【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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新たな冒険、新たな出会い。

しかし、その先には不穏な気配も……


霧の向こうにあるものは

 

《王国 王都近郊の街道》

 

 

蒼の薔薇、ラキュースとティナは馬車に()られていた。

 

 

「鬼リーダー、本当に依頼受けて良かったの?」

 

 

「仕方ないじゃない。色々はっきりしない以上、理由もなく(ことわ)るわけにはいかないもの」

 

 

貴族だからといって無駄な出費はしない、というラキュースの考えもあり質素(しっそ)な馬車ではあるが、依頼の受諾(じゅだく)を待ってもらっていた事もあり、乗り合い馬車ではなくエ・ランテル直行のチャーター馬車だ。

 

 

何故、帝国直行でないかと言えば、依頼主からの(もう)し出があったためだ。

 

(いわ)く「最近、入国手続きに見直しがあったため、他国からの馬車より帝国からの往復の方が手続きを簡略化(かんりゃくか)できるので、エ・ランテルまでの迎えを出す」との事。

 

 

「入国規制……どういう理由なのかしらね」

 

 

「たぶん犯罪組織対策だと思う。帝国内で八本指の幹部が逮捕されたという話を聞いた」

 

 

それもなくはない、が、実際には防疫(ぼうえき)措置(そち)である。

 

 

例の「生贄未遂(いけにえみすい)事件」での逮捕者だが、八本指関係者は身内についての情報を提供(・・)してもらった後、(した)()は奴隷のような懲役(ちょうえき)生活、幹部二人は死刑宣告(ナザリックと違い()(とう)な死に方ができる分まだマシだろう)

 

 

邪教団関係者も下位の信者は懲役だが、表社会である程度以上の地位にいる者は自宅に帰る事を許された。

 

社会的な混乱を()けるためだ。

 

ただし、帰ったところで自分以外は誰も()らず、場合によっては『妻か子供か他の親族かの、頭くらいの大きさの(はこ)』を抱えての帰宅となったが。

 

今後は『帝国にとって有益(ゆうえき)な人間』として生きる事になるだろう。

 

 

さらに余談だが、アルシェの両親も違法な人身売買に関与(かんよ)したという事で逮捕された。死罪まではないだろうが、破滅は確定だ。

 

アルシェにもリおんから知らされたが

 

「……そう……」

 

と返しただけであった。

 

それでも、いずれは気持ちの整理がつくのだろう。

 

 

さて、話を(もど)そう。

 

 

 

「ウソ!? 昨日は言わなかったじゃない……」

 

 

「情報の確度が曖昧(あいまい)。ティアも知ってるから大丈夫」

 

 

チーム分けの理由は、やはり八本指だ。

 

最近は (連中が帝国での(かせ)ぎに躍起(やっき)だったためだが) 動きが読めない状況が続いているとはいえ、がら空きにするわけにもいかない。

 

 

「捕まったのは誰?」

 

 

「情報が本当なら、奴隷部門のコッコドールと警備部門のサキュロント」

 

 

「二人も!?……そう」

 

 

(うれ)しくはあった。

 

だが王国の貴族として、その成果を王国自身の手によって()()げる事ができないという現実に、ラキュースは忸怩(じくじ)たる思いを抱いた。

 

癒着(ゆちゃく)貴族らへの怒りが(つの)る。

 

 

話題を変えるべくラキュースが(たず)ねる。

 

「帝国は? 最近は目立った情報が入って来ないから、何か知ってたら教えてほしいんだけど」

 

 

「情報統制(とうせい)キツいのか、真意が読めない情報ばかり」

 

 

「……まさか何か仕掛(しか)けて来るとか?」

 

 

「この前のカッツェ平野以降、軍に目立った動きはない。(いた)って平穏(へいおん)

 

 

「……不思議ね。いつもの鮮血帝なら帝国の力を誇示(こじ)するような情報を流すのに」

 

 

「目立たないようにしてる風にも見える。けど経済が好調というアピールはしてる」

 

 

「……わからないわね」

 

 

霧の中を歩くような気分になる二人を乗せ、それでも馬車は進んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

《トブの大森林》

 

 

フォーサイトは慎重(しんちょう)に森を進んでいた。

 

彼らの目的はトブの大森林の調査……という名目の『試験』である。

 

 

