【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版)   作:ブドウ冷やしんす

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フォーサイト、英雄への道。


竜の巣食う山脈へ 後編

 

「……んむぅ?」

 

パチンという焚火(たきび)()ぜる音を感じ、ドワーフは目を覚ました。

 

 

「お、気がついたみたいだぞオッサン」

 

ヘッケランが他に知らせると、

 

「誰がオッサンじゃあ!」

 

抗議(こうぎ)するために飛び起きるくらいには元気らしい。

 

 

一行は地下から脱出後、キャンプ地を(もう)けて休息していた。

 

今は完全に日は(しず)み、焚火の明かりだけが(あた)りを()らす。

 

 

「というかお前さん方は一体」

 

ドワーフの質問に代表してヘッケランは答えた。

 

「俺達は帝国の依頼でドワーフ王国の調査に来たワーカーだ」

 

 

そう、あくまで『まだ』ワーカーだ。

 

まだ『冒険者認定制度』は水面下。

 

また、リザードマン相手なら冒険者と名乗っても問題なかったが、国交あるドワーフ相手ではプレートがないのに冒険者と名乗るわけにもいかない。

 

(うそ)も方便』などと言うが、実際ケースバイケースだろう。

 

 

「調査?」

 

ドワーフは(いぶか)しげに聞き返す。

 

 

ヘッケランは答えてやった。

 

交易(こうえき)途絶(とだ)えた原因を知りたい。取引を再開したいんだとよ」

 

 

「原因ならハッキリしとる。クアゴアじゃ」

 

 

「クアゴア?」

 

聞き()れない名前に一同は首を(かし)げる。

 

 

「鉱石を食う亜人でな。金属糸のような体毛のせいで金属製の武器はすぐボロボロにされる」

 

 

「さっきの奴らか!」

 

アレの事か、と(みな)納得(なっとく)

 

ヘッケランは特に(きも)を冷やしたからか、印象が強かったらしく忌々(いまいま)しげだ。

 

 

「いたのか!?」

 

ドワーフは警戒の色を(あらわ)にした。

 

 

「あぁ、大丈夫だ。返り()ちにしてやった。ただ増援が来たらヤバいんで、アンタを引きずって撤退(てったい)しては来たが」

 

 

「……そういえば、(わし)何故(なぜ)……何か悲鳴を聞いた気がするんじゃが」

 

 

クアゴアの断末魔(だんまつま)だったんじゃないかなぁ!?

 

目を泳がせつつリおんが言った。誤魔化(ごまか)すつもりらしい。

 

「そ、それよりドワーフ王国はどういう状況なの!? クアゴアのせいで都市を放棄したの!?」

 

必死に質問を(たた)()けるリおん。

 

 

「そ、そうじゃ。奴らが来たせいで交易する余裕(よゆう)もなくなって、景気も悪くなって、だから儂も……くぅ……」

 

まんまと質問攻勢で押し切られたドワーフ、自身の境遇を思い出してか、最後は(くや)しげに(うめ)いた。

 

 

イミーナが気になった事を(たず)ねる。

 

「そういえばオッサン、何であんな廃都(はいと)に?」

 

 

「だからオッサンではないと……儂はルーン技術の開発者じゃ」

 

 

リおんが「ルーン?」と訊ねつつ

『もしかしてファンタジーに良く使われるアレか?』

と内心で当たりを付ける。

 

 

「通常の魔化(エンチャント)とは違う、武具に直接『力ある文字』を()(きざ)む事で特殊な効果を(あた)える技術じゃ。通常の方法で得られる以上の力を武具に付与(ふよ)できる」

 

 

「すごいじゃないですか!?」

通常以上という部分に期待を高めるリおん。

 

 

「じゃが(にな)い手が希少(きしょう)でな。通常の方法が安価なんでシェアを(うば)われ、皆の腕が落ちて一度衰退(すいたい)した」

 

 

「え、じゃあ今は」

 

 

「いや、それは解決した。だいぶ前に旅の魔法詠唱者(マジックキャスター)が来て『研究してみたい』と言ってな、おかげで方法論や道筋は見えて来たんじゃが……結局は『今のドワーフ王国の状況』じゃよ。どんな素晴らしい技術があろうと、生活できねば意味がない。日銭を(かせ)ぎつつ、研究用の素材は『こうして』自分で()りに来とるというわけじゃ」

 

と、ドワーフは嘆息(たんそく)しながら廃都にいた理由を話した。

 

 

そう、どれほど技術力があったとしても、健全な経済という土台がなければ意味はない。

 

