【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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フォーサイトの今後。

この世界における『強さ』とは。


挑む者たち

 

邪教団の事件から夜が明けた翌日、フォーサイトとアルシェの妹二人は歌う林檎亭にいた。

 

 

「おぅ、おはよう。どうだアルシェ、妹ちゃん達の具合……元気そうだな」

 

朝から良く食べている様子の二人に、ヘッケランは安心したように笑った。

 

 

妹達が汚した口の周りを甲斐甲斐(かいがい)しく(ぬぐ)ってやるアルシェ。

 

久しぶりな姉妹(そろ)っての食事に、二人はアルシェに甘えていた。

 

その雰囲気に場が(なご)む。

 

 

と、昨夜の事でイミーナが、一応周りを気にして声を(ひそ)めつつも口を開く。

 

 

「それにしても、ニンさんが『激風』とは(おどろ)いたわね」

 

それを受けてヘッケラン、

 

「ま、何かしら『あっち方面』の人じゃねーかとは思ってたが……流石(さすが)になぁ」

 

 

ロバーデイクも『事情』に考えを(めぐ)らせるが、

 

「そうなると、実力と言い、四騎士の方々への態度(たいど)と言い、彼は……いえ、余計(よけい)詮索(せんさく)ですね」

 

 

「だな。アルシェ達の恩人(おんじん)ってだけで充分だ」

 

 

「ところで事情聴取とかなかったわね。『あとはやっとくから』って帰されちゃったし」

 

 

「まぁ、いいってんなら、いいだろ。わざわざ首()()む事もねーし」

 

 

そう、わざわざ彼らが行かなくても、向こうからやって来た。

 

 

宿の前に馬車が停まる音。

 

 

入口のドアが開くと、外から屈強(くっきょう)な騎士が一人。

 

ぐるりと見回し、ノシノシこちらへやって来る。

 

 

流石に気付きギョッとするフォーサイトに、

 

「おぅ、フォーサイトってのはお前らか? 俺ぁバジウッドってんだが、ちょいとツラ貸してくれるか? あぁ、馬車で来てっから、ちっこい(じょう)ちゃん達も一緒で大丈夫だ」

ニカッと迫力ある笑顔で、そう言った。

 

 

(うわさ)をしていれば、まさかの『雷光』登場に戸惑(とまど)いつつも断る(すべ)はなく、四人と幼子(おさなご)二人は城へと連れて行かれる事に。

 

 

 

 

 

城に着いて馬車を降りると、

 

「ようこそみんな! 急に呼び出してゴメンね?」

 

リおんが明るく()(むか)えた。

 

 

アルシェが(たず)ねる。

 

「あの、リオン君、一体どうして……」

 

 

「……あれ、バジウッドさんから何も聞いてないの? 昨日の件で褒賞(ほうしょう)を与えてくださる事になったんだ」

 

 

「……ぇ? そんな、あの、でも、身嗜(みだしな)みとか、ウレイとクーデも一緒なのに」

 

元貴族令嬢のアルシェは『城で褒賞』という話に(あわ)てふためく。

 

 

バジウッドは細かい事を気にせず連れて来てしまったため、フォーサイトは『いつもの格好』だった。

 

 

「……ぁー、いや、そんな格式張った感じじゃないから大丈夫だよ。陛下は気にしないだろうし、二人についてもサエルアンナ達が世話役に付いてくれるから……」

 

 

これなら最初から説明がてら迎えに行けば良かったとリおんは思ったが、昨日の今日でフォーサイト周りに彷徨(うろつ)いて目立つのは良くないとジルクニフから止められていたので仕方ない。

 

 

ともあれ、幼子二人はエルフ達に任せ、フォーサイトはバジウッドとリおんに案内され皇帝の執務室へ……

 

 

執務室の扉の前に着くと、扉の横で敬礼する騎士にいつも通りの手順を()もうとするリおんだったが、バジウッドは

 

「陛下ー、入りますよー」「 ょ っ

 

(わず)かに非難めいたリおんの視線など『何処(どこ)()く風』という様子で扉を開けて入って行くバジウッド。

 

 

フォーサイトも躊躇(ためら)ったが、リおん共々、仕方なく中に入る。

 

衛兵は苦笑(にがわら)いを(こら)えていた。

 

 

「お前達がフォーサイトだな? よく来た。(すで)に聞いていると思うが、先日の件で褒美(ほうび)を取らせる事とした」

 

 

御前(ごぜん)にて(ひざまず)こうとしたフォーサイトを制し、ジルクニフは単刀直入に告げる。

 

