にじさんじ×ポケットモンスター   作:Mr.ソロ

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番外編2「ChroNoiR」

 

これは10年程前のこと

 

後にシーズシティでクロノワール(ChroNoiR)の通り名で有名となる2人組のトレーナー…葛葉と叶の出逢いの物語である

 

 

 

 

 

「ヒトカゲ!トドメの"ひのこ"!」

 

「カゲェッ!」

 

「コラァ…ッ!?」

 

「ああっ…!コラッタ…!」

 

 

シーズシティのとある路地裏…ポケモンバトルに明け暮れる子供達の密かなバトルフィールドとなっているその場所で、今日もまた1人の少年がバトルを挑んで来た同年代の相手を打ち負かしていた

 

 

「ちくしょ〜…!また負けた…!」

 

「ふん!自分より弱い奴に勝って大はしゃぎするような雑魚のお前等じゃ、何度バトルしても俺には勝てねぇよ!」

 

 

悔しがる相手に、金色の皮膚を持つ色違いのヒトカゲをパートナーとする少年…葛葉はそう言い放った

 

 

「な、なんだと〜…!」

 

「お前が強いのだって、親がジムリーダーなおかげだろ…!」

 

「そうだそうだ〜!運良く親と才能に恵まれただけの癖に〜!」

 

 

負け惜しみを言う相手とその取り巻き達の言葉に葛葉とヒトカゲは眉を吊り上げる

 

 

「おい、今何て言ったよ…!俺達の強さが"親がジムリーダーだから"だとぉっ!?」

 

「カゲェッ!」

 

「「「ひ、ひぃぃぃっ…!?」」」

 

 

吠える葛葉とヒトカゲに睨まれた子供達はすっかり怖気付き、悲鳴と共に一目散に路地裏から逃げ去っていった

 

 

「ハッ、口先だけの腰抜け共め!お前等こそ調子に乗ってんじゃねぇっての!」

 

「カゲカゲッ!」

 

「…今日はもうこれ以上バトル出来そうな相手もいなそうだな。帰るぞ、ヒトカゲ」

 

 

今日も今日とて、この街で自分達に挑んでくる同年代の子供達やバトル好きのトレーナー達を一頻り返り討ちにし終えた葛葉はヒトカゲと共に我が家であるシーズジムへ帰ろうと、最後に相手した子供達が逃げていった方向と反対の出入り口に向かって歩き出す

 

 

「いた…!色違いのヒトカゲを連れた男の子…!」

 

 

その時、背後から声を掛けられ、葛葉とヒトカゲは振り返った

 

そこにいたのは自身と同い年くらい、厳しい勝負の世界を知らなそうな純粋無垢な目をした少年だった

 

 

「…なんだ、お前?見ない顔だな」

 

「はじめまして、僕は叶。最近この街に引っ越して来たんだ。よろしく」

 

 

叶と名乗った少年は好意的な態度で葛葉に自己紹介する

 

 

「ふーん…。で、俺に何か用?」

 

「うん。君、ここらの子供達の中で1番強いんでしょ?たしか、お母さんがジムリーダーのドーラさんなんだよね?」

 

「あぁ?」

 

 

母親がジムリーダーであることを話題に出された途端、葛葉の表情が険悪に染まる

 

 

「ハッ…!なんだ、お前もあいつ等と同じってことかよ…!いいぜ、二度と俺に挑もうなんて思うことが出来ないくらいボコボコにしてやるよ!」

 

「それってつまり、ポケモンバトルをしてくれるってことかな?」

 

「そう言ってんだろ!何惚けてんだよ!」

 

「惚ける…?よく分からないけど、バトルしてくれるなら喜んで受けて立つよ!」

 

 

話がやや噛み合っていないが、バトルをすることが決まった葛葉と叶は笑みを浮かべ合い向かい合った

 

 

「俺のポケモンは当然こいつだ!いけ!ヒトカゲ!」

 

「カゲェッ!」

 

「よし、頼んだよ!ニャルマー!」

 

 

自慢の相棒であるヒトカゲで勝負に臨む葛葉に対し、叶は投げたモンスターボールからニャルマーを繰り出す

 

 

「ヒトカゲ!"ひのこ"!」

 

 

先手で指示を出したのは葛葉…大きく息を吸い込むヒトカゲの開いた口の中に大粒の火の粉が生成される

 

 

「ニャルマー!"ねこだまし"!」

 

 

だが、ヒトカゲが"ひのこ"を繰り出す直前にニャルマーは地を蹴って素早く肉薄し、その顔先で勢い良く手を叩き合わせる

 