「ここらで一旦(いったん)休憩しよう」と、ヘッケラン。

 

(すで)に何度かの戦闘をくぐり()けている。

 

流石(さすが)に少し疲労の色が見えていた。

 

 

ちなみに今『森の賢王』は王国側を彷徨(うろつ)いているらしく、帝国側から入った一行は遭遇(そうぐう)しなかった。

 

 

腰を落ち着けたところでイミーナが口を開く。

 

「……けど、これならアンタ達まで一緒に来る意味なかったんじゃない?」

 

(あき)れたような視線の先にはリおんとエルフ達。

 

 

『念のため』などと言っていたが、本音は『面白そうだったから』でしかない。

 

「いやいや! これから大仕事を(たの)むんだから、対応能力を見ておかないと」

 

と、ジルクニフを説得した時の屁理屈(へりくつ)を言うリおん。

 

ただしジルクニフにはバレていた。面白そうだから見(のが)されたのだ。

 

 

そんなリおんの耳に、何か水音。

 

「……なんだろ、魚が()ねたような……?」

 

 

「どうかされましたか? リオン様」

 

レンジャーのリウリンドが気にして訊ねる。

 

 

「なんか水音が聞こえた気がしたんだ。池か何かあるのかな」

 

 

するとイミーナが、

 

「あー、やっぱり? 気のせいじゃなかったのね。てか耳いいわね」

 

 

やはり水場があるらしい。

 

「調べてみよう!」とリおん。

 

アルシェが人形を使えば偵察もできるのだが、魔力を温存させたいというヘッケランの判断でイミーナが。

 

 

そう、アルシェは『ドールマスター』の職業(クラス)取得に成功した。

 

だが取得してみると、職業(クラス)レベルが低い今のアルシェでは魔力消費しながら人形を操るしかなく、汎用性(はんようせい)はあり高火力ではあるものの燃費は最悪。

 

言わば瞬間火力タイプの魔法詠唱者(マジックキャスター)となったのだ。

 

如何(いか)に汎用性があっても、チームリーダーとしては戦闘以外の場面は温存させたくなるのは当然であった。

 

 

クラス取得に(ともな)い、装備も新調。

 

(ひも)ではなくベルトでしっかり()めるタイプの革装備、人形を入れるボストンバッグ。

 

かつての「()け出し感」ある装備ではなくなったが…

 

 

リおんが、もう二度目になろうかという提案をした。

 

「アルシェ、やっぱり魔化(エンチャント)装備くらいは…」

 

「ダメ。人形で精一杯」

 

と、この調子である。

 

(いま)節制(せっせい)する(くせ)()けていない。

 

 

だが、アルシェの言い分もわかる。

 

ドールマスターにとって人形は杖であり盾であり剣だ。

 

良い人形を、と考えればモンスター素材や希少金属 (と言っても、この世界の基準なのでミスリルやオリハルコン程度だが) を使わざるを得ず、金額的には戦士職の武器以上になってしまう。

 

しかも全てハンドメイド。

 

この世界には、妹達に買い(あた)えたような愛玩用の人形を作る職人はいても『ドールマスター』はアルシェのみ。

レア職は肩身が(せま)い。

 

 

魔力の燃費についても、クラスレベルが上がって『生き人形作成』のスキルを得れば改善するのだが、道のりは遠い。

 

リおんが『人形(つか)いの魔女は強い』と認識していたのは、このスキルが原因だ。

 

通常の人形は魔力を消費しコマンドで動くアーティファクト扱いだが、生き人形(リビングドール)は特殊NPCである。

 

100レベルのプレイヤーなら、実に90レベル相当のNPC作成スキルという事になる。

 

とはいえ、良い話ばかりでないのがユグドラシル。

 

そもそも挙動(きょどう)はAI任せであり、作成に必要な素材や経費を考えれば、優秀なAIを用意できるプレイヤーでない限り「80レベル程度の傭兵NPCを複数購入した方が費用対効果は良い」と評価されるのがドールマスターというクラスだった。

 

 

運営の「やってみせろよ」というゲームバランスを本当にやってみせた『人形遣いの魔女』が例外的に強かっただけである。

 

 

しかし、それはユグドラシルでの話。

 

この世界でドールマスターが如何なる評価を受ける事になるかは、アルシェの成長次第といったところだ。

 

 

