ババアが死ん世界の東京を生き残る(?)話   作:インターネットたべろ

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プロローグ

『...こちらは...緊急放送です......日本政府より、変異ウィルスの爆発的感染にともなう、緊急事態宣言が発令されています......不要な外出を自粛し...扉や窓の鍵を閉めてください......』

 

どこかの車からラジオの音が漏れる。辺りはビル群が周りを囲い、無数の電光広告がデカデカと掲げられている。だが、それを見聞きする“人”はその近くには誰もいない。車の喧騒も、うるさい電車の通過する音もなく、普段聞いているであろう日常の騒音は全て鳴りを潜めている。代わりに聞こえるのは、そこら中で蠢く死体のうめき声ー。

 

ー東京は、死んだ。

 

突如として現れたあるウィルス。それは特殊な毒性を持っており、感染者を死に至らしめたあと人を食う怪物—所謂ゾンビへと変貌し、周りの人々を襲い始めるものだった。傷口からゾンビの血液や体液に混ざったウィルスが侵入することで発症するその病気は、瞬く間に人口密集地であった東京を壊滅させた。

何もかも立ち行かなくなる直前に発令された自衛隊への防衛出動も、焼け石に水。ただただ犠牲者を増やしに行くだけの結果となってしまった。

日本政府自体は存命していて、首都を西へ移転し東京近郊をどうにかして全て封鎖。感染者が外に漏れ出ないように厳重の警戒がされている。

だが、余りにも早く広がりすぎたために日本全土に影響が出ており、警戒網など有って無いようなもので、政府自体もかなり細々と生きているという噂が流れている。

感染の震源地は東京のどこであるかは不明。外国から持ち運ばれたものだとも、既存の毒性を持ったウィルスが体内で突然変異したものだとも言われているが、未だ謎のままである。いや、むしろ解明するには人がいなくなりすぎたと言う方が正解だろう。

 

 

 

 

そんな東京に住まう強者が、1人。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだいこのザマはね!いつまで経っても動きやしないじゃないかい!私ゃ早く家に帰りたいのに!」

 

とある駅の改札口で、駅員室にいる駅員に怒鳴る年老いた女性の声。もちろん駅員はゾンビである。言葉が通じるはずがない...のだが、話が通じているかのようにシュンとした様子だ。

 

「教えなさいよ!いつ動くのか!動かないならお金返しなさいよ!年金生活の苦労あんたに分かるかい!?ちょっとの金も使えないのよ!」

 

この老婆、姓を鯖井という。齢は70後半ぐらい。

鯖井の婆は何か言葉を発そうにもうまく言葉に出来ないゾンビに向かってひたすら自分の愚痴を吐き続けている。

 

「ったく案内もなければろくに話も通じやしない、あんたらの耳は腐ってんのかいね!?」

 

実際相手は腐っている。耳どころが全身が。

 

 

と、これだけの大声を出していればもちろん周りのゾンビがその音に気付かないはずがなく。何人かのゾンビがその音に向かってノソノソと歩きながら、あるいは腐った足を引き摺りながら老婆の元へ近付いていく。

 

「近付くんじゃないよあんたたち!」

 

ある程度愚痴を吐き終えたのか、小言を呟きながらも出口の方向へ戻ろうとした老婆。近付いてくる数人のゾンビへ自分の杖を差し向け牽制する。その様子に近付いてきてたゾンビたちも動きを止める。

 

「最近の若い衆と来たら、見知らぬ人に抱きついて噛みつこうとまでしてきやがる。気持ち悪いったらありゃしないよ!おまけに変な臭いまで漂わせて、ボロッボロの服までずっと着て、少しは身嗜みを気にしたらどうだい!あんたらの間じゃ流行りかもしれないけどね、周りの大人を巻き込んですることじゃないよこのクソガキども!さっさとそこ退きな!」

 

老婆の剣幕に押された数人のゾンビたちは、「すみません」と代弁するかのように頭を少し下げると、横並びになって襲い掛かろうとしていた隊列から間を開けて道を作る。

その間を老婆は「まったく、最近の奴らはおかしなのばっかだよ!腹立つね!」とまだ怒りを露わにしながら、杖をつきつつ空けられた道を通り過ぎていく。

怒られたゾンビたちはしばらくそこに立ち尽くし、駅員室では「お待ちくださいお客様」と言うかのように、駅員のゾンビが窓に張り付いてドンドンと叩いていた。

もちろん鯖井の婆は待たずに帰路につく。

 

 

 

これは、鯖井の婆が死んだ世界の東京を、持ち前のスキル(決してそれが良い方のとは言っていない)で生き残る物語である。

 

なお、鯖井の婆が帰る先は勿論、鯖井の婆が寄る家である。自宅とは一言も言っていない。

極度の痴呆なのだ。あの婆は。

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