 

「カゲェ…ッ!?」

 

「なっ…!?」

 

 

場に出て最初に素早く攻撃し、相手を怯ませる技"ねこだまし"…その衝撃でヒトカゲは軽く吹き飛ばされ、繰り出す寸前だった"ひのこ"は消えて不発に終わってしまう

 

 

「続けて"ひっかく"攻撃!」

 

「ニャルゥッ!」

 

「カゲェ…ッ!?」

 

 

立て続けに叶の指示が飛び、ニャルマーの"ひっかく"がヒトカゲに炸裂する

 

 

「にゃろ…!負けんな!ヒトカゲ!こっちも"ひっかく"だ!」

 

 

開幕から叶とニャルマーの猛攻に翻弄されるも葛葉は負けじと指示を飛ばし、奮い立たされたヒトカゲは"ひっかく"のダメージに耐えると反撃の"ひっかく"をニャルマーに炸裂させる

 

 

「ニャルゥゥ…ッ!?」

 

「ニャルマー…!大丈夫か…!?」

 

「ニャルゥ…!」

 

「この連続攻撃を受けて反撃してくるなんて…!なかなかやるね!」

 

 

ニャルマーの容態を確認した叶は自分達が自信を持つ"ねこだまし"と"ひっかく"の連続攻撃に耐え反撃してきた葛葉とヒトカゲに驚嘆し、楽しそうな笑みを浮かべる

 

 

「先に攻撃を決めれたからって、いい気になるなよ!ヒトカゲ!"えんまく"だ!」

 

 

余裕な態度を姿勢を見せる叶に葛葉はそう吠えるとヒトカゲに"えんまく"を繰り出させ、ニャルマーを黒煙の中に呑み込む

 

 

「ニャルマー!注意して!」

 

「ニャルッ!」

 

 

叶にそう呼び掛けられたニャルマーは煙幕に紛れて仕掛けてくるであろうヒトカゲの動きに警戒を高める

 

 

「甘ぇよ!ヒトカゲ!更に"えんまく"だ!」

 

 

だが、葛葉は攻撃に打っては出ず、再びヒトカゲに"えんまく"を繰り出させ、黒煙を更に濃くさせる

 

 

「ニャ…ッ!ニャルゥ…ッ!?」

 

「ニャルマー…!?」

 

 

その時、ニャルマーが苦しそうに咳き込み出し、叶は心配そうな声を上げる

 

浴び続けた"えんまく"によって目が染み、喉をやられたのだ

 

 

「効いてる効いてる!視覚を潰されりゃ、どんなポケモンだろうと簡単には攻撃を当てられねぇし、技も避けられねぇっ!ヒトカゲ!"ひっかく"攻撃!」

 

 

ニャルマーの視覚を奪い、動きを鈍らせることに成功した葛葉は"ひっかく"での攻撃を指示し、"えんまく"の中にヒトカゲを突っ込ませる

 

 

「ニャルマー!"なきごえ"だ!」

 

「…ッ!ニャァァルゥゥゥゥゥッ!!」

 

 

だが、叶はこれを黙って受け入れはしなかった

 

指示を飛ばされたニャルマーも"タダではやられない!"と"えんまく"の苦しみに辛抱して力を込め、けたたましい"なきごえ"を繰り出す

 

 

「カ…ゲェェ…ッ!?」

 

 

甲高い"なきごえ"を至近距離で食らったヒトカゲはその煩さに顔を酷く歪ませ、ニャルマーに"ひっかく"を直撃させるも力が緩んでしまい、軽いダメージに終わってしまう

 

 

「ニャルマー!今攻撃された方向にヒトカゲはいるよ!"さいみんじゅつ"!」

 

 

その時、叶から威勢のある指示が飛ばされ、"えんまく"の影響で視界がボヤけるニャルマーはその言葉を信じ、攻撃が来た方向へと"さいみんじゅつ"を繰り出す

 

 

「カ…ゲ…」

 

「しまった…!?ヒトカゲ…!」

 

 

ニャルマーが放つ怪しい色合いをした円型のオーラに当てられたヒトカゲは途端にウトウトと急激な眠気に襲われ、パタリとその場に倒れ眠ってしまう

 

 

「勝負を決めるよ!ニャルマー!連続で"ひっかく"攻撃!」

 

 

眠り状態となったポケモンはしばらく目を覚さない

 

その大きな隙で一気に勝負を決めようと、叶の指示でヒトカゲに飛び掛かったニャルマーは連続で"ひっかく"を繰り出す

 