その辺りフォーサイト(アルシェは元・貴族なので別だが)やブレイン、エルフ達は、いまいちピンとこないのか『クアゴアの脅威(きょうい)で不景気になったんだなぁ』と曖昧(あいまい)な理解しかできていない様子。

 

 

ドワーフは、その習慣(しゅうかん)や生態(ゆえ)に、数的な概念(がいねん)把握(はあく)するのを得意とする『数学的な種族』である。

 

鉱夫(こうふ)であり鍛冶師(かじし)であり技師である彼らは、物事(ものごと)の関連性や連動、構造などを(はだ)感覚で理解できるのだ。

 

だから『クアゴアの侵攻(しんこう)(おさ)えきれず交易する余裕をなくし、輸出入なくしては活況を(たも)てない国内経済は冷え込み、自分たちも(あお)りを受けた』という全体像を、一労働者にすぎない自称・ルーン技術開発者の彼ですら正しく把握していた。

 

 

対してエルフは『文学的な種族』と言えるだろう。

 

漠然(ばくぜん)とした事象(じしょう)(ことわり)、その“奥行き”や波及(はきゅう)(言い換えれば情緒(じょうちょ)文脈(ぶんみゃく))を読み取り、理解する能力に()けている。

 

もっとも、魔法の(あつか)いに長けたエルフの事。

 

高位の魔法詠唱者(マジックキャスター)など高等知識を身に付けている者ならば数的な概念の理解も苦手とは言わないだろう。

 

だが、エルフ王は手っ取り早く兵隊を(そろ)える事にしか興味がないのか『(こま)やかな育成』など行っていないようだ。

 

 

まぁ、ドワーフが如何(いか)に数学的な種族とはいえ、慢心(まんしん)しないという事を意味するわけではなかったらしい。

 

現に今、クアゴア相手に追い詰められているのだから。

 

 

その辺りまでを含めた大凡(おおよそ)の実態を、リおんは話を聞いた時点で把握していた。

 

その表情は、どこか『残念な生徒を見る教師のよう』である。

 

リアルで支配者層の一角を株式買収しようとしたのは伊達(だて)ではない。

 

ただのネットアイドルではないのだ。

 

(油断してたのもあるんだろうけど、金貨経済……金本位(ほんい)制だもんね。まぁ、だからこそ持ち(こた)えられてる、とも言えるか)

 

 

確かに、もしドワーフ王国が紙幣(しへい)経済であったなら、クアゴア相手に防衛費で後手に回る事はなかったであろう反面、交易が途絶えた今、滅亡(めつぼう)していても不思議はない。

 

 

金本位制は金の保有量が『国の信用』となる。

 

安定的で手堅(てがた)い一方、急速な成長や発展性は弱い。

 

 

紙幣経済……管理通貨制の場合、生産能力が『国の信用』となる。

 

生産能力に(おう)じて

(つまり購買(こうばい)力を維持(いじ)するために)

必要な金額をいくらでも国内に流す事が可能であるので、

 

加速度的な経済成長が(のぞ)める一方、

 

基本的に『カネとは政府の借金』という形態をとるため、その経済(けん)で活動する人々に正しい知識がなければバブルやハイパーインフレ、逆に不況のスパイラルといったリスクが大きい。

 

 

いつぞやリおんが「銀行の金券版で云々(うんぬん)」と言っていたのはコレである。

 

 

自前で金を採掘(さいくつ)できるドワーフ王国の信用は、それだけ堅固(けんご)ではあるが、紙幣経済のような機動力はない。

 

クアゴア侵攻の前に(たか)(くく)っていた時点で『()み』である。

 

戦いとは、始まる前に終わっているのだから。

 

 

軍事力とは『保険』である。

 

以前にも()べた通り、戦争は (戦争に限った話ではないが) 国家間の関係、地形や資源といった『構造』が原因だ。

 

つまり『欠陥(けっかん)経年(けいねん)劣化(れっか)による倒壊(とうかい)事故』のようなものであり、それを『補修(ほしゅう)』するのが外交や貿易(ぼうえき)であり、そのための『保険』が軍事力である。

 

 

もちろん過度(かど)な軍事力は他国への威圧(いあつ)となるが、無保険で損害(そんがい)(こうむ)るのは自分だ。

 

それだけに『どの程度(ていど)が保険プランとして最適(さいてき)か』という事を見極(みきわ)めるのが政治であり、素人(しろうと)安易(あんい)に口出しできない(むずか)しい匙加減(さじかげん)が必要なのだ。

 

 

ちなみに戦争とは国家間における武力紛争(ふんそう)の『形式の一つ』に過ぎない。

 

