【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
帝都に渦巻く欲望に飲まれるのは、果たして誰か……
side アルシェ
「……何を、言ってるの……」
「心配するな。フルト家の再興が成れば二人は戻ってくる」
「二人を売ったの!?」
「人聞きの悪い言い方をするな! ……
「同じ事じゃない! どんな
「うるさい! カネが必要なのだ!」
「何度も言った! 何度も! こんな生活しても再興なんて無理! ウチはもう貴族じゃないの!」
今までと同じ。
話を聞かない父。平行線。
どうして……
「
「二人をどこへやったの!? 今すぐお金を返して二人を」
「お前はワシの言う事を聞いていれば良いのだ!!」
二人の事などどうでも良いと言わんばかりな
気が付けば父を
尻もちをついた父は、私を見上げて『信じられない』という顔。
何もわかってもらえなかった事が、ただ悲しかった。
「もう知らない! あなたは親でも何でもない!!」
そう言い放ち、後ろで「待て!」と叫ぶ父や母を無視して部屋を飛び出す。
そのまま走って行こうとする私に、玄関を出たところで「お嬢様!」と呼び止める声。
「……ジャイムス」
長年
この前のお金は返済に消えたけど、あれから利子の分にと稼いだお金はある。
「……今までありがとう。私は出て行く。これは退職金としてあなたに渡すから、あなたも出た方がいい。もう、私の両親に付き合う必要はない」
「お嬢様……ありがとうございます。では、こちらは私からメイド達へも配分いたします」
「最後に、もし妹達について知っている事があれば教えてほしい」
そう聞くとジャイムスは表情を
「……お嬢様、このような事を
「な、そんな事できない!……どうして?」
この信頼
「……あれは、明らかに
「ジャイムス……」
「どうか、お一人でご無理なさらぬようお願い申し上げます。せめて護衛でもお連れにならない事には心配で、どうか……」
そう言って頭を下げ、不動を
「……ありがとう。無茶はしないと約束する。でも妹達を探さないわけにはいかない。さようなら!」
私は心配する声を振り切るように駆け出した。
それから私は金融業者の元を
イミーナほどわかるわけではないけど、中に大勢がいるような気配はない。
ダメで元々、中に入る事にした。
「おや、フルトのお嬢さん。どういったご用」
「妹達はどこ」
中にいたのは一人。事務所の取りまとめ役だ。
何故か疲れているような様子……?
「あのお二人ですか……悪い事は言いません。忘れた方が良いと思いますよ」
「二人を返して」
「ハァ……力にはなれませんよ。私も死にたくはないんで」
「……どういう事」
私が問うと、周りを気にするように声を
「……上役が代わったんですよ。私がいうのも何ですが、絶対にヤバい連中です。この前、返済の『ご相談』に
思った以上に悪い状況らしい。
「それでも、二人を探す」
「……お好きにどうぞ。あぁ、
ワーカーという商売柄、情報源として奴隷商にも顔見知りはいた。
だから当たってみようとしたのだけど……
「……新顔ばかり?」しかも
そうでない者に聞いてみても「
もう、どうしたら……
ふと、リオン君の顔が
でも、これ以上の迷惑なんて……
『困っていたら、助けるのが当たり前じゃん?』
「……ぅ、ぅう……」
ごめん、ごめんなさい……力を貸して!
