【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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ナザリック転移より2年前、オリ主、帝国にて。

※オリ主の名前表現はプレイヤーと異世界人で違います。
認識の問題です。
世界全体に作用している謎の『翻訳コンニャク』機能の影響ですね。
また、同じ理由で他の『固有名詞』に関しても異世界人と認識をすり合わせるまではズレが生じています。


過去編
ジルクニフの邂逅


 

ナザリック転移より、やや時を遡(さかのぼ)る。

 

 

ジルクニフは、いつも通り長(なが)椅子(いす)にもたれつつ書類に目を通しながらロウネに指示を出していた。

 

 

「……ふっ、今は泳がせておけ。王国貴族どもへの釣(つ)り餌(えさ)になる」

 

 

「かしこまりました」

 

 

10代前半で粛清(しゅくせい)の嵐を吹(ふ)き荒(あ)れさせ、現在は20歳になるジルクニフ。

今では治世(ちせい)も安定したとはいえ、未(いま)だ私欲に蠢(うごめ)く貴族はいるらしい。

 

 

そんな者たちを掌(てのひら)で転がし、むしろ楽しんでいる様(さま)は余裕(よゆう)の表(あらわ)れか。

 

 

ただ、ここ数日仕事が立て込んでいたためか、どうも少しお疲れのご様子だ。

 

 

粗方(あらかた)の指示を終え昼寝でもしようかと思っていたジルクニフの耳に、ドレッシングルームの方から場違いな、恐(おそ)らく少年とおぼしき叫(さけ)び声が聞こえてきた。

 

 

「え! 真っ暗!? ここどこ!?(ゴンッ)あ痛 ! え、なんで痛い!?」

 

 

……どうやら混乱してパッシブスキルを切っていたらしい。

彼は弐式炎雷ほどでないにせよ紙装甲なので『1』くらいは入ったのだろう。

 

 

不審(ふしん)な声と物音に四騎士が無反応なわけはない。

すぐさまバジウッドらが向かい、中にいた少年は、あれよあれよという間にジルクニフの前へと引っ立てられた。

 

 

リゾネーター・ギターを背負った、いかにも吟遊詩人(バード)風な旅装束(たびしょうぞく)の、赤毛のワーウルフだった。

 

 

ジルクニフが問う。

 

 

「お前、名は」

 

 

四騎士に剣や槍を突き付けられ、戸惑(とまど)いながら少年は答えた。

 

 

「えっと、リおん・がぶりールっていいます……」

 

 

彼こそ、アインズ・ウール・ゴウン41人が一人にして、一応、この物語の主人公である。

 

 

ユグドラシル内では、その愛らしいマスクと歌声でトップアイドルとして人気を博(はく)し、動画の配信者としても活動、ユグドラシル外でも有名だった。

 

 

あまりプライベートは語らず『中の人』が男性か女性かは不明。

 

ギルド最後の加入者だった事もあり、最後まで残ったギルド長モモンガを除(のぞ)いてギルメンとしての付き合いも比較的短く、それ故(ゆえ)オフ会にも参加していない。

 

配信者であると同時に投資家でもあるらしく、加入時、社会人であるか否(いな)か議論になったが『働き方は人それぞれだろう』という意見が多数となり加入が認められた。

 

……ウルベルトからは「ブルジョワめ」と睨(にら)まれビクついていたが。

 

 

それでも茶釜とホワイトブリムに『男の娘メイド』にされかけたり、

他の女性陣から『執事服の方がいい』と執事見習い設定されたりと着せ替え人形状態だった他、

ヤンデレ系ファンにPKされかけた際に助けられ加入のきっかけとなったモモンガに懐(なつ)いていたりと、

古参のギルメンらと比べれば短い間とはいえ良好な(?)関係を築(きず)いてはいた。

 

 

最終日、彼は『ラストライブ』を開催。

 

ライブ終了後、熱狂的なファンに追い回されナザリックへと逃げ帰る途中……だったのだが……

 

 

ジルクニフが重ねて問う。

 

 

「どうやってここに侵入した?」

 

 

「それが、その、僕にもよくわからないっていうか……すみません 、 ここ 、 どこなんでしょう」

 