もっとも、節制(へき)については元々であり、人形にだけは投資するのも師であるフールーダが「カネに糸目をつけてはいかん!」(好奇心が理由であり、大局的に何か考えがあったわけではない) と言って手当てまで出したからで、それがなければ……

 

魔法省の準職員になっていなければ、もし他の展開でドールマスターになっても大成する可能性はなかったかも知れない。

 

 

そんなアルシェにリおんは、

 

(これはやっぱり僕が何か(おく)るしか……アルシェのコーディネートかぁ……ケープにロングスカートもいいけどパンツスタイルにインバネスコートってのも『それっぽい』から捨てがたい……確かどっちもアイテムボックスに)

 

 

何故、女性型装備が? といえば茶釜や一部ファン達のせいである。

本人の趣味ではない。

 

あと、そういった格好(かっこう)をさせられている時、ペロロンチーノの挙動が可怪(おか)しかったのは……システム障害か何かだったのだろう。

 

そんなペロロンを見て変な笑い声を小さく(こぼ)していた茶釜も、きっと何か邪悪なものに取り()かれていただけなのだ、多分。

 

 

……近いうち、帝国貴族の風習で『男が女に衣類を贈る意味』を知らないリおんがアルシェを赤面させる事になるわけだが……まぁ、それは別にいいか。

 

 

ちなみに余談(よだん)だが、忠誠心(ちゅうせいしん)で一枚岩に見えるエルフ達は、実は『そっち方面』ではバラバラな事を考えている。

 

エルフ国では教育部隊のリーダーだったサエルアンナは、教え子であり部下だった二人には、王に子を産まされ奴隷としても痛め付けられた自分とは違い、せっかく幸運にも『女としての何もかも』を(うば)われずに済んだのだから幸せになってほしい、と『二人を含めたリおんのハーレム形成』を望んでいた。

 

しかし当の二人は奥手(おくて)であり、リウリンドはアルシェ推し、モラノールに至っては、まさかの『ジル✕リお』であった。

たまに鼻息が(あら)い。

 

各人の思惑(おもわく)混沌(こんとん)としているが、それさえすんなり(・・・・)と行かないのがこの世界というか、プレイヤーの立場というか……いや、この話はとりあえず置いておこう。

 

 

()くして水音の正体を見つけた一行。

 

そこにあったのは池のような場所。

 

 

だがイミーナは気付く。

 

「これ、自然にできたものじゃないわ」

 

そう、誰かが()り下げたような不自然な深さだ。

 

 

「こんな場所に、誰が」

 

アルシェも疑問を(てい)する。

 

 

リおんが、ある可能性を口にした、

 

「もしかして、亜人か何かの……!?」

 

その時、(しげ)みをかき分ける音に振り返る。

 

 

そこにいたのは屈強(くっきょう)なリザードマンの戦士だった。

一瞬にして緊迫(きんぱく)した空気に包まれる。

 

 

いつ、何が起きても、どうとでも動けるように、誰も声を発さず身構(みがま)えた。

 

 

一触即発(いっしょくそくはつ)かと思っていると、リザードマンの方が口を開いた。

 

「……お前達、何者だ? 何をしに来た」

 

即、戦闘とはならず内心で安堵(あんど)が広がる。

だが、まだ油断は禁物だ。

 

 

事前ミーティングで『問答無用なモンスター以外とは戦闘を()ける』と決めている。

 

平和主義というわけではない。

 

目的は調査なのだから(いたずら)に現状を変更しては意味がない、というだけの話だ。

 

 

リザードマンに対し、弁の立つロバーデイクが説明する。

 

「我々はバハルス帝国から森の調査に来た冒険者チームです」

 

冒険者と言った方が伝わりやすいだろうという考えだ。

異種族ではワーカーとの違いなど理解しづらい。

 

 

「……調査? 何のためだ」

 

 

「我々は森の内情に無知です。誰が友好的か敵対的か、以前に、誰がいるのかさえ知らない。知っていれば争いを避ける事もできます」

 

あえて『戦いに備える』という部分は語らない。

 

嘘はついていないし、余計な警戒心(けいかいしん)を持たれては話が進まないからだ。

 

 

「……ふむ、戦いに来たのではないのだな。ならば警告しておこう。ここから先には進まない方が良い。この先には我々の集落があるのでな。我々は閉鎖(へいさ)的な種族で余所者(よそもの)を歓迎しないが、()()まれない限りは争いを好まない」