 

「ヒトカゲ…!起きろ…!起きてくれ…!」

 

 

ニャルマーの連続攻撃が炸裂するなか、葛葉が必死に叫んでも、深い眠りに落ちたヒトカゲが目を覚ます様子はなかった

 

 

「ニャルマー!トドメの"ひっかく"だ!」

 

「ニャァァァルッ!!」

 

 

そして、ヒトカゲが目を覚ますことのないまま、ニャルマーが渾身の力を込めた最後の"ひっかく"を繰り出す

 

 

「カゲェェェ…ッ!?」

 

「ヒトカゲ…!?」

 

 

その直撃を受けてヒトカゲはようやく意識を取り戻すも、痛烈な叫びを上げながら再び地面へと転がり倒れた

 

 

「カゲェ…」

 

「…ヒトカゲは戦闘不能。僕達の勝ちみたいだね。お疲れ様、ニャルマー」

 

「ニャルゥ〜!」

 

 

目をグルグルと回し、弱々しい鳴き声を上げるヒトカゲを見て勝負が着いたと判断した叶は奮闘したニャルマーの頭を撫でて勝利の喜びを分かち合う

 

 

「負けた…?俺達が…?」

 

 

一方、敗北を喫した葛葉はその現実を受け止め切れていないのか愕然とした表情を浮かべ、倒れているヒトカゲの前で崩れ落ち、掌と膝をアスファルトに突いた

 

 

「ねぇ!君とヒトカゲ、噂通りの強さだね!同世代で僕のニャルマーとここまでバトル出来たのは君達が初めてだよ!もしよかったらまたバトルしない?」

 

「またバトルしようだぁ…?」

 

 

ニャルマーを一頻り褒め終え、駆け寄って来た叶がそう声を掛けると、顔を俯かせる葛葉は体をわなわなと震わせながらゆっくりと立ち上がる

 

 

「当たり前だっ!次やる時はボコボコにしてやるからなっ!勝ち逃げすんじゃねぇぞっ!」

 

 

葛葉は今にも溢れそうな涙を両の目端に溜めながら悔しさと怒りが入り混じった顔を上げると叶にそう言い放ち、ヒトカゲをボールへと戻して路地裏から走り去って行った

 

 

「…次にバトルする時が楽しみだね、ニャルマー」

 

「ニャ〜ル」

 

 

葛葉が去って行った路地裏の出入り口を見つめながら叶はそう呟き、ニャルマーは自分も同じ気持ちだと言いたげな笑みを浮かべ鳴き返した

 

 

 

 

「よ〜し…!ドーラ〜!ひまわり〜!葛葉〜!晩御飯出来たぞ〜!」

 

 

葛葉の家であり、ニジサンジ地方で最も強いジムリーダーがポケモンリーグ挑戦を目指す数多のトレーナー達を待ち受ける場所でもあるシーズジム

 

陽が沈んで辺りが真っ暗になった頃、そのダイニングルームで葛葉の父親である社が夕食の準備を整い終えたことを大声で家族に伝える

 

 

「わ〜い!ご飯だご飯だ〜!」

 

「ハボッ!ハボ〜ッ!」

 

 

真っ先にやって来たのは長女のひまわり…パートナーのハスボーと一緒に元気良く駆け込み、夕食が並べられたテーブルに着く

 

 

「ごめんね、築。晩御飯の支度、全部任せちゃって…」

 

「気にするなよ。今日のジム戦で頑張ったポケモン達のケアは優先すべき責務だからな」

 

 

続けてやって来たのは葛葉達の母親であり、シーズジムのジムリーダーことドーラ

 

家事を任せてしまったことに申し訳ないと感じるドーラに社はジムリーダーとしては勿論、ポケモントレーナーとして奮闘したポケモン達のケアと体調の管理を行うことは当然だと優しい言葉を掛けた

 

 

「ねぇねぇ!もう食べていい!?」

 

「まあ待てって、ひまわり。まだ葛葉が来てないだろ?」

 

「あ〜…それなら気にしなくていいわよ。あの子、しばらく動かないだろうから」

 

「動かない…?部屋で寝てるのか?」

 

 

来る気配が無い葛葉の事情を知っているらしいドーラに社がそう尋ねると、彼女は"ううん"と首を横に振る

 

 

「ジムの試合部屋でヒトカゲと籠もってる。珍しく真剣な様子だったわ」

 

「へぇ…。何かあったのか?」

 

「さあ?でもまあ、きっと良い事だと思うわ」

 

 

ドーラは小さな笑みを浮かべながらそう答え、バトルフィールドが設けられている大部屋がある方へチラリと視線を向けた

 

 

 

 

「ヒトカゲ!"ひっかく"攻撃!」

 

「カゲェッ!」

 

 

シーズジム内にあるバトルフィールドが設けられた大部屋…そこで葛葉は大岩をサンドバッグ代わりにヒトカゲとの特訓を行っていた

 

 

(次こそは絶対に勝ってみせる…!でも、あのニャルマーの"ねこだまし"と"さいみんじゅつ"は厄介だ…!ひたすら特訓するだけじゃ勝てねぇ…!何か対策を練らねぇと…!)

