【完結】おおかみ☆せんせーしょん(ハーメルン移植版) 作:ブドウ冷やしんす
父親譲りの目付き悪さがコンプレックスな聖騎士見習いの少女ネイア・バラハは、ひょんな事から旅の
風流才子だが型破りなアルスに振り回され、間違いだらけの青春スポ根が始まった!
sideネイア
《リおんが初エ・ランテル公演していた頃 聖王国》
休日、私は気晴らしに街を歩いていた。
気晴らし……気は晴れないけど。
「ハァ……」
もう何度目かもわからない
両親の反対を押し切り聖騎士団に入団したものの、剣の才能がないという現実を突き付けられた。
入ったばかりだ、まだ決まったわけじゃない!
……と、自分を
「今まで剣を振るった事がない」
と最初は言っていた同期に訓練で負かされては、正直、自信を
……やっぱり私には無理だったのかなぁ。
「ハァ……」と、足も止まってしまう。
「……いきなり人の目の前に来て溜め息を
「へ?」
すぐ近くで声が聞こえて、
「それとも、私に何か不服でもあったかね」
声は頭の上からだと思い、さらに見上げると人の顔が
「ぅへあ!」
「……挙げ句に人の顔を見るなり悲鳴とは、何なのだ」
布だと思ったのは真っ黒いローブで、真っ黒い顔をした
「ごごごごめんなさい! そういうつもりでは……気付かなかっただけで!」
「……まぁ、そんな事だろうとは思っていたので、別に良いがね? 世の中、
「は、はい! すみませんでした!」
ペコペコと頭を下げる私……何やってるんだろ、情けない。
「で? 何をそんなに悩んでいたのだ。まるで路頭に迷ったようだったが、その
確かに休みの日とはいえ『みすぼらしい格好で出歩いてはならない』と規則にあるので気を付けてはいた。
あぁ、『浮浪者みたいな溜め息を吐いてた』って事ね、ハハハ、それはひどい
「あぁ、いえ……まぁ、人生には迷ってるかも知れませんけど」
「……サラッと
「あ! いや、あの、人様に聞かせるような大層な話では」
「……ハァ……まぁ何だ、旅の
……と言ってしまうと立場が逆だな。いや、『一期一会で、気にするような相手ではない』という意味では、そんなに外れてもいないのか……んん?
……
……そんな心配されるほどの顔してたのか、私。
ハァ……
けど、良いんだろうか。さっきは失礼を……でも善意を
まぁ、『失礼ついでに』なんて考え方もできる、か。
「……実は」
─カクカクシカジカ─
「……なるほど?」
今は公園のベンチで二人して座っている。
……最初は『こんなカッコいい人と一緒に座ってるとか周りに勘違いされるんじゃ!?』なんて思ったものの、よく考えてみれば『怪しげな取引』に勘違いされる確率の方が高そうだな、
「……それで、自信なくしてしまって……」
「ふむん……ちなみに剣以外の腕前は?」
「剣以外ですか? まぁ、弓なら、少し……」
目といい才能といい、なんでお父さんに似ちゃったのかなぁ……
「けど、そんなの何の足しにもなりませんよね」
などと、私が
「それは
「え? どういう事ですか?」
「聖騎士団といえど騎士団だ。……君は騎士とは何だと思ってる?」
え、いきなり哲学的な質問?
いや、話の流れから考えると、騎士、騎士……
「うーん……鎧を着て、剣で戦う人、でしょうか」
「違う。騎士とは、『何かに
「え、そうなんですか!?」
「どこかの伝承にある聖騎士がドラゴンを倒したのは槍であったし、どんな武器にも一長一短がある。
騎士団も戦闘集団であり、戦況とは千差万別なのだから、武器を限定などしたら自ら戦力を制限するようなものだ」
へぇ……そんな伝承あるのか……
それはそうと『戦力』というのは納得の理屈だ。
「な、なるほど。……けど、それでも聖撃を使えないと正式に認めてもらえないんですが……」
「なら聖撃が使えれば良いのだろ?」
それができてたら苦労はしてないんですよ !!