 

その様子に、ジルクニフは表情をなくし、次の瞬間、

 

 

吹き出した。

 

 

「ぷふっ! くっくっくっ……」

 

 

周囲の四騎士やロウネらも困惑(こんわく)気味(ぎみ)だ。

 

 

『どうしたお前』などと思わないでやってほしい。

これには、いくつか理由がある。

 

 

まず一つに『仕事疲れ』があった。

 

徹夜(てつや)明けのテンションとまで言わないが、皇帝の頭脳労働による疲労は、かなりのものだ。

 

それこそ昼寝を必要とするくらいには。

 

今のジルクニフならペンが転がっても笑う……か、どうかはわからないが。

 

 

二つ目はリおんの能力である。

 

フレーバーテキストで変質したスキルによるものか、はたまたステータス『魅力値』の高さ故(ゆえ)か、明確な原因は定(さだ)かでないが、彼は無意識に『つかみ』に成功していたのである。

 

 

……そこらで売れない吟遊詩人(バード)をやってる連中からすれば泣いて悔(くや)しがるほどの才能は、プレイヤーの面目躍如(めんもくやくじょ)と言えるだろう。

 

 

三つ目はジルクニフ自身の『観察眼』が原因である。

 

伊達(だて)に貴族相手に腹の探り合いをして生きてきたわけではない。

 

リおんが嘘や誤魔化(ごまか)しをすれば、一目でわかる。

 

つまり『こいつ本当に何もわかってないな』と理解してしまったのである。

 

 

……に、したところで、側近たちにしてみれば反応に困る。

 

 

バジウッドは『こっちは真面目(まじめ)にやってんですがねぇ』と顔に書いてある。

 

ニンブルとナザミは顔色一つ変えない。

騎士の鑑(かがみ)である。

 

……レイナースは独特な表情になっている。

 

南方の砂漠手前、山の麓(ふもと)にフェリラータという少し変わった顔の動物が生息していて、それに似ている。

 

実は読者諸君のいる世界にも同じような動物がいて、そちらの方が想像しやすいだろう。

 

その名を、チベットスナギツネという。

 

 

レイナースは、あと数秒ジルクニフが笑い続けていたら「槍、重いんで下ろしてよろしいでしょうか陛下」などと宣(のたま)っていただろう。が、幸いその言葉が出る前にジルクニフは復帰した。

 

 

……まだ若干(じゃっかん)、肩や腹筋がヒクついているが。

 

 

「ここがどこかと、ふふっ、聞いていたな。いいだろう、教えてやる。

ここはバハルス帝国、首都アーウィンタールの皇城。

そして私は、ここの主、

皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである!」

 

 

「……バハルス帝国……お城……王様ぁぁ!?」

 

 

「あっはっはっはっはっ!」

とうとう爆笑し始めた鮮血帝。

 

 

ここまで来るとジルクニフの中では『不法侵入者への処罰(しょばつ)』など二の次で『こいつ、どう遊んでやろうか』という事を考え始めていた。

 

その気になれば処罰など、どうとでもできるだろう、と。

 

 

一方のリおんは、正直テンパっていた。

 

先程の壁にぶつかった痛み、それと鋭敏(えいびん)な嗅覚(きゅうかく)が伝える『匂い』

 

そして聞き覚えのない国名、ロールプレイとは思えない皇帝の態度(たいど)や仕草。

 

半(なか)ば確信しつつあった。

『これ異世界転移じゃね?』と。

 

そして彼は職業構成やスキルの関係上、四騎士やフールーダの強さがピンと来ない。(実際には全員まとめて鎧袖一触(がいしゅういっしょく)なのだが)

 

また、不本意とはいえ自分は『不法侵入者』である。

 

 

どうにか笑いを鎮(しず)めたジルクニフが不安を煽(あお)るように口を開く。

 

 

「なるほど、なるほど、確かに不作為(ふさくい)かも知れん。……だが、流石(さすが)に何のお咎(とが)めもなしというわけには、なぁ?」

 

 

この皇帝ノリノリである。

 

