばし"との真っ向勝負に臨む

 

 

「エンペェェェェェッ!!!」

 

「バァァオォォォォォッ!!!」

 

 

激突した両者は一歩も譲らぬ互角の力で鬩ぎ合い続け、最後にはその凄まじいエネルギーから大爆発が引き起こされる

 

 

「「……」」

 

「勝負は…!」

 

「どうなったんだろ…!」

 

 

リゼとドーラが堂々と佇み、ひまわり達が固唾を呑んで見守るなか、爆発の煙が次第に晴れていく

 

 

「バ、バオォ…」

 

「エンペッ!」

 

 

視界の晴れたバトルフィールドには両腕を挙げてガッツポーズを取るエンペルトと倒れたオンバーンの姿があった

 

 

「オンバーン、戦闘不能!エンペルトの勝ち!」

 

「よくやったね!エンペルト!」

 

「エンペ〜!」

 

「おお〜っ!オンバーンを倒した〜!」

 

「"れいとうビーム"で作った造形物を利用しての攻撃…!凄かったです!」

 

「これでドーラさんのポケモンは残り1体!3体も残ってるならこの勝負…!」

 

「安心するのはまだ早い」

 

 

リゼとエンペルトが勝利に一先ず安堵し合うなか、ドーラに対してリゼが数の上で大きく有利な状況となっていることに沸き立つフレン達をイブラヒムの一声が黙らせる

 

 

「エンペルト、ルカリオ、ソウブレイズの3体は全員これまでのバトルで少なからず体力を消耗している。ドーラさんのリザードンは相当な火力を有してる。万全でない以上、一撃が決定打になる可能性もある」

 

「それにリザードンがメガシンカして変わる特性"ひでり"もリゼにとっては厄介になるな」

 

「どういうこと…?」

 

「"ひでり"で引き起こされる晴れの天候状態は炎タイプの技の威力を上げるだけじゃなくて、水タイプの技の威力を弱める効果があるんよ」

 

「水タイプの威力を弱める…。あっ…!」

 

 

イブラヒムに続いて、最後のバトルを前にリゼの不利な点を挙げる笹木の言葉に凛月達はハッと声を上げる

 

ドーラが最後に繰り出してくるであろうリザードンとバトルする上で、リゼはエンペルトが使える水のZ技の一撃に重点を置いている

 

だが、ドーラのリザードンは前の葛葉とのバトルでメガリザードンYへのメガシンカを見せていた

 

その際に変わる特性"ひでり"は晴れ状態を発生させ、炎タイプの技の威力を上げると同時に水タイプの技の威力を下げる効果を与える

 

つまり、その状況下での水のZ技は本来の威力を発揮出来ず、大きなダメージを与えれないのだ

 

 

(とは言え、晴れ状態はずっと続くわけじゃない。ドーラさんが開幕からメガシンカしてくれるなら、晴れ状態が終わるまでエンペルト以外の2体で時間を稼げば水のZ技を仕掛ける上で何の問題も無くなる。ただ…)

 

(最初からメガシンカしてこない場合、メガシンカするまで耐える必要がある。そんで、母さんは多分そうする。晴れ状態でのパワーアップは重要だからな。ここぞって場面にならないと使って来ねぇはずだ)

 

 

リザードンのメガシンカを警戒して立ち回らなければならない以上、まだまだ予断は許されないと観戦する側の緊張感も更に高まるなか、ドーラは倒れたオンバーンをボールへと戻す

 

 

「お疲れ様、オンバーン。最後までよく頑張ってくれたわ。本当に大した腕ね、リゼさん。今期の挑戦者で最後のポケモンを目前にこれほどの差を付けて私を追い詰めたのはアナタで2人目かしら」

 

「2人目…。あの、もしよかったらもう1人が誰か教えてもらってもいいですか?」

 

「ええ。1人目はこの前見事私に勝ってみせた卯月コウって名前のトレーナーだったわ」

 

「コウさん…!そっか、コウさんはもうバッジを全て揃えたんだ…!」

 

 

ドーラにその強さを認められ、先にポケモンリーグ挑戦の切符を手にしているコウにリゼは闘争心を燃え滾らせる

 

 

「その様子だと、お友達かライバルかしら?だけど、このまますんなり勝てるとは思わないでちょうだい!最後までどうなるか分からないのが、ポケモンバトルなんだから!」

 

「はい!最後まで全力で挑みます!」

 

「エンペッ!」

 

 

余裕も油断も一切無い、真剣な眼差しで臨む姿勢を見せるリゼとエンペルトにドーラは満足気な笑みを浮かべると、右手に手にしたボールを突き出す

 

 

「それじゃあ、これが私の最後のポケモンよ!心して掛かってきなさい!いけ!」

 

 

リゼ達への激励の言葉と共にドーラは最後のポケモンを繰り出す

 

 

「ガァァァブッ!」

 

「…っ!?」

 

「「「「「えぇぇぇぇぇ…っ!!?」」」」」

 

「ガブリアスだと…!?」

 

「リザードンじゃなくて…!?」

 

 

だが、誰も予想だにしていなかったポケモンの登場にリゼ達の表情が驚愕と動揺に染まる

 

ドーラが繰り出した5体目のポケモンは最大のパートナーであるリザードンではなく、"マッハポケモン":ガブリアスだった

 





リゼ・ヘルエスタ
手持ち:エンペルト、グレイシア、バタフリー
   サイドン、ルカリオ、ソウブレイズ

ドーラ
手持ち:リザードン、ギャラドス、バクガメス
   ヌメルゴン、オンバーン、ガブリアス
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