 

『この先』と手で示しながらリザードマンが説明する。

戦いは回避された。

 

 

と、ここで

 

「あの、」

 

リおんが声をかける。

 

 

フォーサイトの対応能力は確認した。

『試験』の後は帝国にとっての『実利』だ。

 

 

「はじめまして、リおん・がぶりールといいます。彼らの(やと)い主である皇帝陛下の代理人として同行してる者です。お見知りおきを」

 

 

リザードマンは (人間には彼らの感情表現が伝わりにくいが) 意外そうにした。

 

ワーウルフが人間の国の代理人である事、他種族に対し (人間の作法は知らないが) 礼をもって(せっ)してきた事に。

 

ワーウルフという事で若干(じゃっかん)警戒したが『丁寧(ていねい)挨拶(あいさつ)された以上、(こた)えねばリザードマンの(ほこ)りに傷が付く』と考え、名乗る事にしたようだ。

 

 

丁重(ていちょう)な名乗り痛み入る。俺の名はザリュース・シャシャ。族長の弟だ」

 

 

「族長の弟さんですか! それはそれは、お会いできて光栄です」

 

 

リおんの様子に態度(たいど)(やわ)らげるザリュース。

 

相手の(ふところ)(もぐ)り込む(さま)は最上位吟遊詩人(バード)面目躍如(めんもくやくじょ)だ。

 

 

肩をすくめるような雰囲気(人間にはそのように見える)で謙遜(けんそん)した。

 

()してくれ、俺は『旅人』だ。権力者ではない」

 

 

「旅人、というのは?」

 

 

「あぁ、そちらにはない風習だったな。我々は基本、集落で一生を過ごす。見聞(けんぶん)を広めるなどの理由で外の世界に出る者は、焼印(やきいん)をして旅人となり、部族内の権力からは身を退()くのだ」

 

ザリュースは焼印を見せながら説明した。

 

 

「なるほど、外の世界に行って帰ってきた勇者みたいな立場という事でしょうか」

 

 

「はは、勇者とまで言われると面映(おもがゆ)いがな。……まだ結果は出せていない」

 

ザリュースは『池』を見ながら言う。

 

 

その様子から、リおんは『池』をザリュースの考えによるものと(さっ)して訊ねた。

 

「この『(ほり)』は食糧庫か何かでしょうか」

 

気を使って『堀』と表現したが、悪く言えば水溜(みずたま)りにさえ見える。

 

 

「単に確保するためではない。魚を増やすためだ」

 

 

養殖(ようしょく)ですか!……でも、これだと増やすのは難しいんじゃ……」

 

 

「何?」

 

その言葉にザリュースはピクリと反応した。

 

 

「すみません! 悪く言うつもりは」

 

 

「いや、そうではない。……(くわ)しいのか?」

 

 

食いつきを見せるザリュースに、リおんは

 

「いえ、詳しいと言えるほどかは……多少の事なら知っていますが」

 

(うそ)にならない程度の返答をしつつ気を引く。

 

 

「もし良ければ教えてくれないか」

 

 

「教えても良いのですが、我々も調査を進めないと……」

 

ブラフだ。調査に期限はない。

 

リザードマンについて情報収集するため譲歩(じょうほ)を引き出そうというのだろう。

 

 

「むむむ……ならば、この周辺の情報と交換ならどうだ。時間の短縮にはなるだろう」

 

 

「おお、それはありがたい。いいでしょう、お教えします」

 

ひとまずこれで距離を()めようというつもりらしい。

 

欲している情報を提供してやれば、さらに態度が軟化(なんか)するかも知れない。

デメリットもない。

 

 

この辺のズル(がしこ)さは、ワーウルフらしさの発露(はつろ)であろう。

 

それでもカルマ値がカルマ値なので、精々(せいぜい)人間レベルのズルさでしかない。

 

どこかの骸骨魔王ほどのギャップは心配いらないようだ。

 

 

リおんから

『水の循環(じゅんかん)

『水草や貝、甲殻類(こうかくるい)の効果』

『魚ごとに違う生育環境』

『肉食、草食の違いと陸上で得られる代替餌料(だいたいしりょう)

などの知識を伝えられ、ザリュースは(しき)りに「そうか!」「なるほど!」と感心していた。

 