 

 

ヒトカゲと共にバトルに明け暮れるようになってから初めて自分達をこれほどまでに叩きのめしてくれた叶とニャルマーの打倒に燃える葛葉は"どうすれば勝てるか"と、特訓と並行して真剣に考えを巡らせるのであった

 

 

 

 

「ニャルマー!"ひっかく"攻撃!」

 

「ニャルゥッ!」

 

 

あれから数日…葛葉と初めて出逢った路地裏で再戦の時を待っている叶はしばらく姿を見せない彼に代わって、この場に集まるトレーナー達を相手にバトルの日々を過ごしていた

 

 

「ミネェェ…ッ!?」

 

「うわぁぁぁ…っ!?ミネズミィ…っ!」

 

 

ニャルマーの"ひっかく"が決め手となり、吹き飛ばされ戦闘不能となったミネズミにトレーナーである子供が慌てて駆け寄る

 

 

「つ、強ぇ…!」

 

「僕が強いんじゃなくて、君達が弱いんだよ。本気で強くなる気がないなら、もうここには来ない方がいいよ。君達じゃ僕の相手にならないからさ」

 

「く、くっそぉぉぉぉぉ…っ!」

 

「覚えてろよぉ〜…っ!」

 

「はぁ…。同年代で歯応えのある相手は葛葉くらいだね」

 

「ニャル」

 

 

相手となった子供達が捨て台詞と共に逃げるように走り去っていくなか、少しガッカリした様子で溜息を吐く叶にニャルマーは同意を示すように鳴き返す

 

シーズシティは最近スタジアムが建設されたスメシシティやバトルを専門とするトレーナーズスクールがあるグンカンシティ、街中でも思い切ってバトルが出来る場所がある他に比べてバトルに燃える街の子が少なく、自分達と張り合える相手がいないことにバトルが好きな叶は物足りなさを感じていた

 

 

「今日も大分待ったし、この感じだとまだ来ないかな…。他に相手になりそうな人でも探しに行こうか、ニャルマー」

 

 

葛葉と闘えないなら、張り合えそうな街の大人か旅のトレーナーを相手にバトルの欲求を満たそうと叶は路地裏から立ち去ろうと踵を返す

 

 

「ニャル…!」

 

「ニャルマー…?どうしたの?」

 

 

その時、何かを警戒するように軽く身構えるニャルマーに気付いた叶は路地裏を振り返る

 

 

「よお、待たせたな!」

 

「カゲッ!」

 

 

その先には、その再戦を待ちに待った相手…葛葉と色違いのヒトカゲの姿があった

 

 

「…ようやくだね。なかなか来ないから、退屈凌ぎに何処か行こうと思ったところだよ」

 

「そいつは悪かったな。今度は俺達がお前等を完膚なきまでに叩きのめしてやろうと、念入りに特訓を重ねてきたもんだからよ」

 

「それは楽しみだね…!じゃあ、早速…!」

 

「ああ!バトルしようぜ!」

 

「カゲェッ!」

 

「ニャ〜ルッ!」

 

 

会話も程々に、葛葉とヒトカゲ、叶とニャルマーは相手と向かい合い、待ちに待った再戦を始める

 

 

「……」

 

「…?来ないの?」

 

 

だが、威勢良く始まったはずのバトルは互いに仕掛けようとはせず、前回のことやパッと見た性格から葛葉が真っ先に仕掛けてくると予想していた叶は不思議そうに尋ねる

 

 

「な〜に、強者の余裕ってやつだ!先攻はお前に譲ってやるよ!」

 

「ふ〜ん、言うねぇ!でも、本当のところはニャルマーの"ねこだまし"で先に仕掛けても手も足も出ないからじゃないの?」

 

「さ〜て、そいつはどうだろうな?」

 

 

やけに自信満々な笑みを浮かべて答える葛葉の言葉がハッタリではないと感じると共に、"ねこだまし"に対する秘策があるのだろうと叶は理解する

 