リおんは不安げに耳をペッタリと伏(ふ)せている。

 

ジルクニフが笑っていた事さえ『これ、“ 一番怖い表情は笑顔 ”ってやつだ』と完全にビビっていた。

 

 

……実は、いくらリおんが善良とはいえ、本来の『中の人』の性格から言えば、ここまでビビったりはしなかったはずなのだ。

 

そう、アバターの影響である。

 

 

まずフレーバーテキストを見てみよう。

 

 

『ユグドラシルで一番のスーパーアイドル。永遠の15歳☆あらゆる楽器を使いこなし、その歌声はあらゆる者の心を打つ。いつも自信満々に振る舞い悪戯(いたずら)好きだが、本質的には臆病(おくびょう)で、多少の事なら虚勢(きょせい)を張って誤魔化(ごまか)すが、それ以上になると泣き言を言い始める。ナザリック内では執事見習いでもあり、ルプスレギナの弟である』

 

 

精神年齢が退行しているかも知れないし、これではビビるのも仕方ない。

 

 

……ちなみに『弟』設定はペロロンチーノが「こいつをおねショタ設定にでもしないと自分の中の何かがヤバい」と、反発するメコン川とOHANASHIした結果である。

 

よほど『男の娘メイド』騒動でショックを受けたのだろう。

怒涛(どとう)の爆撃で善戦(ぜんせん)し勝利を収(おさ)めたのは焦燥(しょうそう)の表れか。

 

 

次に考えるべきはカルマ値だ。

 

種族的にワーウルフは邪悪な存在。

 

しかしながら彼のカルマ値は+250で極善一歩手前だ。

種族の邪悪さを完全に打ち消してしまっている。

 

 

それでも自身の異変に気付いていないのは、状況の異常さと焦(あせ)り故だろう。

 

 

そんな今のリおんからすれば、変なテンションで上機嫌(じょうきげん)な皇帝も『嗜虐心(しぎゃくしん)に満ちた邪悪な王』としか見えていなかった。

 

 

そんな“ 怖い ”皇帝が言った。

 

 

「ふむ、貴様吟遊詩人(バード)だろう? ならば何か物語を語ってみせよ」

 

 

「も、物語?」

 

 

「そうだ。もし私を楽しませる事ができれば此度(こたび)の件は考えてやろう」

 

 

ジルクニフとしては『考えてやる』と言っただけで明言はしていないし、どうとでもできる。

 

まぁ実際、機嫌も悪くない。

 

本当に『何もわかっていないマヌケ』であるのだから(魔法的な事はフールーダに調べさせるとして)大した情報も与えてはいない以上、この程度(ていど)の小者ならば袋に詰めて放り出すくらいで勘弁(かんべん)してやっても良い。

 

『面白い芸を見せる事ができれば』だが。

 

そのように考えていた。

 

 

リおんは、といえば、歌は歌った事があるが物語となると正直なところ自信はない。しかしチャンスではある。

 

それに、様々な文化を愛し、過去のゲームや漫画、小説などを掘(ほ)り起こした事もある自分なら、それらを元に話をでっち上げて語るくらいはできるような気がしていた……何故か、何となく。

 

(もちろんアバターの影響である)

 

そう思い立ち起死回生(きしかいせい)の一手を打つべく、そのイチゴプリンが如(ごと)き頭脳をフル回転させた。

 

結論として、本当に見逃してくれるかわからない以上、ただ面白い話を聞かせるだけでは

『うむ、実に面白かった……殺(や)れ』

などという展開もあり得る。

 

ここは『千夜一夜』作戦で行こう。

そう決意したのだった。

 

 

「……かしこまりました。ならば、取って置きを披露(ひろう)いたしましょう」

 

 

斯(か)くして、鮮血帝ジルクニフへの独演会が始まった。

 

皇帝は長椅子でくつろぎ、リおんは背中からギターを下ろし、奏(かな)で始める。

 

語るは遥(はる)か古(いにしえ)の、『竜騎士たち』の物語。

 

 

「……あいつのことか? あぁ、知ってる。話せば長い……そう。古い話だ」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

sideジルクニフ

 

 

