暗殺教室『死神襲名』RTA   作:†死神†

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奇人の時間

今日から、E組に一人の生徒がやってくるらしい。

 

曰く、スポーツ万能のアスリート。

曰く、5教科満点の秀才。

 

E組にふさわしくない人間に思えるが、せんせー曰く『稀にある悩み』でここにやってくる事になったらしい。

 

「なぁ、女子かな?爆乳の女子だといいよな……!」

 

「岡島くん……ちょっとは自重するとかないの?」

 

わざわざ窓辺までやってきてこんな事を言ってくる辺り、つくづくとんでもない奴である。

さすがはE組というべきか、かなり個性の強い奴だ。

 

「無いさ。性欲に枷をハメる事はできない……って、下ネタじゃないからな」

 

「いや、十分に下ネタだよ⁉︎」

 

「ネタじゃなく真剣に言ってるからな!」

 

「最悪だ……」

 

シンプルに最悪だった。

そんな風に考えていると、ようやく誰かが校舎入り口のドアに近づいてくるのが見えた。

2m近い長身にグラマスな体、そして長い足。

真っ黒い眼帯をしており、左手は金属製の義手。

一度見たら忘れられないだろう強烈な外見の持ち主は、かなりギリギリの部分まで大胆にスリットの入ったスカートの姿だ。

 

間違いない。

……制服を改造しているのだ。

 

E組始まって以来の不良生徒の登場に、思わず内心ざわつく。

どうやら同じことを思っていたらしい、窓辺の岡島くんも同じように真剣な顔をして小さくつぶやいた。

 

「結構な(ちち)だな」

 

「岡島くん。なんか……もう黙ろ……?」

 

「みなさん、おはようございます!今日から皆さまのクラスメイトになる生徒を紹介しましょう!」

 

身長の高い少女。

この教室でも一際目立つ外見の少女は、木造校舎へと一歩を踏み出し。

 

「失礼しま……痛っ!……ふぅ」

 

──そして、教室に入ろうという所で頭を打って後ろ向きに転倒した。

 

体を丸めて受け身は取っているものの、校舎の廊下は幅が足りず大胆なM字開脚の姿勢で壁と衝突。

よく見れば顎を引き、両手を組んで衝撃を背中に移すようにして受け身をとっている。

 

──運動神経がすごく良さそうだ。

 

あと何事もなかったかのように立ち上がって同じルートを歩き始めた所からするに、すごくプライドが高そうだ。

 

正直、インパクトとしてかなり強かった。

 

「んふっ……いや無理無理無理全員見てるからコレ。なんでイケると思ってんのさ

 

「にゅやあ⁉︎聞いてた以上に大きいです!大丈夫ですか紅さん!」

 

「ああ、大丈夫よぉっ⁉︎」

 

そして殺せんせーの伸ばした手を振り切り、再び頭上に注意しながら歩き始めた結果教卓ですっ転んだ。

足元を見て歩かないとこうなる、という講習DVDなら100点満点の映像と共に盛大に転倒した彼女は、盛大にスカートをひっくり返して黒板に突っ込んだ。

 

「「「そ……」」」

 

──そうはならんだろ!

 

恐らくクラスの全員がそう思っただろう所で、やはり彼女は何事もなかったかのように立ち上がる。

カルマくんと中村さんが机を叩いて大笑いしているのは見なかった事にしておこう。

 

流石に無理があると思ったらしい彼女は段差の部分に背負っていたチェロケースを置くと、やや赤い顔はそのままに自己紹介を開始した。

 

「こう……初日から粗相があって、ごめんなさい。私は(ホン)よ。ホンちゃんとでも呼びなさ……あっ!」

 

楽器ケースが倒れ、それに駆けつけようとして……というこの子は上靴にも何故かハイヒールを選択していた。

そりゃあ転ぶだろ、なんてツッコミが出ないではないが、しかし僕らの先生は困っている生徒を放っておかない。

 

「ああっ、殺せんせーナイス!」

 

先生はいつだって、生徒を助けるとなればフリーダムに立ち回る。

今回は一つの分身で楽器ケースを壁のフックに引っ掛けると、そのままもう一分身で倒れた体を助け起こし、さらに増えた分身は散らばったチョークをホウキ役とチリトリ役に分かれて掃除し始めた。

……四つ分身くらい普通にやってくるのがこの、殺せんせーという男なのだ。

 

「ヌルフフフ……紅さん、楽器をそんなところに立てかけておくのは感心しませんねぇ……」

 

「ありがとう。……ねぇ、あなたが先生なの?」

 

「ええ、私の事は″殺せんせー″とお呼びください。茅野さんが名づけました」

 

にゅ、と触手で茅野さんを指差しながらそっと手を伸ばす殺せんせー。

彼女はその手を()()()掴みながら、静かに微笑んだ。

だが、その直後に音が響き、せんせーの姿が天井に消える。

 

「……え?」

 

あまりにも、突然で脈絡のない暗殺。

最初はその場にいる誰も撃ったのだと気が付かないほど、その一発は唐突に放たれた。

 

だが彼女の生身の右手には確かに拳銃が握られており、しかもノールックでせんせーの触手に一発、弾丸を撃ち込んでいる。

つまり、どういうことなのか。

……先生が、また不意を突かれたのだ。

 

真面目な顔して二回も三回も転倒するようなとびっきりふざけた生徒相手だから、気を抜いても仕方がないかもしれない。

またカルマくんに続きとんでもない奴だ、と思っていると、彼女が銃を仕舞い込んだのが見えた。

 

「先生、座席はどこ?」

 

「え……はい、奥田さんの後ろ、赤羽さんの隣……ああ、あそこの席にお願いします」

 

「ありがとうございます、先生」

 

全員があっけに取られていた。

そんな絶好の機会に銃を仕舞い込んだもので、恐らく殺せんせーも彼女の真意を読みかねたのだろう。

無警戒に触手を伸ばし、そして次の瞬間に思わず引っ込める。

 

触手は無事だ。

つまり、彼女は既に二回も暗殺のチャンスを逃した事になる。

 

「……ッ!ああ、ちょっと驚かされましたが、次からはしっかり警戒させて頂きますからね」

 

「せんせー、()()()()()()()……けど?」

 

──だが、四回チャンスを作り二回攻撃を当てた。

 

その事実は確かであり、教室中に緊張感が漂う。

 

「ねぇ、聞きたいんだけどさ……転んだの、わざとだったりする?」

 

「……赤羽(カルマ)ね。あなた、勘が良すぎると皆に嫌われるわよ」

 

その上、あのグダグダな雰囲気を作り出したのもわざと、だ。

なんと恐ろしいのだろうか。

そう考えて彼女を見ていた、次の瞬間だった。

 

「まぁ、いいわ。よろし……っ!」

 

「えっ……は?ヤバ……」

 

(カルマ)くんの呆れたような声と共に、彼女は自分の椅子と机の間の空間に尻から突っ込んだ。

初日からそこしれない雰囲気を出していた彼女だが、渚としては一つメモしておきたい部分がある。

 

紅さんの弱点メモ①

ヒールに慣れてない

 

──絶対そうだ。

 

その明らかな弱点をメモすると、僕は小さくため息を吐くのだった。

 

「……あれ、殺せんせーだけじゃなくてみんなのもメモしてるの?」

 

「明らかに暗殺で足を引っ張りそうな弱点はメモした方がリカバリー効くかなって……」

 

ふらつく転校生の姿を見ながら、僕はそっと扉の梁を見上げ。

 

あそこまでとは言わずとも背が伸びますように、とどこかにお願いしたのだった。

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