 

「…じゃあ、君の思惑に乗ってあげるよ!ニャルマー!"ねこだまし"!」

 

 

葛葉に仕掛ける気が無いなら、自分がバトルの火蓋を切って落とすしかないと叶は望み通りに"ねこだまし"をニャルマーに繰り出させる

 

 

「来るぞ!ヒトカゲ!」

 

「カゲェッ!」

 

 

対するヒトカゲは両眼を瞑り、顔を守るため両手を盾のように構える防御の姿勢を取る

 

 

「ニャルッ!」

 

「カゲ…ッ!」

 

 

直後にニャルマーの"ねこだまし"が炸裂…両手を叩いた際の衝撃に襲われるヒトカゲだったが、前回と違って吹き飛ばされず、少し仰け反る程度に止まった

 

 

「ニャルマー!"ひっかく"攻撃!」

 

「ヒトカゲ!"なきごえ"だ!」

 

「カゲェェェ〜〜ッ!」

 

「ニャルゥ…ッ!?」

 

 

そして、"ねこだまし"から繋いで"ひっかく"の連続攻撃を繰り出すニャルマーだったが、"ねこだまし"に怯むことなく動いたヒトカゲが鳴き放つ"なきごえ"に耳を劈かれ、直撃させた"ひっかく"は力が緩んで威力を落としてしまう

 

 

「よし!いいぞ、ヒトカゲ!"ひのこ"だ!」

 

 

ニャルマーの"ひっかく"を軽いダメージに抑えられたことですぐさま反撃に移れたヒトカゲは口の中に溢れんばかり溜めた"ひのこ"を繰り出す

 

 

「ニャルゥゥ…ッ!?」

 

「ニャルマー…!大丈夫…!?」

 

「ニャルゥ…!」

 

「なるほど…!防御に専念することで、"ねこだまし"で怯まないようにしたわけだね…!」

 

「そういうこった!"ねこだまし"はたしかに強力だが、バトルが始まった直後でしか不意を突けない技!来ると分かってりゃ、なんてことはねぇ!」

 

 

"ねこだまし"は初撃及び初見殺しとしての性能こそ高いが、使った後は警戒されるため場に出た直後でしか最大限に効果を発揮しない

 

つまり、それが初撃で来ると分かって警戒さえ出来ていれば怯むことなく反撃が出来ると葛葉は考え、その特訓をヒトカゲに行ってきたのだ

 

 

「やっぱり、君達を待ってて正解だったよ…!」

 

 

自分に勝つため本気で特訓を重ね強くなってきてくれたのだと、叶は嬉しそうな笑みを浮かべる

 

 

「ハッ!いつまでもその余裕な態度でいられると思うなよ!ヒトカゲ!"ひのこ"!」

 

 

対する葛葉はまだ余裕な様子を見せる叶を前に前回と違って苛立ちを感じてはいなかった

 

特訓の成果が通用したことで、自分達は以前に増して強くなったという実感を明確に得たことが自信を高め、心に余裕を生んでいた

 

そして、その勢いのまま葛葉は指示を飛ばし、ヒトカゲが"ひのこ"を繰り出す

 

 

「ニャルマー!"スピードスター"!」

 

 

放たれた"ひのこ"をニャルマーは振るった尻尾から繰り出した星型の光弾…"スピードスター"をぶつけ相殺させる

 

 

「…っ!?前のバトルでは使ってなかった技…!まさか、この数日の間に覚えたのか…!」

 

「君達が僕達に勝つため特訓してきたように、僕達もまた君達に勝つためにレベルアップしてきたんだよ!ニャルマー!もう一度"スピードスター"!」

 

 

自身もまた勝ちたい気持ちを強く抱いていたのだと、叶は葛葉に伝えると共に反撃に転じ、ニャルマーは再び"スピードスター"を繰り出す

 

 

「なるほどな…!でもよ、新しい技を覚えたのは何もお前等だけじゃないんだぜ!ヒトカゲ!"メタルクロー"!」

 

 

葛葉は叶にそう言い返すと、ヒトカゲは自身の小さな爪を鋼タイプのエネルギーで鋼質化させる技"メタルクロー"を繰り出し、"スピードスター"の弾幕に突っ込むとそれらを次々と粉砕していく

 

 

「君達も…!いいね、そうこなくっちゃ!ニャルマー!"ひっかく"で迎え撃て!」

 

「ニャルッ!」

 

 