(すなわ)ち合意とルールに(もと)づく『決闘(けっとう)』であり、外交問題を解決する手段の一つというわけだ。

 

 

よって『戦争ができるか(いな)か』と『戦えるか否か』は、実は必ずしもイコールではない。

 

軍事力は持っていても法によって戦争を(・・・)禁じている国があるとするなら

『戦えるが戦争だけは(・・・)しない国』

という事になる。

 

『決闘』と『正当防衛』は違うのだ。

 

 

法は必ず言葉の定義(ていぎ)(もと)づいて(さだ)められる。

 

言葉の定義を誤用(ごよう)して法を定めれば、世の中は滅茶苦茶(めちゃくちゃ)になるからだ。

 

ヒトの世は、言葉によって作られる。

 

 

そして法とは国家間の条約でない限り所詮(しょせん)は国内向けの『マイルール』に過ぎず、必要とあらば

 

「超法規的措置(そち)だ!」

 

などと言って(やぶ)れる上、結果と()り合いが取れるなら基本どんな事でも(・・・・・・)正当化するのが政治である。

 

にも(かかわ)らず、合意もルールもなく実際に攻撃されて

「マイルールを変えなくては戦えない」

などと言う莫迦(ばか)な国などあるまい。

 

 

法など国家運営を円滑(えんかつ)化するための建前(たてまえ)に過ぎないのだ。

 

そんなものを言い訳(・・・)にするのは、自身の覚悟(かくご)責任(せきにん)他所(よそ)に押し付ける臆病者(おくびょうもの)論理(ろんり)であろう。

 

王政であれ民主主義であれ、政治のレベルは国民のレベルで決まる。

 

他国から()められていると感じた時、舐められているのは武力でも法でもなく、国民の頭の悪さだ。

 

 

閑話休題。

 

 

ドワーフ王国との交易途絶が『戦争によるもの』と聞き、フォーサイトは表情を(くも)らせる。

 

 

今は確かに『まだワーカー』だ。

 

しかし、同時に『冒険者認定制度の広告塔』でもある。

 

 

冒険者は政治に対して不干渉(ふかんしょう)でなければならない。

 

つまり、今回の仕事はワーカーとして()たすしかなく、廃都の探索(たんさく)も『未知なる亜人・クアゴア』との交戦も『広告塔』としてはプラスにならない、と。

 

 

しかし、リおんは違う事を考えていた。

 

先程も述べた通り、戦争とは『決闘』である。

 

クアゴアとは合意をしたのか、ルールに基づいているのか……

 

リおんは、こう考えた。

 

(これ戦争じゃなくて、害獣駆除(くじょ)じゃね?)

 

戦争ではなくモンスター退治であるなら『冒険者としての活躍』にできる、と。

 

 

その辺りの経緯(けいい)や実態を把握するにはドワーフ王国側に確認しなければならない。

 

どのみち帝国としての取引を(もう)()む以上、今の首都を目指す必要がある。

 

 

「何にせよ書状もあるし、役人さん達がいる場所までは行かなきゃ。挨拶(あいさつ)(おく)れました、皇帝陛下の代理を務めますリおん・がぶりールです。よろしければ案内をお願いしますドワーフさん」

 

 

「(なんでワーウルフが皇帝の代理なんぞしとるんじゃ……)儂の名はゴンドという。どのみち帰らねばいかんし、護衛を(たの)めるなら(よろこ)んで案内しよう」

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

坑道内のルートはクアゴアに遭遇(そうぐう)する危険性があるとして、翌日、地上から目指す事に。

 

 

移動中、終始(しゅうし)ゴンドは地面を見続けた。

 

(いわ)く『空に飛ばされそうで怖い』のだと言う。

 

 

これには一同首を傾げたが、ドワーフ独特の感性ではあるものの、人間やエルフにも似たような感覚を覚える場面はある。

 

言ってみれば高所恐怖症や海洋恐怖症に近い。

 

船で沖に出た時に、底の見えない海を(のぞ)き込んで怖いと感じるようなものだ。

 

ちなみに人間にも『空恐怖症』というものはあるが、この場合、災害や信仰、太陽光の強烈さなど、原因は様々である。

 

 

「そんな下ばっか見てて大丈夫かよ……」

 

と、流石に不安を感じたヘッケランは声をかけるが

 

「方角は分かっとる。というより方角しか分からん。目指しとるフェオ・ジュラは建設当時、人間との本格的な交易を考えておったらしくてな、地表部に目立つ(とりで)が建っとる。近くまで来たら見えるはずじゃ」

 

 

それから数日、登山の時と同様『ピクニック』を続けた後、ようやく現在の首都フェオ・ジュラに到着した。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