……ほんの戯(たわむ)れのつもりだったのだが、な。

いつの間にやら聞き入っていた。

 

 

演目は『戦記』と、見かけによらず渋(しぶ)い選択。

だが正解ではある。

 

私は鮮血帝……覇道(はどう)を征(ゆ)く者である以上、他国の戦(いくさ)には関心を寄せざるを得ない。

 

その辺(あた)りを見抜(ぬ)いたのだろう。

 

 

一人の物書きが、過去にあった大戦の当事者たちを訪(たず)ね、表向き語られる事がなかった秘密や隠された英雄の存在を明らかにしていく物語。

 

私は様々な演劇や弾き語りを見聞きしてきたが、それでも斬新(ざんしん)と思える内容だった。

 

 

だが、そこではない。

僅(わず)かに声色や口調を変えているだけにも拘(かかわ)らず、本当に別人がいるようにさえ感じる程(ほど)の演技力。

 

空中戦の場面では、まるで自分が戦場に立ち会っているかのような臨場感(りんじょうかん)があった。

 

当然ながら私には空中戦の心得(こころえ)などない。

 

しかし語りの中に溶け込ませるように解説が入れられ、気付けば自分も竜騎士たちと同じ緊張(きんちょう)を共有している錯覚(さっかく)すら感じていた。

 

 

私と共に聞いていた者たち、特にバジウッドなども前のめり気味だった。

 

……爺は猿轡(さるぐつわ)を噛(か)ませ簀巻(すま)きにして転がしてあるが。

 

仕方なかろう。うるさいのだ。

話の中に出てくる魔法やマジックアイテムについて質問しようとするのだから。

 

 

それはさておき、我が軍にも皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)という空軍力はあるが、敵対する空軍力の不在が故に、地上への強襲などを主眼に置いており、空中戦の経験は訓練以上のものがない。

 

敵の背を、頭上を取るべく互いに繰り広げる空中機動……物語の中に出てくる『エース』たちのように彼らは戦えるだろうか……などと、つい詮無(せんな)き事を考えてしまった。

 

 

また、物語を盛り上げるように奏でられる旋律。

 

恐らくリュートの一種であろう楽器が響(ひび)かせる音色(ねいろ)は独特ながら、魂にまで伝わってくるかのようで心地良(ここちよ)い。

 

天賦(てんぶ)の才か、たゆまぬ努力の賜物(たまもの)か、繊細(せんさい)かつ自信に満ちたその演奏からも卓越(たくえつ)した技量が窺(うかが)える。

 

 

天才……総評として他に当てられる言葉がなかった。

 

 

この時点で私の頭には既(すで)に『処罰云々』というのは残っていなかった。

 

……専属の楽士(がくし)として取り立ててみるのも良いか?

そのような事を考えていると、

 

 

「遂(つい)に現れた『赤い燕』! ベルカ最速と謳(うた)われる敵エース部隊に、ガルム隊の運命や如何(いか)に!? ……と、盛り上がってきたところではございますが時間をかなり使ってしまいましたので、ここらで切り上げさせて頂(いただ)きたく思います」

 

 

「「なにぃぃぃ!?」」

 

 

バジウッドとハモってしまった。

 

 

「おいおいおいおい良いところじゃねぇか! どうして切り上げる!?」

「そうだ! どういう了見(りょうけん)だ!」

 

 

バジウッドと私が捲(まく)し立てるも、リオンは涼(すず)しい顔で

 

 

「いえいえ、皇帝陛下ともなれば当然お忙(いそが)しいはず。僕の語りにばかりお付き合い頂くわけにはいかないだろうと思った次第でございます」

 

 

「あ、そうですね。陛下、そろそろスケジュールが」

 

 

貴様ロウネ、お前もか!

 

 

諦(あきら)めたようにバジウッドも一言ぼやく。

「かぁ~、これじゃどのみち斬れませんねコイツ」

 

 

……はっ! そうか、まさかこやつ!