「いや、あの、聖撃を身に付けるには信仰心と剣の腕前が、必要、なんで」
「……(ふむん……そうするのも面白い、か)……」
「え、何か言いました?」
「いや、聖撃を使えるのは本当に剣だけなのか、と思ってな。良し、
「……へ?」
矢で!?
そんな事できるの? それに……
「……でも、その、失礼ですが、
魔法以外の戦い方なんて教えられるのかなぁ……
「確かに武技だのは使えんが、これでも昔、ある一人の少年を剣士に育てた事はあるぞ? 今頃は帝国騎士として働いているはずだ」
「帝国騎士!? すごい!」
帝国騎士といったら、周辺国の正規兵としては実力の高さを知られている。
もちろん聖王国の聖騎士団が一番とは思ってるけど、そもそも聖騎士団は精鋭部隊だ。
徴兵制度があるといっても、兵士みんなが『お父さん』の域ではないんだから、帝国の方が平均では強いかも知れない。
そんな場所で
「その私が『可能性はある』と言っているんだ。どうする? 訓練用の馬も用意してやろう」
「ど、どうして、そこまで? あと、お代とかは……」
弟子入りは月謝制って聞くしなぁ……
お金に余裕はない……
「結果を見てみたいからさ。好奇心だよ。カネなら要らん」
……そ、そこまで言われると、う、うーん……
「……………………よ、よろしくおねがいします」
私の特訓生活が始まった。
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稽古は私の休日に行われる。
だから体力的な大変さを覚悟していたのだけど、訓練終わりに魔法で疲労を吹っ飛ばされる事が判明。
ツラくはないけど逆に何それコワい……
ちなみに彼はアルス・マグナスさんという旅の
だけど、
「今日から稽古を終えるまでは、コーチとでも呼んでもらおう」
というのでコーチと呼んでいる。
意味は知らない。
けど訓練に対しては真剣だ。
本当に馬を連れて来てくれた時は
「こんな立派な軍馬どうしたんですか!?」
「なに、王国のボウロロープ侯のところからくす……譲ってもらってな」
どうやら王国貴族にまでコネがあるらしい!
「馬上弓術の訓練として
何でも、その異国の騎士が豊作を祈って行うものだという。
害獣駆除の関係で、狩猟と農耕は密接に関係しているのだとか。
神事というくらいだから、きっと射手として聖騎士になるため必要なのだろう。
また、稽古に使う弓についても……
「これを使うと良い」
「これは……」
「射った矢に打撃効果を
「魔法武器なんて、良いんですか!?」
……まぁ、これについては無邪気に
まさか『あんな理由』で必要だったなんて……
それはそれとして、何度かヤブサメを見てもらったら、
「やはり
「……ぇえ!? 4年に一度やるアレですか!」
確か10年以上前に始まった大会で、各国から腕自慢が集まるのだ。
一番の特徴は『仮面を付けての出場が条件』という事。
大会中は犯罪者だろうと身元を問われない。
その代わり、死んだとしても自己責任だ。
亜人であろうと『こすぷれ』扱いされる。
(こすぷれとは神々が言うところの仮装パーティーのようなものらしい)
いつだかの大会では『豪王バザーっぽい人』の出場で話題になった。
そして、そんな大会なのに優勝賞品は『勝者としての名誉』のみだという。
優勝者は次の大会まで『ワールドチャンピオン』を名乗る事ができ、名を
そんな、
「簡単に出してもらえるわけないじゃないですか!」
「いや、コネがあってね。私の頼みなら断りはせんだろう」
ヤバい、本当にスゴい人だったのか……
そういえば、最初の大会で名司会者として人気を
……親族か何かだろうか。
けど、コーチいかにも「遠方から来た旅の
かと言って、その当時の司会者の年齢が(聞く限りだと)今のコーチくらいだから、まさか本人なんて事もないだろうし……
……赤い蝶ネクタイ姿のコーチが軽妙なトークで場を盛り上げてるシーンを想像して吹き出しそうになった。
いやいやいやいや、ない!ないから!
……いや、ぐるっと一周回ってアリかも?
って、流石に失礼だから! バカな妄想おしまい!