ゴンドの仲介(ちゅうかい)もあり(1名ワーウルフがいるものの)帝国から来た人間種である事から、すんなり都市に入れた一行は摂政会との会談を行った。

 

 

 

「長旅の上、同胞(どうほう)を無事に連れ帰ってくれた事、心から感謝する」

 

総司令官からの謝意。

 

 

「皇帝陛下からの書簡(しょかん)は読ませて(いただ)いた。我が国としても帝国との取引、再開したいのは山々である、のじゃが……」

 

言い(よど)む鍛冶工房長。

 

 

「知っての通り、現在、我が国はクアゴアとの戦いに手を焼いておる。帝国からの商隊を受け入れるのは可能じゃが、こちらから送り出す程の余裕は……」

 

居心地(いごこち)の悪そうな商人会議長。

 

 

つまりそういう事だ。

 

 

戦況としては『ジリジリと後退を余儀(よぎ)なくされ、今は大()け目と砦でフェオ・ジュラを守っている』という所。

 

 

ゴンドから状況を聞いていたリおんとしても、それほど期待はしていなかっただけに落胆(らくたん)もない。

 

それに帝国から人をやれば取引自体には応じてくれるのだから、ずれ込むもののドワーフ製の武具は入手できる。

 

 

それでひとまずは(・・・・・)良しとして、リおんはドワーフ王国への援軍等の支援についてジルクニフへ(うかが)いを立てると約束し、フォーサイトの武器新調を依頼。

 

 

さらに、

 

「ルーン工匠のスカウト?」

 

鍛冶工房長は訝る。

 

 

「帝国は文化や技術の保護に関心がありまして。今の貴国の状況では、失礼ながら彼らの存続は(きび)しいのではないかと」

 

などと、ありもしない文化財保護事業を名目に(ブレインのための鍛冶師確保も兼ねて)リおんはヘッドハンティングを申し入れた。

 

 

「(そんなカネにもならなそうな事をする程、帝国は景気が良いのか……)

 

なるほどのぅ。まぁ、実際その通りじゃろ。今ではルーンなど斜陽産業じゃ。本人達の意思次第じゃが、声をかける分には好きにしてくれて構わん。

 

(機嫌(きげん)をとっておけば更なる支援も……)」

 

と、二つ返事の鍛冶工房長。

 

その腹の(うち)が読めないリおんではないが『手数料』としては妥当(だとう)だろうと()んだ。

 

 

これ程スムーズに話が進むのは、やはりバハルス帝国という『人間種の国』が相手だからというのが大きいだろう。

 

……どこかの世界線で骸骨(がいこつ)の王様がクシャミをしそうだ。

 

 

「あ、ちなみにクアゴアからは宣戦布告とかはあったんですか?」

 

(たず)ねるリおんに総司令官は、

 

「宣戦布告? 人間種の国じゃあるまいし、んなもんないわい」

 

 

(よし! いざ戦闘になっても害獣駆除だ)

 

 

()くして、武器の完成を待ちつつルーン工匠を勧誘(かんゆう)するため、リおん一行はドワーフ王国に(しば)滞在(たいざい)する事となった。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「ほいよ。注文通りか確かめてくれ。じゃが良いのか? 属性付与もできるぞい?」

 

 

「属性武器なんて相手次第だろ。同じ『魔法武器』なら霊体にだって少しは効くし、急所に当てられた方がいい」

 

 

「ホッホッ、玄人(くろうと)じゃのぅ」

 

 

摂政会との会談後、リおんは帝国産の貴腐ワインやらウォッカやらウィスキーやらを(えさ)にルーン工匠をヘッドハンティングしまくった。

 

結果から言えば入れ喰いである。

 

ドワーフ王国の不況…も、あるが、特に『新しい火酒』と感激されたウォッカやウィスキーが効いていた。

 

(ウィスキーは製法としては熟成酒なので、知っている者から見たら『新しい』という表現も違和感はあるが…)

 

 

せっかくなのでフォーサイトにはルーン武器を(おく)る事として、2週間後の今に(いた)る。

 

 

ヘッケランの双剣に与えられたルーン効果は筋力強化とクリティカル補正らしい。

 

とはいえ対クアゴア戦になった場合、それらも出番はない。

 

 

ドワーフ軍も、予備に持ち込んだレザーバトンを購入。

 

彼らもクアゴア対策には木製の棍棒(こんぼう)など使っていたが、ドワーフ王国にとって木材は高需要(じゅよう)の高級資材である。

 

元々、中身の砂を抜いた状態で大量に所持していたため、まとまった数を一度に確保できたと喜ばれた。

 