気付きリオンを見れば、わざとらしく視線を逸(そ)らした。

 

 

「……ふっ、はっはっはっはっ! 面白い! その腕前、この私を相手に一計を案じる度胸、気に入った! ……リオンよ、我が専属の楽士になる気はないか?」

 

 

「……ぇえ!? 専属の楽士!?」

 

 

「陛下! マジで言ってます!? コイツ多分ワーウルフですぜ!?」

 

 

バジウッドは乗り気でない様子だった。

 

確かにワーウルフは古い文献や言い伝えで『人間に紛(まぎ)れ悪さをする』と言われていた。

 

しかし、実際のワーウルフを見た者は現在ほとんどいない。

 

というのも、(これも口伝(くでん)ではあるが)帝国や王国ができる前、当時の法国が人の世に紛れる術(すべ)を持つ他種族を優先的に排除したらしい。

 

よってアンデッドとして自然発生するヴァンパイアなどを除(のぞ)き、現在この辺りに存在するのは『外見から判別しやすい種族』ばかり。

 

誰も本当のワーウルフを知らないのだ。

 

殊更(ことさら)『邪悪な種族である』とされているのも、法国によるプロパガンダの可能性さえあると私は考えていた。

 

それに……

 

 

「私は実力主義者だ。過去や出自(しゅつじ)、種族を問わぬ。……我が下に仕(つか)える意思があればな。どうする? リオン」

 

 

「……大変光栄な事でございます。つきましては一つだけお伺(うかが)いしたい事があるのですが」

 

 

「何だ。言ってみろ」

 

 

「僕は故郷(こきょう)で大衆を相手に公演していたのですが、そのような時間も頂けますでしょうか」

 

 

確かに『専属』となると、普通は私のためだけに仕事をする事になる、が、私は狭量(きょうりょう)ではない。

 

 

「ふむ、ここにいる四騎士がそうなのだが、私は特別に取り立てた者らには何か一つ願いを聞いてやる事にしている。お前が望(のぞ)むのなら、我が国が誇(ほこ)る闘技場での公演をさせてやっても良いぞ」

 

 

「と、闘技場!? すごい数のお客さんが入る場所なんじゃ!?」

 

 

「もちろん。ただ、どれ程の客が来るかはお前次第になるだろうな」

 

 

「……まずは酒場などで様子を見たいです。帝国でどんな曲がウケるかもわかりませんし」

 

 

やや気後(きおく)れな返答だが、縁(えん)も所縁(ゆかり)もない他国であり大舞台ともなれば仕方ないか。

 

 

「そうか。ならば頃合いと思った時は申し出よ。興行主に話を付けてやろう。それならどうだ?」

 

 

ここまで言われては断れまい?

 

 

「つ、謹(つつし)んでお受け致(いた)します」

 

 

「よし、決まりだな」

 

 

「……ちなみに闘技場というのは、どれ程の……ここから見えますでしょうか」

 

 

そう言えば、まだ『この部屋の中』しか見ていないのだったな。

 

 

それにしても、どうやって入ったのやら。

何かしら転移の魔法が関係しているのだろうか。

後で爺に調べさせるか?

 

 

「そこのバルコニーから見えるぞ。類似の施設は他国にもあろうが、周辺諸国では随一(ずいいち)の規模(きぼ)だ。当然に目立つ。来い」

 

 

四騎士を引き連れバルコニーへ。

 

先程は一杯食わされたからな、驚く顔が見たかった。

後ろからリオンも続く。

 

 

「あれだ。どうだ? なかなかの大きさだろう」

 

 

そう誇らしげに指差しても、思っていたような反応が返って来なかった。

 

絶句でもしているのか? と、思って振り返れば……

 

 

「……きれい……」

 

 

そう呟(つぶや)いたリオンは

 

 

「泣いているのか……?」

 

 

流石にこれは対応に困る。

そこまで感じ入る何かがあったのだろうか。

 

 

「あ! すみません、えへへ」

そう言って乱雑に涙を拭(ぬぐ)い、誤魔化すように笑った。

 

 

「こんなに綺麗な世界、初めて見たので……」

 

 

「……普段から見ている景色だから私にはわからないが……」

 

 

確かに天気は晴れており、遠くまで眺(なが)めは良いが……

 

 

「空は青く晴れていて……

 

 飛んでいるのは鳥ですか?

