【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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探索、そして遭遇戦。


竜の巣食う山脈へ 中編

 

ドワーフ王国を目指し山道を進むリおん一行。

 

ここへ辿(たど)り着くまではドワーフ王国と帝国を結ぶ街道(かいどう)を通って来た。

 

『街道』と言っても舗装(ほそう)されているわけではない。

 

帝国内の都市間を結ぶ主要幹線(かんせん)であれば石やレンガで舗装されつつあるのだが、それ以外の道では良くて砂利(じゃり)道であり、それさえアゼルリシア山脈へ近付くにつれ、ただ()み固められただけのものとなっていった。

 

 

これは別に『ドワーフ王国との関係を重視していない』という意味ではない。

 

ドワーフ王国は『地下世界』であり、帝国は地上の国家だ。

 

そのため国境自体が曖昧(あいまい)であり、ほぼ『国境地帯』という感じになっている。

 

 

そして環境の(きび)しさ(ゆえ)、帝国にはアゼルリシア山脈への領土(りょうど)野心(やしん)がない。

 

それをあまり明確に線引きしようとすると、逆に権利や面子(めんつ)などと言って無用な軋轢(あつれき)の元となり()ねない。

 

境界を曖昧(あいまい)にしておく事が、時として重要な場合もある。

 

 

そもそも自然の世界に線引きできる物事など(ほとん)どなく、その自然世界に全ての者は生きているのだ。

 

それを『全ての事柄に線引きできる』と考えるのは、人間の傲慢(ごうまん)であろう。

 

整備されていないドワーフ王国への街道は、ある意味で良好な()()けの象徴(しょうちょう)と言えるのかも知れない。

 

 

ちなみに当然ながら、曖昧な国境地帯で何かしら問題が発生する事もあり得るが、その場合は両国共に率先(そっせん)して解決に当たろうとする。

 

もちろん建前としては外交的配慮(はいりょ)という『善意』だが、本音は格好(かっこう)の交渉材料となるからだ。

 

 

だからこそ通常は両国共に巡回(じゅんかい)()かさない……はずなのだが、ここ最近ドワーフ王国側の動きは確認されていない。

 

それでも帝国側が静観(せいかん)していたのは、(ひとえ)に両国の関係性が理由と言えよう。

 

 

友好国とはいえ、帝国が関心を持っているのはドワーフの作る武具や鉱物資源のみであり『ドワーフ側が商品を売りに(もしくは逆に、何か資源を買いに)来た際、それを歓迎(かんげい)するだけ』という交流を続けてきた。

 

だから巡回や交易(こうえき)途絶(とだ)えたとしても「ドワーフ側の事情による一時的なものだろう」と判断し、殊更(ことさら)重大な問題とは考えなかったのだ。

 

 

しかし、ここに来て良質な武具を求める帝国側の事情が発生、皇帝ジルクニフは待ち続ける事が得策ではないと判断した。

 

ドワーフ王国の調査が決定したのは、そのような背景からであった。

 

 

さて、山道を進む一行だが……

 

 

ヘッケランが口を開く。

 

「……ピクニックだな」

 

 

イミーナがジト目で苦言(くげん)(てい)する。

 

「……わかってても言わないでよ。一応こっちは真面目(まじめ)にやってんだから」

 

 

通常ならば危険なモンスターを警戒するべきであるが、そんなものは影も形もない。

 

以前の『トブの大森林調査』ではフォーサイトの対応力を見る試験も兼ねていたため、リおんは何もしなかった。

 

だが今回は『まだ攻撃力には不安を抱えた状態での前準備』であり、万が一などあっては後に()(さわ)るので、最初から『ドラゴンに備え、呪歌の支援あり』で移動していた。

 

アゼルリシアの険しい山道、しかし疲労・空腹の無効化……おまけにレベル(・・・)100()プレイヤーの(・・・・・・)リおんによる歌だからなのか、雑魚モンスターはビビッて寄り付かない。

 

その結果としての『ピクニック』であった。

 

 

「だってよぅ、腹も減らねぇ疲れねぇ、おまけに敵も出て来ねぇ。そりゃあドラゴンが来たらヤバいんだが……それにほら、ずっと景色だって変わらねぇし」

 

 

「ま、確かに岩と草ばっかり……ん?」

 

イミーナが遠くに何か見付けたらしく、足を止めた。

 

 

「どうした」

 

ヘッケランが(たず)ねると、目を()らしながらイミーナが答えた。

 

「……岩壁に()け目があるわ。洞窟? もしかして、あれが入り口かしら」

 

「お! やっと到着って事か!」

 

やる気を取り戻した一行は洞窟を目指す。

 

 

入り口まで到着するとロバーデイクが言う。

 

「確か、呼びかけると衛兵が来てくれるという話でしたよね」

 

 

ヘッケランは(うなず)くと声を()り上げた。

 

「俺達は帝国から来た者だ! 対応してくれ!」

 

 

声は反響するが、しばらくしても反応がない。

 

顔を見合わせ首を(かしげ)げる一同。

 

 

再びヘッケランが呼びかける。

 

「誰かいないか!」

 