 

ちなみに人間の鍛冶師が尻込みしたブレインの武器『朝東風丸』の手入れだが、ドワーフ鍛冶師は逆にチャレンジ精神を刺激されたらしく問題は解決されそうである。

 

 

 

ヘッケランが新しい武器を確かめていると、何やら外が(さわ)がしい。

 

 

鍛冶師と共に訝しく思っていると、ドワーフが一人ドアを破らんばかりの(いきお)いで()け込んできた。

 

「おい! 早く避難所に集まるんじゃ!」

 

「どうしたんじゃ、そんなに」

 

「クアゴアが大量に攻めて来おった! まだ今は吊り橋の向こうじゃが、どうなるか分からんらしい! 念の為に避難しとけという事じゃ!」

 

全て聞き終える前に、ヘッケランは走り出していた。

 

 

┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄┄

 

 

「リオン!」

 

 

「あぁヘッケラン、ちょうど良かった!」

 

 

摂政会から()てがわれた宿にヘッケランが着くと、(すで)に他のメンバーは集まっていた。

 

 

「どうする?」

 

ヘッケランが問うとリおんは、

 

「理由は分からないけど、かなりの数が来てるみたい。僕の見立てじゃドワーフ軍だけだと無理だと思う。恩を売るには好機(こうき)だし、今ドワーフ王国に(たお)れられるとマズイ」

 

 

「なら決まりだな。……まぁ、害獣駆除って(ひび)きはビミョーだが」

 

 

この2週間の間に意見の()り合わせは済んでいる。

 

華々(はなばな)しい活躍』というイメージとは程遠(ほどとお)い響きに全員苦笑いだが、結局のところ建前(・・)である。

 

 

 

すぐさま戦闘の準備をし、全員で大裂け目へと向かった一行。

 

到着してみると、もう()り橋まで押し込まれていた。

 

 

リおんが指示を出す。

 

「マズイね……僕が()り飛ばして突破口を作るから、吊り橋を出てすぐ防御陣形、イミーナさんとサエルアンナ達で援護を、アルシェは範囲殲滅(せんめつ)の準備!」

 

言うが早いか歌い始めるリおん。

 

一気に加速し、()み合っているドワーフ兵を飛び越え、先頭のクアゴアを踏み(つぶ)すと、回し蹴りから始まってコマのように舞いながらクアゴア達を橋から蹴り落としていく。

 

 

エルフ三人娘は素直に尊敬(そんけい)眼差(まなざ)しだったがブレインやフォーサイトは、

 

「……すげ」

「俺ら必要か?」

「それは言わない約束ですよヘッケラン」

「あはは……」

「……だけど、かっこいい

 

などと言いながら追いかける。

 

 

目を白黒させているドワーフ兵をすり抜け、リおんによって勢いを殺されたクアゴアの群れへと雪崩込(なだれこ)み押し返した。

 

 

金属以外の武器での打撃に弱いとわかっていれば、実戦経験豊富な一行が苦戦する相手ではない。

 

クアゴア達が状況を理解するより先に防御陣形を整え、アルシェは魔法の準備を始める。

 

 

ようやくクアゴア達は「(ひる)むな! デカいだけのドワーフだ! 殺せ!」と巻き返しを(はか)るも、歌のデバフで思うようには体が動かず、そうこうしている間にドワーフ兵も追いつき、バフを受けて戦列に加わり始めた。

 

そして……

 

魔法二重化(ツインマジック)電撃球(エレクトロ・スフィア)!」

 

左右に飛んだ人形が、クアゴア達の両翼(りょうよく)へと魔法を放った。

 

放射状に広がる電撃をまともに食らって感電死する者、気絶したり麻痺する者……なまじ電気の伝導率(でんどうりつ)が高いばかりに、全体の3分の2近くが行動不能に(おちい)る事態となり、中央のクアゴア達は浮き足立つ。

 

「うぉー! 行けー!」

「やれる、やれるぞぃ!」

 

ドワーフ兵の士気が上がり押し返し始める。

 

 

趨勢(すうせい)は決した。

 

全員が勝利を確信した、その時……

 

 

 

父に言われてヘジンマールを探しに出てみれば、随分(ずいぶん)不甲斐(ふがい)ない戦いをしているではないか、クアゴア共

 

 

 

……クアゴア達の向こう、一番大きな坑道から()い出る青白い巨体。

 

 

ちょうど腹が減っていたところだ。ついでに飼い主(・・・)としての威厳(いげん)を見せてやるとしよう。このトランジェリット様がなぁ!!