 

「あと日光も重要なんですけど、当て過ぎると水温管理が大変になったり、上から鳥に狙われやすくなるので、部分的に日が当たる場所をつくってやるなどバランスが大事ですね」

 

 

「リオン殿! これほど多くの知恵を与えて(いただ)き、何と申して良いやら、感謝の言葉もない! 先程(さきほど)(うたが)ったりして申し訳なかった……族長に、集落近くの安全な場所をキャンプ地として使わせてもらえるよう頼もうと思うが、どうか?」

 

 

まだ夕刻には遠いが、確かに、今から引き返すとしても森を抜けきるのは難しい。

 

『試験』として危険な森での野営も悪くはないが、せっかくなので甘える事にした一行。

 

リザードマンの集落へと移動した。

 

 

 

 

「話は弟から聞いている。私が族長を(つと)めるシャースーリュー・シャシャだ。養殖の知識で世話になったそうだな使者殿。部族を代表し、帝国からの御厚意(ごこうい)に感謝を」

 

 

「こちらこそ、周辺情報とキャンプ地には助かりました。ありがとうございます」

 

 

リおんとエルフ達が代表して部族長・シャースーリュー・シャシャに挨拶(あいさつ)する事となった。

 

フォーサイトはキャンプ地に待機している。

 

 

ザリュースが言う。

 

「養殖が成功したら戦争を回避できるかも知れない。本当に感謝している。仕方ない事としても、やはりリザードマン同士で殺し合うのは気分が悪いからな」

 

 

「戦争ですか?」

 

 

シャースーリューが補足(ほそく)するように説明した。

 

「我らリザードマンは湖の南側、大湿地でしか生活が成り立たない。だから湖で不漁(ふりょう)になれば食糧のために戦わざるを得ない」

 

 

ザリュースが続く。

 

「実際、以前にも戦争をするしかなくなり、かつては7部族あったのが現在は5部族に()ってしまった」

 

 

「そうなんですか。……また不漁の兆候(ちょうこう)が?」

 

 

リおんが訊ねると、シャースーリューが答えた。

 

「いや、今年は問題ない。……ただ、気がかりがあってな」

 

 

「というと?」

 

 

「うむ、部族のシャーマンが言うには天候に問題はないはずなのだが、(みょう)漁獲量(ぎょかくりょう)が少ないらしい」

 

 

ザリュースも別の視点を提示(ていじ)した。

 

「レンジャーも動物たちの動きが気になると言っていたな。確か、やたら北から流れて来る、だったか」

 

 

「北……何かあるんですか?」

 

 

リおんが聞くとザリュースが答えた。

 

「我々は基本、集落から遠く離れた場所には(うと)いし、俺も旅に出た時は北に何があるという話は聞かなかった」

 

 

リアルでの経験から、まるで天変地異(てんぺんちい)前兆(ぜんちょう)のようだ、と思ったリおん。

 

(いなご)の群れ』案件かも知れないと判断し、帰還後に報告と再調査の進言を決めた。

 

 

「わかりました。今後の調査で参考にさせてもらいましょう。ところで、湖ではどんな魚が()れるんですか?」

 

リおんは話を変える事にした。

 

 

シャースーリューが答える。

 

「我々が主食にしているイーラの他は、大味(おおあじ)泥臭(どろくさ)いバグラだな。大きいから肉は多く取れるんだが、正直マズい。非常食だな」

 

 

細かい特徴なども聞き出してみると、どうやら『マス』と『ナマズ』のようだ。

 

 

「たぶん知ってる魚と同じだと思うので、泥臭さはキレイな真水(まみず)で2〜3日ほど生かして、ヌメりのある皮を()いで食べるなら多少はマシになると思いますよ。あと環境に強い魚なので、むしろ養殖向きかも」

 

 

「そうなのか!?」

 

 

「むぅ……試して、食えるようなら食糧の幅が広がるなザリュース」

 

 

喜ぶ二人に追加で質問するリおん。

 

「ちなみに、食べ方は生だけですか? 焼いたり干物(ひもの)にしたりは」

 

 

シャースーリューは首を(かし)げるだけだったが、外の知識があるザリュースは答えた。

 

「火を使うのは祭祀(さいし)の時くらいだ。干物は知っているが、この辺りは塩が取れないし、我々の舌には合わないな」

 