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
「……という事なの」
妹達への不安と
「自分の娘を売ったってのか!?」
「信じられません……なんて親だ」
ヘッケランとロバーデイクは
「てか、そんな事になるまで隠してんじゃないわよ!」
イミーナがアルシェを
「……ごめん、心配かけたくなかった」
「今、心配してるわ!」
「ご、ごめん……」
アルシェをイミーナは少し乱暴に抱きしめた。
もちろんリおんは
だが今はそれどころではない。
下手をすればアルシェの妹達が危ないかも知れない。
優先順位を間違えたりはしなかった。
だからリおんはポーチを「あれでもない、これでもない」と……いや、別に青いタヌキやら猫型ロボットの話をしてるわけではない。
「……あった! アルシェ、これ使って!」
そう言ってリおんは
アルシェが訊ねる。
「それは?」
「『
魔法学院で学んでいたアルシェは
確か第5位階のはずだ、と。
「そんな高価なもの受け取れない!」
「使わないアイテムに意味ないだろ! いいから使え!」
「リオン君……」
思わぬ申し出に、目を
「……あ……ありがとう……」
アルシェが受け取ると、リおんはすぐに
「イミーナさん、帝都の地図用意して!」
「わかった!」
イミーナが地図をテーブルに広げると、アルシェは
「さぁ、アルシェ」リおんが
「うん……『
発動と同時に地図が
そこは……
「……
「落ち着いてアルシェ。死んでたら反応しないよ」
リおんに言われ、講義を思い出したアルシェは気を持ち直す。
「でも……なら、どうして墓地なんか」
「うーん……」
そこでニンブルが、ある可能性に気が付いた。
「……もしや……いや、しかし」
「どうしたんですか? ニンさん」
気になったリおんが訊ねる。
「いえ、未確認情報というか、
「噂?」
「なんでも、邪神を信仰するカルト教団というものが帝都のどこかで活動しているんだとか」
「邪教団、ですか?」
「えぇ、
「生贄……って、まさか!」
「人間にまで手を出すとは聞いていなかったのですが……もしかしたら、と」
横で聞いていたアルシェが顔を青くする。
「行こう!」
もはや一刻の
「ロバーデイクさん」
手早く何かを紙に書いたニンブルが声をかける。
「これを兵に渡して下さい。念のためです」
「わかりました」
紙を受け取ったロバーデイクは急ぎ出て行った。
それを見送り、リおん達は墓地へ出発する。
墓地の、とある
隠し階段から降りるそこでは、怪し気な儀式が進行中であった。
それを見ながら話し合う男達がいる。
「商品は気に入ってもらえましたでしょうか」
女
「手早い納品で満足している。今後も
「えぇ、もちろん! どうぞ
「あぁ、それでは。私は儀式に戻らねば」
「まったく、
「新しいお得意様の近くで悪口言わないでよん」
もうお分かりだろう。サキュロントとコッコドールである。
帝国の好景気に八本指が
今までは行わなかった『人間を生贄に使う儀式』を考えるようになり、八本指と利害が
「で、どうすんだ? まだ残ってなきゃならんのか」
「次回以降の事について話し合う予定だし、
「そうかい……素っ裸のジジババなんて見たくないんだが」
「あんた……少しは商売ってのを考えなさいよ……」
一方、
「……魔力は感じない」
「て、事は完全にギミック式ね。任せて」
イミーナが人の出入りの
「……ウレイ、クーデ……無事でいて」
「開いた! 行きましょ!」
イミーナを先頭に階段を降りる。
しばらく降りて行くとイミーナがハンドサインで止まれと合図した。見張りがいるらしい。
一気に攻め入ろうと
支援魔法や呪歌を受けヘッケランとニンブルが突入、続くイミーナが中を見回せば、明らかに堅気でなさそうな連中の他、おびただしい数の全裸な男女、そして
ナイフを持った手に矢を
「ぎゃあ!」
ナイフを取り落とす。
「アルシェ、祭壇!」
エルフ達と一緒に鎮圧に動き
「?……!? ウレイ、クーデ!」
アルシェが駆け寄り、エルフ達が
袋から二人を保護。
戦闘力のない儀式参加者は混乱しているうちに眠らされるか
八本指の警備員だ。
「ちょっと! どうなってるのよ!? さっさと片付けなさいよ!」
ヒステリックにコッコドールが
しかしリおんの呪歌もあり、警備の連中は守りに
「しゃーねぇな」
サキュロントが幻術を展開する。
現れる何人ものサキュロント。
「なんだコイツ!? どれが本物だ!」
たじろぐヘッケラン達。
八本指の警備達は、形勢逆転と笑みを浮かべる。
しかし、リおんが歌を変えた
「……え ? は ?」
状況が飲み込めず、サキュロントは目を白黒。
ドヤ顔でリおんが言った。
「悪いね。幻術解除なんて