新しい技まで習得して勝ちに来る葛葉とヒトカゲの底知れぬ熱量に叶は気持ちを昂らせ、ニャルマーは"スピードスター"の弾幕を突破してきたヒトカゲに勢い良く飛び掛かり、"メタルクロー"と"ひっかく"の打ち合いを始める

 

 

「ニャルッ!ニャルゥッ!」

 

「カゲッ!カゲェッ!」

 

 

スピードで勝るニャルマーは素早く動き回りながら絶え間なく"ひっかく"を繰り出し、ヒトカゲは防御を重視して受け身に回り、その猛攻を"メタルクロー"で弾きながらチャンスがある度にカウンターを繰り出す

 

その激しい打ち合いが続くことしばらく、互角に鬩ぎ合っていた両者の均衡が崩れ始める

 

 

「ニャル…ッ!ニャルゥ…ッ!」

 

 

先に受けた"なきごえ"の影響で攻撃力が下がっていたニャルマーは"メタルクロー"を駆使するヒトカゲの防御をなかなか破ることが出来ず、長く動き回っていたことでスタミナを大きく消耗させ動きを鈍らせた

 

 

「カゲェッ!!」

 

 

そして、打ち合いが始まってしばらくした時よりも明らかに大きくなった隙が生まれた瞬間に、ヒトカゲは渾身の"メタルクロー"を繰り出し炸裂させた

 

 

「ニャルゥゥ…ッ!?」

 

「打ち合いじゃこっちが不利か…!ニャルマー!"スピードスター"!」

 

 

真っ向からの接近戦では勝ち目が薄いと判断した叶は距離を保って攻撃が出来る"スピードスター"をニャルマーに繰り出させる

 

 

「ヒトカゲ!"ひのこ"!」

 

 

その"スピードスター"に対してヒトカゲは繰り出した"ひのこ"をぶつけ、それによって引き起こされた爆発の煙が両者の視界を遮る

 

 

「ニャルマー!"スピードスター"を続けるんだ!」

 

 

叶は爆煙に遮られてヒトカゲの姿を捉えられなくとも、必中効果のある"スピードスター"ならば問題なく命中することから、ニャルマーに継続して"スピードスター"を繰り出させる

 

何度も振るわれるニャルマーの尻尾から繰り出される無数の"スピードスター"はヒトカゲとを隔てる爆煙の中へと吸い込まれ、更に爆発を起こして爆煙をより立ち込めさせた

 

 

(爆発が止まない…。ニャルマーの"スピードスター"をヒトカゲが"ひのこ"をぶつけて相殺してるから…?そうなると持久戦だね…)

 

 

と、叶が思考を巡らしていた直後だった

 

 

「カゲェッ!」

 

「…っ!?」

「…ッ!?」

 

 

突如、爆煙の中からヒトカゲが飛び出して来たのだ

 

 

(技の衝突で起きた爆発の煙を目眩しに、"ひのこ"で"スピードスター"を撃ち落としながら距離を詰めて来たのか…!?)

 

 

葛葉達が何の策も無く"スピードスター"との撃ち合いを続けていたわけではなかったのだと知って叶はニャルマーと共に目を見開く

 

しかし、その直後に叶はニヤリと笑みを浮かべた

 

 

「でも、これはこれで好都合だよ!ニャルマー!"さいみんじゅつ"!」

 

「ニャ〜ルッ!」

 

 

突っ込んで来るヒトカゲに対し、ニャルマーは前回のバトルで勝負の決め手となった"さいみんじゅつ"を繰り出す

 

相手との距離があり、警戒されている時は躱されてしまうことも多々あるが、残り数mも無い距離であれば反射神経とスピードが余程優れていない限り、まず外さないと叶は勝利を確信する

 

 

「…っ!?」

 

 

だが、直後に叶の表情から笑みが消え、代わりに驚愕が露わとなった

 

何故なら、葛葉とヒトカゲもまたニヤリと勝利を確信したような笑みを浮かべていたからだった

 

 

「そう来ると思ったぜ!ヒトカゲ!"えんまく"だ!」

 

「カゲェッ!」

 

 

次の瞬間、葛葉の指示と共にヒトカゲは"えんまく"を繰り出し、飛ばされた"さいみんじゅつ"のオーラを呑み込み掻き消し、そのままニャルマーをも呑み込んだ

 

 

「ニャル…ッ!?」

 

「"えんまく"で"さいみんじゅつ"を…!?やられた…!」

 

「こういう状況を作り出せば、必ず使ってくると分かってたぜ!決めるぞ!ヒトカゲ!最大パワーで"ひのこ"だ!」

 

「カァァ…ッ!ゲェェェェェッ!!!」

 