 

 

(つばさ)を広げたソレは、咆哮(ほうこう)(とどろ)かせた。

 

 

 

(クアゴアの背後(バック)霜の竜(フロスト・ドラゴン)が!?)

 

リおんはトランジェリットの言葉の意味を即座(そくざ)に理解し、撤退(てったい)も視野に入れつつ、とあるスキルを行使した。

 

「コールアンドレスポンス!」

 

リおんが短くギターを鳴らすと、トランジェリットは

「Yeaaaaah!!」

(さけ)んだ。

 

 

このスキルは吟遊詩人(バード)が相手のステータスを看破するためのもの。

 

フレーバーテキストでは「相手の声から力量を測る」となっている。

 

……ちなみに抵抗(レジスト)できなかった場合、トランジェリットのように「イェェェイ」だの「ヒーハー」だの、変な叫び声を唐突(とうとつ)に強制されてしまうため、ユグドラシルのPvPやGvGにおいては『羞恥心(しゅうちしん)で敵プレイヤーに精神的な()さぶりをかける』という目的でも使用されていた。

 

実際、今トランジェリットも首を(かし)げている。

 

 

そして、その結果は……

 

(……あれ? 弱い?)

 

アダマンタイト級相当まで成長したフォーサイトがレベル20台後半、ブレインは35レベルを超えようかというところ。

 

トランジェリットは30(ほど)であった。

 

 

(イヤイヤ歌のバフがあるとはいえ、まだ武器を新調したばっかだよ! ()らし()んでないよ! おまけにドラゴンなんだから種族としての差もある……ここは僕がサクッと)

 

そんな事をリおんが考えているとヘッケランが、

 

 

……しゃーねぇな、ドラゴン退治といきますか

 

 

リおんは血相(けっそう)を変えた。

 

「んなっ、ヘッケラン本気(マジ)!? ドラゴンだし、武器変えたばっかじゃん!」

 

 

「何言ってんだ、こういう時のために訓練してきたんだろうが。不測(ふそく)の事態、あのくらい倒せなきゃ『真の冒険者』にはなれねーってな」

 

 

「確かに『少し格上』くらいではあるけど……」

 

 

「その格上に(いど)むために、チームでやってんじゃねーか。それに、お前もいるんだ。言ってみりゃ予行演習みてーなもんだろ」

 

そう言って不敵(ふてき)に笑ってみせるヘッケラン。

 

しかし強がりの部分もあるのだろう。

目は真剣だ。

 

そして、そんなヘッケランの言葉に他のメンバーを見れば、皆同じような表情を浮かべていた。

 

『挑む者』の表情を。

 

 

(……僕は、過保護だったのかな)

 

リおんは、(あきら)めたようにフッと笑った。

 

 

「……もう、仕方ないなぁ。登竜門こじ開けてきなよ。背中は押してあげるからさ!」

 

言うと、ギターを構え直す。

 

(おう)よ!」

 

フォーサイトは駆け出した。

 

 

リおんはエルフ達とブレインに指示を出す。

 

「クアゴア達の邪魔が入らないように露払(つゆはら)いお願いね!」

 

(かしこ)まりました」

 

「俺も()ってみてぇんだが、仕方ねぇな。今回は(ゆず)ってやるよ」

 

エルフ達の矢と魔法が、ブレインの打撃が、フォーサイトの進路を開く。

 

 

歌が響く中、狼狽(うろた)えるドワーフとは違って前に出て来るフォーサイトに、トランジェリットは反応した。

 

「この俺様に挑むか、虫ケラ共」

 

歌のデバフで体の重さを自覚しながら、それを物ともせずトランジェリットがブレスの予備動作をみせる。

 

気付いたロバーデイクが対処する。

 

 

集団冷気属性防御(マス・プロテクションエナジー・アイス)

 

 

クアゴアさえ無視したブレスが放たれ、辺りを冷気が包み込むも、フォーサイトに凍死した者はいない。

 

 

お礼にコレでも食らいなよ!

 

 

ブレス後の硬直が()ける寸前、イミーナは移動しながら次々と矢を射掛(いか)ける。

 

もちろんドラゴンの鱗を()けるわけではないが、そのどれもが目玉への直撃コースとあっては()しものドラゴンも顔を(そむ)けざるを得ない。

 

「えぇい(わずら)わしい!」

 

苛立(いらだ)ったトランジェリットは尾を叩き付けるも、イミーナはヒラリと(かわ)す。

 

それを目で追った先にはロバーデイクが、

 

 

太陽光(サンライト)

 

 

本来はアンデッドを(ひる)ませるための光の魔法。

 

だが、竜は(すぐ)れた感覚器官を有する種族である。

 

それが薄暗(うすぐら)い地下に慣れた後なら、(なお)の事……

 

「ガァ!?」

 

焼け付くような光に痛みすら錯覚(さっかく)し、トランジェリットは一時的に視力を失った。

 

 

おのれムシけらぁぁ! 見えぬくらいで何だと言うのだ!!