「……どうかしたかね」
「なんでもないです!!」
……後日、「実戦に近い訓練をしよう!」と言ってアンデッドの幻覚を見せられた時は、考えがバレてたんじゃないかと不安になったが、私が落馬した時、すぐに駆けつけ手当てをしてくれたし、まぁ後ろめたさが原因の被害妄想だったのだろう。
そ も そ も 性 格 が ア レ だ か ら !
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何度か幻覚アンデッドと戦う訓練が続き
「いよいよ今日は、最後の仕上げとして実戦訓練だ」
最後、か……
長いようで短い、コーチとの特訓生活も終わり。
何とも言えない気持ちになr
「そういえば、まだ何をするのか聞いてなかったんですが」
「うむ、馬に乗ったな? 準備もできているようだし話すとしよう。今日は、私の転移魔法でカッツェ平野に行ってもらう。本当のアンデッド狩りだ」
「…………………………………………は ?」
気がつけば、私の目の前は霧で閉ざされていた。
「ええええええええええ !?!」
なななななにしてるんですかコーチ!?
しかもどこですかここ!
まさか本当にカッツェ平野ド真ん中!?
死ぬ! 死んじゃいますって!!!
そんな風に私がテンパっていると、すぐ後ろから何者かの声が!
「安心しろ、私もいる」
「きゃあああああああああああああ!!!」
……って、なんだコーチか……心臓止まるかと思った。
「どうした? まさか一人で放り出されたと思ったか? そんな事するわけないだろ」
「本っっっっっ当に
「はっはっはっ、すまんすまん」
絶対『すまん』なんて思ってないでしょ!?
「さぁ、お前の悲鳴を聞き付けて、そろそろ来るぞ」
見れば、霧の向こうに人影が……
「お前に持たせた
魔法の弓は
……アンデッドに『救済』?
と、ともかく目の前の敵に集中しなきゃ!
私は馬を走らせた。
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「はぁ……はぁ……」
どれだけ倒したかも覚えていない。
それでも、まだ『聖撃』を撃てそうな感じはない。
「どうしたネイア。お前の信仰心は、そんなものか」
やっぱり、私には無理だったのかな……
「そうか……お前は勘違いしている」
動きを止めてしまった私とは違い、近寄って来る
「聖騎士とは、『悪を倒すから』
……その二つの何が違うんですか?
「アンデッドの
「え?」
「死とは、神が与える『苦痛からの解放』でなければならない。だからこそ、殺人は悪であるし、戦争には大義が必要なのだ」
私は息を整えながら、コーチの言葉に耳を傾ける。
「もし、この世に死がなければ、どうなる? 不治の病に苦しむ病人とアンデッドの違いは何だ」
!
「弓の極意は『
渇望……そうか、助けてほしいの?
「死者の無念と歴史に思いを
その時、私の心には恐怖も憎悪も残っていなかった。
あるのは、悲しみ。
私は、弓に矢を
「……神よ、あの方をお救い下さい」
放った、その瞬間、矢が光に包まれた。
矢は真っ直ぐに
全身から力を失い、崩れ落ちる
「……できた……」
それまでは散々に痛め付けなければ
「そうだ、それだネイア! できたじゃないか!」
コーチも
けど……
次々と
私は、さっきまでの疲れさえ忘れて、一心不乱に矢を射った。
「……救いたい、一人でも多く!」
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結局あの後、私はフラフラになるまで矢を射続け、コーチの転移魔法で強制送還された。
帰ってきて馬から降りた
「……私は、無力だ……」
あんなにも多くの方々が救いを求めて苦しんでいたなんて、今まで想像もしなかった。
そして、カッツェ平野の方々を救いきるには、私の存在なんて、ちっぽけ過ぎた。
「おめでとう、ネイア・バラハ。これで君も、いずれは聖騎士として認められるはずだ」
「……だと、いいんですが」
せっかく手に入れた力も、自信には繋がらなかった。
「自身の力不足を
厳しい言葉だ。
けど反面、私の背を押してくれる優しい言葉。
私は立ち上がり、コーチに向かって頭を下げる。
「ご指導ご
「うむ。最後に私から
餞別であり頼み? 何だろう。
何にせよ恩返しもしたい。
私なんかで、できる事ならいいんだけど……
「……実は、ペットを飼っていてね」
……ペット? コーチが?