 

 本物なんて初めて見た……

 

 街も壁に覆(おお)われてない。

 

 遠くに見える緑は森ですか?

 

 外で思い切り息をしても、毒で肺をやられたりしないって事ですよね?

 

 街を歩く人たちが、仕事をしてる人でさえ絶望で表情を曇(くも)らせていない……

 

 こんな世界、初めて見たんです」

 

 

鳥を初めて見た? 肺が毒でやられる?

どんな地獄だ、それは。

そう思ったものの、目を輝かせながら語る表情に嘘は見えない。

 

……もしかしたら、そのような環境だからこそ吟遊詩人(バード)の才能は磨(みがか)かれたのかも知れぬ。

 

物質的な癒(いや)しが望めぬ以上、精神的な癒ししかないだろうからな。

 

 

「そんな地獄のような故郷だったのか」

 

 

「はい。ここは僕にとって天国ですよ」

リオンは笑顔でそう答えた。

 

 

「こんな素敵な国を築いた王様なんですね陛下は……尊敬します!」

 

 

私は何故か目を逸らし「そうか」としか答えられなかった。

 

このような賛辞(さんじ)は腐(くさ)るほど送られたにも関わらず、その笑顔を眩(まぶ)しすぎるように感じた。

 

 

あぁ、そうか。

 

 

私が今まで送られてきた賛辞は、『私』に向けられたものではなかったからだ。

 

皆、私の権威(けんい)や実力への恐怖や畏敬(いけい)を背景に言葉を送る。

 

それらは『鮮血帝』に向けられた言葉であって、『私』自身に輝かんばかりの笑顔と共に言葉を送る相手はいなかった。

 

 

……どう接して良いか、わからないのだな、私は。

 

この私が、だ。なんとも不甲斐(ふがい)ない事だ。

その気分を振り払おうと、何とか言葉を紡(つむ)ぐ。

 

 

「私が治世を始めて10年近くなる、が、私にとっては、まだまだ通過点にすぎぬ」

 

咄嗟(とっさ)に絞(しぼ)り出した言葉とはいえ、誇るでもなく自戒(じかい)とは……

 

皇帝の言葉としては弱すぎただろうか。

そう思ったが、リオンは

 

 

「これからも国を良くしていくおつもりなんですね! それなら僕も、微力(びりょく)ながら陛下の支えとなれるよう尽力(じんりょく)いたしましょう!」

 

 

吟遊詩人(バード)らしい、やや芝居がかった、しかし綺麗な礼を見せつつ答えた。

 

まるで自分も含めた周り全てが、舞台の一幕になったようで、不思議な面白さを感じていた。

 

 

「……ふっ、ならば期待しておこう」

 

 

「はい、陛下! つきましては細(ささ)やかながら僕からの贈り物をお受け取り下さい」

 

 

「ほう?」

 

 

リオンは「では失礼して」と、腰に下げたポーチから何か取り出そうとする。

 

……不要だとは思うのだが、騎士らは警戒態勢(けいかいたいせい)である。

どうにも、まだ信用できないらしい。

 

私にとっては尻尾の動きもあり、丸わかりなのだがな……

 

 

さて、物は何だろうか。

 

あのサイズのポーチから出すのだから……アクセサリーのような物か?

 

いや、そもそも文化圏(けん)が違うのだから宝石や貴金属とは限らない。

何かしら『ワーウルフにとって大切な物』かも知れん。

もしくはマジックアイテムという可能性も

 

 

などと考えていたら、ポーチからバジウッドの腕ほどはあろうかという筒(つつ)がズルリと

 

「ぉおおおおお!? おい待てそのようなものどこに入っていたあああああ!!」

 

 

「あ、はい陛下。このポーチは無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)(ポーチタイプ)といって、大きさに関係なく規定(きてい)の重さ……こっちの単位わからないな……牛一頭……じゃ重すぎるか……羊三頭分、かな、そのくらいまでなら、いくらでも入るマジックアイテムのカバンなんです」

 

 

「なんじゃとおおおおお!?」

 

いつの間にか爺の猿轡が外れていた。

……そういえば忘れていたな。

 