 

 

確かに見えないとはいえ、ある程度どこにいるかは判別できよう。

 

大凡(おおよそ)の場所めがけ、怒りに任せて突進した。

 

だが、もちろん織り込み済み(・・・・・・)である。

 

散開した二人には(かす)りもしない。

 

(はず)したと自覚するトランジェリットは静止した。

 

そして、ここまでは『時間稼ぎ』だ。

 

 

オリジナルで魔法を生み出せる『この世界』、杖を使う魔法詠唱者(マジックキャスター)と違い、人形という『魔法の発動体』を二つも使用可能なドールマスターたる今のアルシェには、強力な奥の手がある。

 

それはシステムの都合上、ユグドラシルプレイヤーのドールマスターにも不可能な、言わば『バグ技』であった。

 

その準備が(ととの)い、次の硬直を待っていたのだ。

 

 

並行詠唱(デュアル・エグゼキューション)! 強風(ゲイル)火球(ファイヤーボール)

 

 

思考を並列化し、異なる呪文を()()ぜるように詠唱し、それぞれを二体の人形に発動させる『並行詠唱』はフールーダ・パラダインさえ(うらや)む特殊技能だ。

 

そして、それによって放たれた魔法は……

 

 

合成魔法(シンセティック・マジック)火災旋風(ファイアネード)!!

 

 

火球が(ほど)けるように、風が炎を(まと)うように()ざり合い、やがて渦を巻きながら一本の細長い『炎の蛇』を形成した。

 

 

そう、(いま)だ第4位階の魔法詠唱者(マジックキャスター)ながら、ドールマスターのアルシェは単独で合成魔法を、(すなわ)ち、実質的には第6位階魔法を行使できるのである。

 

 

確かに炎の嵐(ファイヤー・ストーム)と比べれば細く、弱々しく見えるかも知れない。

 

確かに地下という場所では、周囲に可燃物が少なく、副次的な地形効果は発生しない。

 

しかし、それは見かけ以上の膨大(ぼうだい)な熱量を持っていた。

 

 

まだ視力が戻らないトランジェリットも、その異常な熱量は察知(さっち)できた。

 

「何だこれは!?」

 

(あわ)ててブレスで相殺しようとしたが、それは悪手であった。

 

彼には見えていなかったのだ、火災旋風の意外な移動速度が。

 

彼は知らなかったのだ、火災旋風が周囲に放つ輻射熱(ふくしゃねつ)の範囲と怖さを、なにより

 

 

それが酸素を求めて動くという事を。

 

 

トランジェリットがブレスを吐くより先に、彼が吸い込む空気に合わせ、炎の蛇は彼の首に巻き付いた。

 

 

ア゛ァァァァァァァ!?

 

 

流石に冷気を纏う巨体だけあり、全身火傷(やけど)とはならなかったが、首から頭にかけては悲惨(ひさん)であった。

 

青白く(つや)やかでさえあった(うろこ)は見る間に乾燥し、(ひび)割れ、砕け散る。

 

その下の皮膚(ひふ)も当然に焼け(ただ)れる事となった。

 

そして最も大きなダメージはブレスを用意していた(のど)と肺である。

 

アルシェの魔法は、見事にドラゴンから『恐るべき吐息』を(うば)ってみせたのだ。

 

 

強大な竜を相手に立ち向かう勇気ある者達、猛威(もうい)を振るう大魔法……それは(まさ)英雄譚(えいゆうたん)

 

その光景に、クアゴア達は信じられないものを見たと恐れ(おのの)き、絶望しかけていたドワーフ達は歓声を上げた。

 

「ぅおおお!」「すごい、すごいぞ!!」

「英雄じゃ! あいつらは我らが勇者じゃ!!」

 

 

のたうち回り炎から逃れようとするフロスト・ドラゴンに、少しでも痛手を与えようと魔力を投入するアルシェ。

 

だが、連戦とあって流石に魔力切れが来てしまう。

 

ふらつきながら、何とか動けるうちにと後退した。

 

巨大なドラゴン相手では人形など物理的に(かな)わず、できるとしても完全な後方支援しか不可能だ。

 

である以上、魔力の供給が断たれた炎の蛇は少しずつ力をなくし、やがて消えていった。

 