 

チームを代表してヘッケランが謝辞(しゃじ)()べた。

 

「ありがとうございます陛下。我々としては仲間の事で戦ったに過ぎないのですが……」

 

 

「わかっている。だが結果として帝国に貢献(こうけん)してもらったのも事実だ。何もなし、というのは皇帝としての沽券(こけん)に関わる。遠慮するな」

 

 

そしてジルクニフは褒賞の内容について説明を始める。

 

「さて、褒賞の内容だが、リオンからの提案により選択肢二つから選んでもらう事にした」

 

 

「選択肢、ですか」

 

ヘッケランが意外そうに訊ねる。

 

 

「そうだ。一つは各人に対する『今後』への支援……例えば、ロバーデイク」

 

 

「! はい、陛下」

 

 

「お前は確か、神殿に()らぬ弱者救済のため、孤児院を(いとな)みたいと考えているそうだな。一部、設立資金を援助しよう」

 

 

「な、なんと!」

 

 

「そしてアルシェ」

 

 

「は、はい、陛下」

 

 

「爺から優秀であると聞いている。お前が望むなら魔法省への就職を許す」

 

 

「え!?」

 

 

「他二人については具体的な方向性を聞いていないので、単純に金貨で支払うとしよう。ここまでが『一つ目の選択肢』だ」

 

 

そう、あくまでも選択肢。

 

だが、充分すぎる内容に『もう一つの選択肢とは一体……?』と、フォーサイト全員が内心で頭を(ひね)る。

 

 

ジルクニフは、二つ目について話し始める。

 

「二つ目は、ある『国家事業』への参加権だ」

 

 

 

 

話は、前日の『リおんの提案』に(さかのぼ)る。

 

 

 

 

「陛下は冒険者やワーカーについて、どのようにお考えでしょうか」

 

 

リおんの問いかけにジルクニフは(よど)みなく答えた。

 

 

「正直なところ不要ではある、が、無くしてしまえば犯罪者に()ちる者も増えるからな、頭を痛めている」

 

 

その返答にリおんは『うん、うん』と(うなず)きつつ続ける。

 

「ですね。そして現状維持では人材を()かせているという意味で帝国にとって()しい事です」

 

 

「……そんな話をするという事は、活用法があるという事か?」

 

 

「はい、陛下。確かに帝国軍により国防は堅固(けんご)ですが、軍を使うと逆に非効率的な分野が残っています」

 

 

「ふむ、軍を使えない分野とは?」

 

 

(たと)えるなら『(いなご)の群れ』です」

 

 

イナゴ、と聞いてジルクニフは怪訝(けげん)そうな顔をして、

 

「……念のため聞くが、害虫駆除(くじょ)をさせるという話ではないのだろう?」

 

 

「もちろんです。……陛下はイナゴ被害の(おそ)ろしさはご存じで?」

 

 

「話には聞いている。幸いにして私の代では発生していないが、過去には(すさ)まじい飢饉(ききん)(もたら)したらしい」

 

 

ただでさえ食糧生産が弱い帝国だ。

 

それは恐ろしい被害であったのだろう。

 

たかがイナゴ、などと(あなど)るような表情は見せない。

 

 

そんなジルクニフにリおんが、

 

「そんな脅威(きょうい)が、いつ、どこで発生するか予測も監視も不可能ですよね。軍を使うとなると無駄(むだ)な場所にまで監視所や偵察と、出費が(ひど)い事に……それに、イナゴは一例に過ぎません」

 

 

「ほう?」

 

 

「例えばトブの大森林奥地に何かしら亜人の集落があったとして、そこが疫病(えきびょう)で全滅したら、どうでしょう。神官さえも死んだら誰が(とむら)いを?」

 

 

「それは」

 

即座(そくざ)にジルクニフは何が起きるか推測し、同じ結論に(いた)ったらしいフールーダが(つぶや)く。

 

「アンデッドの大量発生と放置。いつぞやズーラーノーンが仕出(しで)かした負の連鎖と同じ事に」

 

フールーダの言葉の先をジルクニフが言った。

 

「我が国の(あずか)り知らぬ地で、強力なアンデッドが発生するかも知れんわけだ」

 

 

我が意を得たりという様子でリおんが語る。

 

「いかに帝国軍が充実していようと、後手に回れば甚大(じんだい)な被害は()けられません。そこで冒険者を使うのです。情報買い取り制度を始めましょう」

 

 

