コティノスの魔女   作:淀江ユキ

1 / 5
軽め


Chapter.1 “Aux Champs-Elysées”
Erstes Mädchen, das den Terror ausschalten will


 

 7才の頃、その少女は父と母と妹を亡くした。

 停車していたバスの爆発に巻き込まれ、家族は、彼女一人を残して帰らぬ人となった。

 たまたま、ショーケースに飾られた綺麗なドレスに見惚れていなかったら。もし、その三人に追いついていたとしたら、彼女もまた、彼らと同じ運命を辿っていたのかもしれない。

 身寄りをなくした彼女は、身内をたらい回しにされ後、ようやく叔父のもとで引き取ってもらえることになった。

 

 10才になって、彼女はあの出来事が「テロ」というものだと知った。

 幼い彼女は全てを理解することはできなかったが、「テロ」は「自分の言いたいことに目を向けてもらうために、人を傷つけたり脅したりすること」だと知った。

 彼女の叔父が教えてくれたのである。

「テロ」はどうしたら無くなるのか。と、少女は叔父に聞いた。

 それを聞いた叔父の困り果てた顔を彼女は今でも覚えている。そして、今ならその表情に込められた思いも理解できるのだろう。

 だが、いずれにせよ、彼女の決意が揺らぐことはなかった。

 

「あんな目に遭う人を二度と出させない。『テロ』を、この世から無くす」

 

 家族を「テロ」で失った、少女の至上命題は、そう決定づけられた。

 

 13歳になった頃、少女はウィッチの才能を開花させた。強い体を作るために励んでいた、オリジナルの特訓中での出来事だった。

 彼女のひ弱なパンチを受けた、自家製のサンドバッグからのカウンターを防ごうとして、彼女は魔法を発現させたのだ。

 彼女自身、ウィッチなるものの存在は知っていた。もちろん、その比類なき強さも知っていた。故に、彼女は大いに喜んだ。

 この力があれば、私──のような齢15に満たない少女──でも()()()()()()()ができる。

 あまりの嬉しさに、彼女は色々な物を倒しながら、叔父のいるキッチンへ向かい、彼の前で嬉々としてシールドを発現させて見せた。

 しかし、叔父は嬉しような、悲しいような顔をして「おめでとう」と、ぽつりとつぶやいただけだった。

 

 ウィッチの才能を開花させてから、ひと月くらい経った頃だった。

 ある日、叔父は「大切な話がある」と、彼女をリビングへと呼んだ。

「フリーデ、お前は『テロを無くしたい』。そう、言っていたな?」

「えぇ、そうよ叔父さん。ウィッチの力があれば、私だってテロからみんなを守れるもの!」

「そうか……」

 

 あの時の叔父は、いつか見た、嬉しさと悲しさがごちゃ混ぜになったような表情をしていた。

 

「……実は、その夢を、叶えられる仕事があるんだ」

「えっ! 本当に? どんなお仕事なの? 教えて?」

 

 無邪気に跳ねる少女の姿は、彼をより躊躇わせた。

 本当にいいのか? 本当に、彼女にこのことを伝えていいのか、と。

 しかし、彼の口は、その主人の本心に反した動きと声を上げる。

 

「GSG-9」

「げー、えす、げー、のいん?」

「あぁ、そうだ。カールスラントの国境警備隊の、対テロ特殊部隊だ」

「対テロ特殊部隊!? すごいわ! まさに、私のためにあるようなお仕事じゃない! それで? どうやったらそれになれるの?」

「私の友人に、隊員を募集する窓口を担当している人がいる。彼に頼んで、試験に応募するんだ」

 

 少し言い淀んだ後、彼は続ける。

 

「いいかい、フリーデ……いや、フリーデリーケ」

「なぁに? 叔父さん」

「人を守るということは、自分から率先して、痛いことや、苦しいことに飛び込んでいかないといけない。たとえそれで、死ぬかもしれないとしても」

 

 姪っ子の夢を、決意を実現させてやれる道がある。だが、その道は目の前の幼気な少女にとってはひどく険しく、あまりに残酷なもの。しかも、一度進ませてしまえば、二度と戻って来れなくなってしまうかもしれないのだ。

 相反する二つの葛藤の狭間で、叔父は苦悩していたのだと思う。

 それを証明するかのように、彼の声は弱々しく震えていた

 

「そして、その過程で、人々を守るために誰かを、殺さなきゃいけない時が必ずくる。それも、一人じゃなく、何人も」

 

 少女の夢と、現実の残酷さ。

 彼はどちらも知っていたからこそ、最後まで躊躇った。本当にいいのだろうか、と。

 

「……それでも、なりたいと思うかい?」

 

 だが、彼女の答えは、すでに決まっていた。いや、もはや運命づけられていたと言ってもいい。

 

もちろん(Natürlich )

 

 意気揚々に彼女はたった一言、そう言い放った。むしろ、これ以上の言葉は必要なかったのだろう。これだけで良いのだ。

 これが彼女──フリーデリーケ・フィッツェンハーゲン──の答えなのだから。

 なればこそ、それは彼女の人生の至上命題であり、彼女を、この世に実在たらしめる存在意義そのものなのである。




 更新時期?もちろん未定ですとも。


 ですので気長に待っててくださいどうかお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。