何だろう。
犬、猫……けど旅暮らし。
それに犬ってイメージも合わない感じが……
鳥とかかな。
コーチの肩に乗る鳥……うん、イメージに合う。
「だが、少々太り気味でな。良ければ
……鳥も太るんだ。
「わかりました! 任せて下さい!」
「そうか! 良かった! 今、連れてくるから少し待っていてくれ」
そう言って、転移魔法で消えるコーチ。
けど、すぐに戻ってき
「さぁ、彼女がお前の面倒を見てくれるネイア・バラハだ。……迷惑なんか、かけてみろよ? すぐに霜降りドラゴンステーキにして食っちまうからな!」
「ヒィ ! わかりましたぁ !!」
「ネイア。コイツがペットの
「……………………………………」
「あ、あの、ネイア、さん、ですよね? 俺、ヘジンマールっていいます。よろしくおねが」
「ええええええええええええええええ !?!?」
「ピャアアアアアアアアアアア !?」
ドラゴンなんて聞いてないですよコーチぃぃぃぃ!!
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《聖騎士団 団長室》
「で、押し付けられたわけか」
「……はい、すみません」
私は今、団長から直々にお説教中である。
「ハァ……そいつの名は」
「それが、その、コーチってばかり呼んでたせいか、本名の方を忘れてしまって……」
「人の名前くらい覚えられなくてどうする!!」
「はい! 申し訳ございません!!」
うぅ……なんで安
「あ、あの、けど、宰相閣下のお知り合いだったらしくて、先程グスターボ殿にも伝えたんですが、手紙を預かっておりまして」
「何? ケラルトの?……そいつ、黒い顔だったか?」
「ご存知なんですか!?」
「あぁ、名前は……なんちゃらって言ってたな、ケラルトが」
……さっき人の名前くらいどうのって言ってたじゃないですか。
大丈夫なのかな、聖騎士団……
などと話をしていると、廊下の方から誰かが猛然と走って来る音が聞こえ「バンッ!」と扉が開き……え、宰相閣下?
「おう、ケラルト。お前宛に手紙「ぁんのバカ、今どこにいるの!?」
………………え ぇ ?
「あ、あの宰相閣下、お手紙を預かっておりまして」
と言い切るか否かというタイミングで、私が持っていた手紙を奪い取る宰相閣下。
読み進めるうちに、プルプルと震えだし……
あ、あ、あ、
「あの、宰相閣下「許可します」……へ?」
「
「は、はい、わかりました……」
事態を飲み込めず、目を白黒させながらも、何とか返事をする。
そして宰相閣下は出て行こうとする、が、ドアの前まで行くと振り返り、
「それと、あのバカがまた顔を出したら、ふん
顔を赤くして、ものすごい勢いで扉を閉めて出て行った。
……めっちゃ怒ってるじゃないですか。
何したんですかコーチ。
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《聖騎士団
ようやく解放された私は、許可がもらえた事をヘジンマールに伝えに来た。
「あ、ネイアさん。ど、どうでした?」
「うん、何とかなったよ」
「良かったぁ……追い出されるなんて事になったら
「ハハハ……」
うん、気が付けば普通に会話してた。
最初はドラゴンって事でビビってたけど、話してみると穏やかな性格だし、それに……
「? どうしたんですか? ネイアさん」
「いや、さん付けとか敬語とか、いらないかなって。お互い、コーチに振り回された同士だし。それに、多分これから長い付き合いになりそうだから、ネイアって呼んでよ」
「えぇ……大丈夫かなぁ……ステーキ……」
「一緒に頑張ってく『相棒』って事で、ね?」
「それなら、まぁ……よろしく、ネイア」
「うん、よろしくね、ヘジンマール!」
……まぁ、多分やっていけそうだ。
「いやぁ、ネイアが優しい人で良かった。すごい怖い人だと思ってたもん。だって眼光がヤバくて」
「なにをー!!」
「後に童話『へっぽこ騎士見習いと太っちょドラゴン』のモデルになるコンビだが、そんな一人と一匹が武功を立て『天空の射手ネイア・バラハ』、『疾風氷竜ヘジンマール』として、遠く飛竜騎兵部族からさえ崇敬を向けられる英雄になろうとは、この時まだ誰も想像し得なかった……なんてな」