 

やはり反響しか返ってこない。

 

 

「話と違うじゃねぇか。ここじゃないのか?」

 

ヘッケランは首を(ひね)る。

 

 

だが地図が正しければ(大雑把(おおざっぱ)な表記ではあるが)おかしくはない位置ではある。

 

 

リおんが提案した。

 

「とりあえず、ここがドワーフの都市か確かめるには中に入ってみるしかないよ」

 

 

永続光(コンティニュアル・ライト)のランタンを照らしながら内部の探索(たんさく)を始めた一行。

 

そこは補強や整備の(あと)から、間違いなく『坑道のような通路』であった。

 

 

正解の道を探り当て、広い空間にまで辿り着くと、ドワーフ用なのか人間からすれば小さい住居が(なら)び、所々に取引のためと(おぼ)しき公共施設や宿泊施設など『人間にも対応のサイズ』な建築物が存在し、明らかに都市であると判別できた。

 

 

しかし、侵入しても警報(アラーム)などの魔法も罠もなく、聞こえるのは自分達の足音や息遣(いきづか)いだけである。

 

 

「……誰もいないな。ドワーフの都市には違いないんだろうが……」

 

優秀な鍛冶師を求めていたブレインは、やや落胆(らくたん)した様子で(つぶや)いた。

 

 

「ホコリが少しだけ積もってる。それなりに時間は()ってるみたいね」

 

イミーナを(じく)に現段階で分かる事をまとめ始める。

 

この状況を分析できるのは彼女やリウリンド……レンジャー達が(たよ)りだ。

 

 

「……破壊痕(はかいこん)がないなら、戦争という感じでもなさそう?」

 

アルシェが訊ねるが、

 

「理由までは分からないわ。整然(せいぜん)と物は持ち出されているから、計画的な放棄(ほうき)ではあるんだろうけど」

 

 

ヘッケランは()め息を()きながらボヤく。

 

「なんも手掛かりなし。他の都市を目指すにしても正確な位置が、なぁ……どうしたもんか」

 

 

「かと言って、坑道を辿るのは至難(しなん)ですね」

 

ロバーデイクが言うように、ドワーフは基本的に坑道を掘り進め都市なども築くのだが、それを何の情報もなしに人間が手探りで進むのは無謀(むぼう)であった。

 

 

「それにしても」と、膠着(こうちゃく)した作戦会議を一休みさせようとリおんが別の話題を始める。

 

「人がいなくなっただけで不気味になるもんだね。地下で真っ暗なのもあるだろうけど」

 

 

アルシェが応えた。

 

「確かに。でもカッツェ平野とは違う感じ。負の波動に満ちていないのは、やっぱり人死(ひとじ)にが無かった証拠?」

 

 

これに対しリおんは少し(おど)けた風に、

 

「いや、わかんないよ? もしかしたら『ドワーフの亡霊が〜』なんて事も……暗闇の中からヌゥって」

 

リおんが巫山戯(ふざけ)てランタンで照らした自分の顔

 

……の横には、毛むくじゃらの顔があった。

 

「そうそう! こんな感じに……え?」

「む?」

 

目が合った。

 

 

 

 

 

きゃあああああああああああ!!

ぎゃあああああああああああ!!

 

 

 

 

 

途端(とたん)、リおんと『ドワーフの亡霊』は同時に悲鳴を上げた。

 

 

だが悲鳴の威力(いりょく)はリおんが上だったらしい。

 

スタン効果のあるスキル『シャウト』まで乗せた悲鳴は『亡霊』の意識を容赦(ようしゃ)なく()り取った。

 

 

ぶっ倒れる毛むくじゃら。

 

ついでにギリギリ『効果範囲内』だったリウリンドも耳から血を吹き出して卒倒(そっとう)する。

 

 

あああああごめんリウリンド! モラノール治癒(ちゆ)、治癒ぅ!!」

 

 

そんなシッチャカメッチャカの状況から逸早(いちはや)くシリアスモードに復帰したのはイミーナだった。

 

「待って……足音複数! 金属音なし、恐らく亜人種!」

 

鎧などを身に着けず、二足歩行ながら爪を鳴らすような足音に、ドワーフではないと即座(そくざ)看破(かんぱ)したイミーナが警告した。

 

 

ヘッケランが警戒感を(あらわ)にする。

 

「な、さっきの悲鳴で呼び寄せたか!?」

 

リおんは気まずそうに目を(そら)らす。

 

 

イミーナの警告からすぐ詠唱を開始していたアルシェが術を発動。

 

「光量・中、30分、永続光(コンティニュアル・ライト)!」

 

頭上へと光球が放たれ、ランタンが不要な程度に周囲を(ほの)かに照らした。

 

 

フォーサイトが迎撃態勢(げいげきたいせい)、エルフ達がリおんを守るように展開し、ブレインは後方を警戒できる位置を取り、リおんは呪歌での支援に備えギターを構えた。

 

 

薄明かりに照らされた現在位置である通路。

 

奥には曲がり角、上は(ひら)けていて飛行(フライ)などで飛び出す事はできる。

 