 

その返事で『道理で戦争が必要になるわけだ』と理解した。

 

保存食がない。

 

これだと養殖が成功しただけでは戦争回避には足りないかも知れない。

 

 

リおんは、リザードマンの集落との関係を維持しておけば冒険者の中継拠点(ちゅうけいきょてん)に使えるかも知れないと考えた。

 

なので、一計(いっけい)(あん)じる事にした。

 

「祭祀というのは丸一日くらいするものですか? あと、お(そな)えとかは?」

 

 

シャースーリューが答えた。

 

「そうだな、そのくらい儀式(ぎしき)をする。祖霊(それい)への供物(くもつ)として魚や薬草などを(ささ)げている」

 

 

「お供えは、儀式の後どうしてますか?」

 

 

「薬草はシャーマンが使い、魚は皆に振る舞っている」

 

 

「そうですか。僕の故郷の風習では祭祀の時、魚は内臓を抜いて()るしておくんです。そうすると不思議と保存が()く状態に乾燥するんですよ」

 

そういう事にしておいた。

 

つまりは燻製(くんせい)の作り方だ。

 

 

「むぅ……そうなのか。……もしや祖霊の加護か……シャーマンに伝えてみよう」

 

リザードマン集落における『魚の燻製』始まりの瞬間である。

 

 

その後、帝国から冒険者が来る時に塩や冬用の衣服 (リザードマン向けに作れるよう採寸(さいすん)をさせてもらった) を(ゆず)り、代わりにキャンプ地や食糧、薬草の提供を受ける約束を結んだ。

 

帝国からの冒険者は活動しやすくなるだろう。

 

行く行くは交易(こうえき)もする事になるかも知れない。

 

 

 

 

 

翌日の早朝、一行はリザードマンの集落を後にし、予定通り王国側へと森を抜ける。

 

開拓村を経由してエ・ランテルへ。

結局『森の賢王』には出会わず(じま)いであった。

 

 

「カルネ村のエンリさんは本当に敬虔(けいけん)な方でしたね。まだ若いのに教会を一人で切り盛りして。私も見習わなければ」

 

 

エ・ランテルに着いてからも、ロバーデイクは感心しきりであった。

 

『周りに何かキラキラしたものが見えるほど』な様子のロバーデイクに苦笑(にがわら)いしながら、ヘッケランは話を変える。

 

「この後は一泊してすぐ帝国に帰る予定だったけど、それで良いかリオン」

 

 

「それなんですけど、せっかくだし少し歌ってから帰ろうかと。別行動ですかね」

 

 

ヘッケランは、また苦笑い。

 

 

ただ、リおんは単に歌いたいだけという事ではない。

 

いつか帝国が獲得する予定のエ・ランテルに、帝国文化への(あこが)れを()え付けておきたいという思惑だ。ジルクニフにも了承(りょうしょう)は得ている。

 

……歌いたいというのも事実だろうが。

 

「それなら宣伝だけでも手伝ってから帰るか?」

 

 

「いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 

そんな会話をしつつ宿へ向かっていると、行商人(ぎょうしょうにん)風の男が一人こちらへ近付いてきた。

 

羊皮紙を買わないか、と持ちかけてくる。

 

 

見せてきた羊皮紙には『近々、蒼の薔薇2名がエ・ランテルに到着予定』である事、『迎えとして6人乗り(・・・・)馬車が向かっている』事などが書かれていた。

 

帝国からの間者だ。

 

 

リおんは「いい羊皮紙ですね」と代金を払い受け取った。

 

 

内容としては、つまり『蒼の薔薇と同行するように』という意味だろう、とリおんは理解した。

 

『細かい事を書かなくともリオンなら読み取るだろう』とジルクニフが考えているのだろう、と考える。

 

そのくらいには信頼されていると思っている。

 

尻尾が振れる。

 

モラノールが清潔(クリーン)を使えるので防疫も問題はない。

 

細かい相違(そうい)があったとしても『御者』に話を合わせておけば問題ないだろう、とも。

 

であれば、と頭を切り替えるリおん。

 

そう、考えるべき事は他にも多くあ

 

 

(まずは初の国外公演inエ・ランテルだ!!)

 

 

違 う 、 そ う じ ゃ な い 。

 

少しは同行させる目的やら蒼の薔薇と何を話すかくらい考

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