「なるほど、情報の買い取りか」

 

 

納得するジルクニフ。

情報の重要性を誰よりも理解しているからだ。

 

同時に、危機だけでなく資源や知識についての情報も入手可能だ。

 

 

「はい、しかしながらデマの持ち込みも懸念(けねん)されます。なので国の機関として冒険者の教習所を(もう)け、国家資格を得た冒険者のみを買い取り制度に適用したら良いと思います」

 

 

ジルクニフは制度の実現性を考える。

 

「……冒険者に政治は不干渉(ふかんしょう)、だが王国も『討伐報奨(とうばつほうしょう)金』という似た制度は導入しているし、竜王国に(いた)ってはビーストマンとの『戦争』に()り出している。国家資格というのも良い距離感だ。いざとなれば罰則(ばっそく)を与える事もできるが、あくまで扱いは冒険者のまま。そして我が国には、他国にない『金脈』がある……いけるな」

 

 

ジルクニフの判断を受けて、リおんが『フォーサイトの件』に話を(つな)げた。

 

「ならば広告塔が必要です。我が国が、そのような冒険者を求めており、国の支援を受ければ()り上がれると(しめ)す存在が」

 

 

「……話はわかったが、やらせようとする事の難度を考えれば『ミスリル級』というのはギリギリではないのか?」

 

 

ジルクニフが危惧(きぐ)する通り、ミスリル級相当のフォーサイトは最低ラインだろう。

 

前人未踏(ぜんじんみとう)の危険地帯に分け入り生還するというのは、本来なら(まか)せられるのはアダマンタイト級である。

 

 

「だからこそ、我が国の支援を受けて強くなったフォーサイトが注目されるのです。それに『強さの底上げ』について、一つ試したい事が」

 

 

「というと?」

 

 

「少し前にアルシェが『魔力が()び悩んでいて、新しい魔法の習得も思ったようにいかない。成長限界かも』とボヤいていて」

 

 

それを聞いたフールーダは肩を落とした。

 

「なんと……若く優秀で、まだまだ伸び(しろ)があると思っておったのに……早熟(そうじゅく)であっただけなのか」

 

 

しかし、それにリおんが異を(とな)える。

 

「いえ、それなんですが、成長限界と呼ばれているものは本当に限界なんでしょうか」

 

 

「……なんじゃと!? ど、どういう事じゃ!」

 

 

「僕の故郷の考え方では強さというのはレベル……何というか、魂の『格』によるものという(あつか)いなんです」

 

 

リおんは、この世界に()ける『強さ』とユグドラシルでの仕組みの関連性を、そのように解釈(かいしゃく)した。

 

 

「く、(くわ)しく説明を」「爺、落ち着け。話してくれているだろう」

 

暴走しかける(いつもの)フールーダをジルクニフが制する。

 

 

「魂というのは経験を(きざ)()む事で格が上がり、それが強さに(つな)がると考えられていました。異形種や亜人種は種族としての格上げだけでもある程度(ていど)は強くなれますが、人間の場合は職業の経験で格上げしなければ強くなれません」

 

 

皆(フールーダは特に)「ふむふむ」と熱心に聞いている。

 

 

「ある一定以上の経験を刻むと格が上がります。そして、ここからは仮説なんですが、魂に刻める経験には限界があるんじゃないかと。そして職業に関する経験でなければ格上げには繋がりません」

 

つまり、とリおんは例え話をする。

 

「同じ年齢、同じ才能の剣士を目指す二人がいたとして、一方は農家出身、もう一方は騎士の家柄(いえがら)とします。

騎士家の人は幼い頃から剣術の経験を積みますが、農家の人は農作業を。

すると剣士になって同じだけ戦ったとしても、片方は農作業の経験分、伸び代を使ってしまっているので先に頭打ちになるのではないでしょうか」

 

 

この世界ではユグドラシルと違い、全ての行為で経験値を獲得してしまう。

 

レベルアップに使えない死蔵経験値、もしくは言い()えてデッドウェイト。

 

それが『成長限界』の正体では? と、リおんは考えた。

 

 

「……だったらダメではないか !!