後退するなら再び迷路のような道を戻る必要がある。

 

 

曲がり角の奥から現れたのは、二本足で歩くモグラとでも言うべき獣人であった。

 

 

「なんだありゃ……」

「見た事ないわね」

「知識にない種族」

等々、小声で交わし警戒を強めるフォーサイト。

 

 

獣人達が気付くと

「デカいドワーフがいる!」「殺せ!」

と殺気立ち(おそ)いかかってくる。全部で4体。

 

「チッ、前みたいにゃいかんか!」

 

リザードマンとの邂逅(かいこう)を引き合いに毒づくヘッケランは、突っ込んできた先頭1体の攻撃を(かわ)し斬り付けた。

 

 

その時、(みょう)な異音に気付いたイミーナは、ヘッケランの手元を見た。

 

(なんか……()、ガサついてない?)

 

ヘッケランも違和感(いわかん)は覚えたものの、(さば)く事に集中していて、2体目を斬り付け、やはり手応(てごた)えがないと(あせ)るが得物の異変には気付かない。

 

先程(さきほど)より明らかに光の反射具合が可怪(おか)しくなっているのを見て取り、マズいと思ったイミーナが援護と同時に注意を(うなが)す。

 

「ヘッケラン、刃!」

 

放った矢が獣人の目を射抜(いぬ)き、ヘッケランに余裕(よゆう)が生まれた。

 

 

最初の1体目はロバーデイクがメイスで(なぐ)り飛ばしている。

 

リおんの歌もあって皆、意気(いき)軒昂(けんこう)

ステータスの上昇を感じていた。

 

しかし、武器は……

 

「……なんだぁこりゃ!?」

 

いつの間にかボロボロに刃こぼれした双剣に、ヘッケランは(おどろ)きの声を上げる。

 

 

その様子にロバーデイクもメイスの摩耗(まもう)に気付き息を飲んだ。

 

 

3体目が()()んで来るのを()り飛ばして後退するヘッケラン。

 

アルシェが衝撃波(ショック・ウェーブ)で4体目を吹き飛ばす。

 

 

「さっきの違和感はこれか! 金属糸みてぇな体毛なんて森の賢王じゃるまいし!」

 

実物こそ会った事はないが、知っている情報から『目の前の獣人』の厄介(やっかい)さに苛立(いらだ)つヘッケラン。

 

()む無く、ほぼ使えなくなった双剣を仕舞(しま)って予備武装のレザーバトンに持ち替える。

 

ロバーデイクも同じく。

 

 

1体目は矢が脳に(たっ)したか、敵は3体に減ったものの『武器を摩耗させる』という特性に危機感を(つの)らせる一行。

 

この一団が『偵察隊』だった場合、早く仕留(しと)めるなり(だっ)するなりせねば『本隊』が来るかも知れない。

 

 

アルシェが言った。

 

「魔法で範囲攻撃する。持ち(こた)えて敵をまとめてほしい」

 

 

撤退(てったい)にせよ殲滅(せんめつ)にせよ、一度は大きな打撃を与える必要はありそうだと判断したヘッケラン。

 

「……わかった。早めで頼むぜ?」

 

 

「うん。……アンナリーゼ! ベアトリーチェ!」

 

ボストンバッグを開き術式を発動、少女の姿をした全高30cm程の球体関節人形が飛び出してきた。

 

アンナリーゼはオレンジ色、ベアトリーチェは緑色のドレスを着て浮遊している。

 

 

「来るぞ!」

アルシェの詠唱開始とヘッケランの声は同時だった。

 

 

再び突撃してくる獣人達。

 

『こんな革製武器で、どれだけ()つか』と、決死の覚悟(かくご)で向かう二人。

 

爪を振り上げ襲いかかる1体目に、

 

「ぜぇや!」

 

せめて攻撃を()らすべく、腕に一撃。

 

「ぎゃっ」

という悲鳴と共に、骨を叩き折る確かな手応え。

 

『あれ?』とは思いつつ、ヘッケランは油断なく足にも一撃。

 

やはり手応えがあり、敵は転倒した。

 

 

見ればロバーデイクも似たような状況で狐に(つま)まれた表情。

 

 

残る1体は突然の形勢逆転にオロオロして……

 

「撃つよ!」

二人はアルシェの声に距離を取り、

 

「十字砲火、魔法二重化(ツインマジック)雷撃(ライトニング)!!」

 

左右に展開した人形から、それぞれ雷が放たれる。

 

貫通(かんつう)効果を(ねら)電撃球(エレクトロ・スフィア)でなく雷撃(ライトニング)の十字砲火を選択したアルシェだったが、敵の伝導率(でんどうりつ)が意外にも高く、(かす)っただけの手前の敵までしっかり(・・・・)通電し、最初の苦戦が嘘だったように完勝した。

 

「え、あれ?……弱い?」

 

と、(つぶや)いたのはアルシェかヘッケランかイミーナか。

 

 

ともかく危機を脱した一行は、一先ず地下から離脱(りだつ)しようと、気絶したままのドワーフを魔法で浮かせ、引っ張りながら地上を目指したのだった。

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