 

これまでの余裕な表情が崩れ、動揺を露わにする叶に葛葉がそう吠えた直後、ヒトカゲは尻尾の炎を激しく燃え上がらせると、深く息を吸い込んだ口を大きく開き、大粒の"ひのこ"を弾幕状に勢い良く繰り出す

 

 

「ニャルゥゥゥ…ッ!?」

 

「ニャルマー…っ!?」

 

 

立ち込める黒煙の中で"ひのこ"の直撃を受けたニャルマーは立て続けに起きた爆発によって吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ

 

 

「ニャルゥ…」

 

「…戦闘不能。僕の負けだね」

 

「よっしゃあっ!完全勝利だ!ヒトカゲ!」

 

「カゲ〜!」

 

 

ぐるぐると目を回し地面に伸びるニャルマーの姿を見て叶は敗北を認め、雪辱を果たした葛葉とヒトカゲはその勝利を大いに喜び合う

 

 

「お疲れ様、ニャルマー。…僕達に勝とうと特訓してきただけあって、こっちの戦略への対応も完璧だった。君達は思ってた以上に強いね」

 

「当然だ!一度や二度負けた程度で立ち止まったりはしねぇ!俺達は最強のポケモントレーナーを目指してるからな!」

 

「へぇ、最強か…」

 

「まあ、ボコボコにしておいて言うのもなんけど、お前は今までバトルしてきた同い年ぐらいの連中の中では1番の強さだったわ。手応えあるし、また勝負してやってもいいぜ」

 

「それは嬉しいね。ところでさ、この後少し時間ある?君に聞きたいことがあるんだけど」

 

 

 

 

「お待たせしました。お預かりしたニャルマーはすっかり元気になりましたよ」

 

「ありがとうございます。ジョーイさん」

 

 

場所は移り、シーズシティのポケモンセンター

 

そこの医師であるジョーイからバトルでダメージを負ったニャルマーを回復させてもらった叶は受け取りと共に御礼を伝えると、急ぎ足で出入り口へと向かう

 

 

「お待たせ、葛葉」

 

 

叶はポケモンセンターの外に出ると、すぐ近くに設けられたベンチに座って待っていた葛葉にそう声を掛け、その隣に腰掛ける

 

 

「…それで?俺に何を聞きたいんだよ」

 

「ちょっと気になったことがあったんだ。葛葉はさ、最強のポケモントレーナーを目指してるんだよね?どうしてそんなに強くなりたいの?」

 

「あぁ?」

 

 

叶からの唐突な問いに葛葉は怪訝な表情を返した

 

 

「何でお前にそんなこと教えなくちゃいけねぇんだよ」

 

「じゃあ、僕の理由も教えるからそれでいい?」

 

「別に知りたくねぇよ」

 

「僕が強くなりたい理由はね…」

 

「話聞いてんのか…!?」

 

 

"出逢って間も無い相手に何でも打ち明けるつもりはない"と冷たい対応を見せる葛葉だったが、叶はお構いなしに話を進める

 

 

「バトルが楽しいからなんだ。ポケモンと一緒に努力して、勝てば色んな感情が沸いて心が満たされる。それに良いバトルをしてる間は夢中になって、胸が凄く熱くなる。それが強い相手なら尚更、葛葉もそういう気持ちになるでしょ?」

 

「…まあな」

 

 

バトルが好きだからこそ強くなりたい、という叶の想いに共感するところがあった葛葉は少し照れ臭そうに答えた

 

 

「でも、葛葉が強くなりたい理由は他にもある。そうだよね?」

 

 

だが、続けて出た叶の言葉に葛葉は目を見開き、そして警戒するように表情を強張らせた

 

 

「…何でそう思うんだよ」

 

「最初にバトルした時、負けて凄く悔しがってたでしょ?いや、負けたことが許せないって顔してた。だから知りたくなったんだ。強くなりたいって君の気持ちを突き動かしているソレが何なのかを」

 

「……」

 

 

確信を持ってそう尋ねてくる叶に葛葉は少し迷うように黙り込むと、しばらくしてその重たい口を開いた

 

 

「…強くならないといけないからだ」

 

 

そう告げた葛葉の睨むように虚空を見据える紅い両眼と並々ならぬ覚悟を漂わせる真剣ながらも少し怖いと思わされる顔付きに、叶は息を呑む

 

それと同時に、叶はふとあることを思い出す

 

初めてバトルした時にジムリーダーの息子であることを尋ねた瞬間、葛葉の態度が少し攻撃的になったことを

 

 