簀巻き姿はそのままに、芋虫の如(ごと)く這(は)い寄ってきた。

高速で。

 

 

「見せろ! 見せてくれえええええ!!」

「ひぃぃぃぃぃ!!」

 

 

「爺、落ち着け。リオンが怯えている」

ポーチには私も充分に衝撃を受けていたが、爺の様子を見て逆に落ち着いた。

 

 

「よよよよ予備ならありますから許してえええええ!!」

 

ポーチから文字通りの『背負い袋』を取り出し爺へと放り投げ後退(あとずさ)るリオン。

なんと、もう一つあったのか。

 

 

とはいえ、渡せば返却できるかわからん。

念のため確認しておこう。

 

 

「……良いのか? いや、確かに助かるが、貴重な品では?」

 

 

「え? いえ、故郷では普通にみんな持ってる程度のアイテムですけど……」

 

 

……どんな魔境だ。

しかし、もし量産に成功すれば戦略が塗(ぬ)り替(か)えられる。

ありがたく受け取っておこう。

 

 

「ニンブル、ほどいてやれ。爺、それを受け取ったら大人しくしておけよ」

 

 

解放されるなり弾かれたようにカバンに飛び付く爺。

……やれやれ、これで話の続きができる。

 

 

「済まなかったな。本題はそちらの筒なのだろう? それは何だ?」 

私が問うと、ホッとした様子でリオンは答えた。

 

 

「はい、陛下。こちらは『花火』です」

 

 

「『火の花』? どういうアイテムだ」

 

 

「使用すると筒の中で爆発が起きて、中の玉が打ち上げられます。玉は上空で爆発して、色とりどりの火の粉を花のように広げるんです。お祝いの時などに使うアイテムですね」

 

 

……兵器転用できないだろうか。

そんな事を考えているとリオンが、

 

 

「陛下、もしや兵器に使えないかとお考えでしたか?」

 

「む、顔に出ていたか?」

 

「いえ、国王様ともなれば誰しも考える事でしょうから」

 

 

確かに、それもそうだ。

尤(もっと)も、ランポッサ三世やカルカ・ベサーレス辺りは考え至(いた)らぬやも知れんがな。

 

 

「ですが陛下、あまりお勧(すす)めできません」

 

「ほう? 理由を聞こう」

 

「爆発するのは火薬という調合薬なのですが、これを兵器に使おうとすると、お金がかかります」

 

「ふむ、高価なのか」

 

「あ、いえ、火薬が高価という意味ではありません。組織運用の問題で」

 

「組織運用?」

 

「火薬兵器を扱う兵士を育てるのは騎士や魔法詠唱者(マジックキャスター)に比べれば安いのですが、火薬兵器は撃ち尽くしてしまえば補給が必要で、それまでは『何もできない単なる人』になってしまいます。

 

兵糧攻(ひょうろうぜ)めならぬ火薬庫攻めなどされたら丸腰です。

 

かといって騎士や魔法詠唱者(マジックキャスター)も同時に育てるとなると」

 

「いや、もう良い。なるほど、大体わかった。確かにカネ食い虫だな」

 

 

火薬庫攻めに備える為には、国内の複数箇所(かしょ)に工場や火薬庫を分散して設置するしかない。

 

が、当然それら人材や設備は自力で食糧生産できるわけではない。

 

ただでさえ王国の肥沃(ひよく)な土地を欲(ほっ)する帝国には、痛すぎる出費になるだろう。

 

 

「はい。同じ程度の戦力を求めるなら、最初から魔法詠唱者(マジックキャスター)の育成に注力した方がよろしいかと。もしくは補助兵器に留(とど)めておくとか」

 

「補助兵器……騎士に持たせる、と?」

 

「使い方を簡素化(かんそか)すれば、何とか使えるでしょう。……火薬を最も効率的に使える場面は『岩盤(がんばん)の掘削(くっさく)』です」

 

「……鉱山か?」

 

「はい、岩に僅(わず)かな傷を付け、そこに火薬を仕込めば、爆発で簡単に砕(くだ)く事ができます。同じ理屈(りくつ)で砦(とりで)や城壁などに使用すれば」

 

「なるほど! 強力な破城兵器になるわけだな」

 

「後で花火と合わせて作り方について概要(がいよう)をお伝えしましょう」

 

「何? そのような知識もあるのか、お前は」

 

 

……先程の話といい、かなり高い水準の知識を有しているのではないか?