 

フールーダはツッコミを入れた。

 

 

「ま、待ってください! 続きがあります」

 

 

「何?」

 

 

「確かに無関係な経験なら、伸び代を(つぶ)してしまうでしょう。しかし、もし関係ある経験として()り起こす事ができるものだったら、死蔵せずに()むかも知れません」

 

 

「……どういう事じゃ?」

 

 

「アルシェに確認したんです。魔法詠唱者(マジックキャスター)として以外に、どのような経験を今まで積んできたか。その中に『妹達との人形遊び』というものがあったんです。そのための人形を自作した事もあるとか」

 

 

「……そんな事に何の関係が?」

 

想像が付かずフールーダは首を(かし)げる。

 

「直接会った事はないんですが『人形(つか)いの魔女』というプレ……魔法詠唱者(マジックキャスター)がいたらしいんです」

 

 

「人形遣い?」

 

 

「何でも、人形を(あやつ)って攻撃させたり魔法を代わりに撃たせたりする、とても強い方だったんだとか。だからアルシェも『ドールマスター』になってもらえば死蔵している経験の活用ができて、格が上がるんじゃないか、と思ったんです」

 

 

死蔵経験値の掘り起こし。

 

……ちなみにガゼフやブレインのような者達も、経験値を活用する才能があったのかも知れない。

 

 

その考えにフールーダは光明(こうみょう)を見出し「おぉ…」と嘆声(たんせい)()らし、

 

「すぐ試すべきじゃ!成長限界の突破……もしかしたらワシも」

 

 

「あぁわかったわかった、落ち着け爺……リオン、必要なものは言え。用意させる。そうだな? 爺」

 

 

「もちろんですじゃ!」

 

 

やれやれ、と言った様子で進行役を(つと)めるジルクニフ。

 

 

とはいえ『強さ』についてのノウハウ蓄積は冒険者教習所のみならず帝国の利益となる。

 

 

アルシェの扱いは、本人がどちらを選らんでも魔法省職員として認める事が決まった。

 

 

 

 

 

フォーサイトへの説明後、ジルクニフは選択を問う。

 

「チームを解散、引退し安寧(あんねい)を手に入れるも良し、計画に参加し時代の先駆者となり、より大きな利益を得るも良し。お前達の判断に任せよう」

 

 

そう言われ、ヘッケランは迷った。

 

『本当の意味での冒険者』しかし……

 

皆、安寧を求めるはずだ。

 

自分の一存で影響を与えるわけにはいかない、と。

 

 

だが、ロバーデイクは『やれやれ』という風に、

 

「挑戦してみたいと顔に書いてありますよ?」

 

 

「え?」

 

 

ヘッケランが(きょ)を突かれた顔をしているとイミーナも、

 

「そういうの昔っから好きだもんね、アンタ」

 

(あき)れるように、からかうように。

 

 

「いや、けど俺は別に」

 

否定しようと、安寧を求めるであろうアルシェに視線を向けたヘッケランだったが、

 

 

「……私は、リオン君に恩返しをしたい」

 

と、自分にも動機がある事を表明するアルシェ。

 

 

「だってさ。どうするの?『リーダー』?」

 

茶化(ちゃか)すようにイミーナが結論を(うなが)す。

 

 

「……いいのか?」

 

 

ヘッケランの最終確認に、三人は頷いた。

 

嬉しさ半分、申し訳なさ半分に笑みを返したヘッケランは、

 

「……陛下、その話、お受け(いた)します」

 

 

 

 

 

 

 

 

皇城の敷地内、ある一角に大きめの木が生えている。

 

 

その根元で瞑想(めいそう)する人物が一人。

 

 

長い髪を乱雑に後ろで一本(しば)り。

 

 

濃紺(のうこん)桔梗(ききょう)()()きがある着流し姿。

 

 

腰には名刀『朝東風丸』

 

 

ブレイン・アングラウスである。

 

 

そんな彼の間合いに舞い落ちる葉が一片(ひとひら)

 

 

瞬間、フッと風が吹いたような気配の後、(すず)やかな鯉口(こいくち)の金属音。

 

 

音が届くか否かというタイミングで、葉は十字に分たれる。

 

 

「……まだ、二振りが限界か。(まま)ならんものだ」

 

 

本人としては納得いかない結果だったらしい。

 

 

だが言葉とは裏腹(うらはら)に、その表情は楽しげであった。

 

遠い道のりも二度と見ぬ景色と思えば風流である、と言うかのように。

 

 

そして、彼は再び瞑想に入る。

 

 

この場には他に誰もいない。

 

故に、風に舞い散る葉の『奇妙な』断面に気付く者はなかった。

 

 

物の断面とは、力が加えられた方向がわかるものだ。

 

その葉は、『前後から』斬られていた。





今、フォーサイトの冒険が始まる!!

…一方、ブレインさんが燕返しを習得するのは、まだ先になりそうね。
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