 

炎が消えた後には、散々(あぶ)られ焼け焦げた顔のトランジェリット。

 

熱で視覚も嗅覚も潰されたが、その目には明確な怒りと憎悪(ぞうお)が満ちていた。

 

もはや()える事さえできないが、暴れ竜(・・・)にはなれると言わんばかりに『虫ケラ共』へと音を頼りに突撃し……ようとして踏み込んだ右前足が、地を蹴る事はなかった。

 

 

アルシェの奥の手さえ『時間稼ぎ』だったのだ。

 

既にヘッケランは間合いの中である。

 

タイミングを見計らい、ブレインの『虎落笛(もがりぶえ)』に(なら)って『限界突破』や『剛腕剛撃』、『双剣斬撃』、新たに習得した『流水加速』などを複合させ編み出した『必殺技』の機会を(ねら)っていたのだ。

 

 

……剣舞(けんぶ)(しゅん)(てん)流刻(るこく)!!

 

 

死角から一気に飛び込み、鱗の隙間(すきま)(すべ)り込ませるように右前足の(けん)を切断した。

 

バンッと弾ける音と共に、トランジェリットは転倒する。

 

 

ヘッケランの技は『一定時間、強化された腕力と加速力で舞い踊るように連続斬撃を繰り出す』もの。

 

まず危険な足と尾を無力化し、(とど)めを刺すつもりだ。

 

続け(ざま)に左後ろ足を、さらに右後ろ足を狙う。

 

 

目にも()まらぬ鬼神が(ごと)き攻めだが、それは同時に『何かに追い立てられるよう』でもあった。

 

 

ただでさえ負担の大きな『限界突破』に『流水加速』を組み込んだ技である。

 

格上の相手を、ドラゴンの強靭(きょうじん)な皮膚や筋肉を想定して編み出された『諸刃(もろは)の剣』

 

それ故、今のレベルで攻撃可能な時間は限られていた。

 

そして一度開始してしまえば、二度目を実行する余裕は無い。

 

しかし……

 

 

(舐めるなよ虫ケラぁぁ!!)

 

 

先端を顔の近くまで無理矢理に引き(しぼ)った尾を、トランジェリットは振り払った。

 

アダマンタイトすら粉砕(ふんさい)し得る死の一撃がヘッケランに迫る。

 

ヘッケラン!

 

イミーナが警告を、悲鳴を上げた。

 

ドワーフ達も同様に。

 

 

 

……そして、振り抜かれた場所からヘッケランの姿が消し飛んだ。

 

「あぁ、やられた!」「我らの英雄が!」

 

 

 

だが、リおんやブレイン、歌の効果で動体視力が向上していたイミーナには見えていた。

 

直撃する瞬間、(すんで)(かわ)したヘッケランは左の剣を捨て、逆に尾を(つか)む。

 

振り払われた尾の勢いそのままに、ヘッケランは(ちゅう)を舞った。

 

唯一無事だった左の前足で起き上がるトランジェリット。

 

 

 

ヘッケランは、その頭上にいた。

 

 

 

歌は、まだ止んでいない。

武技は、まだ終わっていない。

 

ぁぁぁぁぁあ!!!

 

右手の剣を、その首根に振り下ろし……

 

 

 

 

 

 

上体を起こした竜を背にして着地したヘッケラン。

 

 

周りを包む冷気との温度差に、限界を超え酷使(こくし)された体から湯気(ゆげ)が立ち(のぼ)る。

 

 

振り抜いた形で(ひざ)をつき、ヒューヒューと喘鳴(ぜいめい)()らすばかりで、細かく(ふる)える体は立ち上がろうとはしない。

 

 

その背後で、竜の顔が(わず)かに動き、ドワーフ達は「ヒッ」と短く悲鳴を上げる。

 

 

動いた顔は……そのままズレて(・・・)下に落ちた。

 

首から先を失った体が、やや(おく)れて崩れ落ち、地響きを立てる。

 

 

(ようや)く、痙攣(けいれん)する体に(むち)打って立ち上がったヘッケランは、剣を(かか)げ、

 

 

 

「……ぅおおおおおおおおおお!!!

 

腹の底から勝鬨(かちどき)を上げた。

 

 

 

「やりおった、あヤツやりおったぞ!」

 

竜殺し(ドラゴン・スレイ)……本物の竜殺し(ドラゴン・スレイ)じゃ!」

 

ドワーフが喝采(かっさい)し、クアゴア達は亜人らしい本能で戦意を失い、へたり込む。

 

 

その視線の先には、互いを支え合う英雄達の姿が(かがや)いていた。

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