 

 

「あくまでも概要だけでございます。文化を読み解くには知識が必要ですから。……花火は、いつ打ち上げましょうか。火の粉が散りますので開(ひら)けた場所が良いのですが」

 

「ふむ……ロウネ、今日は何かある日だったか?」

 

ロウネは私の問いに少し考え、

「いえ陛下、今日は何もございませんが、明日は建国記念日でございます」

 

 

ロウネの返答に、つい額(ひたい)に拳を当て苦笑してしまった。

そんな事さえ忘れるほど忙しかっただろうか。

 

 

皇帝が何かにつけて代わる帝国における建国記念日とは、時の皇帝が己の正統性を誇示(こじ)する為の、記念式典をする日でしかない。

 

 

だが、それだけに皇帝たる私にとっては忘れるはずがない日のはずだったのだがな……仕事と休息の切り替えは重要だな。

 

 

「……前日とは都合が良い。火という事は夜空でなければ見映(みば)え悪かろう。ロウネ、触(ふ)れを出せ。前夜祭として夜空に花を咲かせる、とな」

 

 

 

 

 

《その日の夜》

 

 

 

 

 

「そろそろだな」

日が完全に沈(しず)もうとしている。

 

 

バルコニーに椅子とサイドテーブルを置き、ワインとツマミを用意させた。

 

花火なるものが、どれ程のものかは想像するしかないが、酒の肴(さかな)にはなるだろう。

 

 

周りにはニンブル、ナザミ、レイナースとロウネ。

 

バジウッドは念のため『目付け役』にと、打ち上げを行うリオンに同行していて、ここにはいない。

 

まぁリオンはワーウルフだからな、余計(よけい)なトラブルを避(さ)けるには逆に丁度(ちょうど)良かろう。

 

 

打ち上げ場所は帝都郊外。

かなり高い位置に打ち上げるから街からも見えるだろう、との事だ。

 

 

「さて、どれ程のものなのだろうな。『火の花』というからには、それなりに……」

と、言いかけた時、光が遠くの空に昇っていくのが見えた。そして……

 

 

 

……夜空に、『花が咲いた』

 

 

 

中心に金の粉を散らし、赤い光が花弁のように広がった。

遅れて「ドン」と音が鳴る。

 

 

力強くも一瞬で消えてしまう、儚(はかな)い火の芸術。

初めて目にするその光景に、皆、言葉を忘れた。

 

 

続く二発目。

先程より明るい金の光を散らしつつ「ピュー」と音を立てて、青から緑、赤へと色を変えながら光の花びらが広がる。

 

 

どのような『花』かは、打ち上げてみるまでわからないらしい。

 

 

これが予定では残り10発。

しかし、その考えは良い意味で裏切られる事になった。

 

 

三発目、いくつもの緑の光が……と思えば、既に次が光の筋となって昇ってきた。

 

 

単調な上げ方を止めたか!

次々と、まるで違う形の花が咲き、気が付けば帝都上空を大きな『花束』が飾(かざ)っていた。

 

 

「……美しい……」

 

 

つい零(こぼ)れた一言は、他に形容するべき言葉が見つからなかったが故でもある。

最後に一際(ひときわ)大きな花を咲かせ、漆黒の夜空という幕が降りた。

 

 

いつもであれば消え始める城下の明かりは、未だ帝都を飾っている。

それを眺(なが)めながら、すっかり忘れていたワインを味わう。

あぁ、この余韻(よいん)すら『悪くない』

 

 

あの幻想的な光のショーは、これからの帝国を暗示しているのかも知れないと思いつつ、しばし言葉も忘れ、私はグラスを傾(かたむ)けるのであった。





あれぇ、オリ主の転移先が100年前じゃないって事は、ナザリック教を広めたの誰なのかなぁ←すっとぼけ
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