「…それって、お母さんがジムリーダーってことと関係してる?」

 

 

やや間を置いて、叶は結論付けた自身の予想を確かめるように恐る恐る尋ねると、葛葉は沸き上がってくる怒りに身を震わせながら答えた

 

 

「ああ…!どいつもこいつも、ガキも大人も全員、俺の強さは母さんがジムリーダーだからで、その才能を受け継いでるからだと言いやがる…!ふざけんじゃねぇ…!俺の実力を"才能"、"親がジムリーダーだから"、そんな言葉で片付けんな…!俺とヒトカゲがどれだけ努力と特訓を重ねてきたかも知らねぇくせに…!」

 

 

ジムリーダーの子として生まれてきた者の宿命故に、己の強さとそのために培った研鑽は他者の恩恵によるものが大きいと認められない悔しさ

 

 

「それに誰も俺を見ちゃいねぇ…!俺だけを見ちゃいねぇ…!俺を通して、あいつ等の頭には常に母さんが浮かんでやがる…!勝っても負けても、母さんを引き合いに出してきやがる…!俺はそれが1番気に食わねぇ…!てめぇらの相手は母さんじゃねぇ…!この俺ただ1人だ…!」

 

 

そして、1対1の真剣勝負で多くの者が自身を1人のポケモントレーナーとしてではなく、母ドーラの息子として対峙される侮辱に葛葉は怒りの言葉を吐き捨てた

 

 

「だから俺は強くなる…っ!そんで、母さんでも成し得なかったチャンピオンを超える…っ!そうすりゃ、俺の強さは"ジムリーダーの息子だから"なんて言葉じゃ片付けられなくなる…っ!母さんなんて関係ねぇ…っ!俺自身が凄ぇんだって認めざるを得なくさせてやるんだよ…っ!」

 

 

自身の強さは自身だからこそ得られたものなのだと誰もに嫌でも認めさせる

 

その証明としてニジサンジ地方のチャンピオンを超えるのだと、葛葉は力強く宣言した

 

 

「……」

 

 

葛葉の想いを聞き届けた叶は何か引っ掛かりを覚えたように怪訝な表情を浮かべる

 

 

(本当にそれだけなのかな…?理由を話してくれた時に一瞬だけ感じたあの雰囲気にはそれ以上の何かがあるようにも思えたけど…)

 

 

根拠の薄い単なる勘でしかなかったが、葛葉が強くなろうとする理由にはまだ隠された何かがあると感じた叶は難しい顔で思考を巡らせる

 

だが、幾ら考えても分かるはずもなく、かと言ってそれが本当にあるのかどうかこれ以上聞き出そうとするのは野暮だと思った叶は覚えた違和感の解消を諦め、気持ちを切り替えるように表情を柔らかくする

 

 

「良い目標だね」

 

「…そいつはどうも」

 

「本当にそう思ってるよ?葛葉は強くなれる、望めば何処までだって」

 

「当たり前だ!俺は母さんも四天王もチャンピオンも超えて、最強のポケモントレーナーになるんだからな!」

 

「…なら、僕の目標は葛葉より強いトレーナーになることかな」

 

「あぁ…?何言ってやが…」

 

「だって、その方がチャンピオンを超えた先でもお互い退屈しないでしょ?」

 

 

反発する葛葉の言葉を遮って、叶は顔を覗き込みながら叶は悪戯っぽく笑ってそう言うと、ベンチから立ち上がる

 

 

「僕と勝負しようよ、葛葉。どっちが1番最強のポケモントレーナーになれるか」

 

 

手を差し伸べながらそう告げてきた叶と目が合った葛葉は瞳孔を大きく見開いた

 

叶が向ける真っ直ぐな眼差しにはジムリーダーの息子ではなく、自分だけが映っていると直感的に感じたから

 

 

「…ハッ!いいぜ、その勝負受けてやる!まあ、精々差が開き過ぎないように齧り付いてくるこった!」

 

「葛葉こそ、僕が勝ち続けたとしても萎えて投げ出したりしないでよ?」

 

「誰が投げ出すかよ!つーか、これからも勝ち続けるのは俺だ!」

 

 

楽しそうに煽り返してくる叶に威勢良く噛み付きながらも、葛葉は差し出された手を強く握り返すのだった

 

 

 

 

 

こうして、葛葉と叶は互いに最強のポケモントレーナーを目指して切磋琢磨し合うライバルとなり、唯一無二の親友となったのである

 





葛葉(10年前)
手持ち:ヒトカゲ

叶(10年前)
手持ち:ニャルマー
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