その状況にコッコドールは「チッ」と舌打ち一つ、警備に注意が向いているリおん達を大きく
「あ! てめ、コッコドール! どこへ」
「うるさいわね! アンタなんか『トカゲの尻尾』よ!」
「……尻尾を切るのは勝手だけど、それで本体を見逃すとでも?」
出口である階段の上からカツカツと降りて来る硬質な音と、女の声。
四騎士が一人『重爆』レイナース・ロックブルズ。
他に兵士数名、ロバーデイクもいる。
静かに、しかし
「帝国軍です。大人しく投降なさい」
コッコドールは
「て、帝国軍……どうして、こんな早く……」
「私が呼んだからだ」
ニンブルが変装を
「四騎士が一人、ニンブル・アーク・デイル・アノックだ。お前達の
「『激風』が変装!? ……ウィンブルグ公爵、私らをハメたの!?」
「ち、違っ……あ、いや、ニンブル殿、レイナース殿、これには事情が」
「詳しい話は城でお
こうなってしまえば、もはや抵抗は無意味だ。
邪教団も八本指も兵士達に連行されて行く。
「思ったより早かったですねレイナース」
「……別に。リオン君が一緒では、あまり遅いと陛下が気を
「? そうでしょうか……」
「ロバー、二人が目を覚まさない。薬かも知れない」
妹達の容態を
「わかりました、任せて下さい」
ロバーデイクに解毒され、顔色が健康的なものになると、二人は意識を取り戻す。
「……ぅう」「……おねえさま?」
「良かった……二人共……本当に良かった」
アルシェは
「これにて、一件らくちゃーく!!」
リおんはギターを鳴らした。
《皇帝執務室》
報告を受け、ジルクニフは
聞く者が聞けば、腹の底から冷えを感じるような、無味乾燥としたものだった。
「……くっくっくっ……そうか、そうか。つまり、私を
「はっ!」
『鮮血帝』を怒らせた以上、抵抗して死ぬのと生きて捕らえられるのと、どちらがマシかは本人の考え次第だが、どのみち幸福とは言えぬ末路となるだろう。
「リオンよ、良くぞ奴等の尻尾を
ジルクニフの言葉にリおんは答える。
「ありがとうございます陛下。彼らも喜ぶでしょう。それと、彼らについて少し提案が」
「ほう、言ってみろ」
邪教団や八本指について
┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄
side ラキュース
「こんにちは、ラナー。具合はどう?」
「いらっしゃいラキュース。大丈夫、今日は特に調子が良いの」
「そんな事言って、無理しないでね?」
私は例の蘇生依頼について助言を求めるためラナーの下を訪ねた。
子供の頃から病弱な彼女を自分の都合で訪問するのは少し気が
今日は調子が良いようで良かった。
ベッドではなく椅子に座って、本を読んでいたらしい。
私が事情を話すと、
「……そうなのね。蘇生依頼……」
「ラナーはどう思う?」
「状況としては、受けざるを得ないわね。今は帝国も力を増して下手に刺激はしたくないし……八本指も動きが見えないから、国内の方は手空きだものね」
ラナーも決め手に欠けるのか、消極的な意見。
「八本指ねぇ……この前、砂糖貿易に介入してるみたいな事を言ってたけど、まさか
「中抜き目当ての行動だと思うわ。……念のため聞くけど、ラキュースは……」
「大丈夫よ! 帝国や、まして八本指になんか貢献してやるわけにいかないもの。砂糖なんて興味ないわ? 私、王国産ハチミツの方が好きなの」
もう、心配症ね? ラナー。
「帝国と言えば、ラキュースは『歌う狼少年』の噂は知ってる?」
「……狼少年? いいえ、知らないわ。どんな話か教えて? ラナー」
この
話したくて仕方ない、ちょっと得意気な表情が憎めないというか可愛いのよね。
こんな風に「教えて?」って聞いてあげると、本当に嬉しそうな顔して、
……城どころか部屋からも
あぁ、ダメダメ。
しんみりしてると、すぐ顔色を読んで申し訳無さそうにしちゃうんだから。
私が暗くなってどうするのよ。しっかりしないと。
『狼少年』というと……神々が遺した
確か『あまり嘘ばかり言っていると本当になる』みたいな話、だったような気が……伝わり方が
というか『歌う』って何?
「帝国で人気の
「ワ、ワーウルフ?」
ワーウルフが、人気?
歌で人を
「とっても素敵な歌声なんですって……一度でも聞いてみたいな……」
……ラナーの夢を壊すような事は言えないわよね。
「そうなの、それは知らなかったわ。確かに聞いてみたいわね」
「依頼で帝国に行くのでしょう? もし何か機会があれば、帰った時に教えてちょうだい?」
「もちろん! 約束するわ」
……『受けざるを得ない』って判断、そのためじゃないわよね? ラナー。
意外とミーハーな所あるのかしら。
そうだね、ナザリック教に悪いイメージ付いたらダメだから邪教団なんて